(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4)   作:アズマケイ

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第54話

「我は影......真なる我......」

 

ストリップ劇場はあまりにも巨大なクマのシャドウの出現により壁が、天井が、ライトが破壊されていく。支柱を失った建物は亀裂が走り一気に砕け散っていく。崩落を始めた建物の瓦礫は大小問わずにクマのシャドウを中心に展開している暴風にまきこまれ、竜巻に巻上げられ、その中央に吸い込まれていった。

 

あまりの風の強さに私たちは立っていることすら難しくてレッドカーペットに背を低くしていることしかできなかった。

 

「おまえたちの好きな真実を与えよう......ここで死ぬという逃れえぬ定めをな!」

 

クマの本体が完全に黒幕の干渉を受けているために、影特有の特徴である鈍い金色の瞳が爛々と輝いており、表情の希薄さと相まって不気味な存在感を放っている。

 

しきりに「真実などどこにも無い」「真実など探そうとするだけ無駄」といった虚無感・無力感を煽り立てる言葉を、悟っているかのごとき口調で投げかけてくる。それがなによりの証だった。

 

その背後にはあまりの巨体に体が埋まり、辛うじてみえる頭部からヒビが入り、内側から壊れてしまったきぐるみのクマのシャドウがいる。あの虚空の中から風が吹いている。周囲のものを飲み込もうとしている。それはさながらブラックホールにも似ていた。

 

あの時と同じだ。カミナギアキラのシャドウが自分が生まれたきっかけについて言及しようとしたときにいきなり干渉を受けて私を殺そうとしてきたときにあまりにも似ている。

 

ただ、あの時とは違ってシャドウじゃなく本体に強い干渉をしているのは、ペルソナに目覚めてしまえばシャドウではなくなるため影響力を行使することができなくなるから焦ったのだろうか。

 

それともなにか黒幕の禁忌に触れるようななにかがクマにはあるのか?

 

「もしかして、クマがいってたもうこれ以上誰かが死ぬのは見たくないって、それってまさか、あなたがなにかやったの?」

 

私たちは弾かれたようにりせちーをみた。

 

「クマいってたもん、もうなにも出来ないのは嫌だって。ひとりぼっちは嫌だって。もう誰が死んじゃったかすら思い出せないけど嫌だって」

 

なんのことをいっているのか、私にはさっぱりわからなかった。クマは自分がシャドウであるにもか変わらず自我をもってしまった突然変異の存在であるという事実が受け入れられず、自らその事実を消し去ったために記憶喪失になっているはずだ。りせちーのいうことがほんとなら、まるで大切な存在を喪失した衝撃に耐えきれなくなって記憶喪失になったみたいに聞こえる。意味合いが変わってくる。まさか、クマはただのシャドウじゃないのか!?それともこの世界にはかつていたのか?なにかが。私の知らない、誰かが......?

 

「それが無駄だといっているのだ......初めから空っぽな存在がなにをしようと無駄な足掻きでしかないのだ。心の底では気づいている......なにもできなかったにもかかわらず、未練たらしく認めることが出来ずに別の自分を作ろうとしているだけ......。真実から目を逸らしてさえいれば見逃してやったものを......」

 

黒幕が肯定したことに私は息を飲むしかない。いったいこの世界になにがあったんだろうか、私たちが来る前の、霧がたちこめ始めたころの、カミナギアキラがやってきたころのこの世界には。

 

「失われた記憶など初めから存在しない。何かを忘れているとすれば、それはそのこと自体にすぎない。それだけで満足していればよかったものを......」

 

「クマくん......」

 

「クマさん、泣いてる......」

 

「この野郎、クマを解放しやがれ!」

 

「クマのやつ、ここまで悩んでたのか、全然気づかなかった......」

 

「でもそれを利用してるのはあいつだ、許せない」

 

「あなたは一体何者なのっ!?なにが目的でこんなこと!」

 

「目的?おかしなことをいう......望んだのはお前たちのはずだ。ゆえに、霧は濃くなる......真実は遠ざかる......そのために、我はいるのだ」

 

「なにこれ......クマのシャドウの属性、月になってる......ペルソナがおかしいっていってるよ!さっきまでは星だったのにって!」

 

「りせちー、カードの向きは?」

 

「え、向き?えーっと、正位置だよ!」

 

「月の正位置か...... 正位置の方が良くないんだ」

 

「え、そうなの?」

 

「うん、不安定、幻惑、現実逃避、潜在する危険、欺瞞、幻滅、猶予ない選択、踏んだり蹴ったり、洗脳、トラウマ、フラッシュバックあたりだな。まさしくだ。みんな、気をつけるんだ。あいつが干渉をうけたときも間違いなくあんな感じだった。私はあのときの記憶はないんだ、はやいとこ助けてあげないとクマの自我が無事である保証はどこにもない」

 

確固たる私という前例があるためか、みんな息を飲む。本体は笑う。歪に笑う。それがなによりの証だった。

 

「晃たちは下がってて、回復したとはいえまだ万全じゃないでしょ?」

 

「千枝......」

 

「大丈夫、今度はあたしらがクマを助ける番だよ!」

 

「うん、わかった。頑張って」

 

「任せて!」

 

私は千枝たちにバトンタッチすることになった。

 

さらなる干渉を受け、完全に暴走状態になったクマの本体は涙すら浮かべなくなってしまう。瞳の部分が不気味に輝き、怪獣レベルに巨大化したクマと同化していった。そのあり方はまさにクマの正体を暗示していると言える。だがそれを是とは断じてできない。

 

千枝たちに戦いを任せた私は必死で考えるのだ。

 

シャドウは何故その願望がシャドウして扱われるようになったか、それは避けて通れない課題である。このシャドウをシャドウ扱いする感情の特定は、シャドウそのものの見極めよりも重要だ。なにせクマの場合は、私たちとは根本的なところが異なっている。

 

私たちは主人格を支えている倫理観や常識と照らし合わせたときにシャドウがシャドウたる原因が生まれる。だがクマは自分が何者か分からないところから悪い想像が膨らみ、「そんな怖いことは考えたくないという恐怖心がその根底にある。一切の遊びが無く、只々無常で怖ろしいクマの影の言動そのものが、とぼけた態度の裏でクマの潜在的に抱えていた恐怖が如何に深刻だったかをものがたっている。

 

それは黒幕にとって己は何者かという残酷な真実への探求は、なによりも覆い隠したいと同時に見極めるにはちょうどいいために、妨害すると同時に促す存在だ。ゆえに干渉した。月森たちとの戦いを通じて人の望みを見定めるために。

 

だが、今は違う。明らかに違う。干渉者はクマの人格ごと私たちをみなごろしにしようとしている。言動こそ従来通りのはずだが伴う行動はいずれも明らかに黒幕のあり方からすれば、行動原理からすれば異常事態だった。

 

なにかが起きているのだ、この世界で。ありとあらゆるものの根幹を揺るがす、なにかが。私は戦慄するしかない。この世界に来てからずっと感じていた違和感がこうして目の前に明確なかたちで明示された衝撃は私の考える以上のダメージを与えてくる。

 

「晃ちゃん、顔色悪いよ、大丈夫?」

 

「......ごめん、雪。大丈夫じゃないかもしれない」

 

「晃ちゃん......」

 

青い顔をして千枝たちの戦いを見守る私は雪たちにはどう見えているのだろうか。気づけば私の様子をうかがう仲間の視線とかち合った。

 

「......クマのいう出来事ってさ、たぶんあいつが最初にこの世界に引きずり込まれたときと同じ時期だと思うんだよ、時系列的に。......なにがあったんだろうって、思って......」

 

私の言葉に明確な答えは帰ってこなかった。

 

雪子

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