ご了承の上で御覧ください
複雑ではあるが、我が親友の一也と新見さんの距離が小学生の時の様な距離に戻りつつあるのは俺としても非常に良い事だ
確かに初恋の相手である新見さんには未だに女々しいが想いが残っている
では、俺がその我を通したとて悲しいかな誰も幸せになれないのだろうとも理解している
一也は気にしていない風に見えても中学の時も新見さんを気にかけていた
新見さんはいつも一也を寂しそうに見ていた
仮に、そう仮にだ。チキンオブチキン、キングオブチキンを自称する俺が新見さんに告白したとしよう
その瞬間に今の微妙なバランスは吹っ飛ぶだろう
一也は恐らくは祝福してくれるだろうが、それでも内心複雑だろう
新見さんは受け入れるにせよ、断るにせよ負担になることは間違いないだろう
俺とて我を通して成功したとしても、今まで通り一也と付き合えなくなるだろう。それに新見さんにも複雑な想いを持ち続けるのだろうな
だから、俺はこの想いを忘れなければならない
でなければ、二人を応援など出来はしないだろう
弘隆がそう決意した翌日の事である
一也のクラスメートであり、新見遙佳の友人の女子たちは朝早く学校に来ていた
というのも彼女達には理由があった
前田一也。最近新見遙佳の側に良く居る様になった男子である
夏休みの後から彼女に付きまとっている様な男だ
新見遙佳という人間は相手が余程の人物でなければ否定しないのだ
それを良いことに付きまとっているように彼女達には前田一也という男が見えていた
新見遙佳は容姿端麗、運動神経抜群の上に性格も良い人物
何の取り柄もない男と釣り合う人物ではないのだ
「遙佳のいないところでアイツに聞こえる様に言うのよ」
「そうね、遙佳と付き合うなら運動部のエースとかじゃなとね」
彼女達は前田一也に対して圧力をかけて諦めさせようとしていたのだ
それが彼女の為だと思って
「で、でも野井君怖い人って噂を聞いたことあるけど」
話が纏まりかけた時にある女子が発言した
「え?野井君?
最近隣の間咲さんと柚ノ木さん達と何かしてるらしいけど」
野井弘隆
クラスの中で取り分け親しい人物は件の前田一也くらいであり、男子の中では明らかに異質な空気を纏っていた
隣のクラスの間咲ののかは物怖じせずに話し掛けているのは良く見るが、同じクラスメートであっても積極的に関わる女子は居なかった
ただ、新見さんだけが彼とたまに話をしているくらいである
とはいっても、大体が新見さん側から話し掛けており、彼から新見さんへのアプローチは誰も見た事がなかった
彼女達の不運は殆どが新見さんと高校で知り合った事であろう
新見さんと中学から付き合いのある人物はこのクラスにはおらず、故に野井弘隆という人物が中学でやらかした事を誰一人知らなかったのである
一応別のクラスには該当する女子もいるが、彼女達は決して新見さん関係で余計な事を言わなかった
間咲ののかもはるる(新見遙佳の事)関係で弘隆を頼る事は決してしない
させてはならないとすら考えていた
不思議な事だが、ある程度人望のある人物は交友関係すらも余計な口出しされる事も多々ある
だからこそ、異性の気を引くために様々な事で目立とうとするのも自然ではある
それも過ぎれば倦厭されるが、それでも埋没するよりはマシと考える
だが、忘れてはならないのはどのような事情があるといっても交友関係というものは当事者間の話だと云うことである
そしてどんな人間にも触れてはならない部分があると云うことであった
彼女達は身を以てそれを知ることになる
弘隆は学校に登校して直ぐに違和感を覚えた
良く誤解されているが、野井弘隆という人間は小心者であり、臆病者なのだ
そのため、自分が必要以上に傷付かない様に他人と距離をとるし、面倒事を嫌うから相手にも立ち入らない
そうしなければ、自分を保てないから
だからこそ、周囲に無関心を装いながらも周囲の変化には敏感なのである
親友である一也の様子がおかしいのだ
まぁ、いつもおかしいと言えばそうなのだが、既に五年以上の付き合いである
一也の様子からただならぬ状況と判断した弘隆は一也を教室から連れ出す事にした
「おい、弘隆。もう授業だろ?」
「知らん。それより大事な事があるんじゃねぇのか?」
一也の言葉を一刀両断する弘隆
「あ、いや大丈夫だ」
僅かだが、一也の表情が曇ったのを弘隆は見逃さなかった
「野井君。ま、前田君。授業始まるよ」
二人のやり取りを見ていた新見さんが話しかけてきた
「新見さん。悪いけど、担任の喜多川ネキには野井が前田を連行してったと言っといて」
「お、おい」
「頼むわ」
尚も抵抗する一也を引きずりながら、弘隆は軽く新見さんに頭を下げた
「っ!う、うん」
前田一也と野井弘隆が教室を去ってから先程の事を新見遙佳は思い返していた
傍若無人、無神経、無愛想と陰で言われている弘隆だが、決してその様な事はないと遙佳は確信していた
確かに中学の時は授業を良くサボっていたし、理由も「ノリ」だの「勢い」等と言うことが多かったのは事実だ
しかし、無責任ではないし、自分のしたことに対する責任は取っていた
サボりも常に奉仕活動や補習等でカバーしていたのは知っている
そんな人物だが、さっき弘隆は確かに遙佳に軽くでも頭を下げて「頼む」と言ったのだ
新見遙佳のみならず、想い人である前田一也、その妹の前田果音。それに友人の間咲ののかも理解しているだろうが、彼は頼まれる事はあっても、人に頼み事はしない
借りを作りたくないのか分からないが、彼は他者に頼む事を嫌っていた様に遙佳には見えた
つまりは彼が頼む位には大事なのだろうと遙佳は思っていた
「ふふっ」
不謹慎だと思いながらも遙佳は嬉しかった
それこそまだ一緒にサッカーをしていた頃からいつも彼は遙佳や一也を頼らなかった
この学校へ進学したのも想い人が居た為だが、それを知れたのは弘隆のおかげである
だが、いざ進学してみても彼独特の立ち位置をどうにかすることは出来なかった
ののちゃんやかのちゃんにも手伝って貰ったが、それでもどうにもならなかったのだ
それが今回期せずしてどうにかなったのだから遙佳は嬉しかった
遙佳の望みは前田一也と昔の様な関係になりたいだけではない
野井弘隆とも昔の様に色々と話したかった
遙佳自身欲張りで酷い女だと思っている
以前告白されたにも関わらず、自分はそれに明確な答えを出さなかった
それでも彼をまだ頼っている
高校進学の時には彼から前田一也の進路を教えて貰わなければ、そこで関係は終わっていただろう
もっとも、その前田君自身も志望校とした光河学園に入るにはののちゃんと一緒でギリギリの成績であり、彼に泣きついたと聞いている
その時抱いた感情は
『羨ましい』だった
何とも救い様のない話だが、自分から前田君に近づくことも出来ない臆病者の癖に、彼等を助けている彼に嫉妬していた
でも、それでも新見遙佳は前田一也と野井弘隆との関係を元に戻したいのだ
彼女は小学生の時にサッカーをしていた
それに付き合ってくれていたのが、前田一也という男の子だった
それから少しして、野井弘隆という男の子も加わった
口を開けば
「いや、無理だから」とか「二人みたいには出来ない」と言っていた
だが、それから遙佳は三人でサッカーをすることが楽しみになった
その後一緒にサッカーをする男の子も増えてきたが、ある時期を境にその子達は遙佳とサッカーをしなくなった
しかし、遙佳は二人がいたから、楽しかったのだ
だが、遙佳は元々少し体が弱くてとある日にそれが二人にバレてしまった
気にしなくて良いと言う遙佳だったが、前田君はそれを境に遙佳とサッカーをしなくなり、彼もまた暫くはサッカーをしてくれていたが、そのうちしなくなった
当時の遙佳は唯ひたすら一人で泣いていた
それからは少しだけ女子らしくして、女子の輪の中に入る事が出来た
だが、常に寂しさを感じていた
更に卒業の時、野井君からの告白を有耶無耶にしたことで、それまではかろうじて話が出来ていた彼とも話がしづらくなってしまう
そして、中学に入って暫くした時のこと
不運にも二人と別のクラスとなった遙佳だったが、見てしまった
中学に入って直ぐに仲良くなった友達、間咲ののかが二人と一緒に楽しそうにしている所を
二人といるののちゃんは楽しそうだった
前田君はののちゃんに振り回されていて、野井君はそれを苦笑しながら見ている
(やめて)
気がつけば、遙佳は体育館の裏にいた
友達である間咲ののかが居た位置、其処は嘗て遙佳が居た位置でもあった
別にののかに居場所を取られた。等と言うつもりは無いし、その資格もない
でもあの光景を見た遙佳は人目が無ければ泣いていただろう
「う、ううっ」
苦しい、辛い、悲しい、嫌だ
様々な感情の波が遙佳を襲う
『ソコ(二人の隣)は私の居場所だった!』
遙佳がもう少し幼ければ、或いは感情的だったならこの言葉が口から出ていただろう
「痛いよ、寂しいよぉ」
人知れず遙佳の弱々しい声が響いた
結局その日、遙佳は保健室で残りの一日を終えた
やはり、新見さんルートであれば、このイベントは必須と思います
少しばかし掘り下げましたが
とりあえず、完結はさせるので気長に御待ちいただけたら有り難いです
気が向いたら感想下さると嬉しいです