(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4)   作:アズマケイ

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吊るされた男5-3

◼️「......神薙、いったみたいだな」

 

ひとり、清掃中の看板がかかっている大浴場に向かった神薙を見届けて、月森は襖を閉めた。

 

「どーしたよ、月森」

 

「実は神薙のことで相談があるんだ。完二のときのことを考えたら、もしやとは思ってたんだけど、どうも神薙の空白の2ヶ月になにをやらかしたのか、警察は知ってるかもしれないんだ」

 

飯田先輩からの情報提供だとはいわず、月森はこの街の失われた信仰を伝えていた史跡を神薙のシャドウに取り憑いたなにかが破壊して回っていたことを話した。あのあと気になって新聞のアーカイブなんかを図書館で調べたりしたらしいが、どうやら謂れを収録した本や持ち出し禁止の本が行方不明になったりと裏工作が色々あったらしい。

 

「それ、ぜってーあいつらの仕業だろ。自由にあっちの世界とこっちの世界を行き来できるんだから」

 

「俺もそう思う。だから神薙が心配なんだ。警察は今捜査が暗礁に乗り上げてるだろうし、完二のときのことを誰かがみてたとしたら、神薙のシャドウの姿をしてる以上、他の人らには区別がつかない」

 

「やべえじゃないっすか、みんなあっちにいるときになにかやらかされてたら、アリバイないっすよみんな」

 

「今はいいんだよ、今は。学校にいってる間にもやらかしてるみたいだから、他人の空似だろうってなってるわけだし。ただ、次になにかあったときにアリバイが証明できないとまずいんだ。だから、ものは相談なんだけど、しばらくは俺たちも誰かしらといっしょにいるか、たくさんの人がいるようなところにいかないか?」

 

「あー、予防線はっとく、みたいな?」

 

「それもある」

 

「その心は?」

 

「夏休みもみんなで集まるときに誘いやすいだろ、これなら。神薙の場合、こうでもしないと来てくれないからな」

 

「あー、ゴールデンウィークみたいな」

 

「林間学校んときもぼっちでしたもんね、神薙先輩」

 

「これからのことを考えたとき、神薙は真っ先に容疑者になりかねないあやういところにいるのは事実だから心配なんだ。なにせ犯人と瓜二つだし」

 

「うわー、マジで許せねえ。そうだよな、実際あいつ完二のお母さん誘拐してるわけだし。なにもしらない人から見たらわかんねーわ」

 

「わかりました、夏休みんときはガンガンみんなで集まるか、遊ぶってことっすね」

 

「一石二鳥だな」

 

「へー、考えたな月森。これなら神薙も断りにくいんじゃね?」

 

「だろ?」

 

月森は笑った。

 

「天城たちは知ってんのか、これ?」

 

「うん、天城には先にメールで昨日伝えてあるんだ。今頃、女性陣にも伝わってるんじゃないかと思う」

 

「そっか、なるほど。じゃあ肝心の神薙には誰から伝えんの?」

 

「さすがにそれは神薙先輩にも伝えた方がいいやつっすよね、それ」

 

「俺からいっておくよ。神薙にも意識して1人にならないよう気をつけてもらなわないとなら......」

 

ここまでいいかけて、月森の携帯にメールの着信があった。画面を開いた月森は、少し笑ってからいいなおした。

 

「天城が説明するみたいだから、心配いらないよ。たぶん」

 

 

 

 

 

 

 

 

私がりせちーのシャドウから見せられた精神攻撃を伴う幻覚は、元の世界で片想いしていた親友とその彼氏が結婚することになり、それをLINEで聞いてから数日間に及ぶ気持ちの乱高下だった。私にとってある種急所といっていい出来事だっただけに、ダウン状態一歩手前になってしまったのだ。

 

あれだけ仲がよかったのに結婚式のスピーチをしないなんて、出席しないなんておかしい、と下世話な勘ぐりをしてきたクラスメイトや親戚が多すぎて、ただでさえ地元が遠のいていたがいよいよ完全に繋がりを切ったのだ。歪すぎる三角関係だったときのことを中途半端に知っている人にとっては下衆の勘繰りにことかかない恰好の娯楽だったにちがいない。

 

これはどちらかというと親友との関係よりも外部からの好奇な眼差しに晒されて辟易する部分が多かった。

 

LINEからFacebookからなにから一旦削除して、今まで使っていた携帯をiPhoneに機種変更するついでに全部連絡を断ち、絶対に新しい連絡先を含めた個人情報は教えないでくれと家族や親友夫婦に伝えたのを覚えている。

 

あのときはまだ私は適合手術の途中かつ体もそれに伴い中途半端に男であり女であり、お金を貯めるために全ての事情を隠して女性として働いていた時期だった。その方が精神衛生上ありがたかった。

 

ゆえに親友から新婚旅行先から届いた観光地の写真とメッセージが届いて初めて、私は長年の片思いが終了したのだと突きつけられた。それからずっとナイーブだった。どうにか抱えている気持ちと決着をつけなくてはいけないと色々もがき始めた時期でもあった。

 

その時のことが一気に思い出されてしまうんだから、記憶は忘れているだけで無くなることは絶対にないんだと突き付けられる気分だった。

 

目を覚ましたとき、月森から幻覚は自分しか見ていないと言われたとき、どれだけ安心したか。ほっとしたか。あれを見られたら私がどういう存在なのかいよいよわからなくなってしまうだろうからよかった。

 

その代わり、やはり一度思い出してしまったためか、心身ともにすさまじいダメージを受けた私はわりと思考回路も鈍くなっていたらしい。

 

私がお風呂からあがって野郎部屋に戻ろうとしたら、大浴場の入り口付近で雪が待っているくらいにはひどい顔をしていたようだ。

 

「ね、晃ちゃん。大丈夫だった?」

 

「わざわざ見にきてくれたのか、雪。ありがとう。幸い誰も間違えて入ってはこなかったよ」

 

「そっか、よかったよ。たまにね、無理に入ろうとするお客様がいらっしゃるから」

 

「そうなのか......って、あれ、まさかずっといてくれた?ごめん、気を使わせて」

 

「ううん、気にしないで。大丈夫だよ。そうじゃないから」

 

「違うんだ」

 

「うん、少し、話さない?湯冷めしちゃうかもしれないけど」

 

「いいけど」

 

「なら、中庭行こっか」

 

「うん」

 

私たちはライトアップされている天城屋旅館自慢の中庭に設けられた石畳を歩いた。そこで私は月森からの提案を雪から聞くことになる。

 

「そっか、たしかにそうだよな。私のシャドウに憑依している以上、第一容疑者になりかねないってことか......わかった。ありがとう、雪。たしかにこれからの調査に支障が出るといけないし、なるべく1人にならないようにするよ」

 

「うん、そうしてくれると私も嬉しいよ、晃ちゃん」

 

「てことはあれか、次からはみんなでテスト勉強するってことだな。二週間前から部活休みになっちゃうし」

 

「今年は7月19日だっけ。がんばろうね」

 

「そうだね、補習になるとほんとめんどくさいから」

 

「完二くんとりせちゃんが心配だね。千枝と花村くんはなんだかんだで補習は回避すると思うし」

 

「そうだな、2人のフォローしようか」

 

「うん、そうしよう」

 

私はうなずいたのだった。

 

「よかった、晃ちゃん。やっと笑ってくれた」

 

「......あーうん、ほんとごめん、雪。りせちーのシャドウの精神攻撃、ほんとにえぐかったからさ」

 

「そうみたいだね......月森くんも教えてはくれなかったけど、すごくきついやつだったっていってたから心配してたの。晃ちゃんが元気出たみたいでよかったよ」

 

「ありがとう、雪」

 

「うん」

 

きっと雪の思い描く幻覚と私の実際に見た幻覚が違うことは明らかだったが、雪は詳細を聞いてこようとはしなかったから、ほんとうにありがたかった。私はあらためてお礼をいったのだった。

雪子

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