現代の高校生達は、大正で鬼狩りをする ~召喚鬼滅譚~   作:籠城型・最果丸

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時透家に咲いていた青い彼岸花は全部枯れた。


第漆節 再会と変異

第拾玖話 特殊な血 ~鳴柱・辻風来編~

 

珠世さんの屋敷が襲撃を受けた。襲撃してきた鬼は三人。その中でも、火車を操る女の鬼が一番強い。かなり人を喰っているな。百人や二百人どころじゃない。威圧感も並外れている。下手をすれば上弦の鬼に匹敵するだろう。

 

僕は火車の鬼を凝視していた。あとの二人は柱なら余裕で討ち取れる。だがあの鬼は特に警戒しなければならない。

 

だが、火車の鬼に気を取られて、愈史郎の頭が毬で砕かれた。

 

「愈史郎さん!!」

 

炭治郎が叫ぶ。愈史郎は鬼だから、毬で頭を砕かれても死ぬことはない。だが炭治郎は人間だ。頭を砕かれれば間違いなく死ぬ。

 

毬の鬼が再び毬を投げてきた。炭治郎は斜めから曲線で毬を突き、威力を和らげた。

 

(不味い……!!)

 

火車の女鬼が遠くから炭治郎を狙っている。炭治郎は今攻撃手段が塞がれている。ここで火車を喰らえば不味いことになる。

 

僕は屋敷を神速で抜け、火車鬼の前に立つ。

 

「ん? 何じゃお主は」

「その子に指一本触れるな」

 

炭治郎ではこの鬼は倒せない。他の柱でも、倒せるかどうか分からない。今ここにいる者でこの鬼を倒せるのは恐らく僕だけだろう。僕がやるしかない。

 

「ところで其方よ、名は何と申す?」

「…僕は鬼殺隊、階級・鳴柱、辻風来だ」

「ふむ、鬼狩りの柱とはの……良い名じゃ。妾は焔螺。耳飾りの鬼狩りの頸を持ち帰り、十二鬼月となる者じゃ。よく見れば其方、煌びやかな顔立ちをしておる……どうだ? この戦いの後で、妾と交わってみぬか?」

「……えっ?」

 

いきなり何を言ってるんだこの人は……出会っていきなり交わってみないかって……常時発情期みたいな鬼だな……

 

「妾は今まで数多の鬼狩りと交わって来たが、其方のような整った顔立ちの鬼狩りは初めてじゃ。鬼狩りが妾を楽しませたのは今まで一度きりの奴ばかりじゃった」

 

数多の鬼狩り……やはり彼女は隊士を沢山殺している。益々放ってはおけない。

 

「用が済んだ鬼狩りは喰らったが、其方だけは特に気に入った。鬼として一生、妾と共に生きる道を選んではみないか?」

 

何だ……勧誘しているだと? 彼女は十二鬼月じゃない。他の二人も違う。瞳に数字が刻まれていないからだ。それに、鬼への勧誘を許されているのは上弦の鬼だけのはず。

 

…今はそんな事を考えている暇はない。彼女は僕を鬼に勧誘した。

 

僕の答えは決まっている。

 

「生憎だけど、僕には大事な家族がいる。だからその申し出は受け入れられない。家族を捨てて、鬼へと堕ちた奴を知っているから」

 

かつての仲間に、僕と同じく妻子がいる者がいた。しかし、彼は妻と子を捨てて鬼狩りの道に入り、やがて人喰い鬼へと堕ちてしまった。僕はそんな悲しい存在にはなりたくない。

 

「……そうか。ならば…」

 

焔螺は火車を両手に、構えを取った。

 

「今ここで、其方を打ち負かすのみじゃ!!」

 

そう言って火車を二つ投げた。僕はそれを日輪刀で斬り捨てる。しかし、火車は直ぐ焔螺の手に生成される。

 

「いくら斬っても、妾の火車は直ぐ甦るぞ?」

 

毬の鬼みたいに一定時間攻撃手段を封じることはできないか。

 

「今度はこれでも喰らうがいい! 血鬼術 紅炎蛇行!!」

 

蛇のようにうねる炎を放ってきた。

 

「雷の呼吸 参ノ型 聚蚊成雷!!」

 

それを日輪刀で打ち消していく。

 

「今まで交わった柱の中に、雷はいなかったのう」

「交わった柱? 柱を喰ったのか!!」

「ふふふ、其方で三人目じゃ。だが安心するのじゃ。其方は喰らわずに一生妾と交わり、共に生きていくのじゃからの」

 

既に柱を二人殺している……間違いない。実力は上弦の鬼並みだ。

 

「火達磨輪入道!!」

 

垂直方向に回転する火車が、僕に向かってくる。

 

「弐ノ型 稲魂!!」

 

五つの斬撃で斬り伏せる。しかし火車は直ぐに再生する。

 

「今度は近接攻撃じゃ」

 

焔螺は僕に向かって来た。

 

「不知火」

 

車輪で袈裟斬りしてきた。僕はそれを海老反りで躱す。

 

「何故その技を使える!?」

「交わった炎の柱から奪ったのじゃ。妾は交わった鬼狩りの技を使うことができるからの」

 

今までの隊士も、この能力の前に敗れたのか。

 

「妾の使える技は、炎だけではないぞ?」

 

車輪から出ていた炎が、今度は煙に変わった。

 

「霞雲の海」

 

使えるのは炎だけじゃないのか?!

 

「霞の柱も強かったがの、それでも其方には遠く及ばぬようじゃ。まぁ、妾が出せるのは霞ではなく煙じゃが」

 

車輪が再び炎に包まれる。

 

「気炎万象」

 

車輪が振り下ろされる。それを刀で弾く。

 

「盛炎のうねり」

 

うねるように車輪を振り、炎を噴き出す。巨大な渦の如く宙をうねる炎が僕に襲い掛かる。

 

「稲魂!!」

 

それをまた斬撃で打ち消す。

 

が、炎に気を取られて車輪が焔螺の両手に無いことに気づかなかった。

 

車輪の音を捉える。炭治郎に向かっていた。

 

「伍ノ型 熱界雷!!」

 

天に昇る勢いで稲妻の斬撃が車輪を下から斬り上げる。

 

「来さん!!」

 

炭治郎は矢印の鬼と戦っているようだ。となると毬の鬼は珠世さんと愈史郎、禰豆子が相手取っているのか。

 

「炭治郎、矢印の鬼に集中しろ。火車の鬼は僕が相手取る」

「分かりました」

 

再び焔螺に狙いを定める。

 

「雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃」

 

神速で焔螺へと迫り、間合いを詰める。そして横一文字に日輪刀を振るった。

 

「炎虎」

 

しかし焔螺はそれを避け、車輪を大きく振り下ろす。大きく振り下ろした車輪から放たれた炎が、虎の如く僕を襲う。

 

それを避けようとした瞬間、左足全体に痛みを感じ、そして感覚が無くなった。炎をまともに喰らい、吹き飛ばされた。後頭部に火傷を負った。

 

立ち上がろうとしたが、上手く立てない。自分の左足を見て、ようやく左足の感覚が無くなったことに気がついた。本当なら避けるのは造作もないが、体の動きがいつもより遅くなっている。

 

(炭治郎に車輪を投げた時、もう一つを向こうに待機させておき、僕が間合いを詰めた時に片足を飛ばさせたのか)

「其方の探し物は、これのことかの?」

 

焔螺は吹き飛んだ僕の左足を持って後ろに立っていた。

 

そして左足から滴る血を舐めとった。

 

「稀血と思ったが、どうやら違うようじゃ。それでも素晴らしい味じゃの。じゃが食べてしまうのは勿体無い。あのお方…鬼舞辻様から血を分けて戴いたときのように力が更に漲る」

「大丈夫なのか!? 彼奴の名を口にして」

「!? 妾としたことが、しくじったのう。でも何ともない。それに、人の肉を喰いたいとも思わぬ……前々からその欲は疎ましく思っておった」

 

僕の血を摂取し、鬼舞辻の呪いを外してしまったのか。人を喰らいたいという欲を疎ましく思っていた、というのに疑問が残る。鬼ならば人を喰いたいという欲は持って当然だ。

 

「じゃが其方を破って交わりたいという欲求に変わりはない…」

 

それでも戦う意志はあるようだ。

 

「鬼になろう。辻風来よ。其方ならばきっと、猗窩座様にも気に入って戴ける」

 

車輪の数が二つから九つになる。

 

「炎の柱から奪い取った奥義を喰らうがよい!!」

 

鞘を杖代わりにして、立ち上がる。

 

「奥義 煉獄!!」

 

焔螺が全身を炎に包み、物凄い勢いで突進してくる。

 

龍を模る炎を、僕は刀を横に薙いで打ち消した。

 

「なっ…!?」

 

続いて手足を斬っていく。再生が若干遅くなっている。

 

焔螺は地べたに座り込む。

 

「先程からどうも本調子が出なかった。お前の血鬼術だな?」

 

ついさっき体がいつもの軽さになった。思うように速く動ける。

 

「ふふっ、見破られたか…そうじゃ。妾の血鬼術は、炎や技を奪うだけではない。気づかぬ間に神経を麻痺させ、十分に力を発揮できなくする能力じゃ」

「何故今になって解いた?」

「其方と全力で戦いたかったのじゃ。そうやって柱を打ち破って来た。じゃが…其方の方が圧倒的に…強かった…」

「どうしてそこまでして男の隊士に固執するんだ? 喰らう前に交わる、という行為についても疑問が残る」

 

焔螺は重々しく口を開く。

 

「妾は…妾は鬼となる前…ある店の看板娘じゃった。町でも評判の美人として知られておった…じゃが或る日、店が焼け、妾だけ生き残ってしまった。その後、鬼に襲われた時、ある鬼狩り…様が妾の命を救いなさった。その鬼狩り様の顔は鬼になってから忘れてしまったが、とても端正であったことは覚えておる…だから妾は、端正な顔立ちの鬼狩りを探し回っておった…あの時の借りを返すために……」

 

焔螺は両目から涙を流しながら続ける。

 

「でも…人を喰らわねばならんのは鬼の性…妾はそれに抗うことができなかった…心では喰らいたくないと強く念じても、体は言うことを利かん…悲しいことじゃ」

 

沢山の隊士を殺したことは許さないけど、最期に彼女が救われてよかった。

 

僕は静かに刀を構える。

 

「それを其方は…貴方様は鬼の性という枷から妾を解き放ってくださった…妾は二度も救われた……貴方様の血を舐めとってすぐ、記憶にかかっていた霧が晴れました……貴方様だったのですね………お会いしとうございました……鬼狩り様」

 

僕も思い出した。かつて単独任務で、一人の少女を鬼から救ったことを。そのときの少女が、今目の前に座り込んでいる鬼だったのだ。

 

できるだけ苦痛を与えないように頸を斬ろうと刀を振るった。しかし焔螺は待ったをかけた。

 

「鬼狩り様、妾に…妾に鬼舞辻様の…鬼舞辻の討伐のお手伝いをさせて下さい……!! あの時の借りを、まだ返してはおりませぬ」

 

焔螺はぽろぽろと涙を流しながら、僕に懇願をした。彼女の音は言動と一致した。彼女は本当に、鬼舞辻の討伐に力を貸したいようだ。

 

焔螺は吹き飛ばした僕の足を返し、僕は足の断面に薬を塗り付けて無理矢理くっ付け、布で縛った。

 

「あやつは妾の生涯を狂わせた。敵わぬと判ってても、一矢報いたいのです! 鬼舞辻を討ち取った後、妾を陽の光に浴びせて下さい…妾の頸にかけて誓います……だから…お願いします……」

 

嘘は吐いていないし、僕も願いを受け入れたい。膵花やカナエさん、無一郎もきっと受け入れてくれるはず。だけど、他の柱の皆…特に実弥と小芭内は受け入れてはくれないだろう。

 

僕が迷っていると、突然声が響いた。

 

「黙れ――――っ!! 黙れ黙れ!! あの方は、そんな小物ではない!! あの方の能力は凄まじいのじゃ。誰よりも強い!」

 

毬の鬼だ。相当焦っている表情をしている。矢印の鬼は炭治郎が倒したようだ。

 

「あの方は…鬼舞辻様は!!」

 

鬼舞辻の名を口にした途端、毬の鬼は口を塞いだ。きっと珠世さんの血鬼術「白日の魔香」の効果だ。脳の機能を低下させ、虚偽を述べたり、秘密を守ることが不可能になる。

 

「その名を口にしましたね。呪いが発動する…可哀想ですが……さようなら」

 

毬の鬼は怯えながら走り回る。

 

「ギャアアア!! お許しください! お許しください!! どうか、どうか、許して…」

 

毬の鬼は蹲って苦しむ。

 

「ギャアアッ…ぐぅうっ…………」

 

すると、口と腹から、腕が飛び出た。彼女の腕じゃない。

 

腕の一本が毬鬼の頭を掴み、握り潰した。そして他の腕も彼女の体を潰していく。あまりの生々しさに、全員言葉を失った。焔螺は僕の羽織の裾をぎゅっと握っている。

 

「奴の名を口にしただけであのような事に……」

 

焔螺は酷く怯えていた。

 

呪いによる自壊が止まり、残ったのは片腕と片目だけだった。

 

珠世さんが残った目の近くにしゃがみ込んだ。

 

「死んでしまったんですか?」

 

炭治郎が珠世さんに尋ねる。珠世さんはそれに答える。

 

「間もなく死にます。これが〝呪い〟です。体内に残留する鬼舞辻の細胞に、肉体を破壊されること」

 

基本的に…鬼同士の戦いは不毛だ。意味が無い。何故ならいくら傷を負わせようと鬼にとってはそれは掠り傷に等しいからだ。鬼を殺すには陽光を浴びせる、日輪刀で頸を斬る、しのぶさんの毒を体に打ち込むといった、特別な方法が必要になる。だが、鬼舞辻は鬼の細胞を破壊できる。

 

愈史郎が炭治郎の口に布を乱暴に当てた。人体には害が出るからだ。どのような害があるかは知らないが。

 

「炭治郎さん、来様。この方は、十二鬼月ではありません」

 

それは既に見抜いていた。上弦なら両目、下弦なら片目に数字が刻まれている。だが襲撃してきた三人には目に数字が刻まれていなかった。

 

「もう一方も恐らく、十二鬼月ではないでしょう。弱すぎる」

 

そう、毬鬼と矢印鬼は柱ならば余裕で討ち取ることができた。焔螺は僕か膵花でなければ単独での討伐は恐らく厳しいだろう。杏寿郎か行冥、実弥ならできなくもなさそうだが。

 

「来様がお相手したそちらの鬼の方は、どうでしたか?」

 

炭治郎と愈史郎が僕と焔螺の方に向く。炭治郎は驚愕の表情で、愈史郎は敵意剥き出しで焔螺を見る。

 

「柱を二名、葬っていましたが、十二鬼月ではありません」

「そうですか……」

 

珠世さんは残った片腕から、血を採った。

 

「血は採りました。私は、禰豆子さんを診ます。薬を使った上に、術を吸わせてしまったので。ごめんなさいね」

 

そう言って珠世さんは屋敷へと入っていった。

 

「頭の悪い鬼もいたものだな。珠世様の御体を傷つけたんだ。当然の報いだが。もうあとは知らんぞ。布は自分で持て!! 俺は珠世様から離れたくない! 少しも!!」

 

愈史郎はそのまま珠世さんの後を追っていった。

 

「…………ま…り…」

 

突然声が聞こえた。

 

「ま…り…」

 

声がするのは、毬鬼の片目と片腕が転がっている場所からだった。弱々しく毬を求めるその声は、まるで小さい子供のようだった。

 

炭治郎は布で口を塞ぎながら、毬鬼の近くに毬を置く。

 

「……毬だよ」

「遊…ぼ…遊…ぼ」

 

焔螺は近くへ歩み寄る。

 

「……人を殺した罰を共に償い、再びこの世に生を受けたならば…その時は、共に毬遊びをしよう……朱紗丸。矢琶羽も一緒にの……」

 

毬鬼は朱紗丸、矢印鬼は矢琶羽というのか。

 

「あの……貴女は…?」

「妾は焔……朱香という。朱紗丸と矢琶羽と共に、この屋敷に訪れたのじゃ。小僧、名は何という?」

 

焔螺が人間だったころの名前は、朱香というようだ。

 

「俺は竈門炭治郎…」

 

炭治郎が自分の名を言い終わったと同時に、曙光が差す。

 

朱香は日傘を開き、直射日光を防ぐ。朱紗丸という鬼は燃え尽きた炭のように骨も残らず焼けていった。

 

鬼舞辻無惨、彼奴は元人間とは思えない非道さを炭治郎に見せた。慈しい音を奏でる炭治郎でさえ、本物の鬼だと思わせる程。

 

炭治郎と朱香、そして僕は屋敷へ向かう。

 

「…珠世さん」

「こちらです。地下へ」

 

地下牢へと続く戸を潜り、珠世さんと愈史郎、禰豆子の許へと向かう。

 

「禰豆子」

 

禰豆子が炭治郎に抱きつく。そして僕と朱香の頭を撫でる。

 

「炭治郎、これは…?」

 

僕らのことを家族の誰かだと思っているのだろうか…

 

「多分…あっ、禰豆子…」

 

そして今度は珠世さんに抱きつく。愈史郎は顔に青筋を浮かべている。そんな愈史郎に、禰豆子は頭を撫でる。

 

「先程から禰豆子さんがこのような状態なのですが…大丈夫でしょうか」

「大丈夫です。多分、二人のことを家族の誰かだと思っているんです」

 

禰豆子には暗示がかかっているようだ。耳を澄まして禰豆子の音を聴くと、「人間は皆、私の家族」、「人を、守る…お兄ちゃんを、守る……鬼は、敵。人を傷つける、鬼を許すな」と聴こえてくる。

 

「? しかし、禰豆子さんのかかっている暗示は、人間が家族に見えるものでは? 私達は鬼ですが…」

「でも禰豆子は、人間だと判断してます。だから守ろうとした」

 

僕はこの時、禰豆子を斬らないという選択は正しかったのだと改めて認識した。

 

「俺…禰豆子に暗示かかってるの嫌だったけど、本人の意思がちゃんとあるみたいで良かっ…」

 

珠世さんは涙を流した。

 

「す、すみません!! 禰豆子! 禰豆子! はなっ、離れるんだ! 失礼だから!!」

 

炭治郎が禰豆子を離そうとするが、珠世さんは禰豆子を抱き返した。

 

「ありがとう、禰豆子さん。ありがとう…」

 

珠世さん…家族を喪って、淋しかっただろうな。

 

「…人でなくなることは、これほどにつらく苦しいものなのか……」

 

朱香がぼそりと零す。それに僕は静かに頷いた。

 

 

「私たちはこの土地を去ります」

 

珠世さんがそう言う。

 

「鬼舞辻に近づきました。早く身を隠さなければ危険な状況です。それに、うまく隠しているつもりでも、医者として人と関わりを持てば、鬼だと気づかれる場合がある。特に子供や年配の方は鋭いです」

 

そこまで言った後、珠世さんが炭治郎と僕に提案をする。

 

「炭治郎さん、来様」

「「はい」」

「禰豆子さんは、私たちがお預かりしましょうか。それと、そちらのお嬢さん…」

「朱香じゃ」

「朱香さんも私たちでお預かりしましょうか」

 

禰豆子だけでなく、焔螺も預かるという珠世さん。

 

「え」

「絶対に安全とは言いきれませんが、戦いの場に連れて行くよりは危険が少ないかと」

「…………」

 

了承すべきか炭治郎と共に悩んだ。確かに戦いの場よりも珠世さん達の近くの方が遥かに安全だが…

 

迷っていると、禰豆子が炭治郎の手を握った。それと同時に朱香も鱗模様の羽織の裾をぎゅっと握る。焔螺の顔は、決意に満ちていた。禰豆子も同様だった。

 

「…ありがとうございます。でも、俺たちは一緒に行きます。離れ離れにはなりません。もう二度と」

「妾も、このお方と共に往きたいのじゃ…」

「………わかりました。では、武運長久を祈ります」

「じゃあな。俺たちは痕跡を消してから行く。お前らももう行け」

 

愈史郎がそっぽを向いたまま別れを告げる。

 

「あっ、はい。じゃあ…日が差してるし、箱を」

 

炭治郎が禰豆子と共に行こうとすると、愈史郎が呼んだ。

 

「炭治郎。お前の妹は…美人だよ」

 

それに炭治郎は微笑む。

 

 

「禰豆子を殺さないでおいてくれて、ありがとうございます。来さん」

「何故かはわからないけど、禰豆子なら大丈夫だと思ったんだ」

 

本当はまだ完全には信じ切れていない。だからこれからある人物へ確認を取りに行く。

 

「あの、来さんはこれからどうするんですか? 俺と同じく鬼を連れていますけど……」

「そのことについてだけど、君の師匠の鱗滝左近次殿と少し話をした後、本部へ一人報告に行くよ。君達のことは内緒にするからね」

「ありがとう…ございます」

 

炭治郎は目尻に涙を浮かべながらお礼を言う。

 

「じゃあ、来さん。俺はこれで」

「うん、また何処かで」

 

禰豆子の入った霧雲杉の箱を背負って、炭治郎は行く。

 

「義勇と錆兎、真菰さんに宜しく!」

 

炭治郎は驚いていたようだが、すぐに活きの良い返事をした。

 

 

朱香は日傘を差しながら言う。

 

「来様」

「どうした? 朱香」

 

僕の名前を呼んだところで、彼女は言い淀んだ。

 

「…妾に、新たな名をお与えください」

「しかし、君には朱香という名が…」

「あの頃の妾は、非力な女子(おなご)でした…ですが今は、下弦までならば妾一人で倒せる。焔螺という名は、鬼舞辻が与えた妾の忌まわしき所業の象徴。今すぐ消し去りたいのです」

 

成程、名前を変えてまで隊士を喰らい続けたことを後悔しているのか。それと、人間だった頃の名は憶えているが、彼女はそれでも名前を変えたいようだ。

 

「それに……」

「それに?」

 

朱香は顔を赤らめてもじもじとしている。

 

「妾は来様に…名を付けていただきたいです」

 

朱香は片手で顔を隠しながら、伝える。僕は悩んだ末…

 

「……いいよ」

 

朱香の申し出を受け入れた。朱香はちょっと跳ねて喜んだ。日光で焼けるなよ。ここのところ僕は色んな人のお願いを聞き入れ過ぎだなぁ……

 

「…そうだなぁ。なら、『朱羽(あけは)』なんてどうかな?」

「朱羽……」

 

朱紗丸と朱香の『朱』と矢琶羽の『羽』を採って『朱羽』。まぁ適当に採って付けた名前だし、嫌だったなら他の案を…

 

「……ッ」

 

彼女はそっと、雫を流していた。

 

「朱紗丸…矢琶羽…」

 

その二人の鬼とは初対面だったようだが、すぐに仲良くなっていたみたいで、彼女は寂しそうな音を奏でながらも嬉しそうに口元を綻ばせた。

 

「ありがとう…ございます…」

 

目の前の女の鬼はもう、非力な看板娘の『朱香』でも、人を喰う鬼の『焔螺』じゃない。悪鬼と戦う『朱羽』だ。

 

「妾を来様の影に潜らせていただけますか?」

 

朱羽は僕の影に潜らせて欲しいと頼んだ。それを了承すると、朱羽は僕の影に溶け、日傘を残して姿を消した。この瞬間、僕も炭治郎と同じ鬼を連れた隊士となった。

 

炭治郎が行った後、日傘を左手に僕も歩み出す。炭治郎の師、鱗滝左近次さんの住む狭霧山への道へと……

 

 

 

 

第弐拾話 親友との再会 ~坂上龍太郎編~

 

最終選別を通り、俺と南雲は鬼殺隊士となった。剣技とは無縁の生活をしていた俺でも、剣術で鬼を倒せることを知った。

 

現代日本にいた頃の俺は、南雲のことをやる気のないやつだと思っていたが、稽古に必死に打ち込む南雲の姿を見て、その認識は間違っていたことを知った。

 

彼奴は…南雲は、誰よりも努力を惜しまない奴だった。刀は黒だったが、刀が赤の俺よりも炎の呼吸を使いこなしている。だからか、煉獄さんの羽織みたいな羽織を貰っている。

 

そんな俺を光輝が見たらどう思うだろうか。きっと、努力が足りないと言うのだろう。

 

今俺が向かっているのは単独任務だ。ある町に鬼が出たのだとか。鎹鴉から伝えられた。

 

俺には日輪刀以外に籠手も支給された。籠手の材料は日輪刀と同じで、鬼を殺すことができる。それでも刀が無いと鬼を殺せる気がしなかった。空手が得意な俺が刀を使って鬼を殺すなんて、変わってるよな。

 

 

俺は鬼の場所に向かっている途中、まだ俺と南雲が修行をしていた頃のことを思い出していた。

 

『待ってろ光輝。出来るだけ早く鬼殺隊に入って、お前を捜し出してやるからな』

 

素振りをしながら、俺はそう呟いた。

 

『坂上少年、天之河を知っているのか』

『あっ、煉獄さん。はい、そうなんです。天之河光輝っていうんですけど、ここに来る前に逸れてしまって…』

 

光輝の名を聞いた瞬間、煉獄さんの眉がぴくっと動いた。

 

『彼も俺と同じ柱の仲間だ。中々の強さを持っている』

 

俺は木刀を落とした。

 

『光輝が…柱に?!』

 

光輝が柱であることを知って、俺が今すぐにでも会いたいと思わないはずがなかった。だが、柱というのは多忙だと煉獄さんが言っていたから、その機会は得られなかった。

 

最終選別を通り、晴れて俺は鬼殺隊の一員となった。たまに柱との合同任務があるというから、もしかしたら光輝と出会えるかもしれない。俺はこれからの任務に期待を寄せつつあった。

 

 

夕方の頃に鬼が出たという場所に到着した。俺は町の裏通りを見て少し怖気づいた。

 

そこは血まみれになっていて、至る所に死体が転がっていた。

 

太陽もすっかりと沈み、鬼が動き出す夜になった。

 

俺は刀に手を掛け、鬼を探す。すると、少し離れた所でぐちゃぐちゃと不愉快な音が聞こえてきた。音のする方へ向かうと、鬼が人を喰っていた。

 

「あァ? 食事の邪魔すんじゃねぇよ」

 

鬼は俺に気づくと死体を放り捨て、俺に向き直った。左目には『下肆』と刻まれていて、その上からバツ印が付いている。

 

「お前がここで人を喰ってる鬼か」

「そうさァ。あと十五人喰えば俺はまた十二鬼月に戻れる」

 

十二鬼月。鬼の中でも強いとされる鬼達だ。目の前のコイツは元下弦の肆。まさか柱でないと倒せないという下弦の鬼であった鬼と対峙するとは思いもしなかった。

 

倒せるだろうか、そんな不安が俺の頭をよぎる。でも、やらなければ。

 

俺は刀を抜き、元下弦の肆に向ける。

 

「ほぅ、俺と戦うか。剣術に関しては素人に毛が生えた程度だが、その勇気だけは褒めてやろう」

 

俺が素人であることがすぐに鬼にバレた。不味い。

 

「だが、この俺元下弦の肆である縛逐に柱でもない奴が勝てるわけがないだろう」

 

俺は型を出す準備をする。刀をバッティングフォームの要領で構える。

 

「炎の呼吸 壱ノ型」

 

そして鬼一直線に走り抜ける。

 

「不知火!!」

 

すれ違いざまに袈裟斬りを鬼の頸に入れた…かと思いきや、俺の一撃が頸に当たることはなかった。

 

「遅すぎて欠伸が出るなぁ」

 

無気力な声と共に俺の背中に衝撃が走る。

 

「だから言ったろ? てめぇじゃあ俺は倒せないってなァ」

 

俺の体は地面に叩きつけられた。痛みに耐えながら、俺はゆっくりと体を起こす。

 

「のうのうと起き上がるのを待ってる程、鬼は優しくないぜ?」

 

鬼は俺に向かって血鬼術を放った。

 

「血鬼術 蔓籠目」

 

俺の周りを蔓が囲んだ。日輪刀で斬ろうとしたが、斬ることはできず、逆に日輪刀を奪われてしまった。

 

だが、俺にはまだ武器が残ってる。

 

籠手を着けた両手で、蔓を千切った。だが、千切っても千切っても、直ぐに生えてきてしまう。

 

徐々に疲れ始めてきた。このままでは閉じ込められたまま殺されてしまう。

 

「俺の蔓の堅さはなァ、こんなもんじゃねぇぞォ?」

 

鬼が蔓の籠に入って来た。鬼の血で蔓が赤く染まる。

 

「くそっ、全く千切れねぇ……」

「今度こそ終わりだな」

 

そう言って鬼は更に茨を出現させた。

 

「血鬼術 茨挟」

 

茨がトラバサミを形作っていく。大きく口を開いて、俺を挟まんと飛び掛かってくる。

 

俺はトラバサミを殴り続けた。殴った所はボロリと崩れ落ちていく。

 

(よし、これならいけるぜ!)

 

俺はトラバサミに百発以上パンチを入れ、ボロボロのスッカスカにしてやった。

 

「よっしゃぁ!」

 

そしてそのまま鬼へと向かい、鬼へとパンチを入れる。鬼はそれを片手で防ごうとしたが、日輪刀と同じ素材でできた籠手で殴ったので、手が吹き飛んだ。

 

「名付けて、日輪パンチだぜ!!」

 

そして鬼の頭を殴り続けた。再生される前に殴ってボロボロにしていき、遂に頸を抉り切った…と、この時の俺はそう思っていた。だが…

 

「おのれぇ……よくも俺様の頭をたこ殴りにしてくれたなァ!!」

 

鬼の頭が裂けて、茨が飛び出た。至近距離まで近づいていた俺は避けられず、そのまま捕まってしまった。

 

「ぐっ……」

「こうなればお前をこのまま喰ってくれるわァ!!!」

 

真っ赤な蔓でできた籠がどんどん小さくなっていく。日輪刀を鬼に奪われ、更に茨で縛られて身動きができない。

 

もう絶望しかなかった。諦めて俺は自分の死を受け入れ、目を閉じた……瞬間だった。

 

「…肆ノ型 極光円環!!」

 

聞き覚えのある声が聞こえ、目を開くと、蔓と茨は細切れになっていた。

 

そこに立っていたのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうにか間に合ったようだな」

 

柱となった、親友(光輝)の姿だった。

 

「なっ……柱だと!?」

「そうだ。俺は光柱・天之河光輝! 貴様を倒しに来た!!」

 

鬼は光輝を見て固まっていた。

 

「まずいまずいまずいまずい柱が来やがった…下弦の鬼は柱に殺られるくらい弱いから入れ替わりが激しいんだ…くっそぉ……下弦から落とされるようじゃあ上弦の鬼なんて夢のまた夢だァ……」

 

鬼は何か怯えている様子だ。

 

「ん? そうだ、あの手があったかァ」

 

あの手?

 

「くっくっくっくッ」

 

鬼が突然笑い出した。

 

「フッハッハッハッハハハハハハハァ!」

「何がおかしい!!」

 

光輝が鬼に刀を向ける。鬼の表情は勝利を確信しているような気味の悪い笑顔だ。

 

「如何やらこの俺様を本気にしてしまったようだなァ」

 

鬼め、まだ奥の手を隠してやがったのか。

 

「ここまで追い詰められたのは四十年振りだぜェ!!」

 

鬼は両手を突き出し、茨に変化させて俺達に放った。

 

光輝はそれをいとも容易く躱し、型を放った。

 

「光の呼吸 弐ノ型」

 

鬼の真下に光の速さで潜り込み、鬼の喉笛を刀で貫いた。

 

「光陰・一矢一閃!!」

「がァッ…」

 

喉笛を突いた後、光輝は刀を左右に振って鬼の頸を斬った。

 

「すげぇ……これが柱か……」

 

俺は光輝の技に見蕩れていた。

 

「これで終わりと思ったらァ、大間違いなんだよォ!!!」

 

頸を斬られたはずの鬼から、棘だらけの蔓が飛び出し、体から頭だけが飛び出た。そして光輝に取りついた。

 

「んなっ!?」

「やめろ!!」

 

俺は無意識に鬼の頭を掴んだ。

 

「これが俺の秘策だァ。偽物の頸を斬らせておいて、一息吐いたところを本体が飛び掛かって死ぬまで血を吸い続ける。今の吸い具合だとあと五分ってところかァ? それまでに蔓を千切らないと死んじまうぜェ? まぁ、血が少なくなって、手足をぎゅうぎゅうに縛られたお前と、そこの鬼狩りのひよっこには無理だろうがなァ」

 

この鬼、なんて卑劣な手段を使うんだ。光輝が一番キレそうな鬼だ。

 

俺は片手で鬼の髪の毛を掴みながら、もう片方で蔓を引き千切ろうとする。しかし、今までよりもずっと固い蔓だ。俺の力では全く引き千切れない。

 

(もう万事休すかよ……せっかく光輝に会えたのに、こんなあっさりと死んじまうなんて……)

 

俺が嘆いていると、東の空が明るくなった。

 

「!?」

 

鬼はそれに気づくと、蔓を千切れやすくした。きっと、尻尾を切るトカゲみたいに逃げる気だ。

 

「逃がすかよ!!」

 

俺は再び両手で鬼の頭を掴んだ。

 

「や、やめろォ! 離せェ!! い、今まで人を喰ってきたのは詫びる! だから…頭を離してくれェ!!」

 

醜い命乞いだ。誰が聞きいれるか。

 

俺は指に込める力を更に強くする。

 

「は、離せ…止めろ…俺はまだ、死に…」

 

鬼が何か言いかけたが、陽の光で焼ける痛みで途切れた。

 

「ギャァァァァ!!!! ガァァァァァァァ……」

 

鬼の頭は灰になって、消え失せた。

 

「はぁ、何とか鬼を倒せたな……」

「俺が来るまでよく耐えたな……って、よく見たらお前……」

 

光輝がようやく気付いたようだ。

 

「龍太郎か!?」

「ああ、こんなところで会えるとは思ってなかったぜ、光輝」

 

俺達の再会は、夜明けに包まれた再会だった。

 

 

「そういえば光輝、柱になったんだってな」

「ああ、誰から聞いた?」

「煉獄さんだ」

「煉獄が?」

「おう、俺の師匠だ」

「そうか、煉獄がお前の師匠なんだな。良い師匠を持てて俺は親友として嬉しいよ」

「あと、同じ修行仲間に南雲がいたんだ」

「南雲もいたのか……龍太郎、南雲は修行をサボってたりしてなかったか?」

 

光輝は相変わらず南雲を良く思ってないな。でも、南雲が頑張ってるところを見たら、きっとその考え方は間違いだって気づくはずだ。

 

「いや、俺よりも滅茶苦茶頑張ってたぞ? むしろ俺の方こそ見習いたいくらいだ」

「あの南雲が!? ちゃんと見たのか?」

「ああ、一年も一緒に修行してたからな。南雲が頑張ってるのは俺と煉獄さんが一番よく知ってる」

「龍太郎が見たっていうのなら取り敢えず俺は信じるよ」

「俺が言うのもなんだが、ありがとな」

 

「他にクラスメイトの連中には会えた奴はいるのか?」

「ああ、香織や雫、膵花や辻風、他にもクラスメイトと何人か会えたよ」

「ほとんど女子ばっかじゃねえか。だけど、辻風が無事だったのならホッとしたぜ。全員鬼殺隊に入ってるのか?」

「ああ、しかも膵花と辻風は鬼殺隊の柱になってる」

「そうか、辻風も柱なんだ」

「俺が育手に弟子入りした頃にはもう柱だった」

「すげぇや。ところで、光輝は何の呼吸を使うんだ? 俺は炎の呼吸だが」

「俺は独自に編み出した光の呼吸をよく使ってる。桑島先生からは雷の呼吸も教わった」

 

光輝の育手は雷の呼吸の使い手だったようだ。光輝なら呼吸全部使えそうなのに。

 

「へぇ~、雷の呼吸も使えるのか。特に壱ノ型……霹靂一閃だっけ? かっけえもんな」

 

壱ノ型のことを話すと、光輝は悔しそうな表情をした。

 

「壱ノ型はな…たまに発動に失敗するんだ」

「光輝にも上手くできないことってあるんだな」

「それに比べて辻風が一番得意なのは壱ノ型なんだ……応用技も多く編み出している。修行時代は本当に悔しかった」

 

俺は暫く光輝の愚痴を聞いてあげた。ほとんど辻風が絡んでいる。

 

ある程度語り合ったところで、光輝と俺に次の任務が下った。

 

「また何処かでな、龍太郎」

「お前もな、光輝」

 

互いに拳を当て、俺達は別れた。

 

できるだけ早く光輝と肩を並べて戦えるほどの実力を身に着けるべく、太陽を背に俺は任務に赴くのだった……

 

 

 

 

第弐拾壱話 光を求める少女 ~中村恵里編~

 

私は……僕は、中村恵里。突然昔の日本に飛ばされた高校生達のうちの一人さ。突然教室が光に埋め尽くされたと思ったら、いきなり古い時代の町に一人さ。光輝君も鈴ちゃんもいない。僕は気が狂って死んじゃいそうだったよ。あの頃みたいに。

 

飛ばされた時間帯もまずかった。草木も眠る夜中だ。この時間帯には鬼という人を喰う化け物がうろつき出すということなんて、この世界に飛ばされたばかりの僕が知るわけがなかった。

 

更に運の悪いことに、あっさりと鬼に見つかってしまった。滅茶苦茶怖かったよ。僕は全力で逃げた。当然、鬼も全力で僕を追いかけた。

 

「助けてぇ~、光輝ぐ~ん!!」

 

僕が光輝君に向かって叫んだ瞬間、悲鳴が届いたのか、救いが舞い降りた。一般の鬼殺隊員だ。しかし、その鬼殺隊員は光輝君ではなく、全く別の人だった。

 

僕を追いかけ回した鬼は、その鬼殺隊員によって討ち取られた。

 

「大丈夫だったか?」

「あ、うん。まぁ……」

 

その鬼殺隊員は髪の毛がサラサラだった。光輝君ほどではないけれど、それなりに顔立ちは整っている男だった。

 

「さっきの化け物は何だったの?」

「あれは鬼という、人を喰う化け物だ」

「じゃあ君は?」

「俺は村田だ。鬼殺隊の隊士をやっている」

 

僕が鬼殺隊と鬼の存在を知ったのは、村田という男が教えてくれたからだ。

 

「ぼk……私も、その鬼殺隊? に入れるかな?」

「鬼殺隊に入りたければ、まず育手の所に行け。俺の育手を紹介してやるから」

 

ちょっと偉そうなのが腹立つけど、鬼殺隊への入り方はちゃんと教えてくれた。

 

僕は村田さんから育手の居場所を教えて貰い、何日かかけて紹介してもらった育手の所へ向かった。

 

 

育手の家に辿り着いた僕は早速修行に取り掛かった。どれも花の女子高生にはきつすぎる内容だったけど、光輝君にまた会えると信じたおかげで、僕はいくらでも頑張れた。

 

「待っててぇ~!! 光輝君!!」

 

育手から村田さんのことも聞いた。彼は家族を鬼に殺されたのだ。鬼への復讐を誓い、鬼殺隊に入ったのだそうだが、日輪刀という、鬼を唯一殺せる武器の色は変わらなかったらしい。最終選別で更に強い人が三名程いたのも重なって、かなり悔しそうにしていたそう。

 

僕は僕なりにヤバいほど頑張った。僕が最終選別へ向かったのは、修行を始めてから一年くらい経ったころだった。

 

 

藤襲山の中腹には、結構な数の人が集まっていた。その中にはクラスメイトの永山、野村、綾子、真央の姿もあった。その時の僕は気がつかなかったのだが、遠藤もそこにいたらしい。

 

皆あの時とは服装が変わっていた。全員和服を着ている。僕もだけど。野村君に至っては忍者の恰好だ。一体どんな育手なのだろうか。

 

白髪の綺麗な女の人の説明を受けて、最終選別は鬼が潜む山の中を七日間生き延びれば鬼殺隊に入れることがわかった。いやきっつ!?

 

でも、ここで頑張らなければ、光輝君には絶対会えない。

 

僕は意を決して、鬼の潜む山の中腹から頂上に掛けてのエリアへと飛び込んだ。

 

危険地帯に飛び込んですぐ、鬼と出くわした。

 

「キヒヒヒヒ、美味そうな女だぁ」

 

鬼は気持ち悪い笑い声を上げて僕を見ている。この時代に飛ばされたばかりの頃は何もできなかったけど、今の私ならこの鬼を倒せる。

 

(全集中 水の呼吸)

 

僕はヒュゥゥゥゥと空気を吸い込み、体中に酸素を送り込む。

 

「久方ぶりの御馳走だァ!!!」

 

鬼が向かってくる。僕は一瞬の隙を突いて、鬼の頸に刃を振るう。

 

(壱ノ型 水面斬り!!)

 

水の幻を纏った刀は、鬼の頸を斬り落とした。

 

「やった! 鬼に勝てた!」

 

僕はかなり嬉しかった。あの時の僕よりも確かに強くなれたのだ。

 

鬼を倒した喜びに浮かれていると、突然地鳴りがした。音のした方へ向くと、体から手がめちゃくちゃ生えたバカデカい鬼がいた。

 

僕はすぐに真っ青になった。僕の本能が叫んでいる。

 

 

〝見つかれば、間違いなく死ぬ〟と。

 

 

鬼に見つかる前に僕は一目散で逃げた。

 

その後は月明りが見える場所で見つけた大きな岩に飛び乗り、その上で夜を過ごした。

 

基本的に昼は安らぎの一時だ。だって鬼が出ないから。日向にいれば鬼に襲われることはない。

 

ただし、その一時には必ず終わりが訪れる。夕焼けを見るたびに僕は憂鬱になりつつあった。

 

「はぁ~、また夜が来るのかぁ」

 

恐らくほとんどの者が同じことを考えているだろう。特にあの手がたくさんの鬼はとても恐ろしかった。

 

僕は夜が訪れるたびに、あの鬼に出会わないよう祈っていた。雨の降る日も、曇りの日も、夜が訪れるたびに祈り続けた。僕の祈りが通じたのか、初日に遭遇してからはそれっきりあの鬼を見ることはなかった。

 

 

 

 

 

僕は無事に七日間生き延びることができた。永山君、野村君、遠藤君、綾子ちゃん、真央ちゃんも無事に生き残っていた。

 

最初に見たときより人数は減っていた。他に目立った人といえば、蝶の髪飾りを着けた姉妹らしき女の子二人だ。

 

あの鬼はどうなったのだろう。あれ程大きな体になるには、相当長い年月を生き延びないといけない。だけど、基本的に山には人を二、三人食べた鬼しか入れられない。最終選別と共喰いで鬼は数を減らしていく。その後、あの鬼はどうなったかは僕は知らない。僕より後に受けた人の誰かがもう斬ったかもしれないし、あるいはずっと生き延び続けているかもしれない。

 

 

 

 

最終選別を受けた頃のことを、僕は月を眺めながら回想していた。今僕はある隊士一人の元へ支援に向かっている。かつて村田さんが僕を助けてくれたみたいに、今度は僕が助ける番だ。

 

現場に到着した僕は、目視で隊士の様子と、鬼の数を確認する。隊士の方はかなりボロボロだった。対する鬼はいくらか体力は残っている。この状況で隊士の生存は絶望的だった。

 

そう、僕がいなければの話だが。

 

「水の呼吸 弐ノ型 水車!!」

 

僕はぐるりと縦に宙返りをして、鬼の頸を斬った。

 

青く輝く刀を鞘に仕舞い、僕はその隊士に振り向いた。

 

「大丈夫だったかい? ぼ……私が来るまでよく耐えたね☆」

 

営業スマイルでちょっとだけカッコつけてみた。やってることはあの時の村田さんと同じだ。

 

「はい、ありがとうございます」

「うん、今度からは自分一人で切り抜けられるくらい、強くなるんだよ……?」

 

よく見たら、その隊士の顔は見覚えがあった。声も記憶にある。

 

「もしかして君……南雲ハジメ?」

「えっ、どうして僕の名前を……?」

「やっぱりね。思い出せないかな? 私のこと」

 

南雲の顔を、僕はじっと見つめた。

 

「そういえば……この声はどこかで…」

「じゃあ、これなら思い出せるかな?」

 

僕は懐からメガネを取り出してそれを掛けた。

 

「あっ……中村、さん?」

「正解。私は中村恵里」

「こんなところで会えるなんてね。久し振り、中村さん」

「うん、久し振り、南雲」

 

光輝君ではなかったのが残念だけど、南雲との再会もそれなりに嬉しかった。無関心だったとはいえ、クラスメイトとして同じ教室で過ごしてきたのだ。

 

「ところで南雲。光輝君が何処にいるか知らない? 鬼殺隊には入ってるんだよね?」

「うん。天之河君ならもう柱になってるよ」

 

……えっ? 柱? 僕はまだ戊なのに?

 

「ど、どこで知ったの? それ」

「獪岳って人が教えてくれたんだ。天之河君に会いたいなら、その人に聞いてみるといいよ。今手紙送るから」

 

そう言って南雲は鎹鴉に手紙を預けて飛ばした。

 

「今獪岳に手紙を送ったから、藤の花の家で待ってようよ」

「あ、うん。じゃあ、お言葉に甘えて……」

 

何か物凄い気配を感じた気がするけど、今は気にしないでおこう。

 

僕は南雲と一緒に、藤の花の家へと向かって行くのであった……




遅くなりましたが、明けましておめでとうございます。最果丸です。

本当は年末に投稿する予定でしたが、訳あって投稿が遅れてしまいました。申し訳ございません。

そして映画界における伝説がまた一つ増えて嬉しいです。しかし、今までの伝説は消えることは決してありません。

大正こそこそ噂話

『恵里は戦闘中に眼鏡を外している』

この作品が完結した後、ありふれ組はトータス行きですが、人数は絞りますか?

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