(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4) 作:アズマケイ
今日も朝から選挙カーとすれ違った。選挙権がない未成年になってしまった身としてはうるさいなあとしか感じない。いつものように早すぎるバス通で登校した私は、そのまま教室に入った。誰もいないタイミングを狙って、昨日の勉強会で終わらなかった範囲を今度こそ終わらせてしまおうと問題集と筆箱を広げる。
集中し始めるとあっという間だった。気づけばちらほらクラスメイトたちが登校し始めていた。勉強中の私に気を遣っていたらしく、目があったら挨拶してくれたので私も返す。
ちょっと喉が渇いたなと自覚したとたんに身体中の水分がないことに気づく有様だ。私は鞄から凍らせている麦茶を出した。だいぶ溶けている。一気に飲んでしまうと体が一瞬にして冷たくなる。体にはあんまりよろしくないんだろうが冷房の温度を律儀に28度に設定している学校でぬるい麦茶なんて最悪なんだから仕方ない。
ぽたぽたこぼれた水滴も拭き取りつつ、私は鞄にしまった。そのときだ。
「晃、晃大変だよ、雪子が!」
私は教室に飛び込んできた千枝に連れられて保健室に向かった。
「失礼しまーす!雪子、大丈夫?」
そこには保健室の先生に湿布をはってもらっている雪の姿があった。
「あ、千枝、晃ちゃん」
「どうしたんだよ、雪。その腕!大丈夫?」
「う、うん、捻っただけみたい......ただちょっと痛いかな」
「もーしんじらんない!聞いてよ、晃!校門前で八高じゃない制服着た知らない男子がさ、いきなり雪子に話しかけてきたの。遊びに行かないかって。普通に断ったらいきなり切れて雪子の腕引っ張って連れて行こうとするんだよ、信じらんない!サイテー!雪子怪我させて、そのまま逃げちゃうなんて!」
「雪、ほんとに大丈夫か?」
「うん......怖かったけど、千枝がカバってくれたし、周りの子が先生呼んだり、あいだに入ってくれたりしたから」
「そっか......」
「怖いどころじゃないよ!どいつもこいつもなんで信じないんだって切れてたし!なーにが誘拐事件の犯人よ!」
「里中さん落ち着いて。一応、応急処置はしたからね。ただ、帰りは気をつけて。一人で帰らないようにね。それと病院にいって診断書を出してもらっていい、天城さん。これは立派な傷害事件だもの、警察に話が行くと思うから」
「えっ、い、いきなり警察ですか?」
「他校の制服着てたし、とーぜんよ。ね、晃」
「しかも連れ去ろうとしてるしな、雪のこと」
「それもあるけど、相手は連続誘拐の犯人だって嘘かほんとかは知らないけど脅してきたそうじゃない?人が死んでる事件を口にするなんて狂言にしても悪質すぎるし、ほんとに犯人だったら天城さんの身に危険が及ぶもの」
「そーいや、そんなこといってたっけ。ほんとムカつくよね、雪子一回怖い思いしてるのにさあ!」
「千枝......。先生、ありがとうございます」
「諸岡先生には私から伝えておくから、1限目は休みなさいね」
「じゃあ、ノートとっとくよ、雪」
「みんなに知らせとくね。あいつ見かけたら要注意!」
「うん、ありがとう」
私たちは一度教室に戻ったのだった。
千枝が教えてくれた不審者の外見や言動から察するに久保美津雄なんだろうな、とぼんやり私は思った。本来なら4月に起こるべきイベントだが漫画版ではちょうど今の時期に行われた事例がすでにある。
今でこそ他校の男子生徒だが学年は不明だ。完二レベルでも退学にならないこの高校において唯一退学処分となったある意味レアな生徒だ。諸岡先生唯一の功績だとこき下ろされてるあたり、相手の心情を考慮せず、自分の気持ちだけを押しつける幼稚で利己的な性格なだけでは考えられないことをやらかした可能性がある。
りせ曰く「一人で喋っちゃう系のアレな人」。 「引きこもり」と言われて思いつくマイナスイメージを片っ端からつぎ込んで作られたかのような性質の持ち主だ。
ひたすらに根暗で、普段何をしているのかまでは描かれていなかったが、アニメでは真っ暗な部屋でゲームをしながら笑みを浮かべるというどう考えてもアレな描写がされていた。
諸岡先生は繁華街で遊んでいたために退学処分にしたから相当恨みをかっているはずだ。ただ引きこもりの性質がある人間が繁華街に繰り出すとは考えにくいからゲーセンに入り浸り、トラブルを起こしたのかもしれない。
それだけではいくらなんでも退学は厳しいだろう。ここは公立だし、校則も厳しくない。基本的には、懲役以上の刑になる可能性があるような犯罪を犯せば一発退学があると聞いたことがある。高校生に多いのは窃盗らしい。クラスメイトの財布を盗んだとか、万引きとか。ただ友達がいたかもあやしいしな。
そして暴行や傷害。でも暴行や傷害は軽く見られがち。繰り返さないとなかなかクビにはしてもらえないところもある。ただ教師への暴行や傷害は結構厳しい。
喫煙や飲酒や届け出のないアルバイトや自動車・二輪車の免許取得など、犯罪に該当しない非行は、繰り返さないとなかなか停学にはならない。もちろん、普段の素行と合わせ技で退学になることもある。
なにせ相手は連続誘拐事件の犯人だと本気で自分にじこあんじをかけるような人間だ。なにをやらかしたのか、聞いた方がいい気がする。私は昼休みには職員室にむかった。
「諸岡先生、聞きました?不審者の話。あれって久保美津雄くんですよねぇ、深夜に繁華街のゲームセンターで傷害起こしたあげく、諸岡先生が迎えにいったら刃物で流血沙汰になった、あの......うふふ。驚いちゃった」
私が入ると柏木先生と諸岡先生が話しているところだった。
「やっぱりー、あのとき警察に被害届出しちゃえばよかったんですよ。あの子、引き取りに来た諸岡先生逆恨みして暴れるくらい、温情かけるには更生の余地なしって感じでしたしー。やだわあ、天城さんが狙われるってことは今度は私も?」
私がいることに気づいたようで、さすがにまずいと思ったのか、いまから職員会議があるからと追い出されてしまった。この世界の諸岡先生はだいぶゲームより先生をしているのかもしれない。
素行が悪すぎる上に実際に諸岡先生を山野アナの殺害方法を真似て一方的すぎる復讐をしでかすのは事実だ。足立のところに現れた時点ですべてやらかしたあとなあたり、救いようがないとは思っていたが、キレたら手がつけられないパターンだったとは。モロキンに傷害負わせて逮捕させない代わりに退学か。
思えば退学をくらった母校に臆面もなく乗り込んで雪へ絡みにいくあたり、この時点で変な方向に度胸が振り切れている。
ああ、そうか。一回、流血沙汰になってるから学校側の対応がこんなに早いのか。ある意味納得してしまう。
「......まてよ、一回引き取りに......?深夜なのに親じゃないのか?じゃあまさか、一回泊めたり......?温情ってそういう?あ、だから諸岡先生のアパート知ってるのか、あいつ」
私は鳥肌がたつのがわかった。
諸岡先生は自宅のアパートの屋上で山野アナと同じように逆さ吊りで殺害されるはずである。よくよく考えてみればなんで久保が諸岡先生の家をしってるんだって話だ。まあ、ストーカー気質みたいだからひたすら待ち伏せしたのかもしれないが。
そうだ、そうなのだ、諸岡先生の事件に関しては連続誘拐事件の犯人が単独犯から複数犯になろうが、未然に防ごうが関連性はないのだ。このまま放置すれば間違いなく諸岡先生は死ぬのである。
「......どうしよう」
雪子
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どっちもみせろ