現代の高校生達は、大正で鬼狩りをする ~召喚鬼滅譚~ 作:籠城型・最果丸
全集中 光の呼吸
使用者 天之河光輝
基本型 五つ
派生元 雷の呼吸
壱ノ型 残光十字・至光
雷の呼吸 弐ノ型・稲魂を参考に開発。一瞬で十字型の斬撃を繰り出す。風の呼吸 漆ノ型・勁風・天狗風に近似した剣裁きで相手を袈裟斬りにする。
弐ノ型 光陰・一矢一閃
雷の呼吸 伍ノ型・熱界雷に近似した突き技。単純な一撃だが、恐ろしい速度であり、ほとんどの者は避けることすら困難に近い。岩の呼吸 壱ノ型・蛇紋岩・双極に近い軌道を示す。
参ノ型 閃光天翔
雷の呼吸 肆ノ型・遠雷と同じ踏み込みからの斬撃。見切ることは容易ではない。
肆ノ型 極光円環
雷の呼吸 参ノ型・聚蚊成雷に似た技。相手の周囲を駆け回りながら斬撃を繰り出す。水の呼吸 肆ノ型・打ち潮に近似した動き。
伍ノ型 終焉・神威燦燦
雷の呼吸 陸ノ型・電轟雷轟を模して編み出した。周囲に輪郭が判らなくなる程斬撃を放ち、相手を細切れにする。この技を受けて生き延びた者はいない。炎の呼吸に例えるとするなら、奥義である玖ノ型・煉獄。鬼舞辻無惨を完全に滅する可能性を秘めた唯一の単独技。
第拾参話 四つの遭遇 ~鳴柱・辻風来編~
先程任務を終え、僕は東京府、浅草を訪れていた。何故浅草に立ち寄ったのかというと、浅草に鬼が潜んでいるという噂を耳にしたのだ。鎹鴉から指令が下った訳ではないので私的な活動だ。
街に入り込もうとした処で、腹が鳴ってしまった。そういえばここの処ずっと任務続きで食事を摂る暇が無かったなぁ。
たまたま近くにうどん屋があったので、そこで食事を摂ることにした。ちなみに、浅草を訪れた時は大抵、ここで食事を摂る。浅草生まれ浅草育ち、浅草を愛してやまないので浅草でうどんを作っている豊さんのうどんはかなり美味しい。彼の作る蕎麦も結構美味しいのだが、やっぱりうどんが一番だ。
「すいませ~ん。山かけうどんくださ~い」
「あいよ」
うどんが出来たので、そのまま立ってうどんを啜る。すると間も無く、二人の少年少女がうどん屋に来た。
「す、すみません……山かけうどんください……」
「おっ…あいよ…」
二人共フラフラに見えた。少年の方は隊服を着ていて、手ぬぐいを頭に掛けているからよく見えないが、
少年の方は人間の鬼殺隊士。だが少女の方は、鬼だ。でも、僕はこの少女を斬る気にはなれなかった。何故だろう。
鬼殺隊でありながら、鬼を連れている。彼にもきっと、何か事情があるのだろう。彼の育手も、その娘を連れて行く事を認めているのだろう。
「こんな所初めて来た……」
この少年は田舎暮らしが長かったのだろう、初めて来た浅草に酷く驚いているようだった。
うとうとしている少女が少年の肩に頭を置いた。きっとこの二人は兄妹なのだろう。音が似ている。見ていて微笑ましいなぁ。こんな光景が、ずっと見られるような世の中を作るために、僕も頑張らないと。
「山かけうどん、一丁出来上がりぃ」
「ありがとうございます」
少年のうどんが出来上がったようだ。豊さんから少年にうどんが手渡される。
少年はまず、うどんの汁を啜った。どうだ、美味しいだろう。
……と、少年が何かに気がついた。少年が立ち上がると、少年の手から出来立てのうどんが落ち、丼が砕ける音と、汁とうどんが飛び散る音が同時に聞こえた。
少年の汗と息切れが止まらない。そして一目散に駆けていった。少年の様子が尋常じゃなかったので、僕も少年を追いかけた。鬼の少女を抱えて。箱も持って来た。
少年は人混みを掻き分け、更に奥へ進む。そしてとある男性の肩に、手を置いた。
男性の顔に、僕まで目を大きく見開いた。昆布のような髪、洋服の模様、縦に割れた瞳孔。
男性は、鬼だった。しかもただの鬼じゃない。今まで出遭った鬼の中で、一番人を殺していた。
此奴は……まさか……
刀を抜こうと少女と箱を降ろそうとした時、幼女の声がした。
「おとうさん……だぁれ?」
今まで人間の振りをして、人間社会に溶け込んでいたのか……
「私に何か用ですか? 随分慌てていらっしゃるようですが…」
「あら、どうしたの?」
「おかあさん」
幼女とその母親らしき女性は人間だ。すぐそばに鬼がいることに気づいていないようだった。
「お知り合い?」
「いいや。困ったことに少しも――…知らない人達ですね。人違いでは、ないでしょうか」
「まぁ、そうなの?」
目の前の鬼は、少年だけでなく僕にも気づいている。そしてすれ違った男性に引っかき傷を入れた。
「うぐっ」
引っ掻かれた男性が首筋を抑えて苦しむ。妻らしき女性が男性を心配する。
「あ、あなた? どうしました?」
引っ掻き傷を始点に、血管が浮き出る。
「あなた?」
離れろ。その人は、もう……
「うぉおおおお!!」
「やめろっ……!!」
何という事だ……目の前で鬼になってしまった……
「キャアアアッ!!」
鬼となってしまった男性は、女性の右肩に噛みついた。
「キャ―――ッ」
「あっ!!」
「何だ!?」
「どうした!?」
「ち、血が……」
「やめろぉぉぉ!!」
男性が再び女性の右肩に噛みつこうとした瞬間、少年が頭の手ぬぐいを取り、右手に巻き付けた状態で男性を女性から引き剥がし、男性の口に突っ込んだ。
「あなた!!」
「奥さん!! こちらよりも、自分のことを!! 傷口に布をあてて、強く押さえてください!!」
幸い、致命傷ではないようだ。少年の方は男性を取り押さえている。
「もっと強く、もっと強く、紐で縛ってください!!」
僕も頭の手ぬぐいを取り、傷口にあてて強く縛る。
彼奴がここを去ろうとする。少年は叫ぶ。
「鬼舞辻無惨!! 俺はお前を逃がさない!! どこへ行こうと絶対に!!」
彼奴は更に遠くへ歩む。
「どこへ行こうと逃がさない!! 地獄の果てまで追いかけて、必ずお前の頸に刃を振るう!! 絶対にお前を許さない!!」
少年の口から、彼奴の名が出た。
鬼舞辻無惨……人間を、鬼に変えられる血を持つ、この世に生きる唯一の鬼。千年以上前、一番始めに鬼となった者だ。
ふふふ…漸く見つけたぞ……かつて、三人で彼を討伐の一歩手前まで追い詰めたことがあった。だがその後、不覚にも逃げられてしまった。
本当なら今すぐにでもあの場で斬り刻んでやりたいが、生憎ここは市街地だ。下手に攻撃すれば周りの人達に被害が及び兼ねない。それに、肩を噛まれたこの人を放ってはおけない。だから、鬼舞辻が去っていくのをただ見ていることしかできなかった。
「貴様ら! 何をしている!」
「酔っ払いか!?」
「少年、その男から離れろ!!」
三人の警官が到着した。大正時代の警官は、鬼の存在を全く信じてない。
少年と警官達の攻防が繰り広げられる。
「だめだ! 拘束具を持ってきてください!頼みます!」
「いいから離れろ!!」
「やめてください!! 俺以外は
「そこをどけ!!」
「やめてください!!」
「あっ、何だこいつの顔…正気を失ってるのか!?」
「少年を引き剥がせ!」
「やめてくれ!!
「クソッ…貴様ッ……これ以上抵抗するようなら……」
警官の一人が少年に警棒を振り上げた瞬間、少年と男性の周りが、花の紋様に包まれた。
「何だこの紋様は!?」
「どうなっている!? 周りが全く見えん!!」
独特な香りにこの現象、間違いない。血鬼術だ。しかしこれには見覚えがある。そして、聞き覚えのある声が聞こえてきた。
『あなたは……鬼となった者にも、「人」という言葉を使ってくださるのですね。そして助けようとしている。ならば私も、あなたを手助けしましょう』
『……なぜですか…あなたは…あなたの匂いは…』
『そう、私は――…鬼ですが医者でもあり、あの男、鬼舞辻を抹殺したいと思っている』
「いいかよく聞けぇ!! 俺が!! 俺が言いたいのはな!! 金じゃねえんだ!! お前らが俺のうどんを食わねって心づもりなのが、許せねえのさ!!」
そう言えばうどんを食べかけのまま少年を追っていた。うどん屋に戻ったら、少年と一緒に豊さんに怒られてしまった。
「「すみません! もう一杯お願いします!!」」
「食うのか!!」
「「はい!」」
「食うんだな?」
「「食べます!」」
「よぉし!」
「お前もだ!! まずうどんを食べるなら、その竹を外せ!! 何だその竹は!! 箸を持て箸を!!」
今度は少女に怒っている。どうやら竹枷をして、食事を摂っていないのが気に食わないらしい。
すると、少年が豊さんの握る箸を掴んだ。僕もそれに続く。
「「うどんをお願いします!! 二杯お願いします!!」」
「お、おう…」
少年と僕は山かけうどんを二杯頼んだ。
豊さんが山かけうどんを用意している間に、中途半端に食べ残してしまったうどんを爆食した。
山かけうどんが四杯出来上がった。少年と同時に、蜜璃さんも吃驚するような早さで食べた。あまりの早さに、豊さんまで驚いてる。
「「ごちそうさまでした!!」」
そして同時に完食する。
「「おいしかったです!!」」
「わかりゃいいんだよ! わかりゃ!!」
うどんを合計三杯完食(少年は二杯)し、再び出発する。
「まいどありぃ!」
僕と人間の少年、鬼の少女は街中で出会った鬼の女性、珠世さんの隠れ家へ向かって歩いていた。
「ごめんな禰豆子。置きざりにして…」
鬼の少女…禰豆子に謝る少年。もしかしたら、彼が膵花や義勇、錆兎と真菰さんの言っていた、鬼を連れている隊士〝竈門炭治郎〟なのだろうか。鬼の妹を連れているし。
「すみません。同じ鬼殺隊なのに鬼を抱えさせてしまって…」
「いや、こちらこそすまない。君の妹を勝手に抱えて後をつけたりして」
歩いていると、急に禰豆子が立ち止まった。
「ん? どうした、禰豆子?」
禰豆子の視線の先にいるのは、鬼の少年。
「待っててくれたんですか?」
「お前達を連れて来るように、あの方に言われたんでな」
「俺は匂いを辿れます……」
この少年は膵花や鱗滝さんと同じように、鼻が利くのか。ちなみに、僕は善逸のように、耳が良い。
「目くらましの術をかけている場所にいるんだ。辿れるものか」
「目くらまし…」
「それより…」
鬼の少年、愈史郎は禰豆子を指差して言う。
「鬼じゃないかその女は。しかも醜女だ」
愈史郎、禰豆子が悲しんでるぞ……僕はかなり綺麗な顔立ちだと思うけど……それこそ、膵花と並ぶ程の。
「醜女のはずないだろう!! よく見てみろこの顔立ちを!! 町でも評判の美人だったぞ禰豆子は!!」
愈史郎は呆れた目で見ている。
「行くぞ」
「いや行くけれども!! 醜女は違うだろ絶対!! もう少し明るい所で見てくれ!! ちょっと! あっちの!! 方で!!」
その後も歩き続け、壁で行き止まりに見える場所まで来た。
「そうか分かった、この口枷だな!? この口枷のせいかもしれない。これを外した禰豆子を一度見てもらいたい!! …え?」
まだ続けてたの……?
「早く来い。誰もいないうちに」
愈史郎が行き止まりの向こうから顔だけ出して呼ぶ。
行き止まりに見えるが、仕切りは何もない。
「行き止まりの向こうに屋敷が!?」
「早く来い。いいか、あの方に失礼のないようにするんだぞ。俺はお前たちなどどうなったっていいんだ。それをあの方がどうしてもというから連れて来たんだ」
「あ、ああ…」
愈史郎が診察室の扉を敲く。
「どうぞ」
扉の向こうには、肩を噛まれた女性の様子を見ていた珠世さんがいた。
「ただいま戻りました」
「お帰りなさい」
「先程はお任せしてしまいすみません。その奥さんは?」
「この方は大丈夫ですよ。ご主人は気の毒ですが、拘束して地下牢に」
あの人は地下牢で無事に生きているようだ。場所が場所だから無事かと聞かれたら疑問に思うが。
「……人の怪我の手当てをしてつらくないですか?」
耳飾りの少年が鬼の本能から珠世さん達を心配している言葉を投げかけるが、愈史郎に打たれた。
「鬼の俺たちが、血肉の匂いに涎を垂らして耐えながら、人間の治療をしているとでも?」
「…ごめん」
「よしなさい。なぜ暴力を振るうの」
珠世さんが止めに入る。愈史郎は俯く。
「名乗っていませんでしたね。私は〝珠世〟と申します。その子は〝愈史郎〟。仲良くしてやってくださいね」
愈史郎はというと、目を吊り上げていた。
そして、珠世さんが今度は僕の方に向き直る。
「そして、お久しぶりです。来様」
「えっ…この人と知り合いなんですか?俺と同じ鬼殺隊士なのに…」
「ええ。彼には昔、命を救われたことがありますから」
「そうなんですか…」
「話が逸れてしまいましたね。つらくはないですよ。普通の鬼より、かなり楽かと思います。私は、私の体を随分、弄ってますから。鬼舞辻の呪いも、外しています」
「…呪い? …かっ、体を弄った?」
珠世さんは着ていた白衣を脱ぎ、別の部屋へ案内する。
「こちらへ」
畳張りの部屋に入った途端、禰豆子が畳に寝転がった。
「あっ、禰豆子。行儀悪いぞ」
「構いませんよ。楽にしてください」
それを珠世さんは許してくれた。
「すみません…」
「では、先程の続きですが、私たちは人を喰らうことなく暮らしていけるようにしました。人の血を少量飲むだけで事足りる」
「血を?それは………」
「不快に思われるかもしれませんが、金銭に余裕の無い方から、輸血と称して血を買っています。もちろん、彼らの体に支障が出ない量です」
鬼は人を喰らえば喰らう程、より酷く歪んだ音になる。珠世さん達は鬼だから人間と比べたら少し音が歪んでいるが、他の鬼よりは大分人間に近い音だ。
「愈史郎は、もっと少量の血で足ります。この子は私が鬼にしました」
「えっ?あなたがですか!? でも…えっ?」
少年は困惑していた。ちなみに、少年の名前は読み通り〝竈門炭治郎〟だった。
「そうですね。鬼舞辻以外は、鬼を増やすことができないとされている。それは概ね正しいです。二百年以上かかって、鬼にできたのは、愈史郎ただ一人ですから」
「に、二百年………二百年以上かかって鬼にできたのは、愈史郎ただ一人ですから!? 珠世さんは何歳ですか!?」
「女性に歳を聞くな無礼者!!」
愈史郎がまた炭治郎を殴った。
「愈史郎! 次にその子を殴ったら許しませんよ」
「はい!!」
返事はいいのだが、頭の中では全く違うことを考えているのが愈史郎の悪い癖だ。
「一つ…誤解しないでほしいのですが、私は鬼を増やそうとはしていません。不治の病やケガなどを追って、余命幾許もない人にしか、その処置はしません。その時は必ず本人に、鬼となっても生き永らえたいか、訊ねてから、します」
珠世さんからは、嘘偽りの無い音がするから信用できる。それは愈史郎も同じだ。
「珠世さん。鬼になってしまった人を、人に戻す方法はありますか?」
珠世さんは少し間を空けてから、炭治郎の質問に答える。
「鬼を人に戻す方法は………あります」
「!! 教えてくださっ…」
「寄ろうとするな! 珠世様にぃぃ!!」
愈史郎が炭治郎を投げた。珠世さんが物凄い形相になっている。
「……愈史郎」
「あっ…投げたのです、珠世様。殴ってません」
「どちらも駄目です」
「はい!!」
炭治郎が頭に手を当てながら立ち上がる。
「ててて……教えてください」
珠世さんが続きを話す。
「どんな傷にも病にも、必ず、薬や治療法があるのです。今の時点では鬼を人に戻すことはできませんが…それもきっと………」
「…………」
「ですが、私たちは必ず、その治療法を確立させたいと思っています。そのために、あなたにお願いしたいことがあります。治療薬を作るためには、たくさんの鬼の血を調べる必要がある。あなたにお願いしたいことは二つ」
同じ話を、以前逢った時に聞いたことがある。炭治郎へのお願いも、同じような内容なのだろう。
「一つ、妹さんの血を調べさせて欲しい。二つ、できる限り鬼舞辻の血が濃い鬼からも、血液を採取して来て欲しい。これは、来様と膵花様にもお願いしていることでもあります」
僕と膵花は柱だからこそ難なくこなせるが、炭治郎はまだ一般隊士。それも、今年入ったばかりの。
「禰豆子さんは今極めて、稀で、特殊な状態です。二年間眠り続けたとのお話でしたが、おそらくはその際に体が変化している。通常、それ程長い間、人の血肉や、獣の血肉を口にできなければ、まず間違いなく凶暴化します」
隣で愈史郎が違うことを考えているが、この際は放っておくことにしよう。
「しかし、驚くべきことに、禰豆子さんにはその症状が無い。この奇跡は、今後の鍵となるでしょう」
禰豆子は炭治郎の手を握って、気持ちよさそうに目を閉じる。
「もう一つの願いは、苛酷なものになる…鬼舞辻の血が濃い鬼とは、即ち、鬼舞辻に……より近い強さを持つ鬼ということです。そのような鬼から血を奪るのは容易ではありません。それでも、貴方はこの願いを、聞いてくださいますか?」
「「…………」」
炭治郎は禰豆子を見て、僕は前に聞いた願いを思い返している。
『それでも、あなた方はこの願いを、聞いてくださいますか?』
『他に術が無いのならば、僕は…僕達はやります』
『鬼を人に戻す薬ができたら……そうすれば今よりもっと、たくさんの人を助けられる。だから、私もやります』
「……それ以外に道が無ければ、俺はやります。珠世さんがたくさんの鬼の血を調べて、薬を作ってくれるなら、そうすれば禰豆子だけじゃなく、もっとたくさんの人が、助かりますよね?」
珠世さんも、あの時交わした会話を思い出していた。
「………そうね」
炭治郎は赤面し、愈史郎は物凄く睨んできた。
と、その時。紙が破れる音がした。
「「!? 伏せろ!!」」
僕と愈史郎の声が重なったと同時に、建物の中に何かが二つ、とんでもない速度で入ってきて、激しく跳ねた。鈴の音がしたから、恐らく毬。愈史郎は珠世さんを、炭治郎は禰豆子を庇い、僕はかがんで刀に手をかけている。
外から二人の声が聞こえてきた。
「ハッハハハハハハッ」
「殺し方は決まったか?」
「残酷に、だろ?」
建物の外には、毬を二つ、手に持つ女の鬼と、掌に目の付いた男の鬼、火の付いた車輪を回している女の鬼がいた……
第拾肆話 香る雫は陽の華と巡り会う ~常陸陽華編~
私の名前は常陸陽華。町でも評判の美人と呼ばれていたけど、それ以外は何処にでもいる女とほとんど変わりない。
生みの親は、私が物心つく前に鬼に殺されたと育ての親から聞いた。育ての親は、辻風来、辻風膵花という。苗字は違うし、年齢(見た目)もそれほど離れてないけれど、物心ついた頃からその二人に育てられてきた。今の家族は鬼殺隊という、私の生みの親を殺した鬼を斬る組織に所属している。ちなみに、私はその二人の姪っ子ということになっている。
私には人の体が透けて見えていた。来兄さんと膵花姉さんも、
そんな私は、藤襲山で行われた七日間に亘る最終選別を生き延び、晴れて鬼殺隊士になった。だけど、採寸も玉鋼選びも家ですることになっていたので、そのまま下山していた。他にも、猪の毛皮を被った男の子もそのまま下山していた。
私以外に無傷だったのは、恐らく蝶の髪飾りを身に着けた女の子だけだろう。あの娘も私と同じように世界が透き通って見えているのだろうか。
気になって仕方が無かった私は、他の合格者が下山するまで、麓で待っていることにした。真っ先に姿を現したのは、炎の呼吸を使っていた、黒髪の男の子だった。どの呼吸を使っていたかは、刀の色を見ればわかる。育手は、自分が使っている呼吸をそのまま弟子に教えるからだ。私は来兄さんから雷の呼吸を、膵花姉さんからは水の呼吸を、炎柱様から炎の呼吸を教わった。
その男の子が使っていた刀が炎を纏っていたから、彼は炎の呼吸を教わったことがわかる。直接見たりもした。
男の子は山を下りた後、まるで誰かを待っているかのようにそこに留まり続けた。
…何故だろう。私の目には男の子が格好良く映って見えていた。鬼から女の子を庇った時も、同じく姿が煌びやかに見えていた。
まるで、鬼と戦う来兄さんと膵花姉さんを見ているようだ。見ていて心奪われるような、無駄のない動き。男の子の動きは若干無駄があるが、育手に恵まれたのだろうか、他の子達と比べて動きの無駄が少ない。人の体が透けて見える私だからこそできる、人の実力の量り方。自慢ではないが、私の動きも無駄はかなり少ない方だと自負している。
私は、その男の子と話がしたかった。どうしたら、そんな煌びやかな姿を見せることができるのか。そんなどうでもいいことを聞きたかった。
でも、女の子がそんなことを聞くなんてはしたない、なんて思ってる自分がいて、なかなか足を踏み出せない。
男の子に話しかけるのを躊躇っていると、女の子が二人、山から下りてきた。長い黒髪を降ろしている娘と、結っている娘だ。二人共刀の色は薄紅色だから花の呼吸を使ったのだろう。
何やら髪を降ろした女の子が男の子と楽しそうに話をしている。頬を赤く染めて、脈も速くなっている。まるで二人きりの来兄さんと膵花姉さんみたいだ。
その会話の一部始終を、なんとか聞くことができた。女の子がそんなことを聞くなんてはしたない、なんて思ってる自分がいて、なんて言ってたけど、十分はしたなかった。
「ハジメくん……待っててくれたんだね」
「約束通り、ここで待ってたよ。白崎さん。それに、八重樫さんも無事で良かった」
「ハジメさんが無事で良かったわ。しのぶさんから聞いた話だと、ハジメさんは炎柱様の処で修行してたそうじゃない?」
「確かに杏寿郎さんに稽古を付けて貰ってたよ。滅茶苦茶厳しかったけど」
「そっか……やっぱり最後まで受け続けてたんだね」
「うん、どれだけ稽古を重ねても、余程のことがない限り本当に死ぬことはないから全身全霊で励め、って
「ふふふ、やっぱり辻風君らしいわね」
「
「
「そうなんだ……ところで、白崎さん。麓で待ってて、って言ってたよね。何か話でもあるの?」
「ッ―――そ、そうだったね……」
「じゃあ、私は一旦席を外させて貰うわね」
「……ハジメくん、その……ずっと、言いたかったことがあるんだ…」
「な、何かな?」
「私、白崎香織は……」
「う、うん…」
「南雲ハジメくん、貴方のことが好きです!!」
「……ええっ!? ほ、本当に僕なんかでいいの?」
「ハジメくんだからいいの!カナエさんみたいに、鬼にも情けを掛けていたし……敵にも優しくできるのって、すごいことだと思う」
「……」
「ハジメくんの気持ちも、聞かせてくれないかな……?」
「白崎さん……いや、香織さん」
「うん」
「こんな僕だけど、宜しく」
「私の方こそ宜しくね!ハジメくん!!」
二人を見ていると、何だかホワホワする。
もう少しだけ見ていたいと思った私は、背後から近づくもう一人の女の子に気づかなかった。
「へぇ~、貴女はそこで何をしてるのかしら?」
髪を結った、剣士みたいな女の子だ。
「……あの二人を、見ていたの」
「どうしたの? 雫ちゃん」
髪を下ろした女の子、白崎香織は先程の男の子、南雲ハジメと一旦別れ、剣士みたいな女の子、八重樫雫の許へ向かって来た。
「この娘がね、さっきからずっと私達の会話を聞いていたのよ」
「へぇ~。初めまして、かな?私は白崎香織。貴女の名前は?」
「香織……貴女警戒心無さすぎでしょ……私は八重樫雫よ」
相手二人が名乗ったのだから、私も名乗らねば。
「私は陽華、常陸陽華。鳴柱と水柱補佐の姪」
これが後の友人、白崎香織と八重樫雫との出会いなのだった……
第拾伍話 躍る輪入道 ~焔螺編~
鬼舞辻様の指鳴らしで妾を含め三匹、鬼が呼び出された。
「白髪で金色の瞳をした鬼狩りの頸と、耳に花札のような飾りをつけた、鬼狩りの頸を持って来い」
鬼舞辻様から二人の鬼狩りの頸を持って来い、というご命令が下った。
「いいな」
「「御意」」
「仰せのままに」
鬼舞辻様の命令を承った後、妾達は路地裏を発ち、二人の鬼狩りの後を辿っていった。
適当な場所に降り立ち、妾達は名を名乗った。
「朱紗丸じゃ」
「矢琶羽だ」
「焔螺という」
例の鬼狩り共の後を辿っている途中でも、妾達はお喋りに耽っておった。
「朱紗丸よ、其方はどのような血鬼術を使うのじゃ?」
「この毬じゃ。矢琶羽はどうだ?」
「儂は両の掌に付いた目玉で、足跡を辿ったり、ものを動かすことができる」
「妾の火車と朱紗丸の毬も操れるのだな?」
「容易いことじゃ」
いざ話してみれば面白い連中じゃった。
「鬼狩りを辿るのは矢琶羽に任せよう」
「それがいい」
矢琶羽の血鬼術で、鬼狩り共の足跡を辿ってゆく。朱紗丸は毬を弾ませながら、妾は指で車輪を回しながら歩む。
「見えるかえ?」
朱紗丸が矢琶羽に問う。
「見える、見えるぞ。足跡が」
どうやら矢琶羽の血鬼術は問題なく発動しておるようじゃ。
「これじゃこれじゃ」
矢琶羽が足跡を見つけたようじゃ。して、どうなっているのかのう。
「あちらをぐるりと大回りして、四人になっておる。何か大きな箱も持っておる」
足跡だけでそこまで判るのか。感服じゃ。
「どうやって殺そうかのう。うふふふ。力が漲る。今しがた、あの御方に血を分けて戴いたからじゃ」
「それはもう残酷に殺してやろうぞ」
「火達磨にするのも面白そうじゃ」
それから妾と朱紗丸は矢琶羽の後を追った。しばらく歩いていくと、行き止まりに辿り着いた。
「いくら目で誤魔化そうとも、足跡までは誤魔化せまい」
矢琶羽にはハッタリだと見破られておるようじゃ。
行き止まりの向こうには、だだっ広い空き地が広がっているように見えた。
「矢琶羽、其方には何が見える?」
「足跡が途中で途切れておる。途切れた所に何やら建物が建っているようじゃ。朱紗丸、毬を投げろ」
「うむ、解った」
矢琶羽の指示で、朱紗丸は毬を二個、何もない所へ投げた。矢琶羽の読みは、当たっておった。何もないところから建物が姿を現した。
「ハッハハハハハハッ」
「殺し方は決まったか?」
「残酷に、だろ?」
建物にできた穴からは、鬼が三人と鬼狩りが二人、そこに立っておった。
「キャハハッ、矢琶羽の言う通りじゃ。何も無かった場所に建物が現れたぞ」
「巧妙に物を隠す血鬼術が使われていたようだな。そして、鬼狩りは鬼と一緒にいるのか?どういうことじゃ。」
「キャハハハ、楽しいのう」
「それにしても朱紗丸。お前はやることが幼いというか……短絡というか……汚れたぞ。儂の着物が塵で汚れた」
「うるさいのう。私の毬のお蔭ですぐ見つかったのだから良いだろう。たくさん遊べるしのう!!」
朱紗丸が毬を投げた。
「またしても汚れたぞ」
「神経質めが、着物は汚れてなどおらぬわ。それに……」
朱紗丸も中の鬼狩りに気づいたようじゃ。
「キャハハ。見つけた見つけた」
朱紗丸が毬を一つ投げ、建物の中を激しく跳ねた後、矢琶羽の矢印が方向を変え、小僧の頭を砕いた。
「キャハハッ。一人殺した。ん?耳に飾りの鬼狩りは、お前じゃのう」
朱紗丸がまた毬を投げた。避けても毬は矢琶羽が曲げる。
鬼狩りの小僧は毬を斜めから曲線で突いて毬の威力を和らげた。
この小僧、なかなかやるのう。しかし、その程度では毬は止まらんぞ。
妾も火車を投げて応戦しようとしたところで、別の鬼狩りの邪魔が入った。
「ん? 何じゃお主は」
「その子に指一本触れるな」
その鬼狩りは耳飾りの鬼狩りを守っているつもりなのだろうか。揺らぎ無い意志が、瞳に映っておる。よく見たら、随分と整った顔立ちをしておる。
「ところで其方よ、名は何と申す?」
「…僕は鬼殺隊、階級・鳴柱、辻風来だ」
「ふむ、鬼狩りの柱とはの……良い名じゃ。妾は焔螺。十二鬼月となる者じゃ。よく見れば其方、煌びやかな顔立ちをしておるのう……どうだ? 戦いの後で、妾と交わってみぬか?」
「……えっ?」
妾には趣味がある。それは、気に入った男の鬼狩りを破った後に鬼狩りと体を交え、用が済めば喰らうという趣味じゃ。
「妾は今まで数多の鬼狩りと交わって来たが、其方のような整った顔立ちの鬼狩りは初めてじゃ。鬼狩りが妾を楽しませたのは今まで一度きりの奴ばかりじゃった。用が済んだ鬼狩りは喰らったが、其方だけは特に気に入った。鬼として一生、妾と共に生きる道を選ぶか?」
さあ躍れ。妾を楽しませてくれ。辻風来、其方だけはずっと妾を楽しませてくれるであろう…
しかし、この者が出した答えは、妾の望み通りではなかった。
「生憎だけど、僕には大事な家族がいる。だからその申し出は受け入れられない。家族を捨てて、鬼へと堕ちた奴を知ってるから」
「……そうか。ならば…」
妾は火車を両手に、構えを取った。
「今ここで、其方を打ち負かすのみじゃ!!」
どうも、杏寿郎に感情を動かされた最果丸です。
初めて鬼サイドの話を書きました。そして、変態な鬼を生み出してしまいました……
とうとう出したぜェ……十一人目の合格者をよォ……
隊律違反の現役隊士はこれで六人です。(竈門炭治郎、冨岡義勇、錆兎、真菰、辻風膵花、辻風来)
大正こそこそ噂話
『常陸陽華が南雲ハジメに抱いている感情は憧れのみで、恋情は抱いていない』
この作品が完結した後、ありふれ組はトータス行きですが、人数は絞りますか?
-
少人数に絞る
-
一部切り捨て
-
全員トータス行き