現代の高校生達は、大正で鬼狩りをする ~召喚鬼滅譚~ 作:籠城型・最果丸
定員は九席だったが、鳴柱、水柱補佐の一人、花柱による要請により定員が三席増えた。
条件
・階級が甲であること→変化なし
・十二鬼月もしくは鬼五十体を倒す→柱の助力無しで十二鬼月を撃破もしくは鬼二百体を倒す
・追加条件として、柱全員および産屋敷家当主の了承を得ること、呼吸の極みに達していること
柱一覧(柱合裁判時)
炎柱 煉獄杏寿郎
音柱 宇髄天元
恋柱 甘露寺蜜璃
岩柱 悲鳴嶼行冥
霞柱 時任無一郎
蛇柱 伊黒小芭内
水柱 冨岡義勇(補佐として鱗滝錆兎、鱗滝真菰、滝沢膵花)
蟲柱 胡蝶しのぶ
風柱 不死川実弥
鳴柱 辻風来
花柱 胡蝶カナエ
光柱 天之河光輝
第漆話 少年は無能にあらず ~南雲ハジメ編~
遂にこの日が来た。僕と坂上くんは煉獄さんに背中を押され、共にこの藤襲山にやって来た。
「絶対生き残る」
「最終選別突破して、早く光輝に無事を知らせたい!」
最終選別。この山で行われる鬼殺隊の選抜試験。ここで僕達は篩に掛けられる。
「すっげぇ……花が咲いてる……」
藤襲山には、麓から中腹にかけて咲く時期でもないのに藤の花が咲いていた。
山を中腹まで登り、開けた場所に出ると、そこには三十人以上の人達がいた。
そしてしばらく待っていると、中央に立っている二人の少女のうち、白髪の子が口を開いた。
「皆さま、今宵は最終選別にお集まりくださって、ありがとうございます。この藤襲山には、鬼殺の剣士様方が生け捕りにした鬼が閉じ込めており、外に出ることはできません」
そして黒髪の子も続けて言葉を紡いだ。
「山の麓から中腹にかけて、鬼共の嫌う藤の花が、一年中狂い咲いているからでございます」
成程、あの藤の花は最終選別用の鬼を閉じ込めておくための檻だったのか。
「しかし、ここから先には、藤の花は咲いておりませんから、鬼共がいます」
「この中で七日間生き抜く、それが、最終選別の合格条件でございます」
七日も藤の花の牢獄に鬼と一緒に閉じ込められるのか……鍛錬もそうだったけど、最終選別もかなりハードだな。
「「では、行ってらっしゃいませ」」
その言葉を合図に、僕達は藤の花の咲いていない、鬼の巣窟へと足を踏み入れた。
坂上くんと別れ、僕は一人で山を歩いていた。すると早速、鬼らしき声がした。
「丁度いいガキだな。喰い尽くしてやるぜぇ!!」
数は一匹、近くに鬼の気配はなさそうだった。僕目掛けて一直線に正面から駆けてくる。
大丈夫だ南雲ハジメ、僕には煉獄さんから教わった炎の呼吸があるじゃないか。
「炎の呼吸 壱ノ型」
一度足を止め、力強く右足を踏み込む。間合いを一瞬で詰め、両手でしっかりと握った刀で袈裟斬りにする。
「不知火」
鬼の頸はあっさりと落ちた。
「よし、次の鬼を倒そう」
最初の一体を片付けた僕は別の鬼を探すべく、夜の山を歩いた。
この山にはかなりの数の鬼がいるようで、ちょっと歩いただけで鬼が数体纏まって出てきた。
「グオオオオオ!」
「ガアアアアア!」
「オオオオオ!!」
数は三体、さっきの鬼よりも知性は低いようだ。
「炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり」
渦状の炎が鬼を包み込み、その頸を斬り落とした。
炎の呼吸、それはいくつもある流派の中で最も古い呼吸の一つだ。他にも水の呼吸や雷の呼吸、風の呼吸や岩の呼吸なんてものもある。
この炎の呼吸には、ある一つの掟があった。
『「炎の呼吸」を「火の呼吸」と呼んではならない』
『何故炎の呼吸を火の呼吸と言ってはならないのでしょうか?』
『理由は俺も知らん! だが炎の呼吸の使い手に古くから伝わる掟だ! お前達もそれを守って欲しい!』
僕や坂上くんはおろか、煉獄さ…杏寿郎さんも詳しくは知らないのだそう。その辺りは杏寿郎さんの父親の槇寿郎さんに聞いてみようと思ったのだが、突っ撥ねられた。
しばらく歩いていると、後ろからドスドスと足音が聞こえてきた。
「…突…進! 猪突猛進! 猪突猛進!!」
「うわっ!?」
後ろから突然
「な、何だったんだ一体……」
「うわァァァ!!」
その直後に男の叫び声が聞こえた。僕は急いで声のした方向に向かうと、一人の少年が向こうを向いて怯えていた。
「何で大型の異形がいるんだよ! 聞いてない! こんなの!」
地響きと共に木々の間から姿を現したのは、人の頸を握りつぶしている、手が無数に生えた大型の鬼だった。特に頸の周りが一番囲まれてる。この鬼からは何か執念を感じる。
立ったまま様子を見ていると、鬼は右腕を逃げている少年に向かって伸ばした。成す術もなくあっさりと掴まってしまった。
何で足が動かないんだ、動け、動けよ。お前はもう無能じゃないだろ、南雲ハジメ!
恐怖で強張ってしまった足を何とか動かそうとしたその時、少年の脚を掴んでいた腕が水の輪に斬り落とされた。斬ったのは額に傷が付いている赤黒い髪の少年だった。直ぐに動けなかった僕なんかよりもずっと立派だった。
「また来たな。俺の可愛い狐が」
狐?確かにその少年は狐の面を付けている。過去にも彼と同じように面を付けた人が最終選別を受けたのだろうか。
「狐小僧、今は明治何年だ?」
風景から明治か大正だと思ったから当たっているようなものだった。
「!? ……今は、大正時代だ」
「大正……? ……アァアアア!! 年号がァ!! 年号が変わっているゥ!! まただ!! また俺がこんな所に閉じ込められている間に、アァアアァ!! 許さん許さん!! 許さんんん!! 鱗滝め! 鱗滝め!! 鱗滝め!!! 鱗滝めェ!!!!」
どうやらこの鬼は鱗滝、という人物にここへ追いやられたようだ。
「どうして鱗滝さんを……」
「知ってるさァ!! 俺を捕まえたのは鱗滝だからなァ! 忘れもしない四七年前、アイツがまだ鬼狩りをしていた頃だ。江戸時代、慶応の頃だった」
慶応……江戸時代最後の年号だ。そんなに長く生きている鬼はここには入れられていないはず。ここには多くても人を二、三人しか食べてない鬼しか入れていない。選別で斬られるのと、鬼の共喰いをする性質で長くは生きられない。少年の方も同じことを言っていた。
「でも俺はずっと生き残ってる。藤の花の牢獄で、五十人は喰ったなぁガキ共を」
それが本当なら、多分この鬼は、この山で一番強い鬼だ。鬼の強さは基本的に人を喰った数だと教わった。
「九…十…十一。で、お前で十二だ」
「!? 何の話だ」
「俺が喰った鱗滝の弟子の数だよ。アイツの弟子はみんな殺してやるって決めてるんだ。邪魔が入って喰い損ねたガキもいたがなァ。三人だな。あの三人」
可哀想なことに、鱗滝さんの弟子はこの鬼にほぼ全員殺されてしまっているらしい。運良く三人は生き残ったけど。
「珍しい毛色のガキだったな。縹色の髪をした女のガキの次に強かった。宍色の髪をしてた。口に傷がある。残りの一人は花柄の着物で女のガキだった。小さいし力も無かったが、すばしっこかった」
縹色の髪の女? ……そんな髪色の人はたった一人しか知らない。
「目印なんだよ。その狐の面がな。鱗滝が彫った面の木目を俺は覚えてる。アイツがつけてた天狗の面と同じ彫り方。〝厄除の面〟とか言ったか?それをつけてるせいであの三人以外みんな喰われた。みんな俺の腹の中だ。鱗滝が殺したようなもんだ。」
面の木目なんかよく覚えてるな、とツッコみたくなったが我慢した。
「フフッ、フフフフッ、これを言った時、花柄の着物の女のガキは泣いて怒ってたなァ。フフフフッ、あの時は喰い損ねちまったが、もしあの時その女のガキだけだったら、その後すぐ動きがガタガタになっただろうなァ。フフフフフフフッ。手足を引き千切って、それから……」
捻じ曲がった趣味の鬼だ。関係のない僕でもイラつかせるのには十分だ。僕が動こうとした瞬間、赤黒い髪の少年が先に動いた。激しい動きになっているから相当怒りに苛まれているようだ。
幾本の腕を滅多切りにし、頸へ刃を振るおうとしたが、鬼はその隙を突いて少年の脇腹を殴り飛ばした。吹き飛ばされた少年は木に激突し、失神してしまった。傍では、狐面の欠片が散らばっている。
だが、当たり前なのかもしれないけど、鬼は非情にも気絶してる少年に向かって沢山の手を伸ばした。
(不味い、このままでは彼が殺られてしまう……!)
何時の間にか僕は動いていた。目の前で人を死なせたくない、その思い一心だった。
「炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天」
刀を上に振り上げ、鬼の腕を纏めて斬り落とした。それと同時に少年も飛び起きる。
「何だァ? お前」
鬼が僕に向かって話しかけてきた。
「……目の前で人を死なせるわけにはいかない。今からお前を斬る」
「そうか……俺の邪魔をするってんなら、あのガキを殺した後、お前も喰ってやるよ」
鬼のターゲットが僕に変わった。迫り来る手を滅多切りにしていると、先程の少年が叫んだ。
「その場から直ぐに離れろ! 土から変な匂いがする!!」
言われた通りにその場から飛び退くと、地面から複数の腕が突き出してきた。あの少年がいなかったら、僕は死んでいた。
「チッ、あの狐小僧……何処までも忌々しいなァ……このガキは後回しだ。まずはあのガキからだ……」
再びターゲットがあの少年に変わる。僕にやった時と同じように地面から複数の腕を突き出す。だけど、少年に躱された。
鬼は宙を舞う少年に向かって太い腕を突き出した。今度こそ殺られる……!
鬼があの少年に気を取られている隙に、僕は鬼の背後に回る。体が大きい分、近くのものには気づきにくい。
鬼の真後ろに立つと、僕は高く飛び上がった。空中だと炎の呼吸は使い辛いけど、使えないわけじゃない。刀を大きく後ろに引く。
「炎の呼吸 壱ノ…」
炎を纏った刀身で袈裟斬りにしようとしたところで、鬼の頸は水を纏ったもう一つの刀身に斬り落とされた。
この少年は水の呼吸の使い手だ。僕の使う炎の呼吸と同じく最も古い呼吸の一つだ。
少年は斬り落とされた鬼の頸の方を向いた。一体どんな顔をしてるのかな。彼は再び崩れゆく鬼の体の方に向いた。
少年の顔を見て僕は驚いた。少年は、鬼に対して悲しそうな目を向けていた。そして同じ目つきで鬼の手を握った。
何なんだ、この少年は。見ているこっちまで悲しくなってきた。僕も鬼の手に向けて手を伸ばそうとすると、残った鬼の体はすっかり灰燼に帰してしまった。頸の方を見ると、涙を流していた。
せめて、この鬼が今度生まれてくる時は、鬼になんてなりませんように。僕はそう祈るしかなかった。
さっきの鬼がきっかけで、僕の中の鬼のイメージががらりと変わっていった。今の僕にとって、鬼とは醜い生き物なんかじゃない、哀れな生き物だ。人の血肉を喰らわねばならない体になって、陽の光を浴びれば跡形もなく燃え尽きてしまう。
僕は、必ず鬼の親玉の頸に刃を振るえるような、そんな剣士になると月輪に誓った。
心を痛めたまま、しばらくふらふらと歩いていると、近くで鬼の気配がした。
「へっへっへっ、この山に女が迷い込んでいたとはなぁ。肉付きも悪くない。どうすんだぁ? お前の刀は俺が持ってる。丸腰の女が、鬼に勝てるわけないだろぉ?」
気配がする方向に向かうと、一匹の鬼が僕と同い年の少女を喰おうとしていた。地面から生えている触手みたいなのが持っている日輪刀は、恐らく彼女のものだろう。
「安心しなぁ。骨も残さず綺麗に喰ってやるからよぉ」
人を目の前で死なせるな。杏寿郎さんにもそう言われた。
「炎の呼吸 肆ノ型 盛炎のうねり」
炎を纏う刀身で、鬼の体を大きく抉る。
「ちっ、邪魔しやがってぇ」
「僕はただ、目の前で人を死なせたくないだけだ。だからお前を斬る」
「そうかぁ、じゃあその前にお前を喰ってやるよぉ!」
鬼が僕に飛び掛かる。この鬼も最初の鬼と大差なかった。……地面の触手を除けば。
「炎の呼吸 伍ノ型 炎虎」
だがそれも炎の呼吸の前では紙同然。刀身を包み込む炎が、まるで猛虎のように鬼に襲い掛かる。鬼は触手ごと斬り刻まれた。
「大丈夫? 怪我はない……!?」
遠くからだったのではっきりとは見えなかったが、改めて近くで見てみると、どこか見覚えがあった。少女の方も、僕を見てぽろぽろと大粒の涙を流している。
この少女、僕は知っていた。元居た日本では毎日のように僕に構っていた女子生徒だった。しかも膵花さんに負けないくらいの美少女だ。
「し、白崎……さん?」
「ハジメくん!!」
盛大に泣きじゃくりながら僕に抱きついた少女、白崎さん。
「ハジメぐん……生きででくれで、ぐすっ、よがっだっ。ずっと、会えなぐて……ひっく……さびじがっだよっ……ぐすっ」
そんな彼女の長い髪を優しく撫でる僕、南雲ハジメ。
……ん? 髪を撫でてる?
何時の間にか白崎さんの髪を撫でていたことに気がつき、慌てて後ろへ下がった。
「ご…ごめん、白崎さん! 泣き止ませようと思ってつい……」
ああ、僕は何て阿保な男なんだ。髪は女の命だって膵花さんからも言われたのに……このことをあの二人に知られた暁には、僕は頸を斬られて死ぬ。
でも、白崎さんはそんなことなど気にも留めていなかった。
「ううん、ハジメくんは何も悪くないよ。この世界に来てから、ずっと貴方に会いたかったんだ」
白崎さんの頬が赤く染まる。膵花さんが来と一緒にいる時、彼女も同じ顔をしていた。
「最終選別、生き残れたら……麓で待っていてね」
「……うん、絶対に、無事に生きて帰るよ」
互いに約束を交わした僕達二人を、曙光が燦々と照らしていた……
第捌話 狭霧山に帰る弟子二人 ~谷口鈴編~
「お帰りなさいませ」
「おめでとうございます。ご無事で何よりです」
竈門っち……じゃなくてたんじろーが手だらけの鬼を倒してから七日が経った日の早朝、私、谷口鈴は他の生き残った人達と一緒に山の中腹まで戻っていた。たんじろーも無事に生き残ってる。
ここに集まった人は三十人くらいいたはずだけど、私を入れても十人にも満たなかった。
最終選別で生き残れたのは、私とたんじろー、金髪くんとモヒカンくん、蝶の髪飾りを付けてる娘、南雲っちとカオリン、シズシズ、龍っち。ちなみにクラスメイト組とは七日の間に全員出会えたよ。
私が驚いたのは参加者の三分の一しか生き残れなかったことじゃなくて、蝶の髪飾りを付けてる娘が傷一つ付いていない綺麗な姿で佇んでいたことだった。後は皆掠り傷やら服の汚れやらが付いてる。
「何か知らないけど生きてたんだけど……ここで生き残っても結局死ぬよね俺」
最終選別はゴールじゃない。鬼殺隊としてのスタートなんだ。
「で? 俺はこれからどうすりゃいい? 刀は?」
そう言えば、最終選別に合格すると、隊服と日輪刀が支給されるんだった。
「まずは隊服を支給させていただきます。体の寸法を測り、その後は階級を刻ませていただきます」
「階級は十段階ございます」
「甲」
「乙」
「丙」
「丁」
「戊」
「己」
「庚」
「辛」
「壬」
「癸」
「今現在皆様は一番下の癸でございます」
階級って十つもあるんだ。私達全員一番下なのは当然だよね。
「刀は?」
まだ早いよモヒカンくん。どんだけ刀持って戦いたいの?
「本日中に玉鋼を選んでいただき、刀が出来上がるまで十日から十五日となります。さらに今からは鎹鴉をつけさせていただきます」
そう言って白い髪の女の子が手を叩くと、生き残った人数分の鴉が飛んできた。中には雀も混ざってたけど、可愛いからいいか。
「鎹鴉は主に連絡用の鴉でございます」
へぇ~。鎹鴉って、連絡用にも使えるんだ。これならエリリンにも手紙送れるかも……
空いた時間にエリリンに手紙でも送ろうかと考えていたら、鴉が叩かれた音がした。叩いたのはモヒカンくんだ。
「どうでもいいんだよ! 鴉なんて」
モヒカンくんは癇癪を起こしてしまったようだ。白髪の娘の髪を掴み上げて怖い目つきで睨みつけた。
「刀だよ刀!! 今すぐ刀をよこせ!! 鬼殺隊の刀!! 〝色変わりの刀〟!!」
色変わりの刀? それはどういう意味だろう、と考え事をしていると、たんじろーがモヒカンくんの腕を掴んだ。
「この子から手を放せ!!」
「ああ? なんだテメェは」
「放さないなら折る!!」
(ちょっとたんじろー!? ダメだよそんなことしちゃ。モヒカンくんが可哀想だよぉ~)
「…やってみろよ」
(モヒカンくんまで何ムキになってるの!? 止めなよぉ~)
たんじろーが腕を握る力を強くすると、ミシッ、って音がした。たんじろーが手を放すと、モヒカンくんが掴まれてた腕を押さえてたんじろーを睨んでた。どうやらホントに腕折っちゃったらしい。
「お話は済みましたか?」
黒髪の娘が間に入って仲裁する。
「ではあちらから、刀を造る鋼を選んでくださいませ」
……ん? 選ぶ?
「鬼を滅殺し、己の身を護る刀の鋼は、御自身で選ぶのです」
(いや、皆一緒の色してるし……どうやって選んだらいいかわからないよぉ~。)
悩んでいたのは私だけじゃなかった。南雲っちとかカオリンとかシズシズとかも迷っていた。無傷の娘は無表情のままだったけど。
皆悩んでいると、たんじろーはもう決めたのか、数ある玉鋼のうちの一つに手を伸ばした。私も慌てて適当に決めた玉鋼に手を伸ばした。
最終選別からの帰り道、私とたんじろーはふらふらだった。たんじろーは八匹の鬼と出遭ったみたいだけど、どの鬼もまともに会話できる状態じゃなかったそう。問答無用で殺しに来てたし。
何でたんじろーは鬼殺隊に入ったのかというと、二年前まではたんじろーのお母さんと妹弟達と七人で暮らしていたのだそう。だけど或る日、たんじろーがよその家に泊まっている間にねずりん(禰豆子)以外全員鬼に殺されて、ねずりんは鬼になってしまったのだそう。私も初めてその話を聞いた時はびーびー泣いてたっけ。
私がたんじろーとねずりんと出会ったのはとあるお堂だった。そこで鬼に襲われていた私はたんじろーとねずりんに助けられた。
それはそうと、藤襲山を下り始めた頃から物凄くくたくたになって、支給服すら重く感じた。こんなんじゃもう日が暮れてしまう。
日が暮れ始めた頃、私とたんじろーはやっと鱗滝さんの家に着いた。すると、扉が乱暴に開かれ、中からねずりんが飛び出した。二年前からずっと眠っていたけど、たんじろーが帰って来たのを感じて目を覚ましたのだろうか。
「あ――――っ、禰豆子ォ、お前っ…起きたのかぁ!!」
たんじろーの声でこちらの存在に気がついたねずりんはこっちに向かって駆け寄って来た。たんじろーはまるで疲れを忘れたかのようにねずりんの許へ歩いていき、途中で転んでしまった。
転んだたんじろーをねずりんはぎゅっ、と抱きしめた。私もねずりんに抱きしめられたい、と思った。
「わ――――っ! お前、何で急に寝るんだよォ! ずっと起きないでさぁ、死ぬかと思っただろうがぁ!!」
たんじろーとねずりんを見ていたら、私も二人を抱きたくなったので、二人の方へと歩いていって手を伸ばすと、また別の人に抱きしめられた。鱗滝さんだ。
「よく…生きて戻ったっ……!!!」
この場にいたねずりん以外の全員が、家の前で抱きながら、抱かれながら泣いたのだった。
あれから十五日が経った。たんじろーが外へ顔を出すと、誰か見つけたみたいだった。
「あっ、鱗滝さん、あの人かな?」
気になって私も外へ顔を出すと、たくさんの風鈴をぶら下げた笠を被った人が歩いて来ていた。
「俺は鋼鐵塚という者だ。竈門炭治郎、谷口鈴の刀を打った者だ」
「竈門炭治郎は俺です。谷口鈴は俺の隣にいます。中へどうぞ」
鋼鐵塚さんは家に入るかと思ったが、突然地べたに座り込んでたんじろーと私の日輪刀を出した。たんじろーが言ってもちっとも聞いてくれない。
家の玄関で、私とたんじろーは鋼鐵塚さんの話を長々と聞かされるのだった。
鋼鐵塚さんによると、日輪刀の原料である〝猩々緋砂鉄〟と〝猩々緋鉱石〟は、陽の光を吸収する鉄で、陽光山という太陽に一番近い山でとれるのだそう。そこでは曇ることも雨が降ることもないらしい。
「ちょ、ちょっととりあえず一旦、立ちませんか? 地べたから……」
私が鋼鐵塚さんに地面から立つように言うと、鋼鐵塚さんはこっちに向いた。
「うわっ」
「ひぃ」
鋼鐵塚さんは、ひょっとこのお面をしていた。
「んん? んんん?」
鋼鐵塚さんはたんじろーを見ると、たんじろーの顔を覗き込んだ。
「あぁ、お前〝赫灼の子〟じゃねえか。こりゃあ縁起がいいなあ」
「いえ、俺は炭十郎と葵枝の息子です」
「そういう意味じゃねえ」
「頭の毛と目ん玉が赤みがかっているだろう。火仕事をする家はそういう子が生まれると縁起がいいって喜ぶんだぜぇ」
そうだったんだ……知らなかった。たんじろーの家は炭を作って町で売っていたみたいだし、火仕事をする家、と聞かれたらあながち間違いではない。
「こりゃあ刀も赤くなるかもしれんぞ。なぁ鱗滝」
鱗滝さんに貰った刀は青色だった。水の呼吸が青い刀なら、赤い刀は〝
ようやく鋼鐵塚さんを家に上げることができた。鋼鐵塚さんは腕をうねうねとくねらせながら刀を抜かせようとする。
私の日輪刀は、鍔がまるで鈴のようだった。たんじろーの刀の鍔はまるで車輪みたいだ。私とたんじろーは刀を抜き、手で握ると、刀の色が変わっていった。
日輪刀は別名、色変わりの刀と言い、持ち主によって刀の色が変わるのだそう。
私は、綺麗な青色だった。鱗滝さんと同じだ。
たんじろーはというと、真っ黒だった。
「黒っ!」
「黒いな……」
「黒いね……」
感想が揃った。何でたんじろーは真っ黒なんだろう。
「えっ!? 黒いとなんかよくないんですか!? 不吉ですか!?」
「いや、そういうわけではないが…あまり見ないな、漆黒は」
「キ――ッ」
突然鋼鐵塚さんが癇癪を起こし始めた。
「俺は鮮やかな赤い刀身が見れると思ったのにクソ―――ッ!」
そしてたんじろーに畳みかけてくる。この人何歳なんだろう。
「三十七だ!」
鋼鐵塚さんは人の心が読めるのだろうか……自分の年齢を言った。
たんじろーに絡みついた鋼鐵塚さんを引き剥がそうとしたその時、鎹鴉から指令が下った。最初の任務は別行動らしい。
たんじろーは北西の町へ、私は南東の町へ行くことになった。それが私とたんじろーにとっての、最初の任務なのであった……
第玖話 新たなる柱 ~水柱補佐・辻風膵花編~
この話は、錆兎君と真菰ちゃんが言ってた炭治郎って子が最終選別に行く二年前にまで遡る。つまり、私がカナエちゃんを上弦の弐から救ってから二年後だ。
私がその炭治郎って子を知ったのは義勇君が私と錆兎君、真菰ちゃんに相談を持ち込んだ時。義勇君と錆兎君と真菰ちゃんはもう会ったみたいだけど、私はまだ会っていなかった。でも、その子は鱗滝さんの許で鍛錬しているから邪魔をしちゃいけないと思ったのと、任務が忙しかったのもあって、顔を見せる機会を掴めていなかった。
「これで最後っと」
私は鬼を倒していた。瞳に何も書かれていない、鬼の中でも下っ端の鬼だ。柱でなくとも倒せる。
「さて、この後は何をしようかな」
今日は珍しく任務がすぐに来なかったので、私は鳴柱邸へと歩みを進めた。私は水柱なんだけど、最愛の夫が鳴柱だから、最早鳴柱邸が私の屋敷だった。水柱邸にはたまに訪れる程度。泊るとしても二、三日程度だった。
鳴柱邸まであと一歩、というところで、鎹鴉から召集の指令が下った。半年に一度の柱合会議だ。会議の度に顔ぶれがあまり変わっていないことを祈るのが柱に就任してからの習慣だった。
私は鳴柱亭に背を向け、お館様の屋敷へと駆けだした。
そして迎えた柱合会議の日、私がお館様の屋敷へ到着すると、既に柱のメンバーは揃っていた。柱合会議の時に大抵私が一番最後に来る。ちなみに、一番早いのはその時々でばらばら。
屋敷には、水柱の義勇君、私と同じ義勇君の補佐である錆兎君、真菰ちゃん、鳴柱の来君、岩柱の悲鳴嶼さん、花柱のカナエちゃん、カナエちゃんの妹で蟲柱のしのぶちゃん、音柱の宇髄さん、風柱の実弥君、炎柱の杏寿郎君、蛇柱の小芭内君、恋柱の蜜璃ちゃんがいた。
よかった、顔ぶれは変わって無かった。
柱の定員は本来九人だったんだけど、十二鬼月は柱よりも三人多いのはこちら側が不利だと判断した私と来君、カナエちゃんがお館様に申し出たところ、柱になる条件を厳しくする代わりにもう三人だけ増やすことになった。
『階級が甲の隊士から選ばれる』のと、『十二鬼月を倒す』のは変わらないけど、『倒した鬼の数』は五十体から四倍の二百体に増え、新たに『現役の柱全員およびお館様の了承』を必要とし、『呼吸の極みに達している』ことが追加された。
つまり、柱になる条件が厳しくなったのだ。理由としては、柱としての威厳を損なわないようにするため。というのがお館様のお考えだった。
となると、問題は水柱だ。私も含め四人いるから九人という定員は既に超えてしまっている。会議前でも、毎回誰が水柱から退くだの散々聞かれた。
だが、お館様がそれを放っておくはずが無かった。前回の会議で正式な水柱は義勇君、私と錆兎君、真菰ちゃんは義勇君の補佐、ということになった。何故義勇君が正式な水柱なのかというと、本来水の呼吸に無い拾壱ノ型を編み出しているから、というのが理由だ。
補佐と言っても、実質的に柱と同等の扱いをされているから、実質水柱は四人ということになる。だけど、義勇君が柱を引退したら私と錆兎君、真菰ちゃんも同時に退くことになっている。四人で一人の柱だ。
「…来たか」
「あっ、膵花ちゃ~ん!」
蜜璃ちゃんが私の方に手を振った。
「これで全員揃ったな。良かったな来、嫁が生きてて」
早速錆兎君が来君をイジる。
「しかし、滝沢の髪はいつ見ても派手に青いな。甘露寺は地毛なのは解ってるけど、お前は染めてんのか?」
宇髄さんが私の髪の毛を見ながらたずねた。ちなみに、私の名前を旧姓で呼んでいるのは、紛らわしいからだとか。
「私も地毛だよ。生まれた時からこの髪色なの」
「正しく水のようだな。お前の方が正式な水柱に相応しい気がするんだが」
「義勇君には敵わないよ宇髄さん。彼だけの型を編み出してるから」
「あぁ…今日もいつになく賑やかだ。こんな日が何時までも続いて欲しいとは思わないか?辻風よ」
「同意見だ」
こんな日常が、いつまでも続いて欲しいと思う時があった。
「そうだ膵花、今度また一緒に食事なんてどうかな?」
来君が食事に誘ってくれた。私は素直に嬉しかった。もう何百回も一緒に食事してるけど、来君と一緒に食べる食事が一番美味しい。
「辻風。柱合会議の後、買い物に付き合ってくれ」
「わかった」
私達が雑談していると、奥からひなき様とにちか様が姿を見せた。
「お館様のお成りです」
お館様が来たようだ。皆お館様に跪いた。
「お早う皆。今日はとてもいい天気だね。空は青いのかな? 顔ぶれが変わらずに半年に一度の〝柱合会議〟を迎えられたこと、嬉しく思うよ」
「お館様におかれましても、御壮健で何よりです。益々の御多幸を、切にお祈り申し上げます」
「ありがとう、カナエ」
今回はカナエちゃんが挨拶をした。
「さて、こうして皆に集まってもらったわけだけど、今日は柱になるかもしれない子を紹介しようと思う」
柱の候補が一人上がったようだ。だけど、現時点ではまだ候補、というだけで、正式に就任するか否かはこの会議で決める。
「おいで、
「はっ」
(……ん? 光輝?)
その名前と声は久し振りに聞く。
「お初にお目にかかります、柱の皆様。この度、我が師である桑島慈悟郎の推薦を頂きました、天之河光輝と申します。我が師より、雷の呼吸を教わりました。また、独自に編み出した、光の呼吸も使用しております」
柱の候補、というのはかつてクラスメイトだった天之河君だった。彼の師匠である桑島慈悟郎、というのは来君の師匠だ。つまり天之河君は来君の弟弟子、ということになる。
「彼が言ったように、光輝は雷の呼吸から光の呼吸を派生させている。剣の腕も、申し分ないと聞く。率先して任務に赴き、他の隊士の援護も行ってくれている。私としては柱に就任することに異論はない」
雫ちゃんの道場じゃ来君と私を除いたら一番強かったもんね。
(う~ん、性格にはちょっと問題があるけど、鬼殺隊はそんなこと気にしないからなぁ……)
「俺は派手に賛成する。同じ雷の呼吸の派生の使い手として、嬉しく思う」
「私はお館様の御意思のままに従います」
「まあ精々頑張ることだな」
「嗚呼、この者が鬼殺隊を照らす光となることを切に願っている…」
「これからよろしくね!」
「(率先して任務に赴くだけでなく、他の隊士の援護も行っている彼は正しく鬼殺隊士の鑑だ。俺からは)何も言う事はない」
義勇君、言葉が足りてないよ……
「義勇、言葉が足りないぞ。俺も賛成の意を示します」
「左に同じく」
「……私も、柱として相応しい人物であると思います」
「それ相応の覚悟があるというのであれば、私からは何も申す事はございません」
「天之河なる隊士の覚悟を示す必要がございます」
「……だそうだ。光輝、君の覚悟を皆に示してはくれないか?」
「……元より鬼殺隊は死と隣り合わせ。しかし俺は、一人でも殉職する隊士を減らしたいと思っています。鬼を完全に滅する、その時まで、俺は柱として全力で戦います!」
「ならば、異論はございません」
(まぁ……いいんじゃないかな? 戦力は一人でも多い方がいいし)
「……全会一致により、隊士天之河光輝、君を光柱に任命する。今後の活躍に期待しているよ」
こうして天之河君の柱就任が決まり、今日のところはこれで一旦解散となった。
帰り道、私は来君と一緒に歩いていた。
「膵花! よかった、無事に生きていたんだな。俺が来たからにはもう安心していい。これからは俺が君を守る……」
……は?
「自分の身くらい自分で守れなきゃ柱としてやっていけない。それに、お前よりも膵花の方が強いぞ。守るとかそんなことを言う前に、自分を更に鍛えることを強く勧める」
「何だ辻風。俺に膵花を守ることができないとでも言うのか? それに何故膵花と同じ方向へ向かっているんだ? 屋敷は別々の筈だろう? まさか辻風! 貴様、膵花に何をした?」
「膵花は彼女の意志で僕の屋敷に住んでいる。お前が口を挟む権利は無い。それに、現代の日本で膵花は僕の許嫁だって耳に胼胝ができる程言っただろう」
許嫁と言っているが、本当は最愛の妻と言っている。私はそれが嬉しかった。
「ぐっ……そうだ、香織と雫は何処にいる?」
「香織ちゃんと雫ちゃんなら、蝶屋敷にいるけど……」
「そうか、ありがとう膵花」
天之河君はそう言うとすぐさま走り去っていった。でも、彼は蝶屋敷への道のりを知ってるのだろうか。
まあそんなことはどうだっていい。任務はしばらく廻って来てないから長く来君と一緒にいられる。
私は来君の腕に抱きつきながら、鳴柱邸へと歩んでいくのだった……
おまけ
「そうか、
どうも、書いてるうちにキャラの性格がたまにあやふやになってしまう最果丸です。
最終選別でありふれた職業で世界最強の主人公と鬼滅の刃の主人公が出会いました。
とうとう勇者(笑)が柱に就任しました。柱達やお館様の前では非の打ちどころがないように書きましたが、裏ではやっぱりトータスと何も変わってませんでした。
大正こそこそ噂話
『十一人目の合格者は女の子である』
この作品が完結した後、ありふれ組はトータス行きですが、人数は絞りますか?
-
少人数に絞る
-
一部切り捨て
-
全員トータス行き