7月2日に誕生日を迎える、アルレイヤ・ルフォンさんを題材に書きました。


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プリンセスと平民(アルフレ)と担々麺

平和な国、タンタン王国。

そこから少し離れた小さな村に俺は住んでいる。

国民同士は仲が良く、争いはさほど起こらない。

俺が住んでる村では、坦々麺を作る為に必要な小麦粉、小麦を作っている。

何気に評判が良く、坦々麺以外の麺類にも適している。

今日も午前の農作業が終わり昼食を作る、作るのはこの国の名産でもある坦々麺、俺の好物でもある。

坦々麺は頑張った自分へのご褒美も兼ねて作る事が多い、今日は1週間後に納品する為の最後の手入れをしていた。

 

 

「さて、そろそろだな」

 

 

湯切りをし、スープに麺を絡ませる。

今日は少し辛めのスープだ、もやしと味付け卵をトッピングして完成。

 

 

「我ながら良い出来だ…では」

 

 

俺は手を合わせ、呟く…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いただきま「いただきまーす!」す…」

 

 

突然ドアが開かれ、赤髪の女性が俺の坦々麺を貪るように食べ始めた。

俺の…昼飯なんだが…

 

 

「ん〜!坦々麺美味しいのだ!」

 

「それ…俺のなんだけど?アル」

 

 

アルと呼ばれるその女性は、3年前小麦畑で倒れていたところを俺が助けた。

彼女曰く、坦々麺を食べ歩いていたらこの村に迷ったらしく、お腹が減って倒れていたとの事、毎日必ず1食は坦々麺を食べないと気が済まないらしい。

 

 

「ごちそうさま!何だろう、貴方が作る坦々麺が1番美味しい気がするのだ。

お店とか出さないの?」

 

「まず勝手に人の飯を食べた事の詫びが先だと思うんだが…?」

 

「あ、それはごめんなさい…坦々麺があったからつい…」

 

 

こいつは自制心が無いのか…?

まぁまだ材料はあるからすぐ作れるし構わないけど。

 

 

「はぁ、まったく…んで?今日は何しに来たんだよ?」

 

「ちょっと貴方に会いたくなっちゃって、そしたら坦々麺が目の前にあったから、えへへ…」

 

 

ほんと坦々麺に目が無いのな…

というか会いたくなったから来たとか、嬉しい事言ってくれるじゃないか。

内心俺も嬉しいよ。

 

 

「はいはい、そうですか。

んじゃその器水に浸しておいてくれ、お帰りはあちらよ」

 

 

完成した坦々麺を食べながら、アルを帰らせようとする。

反応がツンデレっぽい?勝手に言ってくれ。

 

 

「むぅ、いーやーなーのーだー!もっと構って欲しいのだー!」

 

「駄々っ子かよ…あーもうちょっと待ってろ、これ食べて畑少し見たら時間作るから」

 

「食べさせてあげたら早く食べ終わる?」

 

「うっせぇ!良いから黙って待ってろ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は、アルに淡い恋心を抱いている。

倒れているところを助けてから、たまに坦々麺を食いにくるだけの関係。

でも、アルは俺の作った坦々麺を本当に美味そうに食ってくれる。

そんな幸せな顔を見るのが好きなんだ。

いつの間にかその笑顔に惚れていたんだ。

 

 

 

 

 

「…よし、大丈夫そうだな」

 

 

害虫も特に付いておらず、鳥避けの調整も済んだ。

これで今日の仕事は終わりだ。

 

 

「終わった?」

 

「あぁ、終わったよ」

 

 

終わったと伝えると、アルは待ってましたと言わんばかりに飛びついてきた。

 

 

「やった!じゃあ早く行こ?」

 

「だ、抱き着くな!てか、何処に行くんだよ?城下町とかか?」

 

「んー…城下町はちょっと…何処かおすすめの場所とか無い?」

 

「ここら辺田舎だぞ…?あるといっても川ぐらいしか」

 

「じゃあ川!川に行こう!」

 

 

俺とアルは川へ向かった、時期も時期な為川の水の冷たさが心地良い。

家の水道の水で作る坦々麺も美味いが、この川の水で作る坦々麺はより美味い。この川の水は綺麗で無駄なものが入っていない。

俺は持ってきた水筒に水を入れる、アルはどうしてるかと言うと靴を脱ぎ水をバシャバシャと遊んでいた。

 

 

「おーい!貴方もこっち来て遊ぼ?」

 

「…前々から思ってたけど、お前って妙に子供っぽいよな。

歳聞いた事無かったけど実際何歳なんだ?」

 

 

この質問は恐らく地雷だったかもしれない、アルはどんどん顔を赤くしながら詰め寄ってきた。

 

 

「女性に年齢を聞くのはマナー違反なんだよ!」

 

「そういうもんなのか?」

 

 

女性の気持ちは分からない。

 

 

30分ほどだろうか、アルは水遊びに疲れたのか隣に座ってきた。

 

 

「はぁ、遊んだ遊んだ!」

 

「楽しめたか?」

 

「うん!」

 

 

帰路、アルがぽつりと呟いた。

 

 

「わたしさ、これから忙しくなってもう来れないかもなんだ。

来れたとしても後1回くらい…かな」

 

「そうか」

 

「うん…」

 

 

しんみりした雰囲気のまま俺の自宅に着いた。

 

 

「もう帰るのか?」

 

「あんまり遅くなると怒られちゃうから」

 

「送るか?」

 

「ううん、大丈夫!じゃあまたね!」

 

 

アルは手を振りながら走り去って行った、多少の心配はあったがあいつの事だから大丈夫だろうと思った。

自宅に入ると机にハンカチが落ちていた、ハンカチには刺繍が入っており、その刺繍に俺は驚く事になる。

 

 

「…何で王家のマークが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから3日後、唐突にお披露目会が開かれる事になった。

何のお披露目か、それは国王の娘のお披露目だそうだ。

今の今まで何故隠していたのか分からないが、王家曰く時期が来たとか。

突然の事だった為、お披露目会はテレビ中継で行われるそうだ。

 

 

「いくら何でも唐突だなおい、事前に周知させてマスコミとか集めるだろ普通」

 

 

愚痴を零しながらテレビを点け、お茶を啜る。

程なくしてお披露目会が開かれた。

最初は国王の挨拶から、テレビ中継とはいえ中々の長さだった。

そして次は国王の娘本人が登場する、その姿に俺は驚きを隠せなかった。

 

 

 

 

 

国王の娘は、アルだったのだ。

 

 

 

 

 

「ごきげんようなのだ!私は、タンタン国王の娘、アルレイヤ・ルフォンなのだ!」

 

「な、何で…アルが…?

このハンカチ、やっぱりそうだったのか…?」

 

 

その後の中継から入ってくる音声は、俺の耳には届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

納品前日

お披露目会から今日まで、俺は心ここに在らず状態だった。

隠していたとはいえ一国の姫に坦々麺を食わせたり、一緒に出掛けたりしていたのだ、恐れ多い。

でも不思議とアルの事が好きという気持ちは消えなかった。

アルが姫と分かって、諦めがつくのかと思ったが真逆、余計に好きになっていた。

アルはあまり姫っぽさは無い、無邪気で子供っぽいという印象だ。

それでいて笑顔がかわいい、あの笑顔をずっと見ていたい、守りたいと思える程に。

明日は小麦の納品、もしかしたらアルに会えるのではないかと淡い期待を持ちながら俺は眠りにつく…

 

 

 

 

 

タンタン城執務室

「姫様、本日の国務もお疲れ様でございます。

疲れ等はありませぬか?」

 

「爺や…国務って疲れるね」

 

 

お披露目会が終わった後、私は父と一緒に国務をこなすようになった。

割合的にもわたしには少量のはずだけど、それでも1日1日の疲労度は凄まじい。

自由に出歩けていた頃が既に懐かしく感じてしまっていた。

 

 

「姫様、あまり根詰めないようにですぞ、辛いのでしたら陛下に爺やから伝えますが…」

 

「ううん、大丈夫。

爺やも遅くまでありがとうね、もう休んで?」

 

 

時刻は既に深夜2時、爺やの肉体的にも精神的にも限界を超えていた。

 

 

「私の事はお気になさらず、姫様の御身が心配でございますから。

それに明日は国民の作物納品の日、早めに寝ませぬと…」

 

「うん…」

 

「ささ、姫様」

 

「ねえ爺や、明日の作物納品、わたしも参加して良いかな…」

 

「姫様…?」

 

 

わたし自身何でそんな事を言ったのか分からなかった、でも…あの人に会いたいという想いが強かったのかもしれない。

 

 

「左様ですか、では陛下にそのように」

 

「うん、ごめんね」

 

 

ねぇ…今貴方は何を思ってるの?

私と同じ気持ち…だったら嬉しいな…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌日

俺は収穫した小麦を纏めて城へ向かう、ここから城までは1時間程度、馬車を使って40分くらいだろうか。

 

 

「アル…」

 

 

予定通りの時間に城に着く、全国民が集まる日なので密集が凄い。

密集が嫌だから朝早く来る民も居るそうだ。

流石に年配の民は衛兵が出向くらしいが…

 

 

城に到着してから小麦を納めるまで5時間かかった。

今年は例年より進行が遅い、理由は…納品の場にアルが居たからだ。

国民との触れ合いも兼ねてだろうか?

1人1人握手をし、納品の確認が終わるまで多少の世間話等々なのだが、一部確認が終わってもその場から離れない国民も居た。

そのせいで時間がかかってしまった。

俺の番になった時、アルは一瞬顔が固まったようにも見えた。

だが周りの目もある為、すぐに元に戻って世間話を始めた。

 

 

アルは他人行儀だった、家で話していたような雰囲気は無く、王家のような立ち振る舞いだった。

まぁ、実際王家なのだから当たり前なのだろうが。

 

 

「よし、確認が終わった。

納品感謝する、気を付けて帰られよ」

 

「あ、はい、では姫様、自分はこれで」

 

「あ、あの!」

 

 

納品が終わり帰ろうとするとアルに呼び止められる。

 

 

「何か?」

 

「あ、その…また、なのだ」

 

 

俺は軽く会釈をしてその場を後にした。

 

 

 

 

 

その後帰宅した俺は何もやる事が起きず、そのまま眠りについた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

タンタン城

 

今日は皆と触れ合えた、質問攻めにあったり変な人も居たけど、大体の人達は良い人達ばっかりだった。

そして…あの人にも会えた。

でもまともに話せなかった、あの人の家で話してたような喋り方が出来なかった。

私、どうしちゃったんだろう…あの人が去ろうとした時、胸が急に苦しかった。

こんな事初めてだ、でも相談出来る相手は…

 

 

「姫様、どうされましたか?」

 

「爺や…」

 

「そろそろお休みになられませんと、明日に響きますぞ?」

 

「うん、そうなんだけどね…」

 

 

爺やに相談して良いのかどうか分からない、あくまで爺やはお父様の召使い、私の召使いという訳では無い。

ただ職務上私の事も見てくれているだけに過ぎない。

 

 

「もしや、昼間の作物納品で何か?」

 

「っ!」

 

「そのご様子、思い当たる節があるのですな」

 

「…」

 

「本来なら止める立場ではあります、ですがな姫様、思い立ったが吉日という言葉があります。

やらないで後悔するより、やって後悔した方が得る物があると爺やは思っておりますぞ」

 

「爺や…」

 

 

私は何も言ってない、言おうとしたけど躊躇った、それなのに爺やは応援してくれる。

 

 

「ただし、姫様お1人では流石に不安なのでその時は私めも同行致しますぞ、それくらいはしなければ」

 

「うん、じゃあ今から行く!」

 

「今からですか…?明日の方が良いのでは」

 

「今!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

夜中2時、目が覚める。

食事もせずそのまま寝てしまった為か空腹が酷い。

 

 

「…作るか、担々麺」

 

 

夜中に食事をすると良くないとは聞くが、また寝ようにも寝れない。

これは仕方ないのだ。

 

 

「こうやって担々麺を作って、食べようとするといつもアルが扉を開けて勝手に食べたな。

まぁ、こんなに遅い時間だと流石にそれは無いが」

 

 

担々麺が完成し、盛り付ける。

今回はゴマの風味強めで汁無しだ。

 

 

「さ、食べよう」

 

 

担々麺を見るだけでアルを思い出すくらいには、あいつは俺の担々麺を食べている。

まぁ、食われているという表現が正しいかもだが。

 

 

「いただきます」

 

 

 

 

 

1口目を食べる、普段なら邪魔されるはずなのにそれが無いというのは妙に不思議な感覚だった。

半分程食べ進めていると、外から物音が聞こえた。

 

 

「…様、流石に…は?」

「大…反…が無…から」

 

「…誰だ?」

 

 

夜中に誰かが訪ねてくるなんてこの田舎じゃまず有り得ない、盗賊の可能性も否定出来なかった。

俺は鍋のふたと麺棒で迎え撃つ準備をしながら扉を開けた。

 

 

「あっ…こ、こんばんは…なのだ」

 

「ア、アル!?いや…アルレイヤ姫…どうしてこんな所へ?しかもこんな時間に」

 

「申し訳ありませぬ、明日にした方が良いと言ったのですが…」

 

 

アルは俯き、痩せ細った老人が謝罪をしてきた。

 

 

「…とりあえずアレなんで、どうぞ」

 

「かたじけない」

 

 

 

 

 

「それで、どうしてこんな所へ?」

 

「…貴方に会いたかった、のだ」

 

「アルレイヤ姫、ただの国民の1人に会いに来るっていうのは色々と不味いのでは?」

 

「…」

 

 

アルはそのまま黙り込んでしまう、隣に居る老人もただ黙って出した茶を飲むだけだった。

その後10分間は無言が続いた、俺も困ったが老人も困り果てていた。

 

 

「姫様、席を外しますか?」

 

「…」コクリ

 

「ではそのように、申し訳ありませぬがよろしくお願い致しまする」

 

「え、ちょっと待っ」

 

 

この状況で普通俺達を2人にするだろうか?

後日改めて来るとかなら分かるのだが。

 

 

「…」

 

「はぁ…そろそろ口を開いてくれませんか?

夜は遅いし、話せないならまた別の日でも」

 

「ダメ」

 

「ダメじゃないでしょう、まぁ貴女が姫というのは驚きましたけど」

 

「その喋り方イヤ」

 

「…あのなぁ」

 

 

まともに話せずラチが開かない、俺も痺れを切らしてきた。

眠れないとはいえ眠気はある、担々麺を食べたらすぐ寝るつもりだった。

 

 

「もう今日は帰れ、また後で来いよアル」

 

「イヤ!」

 

「何でだよ!」

 

「もう来れるのが今日しか無かったから、だよ。

後来れるのが1回くらいって…言ったじゃん」

 

「アル…」

 

 

その言葉で俺は黙る。

そうだ、アルはこのタンタン王国の姫、身分も違う。

本来ならここに来る事自体が異常なのだ、少し冷静になった。

 

 

「すまん、アル。

来てくれたのは嬉しかった、でも「ギュルルル」…担々麺、食うか?」

 

「…うん」

 

 

1度外に出た老人も呼び、2人に担々麺を振る舞う。

食事が終わると老人はまた外に出たが。

 

 

「ごちそうさま、なのだ」

 

「あいよ」

 

「やっぱり、貴方の作る担々麺、美味しいね」

 

「そりゃどうも、少しは落ち着いたか?」

 

「うん」

 

 

落ち着いたアルは、少しずつ話してきた。

アルが姫だった事、何故今日来たのか、そして、これからの事。

姫だった事は驚いた、初めて会った時はただ担々麺が好きな行き倒れなくらいしか思わなかったから。

ただ隠してた訳では無いという、言うタイミングが無かったと。

俺としてはアルが姫だろうが何だろうが関係無く、好きだが。

 

 

今日来た理由、それは時間が無くなるから、らしい。

当たり前だ、アルは姫、国務をこなす上で時間が無くなるのは必然。

自由な時間が無くなるだろう。

俺のとこに来たのも約束したから、だそうだ。

 

 

これからの事、さっきも言ったが時間が無くなるし、立場もある。

おいそれと外出は出来ない。

ましてや1人の国民に特別会いに行くなんて、許されることではない。

簡単に言えば、別れを言いに来た感じだろうか。

 

 

 

 

 

「…ごめんね」

 

「何で謝るんだよ、別にアルは悪くないだろ」

 

「それでも、隠し事してたのは事実だから」

 

「何も全部が全部話さなきゃいけないってのは無いだろ?人間1つや2つの隠し事なんてあるもんだ」

 

 

俺だって、アルに対しての気持ちをずっと隠してる。

3年前から、ずっと…

 

 

「でも…」

 

「でもも何も無い、良いな?」

 

「うん」

 

 

それからアルと他愛無い会話を楽しんだ。

夜中だからあまり声を大きくは出来ないが、こそこそ話すのは内緒話をしてるようにも思えた。

普段のアルは元気がある声で、気分が落ち込んでいる時も元気になれる。

だが今の声は優しい声で、普段の声が元気が出るなら、こっちは逆に気持ちが落ち着く。

安心すると言った方が正しいかもしれない。

 

 

「やっぱり貴方と一緒に居ると楽しいね、何時までも喋ってられる」

 

「そうか、でも時間は…もう4時か、元々遅かったがもうそろそろだな」

 

「うん、そう…だね」

 

「んじゃ、外に居る爺さん呼んでくるか」

 

 

席を立ちドアを開けようとする、だがそこから先へは進めなかった。

アルが俺の服の裾を引っ張っていた。

 

 

「アル?」

 

「やっぱり嫌だよ…」

 

「アル、お前…」

 

「もっと貴方と一緒に居たいよ!ずっとずっと一緒に居たいよ!だって…だって…!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「貴方が好きだから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺は言葉を失った、俺だってアルの事好きなのに、アルも俺の事を好きだったから。

アルはずっと、泣いていた。

想いを告げてからずっと、泣いていた。

 

 

「バッ…お前自分が何言ってるか分かってるのか!?

お前は一国の姫で、俺はド田舎のただの平民みたいなもんなんだぞ?

言葉を気を付けろよ…」

 

「ただのじゃないもん、アルフレだもん」

 

「アルフレ…?」

 

「そう、国民は皆アルフレ、アルレイヤフレンド。

皆友達だもん」

 

「アルフレな、じゃあそのアルフレなんだから俺とお前じゃ釣り合わないし、お前ならどこかの国の王子と結婚とかも出来るだろ?」

 

 

俺自身何言ってるか分からなくなってるが、とりあえずは泣き止んで欲しかった。

 

 

「ほら、もう泣くのは止めろって、良い子だから、な?」

 

「ひっ…ぐっ…うぅ」

 

 

泣いてるアルに胸を貸し、頭を撫でる。

 

 

「貴方がお城の料理人になってくれたら良いのに」

 

「流石に無理だろそれは、ああいうとこって一流の料理人とかがなれるイメージなんだけど」

 

「…」

 

 

アルは泣き止んでくれた、だが今度はこちらをずっとジト目で睨んできた。

俺は悪くない、本当の事を言ってるだけ。

 

 

「いきなり料理人として雇う事は無理ですぞ」

 

「あ、爺さん…ずっと外で寒くなかったか?

まぁ普通は無理だろうな」

 

「えぇ、私めの事はお気になさらずに。

ですがこの状況はあまり直視したくはありませぬな」

 

 

この状況…

アルを抱いて頭を撫でている、確かに不味いな。

うん、普通に不味い、打首か…?

 

 

「爺やは黙ってて!

これは私とこの人の問題なの!」

 

 

あのアルレイヤさん…そんな言い方すると余計にアレなんですが。

 

 

「外に居ても会話は丸聞こえですから大丈夫ですぞ、それにここまで感情を出してるのは初めてですからな。

まぁ…ここから話すのは爺やのただの独り言ですが、城の料理人が1人定年退職するらしく、料理人を1人探しているそうです。

ただ有名な料理人ばかり集めるのも国民の食の楽しみを奪う事になる、という判断から一般で今回募集する事になるそうですぞ。

つまりは…もうお分かりですかな?」

 

「それって」

 

 

爺さんの方に向けていた顔を正面にいきなり戻される、アルの両手が俺の頬を掴んでいた。

 

 

「お、おいアル…?」

 

「私は貴方と一緒に居たい、どんな形でも一緒に居たい。

貴方が好きだから、ずっと一緒に居たいから。だからお願い」

 

 

アルの目は真剣だった。

 

 

「なぁ爺さん、仮にだ、仮に俺がその料理人になれたとして、ここにある小麦畑はどうなる?」

 

「管理方法を教えて貰えれば維持くらいなら」

 

「…そうか」

 

 

俺の腹は決まったらしい、元々なる気は無かった。

ただひっそりと過ごしていたかった、それをアルとの出会いが変えた。

アルに坦々麺を食わせたあの時から、俺のつまらない人生が変わったんだ。

俺も、アルと一緒に居たい、ずっと一緒に居たい。

想いを伝える事が出来なくても、傍で見守りたい。

 

 

「決めたよ、俺。

一般募集、受けるよ」

 

「ほんと?」

 

「あぁ、本当だ」

 

「ふむ、ではまたその会場で会う事になるかもですな」

 

 

爺さんはそう言い残しまた部屋から出て行った。

 

 

「アル」

 

「何?」

 

「…そろそろ離れていいか?恥ずかしい」

 

「あっ…う、うん、そうだね!

もっと撫でてくれても良かったんだけど…」ボソリ

 

 

忘れていたが爺さんが部屋に入ってからずっとアルを抱いていた、胸の高鳴りが止まらなかった。

ふと時計を見るともう6時、朝だ。

 

 

「もう朝だな」

 

「うん」

 

「そろそろ帰らないと本気で不味いだろ」

 

「うん」

 

「今日からまた国務、頑張れそうか?」

 

「…うん」

 

 

国務の事になると、やはり弱気になるようだ。

だが俺にはそれをどうする事も出来ない、アルが頑張るしか無いのだ。

 

 

「まぁ、頑張ってとしか言えないな、俺は。

ほら、もう帰らないと」

 

「うん…」

 

 

アルは帰り支度をし、ドアの前まで来る。

ドアを開ければ爺さんと一緒に帰れるのだが、開ける気配が無い。

 

 

「アル?どうした?」

 

「あの、さ…今日私が好きって言った事、忘れないでね?」

 

「あ、あぁ、忘れないよ」

 

「絶対だよ?」

 

「大丈夫だ、忘れないよ、アルが俺の事を好きって事、絶対忘れないから」

 

 

料理人になれば話は別だが、もしなれなかった場合これが最後になる。

だからなのか、かなり念入りだった。

 

 

「…不安だから、本当に忘れないようにしておくね」

 

「?お前何言って」

 

 

アルは突然俺の胸に飛び込んだと思いきや、俺の首に腕を回し唇に柔らかい感触が伝わった。

それをキスと気付いた時にはアルはもう離れていた。

 

 

「こ、これで絶対、忘れないよね?」

 

「あ、あぁ…でもお前」

 

「言わないで!」

 

「…」

 

 

アルの顔は真っ赤になっていた、俺の顔も熱い。

アルとしても、かなり思い切って行動したのだろう。

 

 

「じゃあ、ね」

 

「あ、あぁ」

 

「絶対、料理人になってね」

 

「頑張るよ」

 

「大好きだよ」

 

 

 

 

 

俺も大好きだ

 

 

 

 

 

そう言いたかった、でも、その言葉は発する事が出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰路

「姫様、これで良かったのですかな?」

 

「うん、ごめんね爺や、こんな時間まで」

 

「私めは大丈夫ですぞ、ですが姫様の方が心配でございます。

今日も国務がありますに…」

 

「大丈夫、だけどちょっとだけ…寝たいかな…」

 

 

そのまま姫様は眠りについた。

無理も無い、国務続きで作物納品の場にまで出席、数多くの国民とも触れ合った。

慣れない事をすると疲労が溜まりやすい、今姫様はその疲労がピークにきてしまったのだろう。

 

 

「おやすみなさいませ、姫様。

午前の国務は何とか調整しますゆえ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

アルが帰ってからも心臓の鼓動の高鳴りは止まらなかった。

唇の感触も残ったまま、結局想いを伝えずじまいだったが。

 

 

「さて、料理の研究でもするかな…約束、守らないとだしな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「新入り、今日はお前に任せるぞ」

 

「分かりました、頑張ります」

 

 

俺は一般募集で城の料理人になった。

俺が料理人になったのはアルはきっと知らないだろう。

その場にアルは居なかったから。

倍率はやはり高かった、だけどアルと約束したから。

料理人になったといっても最初はやはり食材運びや下準備、ロクに料理は作れなかった。

今日は俺の初の担当、昼食を作る。

作るのは俺の最も得意な坦々麺、彼女が好きな料理でもある。

 

 

「姫様、食事の時間です」

 

 

彼女の手元に料理が運ばれる、その料理を口に一口運ぶ。

彼女は口元を緩めた、そして1粒の涙を流した。

 

 

「約束、守ってくれたんだ…大好きだよ」

 

 

彼女の呟きは誰にも聞こえないくらい小さかった。



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