インフィニット・ストラトス~光に奪われし闇~ 作:ダーク・シリウス
『グオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
真紅の龍の誕生の咆哮が世界中に轟かせた。しかし、それを良しとしない者は多々であった。
『説明してもらおうか、何故ラーズグリーズに聖杯を宿したっ!』
「何でだ、何でなんだリーラッ・・・!」
「リーラ・・・・・どうしてっ!」
怒りと悲哀、混乱が異世界から来た誠達やアジ・ダハーカ達を抱かせ、その元凶たるカーリラは呆れて何も言えないとため息を吐いた。
「ここまでしたというのに・・・・・まだわからないの?」
《貴公の考えていることが読めないのだ。目の前に織斑一誠がいるにも拘らず、別の者に聖杯を宿す理由とは?》
「私は既に目の前で答えを見せたわ。これが私の選択にして正解であり真実―――」
龍が光に包まれ出したあと、縮小していって光が消失した頃にはラーズグリーズが元の姿に戻った。
徐に誠達の方へ近づくラーズグリーズ。そして、言葉を発した。
「・・・・・久しぶりだな。皆、ずっとずっと会いたかった・・・・・」
『―――――』
「・・・・・この瞬間を俺は待ち望んでいた。やっと、やっとだ
・・・・・」
両手を広げて抱擁を交わそうとするラーズグリーズの意を誠達は警戒する。ある意味それは拒絶の意味でもあった。
「・・・・・どうした」
「―――貴方じゃないの」
真っ直ぐラーズグリーズに向かって否定の言葉を言い放った。
「前世の彼の全てを受け継いでも、貴方は私達が愛していた彼じゃないわ」
「・・・・・確かに前世の『俺』ではない。記憶を受け継いだだけの紛い物かもしれない。だけど、皆と会いたかった想いだけは前世の『俺』だ。偽りじゃない」
そう返すも誰一人として納得できず訝しげな眼でラーズグリーズを見つめる。
「織斑一誠を殺す理由は?」
「・・・・・あの時も言った。俺が俺たるためにそいつの存在が邪魔だ。俺から全て奪った男を許せない」
「お前の大切な何かを奪ったのかは分からないけどよ。それだけで殺す理由にはならないだろ」
「・・・・・なる。俺の目の前で、大切なヒトを殺されたあの時のように、そいつは全部奪った・・・・・」
「それも受け継いだ記憶から知った程度ね。貴方自身の気持ちじゃないでしょ?」
・・・・・だったら、なんだ。
「・・・・・仮に、聖杯が俺ではなくそいつに受け継がれていたら、お前等は俺に疑惑を抱くのにそいつには疑問も抱かないのか」
「当然だ」
「ようやく会えた幼馴染を疑わないわ!」
「・・・・・疑わない理由はなんだ。まさか、外見で判断したからだといい抜かすなよ。・・・・・外見以外で何がお前等をそこまで信用と信頼を寄せる」
フルフェイス越しで彼等彼女等を睨みつけるラーズグリーズは、首を横に振った。
「いや、答えなくていい。やることは変わりない。いずれ、織斑一誠をこの世から消す」
「どうあっても、俺達の息子を、家族を殺すことを止めないのか」
「・・・・・父さんと母さんの息子は一人を除いてこれ以上必要ないだろ」
「悪いけれど、私達の息子はこの子よ。貴方じゃないわ」
「・・・・・前世の俺の全てを受け継いで、やっと復活を果たしたというのに・・・・・俺を受け入れてくれないのか皆」
「この世界でどんな人生を送ったのかは知らないが、そんなミイラの身体の奴なんか私達が知る男じゃない」
・・・・・織斑一誠を疑わないのは、やはり外見と言うことか・・・・・。
「・・・・・俺が知っている家族は外見で判断しないと思っていたんだがな」
「例え、聖杯で身体を治しても私達が選ぶのはイッセーだけです」
「・・・・・そう、か・・・・・そうか・・・・・」
それがお前達の総意ならば・・・・・もはや交わす言葉も無意味だと悟ってしまった。心の支えであった憧憬という柱は・・・・・完全に崩壊した。それも展開状態のISが装着者の意思を反し、強制的にIS解除してミイラのような生身の身体を晒すほどにだ。
「は、ははは・・・・・俺は・・・・・俺は・・・・・何の為に・・・・・」
「なんて、何て愚かなの・・・・・!あなた達は・・・・・!」
大きく見開いた瞳を丸くして酷く絶望し、双眸に瞋恚の炎を孕ませ絶望に打ちひしがれたラーズグリーズを抱きしめるカーリラ。
「・・・・・」
カーリラはアジ・ダハーカ等へ振り返る。
「貴方達も織斑一誠を選ぶの?」
『・・・・・現時点で、我が主と思しき者はそこにいる織斑一誠だけだ。数々のイレギュラーを起こそうとも、死ぬ直前・・・転生の神ミカルとの交わした言葉は三つの聖杯を集め異世界で復活してみよだ。かつての主と瓜二つな者がいれば我々がどう動くか分からぬお前ではないだろう』
「・・・・・こうして袂をわかつことになる原因になることも、あの女神の物語のひとつと言うことねっ」
恨めしいとばかり奥歯を噛みしめ、カーリラはラーズグリーズのフルフェイスを外し、ラーズグリーズからひとつの聖杯を取り出すと聖杯の能力を行使しようとしたが、瞬時で近づいた誠の反応に遅れて手に持っていた聖杯を奪われた。
「これは一誠の物だ」
『他の聖杯も返してもらう』
アジ・ダハーカの瞳が妖しく煌めき、ラーズグリーズの身体から二つの聖杯が浮かび上がって邪龍のもとへ転移された。
「っ・・・!」
親の仇のような鋭い眼差しで誠達を睨みつけるカーリラ。最悪な展開の状況にすぐさま銀色の魔方陣を展開した。
「絶対に許さない、いつか必ずお前達を・・・・・!」
「待ちなさい、あなたも一緒に元の世界に―――」
「・・・・・誰が貴方達のような愚か者とあの世界へ戻るというの。用が済んだらさっさとこのはた迷惑な駄龍どもを元の世界に連れて行けばいいわ。私は、この子の最期までこの世界で暮らす」
銀光に包まれる二人や束達を周囲の者達はただ見守るだけですぐには動けなかった。
「―――もう二度と貴方達とは顔を見合わすことはないでしょう。私は永遠にそう望むわ。この子の為にもね」
「リーラ!」
最高潮に達した光は眩く迸った。視界が一瞬だけ真っ白に染まった後にはラーズグリーズ達の姿はどこにも見当たらなくなっていた。
「らーくんの聖杯、どうするのさ!あっさり奪われてこのままじゃらーくんが死んでしまうんじゃん!」
秘密基地に戻ってすぐ束が怒りのままにカーリラの胸倉を掴んだ。ナンバーズ達がラーズグリーズを介護しようと近づこうとしたが不要だと手で制止するカーリラ。
「信じてもらえないけれど、三つの聖杯を一度宿すことできたこの子はドラゴンに転生したわ。ドラゴンの生命力は人間の寿命を凌駕して簡単には死なないわ。だから私達が思っている最悪なことはないの」
「んー?ずっと持っていなくてもよかったわけなの?」
「ええ、三つの聖杯を揃えばそれだけで十分。もうアレは一つを除いて中身が空っぽな聖杯になった」
「その一つには何が?」
「・・・・・過去の記憶、としか言えないわ。もう不要なモノになり下がってしまったのだけれどね」
淡々と告げるカーリラの言葉は真実だと、ミイラの身体にISを纏うラーズグリーズが立ち上がってカーリラの胸倉を掴む束の手に触る。
「・・・・・死ななくなった。心配かけて、ごめん」
「本当に大丈夫・・・・・?」
「・・・・・大丈夫、ありがとう」
「ううん、元気になってくれればそれでいいよー」
よしよしと頭を撫でる束。撫でられるラーズグリーズはカーリラの方にも感謝の言葉を送った。
「・・・・・ありがとう」
「いえ、私は当然のことをしただけよ」
カーリラもラーズグリーズのフルフェイス越しに頭を撫でるその日。ラーズグリーズは秘密基地内のキッチンにてパン作りをしていた。それは自分の好物の物で数年ぶりに食べられるわけで束達の分も用意しておきながら好物のパンを作っていた最中。
「意外と本当に何でもできるんだなラーズってば」
「ラーズ様も天才なお方です」
「・・・・・天才じゃない。何度も経験したことがあることなら・・・・・大抵何でもできるだけだ。・・・・・クロエ、もう少し力を込めて」
「は、はい」
共にパン作りに参加していたセインとクロエ。可愛らしいエプロンを身に包み頭に布を巻いて生地をこねる作業を手伝っていた。華奢で二人よりも小さいクロエは少し力不足で、ラーズグリーズに後ろから抱きしめられる形で血が通って温もりがある手を重ねられながら、こねた生地を伸ばす作業の補佐をされて密着してくる異性に顔をほんのりと紅潮する。
「温かいです・・・・・元の体に戻れて私は嬉しいです」
「・・・・・俺も、クロエやセインたちの温もりや感触を・・・・・実感できるようになれて嬉しい」
「ラーズ、なんか卑猥だぞー」
「・・・・・卑猥に聞こえる方が、スケベ」
「なっ、私はスケベじゃないよ!」
講義をするセインにクロエが一言。
「セイン様限らず他の皆さんは、バトルスーツの下には何も身に着けてないはずです。つまりノー・・・・・」
「わああああああああああああっ!?」
「・・・・・焼く」
自分は何も聞かなかったことにしようと紅潮した顔でテンパるセインを見て見ぬ振りしながら作業を進める。
聞いた?聞いてない。聞いたよな?聞いていないって。聞いた絶対!と押し問答を繰り返すセインに苦笑いで言い返す。
「うー・・・・・ラーズにいやらしい目で見られるじゃんか」
「・・・・・見ないから」
「・・・・・何でそう断言できるわけ?」
同じ答えを返されて不思議そうにラーズグリーズを見つめ、「変なの」と思ったセイン。
「男は女が好きなんじゃないのか?ラーズは男で私とクロエは女なのに」
「・・・・・今の今まで異性に対して考える暇、なかった」
「・・・・・ごめん。でも、ラーズが私や他の皆にいやらしい目で見てないって絶対じゃないでしょ」
「・・・・・どうして皆をいやらしい目で見る前提でなきゃいけないのか疑問」
そう言い返されてドギマギするセインに近寄り、ラーズグリーズは至近距離で目線を絡め合う。
「・・・・・誘っている?セイン」
「さ、誘う・・・・・?」
「セイン様が異性として自分を見てほしい欲求が、思いが無意識にあるのではないでしょうか。ラーズ様のことが異性として好きで」
「っ!?」
クロエの言葉を聞き、そうなんだと、暖かな眼差しと優しい笑みをするラーズグリーズを見て、目が離せないセインは徐々に顔が赤面していきラーズグリーズが好きだという指摘を受け心臓の鼓動が早く高鳴り、密着している胸からはっきりと―――。
「・・・・・嬉しい。俺も・・・好き・・・・・セインのことが」
本心の言葉で一人の少女は居ても立っても居られずキッチンから脱兎のごとく出て行ってしまった。彼女の様子を見てクロエから質問の言葉を受け止めた。
「ラーズ様、フラれてしまいましたか?」
「・・・・・そんなつもりで言ってない。純粋な愛情表現」
「貴方様の愛情表現は女の子の心に刺激が強すぎるかと」
「・・・・・クロエも?」
「はい・・・・・」
目を瞑ったまま肯定するクロエの顔は朱に染まっていた。
「ですからラーズ様のことをお慕いしております」
「・・・・・そう言ってくれると嬉しいクロエ」
その後、ラーズグリーズも初めて食卓に着き魔力を得て魔法を行使すると束達を絶叫させた。そして更に束とクアットロの悪戯もとい企画で街中で撮影することになり―――その姿が世界に震撼させたのであった。