インフィニット・ストラトス~光に奪われし闇~   作:ダーク・シリウス

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書きため込んでいた小説を処理するべく投稿しました。
アーキタイプ・ブレイカーのキャラはIS学園に何人かは最初から存在している設定で投稿します。

一巻と二巻分、それ以外の小説を色々と省いて投稿します。ご了承ください。


現れる黒いIS

どこからともなく聞こえる爆発音に混じって発砲音の他に、人の悲鳴と怒声と奏でる緊急放送に甲高く鳴り響くエラーの音の不協和音。どこかの施設が強襲されていることが明白であり、白衣を着た人間が危険から遠ざかり安全圏へ向かう駆け足の音が彼らの心情を醸し出す中・・・・・。

 

「チャンチャラチャンチャンチャウェイウェイララララー♪」

 

機械的なウサ耳に童話の本から飛び出して来たんじゃないかと言う青いワンピースに腰には大きなリボン、服の上からでもわかる豊満な胸。垂れた双眸の女性が理解に苦しむ歌を噴火の勢いで壁から発生した爆発にも意を介さず歌い、この緊急事態の中をピクニック気分で歩みを止めない彼女の精神に疑わずにはいられない。そして彼女の行く道を阻む人も障害も皆無であることも疑問に尽きる。

 

破られたバリケードや壁に天井と床、通路に倒れてる警備係も含めた数多の人間達、中には機械のパワードスーツを身で装着してる女軍人もいたが、既に強襲されてから時間が少し経っていた。そんな人間達を有象無象の以前に存在していない者として気にせずに歩き彼女は、篠ノ之束は真っ直ぐ目的の場所へ悠々と向かっていった。

 

しばらくして今まで通ってきた通路とは作りが違うレーザーの熱で焼き開かれた大きな扉に辿り着き、穴を潜って進入する。そこは培養カプセルが数多く設けられていた研究施設だった。カプセルの中には胎児から大人まで前進にケーブルと繋がっていて、何かの研究をしていたのが明らかであった。だが、彼女の意識と視線はこの研究をしていた化学者と研究者、生物学の者達が集められてる場所にか眼中になかった。彼の者達の周囲には人型のパワードスーツのロボットが数機佇んでいて、逃がさないように大型の銃器を突きつけていた。

 

「ねぇねぇ、ここにあの子がいるのは判ってるんだぁ。だから早く私に返してくれないかな♪」

 

「な、何の事ですかっ。我々は何も知らない!こんなことしてタダではすまさないっ・・・!」

 

「ふーん、とぼけるんだ。じゃ、いいよ。もう用はない」

 

と、言い返す研究員から踵を返してコンピューターに近寄り、銃撃で生じる発砲音と人の悲鳴を背にピアノの如く指を動かしては何かを作動させた。一拍遅れて鈍重の音が開く壁のから聞こえてくる。その中に躊躇なく入って中の物を確認する彼女の顔に笑みが浮かんだ。とても、とても狂気を孕ませて。

 

「やぁ、3年ぶりだね!この時をずっとずっとずーっと待っていたよ!」

 

「世界で唯一、私が見初めた最高の助手にして最愛の男の子」

 

「ふふっ、直ぐにこんな馬鹿で阿呆な場所から私の秘密基地に連れて帰るね!」

 

「そしたら君の望むことをこの天才篠ノ之束さんが全て叶えてあげるよ!」

 

「だからさだからさ、一緒に君を苦しめたこんな国なんて、キミから全てを奪った奴らなんて―――潰そ?」

 

 

 

IS―――現代兵器を凌駕する反面、女性しか扱えないという欠点を伴いながらもISが世界最強の兵器として認識

認知されてから、世界観は男尊女卑から女尊男卑と変わってから早くも十年が経った頃。

 

女性しか動かせないISを男が動かした、世間を騒がせる前代未聞の事実がお茶の間に流れた。

 

それだけでも驚きだというのに広がった水の波紋に呼応するよう感じで、次々と特定の国のみの男性がISを動かせる発覚がされていく。

 

 

 

 

 

 

日本に初めて珍獣が来日してから動物園はその日の年の来客数が倍増した。珍獣を一目でも見たいがためにこぞって足を運んで好奇、奇異、興味深々な眼差しや視線を向けるのは人としての性か。動物に限らずその視線を籠めて―――四人の男子に送っているのは可憐な花の女子達もそうであった。

 

その視線と言ったら、一身に浴びる男子達は極めて居たたまれないでいる。十四~十五の思春期の男達が思っていた甘い憧憬とは程遠い視線に気持ちが萎縮し、体を縮めてしまう。もしも四人の男子の心を言葉にするのであれば。

 

「「「「家に帰りたい」」」」

 

嘆く男達の呟きは虚空に消えて女子しかいない教室では、彼等の心を慰めてくれる救いの手を差し伸べてくれる者は皆無である中でSHRが始まった。

 

「織斑一夏・・・・・以上です」

 

「織斑秋十、一夏と双子の関係だ。どっちが兄か弟かは興味ない。以上」

 

「五反田弾。ISを動かせる男として頑張ります」

 

「御手洗数馬だ。趣味はこの四人で下手くそなバンドをする事。後はISを動かせるからには足手まといにならない程度に頑張ります」

 

女性しかISを動かせない男達の自己紹介は終え、期待していた女子達は「え、それだけ?」と拍子抜けした面持ちで目を丸くする。もっとまともな紹介は出来ないのかと、世界で唯一の男達の頭にスパパパパンと叩かれ、揃いも揃って鈍痛に堪えたように頭に手を押さえた。

 

「もっとマシな事を言えんのか馬鹿ども」

 

「ち、千冬姉―――!?」

 

「げぇっ!か、関羽ぅっ!?」

 

「ここでは織斑先生と呼べ。それと誰が三国志の武将だ馬鹿兄弟。山田先生。クラスへの挨拶を押し付けてすまなかった」

 

再び二つの頭に降り下ろされて炸裂するは出席簿。叩かれずに済んだ二人は「「南無」」と合掌する。そんなことした人物は黒い長髪を一つに結い、黒のスーツにタイトスカート、すらりとした長身、よく鍛えられているがけして過肉厚ではないボディライン。組んだ腕。狼を思わせる鋭い吊り目の女性で一夏と秋十の姉である。因みに副担任は黄色いワンピースを着た(※巨乳!)緑の短髪に同色の眼、眼鏡を掛けたこれもまた女性の山田麻耶(※巨乳!)と言う。

 

『キャー!千冬様ー!』

 

織斑千冬の登場で大半の女子が黄色い歓声を上げ、教室の中はあっという間に騒がしくなった。IS乗りの女性の中で一番有名なのはISを用いる格闘競技大会、通称モンドグロッソの優勝経験者をした織斑千冬だ。しかし、二度目の大会でとある事情で放棄、優勝を逃した後に引退をしたのが数年も前の話しになる。

 

「キャーキャーと五月蠅い。有名人の女を会いに来ただけならさっさと帰れ」

 

黄色い歓声の中。冷たく、どこまでも低い声音が興奮で熱が冷めない盛り上がりを一気に下げた。女子達だけでなく男子や教師もある一人の女子に目を向ける。その女子は―――織斑千冬を幼くした顔をしていて、冷やかな言葉を一同に向けて言い放ったのだ。それには一夏と秋十は冷や汗を流しながら、第一印象を悪くしたら友人も関係もできず一人ぼっちになりかねない。―――同じ兄弟姉妹としてフォローしなければとやんわりと窘めた。

 

「そう言うなって。マドカ。ほら、皆に言い過ぎたって謝った方がいい。後で仲良くなれないぞ」

 

「そうだぞ。確かに千冬姉は世間的に有名人だけと家じゃあ随分と―――(バシッ!)あだっ!?」

 

「・・・・・仲良しごっこなんて興味無い」

 

吊り目の眼差しが触れれば切れそうなほど鋭い上に強い光を帯びていた。しかも纏う雰囲気が人を寄せ付けない危険な何かを発していて、織斑マドカは周囲を近寄り難くさせている。

 

「くだらない交流をする暇があればさっさと授業をした方が合理的。特にこの学園の存在意義であるISの関する―――」

 

話す途中で飛んでくる出席簿によって最後まで言えず、顔だけ動かして直ぐ横で通り過ぎるソレはマドカの背後にいた女子に当たり、彼女は初日から不運な目に遭ってしまった。目の前で繰り広げた光景に女子達はただ唖然、呆けるしかなく出席簿を投擲した千冬は淡々と言葉を口にして警告する。例え実の妹であろうと厳しく指導しなくてはならないのだ。

 

「織斑妹。危険な思考でISを触れるならば監視をしなくてはならない」

 

千冬の教師としての立ち振る舞いに、「もう一人の男」が立ち上がってマドカの肩を持つ風な立ち振る舞い方をした。

 

「まぁまぁ、誰もが羨望されているISを触れられる機会を手に入れたからには、強くなりたい気持ちを持っても自然でしょ?俺も練習用の機体でも強くなりたいからマドカの気持ちはわかるよ」

 

「・・・・・お前と一緒にするな虫唾が走る」

 

「orz・・・・・マドカ辛辣だな。あ、順番を無視するような形で申し訳ない。俺は織斑一誠。この間まで芸能界で働いていました。卒業するまで休業扱いなので皆とは一夏兄達と共々仲良くなりたいです」

 

黒髪に黒目、眉目秀麗の少年が場の雰囲気を変え再び黄色い歓声の嵐を巻き起こした。その人気ぶりは尋常ではなく、殆どの女子たちは一誠を熱い眼差しで向けている他、「あの有名人と学園生活を送れる!」という理由で喜びの涙を流すファンもいた。

 

「静かにしろガキども!」

 

千冬の雷の一喝が落ちるまでは続いた。その後すぐにチャイムが鳴った。

 

「さあ、SHRは終わりだ。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。その後実習だが、基本動作は半月で体に染み込ませろ。いいか、いいなら返事をしろ。よくなくとも返事をしろ、私の言葉には返事をしろ」

 

『はいっ!』 

 

「お前達も席に着け」

 

千冬に促され男五人はそれぞれ席に着き、一時間目のIS基礎理論授業を臨むのだった。

 

―――が・・・・・。

 

「お前ら、理解できたか?」

 

「いんや、理解に追い付けんかった・・・・・」

 

「そもそも、ISを触れること自体少ないだろ。知識だけ叩き込まれても実際に動かさないことには俺達がここにいる意味なんてないんじゃないのか?」

 

「自分の専用のISがあればいいんだけどなぁ~」

 

「ない物を強請ってもしょうがない。因みに俺は何とか噛みついている」

 

自然に一時間目の授業が終わって今は休み時間中に集う一夏達。けれど、この教室内の異様な雰囲気を無視できないようで、八つの眼がチラリと廊下側へ向ける。廊下には他クラスの女子、一、二、三年の先輩らが詰めかけている。しかし女子だけの空間に馴染んでしまっているのか、中々四人に話しかけるという事はしない。それはクラスの女子も同じで、『貴女話しかけなさいよ』という空気と『ちょっとまさか抜け駆けする気じゃないでしょうね』的な緊張感が満ちている。

 

「弾と数馬、お前らが願望していた展開だが喜ばないのか?」

 

「いやー、なんつーか・・・・・」

 

「想像していたのと違うのと、いざ理想郷の中に立たされると緊張が、な?」

 

「それに加えてクラスの女子からも視線が凄いことで、何とも居た堪れない気持ちの思いだ」

 

「そう?俺はいつもと変わらなく感じるよ」

 

「「「「それは日頃そういう日常を送っているお前だけが抱く感想だ」」」」

 

興味津々、好奇心旺盛で一夏らを見てソワソワ、ザワザワと落ち着かない様子の女子達は話しかけられるのを待っているかのように雰囲気を醸し出し、チラッと四人が周囲の女子を見ると、それまで彼らに向けていた視線を慌てて逸らす。

 

「「「「・・・・・一人じゃなくて安心する」」」」

 

「あはははー」

 

もしもこの状況の中、たった一人でいさせられたとしたら、物凄く精神的に疲れが出ていただろう。気さくさに話ができる女子が一人でもいたら救いであり、男友達だったら更にひとしおだ。

 

「な、昼飯どうするか決めてるか?」

 

「食堂で食べるつもりだぜ」

 

「同じく」

 

「んじゃ、マドカも誘って飯食おうぜ」

 

「そのマドカはもう姿を消していなくなっているんだが・・・・・」

 

仲がいい同士で和気藹々と会話をする男の光景に一部の女子が黄色い歓声を上げるが、当人達は気にすることはなかった。

 

「・・・・・ちょっといいか」

 

「「「「ん?」」」」」

 

突然、話しかけられた。女子同士の牽制に競り勝ったのだろうか?と思った一夏だが周囲の反応を確認してそうではないと悟った。

 

「「箒?」」

 

「おー、久しぶりじゃん」

 

「・・・・・」

 

篠ノ之箒。一夏と秋十に一誠、そしてマドカにとって彼女とは六年ぶりに再会になる幼馴染だ。四人が昔通っていた剣術道場の娘。髪型は艶のある肩下まである黒い長髪を白色のリボンでポニーテールに結っている。一夏と秋十はとても懐かし気で朗らかに話しかけるが睨みつけているような目つきで「話がある」と席を立つ催促を受けた。

 

「マドカは?」

 

「・・・・・早くしろ」

 

どうやらマドカ抜きで話をしたい箒に弾と数馬に一言残して彼女と話せる場所へ赴いた。そこは晴天を見上げれるIS学園内の屋上。箒は落下防止の目的で設置している柵の前に立ち三人に背を向ける。

 

「箒久しぶりー!凄く会いたかったよ!」

 

「六年ぶりだもんな。久しぶりに会ったけど、箒ってすぐにわかったぞ」

 

「相も変わらず髪型はポニーテールだし、目つきも鋭い上にな」

 

再会の会話を述べる一夏と秋十と一誠の声に箒は返答をしない。照れているのか中々言い出せないでいる。だから彼女から話しかけてくるまで口を閉ざした。しかし、休憩の時間切れの鐘の音が鳴ってしまった。二時間目の開始を告げるチャイムを聞き、行動に移す。

 

「箒、教室に戻ろう。遅れでもしたら千冬姉の出席簿に叩かれる」

 

「あれ、すっげー痛いんだよな。初めて知ったぞ出席簿に叩かれるのが痛いだなんて」

 

「ここじゃ姉さんに逆らっちゃいけない法律が黙認されているんだきっと」

 

「・・・・・」

 

―――†―――†―――

 

 

「―――であるからして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ―――」

 

すらすらと教科書を読んでいく山田先生。対して生徒は聞き耳を立てながら事前学習している者がてきぱきノートに記入していく女子がいればそうでない生徒が浮き上がる。主に男子生徒だ。机にどっかりと積まれた教科書五冊を片手に何とか遅れまいと四苦八苦、苦難の色を浮かべながら授業に取り組んでいる。そんな生徒がいれば教育者として指導の甲斐があるというものだ。山田真耶は内心嬉しそうにしながら一夏達に胸を張って訊ねた。

 

「何か分からないところがありますか?」

 

そう訊ねられた一夏達は席がバラバラでも以心伝心、事前に打ち合わせしたかのような口振りで応えた。

 

「「「「ほとんど全部わかりません」」」」

 

「へ?」

 

千冬から事前に発行されているはずの入学前の参考書について問われ、一人は漬物石の代わりに、一人は古い電話帳と間違えて捨て、残りの二人は単純に難しいと理由により、二人だけ出席簿で叩かれた。

 

「山田先生。すまないがこの四人を放課後教えてやってください」

 

「はい。わかりました。それじゃ織斑君達。放課後先生と教えてあげますから、がんばって?ね?ね?」

 

特別指導を受ける事になった一夏達四人は「はっ、ほ、放課後・・・・・放課後に教師と生徒・・・・・。あっ!だ、ダメですよ、先生、強引にされると弱いんですから・・・・・それに私、男の人は初めてでいきなり四人がかりでなんてそんな・・・・・」と頬を赤らめてそんな事を言いだした山田先生に何とも言えない面持ちとなった。妄想癖のあるかと、印象を窺わせる彼女の教師としての威厳はあまりないかもしれない。寧ろ不安になり果てしなく前途が多難な気がしてしょうがない。

 

 

二限目の休み時間、弾と数馬に一夏と秋十は復習というプチ勉強会をしつつ会話の花を咲かせていた。何とかマドカも誘いだして一誠は仏頂面を崩さない妹のにあれこれと積極的に接触、交流を臨んでいると一夏達の元へ一人の女子が口を開きながら近づいた。

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

話しかけてきた相手は、地毛の金髪が鮮やかな女子だった。白人特有の透き通った青い瞳が、ややつり上がった状態で五人を見ている。わずかにロールが掛かった髪はいかにも高貴なオーラを出していて、その女子の雰囲気も『いかにも』と風に醸し出していた。

 

「訊いてます?お返事は?」

 

「あ、ああ。訊いているけど・・・・・どういう用件だ?」

 

一夏がそう答えると、目の前の女子はかなりわざとらしく声を上げた。

 

「まあ!なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないのかしら?」

 

『・・・・・』

 

高貴な者の上から目線、大きな態度、プライドの塊が詰まった様な言葉を口にされ和気藹々だった雰囲気は静まり返るほど下がった。今の世の中、ISの登場で女性はかなり優遇されている。優遇どころか、女性によって女性こそが至上の存在だと思い込んで男の立場は完全に奴隷、労働力だろうと認識している者もいる。見知らぬ女に擦れ違っただけで小間使いのような仕打ちをされる男の姿は珍しくない。その上ISを使える。それが国家の軍事力になる。だからIS操縦者は偉い。そしてIS操縦者は原則女しかいない。それが現代の女性に優遇されて当然だと認識を増長させている原因でもあるのだ。

 

「いきなり話しかけてきた人のどこから光栄を思わせるのかわかるか?それとも背中の後ろに後光が見えるか?」

 

「「「「いや、わからん」」」」

 

だよなーと若干呆れる秋十。だが、名前は覚えている。

 

「確かイギリス出身のセシリア・オルコットだったけ?俺達に何か聞きたいことでもあるのか?」

 

「私の名前だけを憶えてらっしゃるのは及第点ですわね。ですが、私がイギリスの代表候補性という肩書が抜けていらっしゃいますわ」

 

「あー、相手が候補生だろうと代表だろうと今の俺達に他のことまで気に掛ける理由がないんだ。見ての通り勉強しているぐらいだし」

 

マドカはただ嫌々突っ立っているだけで勉強会に参加していない。ウーンウーンと頭を悩ませる男四人の一人、一夏がふと素朴な疑問を口にした。

 

「ついでに質問だ。代表候補生って、何?」

 

がたたっ。聞き耳を立てていたクラスの女子数名がずっこけた。セシリアも信じられないと顔に気持ちを露わにし、一夏の質問に呆れの息が零れる秋十達。そんな兄の為に一誠は説明した。

 

「オリンピックに出る国の代表の予備の選手って感じだよ」

 

「おお、わかりやすい」

 

ポンと納得して手を叩く一夏に「いや、読んで文字如くそのまんまだからな」と付け加える言葉を送る。

  

「あ、あ、あ・・・・・」

 

「「「「「『あ?』」」」」」

 

「あなたっ、本気でおっしゃってますの!?」

 

すごい剣幕で一夏に食って掛かるセシリア。

 

「・・・・・で、その代表候補生のセシリア・オルコットはどんな話をしに来た」

 

そこで初めてマドカが口を開いた。

 

「『たかが』代表候補性だからだと自慢をしに来ているなら他所でやれ。この愚兄共に付き合わされてイライラしているんだ。高飛車な女の話なんて聞いても意味がない。消えろ」

 

「な、なんですってっ!?入試で唯一教官を倒したエリート中のエリートの私の話が無駄!?聞き捨てになられませんわ!」

 

唯一、を物凄く強調するセシリアの言葉に一夏達は「「「「「ん?」」」」」?と疑問を抱いた。

 

「入試って、あれか?ISを動かして戦うやつ?

 

「それ以外入試などありませんわ」

 

であれば、と五人は顔を見合わせて自分に指を突き付けながら言った。

 

「「「「「俺達も倒したぞ、教官」」」」」

 

「は・・・・・?」

 

「私もだ。相手はあのメガネの女教師だったな」

 

マドカもそうだったと言ってさらに付け加えた。

 

「お前、代表候補性だと言ったな。だとすれば専用機のISを保有しているのだろ」

 

「だったら、何ですの」

 

「訓練機相手に専用機で戦えば出来レース以外何もない。結果が見え透いている。自慢のISで訓練機を倒したそっちと同じ訓練機で教官を倒したこっち。代表候補生になるまで知識と実績を得ているお前と、初めてISを動かしたばかりのド素人共。一体どっちが自慢話になるのかすら頭の硬いエリートはどうやらそこまでわからないようだな」

 

千冬の顔でセシリアを嘲笑う。当然ながらセシリアは憤慨する。金切り声を上げながらマドカに対して食って掛かるも、相手にされないどころか三時間目開始のチャイムが鳴るまで無視された。女子達が続々と席に座った頃を見計らったように教室に千冬と山田が入って授業を臨んだ。

 

「それではこの時間は実践で使用する各種装備の特性について説明する」

 

一、二時間目とは違って、山田ではなく千冬が教壇に立っている。よほど大事な話なのか、副担任の山田までノートを手に持っていた。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗戦に出る代表者を決めないといけないな」

 

ふと、思い出したように千冬が言う。

 

「クラス代表者とはそのままの意味だ。対抗戦だけでなく、生徒会の開く会議や委員会への出席・・・・まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測る今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生むもの。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」

 

ざわめきが生じる教室。クラスの代表を決める時間となったこの瞬間に一夏達は臨んで推薦をしようとしなかった。その中、右手を挙手しクラス全員と二人の教員の視線を一身に集めた。まさか、彼女が?と勝手な期待が孕んだ眼差しを受ける中で千冬から話しかけられる。

 

「織斑妹。自薦か?自薦他薦は問わないぞ」

 

「他薦。現時点で戦闘力が高いセシリア・オルコットに面倒事を全面的に押し付けたい」

 

堂々と言ってのけるマドカの理由に「何ですのその理由はー!?」と悲鳴染みた叫びが聞こえても当の本人は気にせず、彼女を推薦すると意を固めている。仕舞には、はっと一夏達も挙手して「セシリアさんを推薦します!」と名乗り出た。

 

「待ってください!納得がいきませんわ!」

 

突然、甲高い声で抗議しながらバンッと机を叩いて立ち上がったセシリア。

 

「このような選出は認められません!何ですの、面倒事を押し付けるとは。もっと言い方があるでしょう言い方が!」

 

「・・・・・成績優秀で入試試験で教官を倒したエリートのセシリア・オルコットを推薦する、で言い改める」

 

「何かイラッときますわ。あからさまにわたくしのこと蔑んでいますの?」

 

マドカを睨むセシリア。「なんだ、エリートじゃないのか」「エリートですわっ」と何だか夫婦漫才がしそうなやりとりに千冬は息を吐いた。

 

「他にはいないのか?いないなら無投票当選だぞ」

 

「ですから、織斑先生。わたくしはこんな選出は認められ―――」

 

「自薦他薦は問わないと言った。他薦されたものに拒否権などない。選ばれた以上は覚悟をしろ」

 

ばっさりとセシリアの言い分を切り捨てるその切れ味は一刀両断の如くであったと一夏は思った。このまま彼女の独走で決まってほしいと思う少年少女達であるが、初の男性操縦者の戦いを、強さを見てみたい女子達の好奇心を抑えつける事は叶わず。

 

「あの、織斑君に推薦を」

 

「私も、秋十君です。やん、秋十君って言っちゃったっ」

 

「五反田君に推薦」

 

「御手洗君を推薦します」

 

「織斑さんも推薦します」

 

「一誠君に推薦!」

 

他薦されっぱなしであっさりセシリアより多く指名され「いい気味ですわ」と内心嘲笑するが。別の意味で納得できなくなった。しかし、拒絶した手前で手の平を返す様に異論を唱えてはプライドを汚すのではないかと苦悩する。多くから推薦された生徒の数を決めかねなくなってしまっては教師として千冬はある提示を下す他なかった。

 

「クラス長を決める決闘をしてもらう」

 

「もしかして、バトルロワイヤル?」

 

「ああ、手間も時間も掛らず直ぐに決まる。ルールの勝敗は時間制限以内で勝者は一人、もしくは残存エネルギーで決める。異論はないな」

 

異論などすれば出席簿が飛んできそうな予感を覚える弟と妹は沈黙で是と答える対象的に。

 

「うふふ、丁度いい機会ですわ。イギリス代表候補生のこのわたくし、セシリア・オルコットの実力を示すまたの機会ですわね!ああ、ですが・・・わたくしの実力を以って平伏させて決めないといけなくなるとは、あなた達は幸運でありながら不運ですわ。わたくしと『ブルー・ティアーズ』の戦う姿を目の当たりにしながら敗れるのですから」

 

優位に立った者の言動をし、優越感に浸っているその顔で結果は目に見えていると腰に手を当てて不敵な笑みを浮かべるセシリア―――に言いたげな顔でマドカは呟いた。

 

「推薦した」

 

「あのような推薦こちらから願い下げですわよ!」

 

「実力を評価した上で嫌がれるなんて我儘過ぎるな。嫁の貰い手がなくなるぞ」

 

「何ですってー!?」と怒り狂う高貴なお嬢様から興味を無くしたのか、無表情の顔を逸らしてそれからセシリアに振り返らず瞑目し出す。自分に興味を失せた者に言い表せない感情が湧き上がり、許すまじとビシッと指をマドカに突き付ける。

 

「わたしくしを小馬鹿にして許せませんわ!絶対にあなただけはこのセシリア・オルコットが誇りに懸けて叩きのめしてあげますわよ。覚悟しなさい!」

 

「訓練機相手に全力を出すとか、よっぽど自分の実力に自信がないんだな。ああ、専用機じゃないと訓練機に勝てないって隠しているからか。弱いなセシリア・オルコット」

 

「ど、どこまでもわたくしを侮辱するなんて・・・・・っ!絶対に許しませんわよ、織斑マドカ!徹底的に潰して貴女の三人の兄弟の前で無様な姿を晒して見せますわ!」

 

ピクリと反応してゆっくりとセシリアへ顔を向けた。

 

「しない」

 

「は?」

 

「私は、敗北など絶対にしない。私は、強くならねばならない。『兄さん』に無様な姿を見せるわけにはいかない」

 

強い決意の思いを瞳に宿し、真剣な面持ちでセシリアを睥睨するマドカから発する雰囲気に、周囲は気圧される。

 

「(あの背中に・・・・・追いつけるまでは絶対に)」

 

 

 

一夏達の高校生活が始まりを迎えた頃・・・・・。篠ノ之束は秘密のラボの中で鼻歌しながら歩いていると、目的の空間に足を踏み入れば外套で全身を隠す者と少女が時折紫色の発光現象を起こす黒一色の機体の前に立っていた。二人の姿を目に入れてにんまりと笑みを浮かべつつ近づく。

 

「体の調子はどうかな?」

 

「・・・・・」

 

「そかそか、作った甲斐があったよー。何たって束さんのお手製で特注品だからね。もしも不具合や不備が感じたら遠慮せずに言ってね」

 

こくりとフードが揺れて首肯した黒衣の人物に絶やさない笑みのまま抱き着いた。

 

「ところでさ、IS学園でいっくん達がバトルロワイヤルをするんだってー。ここは君も参加して新しい体の調子を確かめる絶好の機会だと思うんだ。ねね、行ってみない?」

 

「・・・・・」

 

「大丈夫、私達もついていってあげるよ。可愛い助手の晴れ舞台を間近で見なきゃ勿体無い。宝くじ一等を当てるよりも嬉しいことなんだからね」

 

「・・・・・」

 

「うん、それじゃ早速準備しちゃおう!」

 

何も言っていないのに束は相手の気持ちがわかっているかのような言動をして行動を移す。黒衣の人物はそんな彼女を続くためにガシャッと足音を立たせた。

 

 

淡い照明しか光源がない薄暗く巨大な鉄の連絡路に歩く。三人分の足音が静かに立たせ続けていくと通路の側面に巨大な培養カプセルが軒並みに連なってる空間に足を踏み入れた。カプセルにはナンバーが刻まれていて、培養液と共に全裸の女性等が自分の覚醒を待っているかのように目を閉じていた。それらを感心するそぶりを見せない三人は歩く先に培養カプセルと対峙するように佇む二人の男女と出くわした。白衣を着た紫色よりの長い黒髪の金瞳の男性とウェーブがかかった薄紫の長髪の女性だ。それぞれ空中投影のディスプレイを二枚展開して、膨大なデータに目配りしていく。それと同時進行で空中投影のキーボードを叩いていった。

 

「やぁやぁ、順調かな?」

 

「滞りなく作業は進んでいるよ篠ノ之博士。まだこの娘達の稼働は先であるがね」

 

作業を中断して振り返った男性に腰に手を当てて首だけ培養カプセルの中にいる女性達へ見上げた。

 

「そかそか、この子が目を付けただけあってやるねー。この私もお前の『狂気』の研究に興味だけは湧いているよ。人体の中に機械を移植・融合なんて技術は私の専門外だけど私を除けばお前は『天才』だよ」

 

「それは光栄極まりない。人類史上の『天才』の博士に目を向けてくれるだけでも、私のしていることは世界に通用できるという証だ」

 

深々と紳士のように一礼する男性。

 

「ところでここに来たのは私にしてほしいことでも?」

 

「うんうん、これからIS学園に遊びに行くから何人か貸してほしいんだよ。この子の初めての晴れ舞台に乱入する失礼な連中が出ないようにさ」

 

「ほう・・・・・では、動き出すのだね?篠ノ之博士」

 

二人が意識する黒ローブで全身を隠す者。束はくるりと回りながらその者に抱き着いた。

 

「当然だよ。地獄の底から蜘蛛のほっそい糸で上るよりも、鉄の翼で力強く飛んで抜け出すこの子の姿を馬鹿な世界にお披露目をするんだ」

 

 

―――†―――†―――†――――

 

 

幾日が過ぎバトルロワイヤル当日。六人が第三アリーナの別々のピットから『青』と『白』、鈍色の機体を纏ってアリーナ・ステージに佇んでいた。

 

「あら、逃げずに来ましたのね極東のお猿さん達。一方的な結果が見えているというのに」

 

「そうだな、そうすればお前の言い訳もできるのにな。同じ訓練機同士で戦えば少しは言い訳できる。一方的な勝利に浸れるからさぞかしいい気分だろう?ああ、そのド素人の相手にも勝って諸手あげて喜ぶ程度の小学生の精神と我儘な性格に心に余裕がなかったか。すまん、そこまで気が付かなかったよ。プライドだけが取り柄しかない自称エリートお嬢様」

 

「~~~~~っっっ」

 

マンガのように怒りの血筋が浮かび、ブチッ!と血管が千切れる擬音が聞こえるのであればまさに今のセシリアはそんな感じで憤怒していた。彼女が纏う鮮やかな青色の機体『ブルー・ティアーズ』。その外見は、特徴的なフィン・アーマーを四枚背に従えどこか王国騎士のような気高さを感じさせる。それを駆るセシリアの手には二メートルを超す長大な銃器―――検索、六七口径レーザーライフル《スターライトmkⅢ》と一致―――が握られていた。ISは元々宇宙空間での活動を前提に作られているので、原則空中に浮いている。そのため自分の背丈より大きな武器を扱うのは珍しくない。アリーナ・ステージの直径は二〇〇メートル。発射から目標到達までの予測時間〇.四秒。すでに試合開始の鐘が鳴っているので、いつ撃ってきてもおかしくない状況その中で六人はISを駆って戦うのだ。

 

「・・・・・最後のチャンスをあげますわ」

 

高ぶる気持ちを抑え込みつつ腰に当てた手を一夏の方に、びっと一夏の方へ人差し指を突き出した状態で向けてくる。左手の銃は、余裕なのかまだ砲口が下がったままだ。

 

「チャンスって?」

 

「私が一方的な勝利を得る―――」

 

ガガガガガッ!と『ブルー・ティアーズ』のシールドエネルギーを削る銃弾が真下から撃たれる。話の腰を折られすぐさま回避行動に出たセシリアの瞳には純色のIS『打鉄』を纏うマドカがアサルトライフル『焔備』を構えていた。

 

「あ、すまん。空に小五月蠅い虫が飛んでいたんでな。撃ち抜こうとしてお前に当たってしまった。それにしても不思議だな?イギリスのエリート様が日本の量産型で訓練機の攻撃を受けるとはな。ああ、サービスのつもりか?敗北必須の私達にお情けをかけてくれたというのは涙が出るほど喜んで感謝をしよう。―――一生蠅のように空を飛んだまま撃たれてくれ」

 

「お、織斑マドカァアアアアアッ!」

 

さんざん煽られ、侮辱と嘲笑されてとうとうセシリアの怒りのエネルギーゲージが限界突破して《スターライトmkⅢ》をマドカに突き付け狙いを定める。

 

「うし、作戦通りにいくぞ!」

 

「おう!」

 

「了解、マドカに合わせる!」

 

「一夏、頑張れよっ!自由に空飛べるのはお前だけだからな!」

 

「わかったっ!」

 

「っ、いいでしょう・・・・・。ならば、踊りなさい。私、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズが奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

「ヒステリックのお嬢様が淑女的な踊りができるのか?精々恥を掻かないお子様の踊りをするんだな」

 

マドカ、どこまで人を煽るのが天才的なんだ。とセシリアの精神を乱しに乱して戦闘を臨む妹に一夏は脳裏に昨夜のことを思い出す。

 

 

一日だけ時間が遡る。一夏と秋十の部屋で明日、バトルロワイヤルをすることになったセシリア以外のメンバーがマドカの誘いで集まった。

 

 

「マドカ、話ってのは何だ?お前から声をかけるなんて珍しい」 

 

「久しぶりに妹から声をかけられて俺は嬉しいぞマドカ」

 

「(無視)あのイギリス女を倒す作戦をしたい」

 

「バトルロワイヤルの形式だろう?最後の一人になるまでだから結局敵同士じゃん」

 

「ふん、そこまで勝ちたいならセシリア・オルコットを倒したら好きにすればいい。私はクラス委員長など微塵も興味がない。最初から辞退する気でいるが、あの女に負けるのは心底嫌だ」

 

「ってことは、俺らが協力し合ってあの子を倒すってことでいいんだな?」

 

「その通りだ。都合よく愚兄が専用機をぶっつけ本番で手に入る。実力は圧倒的に劣るが少なくとも同じ土俵に立っている。私達が下で素人らしい素人の戦いをしている間に、上から調子に乗って笑いながら攻撃してくるあのヒステリック女が許せない」

 

マドカから共闘の誘いを受け、一夏達もタダで負けるのは男として嫌だと思うところがあったのだろう。異論なく彼女の作戦に協力して臨む姿勢になった。

 

「でも、協力するだけなら簡単だ。セシリアのISがどんなのかわからないんじゃ作戦は立てられないぞ?」

 

「既に手は打ってある。あいつのISの戦闘スタイルも把握済みだ」

 

「お前、一体どこからそんな情報を?」

 

一夏の問いに、口を閉ざして苦虫を噛み潰したような面持ちで吐露した。

 

「・・・・・篠ノ之の姉に頼んだ」

 

「「ぶっ!?」」

 

「「「納得」」」

 

以下の話をマドカ達はしてセシリアとの戦いに向けて作戦を考えて今日を迎えた。

 

「四つの自立起動兵器を狙え!あいつが射撃の時は他の攻撃を同時にできないからな!」

 

「・・・・・!」

 

ひくくっとセシリアの右目尻が引き攣った。図星であることを一夏達は認知して、それぞれ果敢に彼女へ迫り攻撃する。下からマドカ達の支援を受け、直接たった一つしかない一夏の専用機『百式』の武装、ブレードで斬りかかりセシリアの意識を集中せざるを得ないようにする。レーザーライフルで狙おうとすれば直接本人か四つのビットが狙い撃ちされる。マドカの指摘通り、レーザーライフルとビットを同時に使役することができずにいるセシリアは歯痒い思いと一対多向きの状況なのに、ブルー・ティアーズの本領を発揮する戦いだというのに思うように戦わせない相手に苦戦を強いられる。

 

「はぁぁ・・・・・すごいですねぇ、織斑君達」

 

ピットでリアルモニターを見ていた山田真耶がため息混じりにつぶやく。確かに一夏は二回目とは思えないほどの健闘ぶりで、援護しているマドカ達の連携も中々のものだ。

 

「バトルロワイヤルを逆手にとってまずは強敵を倒す。大方考えたのは織斑妹だろう」

 

「どうしてわかるんですか?」

 

「あいつは人一倍負けず嫌いなところがある。そして自分の強さと弱さを知っている。可能ならば他の奴に協力を求めることも惜しまず勝つことを臨んでいる」

 

「へぇぇぇ・・・・・さすがはご兄弟姉妹ですねー。そんなところまでわかるなんて」

 

何となくそう言った真耶に、けれど千冬は複雑な表情を浮かべた。

 

「影響を濃く受けたからな・・・・・」

 

「織斑君達のですか?仲睦まじいですねー」

 

微笑ましいとモニターへ向き直り四機全てのビットの破壊を達成した瞬間を目の当たりにした。

 

 

「よし、丸裸にしてやったぜ!」

 

「気をつけろよ、一夏。腰のミサイルに警戒しろ!」

 

「なんでブルー・ティアーズの武装を知っているのですか!?」

 

ここまで追いつめられることになるとは予想外以外何もなかったセシリアは、さらにまだ隠していた武装まで看破され不意打ちで撃つ機会を奪われたのも当然だ。焦りが彼女の行動を鈍らせて肉薄しかかる一夏にライフルを構えるが、『弾道型(ミサイル)』も撃たれることを想定して迫っているとすれば次にかわされるのが目に浮かぶ。どうする、どうするどうすれば・・・!?

 

「(いける!)」

 

秋十達の支援あってついにセシリアを追い込むことが叶った。残りの武装を気を付ければ接近戦でブレードを叩き込めば勝つことができる。皆の援護を無駄にしないために一夏は全力でセシリアの懐に飛び込まんと宙を駆け、両手で握っているブレードを上段から振り下ろした。

 

――――――刹那。

 

二人の間に影が音もなく舞い降り、それぞれの腕を掴んだ感覚を覚えた二人が気が付いたときはステージの地面へ高速で引きずられて叩きつけられた。

 

ズドオオオオオオオオオオオオオンッ!!!

 

「「「「―――っ!?」」」」

 

二人が何かによって地面に叩きつけられたまでは肉眼で捉えた。だが、それは何なのかは判明できない。ステージにもくもくと上がっている煙の中から、一夏とセシリアが放り投げられた感じで飛び出してきた。

 

「一夏、セシリア!」

 

「うっ、くっ・・・・・!だ、大丈夫ですわ・・・・・」

 

「一体、今のは・・・・・?」

 

「わからない・・・・・」

 

警戒する七人が纏うISのハイパーセンサーが緊急通告を行った。

 

―――ステージ中央に熱源。所属不明のISと断定。ロックされています。

 

「なっ―――――」

 

IS学園に謎のISが襲撃。何故、このタイミングで?何故ここに襲撃してきた?何が狙いなのだ?理解に苦しみ、込み上げる疑問を解消できないまま少年少女達の前にユラリと煙の中から影が浮かび上がる。聞こえてくる足音の主が黒衣のローブで全身を包んだ出で立ちで現れて立ち止まる。

 

「・・・・・IS、なのか?にしては小さすぎるような」

 

「ですが、ハイパーセンサーではISと断定していますわ」

 

「ISの故障だと思いたいな」

 

臨戦態勢の構えのまま、正体不明のISと対峙して何時でも動ける姿勢で皆の気持ちを代表に一夏が尋ねた。

 

「お前は誰だ。何の目的でここにきた」

 

相手は答えない代わりに無言でフードに手をかけて脱ぎ払う。一夏達は目を疑った。身長は170cmは優にある。それが人間だったならば特別珍しくない特徴なのだが―――相手は肌の露出を全てISのような装甲で隠していた。頭部の部分は能面のヘルメットで体と同じように隠している異様な敵は不気味さを醸し出してた。

 

「あれで、ISなのか・・・・・?どこかの国が開発した新しいやつか?」

 

「わからないことを口にしても結局答えがわからないままだ。ただ、現状わかるとしたら」

 

「あいつ、俺達のことロックしたままだ」

 

「つまり・・・・・」

 

「敵なのだろうな」

 

自分の立場を告げるように敵ISは背中から鳥のように四対八枚のウイングスラスターを広げ、両手持ちの赤黒いブレードを呼び出し(コール)た。そして、スラスター翼の部分が分離して八つの自立起動兵器として一夏達を狙い定める。

 

「・・・・・マジでか」

 

信じられない弾の呟きに八つのビットから放たれるビームが応える。ビームの射撃に散り散りで避ける一夏達は第二ラウンドを強いられることになってしまった。まず敵ISに標的されたのはセシリアからだった。弱った獲物から狙う狡猾の獣であるかのように後部スラスター翼からエネルギーを利用して爆発的に加速する。

 

「は―――――!?」

 

いきなり高速移動する相手に目を張った瞬間に全身が襲う衝撃で機体諸共アリーナの壁まで吹っ飛んだ。敵ISと一緒に。瞠目する一夏達を置き去りにして赤黒いブレードをセシリアに振り下ろして滅多切り。武装のレーザーライフルとミサイルを破壊し、戦闘不能になるまで繰り返す。

 

「止めろぉおおおっ!」

 

背後から斬りかかる一誠は軽やかな動きでかわされながらブレードを持つ腕を掴まれ、片腕で振るわれるブレードに叩き込まれた。滅多打ちの如く何度も蹴りも入れられシールドエネルギーが削られて視界がブレる。外装が壊されISから警告の報せと一緒にアラームが鳴っていようと敵ISの暴力的な攻撃は止まらない。ただ受け身でいるしかない一誠は負けじと殴り蹴り返し始めたが。

 

「「一誠!」」

 

「「このいい加減にしろ!」」

 

兄弟を、友達を助けようと四方から迫りくる。ブレードを水平に突き付ける、上段から振り下ろす姿勢の四人に力いっぱい一誠を振り回して弾き飛ばした。その直後に八つのビットで射撃して追い撃ち牽制。マドカを残して一夏達をたった一機のISに凌駕する光景は圧倒されるものであった。当然、この非常事態に教師陣は鎮圧に動くはずだが、未だに緊急連絡すら放送されていない。

 

「ダメです、織斑先生。システムがオールダウン。ハッキングを受けて機能が停止しています!外部への通信も遮断されております!」

 

「・・・・・あのISがこの元凶か」

 

ピットの中は騒然と化するなかで千冬は冷静でいながら綺麗な黒い柳眉を寄せていた。鉄の空間の中に閉じ込められているようなもので外部への連絡は真耶が言った通りできない状態。モニターも砂嵐でアリーナにいる生徒達の状況も把握できず完璧に後手に回ってしまったのだ。手の打ちようがない千冬達は生徒、家族の安全に気に掛けることしか唯一できること他なかった。

 

学園に生じた非常事態に備え実戦向けに戦闘訓練を受けた教師部隊が、出動の報告を受けて以降音沙汰無のアリーナへ直行する直前―――奇襲を受けた。

 

「ドクター、こちらトーレ。IS保管庫を制圧した」

 

『ご苦労トーレ。そのままあの子が、篠ノ之博士が満足に至るまでしてくれたまえ』

 

了解した。と長身の紫髪の女性は短く受け答え通信を切った。

 

「うふふのふー。IS学園の管理機能はそれほどでもないわねー。篠ノ之博士だったら一本の指でもハッキングできちゃうんじゃないかしらぁ~」

 

待機状態のISの肩部に腰を落として空中投影のキーボードを叩いている、長い髪をツインに結び大きな丸い眼鏡をかけた少女が、空中に投影されているモニターに映っているアリーナの様子を見ていた。

 

「クアットロ、あいつはどうだ」

 

「問題視することなんて無いほどに余裕で戦っていますわ。というか、あの子が強すぎて戦いになっているのか怪しいぐらい。今じゃ、残り一人しか無事な相手がいませんわ」

 

「ふん、当然だろう。まともに訓練を受けていない相手ばかりではまっとうな戦いにもならん」

 

「あらトーレお姉さま。まるで自分の事のように褒めますのね。やっぱり気になりますぅ?」

 

ちょっぴりからかいを含んだ問いかけは「任務に集中しろ」と叱咤で返させられた。はぁいと返事をしてハッキングを解除する試みを確認して指を滑らせるように動かすクアットロ。何時の間にか解除されようとしていて、もしも解除を許してあのアリーナに邪魔者を行かせてしまったら、上のお姉様達に冗談抜きで怒られちゃう。その想像をして心の中で薄っすら冷や汗を流すクアットロ。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

マドカを残してISのダメージが大きい一夏達は地にひれ伏していた。敵ISは鞘も粒子召喚してブレードのように二刀流の構えで姿勢で停止した。まるで彼女の次の行動を待つように。マドカは既視感を覚えた。敵ISのあのブレードの構えは―――。

 

『刀が重いから持てないけど鞘なら持てれるよ。ほらこれで二刀流!これなら相手と戦えるよ絶対』

 

『格好いい!』

 

『『いや一誠、鞘は斬れないって』』

 

まだ幼い頃だった時に発案した戦闘スタイル。お蔵入りになったそれは輝しい思い出の一つとしてマドカの中に眠っていたが今蘇った。

 

「・・・・・待て」

 

戦闘が続行できないまでにダメージを受けた練習機のISから降りた一誠。ISのブレードを両手で持って構えながら敵ISに近づいた。

 

「妹に手を出すな」

 

「・・・・・」

 

「無視をするな!」

 

大振りで袈裟切りしかかる一誠。後ろを一切振り向かず前を向く敵ISは手に持っていたブレードで防ぎながら、鞘で一誠の身体に鋭く突き飛ばした。無様に数メートルも吹っ飛んで転がる兄をマドカは気にかける余裕がないのか敵ISから視線を外せない。それどころか口を開いた。

 

「お前・・・・・本当にISなのか?動きが妙に人間的だ」

 

「・・・・・」

 

新型のIS・・・・・第三世代型を上回るISなのかと予測を立てるマドカは、返ってくるとは思わなかった答えに目を疑った。

 

ブレードを鞘に納め片手を伸ばす敵IS。意志疎通が可能だとわかりマドカはこれを機に問い詰めた。

 

「目的はなんだ?」

 

「・・・・・」

 

しかし、敵ISからの返答はなかった。差し伸べられた手がそのままで、勧誘の話を応じるか否か先だとばかり無言に戻ったのだ。マドカはそれに対して否と答えようとしたら一夏のISが一次移行(ファースト・シフト)を完了と通告があった。

 

白を基調としたISを纏う一夏がエネルギーの刃の武装を手に敵ISへ突貫した。

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおっ!!!」

 

赤黒いブレードで受け止め一夏の勢いに押し負け、地面に溝を作って壁際まで押される。そこで鍔迫り合いをする白と黒の機体。

 

「俺の家族にこれ以上手を出させねぇ!」

 

「・・・・・」

 

忘れていないか?と八つのビットを放って一夏の背中から射撃してシールドエネルギーを削り、怯んだところを狙い腹部に蹴り逆に飛び掛かって斬りかかる。武装の多さは勝っているが、あのエネルギー刃は当たれば厄介だと敵ISは知っていた。なんせあれは『織斑千冬』の―――。

 

『もしもーし、そろそろ帰ってきたほうがいいよー。長引くと引き際がわからなくなるからねー』

 

ピタリ、と一夏に振るいかけたブレードが停止。突然動きが不自然に止まったが一夏は逃さずエネルギー刃を叩き込んだ。しかし、あっさり防ぎ弾き返されて直ぐに空へと駆けてアリーナから去る敵ISに見送るしかできなかった。

 

「帰った、のか?」

 

「・・・・・」

 

最後の行動はマドカも理解できず、啞然としばらくその場で突っ立った。ピットも機能が回復しハッキングを解除、学園のシステムが正常に戻った後は戦後処理が待っていた。

 

―――†―――†―――†―――

 

「ひとまず、よく戦ったとしか言葉は送れない。正体不明の所属不明、未知のIS相手にな」

 

試合は当然ながら中止、敵ISによって戦闘不能に陥ったセシリア、弾、数馬は共に軽症で済んだがセシリアのISは無事とは言えない。殆どの装備が破壊された上にダメージがCを超えた。しばらくの間、修復に時間を費やすために起動はできなくなってしまった。一誠も身体的ダメージが大きく医療室に運び込まれた。

 

「お前達から見て相対したあのISはどうだった。何か感じたか」

 

「「「・・・・・」」」

 

千冬の質問に感想を思い浮かべる一夏、秋十、マドカの三人は難しい表情と当惑してる気持ちで打ち明けた。

 

「あんなISが存在しているなんて思わなかった。まるで人間ぽかった」

 

「なんつーか、違和感しかなくて釈然としない」

 

「意志疎通ができることぐらいしかわからん」

 

そうか、と三人の感想を聞いた千冬は解散させた。謎は解明されることなくその日は全て有耶無耶にされて翌日を迎える。そして、あろうことか。

 

「では、一年一組代表は織斑一夏君に決定です。あ、一繋がりでいい感じですね!」

 

山田真耶は嬉々として喋っている。そしてクラスの女子達も大いに盛り上がっている。その結果に身に覚えがない一夏は困惑と暗い顔で挙手。

 

「先生。質問です」

 

「はい、織斑君」

 

「俺は昨日、勝っても負けてもいませんが、なんでクラス代表になってるんでしょうか?」

 

「それは―――」

 

「それは私が辞退したからですわ!」

 

がたんと立ち上がり、早速腰に手を当てるポーズ。様になっているが何故、辞退をしたのか一夏にはちんぷんかんぷんだ。しかも、なんか妙にテンションが高く昨日までの怒っている感じもないし、むしろ上機嫌にも見える。不思議である。

 

「勝負はあのような事件もあって有耶無耶になってしまいました。それは仕方のないことですわ」

 

まぁ、そうであるな。実際そうであるが辞退する理由がまだなっていない。

 

「しかし、まあ、それ以前に私も大人げなく起ったことを反省しまして。昨日、私を助けようとしてくれた貴方には感謝していますの」

 

ほうほう、そうなのかと納得する首肯をする。

 

「一夏さんにクラス代表を譲ることにしましたわ。やはりIS操縦には実戦が何より糧。クラス代表ともなれば戦いには事欠きませんもの」

 

これほどありがた迷惑はないだろうと思わずにはいられない他、名前で呼ばれたことに不思議さを覚えた当人は首を傾げた。

 

「因みに、俺達もお前にクラス代表を譲ることにした。昨日の功労者はお前だからな」

 

「俺達の援護もあったとはいえ、セシリアを追い込んだのは他でもないお前だし」

 

「私はもとよりクラス代表になるつもりは微塵もないと事前に言った」

 

「という事で、頑張れよ一夏兄委員長」

 

「お前は俺達に売られたんだ」

 

「・・・・・はぁっ!?」

 

自分の知らないところで辞退していた身内と友人に間の抜けた驚きの表情を浮かべた。秋十達は一夏の反応を見てしてやったりと心の中でほくそ笑むのであった。

 

 

 

 

 

 

「ふうん、ここがそうなんだ・・・・・」

 

とある日の夜。IS学園の正面ゲート前に、小柄な体に不釣り合いなボストンバッグを持った少女が立っていた。まだ暖かな四月の夜風になびく髪は、左右それぞれを高い位置で結んである。肩にかかるかかからないくらいの髪は、金色の留め金がよく似合う艶やかな黒色をしていた。

 

「えーと、受付ってどこにあるんだっけ」

 

上着のポケットから一切れの髪を取り出しながらIS学園の中を彷徨うようにして潜って歩き始める。ふと、夜空に散らばっている星空を見上げとある男子のことを思い出す。その男子のことは、少女にとって日本に帰ってくる最大の理由にかかわっている思い出だ。

 

・・・・・一年ちょっとしか日本から離れていただけだってのに、もうずいぶん昔のようだわ。

 

思い出すのはとても仲良しであってとある理由で遊ぶ機会はない時もあり、とても忙しそうだった男子の兄だった。その弟の人気振りはかなりの人気者の半面、面白く感じない者や嫉妬、嫌う者も少なくなくちょっとした騒動も絶えなかったっけと弟の方も思い出して懐かしみさも覚える。

 

「だから・・・・・でだな・・・・・」

 

ふと、声が聞こえてくる。視線をやると、女子がIS訓練施設から出てくるようだった。どこの国でもIS関係の施設は似たような形をしているから、すぐにそうだとわかる。

 

―――ちょうどいいや。場所聞こっと。

 

声をかけようとして、少女は小走りにアリーナ・ゲートへ向かう。

 

「だから、そのイメージがわからないんだよ」

 

不意を突かれて、少女の体はびくんと震えてその足が止まる。男の声―――それも、知っている声にすごく良く似ている。いや、おそらく同一人物。予期しなかった再会に、少女の鼓動が急ピッチでペースを上げる。

 

「・・・・・だから言っただろう。こいつの教え方は大雑把で幼稚、感覚だけで教えようとする。だから上級生に頼んだほうがいいと」

 

「お、大雑把ではない!ちゃんと説明しているだろう!」

 

「ならば、もう一度私達が分かるような教え方をしてもらおうか。わかるならばよし、わからなければお前から教わることは何一つないと断定して上級生に教えを乞わせてもらう。さぁ、言え。あれはどういう動きに対する『くいって感じ』なのだ?」

 

「・・・・・・くいって感じだ」

 

「はっ!お前は相手を教える教え方を学ばせたほうが賢明か!幼稚園児か小学生並みの教え方しかできん奴から身になるような訓練ができるとは万が一すら思えない。お前、もう一度小学生から学び直してこい。最悪幼稚園児からだな。それで正しい学び方が分かったならまた教えてもらおうじゃないか。無論、納得できる分かり易くなっていれば、の話だがな。それにしても、その歳で原始人並みの表現の教え方とか・・・・・お前、大人になってもそれじゃあ、脳筋馬鹿女と言われても仕方がないぞ。だがまぁ安心しろ篠ノ之。例え教え方が脳筋原始人でも原始人は時間を掛けて進化を遂げたんだ。お前も時間を掛けて教え方を上達すればいい。ああ、しかし原始人がそうなった時間を考慮すれば、お前の教え方が分かり易く聞けるようになった頃には、とっくにお前も私達は死んでいるな!だからこの言葉を送ろう。―――お前は死んでも絶対に教え方が絶望的に下手のままだと」

 

 

だが、相手を蔑む声を聴いた途端にさっきまでの胸の高鳴りは嘘のように消え、さーっと冷たい滝に打たれたかのように心が委縮してしまう。この声の主には少女にとって散々辛酸をなめさせられた思い出しかない。できれば会いたくはない相手だ。嫌いではないが、毒を入れないと話せないような相手と会話をするのは強い精神力が必要なのだ。身内に対しても容赦しない。ただ一人を除いてだったが。ほら、実際にポニーテールの少女が口で負かされて目尻にキラリとした何かを浮かべて走って行ってしまった。自分にも経験があるとすごーく、既視感を覚え同情する。

 

それからすぐ、総合事務受付は見つかった。アリーナの後ろにあるのが、本校舎だったからだ。灯りがついていたので、そこだとわかった。

 

「ええと、それじゃ手続きは以上で終わりです。IS学園へようこそ、鳳鈴音(ファン・リンィン)さん」

 

愛想のいい事務員の言葉に「ありがとう」と返して―――鈴音は、聞いた。

 

「織斑一夏って何組ですか?」

 

「ああ、噂の子?一組よ。鳳さんは二組だから、お隣ね。そうそう、あの子一組のクラス代表になったんですって。やっぱり織斑先生の弟さんなだけあるわね」

 

噂好きな女性の性。その体現のような事務員の姿を冷ややかに見ながら、鈴音は質問を続ける。

 

「二組の代表ってもう決まってますか?」

 

「決まってるわよ」

 

「名前は?」

 

「え?ええと・・・・・聞いてどうするの?」

 

鈴音の態度に少しおかしなところを感じたのか、事務員は少し戸惑ったように聞き返す。

 

「お願いしようかと思って。代表、あたしに譲ってって―――」

 

にこにことした笑顔に不敵さが滲み浮かんでいた。

 

―――†―――†―――†―――

 

「織斑君達、おはよー。ねえ、転校生の噂聞いた?」

 

朝。席に着くなりクラスメイトに話しかけられた。入学から数週間で、謎の敵ISの襲撃から受けて数日。それなりに女子とも話せるようになったのは最初の頃より大きな前進と言えるだろう。一夏がそうであるように秋十達とも自分から女子と会話をするようにもなっているが、マドカは未だに寄せ付けないオーラを発していた。

 

「転校生?今の時期に?」

 

今はまだ四月だ。何で入学じゃなく、転入なのだろう。しかもこのIS学園、転入はかなり条件が厳しい。試験はもちろん、国の推薦がないとできないようになっているのだ。それができるとすればつまり―――――。

 

「そう、なんでも中国の代表候補生なんだってさ」

 

「ふーん」

 

代表候補生と言えば。

 

「あら、私の存在を今更ながら危ぶんでの転入かしら」

 

一組のイギリス代表候補生、セシリア・オルコット。今朝もまた、腰に手を当てながらポーズをする。

 

「複数とはいえ訓練機相手にも苦戦を強いられた候補生相手に危ぶんでいるのであれば、中国の政府はイギリスなど恐るに値しないのだと判断したんじゃないのか」

 

「マドカさんッ!!!」

 

相手の精神を逆撫でする言葉を発するマドカも、もはやこのクラスにとって日常になりがちになってきている。

 

「でもよ、このクラスに転入してくるわけじゃないんだろ?騒ぐことでもないんじゃね?」

 

御手洗数馬が、気づけば一夏の側に近づいてきた。

 

「それに他のクラスや上級生の方にも俺らと同じ、男の操縦者もいるらしいし気にすることでもないって」

 

「でも、個人的に中国から来た候補生ってのが気になるな。な、一夏」

 

「ああ、少しは」

 

五反田弾の言葉には含みがあり一夏も思うところがあるようで同感する。脳裏に過るここにはいない活発的な少女。その少女は一年、二年間ぐらい前に故郷の中国へ帰郷したのだ。理由は分からないが元気にしているだろうか?

 

「今のお前、女子を気にしている余裕があるのか?来月にはクラス対抗戦があるというのに」

 

「そう!そうですわ、一夏さん。クラス対抗戦に向けて、より実戦的な訓練をしましょう。ああ、相手なら専用機を持っているこの私、セシリア・オルコットが務めさせていただきますわ。なにせ、専用機を持っているのはまだクラスで私と一夏さん、だけ!なのですから」

 

『だけ』という部分をえらく強調するセシリアの態度に秋十達は声を殺して話し合いだす。

 

「・・・・・なぁ、あれってよ」

 

「言ってやるな」

 

「今日の星座占いであいつ、女難に遭うって結果だったぞ」

 

「あ、そうなんだ」

 

数馬の指摘に男四人は顔を見合わせ、微妙な表情で一夏へ目を向ける。

 

「秋十、例の中国の転入生。あいつだったらおかずを一品奢り(五反田)」

 

「あいつじゃない方でおかずを一品奢りだ(秋十)」

 

「なに、急にお前らは賭けをしてんだよ?(御手洗)」

 

「私は五反田に一票だ(マドカ)」

 

「俺も弾に一票(一誠)」

 

離れて座っているマドカが賭けに乗ったのがとても珍しく数馬も戸惑いつつ秋十に投票参加。その結果―――。

 

「あたしを賭けの対象にするんじゃないわよ、あんたらっ!」

 

教室の入り口から怒る声が聞こえた。一部の少年と少女達がすげえきいたことのある声だとドアの方へ視線を向けた。そこには歯を剥いて怒りを露に、トレードマークのツインテールが逆立つほど怒髪冠を衝いていた。

 

「鈴・・・・・?お前、鈴か?」

 

「そうよ。中国代表候補生、鳳鈴音。今日は宣戦布告に来たってわけ」

 

一夏に話しかけられてふっと小さく笑みを漏らす。

 

「てか、何でドアんとこに立っていたんだ?」

 

「大方、愚兄に恥ずかしい再会をしたくないために、『こんな姿勢で格好良くすればあたしって結構イケてるんじゃない?』的な気持ちでスタンバイしていたんじゃないか?―――仮にそうだったらお前は漫才の才があるぞ。三流のな」

 

「久しぶりにアンタの毒の会話を聞いたわね・・・・・相も変わらずなわけ」

 

「「「まぁ、これがマドカなわけで」」」

 

マドカに対する質問の答えは敢えてせず、聞いていなかったことにスルーして弾に目を向ける。

 

「まさか、弾までISを操縦するなんて思いも―――」

 

「おい」

 

「なによ?」

 

バシンッ!聞き返した鈴に痛烈な出席簿打撃が入った。―――鬼教官の登場である。

 

「もうSHRの時間だ。教室に戻れ」

 

「ち、千冬さん・・・・・」

 

「織斑先生と呼べ。さっさと戻れ、そして入り口を塞ぐな。邪魔だ」

 

「す、すみません・・・・・」

 

すごすごとドアからどく鈴。その態度は100%千冬にビビっている。家族の一夏達ですら千冬には頭が上がらないどころか逆らえない。

 

「またあとで来るからね!逃げないでよ、一夏!」

 

「さっさと戻れ!」

 

「は、はいっ!」

 

自分のクラスへ向かって猛ダッシュ。

 

「(うん、昔のままの鈴だな。ていうか、アイツ、IS操縦者だったのか。初めて知った)」

 

久しぶりの友人の身近な変化を知っても変わらない態度のまま授業を臨む。しかし、それから鈴と接していくと当人が訳の分からないうちに鈴を怒らせ、来月のクラス対抗戦で雌雄を決することになった。

 

 

 

某所。高速道路で走る高級車に乗っている中年の男性がいた。相席する若い美女の秘書から予定のスケジュールの報告を受けながら、仕事の内容を頭の中に入れる。それが終わると秘書は静かに口を閉ざして目的地に辿り着くまで待つ姿勢に入った。そんな彼に中年の男性は訊く。

 

「IS学園にいる男性操縦者達の様子はどうかね」

 

「はい、逐一何の問題なく順調であると報告を受けております。ですが、所属不明の新型のISによる襲撃の件を除いてですが」

 

「新型・・・・・無人機、あるいは我々が認知していない秘密結社か組織の者の仕業か」

 

「可能性は、あるかと思います。目的は不明のようですが」

 

質問に答える秘書の言葉以降、静寂な雰囲気を醸し出す中で黙った。

 

「・・・・・例の『プロトタイプ計画』の方はどうだ」

 

「はっ、それは―――」

 

話を切り出す中年男性に口を開き答えかけた秘書だったが、車の天井からドッ!と二人の間で突き刺さる赤黒い刃。瞠目する彼らを気にせず刃がそのまま天井に切れ込みを入れ、今度は手で強引に取り外されて車内が露出。空を見上げるようになった車から二人の目には黒いISを纏う者が飛び込んできた。今話に出たばかりの所属不明のISを操縦する者が、中年男性へ手を伸ばして車から引きずり出して―――車の速度と同じ速度で宙に浮いたまま言葉を発した。

 

「・・・・・『プロトタイプ計画』。やはり認知していたんだな」

 

「ぐ・・・・・誰だ。いや、何故お前がその名前を知って・・・・・っ」

 

「その計画の要だった、からだと言えばわかるな。―――大統領」

 

中年男性の目が限界まで見開いた。悟ってしまった。目の前の男は一体誰であるかを・・・・・。

 

「・・・・・第一次世界大戦から代々日本の大統領は秘密裏に様々な非人道的な計画をしてきた。お前ら政府が『プロトタイプ計画』をする前にも『究極の人類を創造する計画(・・・・・・・・・・・・)』もな」

 

「っ・・・・・!?」

 

「・・・・・・なぜ知っているって顔だな。それを知ることができるバックアップがいるからさ。故に―――俺はお前ら政府を潰す決断を決行する」

 

胸倉を掴まれたままの大統領は宣言を受けてしまった。どこまでも低い極寒の冷たさを孕ます声音を発する男は、本気で政府と直接戦争を起こす気でいるのだと疑うよりも本能的に理解してしまった。

 

「ま、待てっ、政府を潰してしまえばこの国が・・・・・!頼むっ、君は何もしないでくれっ・・・・!これは大統領の私の問題でもあるのだっ。私が何とか、あの計画を潰したら君の家族がっ!」

 

「・・・・・過去の亡霊に家族が必要か大統領」

 

大統領を手放し車内に落とす黒いISの操縦者は能面のマスク越しで見下ろす。

 

「・・・・・・必ず計画に関わった者全て粛清してやる」

 

確固たる決意の発言を残して車から離れた黒いISを追いかけるように身を乗り出す大統領。その時は空の彼方へと飛翔する姿しか目は追えず、自分の無力さに悔い首が項垂れる。そんな大統領を置き去りにする黒いISはオープン・チャンネルで束から情報を教えられていた。

 

『束さんからの生報告だよー。いっくんが中国娘とこれから対抗戦するんだって。どーする?遊びに行くなら夕食前には帰ってきてねー。何人かもうIS学園に向かってるから私とくーちゃんはそれまで準備してるから!』

 

チャンネルを閉じ今から遅れてIS学園へ高速で向かう。

 

 

―――IS学園第二アリーナにて織斑一夏はクラス対抗戦の第一試合を臨んでいた。相手は中国代表候補生にして一夏達の幼馴染、鳳鈴音。操るISは第三世代型甲龍(シェンロン)。近接戦闘型のISを駆使する一夏は先日ISを得たばかりで戦闘経験は少なく未知の相手との戦いに四苦八苦していた。IS用の青竜刀とブレードが刃をぶつけ合い、距離を取ろうとすれば鈴の肩アーマーがスライドして開いて、中心の球体が光った瞬間、一夏はでなく撃った本人、アリーナから観戦している全生徒の目でも見えない衝撃に『殴り』飛ばされた。

 

「今のはジャブだからね」

 

にやりと不敵な笑みを浮かべる鈴。牽制(ジャブ)のあとは、本命(ストレート)と相場が決まっている―――。一夏を追い詰める衝撃砲の連射。逃げ惑う中で相手の隙を窺って一撃を叩きこもうと鈴へ強い眼差しを向ける。

 

「鈴」

 

「なによ?」

 

「こっから本気で行くからな」

 

―――突然のトップスピードに体が硬直し、瞠目する鈴。急激な速度で迫る何かの技術を隠し持っていたのは予想外だったようで反応に後れ、懐に潜ることを許してしまい鈴に刃が届きそうになった、次の瞬間。

 

アリーナの遮断シールドが破られる甲高い音が二人の戦いを遮った。

 

揃って二人はこの緊急事態の原因の元凶を視認するべく視線を青い空へ見上げた時、高い空から黒い影が落ちてきた。驚愕している間にアリーナの地面へと真っ直ぐ落ちていく最中、姿勢を整え難なく着地をしたその影に絶句、試合に割り込んできた侵入者―――黒いISに驚愕する。

 

「また、来たのかっ」

 

「また?あのISに襲われたことあんの?」

 

「ああ、突然いきなりな。気をつけろ鈴。あいつは強い」

 

「誰に言ってんの。こっちは本国で実戦的な訓練をしてきたのよ。そうやすやすとやられるもんですか」

 

―――所属不明のISと断定。にロックされています。

 

アリーナを覆う遮断シールドはISと同じ物で作られている。それを打ち破るだけの攻撃力を持った相手がまた乱入、こちらをロックしている。眼前にISからの警告表示が浮かび、二人の警戒は一気に高まった時、敵ISが最初に動き出した。

 

「鈴!」

 

「わかってる!」

 

近距離と中距離の即席の連携で迎撃に入った。甲龍(シェンロン)の肩部武装『龍砲』で文字通り斬り合いを始める一夏と敵ISに向けて射撃、一夏の援護と敵ISへの牽制しながら鈴も連結した青龍刀のようなブレードで斬りかかる。二対一の戦いに対し敵ISは背部のウィングスラスターからビットを展開して全て一夏へ自動射撃モードに、足止めをしている間に鈴へ爆発的な速度で懐に潜った。

 

「ぐぅっ!?」

 

連結刃の柄で防ごうにも勢いづいた速度だけは止められず、一夏から遠ざけられ首を掴まれた状態で空中を縦横無尽に押される。このっ!と『龍砲』で己から遠ざけようとした試みは―――遅かった。既に華奢な背中は地面を捉えていた。

 

ドッ―――――――――――――――――――!!!

 

「―――――――――!?」

 

背中から激しい衝突と衝撃が全身に襲い思考が一瞬停止した鈴に敵ISは攻撃の手を止めない。『龍砲』を徹底的に破壊し、脚を掴み鈴を掴み上げて地面に叩きつけると背部と脚のスラスターも切り刻み、得物もアリーナの壁に向けて蹴りつけたことで鈴を完全に戦闘不能にした。

 

「鈴っ!」

 

ビットの牽制射撃に翻弄されていた一夏の目に幼馴染みが倒された上に攻撃を加えられていた光景が焼き付いた。己の弱さと不甲斐なさで悔しくてたまらないが鈴を助けるためにも足腰に力を入れ、一気にとびかかろうとした瞬間、アリーナのスピーカーから大声が響いた。

 

「一夏ぁっ!」

 

キーン・・・・・とハウリングが尾を引くその声は、ポニーテールの少女のものだった。一夏は「な、なにしてるんだ、お前・・・・・」と唖然していた。中継室の方を見ると、審判とナレーターがのびていた。おそらくドアを開けたところにバシンと一撃を食らったらしい。当分目を覚まさないような倒れ方をしている。

 

「男なら・・・・・男なら、そのくらいの敵に勝てなくてなんとする!」

 

大声、またキーンとハウリングが起こる。ハイパーセンサーで数十倍に拡大して彼女を見ると、はぁはぁと肩で息をしている。その表情も、怒っているような焦っているような不思議な様相をしていた。

 

「・・・・・・・・・」

 

―――まずい!気が付くと、敵ISは今の館内放送、その発信者に興味を持ったようだった。実際に中継室へ移動して彼女の前に立っていた。

 

「っ!」

 

生身の人間相手がISには勝てない。それは象に挑む蟻のごとく。彼女は近付いてくる敵機から後退り、壁際まで追い詰められると敵ISはそれ以上近づかず手を伸ばしだした。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・ぇ?」

 

そして、何故か敵ISに頭を置かれた。金属の手だからか優しく慈しみを込めて撫でる相手に当惑していると、横から一夏が中継室にやってきた。

 

「箒に手を出すなぁっ!」

 

凄まじい推進力に伴うハイスピードで肉薄しかかる。ISの後部スラスター翼からエネルギーを瞬時で爆発的に加速する技法で接近した。それは前回、敵ISがして見せた『瞬時加速(イグニッション・ブースト)』という方法だ。

 

「―――オオオッ!」

 

右手の一夏のブレードが強く光を放つ。中心の溝から外側に展開したそれは、一回り大きいエネルギー上の刃を形成した。

 

「俺は・・・・・千冬姉を、箒を、鈴を。関わるすべてを―――守る!」

 

一夏の必殺の一撃は敵ISの左腕を切り落とした。敵ISの操縦者は箒と一夏から飛び下がり、切り落とされ断面が焼けてる己の左腕を一瞥した。隻腕と化した腕であろうと、片手でブレードを持ち一夏へ迫って斬りかかってステージへと追い込んだ。しかし、途中で踏ん張る一夏が宙で留まって鍔迫り合いする最中。

 

「・・・・狙いは?」

 

『完璧ですわ!』

 

よく通る声。一夏と敵IS、そして第三者目の登場に戦況が変わる。三機しかいないと思われたアリーナに、客席からブルー・ティアーズのビット四機同時狙撃が敵ISを打ち抜く。

 

そう誰もが思った刹那。遮断シールドを破壊したビームがセシリアのビットを明後日の方から狙撃され、敵ISを守った。

 

「なっ・・・・・!」

 

そう、遮断シールドはさっきの一撃で破壊した。それは目の前の敵ISだと信じ込んでいた一夏からすれば敵は複数いるとは考えもしなかったことだ。

 

 

「邪魔はさせないよ」

 

アリーナの全貌を見下ろせる位置から周囲の風景とハイパーセンサーの探知に引っ掛からない全身を覆い隠す特殊な擬態のフード付きの外套を身に包む狙撃者がいた。ISを装着した状態でそこからハイパースコープで介して覗き、黒いISの援護射撃の役割を担っていた。

 

 

一拍遅れてまた強大なビームが客席の方へ放たれ直撃と同時に爆発した。

 

「セシリア!」

 

『大丈夫ですわっ!ですが、敵は複数いるみたいですので援護射撃が難しくなりますっ』

 

一体どこから、ISのハイパーセンサーでもアリーナを見回しても捉えることが出来ない。それ以前に敵ISの猛攻に攻めあぐねてるのに他に意識する余裕がない。なら、倒すことに集中するべきだと真剣な表情で一気に飛び掛かった。

 

「こいつは俺が倒す!」

 

ピットでリアルタイムモニターを見ていた千冬は不思議と違和感を覚えた。敵ISがブレードを振るう太刀筋、クセ、斬り方が妙に見覚えがあってならなかった。何故だか既視感を覚えてしまうのだ。

 

「織斑君、すごいですね。負けていませんよ!」

 

同じくモニター越しで見ていた女性教員は千冬の心境など露も知らず、呑気に興奮混じりで見守ってる。仲間を助けんと獅子奮迅のように奮闘する一夏に対し、敵ISは冷静に受け流して何時までも切り結び合うのだった。そんな敵ISの操縦者の動きに・・・・・ある者と被って見えてしまった。まるで・・・と思いが過ったからか、ある筈が無い想像をしてしまったところで、一夏の刀の柄に刀の峰で押し上げて得物を取り上げられた瞬間を目撃した。風車のように宙で回る一夏のブレードをキャッチする敵ISのテールクロー。

 

「い、一夏、早く離脱しなさい・・・・・!」

 

戦闘不能に陥った鈴が武器を奪われた少年へ必死に叫ぶ。武器を奪われ素手で戦うしかないのかと覚悟を考えながら鈴の指摘を受けず、臨戦態勢の構えを解かないまま警戒する一夏―――にポイっと刀を返された。

 

「え?」

 

条件反射で思わず両手で受け取って信じられないものを見る目で黒いISの操縦者へ見ると、空から新たな乱入者が現れた。ガドリングガンが降って来て距離を取る敵ISの前に水色の機体が舞い降りてきた。

 

「真打ち登場ってところかしら?助けに来たわ織斑君」

 

一見アーマーは面積が全体的に狭く。小さい。だが、それをカバーするように透明の液状のフィールドが形成されていて、まるで水のドレスのようだった。そんな独特の外観を持つISの中でも一際目を引くのが左右一対の状態で浮いているクリスタルのようなパーツである。アクア・クリスタルと呼ばれるそこからも同じく水のヴェールが展開され、大きなマントのように新たに乱入してきた少女を包み込んでいる。そしてガドリングガンを放ったと思しき手に持った大型のランスの表面にも水の螺旋が表面を流れて、まるでドリルのように回転をしている。

 

「・・・・・えっと」

 

水色の髪に血のように赤い眼の少女は誰なのかと困惑する一夏であるが、少女は口唇を笑みで緩めたあと黒いISへ目線を変えた。新たな敵の登場に沈黙して見つめてる相手は、ジッと佇む姿勢に水色の少女と一夏や大型ランスを構える少女は臨戦態勢の構えを解くことなく警戒する。一対複数を相手に難なく一人を残して戦闘不能状態に陥らせた相手に勝てるのだろうかと不安が胸に過る。

 

「話は後で、今はあのISを倒し事態の収拾をしましょう。行くわよ」

 

「は、はい」

 

破壊してでも捕らえるべく二人掛かりで飛び掛かってくる気配を察した敵ISは後方へ退くと見えない敵の援護射撃が一夏と少女に襲う。回避した相手の隙をついて、敵ISは―――更なる力を発現した。それを眼前に見た二人は大きく目を張った。

 

禍々しい鎧を思わせるISのフォルムは、それ自体が殺意と敵意を具現化したかのような各部の棘付き装甲(スパイク・アーマー)のように刺々しい。全身の装甲は時折紫と赤の発光現象を生じてる黒一色。また腰から伸びてる巨大なテールの先端には龍を模した顔のクローが備わっている他、肩のアーマーにも伸縮自在な鎌首がある巨大な龍の顔が二つあった。そして三対六枚の特殊型の巨大なウィングスラスター(手着き)とエネルギーウィングのISを纏う人物の特徴は―――また全身装甲(フル・スキン)だった。

 

「ISを二機も装着した!?」

 

「まさか、あれが正真正銘のメインのISってことなのかしらね」

 

距離を取って警戒している少年少女を見つめ、各部の棘付き装甲(スパイク・アーマー)の先端が妖しく灯り出し、ふわりと宙に浮いた矢先。虚空に消えて一夏と少女のハイパーセンサーが探知しなくなった。肉眼でも視認は叶わず二人が突然に弾かれた。

 

「ぐっ!?」

 

「きゃっ!」

 

見えない相手の攻撃に吹き飛ばされた。体勢を立て直し敵を探る水色の髪の少女は、目と鼻の先に現れた黒いISにランスを構えるが、龍の顔のクローに胴体を拘束されランスも手翼に掴まれ捕まってしまった。だが、まだ奥の手がある彼女にとって負けたつもりではなかった。それを実行しようとすると敵ISの顔に寄せられた。

 

「―――――」

 

静かに赤い瞳を皿のように張り、彼女が敵ISに信じられないものを見る目で向け口を開きかけた。

 

「何でその名前をっ。それに、それはどういう―――」

 

「その人を放せぇっ!」

 

問い質そうとした矢先に一夏がエネルギー刃を振るいながら飛び掛かってきた。ブレードで受け止め、拘束している彼女を一夏へ放り投げるようにして開放し、すぐさま接近して二人を巻き込む蹴りを叩き込んだ。そして次に敵ISが取った行動は・・・・・踵を返して空の彼方へと飛んで行った。これには完全に虚を突かれて暫く二人は呆然と立ち尽くした。

 

「逃げた・・・・・?何でだ・・・・・?」

 

「・・・・・」

 

 

 

 

IS学園が男性操縦者に襲撃されて数時間が経った頃。織斑千冬は茜色に染まった外から夕陽の光が差し込むとある一室に訪れた。扉を叩くと「どうぞ」と中から入室の許可をもらって扉を開けると、机を挟む二つのソファーの向こう側に別の机の前に座る水色の髪の少女がいた。

 

「調査の結果はどうだった」

 

「はい、調べれるだけ調べました。織斑君が切り落とした左腕の装甲の中にあった操縦者の()から採取したDNAと血液・・・・・その結果」

 

織斑千冬から調査を依頼された彼女がまとめたファイルが収納箱から取り出す。しかし、彼女の表情は暗く当惑の色が浮かんでいた。これを報告してよい物なのかと苦悩しているようにも見て取れる。

 

「どうした」

 

「・・・・・これを織斑先生にお見せすることをできません。できれば私の方で預からせてほしい、その気持ちがあります」

 

「・・・・・何故、と聞こうか更識」

 

彼女の心意を図る千冬は真摯な面持ちで尋ねた。更識と呼ばれた少女はファイルを触れながら言いづらそうに口唇を重く開いた。

 

「私もこの結果に驚かざるにはいられませんでした。しかし、これを見てしまえば私以上に織斑先生が衝撃を受けると思います。目の前の事実を受け入れられるとは思えません」

 

そこまで彼女に言わせるほどあの黒いISの操縦者に秘密があるのか。ならばなおさら確認しなくてはならない千冬は、視線で見せろと送り更識はその視線に応じてファイルを手渡す。報告書を目に通す黒い眼は次第に彼女の表情から感情を消してしまい、最後は時が止まったかのように千冬は結果の内容を凝視した。

 

「・・・・・馬鹿な。何の冗談だ・・・・・これは」

                    

「・・・・・残念ながら事実です」

 

「・・・・・」

 

「私はあの黒いIS、彼にこうも告げられました。―――織斑一誠を信じるな」

 

「・・・・・信じるな?」

 

「理由はわかりません。その意図も。ですが、もしも・・・もしもこの結果を残した襲撃犯が本当の目的が浮上してきます」

 

それはなんだと、更識に無言で話の続きの催促をする千冬に彼女はこう口にした。

 

「敵は―――織斑一夏君達を狙っている。多分ですが貴女もです織斑先生」

 

 

 

 

 

 

 

 

「って、今頃そんな阿呆なこと思いついちゃってるんじゃないかなー?もしもそうならほんとーにお馬鹿だね。別にそんなこと望んでもいないのにさぁ?」

 

ラボに戻り篠ノ之束に義手を施されながら話しかけられていた。相槌もせず沈黙を貫いて新しい機械の手が完成するまで石像のように待っている黒いIS。能面のマスクは取り払われて素顔が窺える。感情の色と生気の光が宿っていない黒髪と黒い瞳、顔は―――IS学園にいるとある男子生徒と瓜二つである。

 

「ねぇねぇ、そろそろまどっちのISが完成するんだけれど、お使いに行ってくれないかな?」 

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