(更新停止)果てしなく続く坂道の途中で(ペルソナ4) 作:アズマケイ
バスはギリギリ最終便があったから、私達は飯田先輩と帰ることになった。菜々子ちゃんのために惣菜を沢山買った月森は両手が塞がっている。
「助けてくれてありがとうな、月森。ほんとに悪かったよ、勘違いして。どこをどうみても問題ない優等生ぶりがなおさら怪しく見えちゃってな......アキラが頼りにするはずだよ。あのメンバー、みんな助けてきたってことだろ?すげえな」
月森はようやく誤解が解けたそうでうれしそうだ。
「飯田先輩も、おじいさんも、無事でよかったです、ほんとうに」
「間に合ってよかったよな、アキラ」
「うん、ほんとそう」
しみじみ頷く私をみて、飯田先輩は申し訳なさそうだ。
「そんな顔しないでください、飯田先輩。不誠実な対応してきたのは、私の方ですから」
月森とはバス停でお別れした。30分ほど私と飯田先輩はバスに揺られながらずっと無言だった。2人で降りるバス停には私達以外誰も降りようとしなかった。
「アキラもありがとうな、助けてくれて。じいさんがいなかったら、おれ、死んでたんだなと思うと、今更怖くてさ。あそこにずっといたんだろ、アキラ。無事でよかったな」
「はい......」
「こないだの話なんだけど、やっぱおれは前のアキラも、今のアキラも、いいと思ってる。でもマヨナカテレビのことで頭がいっぱいなのもよくわかった。だから......」
「あの、飯田先輩。お伝えしたいことがあるんですが」
「うん?」
「あのマヨナカテレビみたらわかってると思いますけど実は......」
この世界でカンナギアキラとして生きていくことを決めた以上、避けては通れないことである。飯田先輩が今の私も、かつてのカンナギアキラもいいと思うと好意を示してくれた以上、私も答えなくてはならないだろう。
「私は普通じゃないです。男の子を好きになれません、女の子が好きです。飯田先輩は私のことを好きだと言ってくれましたが、私は半陰陽という愛してくれる人の子供すらうめない体です。私は男としても女としても中途半端で、今の私の体は違うとしか思えません。20になったら男になりたいので、彼女にはなれません、ごめんなさい」
そこからは、飯田先輩に質問されて、そこに私が答える形で、性自認は男で性同一性障害だから女から男になりたいとか色々話をした。
「アキは真面目だなあ、そこまで明かしてくれなくても全然いいのに」
「いっかい、私、飯田先輩で試しましたから。普通の女の子になりたかった。どんなに卑怯なことしたかくらいわかります。私から告白したくせに、碌なデートもしなかったし」
「そのときはなにも知らなかったんだろ?」
「それはまあ、はい」
「だと思った。中学生にしてはおままごとみたいな付き合い方かもしれなかったけどさ、おれは楽しかったよ」
「えっ」
「アキがおれのために頑張ってくれてるのがすげえうれしくてさ、つらい思い出かもしれないけど、おれは楽しかった。だからまた付き合いたいって思った」
「飯田先輩......」
「じゃ、どんなにがんばっても、お友達にしかなれないわけだ」
「飯田先輩がつらくなければ、になりますけど」
「そりゃあ辛いよ。でもなあ、それ以上を求めたくなるのが人間とはいえ、わざわざ話してくれたのを無碍にするのは違うだろうし。そっか、アキは男の子か。天城が好きなのか?」
「1月までは好きでしたけど、今はわかりません。1月から3月までの私はどこかにいってしまっていて、思い出せないんです」
「あー、シャドウってやつか。悪いことばっかしてたカンナギアキラの正体、そーか。なあ、アキ。人間って欲張りだよな。きっと今のおれは一時的なんだよ。今ははいわかりましたなんだけど、やっぱり月森に嫉妬するし、もしかしてと期待しちまうんだよな。拒否ってくれ、アキ」
「え、あ、はい、わかりました」
「今んとこ、おれはアキが男か女かはあんまり気にしてなくて、失礼なこと言うけど、なんかふわふわしてるんだよ。マヨナカテレビから出られたばっかなこともあるだろうけど。あーやっと月森と並べたみたいな安堵感が先にくる」
「そんなにですか」
「そんなになんだよ、困ったことに、な。そして月森達だけ頼りにされて、やっぱなんかやだなと思ってしまうわけだ。都合がいいだろ?そんな予感があるんだよ。だから、アキ、これもなんかの縁だ。就職活動しなきゃならないから、あんまり力になれないけどさ。あれこれ相談してくれるとうれしい。おれなりに力になりたいんだよ」
「飯田先輩......。わかりました、よろしくお願いします」
「うん、よろしく」
どんなにありふれた言葉でも、私がが口にすると耳の奥までしみ込んでくるような気がするんだ、と飯田先輩はいう。
私は飯田先輩の苦悩に薄々気がつき、心配していた。ともかくも、彼の笑顔を喜んだ。
しかし、いつしか飯田先輩は、一人の女として惹かれていた私に対して、まるで報われる見込みのないその感情の火を、必死で踏み消そうとしている最中だと気づいてしまう。
それに気づかないフリをするのは優しさなのか、残酷なのか、私はわからない。飯田先輩が二人の再会の光景を思い描いて、胸の奥の不安の在処を鷲摑みにされているのはたしかだった。
本当に探偵王子ならこの事件の犯人を突き止めてみろ、という挑戦状はよく届く。そのうち、いずれも未解決事件であり、外部の圧力で警察の捜査が強制的に打ち切られ、迷宮入りしてしまったものばかりだと気づく。
大抵は直斗がおじいさまに相談すれば、何かしらの動きがあって、しばらくすれば、感謝の手紙が届くのだ。
ある時、一通の挑戦状が届いた。あらゆる状況証拠が犯人はこの人だと指しているが、その人は完璧なアリバイがある。挑戦状には、その人は犯人ではないとまで書いてある。共通して被害者は廃人化しており、ある有名な政治家とあるいは後援会と繋がりがあったこと。
直斗はいつものようにおじいさまに相談した。血相変えたおじいさまに、挑戦状に同封されていた独自研究の資料まで取り上げられてしまい、直斗の手から完全に離れてしまった。いつもと違うのは、あいかわらず廃人化事件が起きるたびに、探偵王子あてに挑戦状が届くこと。そのたびに直斗はおじいさまに届ける日々だった。
そして、ある日のこと。
おじいさまから。八十神稲羽市という田舎町で起きている連続誘拐未遂事件が挑戦状と状況がよく似ているから、調べてくるようにといわれたのだ。そして、報告書をおじいさまあてに書くよう言われた。直斗は休みのたびに訪れては調べるようになった。
探偵王子の知名度は役に立つこともあるし、たたないこともある。
特に事件の被害者側が相当警戒しているようで、状況証拠だけでみると、実行犯のひとりはカンナギアキラという女子高生だ。1月から3月までは少なくても彼女が犯人だった。今は違う。
彼女はいつも誰かと一緒にいることが多く、よく似た別人が犯行を続けている。
「これは難事件の予感がする......」
直斗は転校も視野に入れなければならない、長丁場を想定し始めていた。
八十神稲羽市警察署は、ずっとピリピリしている。いつもは事故くらいしかない穏やかな田舎町が、連日連夜全国版ニュースで嫌な名前の売れ方をして、野次馬が押し寄せていることにうんざりしているのだ。探偵王子である直斗に対する対応もその空気の延長にあった。部外者、民間人、しかも所轄を無視して事件の進展がないからと、都会から送り込まれてきた未成年、しかも女。
邪魔と顔に書いてあったし、協力的なのは4月から廃人化事件にうっかりかかわってしまったために、都落ちした足立刑事だけという有様だった。
「世の中くそだなって思わない?」
警察署の屋上にて、堂島刑事の目を盗んで持ってきた資料を渡しながら足立がいう。
「思う時もありますけど、諦めたら終わりですから」
「そっかあ、じゃあガンバ。堂島さんにバレたら、ほんと僕殺されちゃうからさ。ヘマやらないようにしてね」
「あの挑戦状はたすけてくれだと思ってるんです、僕」
「ふーん、そっか。まあ、深入りしすぎて廃人化しないようにね」
「足立さんも」
「僕?僕は大丈夫だよ、いっかい痛い目みたからね。轢き逃げ犯雇ってた市議クビにできたから、やっと交通課が仕事してくれるっしょ」
「......だれか、大切な人が亡くなったんですか?」
「堂島さんのね、奥さん。結婚指輪なくしてやがんの、ここ。ほんと終わってるから頭きてさあ。調べてみたら、運転してんの市議だもん。どーせ身代わり用意するだろうから、市長が動いたみたいよ」
「......すごいですね?」
「クソなのは都会だけかもなーってちょっと思い始めてるとこ」
資料をすべてiphoneのスキャナアプリで取り込み、保存した直斗は足立刑事に全てを返したのだった。
雪子
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