インフィニット・ストラトス~光に奪われし闇~ 作:ダーク・シリウス
「はぁ・・・!はぁ・・・!はぁ・・・!」
突然変調を起こして荒々しい息を繰り返し、寝台で寝かされたラーズグリーズを診察する束とジェイル。結果はあまり良いとは言えず束の眉根が寄った。
「・・・・・身体に限界が訪れているようだね。元々意識があるだけでも奇跡な程、様々な薬物が投与された副作用がラーズグリーズの身体を蝕んでいた。もはや臓器などほとんど機能もしていないのに、ここまで生きていたのは異常で強靭的な精神力で命の線を繋いでいた」
「・・・・・」
「二年も生きられない命は、恐らく私達の予想より早く迎えるかもしれないようだ。いくら身体がISと言えど中身は彼自身の身体だ。風前の灯火の彼が身体を駆使すれば精神や気力も擦り減らしていたかもしれん。どうする篠ノ之博士?」
「・・・・・」
今後のラーズグリーズの扱いに対して訊くが束は無言で治療ラボから出て行った。残されたラーズグリーズは薄っすらと目を開けて己の死を察した、遠い目を天井に向けた。
「あ、もしもーし?天才科学者の束さんだよー。用件は言うけど、らーくん、思った以上に限界に近いみたい。ねね、聖杯って命の理を覆せるならさ?命をもっともーっと増やせれない?・・・ふんふん、やっぱり聖杯は三つ揃えなきゃ駄目なんだねー。分かったよ。ん?やってくれるの?じゃあ、私も動くからさ成功してもできなくてもお願いね」
一日に一人、政府の議員、権力者の行方不明が相次いでいる最中。調査する警察も対応しきれなくなっていた。未だ誘拐された大統領の捜索も難航している状況で行方不明者が増えていっているのだ。白昼堂々、闇に紛れて夜中に等と手段は選ばず現れる黒い人影と共に連れ去られた者はその後、帰ってこない。ただし、例外はあった。子供と妻と暮らしている者は、誘拐されず家を燃やし居場所を奪われ妻を連れ去られるのだ(後に発見される)。誰も手も足も出せず、増える被害者に頭を抱え悩む時―――一誠の携帯に通信が入った。
「もしもし?桐生さん?」
『お久しぶりー一誠君。今大丈夫?お仕事のお話があるんだけれど』
遠慮気味に携帯越しで話をしてくるのは桐生カーリラ。仕事という単語に顔を若干暗くして肯定する。
「はい、その、ご迷惑をおかけしてますよね」
『あのニュースのことなら気にしないで。貴方は貴方なのだから、胸を張って堂々とお仕事をしてくれればきっと他の皆も変わらず接してくれるわ』
「・・・はい」
『それでお仕事の件なんだけれど、詳しいお話は事務所に来てからになるけど大丈夫かな?』
すぐに返事をできる内容ではなかった。一度千冬に伝えてからまた連絡すると返事をして通信を切り千冬へ訪れに向かった。
「駄目だ」
「ですよねー」
即答で拒否された一誠であった。理由は言わずともわかっている。
「当たり前だ。立場を解っているのか?今のお前は休業中だ。しかも狙われていることが分かってて、学園から離れさせては相手にお前を狙ってくださいと言っているようなものだ。外出の許可はだせん」
「じゃあ、学園に来てもらうのは・・・・・?」
断られる前提での一誠からの提案を千冬は少し考えると、首を縦に振った。
「それならば、問題はないだろう。時間は少し貰うがそれでもいいなら問題ないと彼女に伝えろ」
「わかった、ありがとう千冬姉さん」
「・・・・・ああ」
神妙な表情をして返す千冬。政府や束のニュースを経て、織斑一誠という存在は何なのか把握してもこれまで通りの関係で接する己はいつの間にか、一夏と秋十のように家族として迎え入れてしまったことに、葛藤と罪悪感に苛まれてしまった。再びカーリラに連絡を取り、IS学園に来ての話し合いなら大丈夫だという旨を伝えた数日後。IS学園に桐生カーリラが訪れた。
「千冬ちゃん、お久しぶりね!ここ数年会ってなかったから綺麗に成長した姿は昔が懐かしいわー!あなたが中学生の頃は一誠君達の事を物凄く可愛がって一緒に添い寝―――」
「昔の思い出話はまた今度にして私に抱き着かないでください。お互いそういう年齢でもないでしょう」
「あら、年齢なんて関係ないわよ?それを言うなら千冬ちゃんは何時結婚するの?もう三十路になるのも時間の問題な年齢じゃない。早く素敵な男性を見つけて主夫として家庭を築かなきゃ女が廃れるわよ?」
「・・・今、主婦の言葉の意味合いが違って聞えたのだが」
「ふふ、気のせいよ☆」
世界最強に対してここまでフレンドリーに接することが出来るのは世界でたったの二人しかいないだろう。一人は言わずとも篠ノ之束、もう一人は桐生カーリラ。彼女を来訪者専用の部屋に案内して、飲み物を淹れる。千冬は気付いていない。砂糖と書かれている箱の隣の塩で入れてしまっていることを。
「一夏君と秋十君、マドカちゃんは?後で会いたいわー」
「あいつらはISの訓練をしています。どうぞこちらです」
「ありがとーう。・・・千冬ちゃん、このコーヒー塩入っているのだけれど新しいイタズラか何かかしら」
微妙な顔で困った風に苦笑するカーリラの言葉に、失態を犯してしまったことを自覚して慌てる。
「す、すみません。直ぐに淹れ直しますっ」
「うーん、もしかして仕事に夢中過ぎて家庭を疎かにしちゃってないわよね?」
ギクリ、と珍しく千冬が肩を震わせて答え辛そうに「してなど、いません」と返すがカーリラは目を細めた。
「一夏君と秋十君に一誠君に家事全般任せっきりにして女王様気分だったりしてないわよね?」
「女王様気分などしていません」
「じゃあ、千冬ちゃんは働きに出かける夫で、一夏君達を家ではメイドさんのようにさせちゃってるとか」
「何故そうなるのですか」
「―――弟達に家事を任せているのは否定しないのね」
「っ・・・・・」
鎌を掛けさせられた、誘導尋問をされていたことに気付いた時、千冬の肩にポンと手を置く暗い笑みを浮かべるカーリラ。
「千冬ちゃん?」
「・・・・・何ですか」
「必ず一般女性並みの家事全般できるように再教育をしてあげるから逃げないでね?」
昔からお世話になっている相手に対して強い姿勢で拒絶することはできない千冬にとって、ある意味桐生カーリラという女性は天敵のような存在だった。対極している束とは違い、違う方面から千冬は彼女に頭が上がらず、もしも母親がいたらきっとこんな感じで接しているのだろうかと言う思いを他所に、顔に冷や汗を流す千冬だった。
「一誠君との仕事の打ち合わせが終わったら千冬ちゃんの部屋に行くからね」
「関係者以外立ち入り禁止です」
「そんなこと言うだろうと思って、事前に学園長から許可を頂いているから千冬ちゃんの意思は関係ないわよ」
証拠にほら、と織斑千冬の寮長室への入室の許可書と印鑑すら捺されている紙を取り出して見せつけられる始末。
「必ず一般女性並みに家事全般できるよう再教育するから逃げちゃダメよ?」
「・・・・・」
「逃げたらマドカちゃんが喜々として見せてくれた貴女のマル秘の物を世界中に公開―――――」
「大人しく寮室に待っていますので勘弁してください」
そしてマドカ、後で殺す!
何故か呆れ交じりのため息を吐くカーリラ。
「殺気が駄々洩れよ千冬ちゃん。一誠君には悪いけれど、先に貴女を女性として淑女の嗜みも教え込まないと駄目みたいね。念のために有休を取ってきてよかったわ」
「っ!」
その日、織斑千冬の調―――もとい教育が行われそれは夜まで続いたのは言うまでもなかった。教育を受けた千冬は、疲労困憊で肉体的にも疲弊しているのか酷くげっそりとした顔で食堂にやってきて、生徒達を心の底から驚倒させた。
「・・・姉さん、どうした。随分と疲れているようだな」
「・・・・・何でもないです。気にしないでください」
「ち、千冬姉?口調が・・・・・おかしいぞ」
「・・・・・どうしました?一緒に食事でも食べたいのかしら?ふふ、可愛い弟ですね抱きしめてあげましょうか?」
「こ、壊れてる!?あの気が強くて軍人より軍人みたいな千冬姉が淑女みたいに変わってるぅっー!?」
「きょ、教官の身に一体何が・・・・・(ガクガクブルブル)!」
「どうしたの?凄く震えているわボーデヴィッヒさん。風邪なら保健室に行かないと、めっ、ですよ?」
「ゆ、夢よね?あ、あの千冬さんが綺麗な淑女みたいな言葉使いで話すなんてあり得なさすぎるわっ」
「て、敵の洗脳でも受けたのか・・・・・?」
ドン引きする昔から織斑千冬を知る少年少女達からすれば、淑女口調な織斑千冬は、天変地異の前触れだと言わんばかりの様変わりしたのだ。一体何が、一体誰がこんな彼女にしたのか・・・・・。
「あっ、一夏君と秋十君、マドカちゃんっ!お久しぶりー!」
「「え?えっ、桐生さんっ!?」」
「・・・・・何でここに?」
遅れて食堂に現れたカーリラの登場に彼女を知る者からすればIS学園にはいない存在。殆ど無縁と言ってもいいここに来ることもない筈の彼女に一夏達は目を丸くした。
「・・・マドカ、誰なわけ?」
「・・・・・織斑一誠が芸能界で働いていた頃の専属マネージャーの桐生カーリラ、さんだ。姉さんが中学生の頃から援助してもらったり頼ったりして私達もお世話になっている。故に姉さんでも頭が上がらない」
「あの教官が・・・・・」
「ああ、知らなかったな・・・・・そんな人がいたなんて」
そして、淑女と化した千冬の原因もわかった。さり気無く真面目な顔で警告する。
「お前達、あの人の前では敬語を使え。姉さんみたいにされるぞ」
「え、何それ?そんなことできる筈が・・・・・」
「・・・・・わかった。そうしよう」
「鈴、マドカが真剣な顔で言っている。どうやらふざけて冗談も言っていないらしい。言う通りするべきだ」
ラウラまでもがそこまで言わせるマドカの警告に、鈴も頷いたところでカーリラがマドカに話しかけた。
「マドカちゃん、久しぶりね。千冬ちゃんが中学生だった時の頃の顔みたいで懐かしいわ」
「お久しぶりです桐生さん、元気そうで何よりです」
「お互い息災で何よりね。ところでマドカちゃんの傍にいる可愛らしい三人は?」
「初めまして、篠ノ之箒です。マドカ達とは幼馴染の関係です」
「凰鈴音です。あたしも一夏達とは幼馴染です」
「ラウラ・ボーデヴィッヒです。よろしくお願いします」
「桐生カーリラです。一誠君の専属マネージャーをしていました。今は元がついちゃうけれどね?」
握手を交わしながら自己紹介を終わらす。
「桐生さん、どうしてIS学園に?」
「お仕事のお話があって一誠君に用があってきたの。その前にちょっと千冬ちゃんとお話をしすぎてこんな時間になっちゃったわ」
「・・・・・姉さんが淑女みたいになっていて気持ち悪いのですが」
「あら、女性は皆お淑やかでなきゃ。男勝りな口調や荒々しい口調、とにかく女性らしくない言動をされちゃうとね?気になって仕方がない性分で・・・・・ちょっと、淑女みたいにな女性にしちゃいたくなっちゃうの」
箒、鈴、ラウラの背筋に嫌な汗が流れた。マドカが言っていたことはこう言うことだったのかと知り、戦慄してしまう。
「でも、箒ちゃん達は淑女みたいにだから大丈夫そうね。それじゃ、また今度ゆっくり話しましょ?」
笑みを浮かべ千冬の方へ歩み寄って行く。残された四人は緊張の糸が解れて深ーいため息を吐いた。
「・・・・・分かったな」
「分かった・・・・・物理的な意味ではなく本能的にあの人に逆らってはいけないことも」
「強制的に淑女にするってどんだけよ・・・・・千冬さんがあんな風にされちゃうのも納得するわ」
「教官ですら逆らえない相手がいるとは・・・・・」
それだけじゃないと付け加えるマドカ。
「姉さんにとってあの人は唯一無二の天敵だ。だから強く逆らえず頭も上がらない」
「「「天敵・・・・・」」」
世界最強にも天敵が存在する。織斑千冬はそんな天敵の前ではどこにでもいる人間のようになり下がるのか、と静かに驚愕する三人は千冬に対して合掌する。
―――†―――†―――†―――
翌朝―――。
カーリラは本題の件を済ませようと一誠の部屋へと訪れる。ルームメイトは兄の一夏である事は千冬から聞き出したので、迷うことなく二人の部屋の扉を叩いて一夏がすぐに開けてカーリラの訪問を驚きながら迎えた。
「え、桐生さん。どうしたんですか?」
「一誠君とお話をしに来たのだけれどまだいるかな?」
「あー・・・・・ここにはいません」
いない?この部屋で一緒に寝ているのはどうやら違っていないようだがどういうことだろう?と、いればカーリラの横から近づいてきた制服姿のマドカが話に加わってきた。
「あの愚兄なら半ば強制的に別の場所で寝泊まりさせられているぞ」
「別の場所・・・・・?」
「桐生さんは知らないし、信じられないだろうけど・・・・・異世界からやってきた人達と暮らしているんだ一誠は」
異世界から来た人達・・・・・?何を言っているんだろう的な表情を浮かべるカーリラを見て微妙そうな表情で「やっぱりそんな反応しますよね」と達観する一夏。
「一誠に用があるなら案内しますよ」
「お願いするね」
「私もついて行く。あの愚兄の暮らしぶりを見たいからな」
三人は寮を後にして外へと出向く。一夏とマドカの案内でついて行くと寮からそんな離れていない場所ですぐに見つけた。
「・・・・・」
IS学園には存在しない、場違い過ぎて逆に浮いている見た目がお城のような大きな家が。唖然とするカーリラ。
「何でこんなところに?」
「分かりますその気持ち。異世界から持って来たって聞いたんですけど、実際どうやって持って来たんだって気持ちでした」
「常識はずれにも程がある連中だ。異世界の魔法はこんなことも出来るのか?」
驚きすぎるあまり言葉を失いかける。いや、確かに衣食住は必要だろう。この世界に来る際に様々な準備をしてきたのは間違いない。だけど、カーリラの心情はもっと別のことを考えていた。
「(あの人達は・・・・・あの子の思い出すら何も知らずに塗り替えってしまっているのっ)」
「呼ぶぞ」
インターホンを押してベルを鳴らす。それから一分も経たずに玄関の扉が開いた。中から出てきたのは銀髪のメイド。
「おはようございます。あの一誠は起きてますか?」
「はい、起きていらっしゃいます。これから朝食の時間ですのでよろしければご一緒にいかがですか?」
「・・・・・いらん。あんな光景を見ながらの食事は胃も通らないからな」
辟易した顔で拒絶するマドカ。一夏も微妙な表情をしてやんわりと断った。見聞したことが無いカーリラは何となく尋ねた。
「あんな光景って・・・・・?」
「一誠が、大勢の女の人に囲まれながら「あーん」をされて食べさせられる光景です。見ているだけで物凄く甘すぎて胸焼けがしそうでした」
「私は気持ち悪すぎて見ていられない。女誑しより酷過ぎる。酒池肉林の人生を体現、謳歌している王様気分な愚兄も愚兄でまんざらでもなさそうに楽しんでいた様子は本当に吐き気がした」
―――マドカちゃん、それ、そのまんま本人に言っちゃってるから。
心の涙を流すカーリラ。これ、元の鞘に収まない方がいいかしらと思ってしまう。
「では、ここでお待ちになりますか?」
「一誠を迎えに来たのでできれば呼んで欲しいんですが」
「わかりました。少々お待ちください」
三人の目の前で扉を閉め、中へ踵返して戻ったメイドがまた扉を開けるのを待って数分後。再び扉が開くと一誠が気まずそうな顔と共に出てきた。
「お、おはよう・・・・・」
そんな一誠を見た途端に、しかめっ面になるマドカ。
「・・・・・朝から異世界人の女共に群がられたか。香水やら女の身体の匂いが酷くするぞ」
「ち、ちがっ・・・!鍵を閉めて一人で寝ていたのに、いつの間にかあの人達がベッドに潜り込んで体中しがみ付かれて寝ていただけだっ!?」
「首筋にキスマークがあるのは?」
マドカの指摘に思わずと条件反射で首筋に手で隠す仕草をする一誠から、マドカは徐に鼻を摘まみながら近づき一誠の制服をボタンが外れるぐらい思いっきり引っ張って、Tシャツをめくると露になる上半身至る所にキスマークが。それを見てしまったマドカは五メートルもゴミを見る目で距離を置いた。その瞬間を携帯カメラで撮影してメモリに保存する。
「愚兄、私は寮に戻る。こんな淫欲に溺れた男と一緒に居たら襲われかねないからな。ああ、手も洗わなければ、汚物を触れてしまったから念入りにしないと気持ち悪いな・・・・・」
「ま、待ってくれマドカ!違う、これは誤解なんだ!話を聞いてくれマドカぁーっ!!!」
「・・・・・私も帰るわね。思えば電話越しでも話せることだったし。でもどうしよう、あの人気有名アイドルが多くの女性と肉体関係を持ってしまった事実、世間に公表されちゃったら稼ぎ頭な子を失っちゃうわね。社長と相談しなくちゃ・・・・・はぁ」
「桐生さんも待ってぇっ!?本当に違うんだぁー!!!」
不倫を暴かれた最低男のような末路を見せられる一夏は他人事のように二人を追いかける一誠を見ていた。
「ふ、二人共!お願いだから話を聞いて!?」
「近寄るな、息を吸うな。吐く息で人を孕ます気持ち悪い女の敵め」
「あの、流石に同意の上でもね?女の人とそういう行為をするのに限度があると思うの。それにさっきの身体を見てしまった感じ、まだ身体を洗ってないでしょ?出来れば洗ってからお話ししましょう?私、まだ仕事できる女として生きていきたいから、妊娠はしたくないの」
「マドカはともかく桐生さんまで辛辣ですねっ!?」
もはや必死に説得をする一誠の言葉に二人は聞く耳を持たないどころか、一誠から逃げるように走る。追いかける一誠も走り続けるので、必然的に女々しい男が自分を捨てる女を追いかける図になっていた。何とか誤解を解きたい思いでいる一誠が二人に手を伸ばした瞬間。
「!?」
三人がいる周辺にレーザーが降り注いだ。マドカはISを緊急展開すると、そこには見たことが無い黒い機体が群れをなして空から飛んできた。
「なっ!?」
機体の数は軽く数えて十を超える。それほどのISがあることがすでに異常事態だが、そのすべての機体は見たこともない機体の量産機であり、操縦者が乗るべき中心部にはマネキンのような機械人形が鎮座している。
「ラーズグリーズ!?それともナンバーズか!」
「いや、どちらも違うらしいな。初めて見る機体だ。まさか無人機なのか・・・・・?」
臨戦態勢を取るマドカ。その大量のIS群は、一誠を見つけるなり、一斉に襲い掛かった。
「目標視認、捕獲開始・・・・・」
機械音声が冷ややかに告げる。そしてその無人機と思しき機体たちは、十数機がかりで一誠を拘束すると、そのまま離脱を始める。
「な、何をするんだ!離せ!」
もがく一誠を、機械の腕が取り押さえる。一夏が弟を救おうとISを展開して飛び出すが、数機の無人機に取り囲まれて妨害を受けた。
「マドカちゃん、助けに行かなくていいの?」
「私一人で救うには力不足だ」
「そういう建前ね?ってあら」
何故かカーリラまでも丁寧な扱いで無人機が攫って行った。マドカは何となくだが察した。この誘拐事件の黒幕はきっとニコニコと微笑んでいる『天才』なのだろうと。遠ざかる無人機が去っていく方を眺めていると、第一アリーナへ向かって行くのが判り追いかけるマドカ。
「やぁ、きりゅー。ご苦労様ー」
「やはりあなたの仕業だったのね束ちゃん」
無人機に連れ去られ、降り着いた場所は半壊状態の第一アリーナ。束の護衛としてラーズグリーズを始め、クロエとナンバーズ。初めて表に出てきたジェイルとウーノまでもがいた。無人機から降ろされるカーリラは束と相対する。
「今日は勢ぞろいなのね?どうしたの?」
「らーくんが復活する瞬間を皆で見守りたいからなのさ!」
「・・・・・そうね。その権利は貴方達にもあるわ」
無数の黒い無人機のISに囲まれている信じられないような表情を浮かべ、当惑の色を顔に滲ませる一誠に振り返る。
「どういうことなんですかっ、一体何が目的で・・・・・」
「貴方の中に宿る聖杯よ。それを取り出したいから近づいたの。お仕事の話は本当なのだけれどね」
「聖杯を?これは俺に必要な物だってメリアさん達が言っていた!貴女に渡すわけにはいかない!」
「お前の意思なんて関係ないんだよ。さっ、今の内に聖杯を奪っちゃいなよきりゅー」
当然、と近づき伸ばす手が一誠の胸の中に沈み込んだ時と同時に、腕を引くと一誠から取り除くようにカーリラの手の中には聖杯が握られていた。
「・・・・・これで、『約束』が果たされる・・・・・」
感慨深く、愛おし気に聖杯を触れるカーリラ。ISを装着した一夏達が空から飛んできた。
「一誠!束さんに桐生さん!?」
「一体どういうことなんだ・・・!?どうしてあの二人が一緒に・・・・・」
「疑問は後!今すぐ一誠君の救出よ!」
「はーい、邪魔しないでねー」
様々なISの、一夏達のISの稼働状況を知らせるウインドウが、宙に撫でるだけで展開された。また指先で、つぅ・・・・・と宙を撫でると一夏達のISの出力が、システムが、ありとあらゆるISの機能をオールダウンして束が少年少女達の『力』と『翼』を奪った。
「白式!?」
「ブルー・ティアーズ!?」
「
「ダメッ、リヴァイブも動かない!」
「篠ノ之束、一体私達のISに何をした!」
各ISの機能が完全に停止し、物言わぬ重たい金属の塊と化したことで動揺と混乱が一夏達の心を乱した。
「ISのコアとISを開発したのは誰なのか分からないなら一生馬鹿だねー。後で戻してあげるから邪魔しないでよ」
「一誠を何しているんですか!今すぐ離してください!」
「うん、いいよ?」
あっさりと一誠を解放されたので豆鉄砲を食らった鳩のように面を食らった。
「・・・・・えっと?」
「どうしたの?もうそいつには用もないからちゃんと返したよ?」
「えと、はい・・・・・でも、なんでこんなことを?」
「決まってるじゃん。勿論―――」
言いかけた束を遮るのは、上空に発現した複数の黒い魔法陣から現れた大量の『
「まさか・・・・・リーラ、お前なのか?」
「誰のこと?人違いじゃないかしら。私は桐生カーリラと言うの」
「・・・・・ああ、そうか。転生したのは息子だけじゃなかったな。だけど、記憶は引き継がれている筈だ。そうだろう?」
確かめる風に述べる誠の言葉を無視してカーリラは肩から下げていた鞄から、一誠の身体に宿されていた聖杯と同じ聖杯を二つ取り出した。
『俺から聖杯をティアマトに奪わせ、織斑一誠から聖杯を奪って何をするつもりだ』
「アジ・ダハーカ?何言っているんだ?」
「決まっているわ。『約束』を果たすためよ。私自身の手でね。これは私の我儘、この場で我が主の願望を叶える」
三つの聖杯を持ってそれを―――聖杯が螺旋を描きながら宙に飛び回り、織斑一誠に向かって行った。期待感が膨れ上がった一同の気持ちを―――裏切るように弧を描いて逸れた聖杯がラーズグリーズの体の中に沈んだ。
っっっ―――――!?
心を激しく揺さぶる衝撃的な事実にアジ・ダハーカ達と誠達はあらん限りに目を見開き、言葉を失った。
『待て・・・・・どういうことだ貴様っ。我らが望む「約束」の者は織斑一誠の筈だ!気迷ったかっ!?』
誠も信じられない一心で一誠に近寄り肩を掴んで主張する。
「何かの冗談だろう?ほら、こっちに一誠がいるじゃないか。なのに何で一誠じゃなくその人間を選んだ?―――答えてくれ!」
彼女は淡々と、冷ややかに言い返した。
「―――どこまでも貴方達は・・・・・心底から失望したわ」
ラーズグリーズは、変な空間に何時の間にか立っていた。広がる蒼い空の下はどこまでも続く草原と対なる大海原。空から伝わる太陽の光は心地がいい。吹くそよ風が身体を撫でながらどこかへと去ってしまう。
「・・・・・」
この場所は『一度』だけ来たことがある。ラーズグリーズは周囲に目を配って何かを探すその視界にあるものが映り込んだ。
草原に横たわる真紅を。
真紅を見つけたラーズグリーズ。驚くことに真紅は自分と同じ顔をしていた人間であった。真紅へ手を伸ばして触れた瞬間。自分と相手の動悸がドクンッ!と激しく高鳴った。ラーズグリーズは解らず様子を見守る。それから一拍遅れて真紅の瞼が微かに動いた。そして静かに濡れ羽色と金色のオッドアイが特徴の目が開いた。
「・・・・・くぁ」
長く寝ていた風に欠伸をして首の関節を鳴らし、それからようやくラーズグリーズの存在に気づき―――眠気もすっかりなくなった真紅は薄く笑った。
「ああ、お前か」
「・・・・・」
「久しぶりだな。ここに来たってことはようやく揃ったんだな?」
よっと軽やかに立ち上がって真紅はラーズグリーズに告げながら、背中から二対四枚の翼に尻尾が生えだし、頭から一本の角が伸び出す。ラーズグリーズは真紅の少年にコクリとうなずいた。
「・・・・・聖杯は手に入った。だけど、それ以前にアジ・ダハーカがとんでもないことをしでかした」
「え、マジで?」
ラーズグリーズは今までの人生を真紅の少年に打ち明けた。静かに耳を傾けてる間に長々と語られ、全て語り終えると。
「人工生命体?しかもサイボーグって・・・・・あれからとんでもない人生を送ってたのか。てか―――!」
アジ・ダハーカが聖杯を用いて『混沌と破壊を齎す機械龍』を生み出して世界と人類の天敵、イマージュ・オリジスとして今日まで戦ってきたことを。そして異世界からやってきた兵藤誠達がアジ・ダハーカ達と同様にある勘違いをしていることに真紅の少年は。
「はぁ・・・・・マジかよ皆・・・・・顔だけ判断されちゃ悲しいよ。いや、何も知らないで出会ってしまったら勘違いしてしまうのは仕方がないと思うよ。だけどなぁ・・・・・」
憂鬱になりかける真紅の少年だが、気を取り直してラーズグリーズに見つめる。
「・・・・・まあいい。こうして俺は目覚め、『記憶』だけ与えたお前と『再び』出会ったんだ。本来の予定とは何だか大きく変わっているみたいだが結果オーライとして・・・・・俺の半身、俺という存在の復活のために一つになろう」
「・・・・・一つ?」とラーズグリーズは小首をかしげる。『以前』聞いたことがない話だったからだ。
「彼女から受け取った『記憶』の聖杯にはもう一つ、アジ・ダハーカ達には教えなかったモノを宿してある。それは俺自身、つまりは『魂』だ。俺がこの世界に転生する際、魂を半分にした『半魂』でありながら、生前の『記憶』を具現化にした存在だ俺は。そして残りの魂の半分はお前、半分わけた俺の魂からこの世界で転生した存在。もう半分の俺の魂。俺はずっと聖杯の中で全て揃う時が来るまで眠り続けていたんだ。だから二つに分裂した魂が再び一つになれば、俺達は新たな存在として誕生する。お互いの記憶と力を受け継いで共有している状態でな。それにはお前の同意が必要なんだ」
アジ・ダハーカ達も知らされなかった事実はラーズグリーズも知る由もないことだった。もしも最初に織斑一誠に『記憶』聖杯を宿されていたら、間違いなく最悪な展開、目の前の真紅の少年の念願だった復活は叶わなかった。『力』も『魔力』も大切だろうが、真紅の少年にとっては今までの『記憶』が一番大切に違いない。それを確実に転生した己を見つけることが出来る彼女に託したのだろうと思うラーズグリーズ。
「もしもアジ・ダハーカ達を止めるか倒す力を欲しいなら、俺と一つにならなきゃ駄目だ。本来の力の十全も発揮出来やしない。魔力を得ても精々一割以下程度だぞお前は。あ、魔力は別の奴に宿ってしまって空っぽか。まぁ、一つになれば問題ないか。俺自身も一つになるための魔力、本来の全魔力から半分を残しておいたからな」
「・・・・・俺とお前は一つに成って消えるのか?」
「同じ魂を一つに戻せば、人格も呼応して一つに融合する形でそうなるかもしれない。さっきも言ったが互いの記憶を共有することで俺とお前は新しい存在としてあり続けられる」
真紅の少年がラーズグリーズに向けて手を差し伸べた。
「これは・・・・・お互いのためだと俺は信じている。一方的に一つに成っても意味が無い。だから俺の半身、ラーズグリーズ。いや―――『織斑一誠』。俺と一つになろう。互いの家族のために」
差し伸べられる手を意味深に見つめ続けるラーズグリーズ。この手を握った瞬間、真紅の少年と融合して自分が自分でいられなくなるのは必須。全ての元凶となって千冬達が自分を受け入れてくれるかわからない。
だが・・・・・このままではいけないのも事実。自分が死ねば彼女達が悲しむ。『約束』も果たせない。アジ・ダハーカ達を倒さねばならない。ならば、もう一人の自分の力を借りてでも・・・・・。
その気持ちを、意思を抱いて差し伸べられた手を左手で握り締めたラーズグリーズ。真紅の少年は嬉しそうに笑みを浮かべ、アレンジした謳を教えると紡いだ。
「―――我は無限と夢幻の神の龍也」
「―――我は覇と王道をも降す唯一無二の龍を宿し者」
紡ぎ出す謳を二人が奏でる風に謳う。
「―――濡羽色の我が半身よ」
真紅色の極大オーラが、真紅の少年の全身を包み込んでいく。
「―――赫赫たる我が半身よ」
無限を体現する黒きオーラが、ラーズグリーズを覆っていく―――。
「「―――際涯を超越する我等は無垢な無限の希望と純粋で不滅の夢を抱き、運命を降す我等の真の禁を次元を越えて見届けさせよう」」
そして身体から迸る真紅と漆黒の濃厚なオーラが一つに入り乱れ奔流と化する。
そして真紅の少年とラーズグリーズは、最後の一節を謳った―――。
「「―――原始の理で以って我らは無夢をも解き放たん」」
呪文を謳い終わった時、二人が立つ場所が極光の輝きに満たされた・・・・・。
アリーナ、いやIS学園のみならず島全体が地震のような振動が発生し始めた。鈍重の音が空中にいる一夏達の耳にも入り原因不明の異常現象に動揺する。
「・・・・・これは」
突然の異常現象に周囲を見回す。ただの地震かと思われるが、違うのであれば『では一体なんなのだ』と問われると誰も答えに悩み迷う。ピットにいる千冬を除く教師達もこの異常現象に当惑して見守る。
不意にカーリラがラーズグリーズの方へ視線を送くり眩い光が迸った次の瞬間。
―――ドオオオオオオオオオオンッッ!! と。
空を昇る入り乱れる濡れ羽色と真紅の極光の柱が、天に突き立つのを、アリーナにいる一同は見た。IS学園がある島から天へと衝くようにして出現した光の巨柱。一同は距離を置くために撤退せざるを得ない。アジ・ダハーカ達は我を忘れたかのように目の前の膨張する真紅の柱からを見て、中には凶暴なまでに双眸を輝かせて深い笑みを浮かべた。まだ学園にいる人々は巻き起こる衝撃に襲われていた。まさに『震源地』であるアリーナから伝わる甚だしい揺れ。学園にいる全ての者が、場所は違えど等しい衝撃に耐えなければならなかった。
「やはり、貴方は私が見込んだイレギュラーですね・・・・・!」
目を輝かせ、この時を待っていたとばかり興奮した顔で見つめてる超越者。
「―――――」
そして・・・・・異世界でも異常現象を察知した者が一人いた。
「・・・・・」
マドカは見た。アリーナを丸々と飲み込んだ天へ逆流する巨柱の大瀑布の中で揺らめく影を。それが何なのか最初はわからなかったが次第に治まるように細まる極光の柱から窺える。全長100メートルは優にあり、入り乱れてる濡れ羽色と深緋色の金属の鎧に覆われた枯れ木のように痩せこけているドラゴン。鼻の甲に鋭利な一本の角に背中からは二対四枚の翼を生やし、機械化となった左腕の出で立ちで顕現して―――。
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
真紅の龍の誕生の咆哮が世界中に轟かせた。