(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4) 作:アズマケイ
▪️「ねえ、晃ちゃん。今度の土曜日空いてる?」
「ちょっと待って、えーっと。ああうん、大丈夫。直売所の当番はあたってないよ」
「よかった。実はね、うちの旅館でみんなで泊まろうと思って」
「えっ、大丈夫なのか、雪。天城屋旅館て忙しいんじゃ?」
「7月に入ると本格的に忙しくなっちゃうんだけど、今はギリギリ梅雨の時期だから料金安いんだ。だからシーズンに入る前にやっちゃおうって思って」
「そうなんだ、ならいいんだけど。なんか急だね」
「だって晃ちゃんの思い出づくりも兼ねてるんだよ。だって晃ちゃん、ゴールデンウイークは直売所が忙しくて遊べなかったし、林間学校だと1人だけ肝試しと水遊び、出来なかったよね。写メ、全然ないやと思って」
「ああ、うん、言われてみればそうかもしれない。まー、色々重なったからなあ」
「なにか特別なことしたいなってみんなで話してたんだよ、水遊びのとき」
「そうなんだ。わかった、えーっと集合はいつ?」
「土曜日の15時くらいね」
「わかった。でもさ、お金、たりる......?」
「月森くんが余裕だっていってたよ」
「そんなに高く売れたんだ、今回」
「みたい」
「雪の旅館か......」
「今の晃ちゃんには初めてなんだっけ、大丈夫だよ、色々教えてあげる」
「うん、ありがとう。マナーとかよく分からないから助かるよ。私、花村たちと同じ部屋だよな?」
「うん、襖でわけられる部屋抑えといたから大丈夫だよ」
「ありがとう」
「あ、お風呂のことなら大丈夫だよ、時間調整してひとりで入れるようにしとくね。うち、時間制だから。ただ、遅くなっちゃうかもしれないけど、いい?」
「うん、ありがとう。助かる」
「あ、そうだ、これ。卒業旅行とか未成年のお客さんには保護者の人にね、同意書書いてもらってるの。これ、持ってきてね。忘れちゃうと泊まれなくなっちゃうから」
「あー、そっか。未成年は大人の同意がないと宿泊できないんだっけ」
「うん、だからよろしくね」
「わかった、ありがとう」
私はクリアファイルにわざわざ入れて持ってきてくれた雪にお礼をいってカバンにいれたのだった。
「なあ、雪。せっかくだし、これいってみる?みんなで」
「あ、これ懐かしいね」
「そうなんだ?」
「うん、毎年見に行ってたよね、晃ちゃんのおうちに泊まらせてもらって」
「そっか」
「うん」
私の手にはうちの集落が中心となって主催しているお祭りのチラシがあった。
日付は2011年6月25日(土)、時間は13時~21時。メイン会場は旧八十神小学校分校(数年前に廃校になっている)。当日交通規制で一方通行になり、16時~22時まで歩行者天国となる。
私の住む集落は信玄の隠し湯として知られ、日本の名湯・百選にも選ばれた温泉(ようするに天城屋旅館があるエリアのことだ)にほど近く、昔ながらの家が点在する地区だ。八十稲羽市のなかでも標高が高いために、ホタルが遅い時期に見ることが出来るのである。全国的にも数が少ない自然発生による、ホタルが観賞できることで有名で、お祭り当日は全国から多くのホタルファンが駆けつけ、賑やかな一日になる。
「これ、うちも送迎バス出してるんだ。チェックインしたら、そのまま行けるよ」
「そうなんだ、ならちょうど良かった」
「あ、そうだ。ならみんなの浴衣準備しておこうかな、きっとみんな喜ぶよね」
「あれ、天城屋旅館て貸出してるの、浴衣」
「うん、この日だけね」
「そっか」
「ふふ、なんか、初めてあったときみたい。晃ちゃん」
「......」
「大丈夫、気にしてないよ。今の晃ちゃんには初めての体験なんだもん、新鮮で楽しめるんじゃないかな」
「ありがとう」
そして、当日。カバン片手に商店街からバスに乗って天城屋旅館前にいった私は、みんなと合流したのだった。
「なんかごめんな、俺たちが誘うべきなんだろうけどさすがにこの街のイベントとかはわからなくて」
「あはは、気にしないで。元はと言えばやろうっていってくれたの月森なんだろ?ありがとう。4月に引っ越してきたんだから無理だよ、それは」
「あはは」
「そっか、神薙ってバス通だもんな。そんな遠くから通ってんのか、大変だな」
「まあね、慣れたよ」
「思えばいなくなった晃の家に行くために学校サボって以来じゃない、雪子?」
「そういえばそうだね。あの時とは違って、ずっと平和でいいよ」
「だよねー!出店あるんでしょ?たのしみー!」
「浴衣まで貸してくれるなんてすごーい!さすがは天城屋旅館、おもてなしの心が行き届いてる!」
「おめー、きて大丈夫なのかよ、久慈川」
「なに、心配してくれてんの?」
「ち、ちげーよ!せっかくのイベントが台無しになったらやだろ」
「ふふっ、だってこんな楽しいイベントに誘ってもらえるなんて思わなかったんだもん!疲れなんて吹き飛んじゃったんだから!」
「菜々子も連れてきたかったんだけどな......」
「あれ、そういえば堂島さんと菜々子ちゃんはこなかったのか?」
「今日は子供会のイベントで2人とも居ないんだ。あっちは発表会とかホタルの話を保護する会の人から聞くらしい」
「あっちゃー、ブッキングしちまったのか。なら仕方ねーよな。それがいいと思う」
「写メ撮れたらいいけど、蛍って強い光ダメなんだろ?仕方ない、みんなの分まで楽しむとしますか」
「浴衣のレンタルはこっちだよ」
私たちはあとに続いた。
「あれ、晃、女性用にするの?」
「あー、うん、まあね。洋服と違って和服はきっちりわかれてるものだから。丈が全然違うんだ」
「へー、そうなんだ」
「それに......はだけたらシャレにならない」
「あー......」
私は苦笑いして個室に入った。
浴衣は洋服とは違って、ボディラインを強調しない方が着姿が綺麗で粋だと言われている。非常に不本意ながら私は胸が大きい部類に入るため、浴衣を着たときに、強調するつもりはなくても強調しているように見えてしまう。
おばあちゃんに相談したら、和装用のブラジャーがあるらしく貸してもらったのだ。前で止めるフロントファスナータイプ。着脱がしやすく、補正用パッドもついているから着崩れ防止効果も期待できる。
何回か練習して来た通りに着替えていく。私が選んだのは紺の濃い色で、柄が小さめのものだ。ピンクや黄色などの明るい色と合わせるといいらしいがピンと来なかった。
浴衣の定番の紺色は古風で落ち着いた大人っぽいイメージだから、まだ抵抗感が少ないのかもしれない。
みんな、良く似合う柄、色合いの浴衣を着ていた。スタッフの人に手伝ってもらったんだろうなと思う。とりあえずみんなで撮ることになった。スタッフの人に携帯を渡して、私もお願いするコトにする。
「せーんぱい、快気祝いに一緒に撮りましょ!」
「おいこら、今俺たちが撮ってんだから待ってろ久慈川」
「なによー、いいじゃんちょっとくらい!」
「おおう......なんて積極的な......あれ、なんかやばい?」
「りせちーなんだなって初めて思ったわ、俺」
「楽しそうでよかったね、ずっと辛そうな顔してたし」
「そーっすね」
「はい、2人ともこっち向いて。はいチーズ」
「え?あ、とってくれるの神薙さん。ありがとう」
「うえ!?ちょ、神薙、不意打ち......ってまさかもうとっ......!?」
「はい、とれた。今からおくりますねー、2人とも」
「ほらやっぱりー!めっちゃブレてんじゃねーか!」
「あはは、花ちゃんすごいことになってるね」
「神薙!」
「ごめんごめん、もっかい撮るから。はい、チーズ」
変な緊張感がぬけて、いい写メが取れたので今度はちゃんと送ってあげた。
「ね、雪子、晃もとろーよ!すいませーん、撮ってもらっていいですか?」
千枝に呼ばれた私は雪と3人で写メをとってもらったのだった。
私たちはバスにゆられて、富士山を望む田んぼで、蛍復活祭りに盛り上がるメイン会場までやってきた。
稲作を無農薬で取り組み、続けてきたおかげで、蛍が復活し、毎年この時期には美しい光を放つ姿を見せてくれるようになってきたらしい。
ホタルは自然環境の整った場所でしか生息することができない。自然でいろいろな農法をし、マコモを通して大自然に感謝し、自然環境とホタルの復活を目指していくようだ。
宵闇せまる頃、美しいホタルの舞いがみえはじめる。
炎とも電気とも星や月や太陽ともちがう、これまで見たことのない色と質感の光だった。輪郭があやふやで、触れたときの温度を想像しにくい。冷たいようでも、火傷しそうでもある。そういう光が、ふわふわ漂ったり静止したりしながら、田んぼのあちこちに灯っている。夜を少しだけ照らしだす。
「なんか......久しぶりだな」
「久しぶりって感覚、思い出せたんだ、晃ちゃん。よかったね」
ほたるたちが醸す幽玄な光の舞、懐かしい日本の原風景がそこにはあった。
清流に恵まれたこのあたりは県内でも屈指のホタル飛翔地で、国の天然記念物指定地になっていたこともあるらしい。初夏の訪れを幻想的な光の舞がつたえている。
ゆかたに団扇、素足に下駄かサンダルを履き、川沿いの草むらで団扇を降りながら歩いた。
ホタルが光彩をぼかしながら離れていく。その先にはホタルの大群が火の粉状になって舞い上がっていた。ホタルの大群はまるで光の澱のようだった。
蛍火は震えるように発光し、力尽きるように萎えていく。雪の白い肌がぽっと浮かび上がる。ふいに風が吹いた。強風に巻き上げられた蛍たちが光の水しぶきのように降り注ぐ。
蛍の大群はざあざあと音をたてて波打った。それが蛍のせいなのかせせらぎの音なのか私にはもう区別がつかなかった。
ささやかな淡い光は、まるで行き場を失った魂のように、いつまでもいつまでもさまよいつづけていた。水面を漂う細い糸のような光の筋をひき、解きつほぐれつしながら漂う。天空へ天空へと光彩をぼかしながら冷たい火の粉状になって舞いあがっていた。
小学生のころだったら田んぼの蛍は、このあいだよりも数が増えていた。空の星が落ちてそのまま光る虫になったんだと言われたら私は素直に信じただろうなと思う。
蛍の火が一すじ椰子の並木の中から流れてきた。雪が手に持っていた団扇をさし上げた。蛍の光はそれにちょっと絡まとわったが、低く外れて海の上を渡り、また高く上って、星影に紛れ込んで見えなくなった。
「ね、晃ちゃん」
袖をひかれた私は振り返った。
「どーした、雪。なんか見つけた?」
「飯田先輩とここ来たかった?」
「え?なんで飯田先輩が出てくるんだよ」
「晃ちゃん、林間学校から飯田先輩を見てる目がすごく優しい気がするから。その......距離が近づいた気がして。気になって」
「......ああ、なるほど。そうみえるんだ」
「ちがうの?」
「ちがうというか、なんというか......言葉にするのはすごく難しいなって。飯田先輩との関係はとりあえずおいとくとしてもさ、すくなくても、飯田先輩の今の状況にはすごく覚えがあるからな、私は」
「......晃ちゃん」
「4月からの記憶しかない私はカンナギアキラの理想的な人生を歩もうと考えてるわけだ。大学進学して働いてお金をためて適合手術をうけて、名前もなにもかもかえて、この街には二度と戻らないで生きていく。でも、実際にはそこまでしなくてもいい気がしてる。それに気づくことができなかったことにも、後戻りさせなくした犯人も、許せない」
「......ねえ、晃ちゃん」
「ん?」
「私の気のせいならごめんね。なんだか、これからの話じゃなくて、今までの話をしてるように晃ちゃん話すから」
「......まあ、そんなふうに聞こえるのも無理ないかも。ようするに、そうなりたいと願ったんだよ、カミナギアキラは。シャドウは否定したい自分だけじゃない、理想化しすぎた自分もあるってりせちーの例もあるわけだし」
「もしかして、それを飯田先輩に?」
「まさか......いや、ちがうよ。まだその前の段階」
「前の段階」
「うん、どうもあの人は前のカミナギアキラだけじゃなくて、今の私をみて惹かれてるところがあるようだから。聞いてみたんだよ。今はその返事を待ってる。それによっては、まあ、進むかもしれないし、後ずさりするかもしれないってところ」
「......そうなんだ」
「なにも知らないからね、あの人は。私は大丈夫、心配しないで雪。記憶を忘れたってあの時の痛みは消えやしなかった。あいつも私も覚えてるんだ、あのときのことだけは。記憶を取り戻せばきっと前に......」
「......ねえ、晃ちゃん」
「なに?」
「それって、私には聞いてはくれないの?」
「......雪?」
「......あのときの晃ちゃんがどれだけつらかったのか、ほんの少しだけ、わかった気がする」
「......それは、」
「私もまだ、わからないんだ」
「そうなんだ」
「うん......でも、飯田先輩と晃ちゃんの関係が変化していくのを見ているだけは嫌だと思ったのはたしかなの。それがどこからくるのかはまだわからない」
「......そっか」
「晃ちゃん?」
「......ほんとに、馬鹿なやつだよ、カミナギアキラは。大バカ野郎だ」
私は思わず本音を吐露した。絶対に叶わない夢のような世界が、未来が、あったかもしれないのに、すべてを不意にしたんだあいつは。私は泣くしかなかった。
雪子
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どっちもみせろ