インフィニット・ストラトス~光に奪われし闇~   作:ダーク・シリウス

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復活後のラーズグリーズ

アイリスに召使を命じられた一夏達。だが、マドカは全力で相手が王族だろうと王女だろうと従わぬ媚びぬ、敬うことなど一切しない。よってアイリスの騎士や黒スーツのメイド達から敵視されていた。とある日の昼休憩、騎士団長が剣のように鋭い睨みの眼差しを食堂で食事中のマドカの前に立って向けながら話しかけた。

 

「織斑マドカ、何故王女殿下に従わない」

 

「従う義理もなければ好き好んでする理由もない。大体、それは貴様らの役目だろう」

 

「王女殿下がお望みになさられている命令は絶対だ」

 

はっと笑うマドカ。

 

「世界の滅亡の危機より優先することか?それで国が亡んだら一生他の国から笑いものにされることだな」

 

「何だと・・・・・」

 

剣呑な雰囲気を醸し出す騎士団長を嘲笑う。

 

「素人当然の私達がもし失敗すれば責任を負わせて即処罰、即処刑するつもりだろう?お前達はそうして敢えて王女の身を危うくさせ、王女自身も体を張って死刑の執行をするのが好きで好きで堪らなく、愚兄達に理不尽で迷惑な命令を押し付けて従わせて責任を負わせるなら―――ルクセンブルク公国とはとんだ蛮族の集まりだな」

 

「きっさまぁああああああああああああああっ!!!」

 

ブチ切れる近衛騎士団長ジブリル・エミュレール。ロングストレートの薄い桃色の髪が怒髪冠を衝く如く怒り狂い、腰に佩いていた鞘から勢いつけてIS待機形態である剣を抜く。そのままマドカの首筋の薄皮一枚まで添えた。

 

「今の発言は王女殿下とルクセンブルク公国に対する許しがたい侮辱だ!その罪は重たく死刑に値する!たったいまより、このジブリルが断罪する!」

 

「はっ!正体を明かしたな蛮族騎士団長!やっぱり死刑がしたくて仕方がない処刑人のような人間だったようだな!そうやって今まで何人の人間を死刑に処した?言ってみるがいいこの殺人鬼め」

 

挑発に乗ってしまったジブリルを嘲笑うマドカは更に煽る言葉を口にする。

 

「ほら、死刑にするならすればいい。だがな、私を殺したその事実は一生隠し通せないぞ?お前はIS学園で殺人を犯した人間として全世界に知れ渡るだろう。そうなれば貴様が仕える公国は風評被害に遭い、奈落の底まで落ちぶるだろうなぁ?貴様の沸点の低い言動のせいで、大切な国と人間達を、貴様自身の手で全て奪ってしまったら、一体誰が悲しむだろうか分かって構わないなら―――私を殺してみろ騎士団長」

 

自ら首筋に剣を添えて押し付け、一滴の血を流すその狂気を窺わせるマドカ。ジブリルは完全に彼女の言葉と簡単に命を奪わせる行為に目を張って動きを硬直してしまう。

 

「どうした・・・・・私を死刑にするんだろう?殺すならば殺せ」

 

「貴様は・・・・・死を恐れないのか・・・・・!」

 

「はっ!この程度、死ぬ方が生易しい激痛と苦痛を三年間味わったラーズグリーズだったら赤子のような茶番だ。ならば私も、この程度のことで恐れてはあの人の妹などなれはしない」

 

「ラーズ、グリーズ・・・・・?」

 

誰だその者は、と心中で吐露してると剣に重みが掛かった。マドカが更に剣に首を押し付けていたのだ。必然的に食い込んでしまう刃が首を斬り、出血も増える。

 

これ以上少女の首に剣が切ってしまえば集中治療が必要になる。そうなれば原因は何なのか探られ、必然的にジブリルが嫌疑をかけられ取り調べを受けることになる。そればかりはジブリル自身にとっても公国にとっても避けたい事態だ。しかし、ここはIS学園。そして現在授業が終わった休憩の間。言い合えば人の目がどこでも目がついてしまう。そう―――。

 

 

外から豪快に壁を粉砕してラーズグリーズが、駆け付けて来れる場所でもあった。

 

 

「兄さんっ!」

 

マドカの歓喜の言葉を無視して、ジブリルを床に叩きつける。

 

「ぐぅっ!?」

 

「・・・・・殺す覚悟があるなら、殺される覚悟もある・・・・・そうだな」

 

圧迫する力が増すのを感じ取りながら横目でラーズグリーズを見上げるジブリル。

 

「誰だ、貴様っ・・・・・・!」

 

「・・・・・織斑ラーズグリーズ・F・アヴェンジャー」

 

「織斑・・・・・ラーズグリーズ・・・・・!?」

 

床に押し付ける手が遠のく様子が視界に入る。が、その後にラーズグリーズの上がる脚。その足が己の頭を踏み潰さんとしていることが明白でありすぐさまジブリルはISを展開して装着した。だが―――。

 

「・・・・・リヴァーサル」

 

「ぐうううっ!?」

 

ISを以てしても動けれない重力に押し潰されて身動きが出来ない。如何に国家代表でも重力の縛りからは抜け出すのは困難に極まる。

 

「アイリス王女様と同じ重力攻撃だと・・・・・っ!」

 

「・・・・・一緒にするな」

 

「舐めるなっ!」

 

ジブリルのISから雷撃が襲い掛かってきた。距離を置いてジブリルから離れれば起き上がる彼女は大盾と剣を構え、臨戦態勢に入る。

 

「・・・・・篠ノ之束が寄付した・・・・・第四世代型IS『インペリアル・ナイト』・・・・・ISコアのもととなる、時結晶(タイム・クリスタル)と裏取引で得た」

 

「何故それを知っているっ。それは国家機密で知っている者は少数のみの筈だ・・・・・っ」

 

「・・・・・知っている・・・・・十年前、俺もその取引にいた」

 

「―――っ!」

 

ジブリルは愕然で目を見開いた。その事実が本当ならば、目の前にいる者は一体何者なのだという話になる。

 

「・・・・・織斑一夏達から手を放せ・・・・・あいつらは第七王女の玩具じゃない・・・・・さもなければ・・・・・ルクセンブルク公国を滅ぼす」

 

「何だとっ、貴様・・・・・!」

 

「・・・・・冗談じゃない・・・・・時結晶(タイム・クリスタル)が手に入れば、ルクセンブルク公国なんて、必要ない・・・・・国が大事なら・・・・・わかっているな」

 

ジブリルは柄を握る力を込めてラーズグリーズへ睨む。自分に選ぶ選択肢はないことを突き付けられ、肯定する他なかった彼女は尋ねた。

 

「・・・・・手を引けば、祖国に何もしないのだな貴様等は」

 

「・・・・・俺の独断、篠ノ之束、関わってない。相手の都合を考えず理不尽に従わせる人間が・・・・・俺の嫌いの部類に入る・・・・・」

 

「・・・・・接し方を改めろと言うことか」

 

コクリと首肯するラーズグリーズの真意を知る。ISを解除、臨戦態勢の構えを解きジブリルはその要求を呑んだところで、不穏な雰囲気を纏う千冬が現れた。

 

「・・・・・話は終わったな?今度は私が納得できる説明をしてくれるのだな」

 

「「「・・・・・」」」

 

0.3秒でラーズグリーズとマドカは視線で会話し、二人揃ってジブリルに指した。

 

「あの留学の意味を知らん我儘王女の命令に従えと強要する騎士団長に嘲笑ったら、首筋に剣を突き付けて『死刑に値する』と脅迫の言ってきた。見ろ、突き付けられた剣でできたこの首の傷から今でも血が流れてるぞ。証人はこの場に居る生徒全員だ」

 

「・・・・・マドカを助けに来た」

 

「なっ・・・!?」

 

一方的な悪者扱いをされ絶句するジブリル。二人共嘘を言っておらず、食堂にいた生徒達も剣でマドカを脅す騎士の姿を見ていたので間違っていないと認識している。千冬はジブリルにも訊く。

 

「貴公の言い分は?この二人が言っていることは間違いないのだな?」

 

「織斑マドカの首の傷は、王女殿下と祖国を侮辱したこの者に突き付けた剣にこの者が自ら作った。私に殺害の意はない」

 

話を聞いてどちらにしろ千冬にとってやることは決まっていた。―――両成敗である。

 

「「っっっ~~~~~!?」」

 

頭蓋骨が陥没したんじゃないかと大きな鈍い音がマドカとジブリルの頭に千冬の拳骨が炸裂した。顔を青ざめて戦慄する女子生徒を除いてラーズグリーズにも拳骨がされた。ただし、ぽこっと頭にめり込ませる程度だった。

 

「・・・・・ふふ」

 

薄く笑うラーズグリーズの声に千冬は訝しんだ。

 

「何故笑う」

 

「・・・・・久しぶりだから・・・・・」

 

「・・・・・」

 

家族に、千冬に叱られることが嬉しい―――引き離された家族の絆の証を感じた事が何よりラーズグリーズにとって嬉しいこの上はないのであった。ラーズグリーズの言葉の深意を読み取った千冬は呆れながらも否定しなかった。

 

「だったら帰ってこい」

 

「・・・・・無理・・・・・織斑一誠・・・・・邪魔」

 

「・・・・・一緒に暮らすことはできないのか」

 

千冬から出た言葉にラーズグリーズから憎悪と怨みに怒りの気配が感じ始める。

 

「・・・・・居場所を奪った奴・・・・・家族を奪った奴・・・・・絶対に許さない・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・いつか必ず・・・・・あいつを―――――」

 

そこまで言いかけたが、何かに察知したラーズグリーズが足元に魔方陣を展開して千冬の前からいなくなった。すると入れ違うようにしてラーズグリーズが作った壁の穴から誠達が飛び込んできた。

 

「・・・・・気付かれたか」

 

「ラーズグリーズが突然いなくなった理由はお前達か」

 

「気配を感じたから急いできたが・・・・・ああ、壊れた壁は直させてもらうよ」

 

誠達が壁の修繕を買って出てくれたので、マドカとジブリルに反省文の提出をしろと言葉を残して食堂を後にした。

 

 

 

「らーくん、お帰りー」

 

「・・・・・何かしてる?」

 

秘密基地に戻ったラーズグリーズが目にしたものは、衛星軌道上にある宇宙空間にある巨大な機械を映すモニターに立って空中投影のキーボードを叩いている束。

 

「・・・・・衛星?」

 

「うん、そうだよー。名前は『エクスカリバー』って言ってアメリカとイギリスが開発・運用している高度エネルギー集束砲。今じゃすこーりゅん達亡国機業(ファントム・タスク)の制御下にあるんだけど、これ、実は生体融合型のISなんだよ」

 

「・・・・・人、いる?」

 

「勿論いるよー。ま、中身の子はいらないけどね?今、私の制御下に切り替えている所なんだー」

 

ISとの生体融合懆措置(そち)は国際法で禁止されている。ISコアと融合している己も例外ではないだろうなと他人事のように考えながら束に尋ねた。

 

「・・・・・それ・・・・・貰っていい?」

 

「らーくん、使いたいの?」

 

にこにこと微笑む束がラーズグリーズへ振り返る。

 

「・・・・・織斑一誠、殺す・・・・・誰にも邪魔されない・・・・・新たな力」

 

「ちーちゃん達が邪魔してくるよ?いっくん達も巻き込んじゃうかもしれないけどいいの?」

 

頷くラーズグリーズ。

 

「・・・・・邪魔するなら・・・・・容赦しない」

 

「あはっ☆」

 

相手が誰であろうと目的を果たそうとする。復活してなおもラーズグリーズが抱く狂気は束を飽きさせなかった。

 

「・・・・・あれ、どう?」

 

「ああ、らーくんのおもしろ設計した『反転による無限のエネルギーに変換装置』だね?―――うん、もう完成したよん。まるで『紅椿』のワンオフ・アビリティー『絢爛舞踏』のようだねぇ」

 

「・・・・・紅椿の量産型・・・・・作る?」

 

「それもまた面白い事だけど、現状らーくんの為に作ったISの方が強いよ?なんたって全ての理を反転、覆すワンオフ・アビリティーは現存している全ISの中で最強だもん。だから量産型ISと同時並行でらーくんのワンオフ・アビリティーを複製しているんだからね」

 

「・・・・・」

 

「でも、名前を付けるなら|Output.Variable.Energy.Reverse.System.《可変型出力増大昇華装置》。略して『O.V.E.R.S.(オーヴァース)』。これなら少ない電力も都市一つ分の電力だって超余裕で作れちゃうから、例え自然による災害で国が機能しなくなってもこれ一つあれば暫く電力の心配はなくなる超便利な装置だね」

 

らーくんは世界の救世主ー!と言いながらエクスカリバーの制御を難なく全て束の思いのままに奪った。

 

「はい完了ーっと。それじゃ、らーくん手に入れてきていいよー」

 

「・・・・・ありがとう」

 

秘密基地から出て真紅の龍と変化したラーズグリーズ。その姿で宇宙(そら)へと飛んでいって成層圏を越えて宇宙空間に突入した。真っ暗な空、無音の海。そこに漂う一本の剣があった。全長十五メートルほどのそれが視界に入ると飛んでいって胸部のISコアを輝かせる。

 

「・・・・・どうして搭載されているんだろう」

 

中に人の気配を感じ取りながらも人の姿に戻り、内部に侵入する。そして眠っている少女を見てそう呟く。

 

「・・・・・生体融合型なら・・・・・呼応する筈・・・・・俺に応えろ、エクスカリバー!」

 

聖杯を魔方陣から出し、曝け出す胸部のISコアがエクスカリバーと共鳴現象(レゾナンス・エフェクト)を起こした。光に包まれる二つの機体とラーズグリーズに眠る少女。宇宙空間で眩い光が閃光となって迸った後は―――。

 

 

 

一機だけが残った。エクスカリバーを吸収・融合した形で新たな力を得たラーズグリーズは胸の中で眠っている少女を見下ろし、そのまま抱え地球圏へと降下する。エネルギーの燐光を零しながら展開する巨大な八枚のエネルギー翼を広げて突入、青い大海原の上を飛ぶ速度は第四世代型ISである紅椿の―――否、全ISの瞬時加速(イグニッション・ブースト)を遥かに凌駕した速度は一拍遅れて過ぎ去った後に海面を割っていく。

 

 

 

「エクスカリバーが消失・・・・・?一体何の冗談なのかしら」

 

亡国機業(ファントム・タスク)から送られたメールの内容に眉根を寄せ、心底から理解しがたいといったスコールに話しかける女性。

 

「どうするんだスコール。エクスカリバーの消失の原因を調べろって、本当に消えていたらどうやってしろって話のレベルだぞこれ」

 

「そうね。軌道から外れて宇宙の彼方まで行ってしまったってことじゃないわね。それこそあり得ない話だわ。取り敢えず、形だけでもしておきましょう。篠ノ之束なら知っているでしょうし」

 

 

 

エクスカリバーに搭載されていた少女を秘密基地に戻ってジェイルに診断してもらった。興味深そうに少女の情報をデータにした詳細が空中投影のディスプレイの画面に見つめていたジェイルの口が開きだす。

 

「ふむ、これは治療が必要だね。直ぐに始めねば」

 

「・・・・・病気?」

 

「病巣プログラムというものがあってね。これを破壊せねばこのまま死んでしまうのだよ。だが、私の手に掛かれば問題はない」

 

問題ないと断言したジェイルの腕前を信頼して「・・・・・お願い」と口にする。

 

「任された。しかし、君も様変わりしたね。どんな心境でそうなったんだい?」

 

「・・・・・エクスカリバーと共鳴現象(レゾナンス・エフェクト)を起こした」

 

「ほう、それは興味深い話だ。新たな能力を得たのなら是非とも調べさせてくれ」

 

了承と首を縦に振って頷き、少女をジェイルに任せて束の所へ足を運ぶ。鉄の通路の中を進む最中、向こうから二人組の女性が、ラーズグリーズを見るや否や怒気を孕ませたスコールの相方が怒声を散らしてきた。

 

「てめぇっ!」

 

「・・・・・?」

 

拳を握って殴りかかってくる女性に不思議に思いながら手の平で受け止め、スコールに意味深に視線を送った。

 

「・・・・・なに?」

 

亡国機業(ファントム・タスク)が保有していたエクスカリバーを勝手に奪うのは困るのだけれど」

 

「・・・・・イギリスとアメリカが極秘に開発、運用していたIS・・・・・亡国機業(ファントム・タスク)の物だという証拠・・・・・あった?」

 

「それを言われると、こっちは何も言えなくて困るわ」

 

制御下にあったものであってスコール達が所属していた組織の物である証はない。ラーズグリーズのイギリスとアメリカが共同開発と運用していたISを奪っただけだという言外にスコールは眉根を寄せた。

 

「・・・・・俺のISのデータ・・・・・ジェイルから」

 

「五つのコアを搭載したISのデータね。現状は参考にもならないものだけど、希少なデータでもあるから貰っておくわ。その姿を見て貴方自身にも興味があるし」

 

「・・・・・亡国機業(ファントム・タスク)にも・・・・・俺のDNA・・・・・横流しされている」

 

「ふふ、何のことかしら」

 

「・・・・・最後、潰す」

 

「・・・・・それは本気で勘弁してもらいたいわ」

 

頬にヒヤリと嫌な汗を流す。ラーズグリーズに敵う者はこの世界にはいないのだ。止めることも撃退も撃破もできないまま、一方的に蹂躙されるのが目に見えている故、スコールは止めて欲しいと願う。

 

「・・・・・暇?」

 

「暇・・・・・?ええ、消失したエクスカリバーのことで篠ノ之束博士に尋ねに来ただけだし、この後は何もないわ」

 

「・・・・・手伝う」

 

「何を?まぁ、新造のISとコアを報酬で貴方に協力する約束だから手を貸すけれど、何をするつもりなのかしら?」

 

ラーズグリーズは二人に向かって感情が籠ってない声音で告げた。

 

「―――織斑一誠・・・・・殺す」

 

 

―――†―――†―――†―――

 

 

IS学園に珍しい訪問者が現れた。メイド服を身に包み数多の視線に向けられようと彼女は受け止めながら恭しくメイド服のスカートの裾を摘まんで恭しく頭を垂らしお辞儀をした。

 

「初めまして、私はチェルシー・ブランケット。セシリア・オルコットお嬢様にお仕えしておりますメイドでございます。以後お見知りおきを」

 

突然の従者の来訪にセシリアは困惑するばかりだった。

 

「あ、あの・・・織斑先生。これはどういうことですの?」

 

「それは彼女に説明してもらう。私達にも関係のある話であるからな」

 

意味深な言い方をする千冬に一夏達は小首を傾げる心境で、千冬が視線を送るチェルシー・ブランケットに目を向ける。

 

「チェルシー、説明をお願いしますわ。今はイギリスで仕事を任せておきましたのにこの学園にいる理由を教えてもらいますわ」

 

「勿論でございます。単刀直入で申し上げますとイギリスとアメリカが共同開発、運用していた衛星軌道上にあった攻撃衛星―――『エクスカリバー』が突如消滅しました」

 

「衛星が消えただと?その程度のことで・・・・・いや、まさかIS絡みか?」

 

マドカの推測は正しいとチェルシーは頷いた。

 

「その慧眼、称賛に値します織斑マドカ様。左様です。本当のところは、あのエクスカリバーは生体融合型のISです」

 

すらすらと語るチェルシーに一同が疑問を抱く。

 

「なぜそんなに詳しいかと申しますと。あれには私の妹、エクシア・カリバーンが搭乗・・・・・いえ、搭載されていますので」

 

さらっと告げるチェルシー。一番驚いたのは、勿論セシリアだった。

 

「チェルシーに妹・・・・・?そんなことは―――――」

 

「いたのですよ。戸籍から抹消された、私の妹が。・・・・・ずっと探していた妹が」

 

驚愕の事実だった。それを知った時のチェルシーの心情を推し量ろうにも、そこには闇が深く立ち込めている。

 

「抹消された部分・・・・・ラーズグリーズと似てるな」

 

千冬が一夏達に告げる。

 

「我々はそのエクスカリバーの調査を欧州統合政府、IS学園上層部から調査を命じられている。専用機持ち達はすぐにイギリス入りをしてもらい、宇宙(そら)へ上がってもらう。エクスカリバーの消失の痕跡があるかもしれんからな」

 

ちらっと一誠を一瞥する。

 

「今回の作戦には織斑一誠も連れて行く。ラーズグリーズの襲撃がないとは限らん以上警戒するに越したことはない」

 

「ふん、兄さんの代わりに私が殺してもいいぐらいだ」

 

「・・・・・一番危ないのは身内だったか」

 

肩を落とす一誠に一夏と秋十は同情の念を向ける中、マドカが千冬に問う。

 

「こいつのお守りは異世界の連中に任せればいいじゃないのか。こちらの負担も減ってISだけでイギリス入りはできるだろうに」

 

「IS学園の人間ではない者達に任せるわけにはいかん。何より、あれだけ積極的に接触してきた連中は今では手の平を返して消極的に織斑一誠と接触していない。奴らの狙いはラーズグリーズに変えたようだからな」

 

「護衛に何人か連れて行くことは?今のラーズグリーズは残念ながら私達よりも強い。束になってもリヴァーサルで戦況を変えられてしまいます。あのワンオフ・アビリティーの対処法もないです」

 

ラウラの指摘に千冬は考える仕草をしてから答える。

 

「一応声を掛ける。ではこれより出立の準備をしてもらう。解散だ」

 

後日、セシリアの自家用ジェットでイギリスへと向かった。現在、上空一〇〇〇〇メートル。東ヨーロッパ境界線上に位置していた。その中でわいわいと旅行気分な賑やかさと雰囲気を醸し出している専用機持ち達と対極的に静かな数人の異世界人。ISで飛行するのとはまた違った感覚を体験しながらの空の旅は―――。

 

「おい、この機体は対赤外線装置は付いているのか?」

 

ラウラの一言で変わろうとしていた。

 

「? なんですの、ラウラさん。いったい―――」

 

ラウラの後ろの窓に映る影を見て、全員がぎょっとした。

 

「み、ミサイル!?」

 

どんっ!と激しい爆音が轟く。セシリアはパイロットを、一夏は千冬を抱え、各人がISを展開した。エンジンをやられた自家用ジェットから全員が脱出する。チェルシーも抱えようとしたシャルロットだったが、チェルシーの姿が光に包まれる。それはISの粒子展開で光が収まったそこには、ブルー・ティアーズ三号機『ダイヴ・トゥ・ブルー』を身に纏うチェルシーがいた。異世界人達は独自の方法で空に飛ぶ。外では、ロケットランチャーを捨てた女が待っていた。

 

「さすがに仕留めきれなかったかナー?ねぇ、更識楯無サン!」

 

空中に飛翔しているのは、かつて楯無にロシア代表の座を奪われたログナー・カリーニチェだった。専用IS『ロシアの深い霧』零号機(プロトタイプ)をまとっているのが特徴的である。

 

「面倒なのがきたわねぇ。一夏くん!」

 

ばっと扇子を広げる楯無。そこには「先に行け」の文字が書かれていた。

 

「あの狐目年増の相手は私がしましょう。織斑先生、引率お願いします」

 

「了解だ。不覚をとるなよ?」

 

「ふう。私は更識楯無ですよ?」

 

言うなり、蛇腹剣《ラスティー・ネイル》を展開する。

 

「おしおきして、あ・げ・る♪」

 

どっちが悪役なのか分からない状況だったが、とりあえず一夏達はISによる超低空飛行によって現場を離脱した。そしてのこさられるログナーと楯無。

 

「・・・・・」

 

沈黙が場を支配する。だが、それを破る第三者達が遥か空から剣のビットが八本強襲してログナーの機体を切り刻むことで沈黙の場を切り裂いた。

 

「誰!?」

 

ハイパーセンサーで探ろうとしても敵影も姿形も見当たらない。目の前でログナーが起爆性のナノマシンを振りまき、爆発を起こして対応するも傷一つ付かない剣のビットは射撃攻撃もできるようでログナーを追い詰めていった。見過ごせない楯無も参戦しようと動き出した直後、何もない空間から光があふれだしてそこから一つの機体が飛び出し振り返った楯無の前に姿を現した。その機体に搭乗する者の顔を見て楯無は目を限界まで見開き顔を驚倒一色に染めた。

 

「貴方は・・・・・!」

 

「・・・・・」

 

以前見たISではない様変わりした姿の相手―――ラーズグリーズを前にして臨戦態勢の構えをした。ラーズグリーズは人差し指を楯無に突き刺した。正確にはその後ろであるが。

 

「・・・・・後ろ」

 

「え?」

 

「お姉さまああああああああああああ!」

 

全身全霊のハグを、かますログナーに反応が遅れて抱き着かれる楯無。

 

「・・・・・そういう関係?」

 

「違う!私にそのケはないのよ!ちょっと、離れなさい!今あなたを構っている暇はないの!」

 

「そんナ!つれナイ!」

 

五つも年下の楯無に、激情ラブ満開なログナーを、本当に、本っっっ当に、面倒くさそうに引き剥がそうとする楯無。

 

「・・・・・また会おう」

 

「っ!?」

 

全ての剣のビットを周囲に戻したと思えば、円陣に組むビットの推進力を促すエネルギーが噴出する部分の光が空間を輪後光のように光らせ、ラーズグリーズがその光に沈み込んで楯無の前からいなくなると八つのビットも光る円の中に飛び込んだ。空間転移でもしたのかのようにいなくなったラーズグリーズの新しいISに楯無は危険視した。

 

「なんなの、あのISは・・・・・」

 

その後、何とか引き剥がせたものの諦めが悪いログナーと互いに起爆性ナノマシンを振りまき、爆発を繰り返す。その爆発はすぐに周辺諸国に知れ渡り、ロシア代表と元代表の痴話喧嘩が全世界中継されるという最悪の事態を招くのだった。

 

 

ドイツ、特殊空軍基地。自家用ジェットのパイロットの身の安全を確保した一行は楯無からのラーズグリーズの出現の報を聞き、一層警戒を強めた。しかし、何時まで経ってもラーズグリーズは現れず戸惑う一行はラウラが所属している黒ウサギ隊の副官と山田真耶が一騎打ちを繰り広げた後、ドイツを後にドイツから海路と空路に分かれてイギリスへ目指した。

 

当のラーズグリーズは束に呼び戻されていた。

 

「らーくん、偽物を殺すのちょっとだけ待ってくれる?」

 

「・・・・・まだその時じゃない?」

 

亡国機業(ファントム・タスク)がフランスの第三世代型のISを奪おうとしているんだよね。で、らーくんはあいつらの逃げ道を確保して欲しいんだー。くーちゃんも行かせるからさ」

 

「・・・・・わかった」

 

フランスにいるなら、そのいざこざの中ですればいいと考えに至り束の指示に従う。

 

一方フランス、パリ。

 

イギリスへ赴く前にデュノア社から最新装備の受領命令があってフランスに訪れた千冬、一夏、ラウラ、シャルロット、簪、三人の男性操縦者に異世界人の女性達を出迎えたのは、デュノア社社長にしてシャルロットの実父、アルベール・デュノア。高級スーツに身を包み、顎髭を生やしたその風貌は、厳しさの一言に溢れている。デュノア社特設ISアリーナで現在、デュノア社で開発した第三世代IS『コスモス』を相手にシャルロットが模擬戦を始めていた。シャルロットが第三世代ISの受領を拒絶したことで実践データ収集を兼ねてシャルロットが駆使するリヴァイヴが勝つようなら、今まで通りの無茶を許すという口約束の下で行われている。花びらのようなスラスター・ウイングを広げる『コスモス』とリヴァイヴの戦いを上空一〇〇〇〇メートルから空中投影のディスプレイでクロエと見ていると、戦況と事態が変わった。コスモスを操縦していた搭乗者のフルフェイス・バイザーがシャルロットのショットガンの連撃で割れて、スコールの相方の女性の顔が曝されたのだ。当然、相手が敵であることを認知しているシャルロットが攻撃の手を緩めることもなく戦い続ける。ギリギリまで様子を見守ると二つの機体が呼応するように光りはじめたそれを見て、ラーズグリーズはぽつりと呟いた。

 

「・・・・・共鳴現象(レゾナンス・エフェクト)

 

もはや、デュアル・コアを搭載したISに敵わないだろうとようやく動き始めるラーズグリーズの前に地上から上がってくる二つの機体。

 

「っ!ラーズグリーズ!」

 

「なんで、ここに・・・・・!」

 

ビットによる空間転移で光る空間の中に沈み、残したビットは一夏とラウラに強襲させる。

そしてアリーナの中で光り出す空間からラーズグリーズが現れ、女性を追い詰めているシャルロットと対峙する。

 

「ラーズグリーズ!?」

 

「・・・・・」

 

アリーナの中を見回す。織斑春百を探すために。肉眼で捉えることが出来るのはアリーナのシールドの向こうから見つめてくる千冬、一夏、ラウラ、簪に三人の男性操縦者に異世界人の女性。目的の人物がいない事実に特に何も思わず両肩部の砲身をシャルロットに狙い定める。

 

「っ!」

 

見たことのない装備―――否、様変わりした姿のラーズグリーズは新たなISで装備していると見て瞬時に察して、回避行動を取ったが敵の女性と共に足元で光る幾何学的な円陣を展開して消えていなくなった。

 

「・・・・・逃げた?」

 

射撃体勢は自分を警戒させ、自ら距離を置かせるためのブラフ―――だったと思い至った時は既に二人はフランスから離れ秘密基地に戻っていた。ラーズグリーズの介入がある可能性を考慮してても未然に防ぐことは難しいことだった。だが、千冬達の間でラーズグリーズは、束達は亡国機業(ファントム・タスク)と繋がっていることが判明した。ますますラーズグリーズ達への危険視が高まることになり一行はイギリスへ赴く。その間、異世界人の女性はIS学園の敷地内の豪邸にいる者達に連絡を入れていた。

 

「・・・・・第二世代ISじゃ、第三世代ISに負ける・・・・・」

 

「うるせぇッ!」

 

「オータム、無事に戻ってこられたみたいね」

 

現れるスコール。ラーズグリーズが窮地に陥った彼女の逃走の手助けをしてくれると分かっていた上で話しかけて来た。

 

「・・・・・年下の小娘に王手(チェックメイト)されてた」

 

「見ていたならとっととてめぇ来いよ!」

 

「・・・・・そっちの仕事・・・・・手伝う理由はない」

 

「ええ、私もオータムの頑張り次第を期待してたわ。失敗しちゃったみたいだけれど、大切な貴女が捕まえられるよりはいいわ」

 

肩身が狭い思いをするオータムという女性。

 

「ラーズグリーズ、エクスカリバーに搭載されていた彼女はどうしてるかしら?」

 

「・・・・・ジェイル」

 

「そう、ならいいわ。それにしても・・・・・人生って判らないものね」

 

ラーズグリーズを見つめながら意味深に言うスコール。何がだとオータムの言いたげな表情を他所に、スコールは小さく微笑んだ。

 

「あの時のまだ小さかった頃の子供が、今じゃあ私達と同じ裏の世界で生きることになるなんて想像もしなかったわ」

 

「・・・・・このガキのこと知ってたのか?」

 

「ええ、昔・・・この子が撮影をしていた時にね」

 

「・・・・・誘拐された」

 

はっ?と何言っているんだこいつは的な変な物を見る目をするオータムと、「若さゆえの過ちだったわ」と微笑するスコール。

 

「覚えていたのね?もう十年以上も前のことなのに」

 

「・・・・・強烈な日々」

 

「ふふっ、数日間色んな場所に連れ回していたから私のこと覚えていたのかしら?」

 

「・・・・・スコール。何してたんだよ」

 

きっとスコールと出会う前のことだろうと悟るオータム。スコールは自身の携帯を取り出してある動画を見せた。

 

『やぁボク。ちょっといいかな?』

 

『?』

 

見るからに怪しい中年男性が片手に袋を持って、街中のベンチに座っている子供に話しかけた。子供は男性に振り返った。

 

『なーに?』

 

『君の好きな食べ物はなにかな?』

 

『アップルパイ』

 

好物の食べ物を教えると男性は持っていた袋からアップルパイを取り出した。

 

『丁度おじさんもアップルパイが好きなんだ。良かったら食べるかい?』

 

『いいの?ありがとう!』

 

『うっ・・・・・!』

 

純粋無垢な子供の笑顔の輝きが邪心で近づいた男性にとってまぶしかったようだった。受け取ってすぐにアップルパイを食べる子供は、至極幸せそうに目を細め顔を綻ばせた。

 

『んふふ・・・・・美味しいかった♪おじさん、ありがとう!』

 

『ど、どういたしまして・・・・・もっと欲しいならおじさんの家に来ないかい?いっぱいあるんだよ』

 

『本当!?イクイクー!』

 

大好物のアップルパイを食べられると知り、心の底から嬉しそうに男性の腰辺りに抱き着き見上げた顔は天使のような笑顔だった。その笑顔を直視てしまった男性の父性本能が臨界突破してしまったか、青空を見上げながら仰け反る男性の口から赤い液体が吐いた。

 

『―――ゴハァッ!?』

 

『さ、佐藤さーん!?』

 

思わず男性の名前を言ってしまうほど動揺してしまった子供は混乱にまで落ち入り、挙動不審で周囲を見回し―――多くの見物客の中にいたスコールと思しき豊かな金髪とスタイルの外国の美女と視線が合って、彼女の所まで近づいて涙目でおじさんを助けてほしいと懇願した直後。外国の美女は真っ赤な顔で子供を抱え出したかと思えば・・・・・颯爽とその場からどこかへ連れ去ったのであった。

 

 

子供を誘拐する犯罪が増加しています。視界に入る場所で子供と一緒に居ましょう。

 

 

という最後の締めくくりでCMの動画が終わったところでオータムは一言述べる。

 

「お前、誘拐される人間を間違ってるぞ」

 

「・・・・・外国、楽しかった」

 

「楽しんでいたのかよ!ていうか、オータム。外国にまで連れ去ってたのか!」

 

「だって可愛かったですもの。傍に置きたいのは当然でしょう?今もそうだしね」

 

どこからともなく出す市販で買っただろうアップルパイをラーズグリーズに渡す。封を開けて齧るように食べだすと、ショタ(コン)になるラーズグリーズを見て怪訝な目で見るオータムと慈愛で満ちた瞳で見つめるスコール。

 

「どういう体の構造をしているんだてめぇーは」

 

「いいじゃない。可愛いでしょう?」

 

ラーズグリーズを抱え、頭を撫でるスコール。

 

「ふふ、この子も一緒に可愛がるのもいいわね。隠れ家に連れて行こうかしら。この子、高級料理店にも負けないぐらい美味しい料理を作れるし、実力も高い上に容姿も整って私の理想な男の相手だし」

 

「・・・・・」

 

自分の居場所を奪わないだろうな、一末の不安を覚えるオータム。

 

「安心しなさい?貴女を捨てるなんて絶対にあり得ないから」

 

「っ・・・・・スコール」

 

その考えは杞憂だった。嬉しそうに顔を明るくするオータムをラーズグリーズは一言。

 

「・・・・・単純」

 

「んだとぉっ!?てめぇだって好物をくれる奴だったら誰でも尻尾振るだろう!」

 

「・・・・・アップルパイに罪はない」

 

「なに訳の判らないことを言っているんだてめーは!ブチのめすぞ!」

 

「・・・・・できる?」

 

喧嘩腰になるオータムにスコールの腕の中で分裂し出すラーズグリーズ。オータムを囲み数多の尻尾で拘束するや否や彼女の身体に尻尾で擽り始め、強制的に笑わせる。ISを展開して襲うにしてもスコールまで巻き込め兼ねないからか、ただただ擽られ女性あるまじき笑い顔を晒す。それはスコールが仲裁に入るまで続いたのであった。

 

「・・・・・勝利」

 

「ち、ちく・・・・・しょうっ」

 

一方、IS学園は宇宙空間に上がって調査を進めたが、これと言って何の手掛かりもなく原因は不明であることしかわからず調査は程なくして終えて日本に帰還したのだった。

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