現代の高校生達は、大正で鬼狩りをする ~召喚鬼滅譚~ 作:籠城型・最果丸
上弦の壱 黒死牟
上弦の弐 猗窩座→童磨
上弦の参 猗窩座
上弦の肆 半天狗→鳴女
上弦の伍 玉壺→■■
上弦の陸 童磨→妓夫太郎、堕姫→■■
下弦の壱 姑獲鳥→魘夢→■■
下弦の弐 佩狼→轆轤→■■■
下弦の参 ■■→病葉→■■■
下弦の肆 零余子→■■
下弦の伍 累→■■
下弦の陸 響凱→釜鵺→■■
第拾陸話 水はどんな形にもなれる ~竈門炭治郎編~
「「ふせろ!!」」
愈史郎さんと来さんが同時に叫ぶと、突然何かが屋敷の中に入って来た。俺は咄嗟に禰豆子を庇った。
(毬……!!)
屋敷の壁に開いた穴からは、毬を弾ませて立っている鬼がいた。
(毬を投げて家をこれだけ破壊したのか……!!)
「キャハハ、見つけた見つけた」
毬の鬼はそう言うと毬を投げてきた。毬は部屋中で激しく弾み、天井、床、壁に窪みを作る。
そして、愈史郎さんが毬を避けた途端、毬は突然軌道を変えて愈史郎さんの頭を吹き飛ばした。
「愈史郎さん!!」
倒れる愈史郎さんの体を、珠世さんが抱きとめる。
「…くそっ、禰豆子!! 奥で眠っている女の人を、外の安全な所へ運んでくれ!!」
「外は危険です! 地下室がありますからそちらへ」
「わかりました。禰豆子!」
禰豆子が奥に向かって駆け出した。
「キャハハッ、一人殺した」
毬の鬼に向かって俺は刀を構えた。
(今までの鬼と明らかに匂いが違う…!! 強いのか……? 濃い匂いだ。肺の中に入ってくると重い!!)
「ん? 耳に花札のような飾りの鬼狩りは、お前じゃのう」
(!! 俺を狙っているのか!?)
俺は珠世さんに下がるよう頼んだ。
「珠世さん!! 身を隠せる場所まで下がってください!! 奴らの狙いは、俺です!!」
しかし、珠世さんは下がらない。
「炭治郎さん。私たちのことは気にせず戦ってください。守っていただかなくて大丈夫です。鬼ですから」
「それじゃあ、これで終わりじゃ!!」
鬼が毬を投げた。
(よけてもあの毬は曲がる!! 拾ノ型の中で、最速の突き技)
刀を右手に持ち、斜めから曲線で毬を突く。
(全集中 水の呼吸 漆ノ型 雫波紋突き・曲!!)
狙い通り、毬の威力は和らいだ。だけど、刀が刺さっててもなお、毬は動く。
(!? なぜ動くんだ、この毬。愈史郎さんに当たった時も、不自然な曲がり方をしていた。特別な回り方をしてるわけじゃないのに。これは………)
突然愈史郎さんの声が聞こえてきた。頭が再生したのだろう。しかし、やはり惨いな。
「珠世様!! 俺は言いましたよね? 鬼狩りに関わるのはやめましょうと最初から! 俺の〝目隠し〟の術も完璧ではないんです! 貴女にもそれはわかっていますよね? 建物や他人の気配や匂いを隠せるが存在自体を消せるわけではない。人数が増える程痕跡が残り、鬼舞辻に見つかる確率も上がる」
「………」
(鬼がこれだけ近くに来ていて、攻撃されるまで匂いがしなかった。愈史郎さんの血鬼術だったのか………)
「貴女と二人で過ごす時を邪魔する者が、俺は嫌いだ。大嫌いだ! 許せない!!」
愈史郎さんの怒りは凄まじかった。
「キャハハッ。何か言うておる。面白いのう。楽しいのう」
毬の鬼は着物を上だけ脱いだ。、
「十二鬼月である私に殺されることを、光栄に思うがいい」
「十二鬼月?」
「鬼舞辻直属の配下です」
鬼の腕が更に四本生えた。毬も二つから、六つに増えた。
「さあ、遊び続けよう。朝になるまで。命、尽きるまで!!」
毬の鬼が毬を六つ投げてきた。
六つの毬が激しく部屋中を跳ねまわる。俺はそれを一つずつ斬っていく。
斬ってしまえば威力は落ちる。それでも俺に当たってくる。
(血の匂いは三種類。鬼は三人いる。匂いで位置もわかってる。一人は来さんが当たってくれている。だけど―――)
毬がまた動きを変えた。
(どこにも当たってないのに軌道が変わった!!)
毬を斬り続けていると、三つの毬が珠世さんと愈史郎さんの体を抉った。
(だめだ、庇う余裕がない!!)
「私たちは治りますから、気にしないで!!」
「おい、間抜けの鬼狩り!!
「矢印…!?」
「ったく、そんなものも見えんのか。
愈史郎さんが懐から紙を一枚取り出し、俺の額に貼り付けた。
(見えた!! この矢印で毬の軌道を……動かしていたのか!!)
紅い矢印が毬を動かしているのが見えた。矢印を追うように毬が動いた。
「愈史郎さん、ありがとう! 俺にも矢印、見えました!」
俺は禰豆子に指示を出す。
「禰豆子、禰豆子外だ!! 木の上の鬼を頼む!!」
禰豆子は木が生い茂っている方へ向かって行った。
再び毬の鬼に刀を向ける。
「お前の相手は俺だ」
「耳に花札のような飾りをつけた鬼狩り……間違いない。あのお方にその頸を持っていこうぞ」
毬の鬼が毬を投げる。
「キャハハハ、楽しいのう!!」
(禰豆子、まだか……)
矢印が消えた。禰豆子は無事にやってくれたようだ。
(全集中 水の呼吸)
流れるような脚運びで、攻撃を躱しつつ毬を斬っていく。
(参ノ型 流流舞い!!)
全ての毬を斬った後、鬼の腕も全て斬り落とした。
「珠世さん! この三人の鬼は、鬼舞辻に近いですか!?」
「恐らく」
「では必ず、この三人から血をとってみせます!!」
来さんの足手纏いになるかもしれないけれど、俺だって戦える。だから、一人でも多く血をとって頸を斬る!
「キャハハハ、儂らから血を盗るじゃと? 何を企んでおるのかは知らぬが、あのお方のご機嫌を損なうような真似はさせぬぞ。十二鬼月である儂らから、血が盗れるなら、盗ってみるがいい!!」
愈史郎さんの警告が飛ぶ。
「気をつけろ!! 少しも油断するなよ! もし本当にそいつらが十二鬼月なら、まず間違いなく、お前が今まで倒した奴らより手強いぞ!!」
「はい、わかりました! 気をつけつつ、少しも油断せず、まず倒…今まで………はい!! 頑張ります!!」
斬り落とした腕が全部、再生していた。
「キャハハハハ」
ほんの少しの間に、すぐ新しい腕が生える。選別の時の鬼より、回復がずっと速い!!
「あのお方にその頸を持っていこうぞ」
また腕を斬ろうと刀を構えると、禰豆子が吹き飛ばされてきた。俺はそれを抱きとめる。
「さぁ。二人まとめて、死ね!!」
けれども鬼は容赦なく毬を投げつける。すると、愈史郎さんが声を掛けてきた。
「おい、鬼狩り!! お前はまず矢印の男をやれ!! 毬の女は俺たちと妹で、輪入道の女は来で引き受ける!」
「……!! わかりました!!禰豆子……絶対に無茶をするなよ」
俺と禰豆子は互いに逆方向に走り出した。
(血を採る!! 必ず採ってみせる!! 少しでも早く、薬を完成させるために、どんな鬼とも戦う!! 戦って勝つ!!)
鬼の頸と刀の間に糸がピン、と張った。
(見えた!!隙の糸!!)
だが…
「ちっ、何という薄汚い子供じゃ。儂の傍に寄るな!!」
手に付いた目が閉じられた瞬間、隙の糸は音を立ててブツン、と切れた。
俺の攻撃はあと一歩のところで届かなかった。そしてそのまま、矢印に引っ張られて、木に激突してしまった。
鬼の攻撃は、これで終わりではなかった。俺は色んな方向に引っ張られ、壁、木、地面にぶつかっていく。
(痛い!! いやこれは………かなり痛い!!)
そして上へと引っ張られる。ある程度地面から引き離されたところで、俺の体を上へ引っ張る力は、横向きの方向に変わった。そしてそれも消えると、俺は地面に引っ張られていく。
技だ!! 技を出して衝撃を緩和しろ!!
―捌ノ型 滝壺!!
何とか重傷は免れた。
「珠世様を傷つけたこと、絶対に許さん!!」
愈史郎さんが珠世さんの名を叫ぶと、矢印の鬼は毬の鬼に向かって喋り始めた。
「珠世…? 朱紗丸よ。そちらにいるのは〝逃れ者〟の珠世ではないか。これはいい手土産じゃ」
「そうかえ」
朱紗丸と呼ばれた鬼が禰豆子に向かって毬を投げた。禰豆子は蹴り返そうとする。
「蹴っては駄目よ!!」
珠世さんが叫ぶも時すでに遅し。毬を蹴り返そうとした禰豆子の右足は毬に吹き飛ばされた。片足を失った禰豆子が地面に倒れ込む。
「禰豆子、転がれ!!」
禰豆子に指示を出したがこれも遅かった。朱紗丸の蹴りをもろに喰らい、建物の壁に叩きつけられた。
「楽しいのう、楽しいのう。蹴鞠も良い。矢琶羽、頸を五つ持ち替えれば良いのかの」
朱紗丸の尋ねに矢琶羽と呼ばれた矢印鬼は着物をはたきながら答える。
「違う、三つじゃ。鬼狩りと逃れ者。残りの二人はいらぬ」
頭上から焦げた匂いがした。上を見上げると、炎を纏った車輪が俺目掛けて向かってきた。
「……伍ノ型 熱界雷!!」
天へと昇る稲妻が車輪を両断した。
「来さん!!」
稲妻のような斬撃を放ったのは来さんだった。来さんは青地の鱗模様の羽織を靡かせながら、俺の近くに着地した。
「炭治郎、矢印の鬼に集中しろ。火車の鬼は僕が相手取る」
「分かりました」
どうする……絶対負けられない。だけど、隙の糸が見えても簡単には斬れないぞ。技は、寸分の狂いなく隙へ叩き込まなければ意味が無いんだ。少しでもズレると、技の威力は十分に発揮されない。矢印の能力で、太刀の方向を変えられてしまう……
そしてちょっと申し訳ないけど、手の目玉気持ち悪いな!! 申し訳ないけど!!
矢印鬼がまた掌の目を閉じた。紅い矢印が俺に向かってくる。それを避ける。
この矢印の速さ!! 矢印は俺に当たるまで消えない。そして刀でも斬れない。刃が触れた瞬間に、矢印の方向へ飛ばされる。。どうすれば……
矢印が俺の右腕に巻き付いた。
「全て儂の思う方向じゃ。腕がねじ切れるぞ」
刀じゃどう足掻いても矢印は取れない。だったら……!!
俺は木を駆け上り、矢と同じ方向に回転した。狙い通り、矢の巻き付きが緩くなり、抜け出せた。
(このまま攻撃され続けるとまずい!! 反撃しなきゃ……直接触れないようにあの矢印の向きを変えるんだ)
「そろそろ死ね!!」
(技の応用だ!!)
まず、陸ノ型で矢印を巻き取り、参ノ型の足運びを使って―――…距離を詰める!!
ねじれ!! 巻き取れ!!
体をねじって矢印を巻き取る。
(ねじれ渦・流流!!)
また目を閉じた。
(刀が重い!! だけど!!)
鬼の前で跳躍する。
(弐ノ型・改!!)
そして横向きになって体を垂直方向に回転させる。
(横水車!!)
鬼の頸と、俺の体が同時に地面に落ちた。
(やった…!! 水中でなければ威力の落ちるねじれ渦。向こうの攻撃のおかげで力が増して矢印を巻き取れた)
だが、これで終わりではなかった。
「くっ、おのれおのれおのれ!! お前の頸さえ持ち帰れば、あの御方に認めていただけたのに! 許さぬ、許さぬ許さぬ許さぬ! 汚い土に俺の顔をつけおって! お前も道づれじゃ!!!」
俺の体を、たくさんの矢印がめちゃくちゃな方向に突き抜けている。
(しまった、相打ちだ!! 攻撃を喰らっていた!!)
俺の体はすぐに引っ張られた。
(今まで喰らった矢印で一番強い力で引かれる!! 次々に技を放って受け身を取らないと体がグチャグチャだ!!)
――肆ノ型 打ち潮!!!
今度は上へ引かれる。
(ぐぅう!! 体に圧がかかって…刀を振れない!! 出せ!! 技を出せ!! こんな所で、やられるな!!)
――滝壺!!
――水面斬り!!
――打ち潮!!
――水車!!
――雫波紋突き!!
こんなに連続して技を出したことはない…!!両腕が千切れそうだ。あと何回だ?あと何回……
(考えるな!! 技を出し続けろ!! 滝壺!! 打ち潮!! 水車!! ねじれ渦!!)
空高く引かれた後、突然体を引っ張る力が消えた。疲労で全く動けない俺はそのまま地面に激突した。
(禰豆子…珠世さん…愈史郎さん…)
さっきの衝撃で、肋と脚が折れた。這いずらないと動けない。
落とした刀を握ろうとしたが、疲労で刀を握れなかった。だから、顎で噛むしかない。
(すぐ行く!! すぐ行くから、無事でいてくれ!! どうか無事で……!!)
ふと向こうを見ると、火車の鬼は来さんに追い詰められているようだ。来さんは片足だけで立っていた。
(はは……強いなぁ、来さん。その鬼、三人の中で最も人を喰っていただろうに……俺よりも早く鬼殺隊に入ったんだから当然か……)
疲労と痛みに耐えながらも、俺は禰豆子の許まで這いずりながら進んでいった……
第拾漆話 双子を照らす、二つの月 ~時透無一郎編~
これは、僕が鬼殺隊に入る前の話。
僕の父親は瞳が赤い。まるで炎のようだった。
鬼殺隊に入る前、僕は父、母、双子の兄の有一郎と四人で暮らしていた。
父は杣人だった。息子である僕と有一郎も、木を切る仕事の手伝いをしてた。
生活は決して豊かではなかった。でも、家族と一緒に暮らしている時が、一番幸せだった。
そんなある日、一人の客人が訪ねて来た。その日は、明るい満月だった。
「すみません」
その人は旅人の青年だった。肩には鴉を乗せていた。
「しばしの間、泊めさせて頂けないでしょうか……」
杖を持っていて、目に包帯を巻いていたから、家族全員、その人は目が見えていないのだと思った。
両親はその人を快く家に上げた。
その人は記憶喪失らしかった。何処から来たのか、自分の名前は何なのか、全く覚えてないようだった。それでも、その人は何時も穏やかな笑顔をしていた。
「ねぇ、お兄さんのこと、どう呼んだらいいの?」
「…自由に呼んでくれていいよ」
「そっか……じゃあ、お兄さんがここに来たのが満月の日の夜だったから……望月、ってのはどうかな?」
「……望月…か……良い名前だね。ありがとう」
「兄さんもそう思うよね?」
「……良いんじゃないか?」
その人…望月兄さんは父と有一郎、僕のやっていた仕事をよく手伝ってくれていた。母の仕事もよく手伝ってくれていた。望月さんは目が見えていないのに、どうして僕達の仕事を手伝えるのだろう。
どうして仕事を手伝えるのかを望月兄さんに聞くと…
「僕は人より耳がよく聞こえるんだ。だから、普通に歩いてても人や物にぶつからないし、木がどの方向に倒れるのかもわかる」
と言った。
望月兄さんは、よく書き物を書いていた。書いていたのは、日記と僕たちが今まで食べた食事の作り方だった。
「何を書いてるの?」
「日記だよ。無一郎君や有一郎君たちとの思い出は、忘れたくないから……」
望月兄さんに一番懐いていたのは、有一郎だった。望月兄さんは有一郎と僕にとても優しくしてくれた。まるで、本当の家族のようだった。
僕はずっと思ってた。望月兄さんの記憶が、ずっと戻らないままでいて欲しいって、ずっと思ってた。もしこの人の記憶が戻ったら、望月兄さんとの思い出が粉々に砕け散りそうだったから。
「望月さん、珍しいもん見つけたんだ。ちょっと来てくれよ」
有一郎が何かを見つけたようだった。
「……これは、何かな?」
望月兄さんは目が見えないから、物の色がわからない。
「青い彼岸花だよ」
青い彼岸花、という言葉を聞いた瞬間、望月兄さんは杖を落とした。
「青い…彼岸花……!?」
「…どうしたの?」
「……いや、何でもないよ。ごめんね」
その時の望月兄さんの様子はかなり変だった。まるで、その花のせいで、酷い目に遭ったかのような、そんな様子だった。
それから間もなく、母さんが体調を崩した。母さんは、具合が悪いのを言わないで無理して働いていた。
その日は嵐の日だった。父が薬草を採りに出て行こうとしたら、望月兄さんに止められた。
「薬草なら、僕が採りに行きます。貴方は、子供たちと一緒に看病をしてあげてください」
そう言って、望月兄さんは出て行った。すぐ戻るから、そう繰り返し言っていた。
だけど、彼は戻って来なかった。多分、崖から足を滑らせて落ちたんだろう。
戻って来たのは、望月兄さんの飼っていた鴉だけだった。鴉が持って来てくれた薬草で、母さんは助かった。
母さんの風邪が治った翌日は、僕も有一郎も一日中泣いた。
望月兄さんがいなくなってから、有一郎は変わった。
「情けは人のためならず。誰かのために何かしてもろくなことにならない」
「違うよ。人のためにすることは、巡り巡って自分のためになるって意味だよ。父さんと望月兄さんが言ってた」
「人のために何かしようとして死んだ人間の言うことなにてあてにならない」
――どうして? 前までは、あんなに望月兄さんに引っ付いてたのに…
「何でそんなこと言うの?望月兄さんは、僕たち家族のために……」
「望月さんからみれば、俺たちは赤の他人なのに、いつも俺たちに尽くした。馬鹿の極みだね」
「兄さん、ひどいよ…」
――ねえどうして?
「そんな言い方するなよ!! あんまりだよ!! こんな僕たちを見たら、望月兄さんが悲しむよ!!」
「俺は事実しか言ってない。うるさいから大声出すな。猪が来るぞ」
――どうして兄さんはそんなに冷たくなったの?
「無一郎の無は、〝無能〟の〝無〟。こんな会話、意味が無い。結局過去は変わらない。〝無一郎〟の〝無〟は〝無意味〟の〝無〟」
その時の兄は、言葉のきつい人だった。他人と接する時の僕は何だか、その時の兄に似ていた気がする。
父さんと母さんは変わらず僕たちを愛してくれたけど、息が詰まるようだった。僕は兄に嫌われていると思っていたし、兄は冷たくなったと思っていた。
春頃に、人が訪ねて来た。お館様の御内儀だ。あまりにも美しいので、僕は初め、白樺の木の精だと思った。父さんも母さんも、望月兄さんの時のように、快く家に上げようとした。
でも、結局兄は、いつものように暴言を吐いて、あまね様を追い返した。
「すごいね! 僕たち剣士の子孫なんだって。しかも一番最初の呼吸っていうのを使う、凄い人の子孫で」
「知ったことじゃない」
「ねぇ、剣士になろうよ。鬼に苦しめられてる人たちを助けてあげようよ。僕たちなら、きっと」
有一郎は乱暴に斧で木を切り付けた。何度も。何度も。
「お前に何ができるって言うんだよ!!! 米も一人で炊けないような奴が剣士になる? 人を助ける? 馬鹿も休み休み言えよ!! 本当にお前は父さんと母さんと望月さんそっくりだな!! 楽観的すぎるんだよ。どういう頭してるんだ。具合が悪いのを言わないで働いて体を壊した母さんも、嵐の中、父さんの代わりに薬草なんか採りに行った望月さんも、あんなに、あんなに止めたのに!! 母さんにも休んでって何度も言ったのに!! 母さんは助かったからまだ良いけど……望月さんは……!!」
有一郎は続ける。
「人を助けるなんてことはな、選ばれた人間にしかできないんだ。先祖が剣士だったからって子供の俺たちに何ができる? 教えてやろうか? できること、俺たちにできること。犬死にと無駄死になんだよ!! 結局はあの女に利用されるだけだ!! 何か企んでるに決まってる! この話はこれで終わりだ!いいな!!」
僕たちは口を利かなくなった。父さんも母さんも心配していた。ずっと家へ通ってくれるあまね様に、兄が水を浴びせかけた時だけ一度、喧嘩をして、父さんと母さんに怒られたきり。それでも父さんと母さんは変わらなかったけど。
夏になった。その年の夏は暑くて、僕たちはずっと苛々してた。夜も暑くて、蝉も鳴いてて。
父さんと母さんが遠出した日の夜、戸を開けて寝ていたら鬼が入って来た。
いきなり有一郎の左腕を切り落として来た。
「うるせぇうるせぇ、騒ぐな。どうせお前らみたいな貧乏な木こりは何の役にも立たねぇだろ。いてもいなくても変わらないような、つまらねぇ命なんだからよ」
目の前が真っ赤になった。生まれてから一度も感じたことのない、腹の底から噴き零れ出るような、激しい怒りだった。
「あああああああァァァァァアアアアア!!!」
途轍もない咆哮が、まさか自分の喉から、口から発せられていると思わなかった。
でもその時だった。僕たちの許に、救いが舞い降りてきたのは。
「――月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮」
一瞬で鬼の頸は斬り落とされた。
僕は鬼の頸を切り落とした人を見て、涙が零れた。
鬼の頸を斬り落とした人物、それは…
「大丈夫か? 無一郎。有一郎。」
――死んだはずの、望月兄さんだった。
「望月兄さん……!!」
望月兄さんが持っていた杖は、仕込み刀だった。
「無一郎!!」
だけど、僕は立ち止まった。
望月兄さんの目の包帯は取れて、鮮やかな空色の瞳が見えた。しかし、瞳孔はさっきの鬼みたいに、縦に割れていた。
「望月兄さん……その目……」
望月兄さんは、鬼になって戻って来た。目はもう人間でなくなってるけど、目つきはあの時のままだった。
「…神、様、仏…様」
有一郎が弱々しい声で喋った。
「どうか…どうか…弟だけは…弟だけは助けてください…弟は…俺と…俺とは違う…心の優しい子です…人の…役に…立ちたいと…いうのを…俺が…邪魔した…」
僕も望月兄さんも、涙を流していた。
「悪いのは…俺だけ…です。バチを当てるなら…俺だけに…してください……」
「兄さん……」
「わかって…いたんだ…本当は……無一郎の…無は……〝無限〟の、〝無〟なんだ。お前は、自分ではない誰かのために…無限の力を出せる…選ばれた人間なんだ……だけどな…無一郎、どれだけ善良に生きていたって、神様も仏様も結局、守ってはくださらないから…俺がお前を守らなければと思ったんだ。優しくしてやれなくて……ごめんな……!! いつも俺には余裕がなかった……人に優しくできるのも…やっぱり選ばれた人だけなんだよな……」
有一郎の命の灯は、消えようとしていた。
「有一郎だって、十分優しいよ」
望月兄さんは、あの時と同じ、穏やかな目つきで有一郎の手当てをしていた。
「……望月…さん」
望月兄さんも彼奴と同じ、鬼なのに。どうしてこうも違うんだろう……
「無一郎」
「何……?」
「青い彼岸花、採ってきてくれ……」
「わかった……!!」
僕は望月兄さんに言われた通り、青い彼岸花を採って来た。望月兄さんは青い彼岸花を受け取ると、それをすり潰した。
そして、肘から先が無くなった、有一郎の左腕に塗り付けた。
そこら辺に転がっていた有一郎の左腕を元のようにくっ付け、包帯できつく巻き付けた。
「三日間、ここで寝ているんだ」
有一郎の手当てが終わった。全身包帯だらけだけど、一命は取り留めたようだ。
手当てが終わったと同時に、僕は望月兄さんに泣きついた。
「うぅ…望月兄さんッ……!!」
望月兄さんは、泣きついた僕の背中を優しくさすっていた。
何時の間にか眠っていたようで、目を覚ますと、望月兄さんの姿は無かった。
「望月…兄さん……?」
代わりに父さんと母さんがいた。
「「無一郎!! 有一郎!!」」
「あれ?父さん…母さん……」
「無一郎!! 有一郎!! 無事だったのか!?」
父さんも母さんも、生きててよかった…
「うん…望月兄さんが来てくれたから……」
「望月君が……? だって、その人はもう……」
あっ、そうだった。二人はまだ、望月兄さんと会ってないんだ。
「あれ……夢、だったのかな……?」
僕は適当に誤魔化した。でもあれは夢なんかじゃなかった。
「そうだよ。きっと…良くない夢でも見たんだよ」
この後、あまね様とひなき様、にちか様が家に来て、僕たちは家を移ることになった。思い出の詰まったこの家を離れるのは、とても心苦しかった。
その後、有一郎の左腕は無事にくっ付き、問題なく動かせていた。
「そういえば、父さんと母さんは、僕と兄さんが鬼に襲われてる間、何をしてたの?」
「あぁ。
「もう、鬼になんか来ない場所なのよ。安心して暮らせるんだよ」
有一郎が回復したら、また四人で安心して暮らしていける。いや…六人かな……?
ちなみに、望月兄さんを見た父さんと母さんは二日間、腰を抜かした。
その後の僕と有一郎は、人を鬼から守る為に鬼狩りの道を志すようになり、望月兄さんと朔夜姉さんから剣術を学ぶことになるのだった……
第拾捌話 炎と水 ~炎柱・煉獄杏寿郎編~
「カアアッ―! 杏寿郎、錆兎ト合流シ、南西ノ町ニ向カエ!」
俺が柱になって一年が過ぎた。柱も新たに俺の元継子の甘露寺、伊黒、時透の三人が加わり、柱は合計十二人になった。水柱の補佐も含めれば十五人だ。
柱の中でも特に辻風は柱の模範ともいうべき存在だ。誰よりも強く、誰に対しても礼儀正しく、そして、誰に対しても優しい。正直俺は尊敬していた。
彼とは何度も打ちこみ稽古をしてきたが、一度も彼には勝てなかった。
話が逸れてしまったが、今俺は鴉から任務が与えられた。水柱補佐の一人、鱗滝錆兎との合同任務だ。
鬼が出た場所は、ここより南西の町。その町では、四、五日おきに霧が夜間に発生し、霧に包まれた人間のうちおよそ半数が忽然と姿を消す、という異常事態が起きている。姿を消した者の中には数名の隊士も含まれているから、柱である俺と、補佐の錆兎が向かうことになった。
錆兎が来るまで、時間は掛からなかった。
「すまん、待たせてしまって」
心なしか、錆兎の右頬に付いた傷が濃くなった気がする。
「気にするな! それよりも鬼の場所へ急ごう!」
例の町で霧が発生するのは明日、若しくは明後日の夜。ここから南西の町までそれなりに距離がある。だから急ぐ必要があった。
俺と錆兎は全速力で町へと向かった。
俺たちが町に到着したのは、翌日の日没直後だった。
「どうにか…間に合ったようだな……」
「そろそろ霧が出る頃だな。警戒しておくんだ。いつ、どこで鬼が出るかも分からない」
と、一人の子供が俺たちの方へ近づいていった。
「お、お兄さん達」
そして俺たちに話しかけてきた。
「む? 何だ?」
俺がそれに応じると、少年は忠告をした。
「今晩霧が出るから早くどこかの建物に入った方がいいよ」
「…ということだ。錆兎、この少年を近くの建物に……」
建物に、の所まで俺が言いかけた途端、周りは突然白い霧に囲まれてしまった。
「煉獄、鬼が出たみたいだ」
「うむ。少年、俺たちのそばから離れるな」
「うん…」
少年を守りながら、俺と錆兎は鬼を探す。霧が出ている時間は三時間程だと聞いている。行方不明者が出るのは霧が出ている間のみだ。
俺は前を、錆兎は後ろを見張っている。いつ鬼が現れても良いように。
だが、鬼が現れることは無く、そのまま日が昇り、霧が晴れてしまった。
「今回は鬼が現れなかったようだ。だが姿を現すまでは此処を離れるわけにはいかないしな……」
今回は鬼が現れなかったが、また四、五日経てば霧は出てくる。
「よし、錆兎。しばらくここに滞在する必要が…」
後ろにいたはずの錆兎が忽然と姿を消してしまった。そしてあの少年も姿が見えなくなっていた。俺は必死に二人を探した。だが、見つかることはなかった。
それからというものの、錆兎と少年が姿を現すことは無く、再び霧が現れる日が訪れた。
錆兎と少年が姿を消してから五日後、町では再び霧が現れた。その頃、俺は丁度町の者に聞き取りを行っていた。
人の姿が消えるのは、決まって霧が晴れる時刻…すなわち、日の出の時刻であることがわかった。更に、この町で霧が現れても、人が消えるのは極稀であることがわかった。
町の者を全員、藤の香り袋を持たせた状態で町の外で待機させ、俺は町の中で夜明けまで座して待つことにした。ちなみに、香り袋はこの五日間、鎹鴉に仕入れて貰ったものだ。
しばらく霧中で待っていると、霧が晴れた。だが、霧の向こうは町ではなく、地下洞窟のような場所だった。
「うむ、鬼の気配が強くなった。鬼の根城はここで間違いないようだな」
天井からはところどころ人が吊り下げられていた。すぐに下ろしたが、全員既に息絶えているようだった。犠牲者の中には鬼殺隊士も数名、含まれていた。それでも、俺は全員、天井から下ろしておいた。まだ生きている者がいるかもしれないからだ。
それにしても、この空間はかなり入り組んでいるな! 道に迷いそうだ!! いや、実際迷ってしまっている!!
しばらく歩き続けると、また人が吊り下げられていた。すぐに下ろすと、まだ息があった。だが、かなり衰弱してしまっている。
「に…逃げろ……」
男は弱々しい声で俺に警告した。
「ここで何があった!?」
「見覚えの無い…少年に連れられて……そしたら…少年が突然……」
男が言いかけたところで、後ろから足音がした。
「あれぇ? ここで何してるのぉ? お兄さん」
振り返ると、そこには錆兎と共に姿を消した、少年がいた。
「よもや。町で起こっていた神隠しが、まさかお前の仕業であったとは」
俺は確信していた。この少年は、鬼であると。四、五日前には感じられなかった殺気が、今目の前にいる少年から漏れ出ている。
「…まだ生きてるのがいたのか。でも丁度いいや。お腹ぺこぺこだったんだよね」
少年の姿をした鬼が、背中から触手を生やし、男に向かってそれを伸ばした。
「炎の呼吸 弐ノ型 昇り炎天!!」
日輪刀で触手を斬り落とす。
「……鬼狩りの柱だな?お前」
「錆兎をどこへやった?」
「錆兎? ああ、あの宍色の鬼狩りか。彼奴ならさっき下の層に落としておいたよ。彼奴もお前と同じ、柱だったようだけど、思ったより弱かった」
奴の言っていることが本当ならば、この鬼の実力は下弦を大きく上回る。下手をすれば上弦に匹敵するだろう。
「お前も下に落としてやるよ。そりゃあ!!」
突然、俺の立っていたところが大きく裂けた。それを大きく飛び越え、鬼へと近づく。
「炎の呼吸 壱ノ型」
手に握っている煉獄の赫き炎刀が、鬼の頸を袈裟斬りにする。
「不知火!!」
鬼の頸は呆気なく斬り落とされた。だが、いつまで経っても体が灰となって消えない。どういう事だ?
「今お前は困惑してるよね? 何故か教えてあげようか。それは、これが本体じゃないからだよ」
本体では…ない!?
「今お前が斬ったのは俺の肉人形さ。本体はこの空洞のどこかにある。絶対見つけられないから」
この空洞自体が、鬼なのか。だが、どんな鬼にも、必ず急所はある。
「そうしてお前が絶望を抱えたまま、ゆっくりと死んでいった後、骨も残さず喰ってやるか……」
突然、鬼の言葉が途切れた。数秒の沈黙の後、鬼は断末魔を上げた。
「ギャァァァァァァ!!!!」
断末魔と共に、空洞全体も大きく揺れ始めた。このままでは崩れる。せめて、その男だけでも抱えて脱出しなければ。
俺は生き残った男を抱え、出口を探した。だが、どこにもなかった。
そろそろ今俺が立っている場所も崩れる。鬼は討伐できたが、恐らくこれが俺の最後の任務だろう、そう思っていたが、神は俺を見放さなかった。
「玖ノ型 水流飛沫・乱!!」
下から飛び上がったのは、鬼の頸を断ち切った錆兎だった。
「煉獄!! 俺に掴まれ!!」
俺は錆兎の手を取った。錆兎は俺と男を引き、無事地上に脱出した。
町の地下に形成されていた地下空洞が崩落し、町は大きく陥没してしまったが、幸いにも陥没による犠牲者はいなかった。恐らく、俺が藤の香り袋を持たせて町の外で町民を残らず待機させたお陰だろう。運が良かった。俺がまだ甲であった頃、帝都付近で下弦の弐を討伐した時と似たような状況になっていた。
その一件で、俺はまた更なる高みへ一歩、近づいたような気がした……
どうも、無限列車編公開日から一週間ほど遅れて見てきた最果丸です。
無限列車編が私の中で最も心に残った映画です。何度見ても飽きることは無いでしょう!!
大正コソコソ噂話
『柱でモテているのは音柱、鳴柱、光柱の三人(雷の呼吸またはその派生の使い手)』
(まだ見てない人はネタバレ注意)
特に猗窩座戦のBGMが物凄くカッコよかったです。
この作品が完結した後、ありふれ組はトータス行きですが、人数は絞りますか?
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少人数に絞る
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一部切り捨て
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全員トータス行き