現代の高校生達は、大正で鬼狩りをする ~召喚鬼滅譚~   作:籠城型・最果丸

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オリキャラ紹介

朱羽

本名 朱香
性別 女
年齢 鬼となってから■■■年
血鬼術 炎

元々はとある店の看板娘であったが、大火で家族と家を失った。その後、鬼に襲われるが辻風来に命を救われる。だが、無惨の手によって鬼となり、焔螺という名を与えられた。
鬼となってからは顔立ちの整った男性の鬼殺隊員ばかりと交わり、喰らうようになる。十二鬼月ではないにもかかわらず、柱を二名葬っている。また、上弦の参・猗窩座とは面識がある。とある鬼に使役されていた。
珠世の隠れ家を朱紗丸、矢琶羽と共に襲撃するが、来に敗れる。来の血を舐めたことで人を喰らうことはなくなった。
過去との決別と、朱紗丸と矢琶羽との一時の思い出を留めておくのも兼ねて、新たに朱羽という名前を賜る。


第捌節 刃は舞う

第弐拾弐話 朧げなる月 ~時透有一郎編~

 

藤襲山を駆ける俺、時透有一郎は双子の弟である時透無一郎と共に最終選別を受けている。俺は今頃あの世で無一郎を見守っているはずだった。だけど、望月さんが俺を助けてくれたから今も無一郎と一緒に戦える。

 

鬼の姿を捉え、俺は立ち止まった。後ろに結った長い髪が揺れる。鬼は本能のままに俺に飛び掛かる。

 

「ホオオオオオ」

 

俺は望月さんから教わった、鬼の御業で鬼を相手取った。

 

「月の呼吸 壱ノ型 闇月・宵の宮」

 

素早く日輪刀を鞘から抜き、と同時に鬼の頸を斬りつける。

 

鬼は切り口から灰のように崩れて消え、俺は刀を鞘に仕舞った。だが、鬼はもう一体いた。

 

「ガァァァァァァ!!」

 

もう一体も、本能に身を任せて襲い掛かる。

 

「月の呼吸 弐ノ型」

 

刀を抜いて、下から三回斬りつけた。

 

「珠華ノ弄月」

 

鬼の頸は容易く断たれた。

 

「無一郎の方はどうかね」

 

俺は無一郎の方へ向かって行った。無一郎も俺と同じように月の呼吸を使えるが、無一郎には霞の呼吸が合っているようだった。俺も霞の呼吸は使えるが、無一郎とは逆に月の呼吸が体に合っているようだ。基礎的な剣術と月の呼吸は望月さんと朔夜さんに叩き込まれて、霞の呼吸は別の育手に叩き込まれた。

 

おかげで俺達双子は霞の呼吸と月の呼吸を使える。望月さんと朔夜さんに感謝しないとな。

 

 

少し走っただけで無一郎のところに着いた。

 

「霞の呼吸 肆ノ型 移流斬り」

 

無一郎の方も無事に鬼を倒していた。

 

「あっ、兄さん」

 

無一郎は下ろしたままの長い髪を靡かせながら、俺の方に向かって駆け寄って来た。

 

「お前も無事でよかったな」

「それはお互い様だよ」

「俺達死ぬほど修行したからな」

 

修行は滅茶苦茶厳しかったが、その分俺達は強くなれた。

 

「うんうん、あの頃の修行は本当にきつかったなぁ。途中で泣きそうになったっけ」

 

あまりの修行の厳しさに無一郎が泣きかけていたのは、今ではいい思い出だ。ちなみにこれは秘密にしているが、俺も泣きそうになった。

 

「そういえばあと何日此処にいればいいんだっけ?」

「二日だよ。何忘れてるんだ」

「ごめんごめん」

 

無一郎は家族と望月さん、朔夜さんの前では少し抜けたところがある。その様子が可愛らしいのだが、此処ではそれが命取りになる。

 

夜明けを迎えて、俺と無一郎は大きな岩の上によじ登って一休みした。無一郎は俺の膝を枕にして眠りについた。

 

 

 

 

月の呼吸。それは、使い手が今までたったの五人しか存在しない、鬼の御業である。最初に見た時は血鬼術でも使ってるのではないかと思った。でも、教えられた通りにやると人間である俺と無一郎でも使うことができるようになった。

 

望月さんと朔夜さんは鬼としてもかなり強かった。そこら辺の鬼じゃ全く歯が立たない。二人から昔話を聞かされた時に知ったのだが、かつて十二鬼月で最も強い上弦の壱と死闘を繰り広げたこともあるらしい。本当かどうかは知らないけど、何か因縁でもあるかのように話していた。

 

話を戻すが、今俺は夕暮れまで無一郎を守っている。そして陽が沈んだとほぼ同時に無一郎が目を覚まし、鬼を探した。

 

 

その後も順調に俺達双子は藤襲山を生き延びていった。四日目から鬼をほとんど見かけなくなったので、それからはゆったりと七日目まで過ごした。

 

 

俺は最終選別を弟と無事に生き延びることができた。寸法を測った後玉鋼を選び、俺達は隊服を持って家族の待つ家へと帰った。

 

 

「た…ただいま……。父さん、母さん……。望月兄さん、朔夜姉さん……」

「生き残ったよ……。最終選別……」

 

俺も無一郎も疲労困憊になりながら家に帰った。外はもう直ぐ暗くなりそうな時間だった。

 

「お帰りなさい。無一郎、有一郎」

「よく無事に戻ったな」

 

まず俺達を出迎えてくれたのは父さんと母さんだった。二人共変わらず優しい笑顔をしている。

 

「うん。大して大きな怪我をしなかったから」

 

俺も無一郎も、少々掠り傷を負ったくらいだ。

 

「今日は二人の好きなふろふき大根よ」

「「やったぁ」」

 

俺と無一郎の大好物だ。俺は元々ふろふき大根はそこまで好きではなかったが、望月さんのふろふき大根がとても美味しかった。勿論母さんのもだけど。望月さんのを食べてから好物になった。

 

居間に入ると、望月さんと朔夜さんが座って待っていた。

 

「お帰り。無一郎、有一郎」

「最終選別合格、おめでとう」

 

二人共穏やかに笑って僕達を迎えてくれた。

 

「「ありがとう。望月さん(兄さん)、朔夜さん(姉さん)」」

 

この二人といると、心が安らぐ。二人が鬼なのは勿論分かってる。でも、今まで人を一人も喰ったことはないと言っていた。実際、無一郎が転んだときに膝から血を流していたが、朔夜さんは平然と傷の手当をしてくれた。

 

俺達はご馳走をしっかりと味わった後、湯船で疲れを癒やして床に就いた。

 

 

十二日が過ぎた日、家に誰か訪ねて来た。

 

「儂は鉄井戸という者じゃ。時透有一郎、無一郎の刀を打った」

 

鉄井戸さんという人が俺達の日輪刀を作って持って来てくれた。

 

「して、何方が有一郎で何方が無一郎だ?」

「はい。髪を結っている方が俺、有一郎で、髪を下ろしている方が無一郎です」

「そうか、短い間だが宜しく頼む」

 

ん? 短い間?

 

「短い間って…どういう…」

 

無一郎が訊ねると、鉄井戸さんはゆっくりと答えた。

 

「儂はもう長くない。あと何年かすれば死ぬだろう」

 

無一郎は、聞かなきゃよかったと後悔していた。

 

「人の死は誰にもどうすることもできん。今更気にせんよ」

 

そう言って鉄井戸さんは無一郎の頭を撫でる。

 

(この人の打った刀は大事にしよう)

 

俺はそう思った。無一郎もきっと、俺と同じことを思ったに違いない。

 

 

俺達二人は、日輪刀の柄を握り、鞘から刀を抜く。刀の色で、適正呼吸が決まるのだ。

 

無一郎の刀は、真っ白に染まった。一方、俺の刀は綺麗な紫色に染まった。望月さんや朔夜さんみたいに黒が混じってない、純粋な紫に。

 

「生まれた日も顔も剣技の才も一緒だけど、呼吸への適正は違ったな」

 

刀身を見て俺が最初に言った一言は、それだった。

 

「でも、僕たちが双子なのは変わらないよ?」

 

無一郎はそう言って笑ってみせた。

 

 

この後、俺達双子に最初の任務が下った。しかも合同任務だ。ある山奥の村に鬼が出たらしい。

 

「行くぞ、無一郎」

「分かってるよ、兄さん」

 

俺達は隊服に袖を通し、日輪刀を持って、鬼殺の任務へと赴く。

 

「行ってくるね。父さん、母さん、望月さん、朔夜さん」

 

四人はそろって、「いってらっしゃい」、と言った。

 

「有一郎君、無一郎君」

 

朔夜さんは俺達の名前を呼ぶと、俺達の前に歩み寄った。

 

「「……!?」」

 

俺と無一郎の額に、朔夜さんは唇を落とした。

 

「いってらっしゃい」

 

朔夜さんから予想外の贈り物を受け取り、俺達は家を発った。

 

 

半日程かけて、鬼が出たという村に辿り着いた。

 

「ここで間違いないな」

 

誰かの悲鳴が聞こえた。俺達は悲鳴のした方へ進む。

 

鬼は、あっさりと見つかった。しかし、鬼は俺達を見るとニヤリと笑った。

 

「また来たな。俺の可愛い獲物が」

 

また? どういうことだ?

 

「久し振りだなァ。俺が喰い損ねたあの双子のガキが、まさか鬼狩りになっていたとはなァ!」

「喰い損ねた……、ガキ…?」

 

初対面のはずだが、この鬼は俺達に久し振りと言った。よく見たら、両腕の肘から下が真っ黒だった。

 

「丁度いいや。ここで貧乏な木こりのガキに復讐ができる……お前らになァ!!」

 

そう、この鬼は、俺の左腕を切り落とした奴だ。でも、確か望月さんに頸を斬られたはずだ。なのに、どうして生きている……?

 

「どうして俺が地獄から舞い戻ったか気になるよなァ?」

 

鬼は意地悪な笑みを浮かべながら言った。

 

「あるお方が甦らせてくれたのよォ」

「あるお方!?」

「そうさァ。そのお方は俺を蘇らせただけでなく、更なる力まで下さった。今の俺なら並みの鬼狩り程度は余裕で殺せる」

 

そう言って鬼は両腕を大鎌に変える。

 

「ここで今度こそ死にやがれ、クソガキ」

 

鬼は俺に迫って来た。

 

「フウウウウウ」

 

あの頃の俺達は無力だったが、今の俺達は戦う術を身につけた。

 

「霞の呼吸 参ノ型 霞散の飛沫」

 

無一郎が円を描くように刀を振るった。俺も加勢しなければ。

 

「霞の呼吸 弐ノ型 八重霞」

 

俺は体を大きく捻り、幾重もの斬撃を放った。しかし、鬼はそれを難なく避ける。

 

「そんな攻撃、目を瞑ってても避けられるぜ」

 

なら、避ける余裕を与えない程斬撃を放てばいい話だ。

 

「ホオオオオオ」

 

俺は至近距離まで近づき、縦方向に無数の斬撃を放った。

 

「月の呼吸 陸ノ型 常夜孤月・無間」

 

鬼は逃げ遅れ、斬撃の餌食となる。

 

「チッ、このォ!!」

 

鬼は俺に向かって爪の攻撃を繰り出す。

 

「月の呼吸 伍ノ型 月魄災禍(げっぱくさいか)

 

常人には刀を振ってないように見えるほど、刀を素早く振り、鬼の攻撃を弾き返す。

 

「次で止めを刺す」

 

無一郎は俺がこれから繰り出す攻撃を察し、鬼を逃がさない。

 

「霞の呼吸 壱ノ型 垂天遠霞(すいてんとおがすみ)!!」

 

無一郎の刃が、鬼の脇腹を穿つ。

 

「…このクソガキがァ!!!」

 

激昂した鬼は無一郎を切り裂こうと腕を振るう。それを無一郎は紙一重で躱す。

 

「今だよ、兄さん!!」

 

無一郎の合図で、俺の刃は斜めの斬撃を二つ紡いだ。

 

「月の呼吸 肆ノ型 鬼舞弦月(おにまいげんげつ)

 

二つの斬撃が、鬼の両腕を斬り落とした。

 

「これで止めだ!!」

 

俺は刀を大きく振るい、斬撃を重ねて鬼の頸を斬った。

 

「月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り(えんきづき・つがり)!!」

 

鬼の頸が、地面に引かれて落ちていく。切り口からは真っ赤な血が滴り落ちている。

 

「……勝った……」

 

あの時、望月さんがいなければ俺は死んでいただろう。もしかしたら、無一郎だって命を落としていたかもしれない。

 

「勝ったよ! 兄さん!」

「…ああ。俺達は確かに強くなった。俺達双子は不滅だ!」

 

無一郎と拳を打ち合う俺。しかしその傍ら、灰となって消えゆく鬼の生首が喋る。

 

「くそっくそっくそォオ!! 最期に見るのがお前らの顔だなんてェ!! 門獄様から賜った力も出す事無く死ぬのかァァ!?」

 

鬼の頸を、俺は蔑んだ目で見る。

 

「弟を殺しかけた事と、弟を泣かした事、地獄で詫びてこい」

 

そう吐き捨て、俺は鬼の頭を踏み潰した。

 

「僕たちに襲い掛かったとはいえ、全く慈悲が無い……。まるで鬼みたいだよ、兄さん」

 

無一郎が俺のことを鬼でも見るかのような目で見てくる。

 

「無一郎。鬼を殺す時はな、時には自分の心も鬼にしなきゃならない時があるんだよ。でないと、いつか絶対命を落とす。俺はそれが嫌だ。無一郎を遺して死にたくないし、無一郎にも死んでほしくない」

 

わかってくれ、無一郎。きっと他の隊士も同じ考えの奴がたくさんいる。鬼殺隊士の多くは、家族や友を殺され、鬼への復讐を掲げている者達だ。

 

彼らと比べたら、俺と無一郎はかなり恵まれている。だからと言って、家族を殺された人達の気持ちがよく分からないかと聞かれれば、それは違うと答えるだろう。一度俺が死にかけた時に見た、無一郎の顔が今でも忘れられない。もしその時俺が息絶えていたら、きっと無一郎の心に暗い影が落とされていただろう。俺もきっと、無一郎が壊れるのを彼の世から黙って見ているなんて耐えられないだろう。

 

「行くぞ、無一郎」

「う、うん……」

 

俺は少し怯えた様子の無一郎を背に、前へと進み出した……。

 

 

 

 

第弐拾参話 光と風 ~風柱・不死川実弥編~

 

あれは、天之河が柱になって一年が過ぎた頃だったな。正確に言えば、煉獄が弟子を二人取った頃か。

 

丁度その日は俺と天之河との合同任務だった。俺と天之河は任地に向かう途中、話をしていた。

 

「柱の仕事は板についてきたかァ? 天之河」

「ああ、お陰様でな。お前と打ち込み稽古を沢山したお陰かな」

「そうかい、そりゃあよかったなァ」

 

そう言えば匡近が死んでから、あんな風に人と楽しく話したことがあんまり無かったなァ。

 

 

俺と匡近、そして辻風はかつて同じ任務で鬼を倒した仲だった。匡近は俺の兄弟子で、辻風とは互いに切磋琢磨しながら腕を上げていった好敵手だ。

 

俺が最初に辻風の名を聞いた時は、俺と同じ風の呼吸の使い手かと思った。だが、彼奴は雷の呼吸の使い手だった。そして、打ち込み稽古では一度も彼奴には勝てなかった。俺の攻撃は全て見切られた。辻風がまだ柱になっていない頃からの仲だが、それでも一度も彼奴に勝ったことがなかった。

 

『また彼奴に負けたのか? 実弥』

 

匡近は俺と同じくぼろぼろの恰好で俺に笑いかけた。

 

『テメェには関係ねぇだろォ』

『そんな言い方するなよ。まぁ俺も彼奴にボコボコにされたから関係はあるな!』

 

辻風は、とにかく感慨深い奴だった。匡近が弥栄…下弦の壱・姑獲鳥に殺された時、墓の前で泣きながら手を合わせてた。

 

 

「匡近、お前が死んでから、また俺と話が合いそうな奴と出会えたぜ。あの世でも心配かけて、ごめんなァ」

 

俺は空を見上げながら、あの世にいる匡近に向かってぼそりと呟いた。

 

「不死川、誰だ? その、匡近って奴」

 

そう言えば、その時の天之河には話してなかったなァ。

 

「ああ、粂野匡近はなァ、俺の兄弟子で、俺を鬼殺隊へと導いた奴だ」

「不死川の兄弟子か」

「最初は鬱陶しいと思ってたんだがな、何か月も匡近や辻風と苦楽を共にしているうちに、兄弟みたいに仲良くなった」

「そうか、辻風……、か」

 

天之河は辻風の名を聞いた瞬間、どことなく遠い目をした。

 

「そう言えば辻風ってお前の兄弟子だろォ。彼奴とは仲良いのか? 彼奴は誰とでも仲良くなりたがるような奴だからなァ」

 

その時まで、俺は辻風と天之河も仲が良いのかと思っていた。だが、それは間違いだと俺は知ることになる。

 

「俺は……、彼奴のことがどうしても好きになれない」

「? どうしてだ? あの冨岡とも仲良さげにしてる彼奴だぞ?」

 

辻風に対する天之河の心情は、俺と伊黒が冨岡に向ける心情とほとんど同じ気がした。

 

「彼奴は鬼に家族を殺されたわけでもないのに鬼殺隊に入って、しかも鬼に情けをかけてるんだ。きっと辻風は鬼殺を舐めてるんだ。なのに、鬼殺を舐めてない俺は彼奴に勝てない」

(何だ、ただの嫉妬か。他の隊士でもこういう奴はいる)

 

辻風は胡蝶姉と同じ考えを持っていた。正直俺には理解しがたい考えだ。

 

「お前が嫉妬なんて、珍しいこともあるもんだなァ」

 

此奴はまだ階級が癸のうちに下弦の壱を倒している。他の隊士を援護したりもして、此奴はかなり頼りにされてるはずだ。そんな奴が誰かに嫉妬するなんて、俺には到底信じられなかった。

 

「俺は、壱ノ型が上手く使えないんだ」

 

壱ノ型……ああ、雷の呼吸か。まだ匡近が生きていた頃に何度も見たが、本当に凄かった。

 

 

辻風は鬼を倒す時にはほぼ必ず壱ノ型で仕留めていた。何故壱ノ型で仕留めるのかを聞くと、彼奴は微笑みながら答えた。

 

『他の型でも斬れないことはないけど、壱ノ型の方が鬼の頸を斬りやすいんだよ。弐から陸ノ型はどちらかというと誰かを守ることに向いているから』

 

 

「でも弐から陸はできるんだろ? だったら尚更誰かを守ることができるからなァ。お前は誰か守りたい奴でもいんのかよ」

 

俺の守りたい人……。俺の家族の中で唯一生き残った玄弥が真っ先に思い浮かんだ。

 

「俺の守りたい人……。香織、雫、膵花……」

(お前、そんなに守りたい奴がいるのかよ。皆女の名前じゃねえか。……ん? ちょっと待て、今コイツ、滝沢の名を口にしてなかったか?)

「……何で滝沢の名が出てんだァ?」

「俺の幼馴染だ。大事な人なんだ」

「亭主持ちだぞ」

 

天之河はまるで「心外!」とでも言いたげな表情をした。冨岡みたいでちょっとイラついたなァ。でもコイツは冨岡じゃねえから殴るのは我慢だァ。いや、冨岡でも我慢だァ。

 

「……もしかして、知らなかったのか? 滝沢と辻風が夫婦(めおと)だってこと」

 

冨岡の補佐、滝沢が亭主持ちなのは柱なら全員知ってると思っていた。匡近が死んでからはほぼ辻風と滝沢が同じ任務を共にこなすことが多くなっていた。何があって二人の距離が縮まったのかは知らない。

 

「……辻風、お前が……!?」

 

天之河が辻風に向けてる感情は、最早嫉妬を通り越して怨嗟になっていた。俺はコイツが道を踏み外して鬼に堕ちないよう、いるかもわからない神や仏に願った。

 

「…着いたぞォ」

 

話をしているうちに、目的地に辿り着いた。山に近い村だ。この村では鬼による被害が何か月も報告されていた。数名隊士を送り込んだが、全員死んじまった。だから、柱である俺と天之河が来た。

 

「もう着いたのか」

 

天之河も我に返ったようだ。

 

「ああ、十二鬼月がいるかもしれねェ。用心しろォ」

 

時間は黄昏時。人の顔が見えない程真っ暗だ。

 

俺達が村に足を踏み入れた瞬間、雨粒が一粒俺の頬に落ちた。

 

「何だァ?」

 

突然降って来た雨に、俺は何かよくないことでも起きそうな予感がした。

 

「雨……だな」

 

天之河が呟く。それと同時に警戒も少し緩んだ。

 

だが、小降りの雨粒に雑じって、途轍もなく大きな一撃が降ってくるとは、この時の俺達には知る由も無かった。

 

「避けろォ!!」

 

俺が叫ぶと、天之河が即座にその場から飛び退いた。俺もその後に続いた。直後、凄まじい轟音と共に衝撃が俺達を襲った。

 

「何だ!?」

 

土煙の中から姿を現したのは、人の丈程もある金棒を片手に担いだ鬼だった。目は横に複数並んでいた。しかし、目に数字は刻まれていなかった。

 

「稀血の女をしばらく喰ってないから、鈍っちまったようだなァ」

「おっ、お前は……!?」

 

天之河が鬼を見て驚愕に包まれる。

 

「知ってんのかァ?」

「此奴は、俺が以前倒したはずの鬼だ! 鬼が生き返ったとでも言うのか!?」

 

天之河が言うには、その鬼は以前胡蝶姉と共に討伐したはずの鬼であったという。

 

「フハハハハ!!」

 

鬼は天之河に高笑いをした。

 

「あの程度の技で、俺を仕留めたとでも言うか、青二才が」

「なっ……」

 

そう言って鬼は舌を天之河に突き出した。

 

「この業苦様がそう簡単にやられてたまるかよ」

「どうやって俺の技を掻い潜ったんだ!!」

 

天之河の言っていた技というのは、無数の斬撃を一瞬の間に放つ型だ。俺は見た事が無いが、あの鬼舞辻無惨でさえ倒す可能性を秘めた技だと言われているのだから、相当な威力の技なのだろう。

 

その技を掻い潜った術を、鬼――業苦は告げた。

 

「地面に潜った、それだけだァ。いくら高威力の技でも、地中に逃げられちまえば無意味だもんなァ」

 

コイツは、何と言うかとにかく癪に障る奴だ。

 

「なら、逃げられる前に放てばいいだけだ! 光の呼吸 伍ノ型……」

 

天之河は刀を大きく振り上げた。だが、業苦の方は待ってはくれなかった。

 

「隙ありだなァ!! 鬼狩りの青二才がァ!!」

 

業苦は金棒を天之河の腹目掛けて勢いよく振るった。もし来ていたのが天之河一人だけだったら間違いなく死んでいただろう。だが、ここにはもう一人、鬼殺隊の柱がいた。

 

「風の呼吸 参ノ型 晴嵐風樹!!」

 

旋風の渦を逆巻かせ、鬼による一撃を防いだ。

 

「間一髪だったなァ」

「助かった。ありがとう不死川」

 

天之河は刀を持ち直して再び業苦に剣先を向けた。

 

「ん? お前もあの時の女と同じ、鬼狩りの柱かァ」

 

あの時の女……、胡蝶姉のことだ。

 

「なら好都合だなァ! ここに送り込まれた鬼狩り共は雑魚ばかりだったからなァ!! 腕が鳴るぜェ!!」

 

業苦は戦闘狂だった。強者を前にすればする程、闘争心が沸き上がるような奴だった。

 

「血鬼術 血ノ池」

 

業苦の周囲が、赤黒い泥のように泥濘(ぬかるみ)を帯びた。業苦は見せしめだと言わんばかりにその手で殺したであろう鬼殺隊士の亡骸を二、三人浮かべた。

 

「この池に足を突っ込んだが最後、抜け出せずに俺の胃袋行きだぜ。更に、こうすることも出来るのだァ」

 

業苦は自分の髪を千切り、血の色をした泥濘に放り込んだ。すると、髪の毛を取り込んだ泥濘の中から、姿形が本体と瓜二つな分身が四十九体姿を現した。

 

「此奴は厄介だなァ。俺が分身共をやる。天之河は本体を討ち取れェ」

「解った」

 

天之河は本体へと向かった。

 

「さーて、腕が鳴るぜェ。風の呼吸 壱ノ型 塵旋風・削ぎ!!」

 

俺は分身を地面ごと抉り斬り、十体倒した。

 

「風の呼吸 弐ノ型」

 

迫ってくる四体を俺は一振りで倒した。

 

「爪々・科戸風!!」

 

獣の爪痕のような、四つの斬撃が四体の分身を切り裂いた。

 

「残りは三十五体か」

 

三十五体のうち、二十二体は技を出さずに辻斬りにした。

 

天之河の様子を見ていると、残った十三体のうち十一体が天之河に飛び掛かった。

 

「漆ノ型 勁風・天狗風!!」

 

体を捩じって旋風の如き斬撃を連続で放ち、十一体を斬った。俺の背後から迫り来る二体は、伍ノ型で斬り刻んだ。

 

これで俺も本体を討ち取れに行ける。本体に専念できるようになったことに高揚感を覚え、俺が本体に向かおうとした時、天之河が技名を叫んだ。

 

「光の呼吸 伍ノ型 終焉・神威燦燦!!」

 

高速で刀を連続で振るい、無数の斬撃を隙間なく放つ。

 

「あれから何も学んでねぇなァ!!」

 

業苦は地中に逃れるべく穴を掘る。だが、その隙を俺は逃がさなかった。

 

「風の呼吸 捌ノ型 初烈風斬り!!」

 

素早く鬼に駆け寄り、すれ違いざまに斬撃で相手を取り囲んだ。業苦の手足が斬り飛ばされた。

 

「しまったァ! これでは地中に潜れない……!!」

 

そして更に鬼を足止めにすべく、俺は自分の腕を斬ろうとした……が、その前に地中へと潜る手段を失った鬼が隙間の無い無数の斬撃に包まれた。

 

「ギャァァァァァァァァァァ!!!!!!」

 

鬼の断末魔が木霊する。まるで、今までソイツが殺して来たであろう人間達の、怨嗟の絶叫が一気に零れ出たかのように。

 

斬撃が止んだ後、残されたのは鬼の着ていた服の切れ端だけだった。成程、これならどんな鬼でも倒せそうだな。

 

「……今度はきちんと仕留められたみてぇだなァ」

「ああ。また取り逃がすのはごめんだからな」

 

天之河は極彩色の刀を鞘に仕舞い、服の切れ端を手に取ったかと思うと、突然切れ端を放り投げたかと思いきや、再び刀を抜いてそれを更に細切れにした。

 

「……俺はもう、二度と鬼を取り逃がしたりなんかしない」

 

天之河は夜空に浮かぶ月を背に、鬼を滅する意志を更に固めた。

 

「行くぞ、不死川」

「お、おう…」

 

だが、ソイツの目に俺は、何故か嫌な予感がしたのだった……。

 

 

 

 

第弐拾肆話 響く鼓の音 ~竈門炭治郎編~

 

「南南東!! 次ノ場所ハァ、南南東!!」

「わかった、わかったからもう少し黙っててくれ」

 

俺は浅草で来さんと別れた後、鎹鴉から次の場所を告げられ、そこへ向かっているところだ。それにしても、俺の鎹鴉は少しうるさいなぁ。

 

「頼む、もうわかったから頼むよ」

「頼むよ!!」

 

俺が鴉に少し黙っておくよう伝えていると、向こうから大声で何かを頼んでいる声が耳に飛び込んできた。

 

「頼む頼む頼む!! 結婚してくれぇ!!」

 

声のする方へと向くと、黄色い鱗模様の羽織を着た、金髪の少年が女の子に抱きついて求婚していた。女の子は嫌そうにしている。

 

「いつ死ぬかわからないんだ俺はァ――!! だから結婚してほしいというわけで…頼む…頼むよォ―――ッ!!」

「なっ、何なんだ一体…」

 

俺が困惑していると、一羽の雀が慌てて飛んできた。かなり疲れた様子だったので、俺の近くへ来た途端、地面に落っこちそうになった。

 

俺はそれを両手でしっかりと受け止めた。雀はチュンチュンと鳴いて、何が起きているのかを説明した。俺は鼻が利くから、何を伝えたいのかはわかる。

 

「頼むよぉ――! 俺には君しか…君しかいないんだぁ―――!」

「そうかわかった。何とかするから」

 

俺がそう言うと、雀は喜ぶ仕草を見せた。

 

「助けてくれぇ!! 結婚してくれぇ!! お願……」

 

俺は女の子にしがみついている少年の羽織を掴み、引き剥がした。

 

「何やってるんだ道の真ん中で!! その子は嫌がっているだろう!! そして、雀を困らせるな!!」

 

金髪の少年は俺の顔と隊服を見て、「あっ、隊服。お前は最終選別の時の…」と言った。

 

「お前みたいな奴は知人に存在しない!! 知らん!!」

 

俺はそう言い返した。こんな奴は俺の知人にはいない。

 

「え――――っ!! 会っただろうが! 会っただろうが! お前の問題だよ記憶力のさぁ!!」

 

そういえば最終選別で、頬の汚れた金髪の少年が生き残っていたんだっけ。

 

俺はそいつの羽織を離し、女の子を家に帰そうとする。

 

「さぁ、もう大丈夫です。安心して家へ帰ってください」

「はい、ありがとうございます」

 

女の子が一礼をして、家へと帰ろうとした時、金髪の少年が大声を上げる。

 

「おい―――――っ!! お前邪魔すんじゃねーよ! その子は俺と結婚するんだ! 俺のことが好きなんだから……」

 

少年がそう言いかけたところで女の子の平手打ちを喰らう。女の子は何度もその少年を引っ叩くので流石に止めた。

 

「いつ私があなたを好きだと言いましたか!! 具合が悪そうに道端で蹲っていたから、声をかけただけでしょう!!」

「えっ、え――――っ!! 俺のこと好きだから心配して声かけてくれたんじゃないのぉ!?」

「私には結婚を約束した人がいますので絶ッ対ありえません! それだけ元気なら大丈夫ですね、さようなら!!」

 

そう言うと女の子は家へと帰っていった。

 

「ま、待って…。待っ…」

「お前、もうやめろ」

「な、なんで邪魔するんだ。お前には関係ないだろ…?」

 

まだ言っているのか……

 

「何だよその顔!! 止めろ―――っ!! 何でそんな別の生き物見るような目で俺を見てんだ!! お前―――っ!! 責任とれよ!! お前のせいで結婚できなかったんだから―――!!」

「……」

何か(なんか)喋れよ!!」

 

少年は泣きながら続けて言う。

 

「いいか、俺はもうすぐ死ぬ!! 次の仕事でだ!! 俺はな、もの凄く弱いんだぜ。舐めるなよ! 俺が結婚できるまで、お前は俺を守れよな!」

「俺の名は竈門炭治郎だ!!」

「そうかい!! ごめんなさいね! 俺は我妻善逸だよ。助けてくれよ炭治郎!」

 

善逸と名乗った少年は俺に泣きつく。

 

「助けてくれって…。何で善逸は剣士になったんだ。何でそんなに恥を晒すんだ」

「言い方ひどいだろ!」

 

善逸は剣士になった理由を話す。

 

「女に騙されて借金したんだよ! 借金を肩代わりしてくれた爺が〝育手〟だったの!! 毎日毎日地獄の鍛錬だよ死んだ方がマシだってくらいのぉ! 最終戦別で死ねると思ったのにさ!! 運良く生き延びるから、いまだに地獄の日々だぜ! あ―――怖い怖い怖い怖い! きっともうすぐ鬼に喰われて死ぬんだ! 生きたまま耳から脳髄を吸われてぇ―――!イィヤァアアア――ッ!! いやぁあああ!! 助けてェ―――ッ!!」

「どうしたんだ。大丈夫か?」

 

善逸の様子があまりにも怯えていたから思わず背中を摩った。

 

 

どうにか善逸を落ち着かせることができた俺は、善逸と一緒に田んぼの畦道を進んでいた。

 

「どうだ?」

「うん…落ち着いたら、腹減ってきた」

「何か食べる物持ってないのか?」

「ない……」

 

腹を空かしている善逸に、俺は懐からおにぎりを一つ取り出し、善逸に手渡す。

 

「ほらこれ、食べるか?」

「あぁ、ありがとう…」

 

善逸がおにぎりを食べているのを見ていると、「炭治郎は食わないのか?」と口元におべんとを着けて聞いた。

 

「うん、それしかないから」

 

善逸は食べていたおにぎりを二つに割り、片方を俺に差し出した。

 

「ほら、半分食えよ」

「えっ、いいのか? ありがとう」

 

俺もおにぎりを食べる。具は入ってないけど美味しい。

 

俺たちはしばらく畦道を歩く。

 

「鬼が怖いっていう善逸の気持ちもわかるが、雀を困らせたらダメだ」

「えっ、困ってた? 雀? なんでわかるんだ?」

「いや、善逸がそんな風で仕事に行きたがらないし、女の子にすぐちょっかい出す上に鼾もうるさくて困ってるって………言ってるぞ」

 

雀を指差しながら俺は言う。雀も俺の言っていることを肯定するかのようにチュンと鳴く。

 

「言ってんの? 鳥の言葉わかるのかよ」

「うん」

「嘘だろ? 俺を騙そうとしてるだろ」

 

俺の鎹鴉が飛びながら俺たちを急かす。

 

「カァァ!! 駆ケ足!! 駆ケ足!! 炭治郎、善逸、走レ!! 共ニ向カエ、次ノ場所マデ!! 走

レ、走レ炭治郎! 善逸!」

 

鎹鴉が走れと言っているのを見た善逸が、まるで化け物に出遭ったかのように地面を転がりながら叫ぶ。

 

「ギャ―――――ッ!! 鴉が喋ってるぅ!!」

 

 

畦道を抜け、俺たちは雑木林へと足を踏み入れていた。

 

「なぁ炭治郎、やっぱり俺じゃ無理だよ…俺がいても何の役にも立てないしさぁ…」

 

善逸が弱音を吐いているのを背に、俺は進み続ける。

 

(鬼の匂いが少しずつ強くなってる。この先に何かある。……あれは)

 

林の先には、屋敷が立っていた。

 

「血の匂いがする…。でも、この匂いは」

「えっ? 何か匂いする?」

「ちょっと今まで、嗅いだことない」

「それより、何か(なにか)音がしないか? あとやっぱ、俺たち共同で仕事するのかな?」

「音?」

 

何か音が聞こえるのかと疑問に思っていたら、離れた所で兄妹が怯えた様子で抱き合っていた。その兄妹は屋敷の方を見て怯えていた。

 

「こ、子供だ…」

「どうしたんだろう」

 

俺はその子たちに何があったか聞いてみることにした。

 

「君たち、こんな所で何してるんだ?」

 

俺を見ても、兄妹の様子が変わることがない。

 

(かなり怯えているな……)

 

俺はその子たちの前でしゃがみ込む。

 

「よーし、じゃあ兄ちゃんがいいものを見せてあげよう」

 

そして左手に雀を乗せてその子たちに見せる。

 

「じゃじゃ―――ん。手乗り雀だ」

 

雀も俺の手の上で可愛らしく舞う。

 

「な? 可愛いだろ?」

 

俺と雀を見ていた兄妹は落ち着いたのか、その場に座り込んだ。

 

俺は二人が落ち着いてから、ゆっくりと尋ねた。

 

「教えてくれ。何かあったのか? ここは二人の家?」

 

男の子が泣きながら言う。

 

「違う…、違う…。こっ、ここは…。ばっ、化け物の……、家だ……」

 

化け物? 鬼だろうか。

 

「兄ちゃんが連れていかれた。夜道を歩いていたら、見たこともない化け物が現れて…俺たちには目もくれないで、兄ちゃんだけ…」

「あの家に入ったんだな?」

「うん…うん…」

「二人で後をつけたのか? えらいぞ。頑張ったな」

「………うぅ。……兄ちゃんの血の痕を辿ったんだ…怪我したから……」

 

怪我………

 

「大丈夫だ。俺たちが悪い奴を倒して、兄ちゃんを助ける」

「ほんと? ほんとに……?」

 

女の子が尋ねる。

 

「うん、きっと…」

 

屋敷の方を見ていた善逸が、俺の名を呼んだ。

 

「炭治郎。なぁ、この音何なんだ? 気持ち悪い音…ずっと聞こえる。鼓か? これ…」

「音? 音なんて………」

 

突然、屋敷の中から誰かが鼓を敲く音が聞こえてきた。十四回音が鳴った後、十五回目と共に血だらけの人が二階から飛んできた。その人はそのまま、二階の高さから地面に激突し、血が飛び散る。

 

「キャ―――ッ」

 

女の子が叫ぶ。

 

「見るな!!」

 

俺はすぐに落ちてきた人の許へ駆け寄る。

 

「大丈夫ですか!?」

 

その人の体を起こしながら、声を掛ける。

 

「大丈夫ですか! しっかり………」

(!! 傷が…深い……。これは………)

「出ら…」

 

その人が力なく口を開いた。

 

「せっ…かく…、あ…あ…出られ…たの…に…。外に…出ら…れた…のに…。死…ぬ…のか…? 俺…、死ぬのか…」

 

悲しみのあまり、俺はその人をぎゅっと抱いた。しかし、それで傷口が塞がるわけもなく…

 

(あぁ……。死んでしまった…。痛かっただろう…。苦しかったろう……)

 

地面に思いっきり激突したのが致命傷となってしまった。

 

「炭治郎……。もしかしてその人…。この子たちの……」

 

屋敷から再び鼓を敲く音が聞こえてきた。

 

(助けられなかった…。俺たちがもう少し早く来てれば、助けられたかもしれないのに……)

「ねぇ、この人は君たちの…」

 

俺はあの子たちに尋ねる。

 

「に、兄ちゃんじゃない……。兄ちゃんは、柿色の着物を着てる……」

(!! そうか、何人も捕まっていたんだ)

 

俺は死んでしまったその人を、地面にゆっくりと寝かせて、手を合わせた。

 

(戻ってきたら、必ず埋葬します……すみません…すみません…)

 

何人も捕まえている鬼を、放っておくことはできない。

 

「よし、善逸!! 行こう」

 

しかし善逸は、顔を引き攣らせながら顔を横に振った。

 

「でも、今助けられるのは、俺と善逸だけだ」

 

善逸は表情を変えずに行こうとしない。

 

「………そうか、わかった」

 

俺が一人で屋敷に乗り込もうとすると、善逸が背中に掴まった。

 

「ヒャ――――ッ!! 何だよォ―――!! なんでそんな般若みたいな顔すんだよォ――ッ!! 行くよォ――ッ!!」

「無理強いするつもりはない」

「行くよォ――!!」

 

屋敷に乗り込む前に、俺はこの子たちの前に、禰豆子が入った箱を置く。

 

「もしもの時の為に、この箱を置いていく。何か遭っても、二人を守ってくれるから。じゃ、行ってくる」

 

二人を外に残して、俺と善逸は屋敷へと入っていく。

 

 

屋敷の中は薄暗かった。行燈が点滅をしている。

 

「炭治郎……、なぁ炭治郎……。守ってくれるよな? 俺を守ってくれるよな?」

 

善逸は震えていた。

 

「……善逸。ちょっと申し訳ないが、前の戦いで俺は、肋と脚が折れている。そしてまだ、それが完治していない。だから…」

「ええっ、えええ―――――ッ!! 何折ってんだよ骨! 折るんじゃないよ骨! 折れてる炭治郎じゃ俺を守り切れないぜぇ―――ッ!! ししし死んじまうぞォ―――!!」

 

善逸が大声を出して叫ぶ。

 

「ヒャッ! どうすんだ! どうすんだ! 死ぬよこれ! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! ヒィ―――ッ! 骨折してるなんて酷い! あんまりだぞ! 死んだよ俺!! 九分九厘死んだ!!」

 

「死ぬ死ぬ」と言いながらじたばたしている善逸。

 

「善逸。静かにするんだ。お前は大丈夫だ」

「気休めはよせよォ―――ッ!!」

「違うんだ。俺にはわかる。善逸は…」

 

玄関の方から、足音が聞こえてきた。

 

「駄目だ!!」

「ギャ―――――――ッ!!」

 

あの子たちが屋敷に入って来た。

 

「入ってきたら駄目だ!!」

「お、お兄ちゃん。あの箱カリカリ音がして…」

「だっ…!! だからって置いてこられたら切ないぞ。あれは俺の命よりも大切なものなのに…」

 

と、屋敷全体が揺れる。

 

「キャアアア」

 

善逸がしゃがみ込み、女の子が部屋の中へと押しやられる。

 

「あっ、ごめん…。尻が」

 

鼓の音と共に、風景が変わる。俺は女の子を抱き寄せる。

 

(部屋が変わった!? いや、俺たちが移動したのか? 鼓の音に合わせて)

 

女の子は俺の胸の中で泣く。

 

「お兄ちゃんと離れ離れにしてごめんな? でも、必ず守るから。お兄ちゃんのことも、善逸が守るよ。大丈夫。名前は?」

「てる子……」

「そうかてる子…。良い名前をつけてもらっ…」

 

鬼の匂いが近づいて来た。大きな足音を立てて、障子の裏から鬼が姿を現す。体から鼓が生えている。叫び声を上げそうになったてる子の口元を俺は押さえる。

 

(いくつかの匂いの中でも、この屋敷に染みついた、きつい匂いだ。かなり人を喰ってる。こいつがこの屋敷の…主!!)

 

俺はてる子の口を押さえながら、鬼をじっと見る。鬼はブツブツと何かを呟いている。

 

「あいつらさえ……。あいつらさえいなければ……」

「てる子。叫ぶのは我慢だ。部屋は動くから、廊下に出るな。退がって(さがって)、棚の後ろに隠れるんだ」

 

鬼はさらにボソボソと呟く。

 

「なぜだ…。どいつもこいつも余所様の家にづかづかと入り込み…。腹立たしい……。小生の獲物だぞ。小生の縄張りで見つけた、小生の獲物だ……」

 

俺は日輪刀を抜く。

 

「あいつらめ…。あいつらめ」

「おい、お前!!」

 

俺は鬼に呼びかける。

 

「俺は鬼殺隊、階級・癸!! 竈門炭治郎!! 今からお前を斬る!!」

 

俺は鬼へと飛び掛かった。

 

「俺が見つけた〝稀血〟の子供なのに」

(取った!!)

 

俺が頸を斬ろうとしたところで、鬼は右肩の鼓を叩いた。すると、俺の体は左へと引っ張られた。

 

「キャアッ!」

「てる子!!」

 

畳が側面にある…。部屋が回転したんだ。これがこの鬼の血鬼術。屋敷全てが、鬼の縄張り…!!

 

次の鬼の攻撃に注意していると、この鬼とは別の匂いがした。

 

(何だ!? 匂いが迫ってくる。鬼じゃない!!)

 

どたどたと走る足音が聞こえてきた。

 

「…進猪突猛進!! 猪突猛進!!」

 

障子を破って、誰かが姿を現した。

 

(なんだあの男。猪の皮を被って――…日輪刀を持ってる!!)

 

猪頭の男が鬼に呼びかける。

 

「さァ化け物!! 屍を晒して俺がより強くなるため、より高く行くための、踏み台となれェ!!」

 

男は両手に持っている刃毀れだらけの刀の一本を、鬼へと突き出した……

 

「行くぜェ…。猪突…猛進!!」




どうも、鬼滅アニメ二期の放送決定に心の中で狂喜乱舞した最果丸です。

遂に来たぜ遊郭編!! 相も変わらず映像が綺麗でした。これから楽しみです!!


やっと炭治郎と善逸が出会いました。




炎、岩、花、蟲、蛇、恋、音、月の未登場だった型を自分で考えてみました。

月の呼吸 肆ノ型 鬼舞弦月

日の呼吸 烈日紅鏡と同じく、八の字を描くように刀を振るう型。


大正こそこそ噂話

「望月、朔夜の使う月の呼吸は、黒死牟と死闘を繰り広げた際に型を全て出させ、それを血鬼術無しで必死に再現したもの」

無限列車編は犠牲者無しにしてほしいですか?(魘夢除く)

  • 犠牲者ゼロで!(煉獄さんも)
  • 原作通り(煉獄さんとお別れ)
  • 煉獄さん以外ならおk
  • 猗窩座を倒せ!
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