(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4)   作:アズマケイ

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第53話

揺さぶられて、私は目を覚ました。

 

「大丈夫か、神薙」

 

「月森......ここ、は?」

 

「ここはテレビの中、りせのシャドウのダンジョンだよ」 

 

「......そっか、マハアナライズ、間に合わなかったんだっけな」

 

「顔色悪そうだけど大丈夫か?りせのシャドウの精神攻撃食らったんだ、無理もないけど」

 

「月森もね」

 

「あはは......まあ、お互いあんまり思い出したくない幻覚見せられたみたいだな」

 

「そうみたいだ」

 

「どうやら、俺たち、クマに助けられたらしい。りせのシャドウは、ほら」

 

月森に促されて前を見た私は、暴走がやんだりせちーのシャドウがストリップ劇場の真ん中で倒れているのがみえた。みんなの介抱を終えたらりせちーはそちらにゆっくりと歩みを進めた。

 

そこにはもう恐れや不安、恐怖はなかった。まっすぐにりせちーのシャドウを見つめている。これなら大丈夫だろう。現に誰もりせちーのことを止めなかったんだから間違いない。

 

「クマは?」

 

「あそこだ」

 

月森の指差す先にはペラッペラになってしまったクマがいた。自慢の熊毛が焦げ付いてしまったと嘆いてるあたり元気そうでなによりである。どうやら謎パワーでりせちーのシャドウに特攻をしかけて攻撃を失敗させ、自爆させる流れは変わらなかったらしい。

 

「クマ、ありがとう。おかげで助かったよ」

 

「アキちゃんも元気になってよかったクマ〜」

 

「ペラッペラになっちゃったな、大丈夫?空気入れた方がいい?」

 

「ちっがうクマ!クマの中はいいものでいっぱいにするクマよ!あー、でもー、さすがにこの姿じゃプリチーな姿が台無しクマね。回復アイテム残ってるクマか?」

 

「うん、あるよ。食べれる気力あるならいいかな。回復魔法まではいらない?」

 

「大丈夫クマ!」

 

お菓子があったので渡してやる。ひとくち、ふたくち食べていくうちにどんどん体が膨らんでいき、あっというまに私たちが見慣れたクマに元通りになった。

 

「すごいな、クマ。どっか違和感ない?大丈夫?」

 

「んー、今のところ、なんともないクマねー。あ、でもでも、今回のクマの活躍でー、なんか出せるのがわかったクマ!忘れてただけなのか、できるようになったのかはわかんないクマけどー、次からはクマも戦えそうクマよ!」

 

「それがホントなら、次からはだいだらぼっちにいって装備とかカスタマイズしなきゃいけないな、クマ。今までなかったんだから」

 

「だいだらぼっち......マヨナカテレビの外ってことクマ?」

 

「うん、そうだけど」

 

「うーん......まあだちょっち怖いクマ......せっかくのクマのお外デビューは、色々準備してから行きたいクマね」

 

お、これは中の人が生えてくるフラグだろうか。

 

「そっか。それだと今から私たち、りせちーを送って帰ることになっちゃうけど、大丈夫?」

 

「うん、大丈夫クマ。ありがとう。アキちゃんも、りせちゃんのところにいったげて」

 

「うん、わかった」

 

私はクマから離れることにした。

 

「......起きて」

 

薄暗かったストリップ劇場のステージのカーテンに光がさす。ハートマークがひとつ、ふたつ、と増えていき、その真ん中に自分のシャドウの前にすわり、助け起こそうとしているりせちーの姿があった。

 

「......ごめん、私が向き合わなきゃいけないことを教えてくれてたんだよね。なのに拒否ったりして、ごめんね。今までつらかったね」

 

助け起こされたりせちーのシャドウはうなずいた。今にも泣きそうな顔をしている。

 

「あなたも、私も、りせちーだって、全部全部私から生まれた私なのに、ううん、私が望んだから生まれた私なのに、ずっと私と切り離して考えちゃってた。羨んだり、拒否したり、自分勝手ばっかなことして、ほんとごめんね。そんなふうに探してばかりじゃダメなんだ、きっと。始めからそばにいてくれたんだよね。なのに気づかなくて、ほんとごめんね。ほんとの私は私のなかにあるんだから。当たり前のことなのに、なんで気づかなかったんだろ」

 

りせちーのシャドウは泣きながら笑っている。よしよしとりせちーはもうひとりの自分を抱きしめた。そして頭を撫でる。

 

「あ、でも、ひとつだけ言わせて。そっち路線にいくのはちょーっと早すぎると思うな、私!りせちーは誰にも負けないくらい、歌だって演技だってほかにもいろいろたくさん飲み込みだって早いし、周りの空気だって読めるんだから。りせちーを馬鹿にするようなことは、いくらもうひとりの私だって許さないんだからね!......まあ、今の私にも思いっきりブーメランささっちゃってるけどぉ、まあ、おあいこってことで!ね!」

 

ウインクするりせちーにシャドウは笑う。ハイタッチしたその先で、シャドウはペルソナに昇華され、りせちーの中に還っていった。

 

「りせちゃん、回復してくれてありがとう」

 

「シャドウをペルソナにできたみたいだな、よかった」

 

「あ......もしかして、綾音がいってた先輩って」

 

「発案は月森だよ」

 

「そっか......ありがとう、みんな」

 

「あとで全部説明するから、今は帰ろう。りせははやく家に帰ってゆっくり......」

 

月森がりせちーをストリップ劇場から下ろそうと手を差し伸べた。よかった、空っぽ、というクマにとっての急所ともいうべきNGワードは回避された。そのときだ。りせちーがはじかれたように顔を上げた。まさか。私はあわててクマをみる。

 

「な、なにこの気配......どこから!?」

 

「どうした、りせ」

 

「せ、先輩大変!この気配、クマじゃない!ダメ、下がって、みんな!クマの中からなにかが......」

 

月森たちもつられてそちらをみた。回復アイテムにより元に戻っているはずのクマの瞳に光がない。その代わりにシャドウと同じ金色のなにかがそこにいた。

 

「お、おい、クマ、大丈夫か!?」

 

「これはまさか......あいつの時と同じか!?なにかの干渉を受けてるんじゃ」

 

「えっ、前もあったの!?それだよ、きっと!クマがなにかの強い干渉受けちゃってる!無理やり暴走させられてるみたい!みんな、くるよ!」

 

暴風が吹き荒れる。

 

「本当?自分?ククク......実に愚かだ......真実など知ることは不可能だ。真実はいつも霧の中に隠されている。それはお前たちが望んだことなのだから。手を伸ばし、何かを掴んだとしてもそれが真実だと確かめる術はない。なら真実を求めることになんの意味がある。目を閉じ、己を騙し、楽に生きていく方がよほど賢いじゃないか。なのに考えることをやめない。忘れたことを思い出そうとする。そこに待ち受けるのは虚無だけだというのに、おろかな」

 

それはクマの声では断じて無かった。それは地から這いあがってきたような、さまざまな感情が入り混じったどす黒いなにかの声だった。

 

「お前たちも同じだ......真実など探すから辛い目にあう......そもそもこれだけの霧に包まれた世界だ......正体すらわからないものをこの中からどうやって見つけるつもりだ?」

 

それはこの連続誘拐事件を誘発している諸悪の根源の挑発ですらあった。

 

「ククク......これだから愚か者は見ていて飽きないな。真実が欲しいなら簡単なことだ。お前たちが真実だと思うことを真実だと思い込めばいい。あるいは誰かから教えてもらうことだ。ゆえに我は教えてやろう。霧濃いこの世界において、なにが真実なのかを。───────お前たちはここで死ぬのだ。知ろうとしたがゆえに何も知り得ぬまま、な」

 

暴風の先に現れたのは、クマのシャドウだった。

 

 

雪子

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