インフィニット・ストラトス~光に奪われし闇~   作:ダーク・シリウス

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奪取

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「まさか・・・・・貴女が来るとは思いもしませんでした」

 

「私もつい最近までお前達がこの世界で生きていることに知らなかったぞ。驚かされたものだ」

 

旧知との再会に見知った相手と話をするメリアと黒と金色が入り乱れた長髪と同色、右が金で左が黒のオッドアイに黒いコートを身に包んだ女性。喜ぶ表情をせず淡々と言葉を交わす二人を見守る千冬達。

 

「説明してくれるな。この世界で何をしてたのか、何をしようとしているのかを」

 

「はい。ですがその前に皆さんに自己紹介を」

 

専用機持ち全員と千冬、真耶、ナターシャ、アリーシャを見渡し、最後に織斑一誠を視界に入れる。

 

「私は『三日月の暗黒龍(クレッセント・サークル・ドラゴン)』クロウ・クルワッハ」

 

「彼女はアジ・ダハーカとアポプスと同じ邪龍の筆頭格であり『邪龍最凶』です。その強さはこれまで相対したグレンデルやニーズヘッグを一蹴するほど。彼女が味方になれば一気に戦況と戦力がひっくり返ることになるでしょう」

 

なってくれるかはまだわかりませんが。と付け加えるメリアの最後の一言に不安を覚える一同の中、楯無が問うた。

 

「一応敵ではないのよね?」

 

「私に敵対する理由がなければそうであろうな」

 

「じゃあ、手助けしてくれる気とかは」

 

「それはないな。私はある目的で一足早くこの世界に送り込まれた。私は、というよりこの世界に存在する全てのドラゴンは皆―――異世界から来た」

 

『い、異世界・・・・・?』

 

何か、おかしな展開になってきたと話について行ける自信が不安になった一同を気にせずクロウ・クルワッハは言い続ける。

 

「異世界でとある事情により、メリア達ドラゴンは元の世界で消滅したと思われていた。しかし実際は何かしらの方法で消滅もせずこの世界に生きていたようだが、私達ドラゴンを生み出す神のような存在がこの世界にある物を送った」

 

「それは?」

 

「ドラゴンを封じ討滅する剣だ。だが、それは何者かに奪われたようでな。私はそれを奪った者から剣を取り返すよう頼まれたのだ」

 

・・・・・。・・・・・。・・・・・。

 

あ、あれかぁーっ!?

 

一夏達は天を衝く超巨大な剣のことを思い出し、叫んだ。

 

「あの剣、やっぱり神様が創った武器だったのか・・・・・しかも異世界の神って」

 

「すっげぇーな。ファンタジーじゃんかよ」

 

唖然と事実を知った面々の衝撃はがまだ抜けきれていない時にクロウ・クルワッハは織斑一誠見て言う。

 

「そして、その男―――メリア誰だ」

 

「織斑、織斑一誠です」

 

「・・・・・そうか、織斑一誠にドラゴンスレイヤーの剣を渡すのが私の仕事だ」

 

「それは何故?」

 

「手にすることは出来ても、あの剣を振るえるかどうかは定かではない。メリア、お前もよく知っている筈だ」

 

「・・・・・」

 

「宝の持ち腐れだろうと、手元に置かせたいのだろうあの龍の祖は」

 

どうしてそこまで織斑一誠に拘るのか分からない一夏達は思い切って尋ねた。

 

「貴方達はどうして一誠を拘るんですか?」

 

「メリア、言っていないのか?」

 

「説明する時ではありません。余計な混乱を招くだけかと」

 

「私もまだ何もわかっていないからな。後にやってくるあいつらにも説明をしてもらうぞ」

 

誰が来る?またドラゴンでもやってくるのかと、この世界は一体どうなってしまうのかと不安要素が増えた千冬達は顔を顰める。

 

「話せる中で抜粋させてもらいますと、我が主は、三つの聖杯に己の全てを分けて宿しました。それらを私とアジ・ダハーカ、そしてもう一人に『約束の日』まで預け、来るときに復活させて欲しいと」

 

「用意周到だな。聖杯でそんなことに使うとは。そしてそれが・・・・・」

 

「ええ、その通りです」

 

織斑一誠がそうなのだと最後に二人の中で事の顛末の話を打ち切った。

 

「ならば、アジ・ダハーカが持つ聖杯をついでに奪ってやろうか」

 

「これ以上、アジ・ダハーカの玩具を増やさせないためにも必要ですのでお願いいたします」

 

ドラゴン同士の会話に割り込めず蚊帳の外で聞くしかなかった千冬達の心情など露知らず。

それどころかクロウ・クルワッハとメリアですら思いもしなかったアジ・ダハーカにとってアクシデントが起きていた。

 

 

『何の真似だティアマトめ・・・・・!』

 

ニーズヘッグが連れて来たティアマトに再会の挨拶をしながら、聖杯を蒼い龍に触れさせた矢先に何も言わず転移魔方陣でどこかへ姿を暗ました。後になってティアマトに奪われたことを気付き憤怒で怒りを露にするアジ・ダハーカ。

 

《してやられたか。我等もよもや、ティアマトが裏切るとは到底思わなかったから初動に遅れた》

 

『でもよ、アジ・ダハーカの旦那みたく玩具を増やすわけじゃないんだろ?するとも思えねぇけど』

 

『織斑一誠に聖杯を早く与えたい気持ちが抑え込めなかった、のでは?』

 

《わ、わかんねぇ・・・・・で、でも、ラードゥンの言うとおりだったら別にいいんじゃないのかぁ?》

 

よくあるかぁっ!と怒鳴り散らしニーズヘッグを恐怖でビビらせた。

 

『その真の役目こそ俺が与えられたものだぞ!ティアマトになぞやらせてたまるかっ!』

 

『んじゃどーするんだよ?織斑一誠のところで待ち構えるつもりか?』

 

『ぬぅ・・・・・そんなことできる筈がないだろうっ』

 

『しかし、これで玩具を増やすことはできなくなりましたね。もう十分すぎるほどですが』

 

『クロウ・クルワッハ達までもが参戦するというなら物の数にも入らないだろう。それにだ』

 

《あれからも長い年月が経っている。その分、力も増しているだろう。となればこちらの敗北は必須・・・否、元からそのつもりだから痛くも痒くもないか?》

 

別段、クロウ・クルワッハ達と戦う理由は最初からなかった。あるのはこの世界の人類とだ。かつての同胞、仲間までしゃしゃり出て来られてはこれまでの活動は無意味になる。アジ・ダハーカはそれが何とも面白くなく感じている。

 

《な、なぁ・・・俺達は元の世界に帰れるって感じでいいのかぁ?》

 

『そうなりゃこんな退屈な世界とはおさらばで、またアルビオン達と戦えるなら俺は大歓迎だぜ?』

 

疑問と喜々なニーズヘッグとグレンデル。アジ・ダハーカは目を閉ざして思考の海に飛び込む。少ししてネメシスの方へ目を向ける。

 

『・・・・・ネメシス、我が主から預かっていたものがあったな』

 

『確かにある。なんだ、あれらを渡せというのか?』

 

『それがお前の役目であったはずだ。奪われた聖杯は織斑一誠の自身の手で奪い返してもらう』

 

《ふむ・・・世界を懸けたシナリオとしてはまだ修正できる範囲内か》

 

《お、織斑一誠が使いこなせれるかぁ・・・?》

 

『無理だろ、一度だって戦ったことが無い奴なんかに渡すならラーズグリーズって奴にした方が面白そうだぜ。ちょっととはいえ、俺とアジ・ダハーカの旦那を吹き飛ばしたんだからな』

 

『おや・・・それは本当ですか?』

 

『確かに・・・・・俺達ドラゴンと真正面から対抗できている人間・・・なのか分からないがあの者だけだ』

 

ラーズグリーズに興味を示し出すドラゴン達にニーズヘッグは冗談のように言い出した。せめて、皆も疑問を抱いてくれるように祈って。

 

《ア、アジ・ダハーカの旦那を吹き飛ばすなんてさ、案外、そ、そいつがあいつだったりして・・・・・》

 

途端に異様な静けさが場を支配して、ニーズヘッグを除くドラゴン達はアジ・ダハーカへ視線を向ける。

 

《どうなのだ?聞けば聞くほどISとやらの能力であれ、話題に出てくるのは織斑一誠を除いてラーズグリーズという者だけだ》

 

『悪食野郎の言い分は妙に納得できるぜ。旦那。あン時、本気じゃなかったとはいえ俺と長く戦える奴なんて、この世界にそんなことできる人間はそうそういないだろうしよ』

 

『単なる勘違いでは済まされないが、この世界で転生したあの者を見つけ出せるのはあの者だけだ。そして最初に「記憶」の聖杯を宿すことが決まっている。まぁ順番など決まっていないから絶対ではないが』

 

『しかし、受け継がれた「記憶」によって私達の事は知るでしょうが以前のように接するのか不明ですがね。魂も受け継がれていなければ本当の意味で復活をしたことにはならない。アジ・ダハーカ、その辺りは何か知りませんか?』

 

話を振られたアジ・ダハーカは分からないと首を横に振る。

 

『お前達もあの時、共に話を聞いていたはずだ。あれ等以外聖杯に宿したのは三つのみ。その一つはティアマトが奪った。そしてもう一つは・・・・・』

 

 

 

 

「ティアマト・・・・・数日いなくなるっていった意味はこれだったの?」

 

「ええ、アジ・ダハーカが持っていた聖杯。難なく奪えて私も肩透かしを食らったけど、これで何とかなるわね」

 

テーブルの上に置かれた聖杯を見て愕然とする。絶対に奪われることはないと思っていた物が光沢を出してカーリラに本物だと窺わせる。

 

「・・・・・ありがとう。残すは一つだけ。でもそれは最後に取っておきましょう」

 

まずはこの聖杯を・・・・・と思案するカーリラにティアマトは主張する。

 

「あの子のところに行くなら私も行くわ。いい?」

 

「ダメな理由なんてないわよ。夜行きましょ?」

 

聖杯を手に入れてくれたティアマトに感謝しながらカーリラはラーズグリーズに会うため世界が闇に支配されるのを待つこと翌日の夜。開け放たれた別室で着替える彼女にティアマトは思い出したかのような口ぶりで話しかける。

 

「ああ、そういえばニーズヘッグは織斑一誠のことを疑問視していたわ。本当にあいつなのかーって」

 

「そうなの。疑問を抱いているだけでも重畳だわ。全てが終わったら体を小さくしてもらって、たくさんご馳走を振る舞ってあげようかしら」

 

「尻尾を振って喜ぶわよ絶対。だったら引き抜いて来ればよかったかしら」

 

「あのままでいいわ。あの子に報告するだけでも安心してくれるだろうし」

 

数分後、顔も髪も隠す黒いフルフェイスとボディースーツで、身体も隠した出で立ちのカーリラはティアマトと肩を並ぶ。

 

「案内するわ。送ってちょうだい」

 

 

―――†―――†―――†―――

 

 

秘密基地の前にカーリラが来ていることをクロエから報告を受け、ナンバーズに出迎えてもらい招くことにした。一体何の用だろうと考え、彼女が来るまで待っていると一人だけじゃなくもう一人いて、ラーズグリーズはその人物を見て静かに吃驚した。

 

「おっひさーだね。あの剣はどうしたのー?」

 

「ちゃんと保管しているわ。今日はその子に渡すものがあってきたの」

 

「らーくんにプレゼント?好感度を得る作戦だなー?束さんも負けていないからねー!らーくんの身体も復活したら私と言うプレゼントをするんだから!」

 

「ふふ、そういうことをするなら是非とも私にも声を掛けてね?さて、ラーズグリーズ・・・・・これを受け取って。彼女が危険を冒してまで奪取してくれたものよ」

 

蒼い長髪と藍色の瞳の美女が肩に掛けていた鞄からアジ・ダハーカが所有していた聖杯を取り出した。一番早く束が興味を示した。

 

「お?おー?これって噂の聖杯ってやつなのかな?『混沌と破壊を齎す機械龍(カオス・マーシナリードラグーン)』って不思議なロボットを作り出すのに必要な絶対天敵(イマージュ・オリジス)が持っていたものだよね?ね?」

 

「ええ、その通りだけどこれをこの子の中に宿してもらうわ」

 

うん?宿す?不思議なことを言うカーリラに人類史上の天才の頭を持つ束に混乱を齎したワードだった。

 

「カーリラ。この子がそうなのね?」

 

「ええ、この姿でいるのは訳があるの。政府のニュースを見たでしょ?」

 

「貴方と一緒に見たから覚えて・・・・・待って、まさか・・・・・この子がそうなの!?」

 

おっかなびっくりする美女に首肯するカーリラ。

 

「ね?何も知らないでいたら勘違いしてしまうでしょ?」

 

「確かに・・・・・いくらなんでもこれは私でも勘違いしてしまう自信はあるわよ。事情も知らないなら特に尚更でしょ。メリア、アジ・ダハーカ・・・とんでもない勘違いをしてしまったのね」

 

はぁ・・・と同情が籠った嘆息が溜息と共に吐き出だす彼女に束は刺しながら問い詰めた。

 

「さっきからこいつ何なの?」

 

「私の古き友、そして名前は―――『天魔の業龍(カオス・カルマ・ドラゴン)』ティアマト。私の味方のドラゴンよ」

 

「よろしくー。あまり舐めた態度されちゃうとイラっとするからね。燃やしちゃうかもしれないし」

 

「・・・・・(フルフル)」

 

燃やしちゃダメ、と言いたげに慌てて束の前に立って両手でクロスする。カーリラはラーズグリーズの心情を代弁する。

 

「この方、篠ノ之束さんはISの開発者でラーズグリーズの命の恩人よ。手を出しちゃダメだから」

 

「へぇ、そうなの。でも、肝心の子が昔と比べて以前の姿の形もないわね・・・・・大丈夫なの?」

 

「とてもじゃないけれど大丈夫ではないわね。全身はミイラのように干からびてISがなければ死んでしまうほどだから」

 

「え、身体がミイラ!?クローンって話じゃなかったわけ!?」

 

「クローンなのは事実だよ?でも馬鹿な政府がらーくんのことまだ隠しているんだよ。真実と虚偽を入れ混じりながら世界に公表したのさ。往生際悪くもね」

 

この時、本当の意味でラーズグリーズという存在を知ったティアマトは言葉を失いかけた。

 

「あなた、これからどうする気でいるの?」

 

「・・・・・」

 

ティアマトから聖杯を手に取り、そして、胸の中に沈ませる現象に束は好奇心旺盛な目つきで見続ける中で完全に体の中に取り込んだラーズグリーズは、ドクン、と鼓動を感じた。

 

「・・・・・時が来たら、最後の聖杯を取り戻す。・・・・・政府に引導を渡す」

 

難敵はいるが、戦いを通じて事情を説明すれば解ってくれる。クロウ・クルワッハというドラゴンを知る者の思考は脳裏でそう考えを過らせて意を決する。

 

「・・・・・その前に・・・・・やることがある」

 

「なに?」

 

「・・・・・武器の回収」

 

「ネメシスね」

 

カーリラも納得して、ならば彼の思いを応えてやるのが自分の務めだとティアマトと行動に出た。

 

 

 

クロウ・クルワッハという最凶のドラゴンがIS学園でメリアと織斑一誠の指導に加わることになった。

アジ・ダハーカの襲撃から翌朝、それはもう、容赦などなかった。

 

「ぐっ!?」

 

「・・・・・手加減したが、これでもダメか」

 

「昔のように修行をしておりません。仕方がないですよ」

 

早朝五時。半壊したアリーナで軽い模擬戦を、一誠を起こして組み手を交わしたが予想以上に弱かった。一方的に千切っては投げて、千切っては投げてと繰り返すクロウ・クルワッハ。殴りかかってくる一誠を片手でさばき、どすっと頭部に手刀を落とし地面に叩きつけた。無情に一誠の実力を考慮して一刀両断の言葉を送る。

 

「無理だな。一朝一夕でアジ・ダハーカ達と戦えるまでに強くはならん。魔力を扱えるようになっててもだ。否、魔力だけでも倒せるような相手でもないだろう」

 

「・・・・・分かっています。ですから昨夜、説明したように」

 

「三つの聖杯が必要なのだろう。その内の二つはアジ・ダハーカとあの者が持っていると」

 

首を縦に振るメリアを一瞥して一誠を見下ろす。

 

「指導の件は止めさせてもらう。聖杯を集めた方が手っ取り早い。それから鍛え直した方が効率的だ」

 

「っ・・・・・」

 

今の己を鍛えても時間の無駄だと言外されたことに奥歯を噛みしめて悔しがる一誠。ISすら兄弟の中でまだ手に入れていない上に置いてけぼりにされている劣等感。唯一、ドラゴンと同じ魔力を宿しているのにそれすらアドバンテージすらなっていない情けなく感じてしまっている。

 

「まだ、俺はっ・・・・・!」

 

「気合だけでどうにもならない。お前は聖杯を与えられる時を待っていればいい」

 

『―――悪いが、そうも言っていられなくなったぞ』

 

立ち上がる一誠を突き放す言い方をするクロウ・クルワッハの話に、第三者がアリーナに発現した黒い魔法陣から現れて言い返した。三人の前に現れたドラゴンはクロウ・クルワッハに笑みを浮かべさせた。

 

「ネメシスか、久しいな」

 

『よもや、お前がこの世界に来るとは思わなかったぞクロウ・クルワッハよ。アジ・ダハーカにとっては都合の悪い予想外なことらしいからな。そしてこちらも織斑一誠に聖杯を渡すことが叶わなくなった』

 

「どういうことです?」

 

メリアとクロウ・クルワッハを見下ろしながら事実を打ち明ける。

 

『ティアマトがアジ・ダハーカから聖杯を奪った』

 

「な、ティアマトが?理由は何ですか?」

 

『解らない。突然の裏切りに俺達も面を食らった。ティアマトが織斑一誠に聖杯を渡すつもりなのかと思っていたが、どうやら違うようだな。これでティアマトの行方が分かるまでは聖杯を渡すことが叶わなくなった』

 

「ティアマトの裏切りの深意が判らぬ以上は、探す他ないだろう。お前はそのことを教えに来たのか?」

 

それもある、と言って一誠に視線を変える。

 

『織斑一誠。時期尚早だが、お前に聖杯以外の物を渡す。これらがあれば少なくとも強さは増すだろう』

 

怪しく目を輝かせるネメシス。開けた口から鎖に縛られた数々の武器が吐き出されて一誠の前に停止する。

 

「聖剣エクスカリバー、レプリカのトールハンマー、フラガラッハ・・・・・他にもかつて使っていた物の武器も全てお前が預かっていたのか」

 

『ああ、使いこなせるか疑問視しているがな。それでも必要な物だろう。ティアマトから聖杯を奪い返すのにどうしても力が必要だ。受け取れ織斑一誠』

 

宙に停止する武器の一つを触れると、縛っていた鎖が他の武器を縛っていた鎖も呼応して勝手に弾け飛ぶ。

その様子を見届けるとネメシスは空に飛び始める。

 

『これで俺の役目は終わった。次に会う時は戦いの時だろうな』

 

「ふふ、楽しみにしているぞ?」

 

『最凶の邪龍を縛れたことは一度もないから遠慮させてもらう。大方他の者達も来るのだろう?故にアジ・ダハーカから伝言がある。「他の者達に伝えろ。この戦いは我々ドラゴンとこの世界の人類との戦いだ。異世界から来たお前達の手出しは一切許さない」。以上だ』

 

「・・・・・わかった、伝えよう。だが、言うこと聞く連中だと思うなよ」

 

『解っているとも。奴らはたった一人の男の為に大はしゃぎをするだろうからな』

 

苦笑いを零して去るネメシスを見送る。そしてクロウ・クルワッハは踵を返してアリーナから去る。

残された二人は、メリアが数々の武器を浮かせて一誠は手に持った武器を握り寮へ戻る。

 

 

 

薄っすらと明るくなっている空を、アジ・ダハーカ達の下へ飛んで戻るネメシス。預けていた武器を織斑一誠が使いこなせれば魔力を扱えずとも、魔力を必要とする魔法の武器が呼応してそれなりにいい勝負が繰り広げるだろうと思案していた時―――ネメシスよりもっと上空から蒼い魔力の塊が落ちて来た。感知して回避したネメシスがいた場所に魔力が通り過ぎる途中で分散し、追尾性の魔力弾として再びネメシスに襲い掛かる。腹部を膨らませて口内から連続で火炎球を放ち追尾してくる魔力を相殺して防ぐ。

 

『何の真似だ、ティアマト』

 

魔力の持ち主の名を発し、舞い降りてくる蒼穹のごとき鱗を持つ巨龍を視界に入れる。

 

『あの子から預かっていた物があるでしょ?それを渡してほしかったの』

 

『聖杯だけ飽き足らず、あの武器等も奪ってお前の何になる』

 

『私達の為になる事よ。じゃなきゃ、こんな事好んでするわけないじゃない。でも、どうやら一歩遅かったようね』

 

あからさまな嘆息をする相手にネメシスは理解できないと目元を細める。

 

『織斑一誠の所に行ったところでクロウ・クルワッハがいるならタダで済むはずがないし、参るわね』

 

『目的は何だ、奴の復活の阻止か』

 

『違うわよ。寧ろそうしようとしているのよ』

 

『訳の分からないことを、お前がしていることは復活の妨害だ。よもやお前という者が誰かに唆されたわけでもあるまいな』

 

唆されている。ある意味的を得ているわねと口端を吊り上げて笑む。しかし、ティアマトは敢えて教えない。

 

『答えてあげるつもりはないし、あの子の武器がないならあなたと戦う理由もなくなったし帰るわ』

 

『待て、聖杯の在りかを教えろ!』

 

『ちゃんと渡したわよ?―――織斑一誠にね』

 

意味深に言うティアマトの言葉に、何だと?と疑問が沸いた。その瞬間を狙って転移式魔方陣でこの場からいなくなったティアマトをネメシスはIS学園がある方角へ目を向けた。

 

『どういうことだ?既に織斑一誠に渡した・・・?クロウ・クルワッハとメリアに悟られず宿す意味はあるのか?』

 

混乱しかけ一先ずアジ・ダハーカ達に知らせようと再び飛び去る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

戻ってきたティアマトはラーズグリーズとカーリラに報告する。

 

「ごめんなさい。既に織斑一誠の手に渡っていたわ」

 

「・・・・・聖杯だけでも十分」

 

「ありがとう。でも、その身体でよく今まで生きて来られたね。異常な生命力と精神力よ?」

 

「・・・・・それでももう・・・人として生きていけれない体にされた俺は・・・・・あと一、二年も生きられない」

 

「「っ!?」」

 

その事実を打ち明けられた二人は完全に思考を停止した。それからもポツリ、ポツリと語り続けるラーズグリーズ。

 

「・・・・・悔しい、あの政府の公表には・・・・・俺の存在を誰にも打ち明けず、最初から・・・・・いなかったことにされた。・・・・・このままただ死んでいくだけなんて・・・・・あの苦痛を味わった報いがあんな公表で終わらされるなんて・・・・・」

 

フルフェイスの中でどんな表情を顔に表しているのだろうか。怒り?悲しみ?それとも虚無?あるいは全てかもしれない。ラーズグリーズが受け続けて来た痛みと辛み、相手に対する怒りと恨みが晴らされぬまま短い余命を過ごすのはあまりにも酷だと、瞋恚の炎を燃やすカーリラは拳を強く握り締める。


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