インフィニット・ストラトス~光に奪われし闇~ 作:ダーク・シリウス
ラーズグリーズから接し方を改めろと脅迫されたアイリス・トワイライト・ルクーゼンブルク。国の存亡の為に従者の任を解いて留学生らしく学園生活を過ごしていた。しかし、彼女もまた『女』である。紆余曲折で一夏と共に過ごした日々の中で次第に惹かれ・・・・・。とある日―――教室にて一呼吸置いて、アイリス王女は一夏の前で口を開く。
「織斑一夏を我がルクーゼンブルク国に招く。わらわの世話係として、一生をともにするのじゃ!これは既に決定事項、異論は認めん!」
それはつまり、結婚という意味であった。
「は?」
「はぁ?」
「はああああああ!?」
その場にいた一夏、ジブリル、ヒロインズの一同が驚きの声を上げる。アイリスの告白を真っ向から拒絶したのは当然マドカだった。
「おい貴様、そんな身勝手な事を許されると思っているのか?」
「誰の許しを貰う必要があるのじゃ」
「こいつだけでも国絡みの問題が起きるということを分からんお子様には難しい国際問題だったか。それにラーズグリーズから手を引いて接し方を改めなければ国を滅ぼされる話も忘れたか?」
ジブリルから何も聞いていないわけではないだろう、と言外して言うマドカに威厳ある態度で言葉を言い返す王女。
「それは今の話じゃ。わらわは未来の話をしている」
「そんな未来は来ないと断言してやろう」
意味深に笑うマドカを訝しむアイリス王女。
「何故そう言い切れる」
「この愚兄はお子様のお前のことを妹のような存在、認識している限り一生結婚はするつもりがないからだ。せめて乱ほどの体つきでなければ女としても意識をしてくれないだろうよ」
「ねぇマドカ。それってあたしにも喧嘩売っているわけ?」
瞳から光が消えハイライトの鈴を華麗にスルー。王女は自分のぺたーんな身体を見下ろし次にマドカの凸凹な体を見て眉をひそめた。
「男は外見ではなく中身で選ぶと知っておる!」
「そうだろうな。だが、選ぶ基準は男女ともに中身より外見で選ぶ方が多いのは事実だ」
「ふん、貴様を嫁にする男など一生おらんじゃろうな」
「私にはラーズグリーズがいるのでな。他の男共など豚と交尾でもしていればいい」
とある者の名が出てアイリス王女は復唱するように口にする。
「ラーズグリーズ・・・・・本当にお主らと同じ兄妹であるのか?敵対している関係だと知っておるぞ。仮に本当の話しだとして、兄妹が結婚などできる筈もない」
「だから何だ?血の繋がりがあろうがなかろうが、愛があれば一緒に暮らせて子供も作れる。世間はそれを許さないでいるが私にとってそんなものは塵に等しいものだ。―――だから性に関する知識だけは豊富だぞ?」
艶やかに微笑するマドカの大胆な発言に大半の女子達は顔を真っ赤にした。男子達も同じで気まずそうにしていた。ジブリルが真っ赤な顔で同じく真っ赤なアイリス王女の耳を両手で抑え込む。
「は、破廉恥な!?王女!この者の話をきいてはなりません!」
「ほう?騎士団長あろうものが、経験は皆無らしいな。性も恋愛も男も含めてだ。くくく、好いことを知った。まさかまだその歳で生粋の処女だったとは。ああ、まだ二十歳だったな。これから数多の男を食らうのかな?」
「き、貴様何を言い出す!?王女の前でそれ以上口にするな!口を閉ざしていろ!」
「ふはははっ!そんなにしてほしければ力尽くでしてみせろ!その間、私が知っている知識を全て言い終えるまで教えてやる!いや、口で語るよりも私の愛用している動画を見てもらった方が早いかな?」
携帯を取り出して操作を始めるマドカを箒達が「見せるなぁっー!」と言って飛び掛かった。それを華麗にかわすマドカ。その間、アイリスはジブリルの手をどかして尋ねた。
「ジブリル、あの者は何を言っておった?」
「王女様は気にしなくてもいい戯言です。織斑一夏を渡さないと言っていただけですので」
「む、そうなのか。ならば、織斑マドカと対決して格の違いを思い知らせる必要があるようじゃな」
自信に満ちた態度、薄い胸を張って言う王女に嘲笑うマドカ。
「はっ!力で相手を黙らせるのがルクーゼンブルク国のやり方とは随分と野蛮だな!いや、お子様はそれしかできないかそれしか知らない頭が脳筋だったならば仕方がない。気にするな脳筋王女様(笑)」
「「き、貴様ーっ!」」
挑発されて、黙っているほど優しい性格はしていない。だがそこへ、教室に顔を出す楯無が場を鎮めた。
「はいはーい。言い合い喧嘩はそこまでにしなさーい?マドカちゃん、ちょっといいかな?」
「なんだ」
ちょいちょいと手招く楯無の登場で応じるマドカ。一夏達を待機させて廊下に呼び出したマドカに質問をする。
「マドカちゃん。ラーズグリーズを呼び出せることってできる?」
「呼び出してどうする」
「例のエクスカリバーの件について知りたいの。簪ちゃんが、ラーズグリーズの新しい機体を調べたらね。エクスカリバーの名前がついてるって言うものだから関りがあると思ってるの」
真意を探ろうとしている楯無の考えは理解はできたが、マドカは敢えて首を横に振った。
「ここでは無理だ。あの異世界人達を警戒している節があるぞ兄さんは」
「でしょうねぇ・・・・・最近イマージュ・オリジスも鳴りを潜めているしそれだけ強敵なのか関わりたくないかのどちらか、あるいは両方なのでしょうね」
今頃どうしているのか定かではないが、健在している間はこの世界の人類の天敵である。少なくとも決着がつかない限りは安心できない。
「私としても兄さんと会いたいから呼び出す協力はしよう」
「ありがとう。じゃあ学園の外・・・・・どこがいいかしら」
「どこでもいいではないか。別に私達全員で会うわけではないのだろう」
「大丈夫?一応警戒するべき相手なのよ?戦力過剰、過多、過激何て概念や言葉をリヴァーサルしてしまうほどラーズグリーズは強いのよ?」
マドカは不敵な笑みを浮かべだす。
「安心しろ。私には秘密兵器がある。勿論ちゃんとした考えもあるから安心しろ」
「秘密、兵器・・・・・?」
小首を傾げる楯無。秘密兵器とは一体何だろうか?あのラーズグリーズを大人しくさせることが出来るという、マドカの溢れんばかりな自信とその言動に取り敢えず信用することにした楯無。
―――†―――†―――†―――
東京都―――某所。
「いやーん!すっごく懐かしいぃーっ!」
「ふふ、本当にね」
マドカの考えが実行されたその日―――。身内以外唯一信用できる人物、そしてラーズグリーズと家族の次に深い関係を築いている人物に協力してもらって楯無の希望通りに叶えることが出来た。その人物は―――アップルパイを食べている間、ショタ
「(芸能界のマネージャーが住む場所としては・・・・・豪華なところに住んでいるのね)」
そんな感想を心の中で述べながら視界に入れる。高級マンションの部屋の中に差し込む日当たり。平べったいロボットが床のゴミを吸い取って掃除していたり、棚の上にはカーリラと幼い頃のラーズグリーズのツーショットの写真、織斑家全員との写真が幾つもありラーズグリーズと長い付き合いをしていることを窺わせるものがあれば、DVDのブルーレイが飾られている。中身は何なのか気になるところだ。何故なら―――『織斑一誠マル秘映像』と書かれたラベルがケースに貼ってある故に。
「・・・・・桐生さん、そろそろ本題に入ってもいいか」
「いいわよ。こっちも大変満足したからこれで数か月間は元気で働けるってものよ」
シビレを切らしたマドカの催促にカーリラは膝の上にラーズグリーズを載せながら肯定する。
「私に協力してもらいたいのは事情聴取だっけ?」
「はい、そうです。そういうわけでラーズグリーズ。色々と教えてもらうわよ?」
「・・・・・何」
「宇宙にあったエクスカリバーっていうIS。貴方が原因なんじゃない?新しいISの名前、エクスカリバーがついているから」
単刀直入で質問する楯無に対して首肯するラーズグリーズ。隠すことでもないとあっさりと認めたことに拍子抜け以前にやっぱりと悟っていた楯無は言い続ける。
「どうして、というかどうやって手に入れたの?」
「・・・・・
「なるほどね。じゃあ、エクカリバーに搭乗していた女の子は?」
「・・・・・保護・・・・・病巣プログラム・・・・・破壊してもらっている」
「その子、セシリアちゃんのメイドの妹なんだけど、私達に引き渡してもらうことってできる?」
構わないと首を縦に振るラーズグリーズ。
「すんなり教えてくれるのね」
「・・・・・教えない理由・・・・・ない」
今有している情報は別に重要だからではない、もしくは聞けば何でも教えるという姿勢のラーズグリーズだった。ただし、今どこに住んでいるのかだけは教える気はないでいる。
「じゃあ、ラーズグリーズが住んでいる場所教えてくれる?」
「・・・・・それは駄目」
「桐生さん」
「ごめんなさい。私達も知ってるけど、恩人の秘密基地を教えることはできないわ」
協力を求める楯無の意を読み取って拒絶するカーリラ。
「・・・・・質問・・・・・終わり?」
「えっと、そうね。でも、せっかくだからもう少し交流を深めましょ?色々と話もしたいわ」
「そういうことなら皆で出かけない?個人的にこの子を会わせたい人がいるのだけれど」
「会わせたい人?誰だ?」
「社長よ」
聞いた瞬間、マドカの全身は鳥肌が立った。顔や背中にも嫌な汗が流れて席から立ち上がるマドカが告げる。
「・・・・・帰らせてもらう」
「え、どうして帰るのマドカちゃん?」
「私はあの男に対して生理的に駄目なんだ!見ろ、鳥肌が立つほど名前を聞いただけで嫌なんだ私は!」
「・・・・・あのマドカちゃんが忌避する人ってどんな人なのよ」
「まぁ、凄いインパクト持っている人なのは確かよ。・・・・・慣れる必要あるのだけれど」
慣れないと一緒にいられないぐらいおかしな人なのかと興味と不安が混濁した気持ちを抱き、楯無は一目見ようとする。カーリラの膝から降りてマドカへ寄るラーズグリーズは上目遣いで見上げながら話しかける。
「・・・・・マドカ、帰る?」
「・・・・・来て欲しいのか兄さんは」
「・・・・・無理強い・・・・・しない」
「・・・・・私を守ってくれるか?」
「・・・・・昔のように守る」
兄さん!と感激してラーズグリーズを抱きしめて嬉しそうな顔を浮かべるマドカ。遅れてティアマトも同行すると示すので、全員でかつてラーズグリーズが所属していた事務所へ足を運ぶこととなった。
車を走行させて十数分。ピンク色のハート中にピースした手の奇妙奇天烈な五階建て分もある施設がそこにあった。窓枠もあることから建物であることが窺えるものの、外国ではない限り初めて見る人は戸惑い気味に目を瞬きしてしまうだろう。しかしながら今では観光スポットみたいな受けを集めているのだった。そして奇妙奇天烈な建物に働いている有名芸能人達の筆頭の人物こそが織斑一誠なのだ。
「・・・・・何、この建物」
「・・・・・私も最初はそう思った。言っておくが、中はもっと酷いからな」
車の中から唖然と建物を見上げる楯無の横でラーズグリーズを抱きしめながら辟易するマドカ。
「どう、酷いの?」
「床や壁、天井がピンク色一色だ。設備や備品まではそうではないが、ピンク色に染められるものは何でもピンク色に染めるぞあの奇人は」
「全力でそうさせないように制止を掛けているのよ私達社員がね」
それこそ、カーリラが運転している車がこれから停車しようとしている場所の駐車場も例外ではなかった。日本にこんな建物があるなんて知らなかったと眩暈がしそうになった楯無。車から降りて事務所の中に入るや否やマドカの言葉通り建物の中までピンク色で言葉を失う。
「懐かしい?」
ラーズグリーズと肩を並んで歩くカーリラが話しかけると無言で頷いて反応してくれたからか、嬉しそうに微笑んだ。
「あの子じゃなくて貴方とこうして歩きたかったわ」
「・・・・・もう叶わない」
「それを決めつけるのは早いわよ?」
すると、同じ事務所に働いている男の職場の人が通路の向こうから歩いてきた。カーリラに気付き口を開いて声を掛けて来る。
「桐生さん・・・・・とその子は確か、ネットで有名な子ですよね?それに後ろの子は・・・・・あ、織斑マドカちゃんだったね?久しぶり、大きくなったね。お姉さんにそっくりだよ」
「お久しぶりです。姉に関しては遺憾ながらよく言われます」
顔を覚えられていたことに別段気にしていない様子で相槌を打つように返す。
「社長は何時もの部屋に?」
「ええ、そうですよ。ところでこの子、どこかで見た事があるような顔だけど・・・・・うーん」
ジッと記憶の中で誰かと似ていると引っ掛かって、思い出そうにも誰だかわからず首をひねって判らないでいる同僚にカーリラはラーズグリーズの頭を撫でながら言う。
「今日はこの子を社長に会わせたくて連れて来たんです」
「絶対に気に入りますよ?もし芸能界で働くことになったら織斑一誠君の再誕ですね。こんな可愛い子を放っておけないでしょうから、もっとこの事務所が賑やかになるでしょうねー」
じゃあーねと笑顔で手を振って去る男性に手を振って返すラーズグリーズ。
「当然ながらこの姿だと気付かないのだな」
「コスプレをした子供だと認識されるからね」
マドカの指摘に外見で判断してしまうのは仕方がないと風に述べるカーリラはまた歩きはじめる。ついていく楯無はマドカを見ながら先の会話を口にする。
「それにしてもマドカちゃんまで認知されていたなんて意外だわね?」
「織斑家全員の顔も覚えられているわよ?この子の働く様子を家族全員だったり個人だったり、この事務所に連絡して事前に見学する許可を貰ってよく同伴して見学するから」
それも三年前の話だけれど、と意味深に言った後は口を閉ざして最上階まで階段を上って、ピンク色に塗装され赤く塗られた大きなハートマークにピースの手が描かれた扉の部屋に近づく。カーリラはその扉に壁に備え付けられたインターネットで鳴らして来訪を教える。
「社長、桐生です」
『―――あら~ん?桐生ちゃ~ん?今日はお休みの筈だけれどどうしたのかしら?入って良いわよ~ん!』
「「「―――――」」」
野太い男の声が女口調で返ってきた。それだけでマドカの身体は鳥肌が立って楯無の後ろに隠れた。
「失礼します」
開け放った扉の向こうに足を踏み入れる彼女に続き楯無達も入る。案の定といったところか、この部屋―――社長室はどこもかしこもピンク一色で床は扉の絵と同じく描かれていた。そしてこの部屋の主は窓を背後にしてピンク色の木製の机の前でエクササイズをしていた。―――ガタイのいい筋骨隆々の大男の頭はピンク色のアフロ、動けば揺れるアフロのような同色の胸毛を晒してる上半身は裸、下半身はブーメランパンツのみといった姿で身体を動かしていた。彼のたらこ唇が蠢くように口を開く。
「あら、可愛いー子達を連れて来たのねって、あらん!そこにいるのはマドカちゃんじゃない!三年ぶりねー♪千冬ちゃんと同じ顔になって可愛く成長してたのねー♪」
「ヒッ!」
「(マドカちゃんが本気で怯えてる。ヒッ!って悲鳴を上げた・・・・・)」
生理的にも無理だ、と言った理由も理解した。楯無もこれは自分でもキツいと引き攣りそうな頬を何とか自制して堪えていた。
「それにその子!久々に私に衝撃を与えた今やネットで有名なアップルパイの子じゃないの!何々、桐生ちゃん。この子を紹介してくれるの?ここで働かす面接を設けたいのかしらん?だったら今すぐ準備に取り掛かるわよ!絶対に他のところには所属させたくないからねん!というか、面接何て無視して直ぐに採用しても構わないし!」
頭のアフロと胸毛を揺らしながら気味悪い動きをする社長に見慣れてるか、気にせずラーズグリーズのことを話し始めるカーリラ。
「その前に、この子のこと誰だかわかりますか?」
「うん?誰かって?」
じーっとラーズグリーズの顔を、位置を変えながら見つめる社長は不思議そうに述べた。
「あら、小さい頃の一誠ちゃんと同じ顔つきね?目の色は違うけれど間違いなくだわ」
「「っ!?」」
「その慧眼は感服します社長。―――では、元の姿に戻ってもらいましょうか」
というカーリラの言葉の深意を汲んで、元の姿と身長に戻るラーズグリーズを見て限界まで目を張った社長。そして次にまじまじとラーズグリーズの顔を見てまた驚いたように口にする・・・・・。
「一誠ちゃん・・・・・?違う一誠ちゃんじゃない本当の一誠ちゃん、そうよね?」
「「―――――」」
この奇人変人の社長の目は完璧にラーズグリーズのことを織斑一誠として認識した。気付いた。これにはマドカと楯無も心から驚いた。瓜二つな同じ顔の二人の内、社長はちゃんと区別して話しかけたのだ。
「・・・・・三年ぶりです。社長・・・・・」
深々と頭を垂らしてお辞儀するラーズグリーズを社長は感極まって抱きしめた。
「久しぶりじゃないわよーん!もう、今までどこで何をしていたの!ずっと心配していたんだからーん!」
「・・・・・すみません」
「ちがーう!帰ってきたのなら言うことはあるでしょう!」
社長はラーズグリーズの口からあの言葉を言わせたくて仕方がないと抱擁を解いて視線を合わせる。
ラーズグリーズは親みたいなことを言う社長に向かって静かに言った。
「・・・・・ただいま帰りました社長」
「はい、よろしい!」
力強くラーズグリーズの肩を叩く。それで満足した社長はカーリラに意識を向ける。
「本物の一誠ちゃんを見つけられたのね桐生ちゃん」
「はい、もっと早く教えるべきでした」
「タイミングとしては早くも遅くもないわ。偽の一誠ちゃんのことでマスコミが騒いでいるの。政府が裏で千冬ちゃん達を遺伝子操作で『究極の人間』を創造しようとした人工受精卵の織斑計画試作体の子だもの。こっちもそんな事情を抱えていた人間を働かせていたなんて知らなかったし、お互い困っちゃうわよね」
眉根を顰めて困ったように手を頬に添えながら溜息を吐いた社長。
「・・・・・織斑一誠・・・・・どうする気」
「それも困ってるのよ。あの子は本物の一誠ちゃんじゃないってことは私と桐生ちゃんだけの話で、他の皆には教えてないわ。混乱させてしまうだけだもの。だからIS学園に通っている間だけは助かってるわ。まったく政府の連中は余計なことをしてくれちゃって!」
ぷんぷん!と不機嫌な顔で頬を膨らませて怒る社長の顔は気持ち悪かった―――と口が裂けても言えない楯無の心情。
「本物の一誠ちゃんがやっと来てくれたのに残念だわ。今まで何が遭ったのか私にはわからないけれど、昔の太陽な一誠ちゃんと違って纏う雰囲気と表情にハイライトな瞳・・・・・漫画で例えるなら闇に堕ちたダーク主人公的な感じになっちゃってるわん」
「それはこの子の今の名前を聞けばすぐに察します」
「名前?織斑一誠ちゃんでしょ?」
自分が知っている人物の名を疑わず訊く社長にカーリラは首を横に振った。
「今はその名前も偽の子に奪われて違う名前で生きています。今のこの子の名前は―――織斑ラーズグリーズ・F・アヴェンジャー」
社長は言葉を失い愕然とした表情と共に限界まで見開いた目で凝視した。
「嘘・・・・・あの、ラーズグリーズ?非人道的な研究と実験でミイラみたいな身体になってたはずよね?」
「・・・・・治った」
「この子があのラーズグリーズであることは、この場に居る私達以外にも一部の者達だけが知っています」
「そう・・・・・ならこの子についての全ては墓まで持っていってあげるわ」
事情を察してからか、ラーズグリーズの味方になってくれた。感謝するカーリラだが申し訳なさそうに次の言葉を述べた。
「社長、こんな時に言うのも非常に申し訳ないですが退職させていただくことになるかもしれません」
「嘘っ!?どうしてん!?」
「今非常に厄介な事情を抱えていまして、というかこの子と一緒に生活したいのが大半の理由です。もうこの子に纏わりついている環境は人の道を外れているんです。私はそんな生活に放っておけないのでできれば傍にいて支えたいのです。まだその時ではありませんが」
突然のカミングアウトの発言に素っ頓狂に驚くも、社長は最後まで味方であった。
「・・・・・私と桐生ちゃん、そして一誠ちゃんと一緒にまだ小さかった事務所を立ち上げた時からの長い付き合いだったから辞めてるなんて寂しいわん」
「申し訳ございません・・・・・」
ばつ悪そうに頭を下げる彼女に向かって意味深に笑む社長。
「でも条件があるわ。その事情とやらが全部抱えずに済んだのならまた復職して貰うわん。勿論、一誠ちゃんもね?」
「・・・・・俺も?」
「当然じゃない♪ここに織斑一誠という人間がいるんだもの。あの時の約束を破るような子じゃないことを今でも信頼しているんだからね?勿論桐生ちゃんもよ」
「「・・・・・」」
三人の間で交わした約束―――。それを出されたカーリラとラーズグリーズは思わず顔を見合わせて見つめ合う。社長へ視線を戻す二人はそれぞれ同じ言葉を言い放った。
「社長、それは卑怯です」
「・・・・・卑怯、ずるい」
「ふふん、友達に対してこれぐらい丁度いいのよん♪」
してやったりと笑う社長に苦笑を浮かべるカーリラと口元を緩めて薄く笑うラーズグリーズ。
「・・・・・ありがとう、社長」
「私は何も感謝されることはしてないわよん?寧ろこれから一杯働いてもらうことになるから大変よ?」
「・・・・・そんな日が来ると・・・・・思うと・・・・・大変だな・・・・・」
「そうそう。だから何時までも友達として待ってるからねん?はい、約束」
小指を出して笑う社長にカーリラがその子指に小指で絡め二人はラーズグリーズを待つ。そんな二人に対してラーズグリーズは拒絶することもせず、ゆっくりと手を動かして二つの小指に小指で絡めて約束を交わし合った。
事務所を後に駐車場の中を歩くときマドカが口を開いた。
「兄さん、あんな約束をしていいのか」
「・・・・・多分、大丈夫?」
「疑問形なのはどうしてだ」
「・・・・・何とかなる・・・・・勘」
「だったら、何とかなるでしょうね」
「そうね。ハッピーエンドになるかもしれないわね」
カーリラとティアマトが知った風な口で肯定的に言う。マドカと楯無はそれを不思議そうに見ていた。
「・・・・・マドカ、学園の方は・・・・・」
「ルクーゼンブルク国の我儘王女に喧嘩を吹っ掛けられた。売られた喧嘩は買うつもりだがな」
「・・・・・遊びに行く」
=襲撃するという意味合いであることを察し楯無は警戒する。
「遊びに行くって、あなたの場合は突然の襲撃よ?また試合中に乱入してくるならこっちも容赦しないんだから」
「・・・・・楯無に対して・・・・・妹をダシにする」
「どうして簪ちゃんのことを持ち上げるのかなー?」
スマイル顔で訊く楯無に向かって指差すラーズグリーズ。
「・・・・・甘い、シスコン」
「シ、シスコンちゃうし!」
「「分かり易いな」」
「そこっ!兄妹揃って言わないの!」
車中でも楯無をからかう会話が続き、始終二人に翻弄されることをこの時の楯無はまだ気づいていなかった。そんな会話を聞きながらティアマトとカーリラも話をしながら帰宅する。
「おっかえりーらーくん。うーん?何かいいことでもあったのかなー?」
「・・・・・どうして?」
「ふふ、らーくんのことなら何でもお見通しなんだよー?」
帰ってきたラーズグリーズを見てニコニコと断言して言う束。特別嬉しそうに笑ったり喜んでいる顔をしていないのに、雰囲気もいつも通りの筈なのだが束は全てお見通しなのだろう。
「・・・・・束姉」
「なーに?」
「・・・・・全部終わらせる」
「そかそか。全部すっきりになるといいね」
「・・・・・うん」
それだけ言い残してジェイルの下へ足を運ぶ。宇宙で一人ぼっちだった彼女は完治しているのか少し気になって彼女がいる部屋へと入ると着替え中の少女と傍にいるウーノがいた。
「きゃっ!?」
「・・・・・治った?」
「ええ、ドクターが完璧に病巣プログラムを破壊したから日常生活を送れるわ」
「・・・・・IS学園、連れて行く・・・・・」
「この子の関係者がいるのね?」
頷くラーズグリーズは踵を返して部屋から出て行った。着替え終わるのを待つためだからだろう。裸を見られ硬直していた少女は自分の存在を認知しているのに『視られて』いない気がした。
「着替えなさい。貴女が帰るべき場所へあの子が連れて行ってくれるわ」
「は、はい」
楯無とマドカが学園に戻った途端だった。目の前に真紅の魔方陣が一つ浮かび上がった光景を目の当たりにした矢先に一人の少女が出現した。困惑気味の彼女から話を伺い、セシリアの関係者であることが判明、ラーズグリーズが件の少女を送ったことを悟り保護した。
同時刻―――。
「ここにいたか、見つけたぞ」
『クロウ・クルワッハ。やはりここへ現れたな』
「お前達を元の世界へ連れて行くのが目的の一つだ」
『元の世界へ帰還することは俺達にとっても宿願であった。戻れるなら素直に同行させてもらおう』
「殊勝な心掛けだな」
『―――だが、お前達はあの者を、ラーズグリーズをどうする気だ』
「こちらから何もする気はないが、向こうから仕掛けてくるというならば降りかかる火の粉を払うだけ、としか言えないな。取り敢えず私と来てもらおうか」
『その前にひとつ教えてもらうぞ。織斑一誠は復活したのか』
「・・・・・聖杯は揃った。記憶も確かに受け継いだ。だが、違和感を覚える。互いの距離感が一方的過ぎる感じがする」
『前世の我が主ではないからな。全てが以前のようにはならないのもメリアからそう聞いて百も承知のはずだ。違うか』
兵藤誠から話があると話を聞かされ指定された場所、夜中の無人のアリーナに足を運ぶ千冬。誰もいない客席に座る一人の男性のところへ近づき、立って見下ろす黒い瞳は誠の横顔を捉える。
「話とはなんだ」
「元の世界へ帰る前提で提案がある。というよりはお願いがある」
「叶えられる願いなどたかが知れている。異世界から来たあなた方の願いなど叶えられるか」
「なに、気持ちの問題だ。―――君はあの子の姉弟、家族なんだろ?」
あの子という単語。誰のことか・・・・・敢えてとある少年の名を口にする。
「・・・・・織斑一誠のことか」
「ああ、そうだ」
その名を聞いた瞬間。千冬は神妙な顔つきの表情をアリーナの広いグラウンドへ向け、誠の話に耳を傾ける。
「私の気持ちの問題とは何だ」
「あの子を元の世界へ連れて帰る。あの子の姉の君にその了承を欲しい」
「建前が欲しいわけか。どうせ私や奴の意思関係なく無理やり連れて帰るつもりだったんだろう」
「否定は難しいな・・・・・だけど筋を通して連れて帰りたいのが心情だ。だが、提案とは別の話だ」
なら何だと千冬の心情を読み取っているのかのように誠は口にする。
「あの子の家族として一緒に俺達の世界に来ないか?」
「・・・・・」
「俺は家族を引き離すような真似をしたくない。なら一家丸ごと異世界へ連れてくればあの子も心の拠り所があって安心すると思う。その為の援助は全力でしよう」
そうまでしようとするほどにラーズグリーズを執着する男に警戒を禁じ得なかった。これが彼なりの最善の手段、方法のつもりなのかもしれないが果たしてそれは最善と言えるべきなのか千冬は判断が難しかった。
「未知の世界に安全性があるとは到底思えんな」
「この世界とはほぼ一緒だ。地形も歴史も食文化も国も何もかもだ。ただ違いがあるとすればファンタジーの要素とISという機体の有無。直ぐに馴染めないだろうが直ぐに馴染んでくれる筈だ」
どっちなんだと怪訝、胡乱な視線を送る千冬を一切見ない誠。
「真面目な質問するけど、世界を滅ぼす家族がいたら君はその家族をどうする?」
「・・・・・」
「世界がその家族を敵対する。殺さなければ世界が滅んでしまうからだ。たった一人の家族がそんな存在になってしまったら君はどうする?―――世界で唯一その家族を殺すことができる最強の力を以ってして殺す?それとも世界を滅んでしまうことになっても家族を守り抜く?」
世界か、たった一人の家族か。数多の人類を殺して一人を救うか、一人を犠牲に数多を救うか。
「(この男はきっと・・・・・)」
予想したあと、千冬は
「家族を選ぶ。世界が滅んでも地球そのものが滅ぶことはないのだからな」
「・・・・・そうか」
満足のいく答えだったのか判らないが腰を上げて立ち上がる誠は、初めて千冬に振り返って微笑んだ。
「あの子の家族なだけあって真っ直ぐな答えが聞けて安心した。―――これで心置きなくできる」
意味深なことを告げる誠。一体何をするつもりなのだと警戒度を高めたところでいつの間にか気配を感じさせず千冬の真後ろに、佇んでいた白いローブで身に着ている男性が誠に報告をした。
「誠さん。。準備できました」
「始めてくれ」
「わかりました」
何をっ!と問い詰めようとした千冬より誠が先に動いていた。千冬の真後ろに瞬間移動して強めに彼女の首に手刀を叩き込んだ。
「―――――っ!?」
「俺の動きが見えなかった時点で、これが俺と君との実力の差だ。次に目を覚ました時は家族と皆で新居生活スタートをすることになっているだろう」
意識を失った千冬を男性に預けどこかへ共に足を運ぶ。
不意にマドカから連絡が入ってきたメロディが流れだした。携帯を手に取り通話状態にすると―――しばらくしてラーズグリーズは動き出した。
「話をしたいのだけれど、少しいいかしら」
「断る」
拒絶の言葉が開口一番で放たれた女子寮の食堂の中。マドカはそれを拒否した。いつもの面々で食事をしている時、紅髪の女性とその仲間たちが食堂に現れるや否やマドカ達の所に近づいて話しかけたのが始まりであった。
「あら、どうして?」
「あの愚兄を連れて行きたいならば勝手にすればいい。私は喜々として賛同するぞ」
彼女達の考えを察した風に述べるマドカを紅髪の女性は問うた。
「イッセーの家族でしょ?心配とか不安とかないのかしら?」
「家族・・・・・?ハッ、私はあんな男を家族として受け入れたわけでもないし認めたつもりもない。他の二人の愚兄はまだ受け入れるし認めるがな」
「・・・・・そこまで彼を毛嫌いする理由は何なの?」
「それ以前の話だ。赤の他人が私達の家庭の事情に首を突っ込んでくるな」
突き放す言い方で言葉を返し、相手に悟られず見られないよう携帯を取り出して操作し出すマドカ。ーーーが。マドカの携帯に机ごと剣で突き刺す金髪に泣きぼくろがある女性に妨害された。
「誰かに連絡をしようと無駄よ」
「・・・・・貴様らの目的は織斑一誠を元の世界へ連れて行くことなのだろう。私はあんな奴どうでもいいから、他の二人の愚兄や姉さんを説得して見せろ」
「勿論するつもりよ。だけど、勘違いしないで頂戴。あの子の家族である貴方達も私達の世界へ連れて行きたいと思うの」
その発言に、マドカは胡乱気な目となり話を聞いていた箒達は目を丸くして驚いた表情で紅髪の女性を見た。
「はぁっ!?一夏も連れて行くってどういうことよ!」
「そのままの意味よ。イッセーだけ元の世界へ連れて行けば二度と家族と会えない状態になってしまうわ。だから、そうならない処置として織斑千冬を始め、あの子の家族を全員、元の世界へ暮らしてもらおうと考えたの」
食って掛かる鈴に決定事項だとばかり告げられて、これには一夏と秋十も異を唱えだす。
「ちょ、待ってください!急にそんなこと言われても俺達は異世界のことなんて全く知らないんですよ!?」
「というか、俺達の意見とか人権なんて完全に無視してるよなそれ。第一、貴女が言った二度と家族と会えなくなるってのは、俺達からすれば一緒にこの学園で過ごした友人達とも二度と会えなくなるって道理だぞ。そっちの都合で俺達の人生を好き勝手にされるのはハッキリ言って迷惑だ。てか、そんな話を一誠にもしたのかよ。あいつには仕事だってあるんだぞ」
「重々承知しているわ。だけれど、私達もこの世界に長く居座れないの。イッセーが復活した以上は、元の世界で一緒に暮らしてほしいから」
「あの、アジ・ダハーカ達はどうするんですか?」
「それならもう手を打ったわ。アジ・ダハーカ達も元の世界へ帰郷する意を示してくれたから、もう世界に危険を脅かすことはないでしょうから安心して頂戴。それと、友人達と別れたくないならその友人達も一緒に連れて行きましょうか?それならお互い別れ離れせずにすむでしょう?」
「あのバケモノ共のことに関してだけは感謝するが、異世界へ行く気は更々無いぞ私達は」
「申し訳ないのだけれど、私達にも譲れないものがあるの。あの子の幸せのためには貴方達も必要なの」
「あいつの幸せ・・・・・?違うだろ、己の身勝手な我儘、自己満足の為に私達も巻き込もうとしているだけだ。織斑一誠に嫌われたくないがための、私達と言う緩衝材を用意しなくちゃならないからな。違うか?」
紅髪の女性の全身から紅のオーラが滲み出た。
「イッセーの妹、織斑マドカだったわね。いずれ義妹になるのだけれど、仲良くなろうとは?」
「ハッ、私が一番嫌いな女の特徴を教えてやろうか。―――肥え太った牛乳な女だ。蓄えた胸の脂肪で一体どのぐらい体重が増えるんだろうなぁ?(笑)」
「・・・・・そう、残念ね」
交渉決裂―――。剣吞な雰囲気となった場に警報が鳴り出した。専用機持ち達の通信チャンネルから真耶の焦燥の声が聞こえる。
『
「え、山田先生?」
「教官はどうしたのだ」
指令を出す人物ではないことに疑問を抱き、その疑問をぶつけたら・・・・・。
『それがさっきから姿を見当たらなく、連絡しても返答が・・・・・』
「・・・・・まさか」
何かに気付いたマドカは目の前の集団に睥睨した。
「姉さんに何かしたのか」
「何もしていないわ。ただ、眠ってもらっているだけよ」
『―――――っ!?』
「私達の話に応じなかったら、貴方達にも少しの間だけ眠ってもらうつもりだったわ。だけど、どうやらクロウ・クルワッハがアジ・ダハーカ達を連れて来たみたいね。魔の悪いことに・・・・・・」
次の瞬間、ラウラがテーブルを紅髪の女性の方へ強く蹴り飛ばした。テーブルは剣を持った金髪に泣きぼくろがある女性が斬って紅髪の女性を守った。その一瞬の間に全員は専用機を装着して臨戦態勢に入った。
「教官を返してもらうぞ貴様ら!」
「無理よ。そのISでは私達には勝てないわ。自分から動きを鈍らせているようなものよ?」
「だが、武装は負けているつもりはないぞ!」
「―――武装もよ」
そう言う紅髪の女性を始め、一斉にマドカ達へ肉薄しかかる異世界人達。マドカ達はその動きについていけず、そして食堂と言う制限された空間の中で十全も発揮できない、そして相手は生身の人間―――様々な結果が専用機たちの枷となってしまい、反応が遅れてしまった者も多々いて、そして自分の戦闘スタイルが露見されていることが大きな原因となり・・・・・。銃弾やブレードなど恐れもせず至近距離から攻撃を繰り出す相手にひとり、またひとりと倒されていった。
「ぐぁっ!」
「な、何なのよこいつら・・・・・」
「強すぎるじゃない・・・・・!」
「不可解な能力も使ってくる・・・・・っ」
無知ゆえに敗北は必須だった。魔法で拘束されている一夏、秋十、マドカに対して紅髪の女性は言う。
「仕方がないとは言え、アジ・ダハーカ達と対等に戦えない以上は私達にも負けてしまうわよ。私達は神とも戦う修羅場を潜ってきたのだから」
「神、だと・・・・・」
「ISを馬鹿にするわけじゃないけれど、相手が悪すぎたわね」
淡々と口にする相手から嘲笑も侮蔑もない。ただ、当然の結果を受け入れている感じなのがマドカを腹立たせた。このまま、異世界へ拉致・誘拐されてしまう恐れを抱くが黒い瞳にはまだ諦めの色が浮かんでいなかった。
「ハッ、相手が悪いならお前達にもいるだろう?」
「ええ、否定しないわ。だけど、お喋りは終わりよ」
専用機持ち達を囲むように展開する紅色の魔方陣。これで異世界へ送るつもりなのかと思考が過り、脳裏に思い浮かべる男の顔・・・・・。
「―――くっ、くくく・・・・・っ」
「・・・・・何がおかしいのかしら」
「いやなに、らしくもない考えをしてしまったものだと自虐していた。こんなピンチな時は必ずヒーローが現れてヒロインが助けられるというのをな。私は別にか弱くはないが、それでも一度ぐらいは体験したい女らしさがあるようだ」
と自嘲的な笑みで言うマドカに対して二人の兄は声を殺して信じられないと話し合っていた。
「聞いたか一夏。俺達を愚兄呼ばわりする怖い妹が女らしさがあるってよ」
「似合わねぇ、似合わねぇよ・・・・・」
「・・・・・貴様ら、あとでシバいてやるから覚悟しておけ」
鋭い眼光を二人に向かって睨みつけ黙らす。
「ヒーローね・・・・・今この状況を打破できる味方はいないでしょ」
「バカめ、元から私がお前達に本気で勝てるとは少しも思っていない。ならば、敵の敵は味方と言う―――他の所から助けを求めた。いずれ来てくれるだろう」
一体誰のこと―――と思い考えた紅髪の女性だが、時間が押していると考え直しマドカ達をどこかへ光に包ませながら消した後、自分達も追うようにして食堂から消えた。
無人のアリーナで誠達が集結していた。一同の傍や空中に
「遅れてしまい申し訳ございません。少々抵抗されてしまいました」
「まぁ、しょうがないことだ。抵抗されても仕方のないことだがどうしても必要だから後で罵声も非難も甘んじて受け入れるさ」
「ふざけるな!あんたらはそれだけで済むから大して申し訳なさも感じていないだろう!」
「今すぐ解放しなさい!」
「いやよ、異世界へ行くなんて!」
「聞いているのかおっさん!」
ギャーギャー!と騒ぎだてる少年少女達の傍には、彼女達と同じように捕まっている楯無やフォルテ、ダリル、ベルベット、グリフィンがいた。彼女達も抵抗を試みた様子だが一夏達と同じように敗北したようであった。千冬の姿も見受けてしまう。
「はっはっは、すげー嫌われようだ一香」
「仕方がないって言ったばかりでしょ?私達は誘拐染みた事をこれからしようとしているんだから」
「だよなー・・・・・。アジ・ダハーカ、クロウ・クルワッハ。ゾラードとステルスの方は?」
顔を見上げ話しかける誠は否と返すアジ・ダハーカの返事に耳を傾ける。
『探しているが最後まで姿を現さないどころか姿も見せない』
「そうか、仕方がないな」
夜天の空から銀と嵐が生徒と同僚を助けんと強襲を仕掛けるも、クロウ・クルワッハが迎撃に出てそれぞれ二人にワンパンで殴り倒して一夏達を唖然とさせた。
「こいつらも連れて行くか?」
「旅は道連れ世は情けだ。そうしよう。さて、そろそろ帰るとしようか。一誠」
話しかけられた織斑一誠は、不安そうな顔で捕まっているマドカ達を見て誠に振り返る。
「本当に大丈夫なんですか?」
「ああ、勿論だとも。全力で息子の家族と友人をサポートするし援助もする。安心してくれ」
「・・・・・なら、信頼します」
「おう!」
笑顔で頷く誠は一香に目を配り頷き合ってから空に向かって顔をあげた。
「―――原始龍、元の世界に繋げてくれ!」
高らかにそう告げた誠の言葉に呼応するかのように蒼夜の空に翡翠色の光が雪のように降っては、巨大な魔方陣が発現した。翡翠の魔方陣を見て誠達はアジ・ダハーカ達と一緒に宙に浮きだし、異世界へ繋がっている魔方陣に吸い込まれようとした。
「帰ったら一誠の復活の祝福パーティをしような!」
「楽しみね!・・・・・ただ、リーラがいないのは非常に惜しむわ」
「彼女が強くそう望んでしまったんだ・・・・・何が彼女をあそこまでさせたんだろうな」
長年共に過ごした家族が掛けてしまうことが残念極まりないと複雑な気持ちを抱く。ラーズグリーズという異常な人間に固執しているが、自分達が望む者がここにいるのに何でなんだと・・・・・未だその謎に苦悩している。仕方がない割り切るしかないと考えに至っと時、もう魔方陣とは目と鼻の先まで目前に迫って久しぶりに元の世界へ帰れると視界が翡翠色に染まり―――。誠達の真下から巨大な真紅の魔方陣が突如として出現し、眩い閃光と共にそれは現れた。
『オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッッッ!!!!!』
全長百メートルは優にある真紅のドラゴンがタイミングを計って狙っていたとばかり誠達の後を追いかける。
「なっ!」
「このタイミングでだと!?」
「不味いです、攻撃でもされたら二つの世界に干渉している空間魔法に影響が出ます!」
「とにかく迎撃を―――!」
「いや、もう間に合わん」
巨大で凶悪な牙の
「・・・・・え?」
「ちょ、これって・・・・・」
「食べられる・・・・・?」
一末の不安を抱く一夏達。迫りくる奈落の底を彷彿させる食道を見せる巨大な口が、悲鳴を上げる暇もなく捕らえられていた一夏達をバクンッ!とあと一歩届かずマドカ達が異世界へ繋がる翡翠の魔方陣の中へ消えて行ってしまった。
『ゥオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!!!!』
家族を連れ去られた怒りと悲しみの咆哮を世界に轟かせる。だが、その目はまだ諦めてはいなかった。
「おめでとうございます。形はどうであれ、貴方の望みは叶えられたでしょう。そして今度は私が叶える番ですね兵藤一誠。待っていますよ、貴方の物語は―――まだまだ続き私はそれを見るのが楽しみであり仕事ですからね」
カーリラに連絡を入れて秘密基地に足を運んでもらい、束とジェイル、カーリラにスコールに織斑千冬達が異世界に連れ去られたことを伝えるラーズグリーズ。
「ちーちゃんと箒ちゃん達が誘拐された―!?」
「一体なぜそのようなことを・・・・・」
悲鳴を上げる束と拉致・誘拐を行った兵藤誠達の思惑に考え込むカーリラ。
「ふむ、ISを欲していたのでは?」
「・・・・・あいつらはISを凌駕している実力者」
「本当かどうか知らないけれど、だとしてもこれからどうするつもりなのかしら?イマージュ・オリジス達もこの世界にいないのなら平和に戻ったのよねぇ?」
「世界の平和なんてクソッタレだよ!私の可愛い愛する妹とちーちゃんを連れ去った奴らを許せないし!」
「関係のない・・・・・いえ、織斑一誠の関係者として連れ去ったのなら辻褄が合うわね。でも、それはしていいことじゃないわ。こっちの都合何て完璧に無視しているのだから」
束とカーリラの許されないという気持ちは同感のつもりで首を縦に振るラーズグリーズは、提案する。
「・・・・・俺達も、奴らの世界に行く」
「異世界へ行くというのかい?その術がキミにあるのかい?」
「・・・・・試す」
そう言って天井を見上げると。
「―――転生を司るミカル。見ているなら俺の言葉に応えろ」
「・・・・・」
全てを悟ったカーリラも天井を見上げる。釣られて束やジェイルにスコールも上を見る。照明灯以外何も映らない視界・・・・・否。
『お久しぶりですね兵藤一誠。待っていましたよ』
この場に居る者以外の女性の声が全員の耳に入り込んできた。姿が見えない相手を肉眼で探そうと周囲を見回すも当然見つけれず。
「うんんんー?どこの誰だよ?」
「頭に直接声を聞かされているような・・・・・」
「不思議ね・・・・・・」
摩訶不思議な現象に三人が少し戸惑っている他所にラーズグリーズは語り掛け続けた。
「・・・・・俺達は準備が出来次第元の世界に帰る」
『それがあなたの望みなら叶えましょう。こちらの要望を形はどうであれ達成した貴方にその権利はあります。―――ですが、その願いで本当に構わないのですか?』
聞き返してきたミカルに誰もが不思議そうな顔をした。
『その願いですとこの世界に戻るつもりならば、二度と元の世界に戻れません。私が叶える願いは一度だけ。片道の一方通行になる願いをしないようにするべきですよ』
ミカルの指摘にラーズグリーズとカーリラは視線を絡み合わせる。たった一度だけの願い。十全が叶うような願いをするべきだと意思疎通する二人は頷き合った。
「・・・・・ミカル、協力して欲しい」
『願いは決まりましたか?』
「・・・・・今言った」
『・・・・・?』
顔が見えないミカルの表情は心底不思議そうにきょとんとしているに違いない。ラーズグリーズの願いは今言った。始めは理解できなかったミカルはカーリラの補足の説明でようやく悟った。
「転生を司るミカル。この子は言ったわ。貴方の協力が欲しいと」
『私に協力?一体その願いは何ですか?』
「そのままの意味よ。貴方の持ちうるすべての権利と力を使い私達の為に協力をすることが、私達の願いなの」
『―――――』
神の力を文字通り借りる。一時ではなく最初から最後までそんな願いをしてくるとはミカルも想像していなかった。露にも思わなかった。
「手始めに最初は―――――をさせてくれないかしら」
束とジェイルにスコールの耳を疑うようなカーリラの発言はミカルも問わずにはいられなかった。
『・・・・・何故ですか?』
「それを教えたら楽しみが減るわよ。いいの?」
『・・・・・』
「私達の願いを叶えてくれるなら、最初から最後まで協力して見届けるのが貴方の義務の筈よ。違うかしら」
沈黙を貫くミカル。返答を待っている間の部屋は静寂が漂い、これで拒絶をするようなら他の願いでいくしかないと思考が過った時だった。
『わかりました。私の想像通りの展開になるなら、一度は見てみたい物語になるでしょう。では、準備が整い次第もう一度お呼びください』
その声を最後にミカルの声が聞こえなくなり、ラーズグリーズが立ち上がったのでスコールが訊く。
「ラーズグリーズ、これからどうする気なのか教えてくれないかしら」
「・・・・・奴らの戦力はISを生身の身体で破壊できるぐらい強大。こっちも戦力を増やす」
「それが彼女の願いと関係していると?」
「ええ、成功すれば一方的な蹂躙となる結果になるわ。その為には説得が必要なのだけれどね。そして行動を起こす前に私達はこの世界と離れることになるから、引っ越しの準備をしなくちゃいけないわ。もしも皆もついてくる気があるなら今すぐ、一ヵ月以内に準備をしてね」
「ちーちゃん達がいない世界なんてつまらないから勿論らーくんと一緒に行くよ」
ジェイルとスコールも異論はない風に首肯した後に訊ねた。
「しかしどうして一ヶ月後なんだい?」
「・・・・・まだこの世界にイマージュ・オリジスが残っている。残りのドラゴン達を探す」
「まだ、いたの?」
目を丸くするスコールを気にせず、ティアマットを除く残り二体のドラゴン―――何故アジ・ダハーカ達の前に最後まで姿を見せなかったのかラーズグリーズは心中不思議に思った。
「(・・・・・見つけろってことか?)」
「束さん。可能な限りISの量産をお願いします。彼等のけん制が必要だから」
「はいはーい。ちーちゃん達を連れ戻すためならお安い御用だよー」
「成功したらきっと感謝されること間違いなしだからね」
「燃えて来たー!!!!!」
やる気を漲らせた束。それなら娘たちの調整を―――とジェイル。スコールは―――。
「異世界にまで連れ回すぐらいなら報酬を上乗せが欲しいわね」
と、当然のように要求する。でないとここで手を引くというスコールの思いを汲んだラーズグリーズは。
「・・・・・永遠の若さと不死」
「ふぅん。若さを保ったまま永遠に近く生き続けられるなんて、女性からすれば魅力的な事ね」
だが、それは現実的ではない。理想と幻想でしかない実現が不可能なことだと意味深に笑うスコールであるが、ジェイルが指摘した。
「君のISの能力だね?理を反転する『リヴァーサル』ならば死の運命を反転させれば一生死ぬことが無くなるし、老化を反転すれば永遠に若いままで生きられる。現段階で不老不死を体現が出来る能力を持っているのは君だけだ」
「・・・・・正解」
首肯するラーズグリーズ。それからスコールがすぐに電光石火の勢いで反応した。
「ラーズグリーズ、一生ついていくわ。お礼に私の身体を好きにしてもいいし貴方の子供だって作ってもいいわ」
「・・・・・言質取った」
「その言葉、保護しないでねスコール」
そんなこんなで、一同は準備を整え始めるのであった。その間、この世界に残っているイマージュ・オリジス達を探し―――見つけ出した。人間が到底自力では辿り着けない某山の頂の洞窟の中で二人の来訪者を出迎えた。
「久しぶりね。こんなところにいたとはあなたらしいわ」
「・・・・・どうしてアジ・ダハーカ達の前に現れなかった」
「復活したのならば、自力で見つけ出すのに訳もないであろう。ずっとお前からやってくるのを待っていた」
「理由になっていないわよ」
「・・・ふん。強いて言えばこの世界で転生した昔と違うお前の様子を観察したかった。時が来るまでな。アジ・ダハーカ達が予定とは違うことを仕出かしたが、それはそれでお前のことを知られると思っていたのだが―――アレはなんだ?」
「・・・・・聖杯は、誰にでも宿せば全員が全員どんな姿でも性別でも関係なく『俺』になってしまう。彼女と再会を果たしたことを知っているのは俺と彼女だけ。それ以外のお前達は知る由もない。だから・・・・・」
「奴らは大いに勘違いしていると・・・・・嘆かわしい」
「ええ、本当に。本当にね」
「・・・・・お前だけ最後までその姿勢を貫いてくれて助かったのと嬉しい」
「今回の計画は慎重に期す。だからその時が来るまで思い思いに待っていてくれと言ったのはお前だぞ。ニーズヘッグとの小競り合いで隕石を落とす力は異常だと思い、もう一人のお前の顔をした人間はいたがしばらく観察していたがな」
「・・・・・情けないだろ。無様だろ」
「同情はしない。お前には死んでも決して切れない縁と女が傍にいるからな。何時までも過去に未練で引きずるような男でもあるまい」
「・・・・・決別した。だから、また昔のように力を貸してほしい。ゾラード」
「ふっ、ようやく時が来たようだな。いいだろう。再び俺の力を貸してやる」
「残りはステルスね。探すのは骨が折れそう」
「奴なら問題ない。お前達が来る気配を感じ取ってから連絡をしてある。時機に来るだろう」
「・・・・・来た」
・・・・・。・・・・・。・・・・・。
・・・・・。・・・・・。
・・・・・。
―――――一ヶ月後。
「・・・・・準備は整った。ミカル、お願い」
『いいでしょう。ですが・・・・・ソレごとですか?』
「・・・・・ダメ?」
『いえ、今まで観て来た兵藤一誠とは色々と逸脱していてびっくりしました・・・・・何時の間に完成していたのですか?―――宇宙船なんて』
地上から一万メートルの空に浮かぶ超巨大なウサギ形の機械の船。船内のコックピット、操縦室でナンバーズ達が席に座って船の稼働を行っている様子を眼下で見渡せる。―――IS学園にいた山田真耶も協力を仰いで同席してもらっている中、豊満な胸を揺らしながら自慢げに語る束。
「ふっふーん!小っちゃい頃のらーくんが『宇宙船に乗って家族旅行したいなー』って可愛い願望を言ってたからこの天才束さんがらーくんと造ったんだよー!」
「脱帽ですよ束さん」
「・・・・・この船もIS」
「更に言えば、私の技術開発でこの船にもラーズグリーズのISの能力を使えるのだよ。ただし、ラーズグリーズが専用の指定位置にISと繋がっていなければならないがね。エクスカリバーの数百倍のレーザー攻撃や地球の天候を意図的に操れることも可能だ」
「うそ、でしょ・・・・・」
「おい、この船を動かせたらイマージュ・オリジス共も倒せたんじゃねぇのか」
オータムが話を聞いてそう指摘すれば、それは否だと否定する束。
「何言ってんのお前。ジェイルが備え付けた破壊兵器やらーくんの『リヴァーサル』の能力は最近完成したばかりなんだよ。それ以前にそんなものを付ける予定は全然なかったんだし」
「・・・・・ただの宇宙船のつもりで創った」
世界を破壊できる戦艦を創ったわけじゃないと束と一緒に否定したラーズグリーズ。今なら倒せるかもしれないが本来の用途ではないのだこの宇宙船は。
「ただの、ね。宇宙船がISなのならばもうただの宇宙船じゃないでしょうに」
「私とらーくんの愛の結晶に文句でもあるわけ?」
「驚きすぎるあまりに感嘆を超えて何とも言えない気持ちになっているだけです」
「話はその辺りで。ミカル、お願いするわ」
『わかりました。では―――良い旅を』
宇宙船全体が光り輝きだして、あっという間にこの世界から光と共に掻き消えた。次に一行を乗せた船は―――。
???
「大変。外に巨大な船が突然出現したわ!」
「何だそれ?」
平和な町に謎の巨大飛行物体が突如として出現した。直ぐに強者達は確認すると目を見開いた。
「なんだありゃあああああ!?」
「・・・・・ウサギ?」
「変な船ね・・・・・可愛いけど」
「調べに行くしかないですよね?」
「そうね―――!待って誰かが来るわ!」
空飛ぶ船から物凄い速さで降りてきて、地上から見上げていた強者達の前に現れては目を限界まで見開かせて驚かせた。
「嘘、これは一体どういうことなの?」
「この魔力と気配は・・・・・・」
舞い降りて来たパワード・スーツを纏う自分を見て絶句する彼等彼女等に、ラーズグリーズは言う。
「・・・・・初めまして。俺は別の次元の世界からやってきた並行世界の織斑ラーズグリーズ・F・アヴェンジャー。またの名を―――兵藤一誠だ」
「兵藤、一誠・・・・・!?」
「何ですって?その姿で一体何の冗談―――!」
「いや、冗談じゃないだろう。直感で悟ってるぞ俺は。こいつは似て異なる俺自身だってな」
男は驚いた表情から真剣な眼差しでラーズグリーズに問うた。
「別の世界から来た兵藤一誠。突然だが用があってきたようだな。目的は?」
「―――力を貸してほしい。俺の家族が連れ去られた。相手は世界そのもの。俺達だけじゃ、連れ戻せれない」
「家族が連れ去られた?どんな理由でだ?」
「・・・・・長い話になる」
「構わない構わない。俺自身からの頼みとあらばただ事じゃないだろうからな。協力の有無はそれからだ」
「・・・・船に招待する。全員でもいい」
「お、いいのか。んじゃちょっと待っててくれ」
その後、ラーズグリーズは船の中へ招いて事の詳細の説明を伝えた。招待された彼等は酷く驚き、男は何とも言えない顔でラーズグリーズの肩に手を置いた。
「そいつは・・・・・どんまいだな」
「・・・・・それだけで片づけられるのは止めて」
「ああ、ごめんな。なんだか俺以上に過酷な思いをして、最悪な展開になっているんだな並行世界のお前はよ。だけど、そうか・・・・・あながち世界が相手だってのは間違いないのか」
それでだ、と男は質問する。
「仮にお前に協力するとして、この世界に戻ってこられるのか?」
「・・・・・大丈夫。絶対に戻ってこられる」
「んー、そうか・・・・・じゃあ、俺一人でも協力してもいいぜ」
まずは『一人目』の協力者を得れて戦力を増やせた。
「よろしくな!」
「・・・・・ありがとう。ラーズグリーズと呼んでほしい」
「ああ、ややこしいか。そんで、今すぐに家族を連れ戻しに行くのか?」
「・・・・・まだ増やす。一方的な蹂躙を臨む」
「殺すなよ・・・・・?」
「・・・・・家族との縁は絶たれている状態」
「容赦なしか・・・・・俺もお前の過酷な経験を考慮して気を付けないといけないな」
『一人目』協力者とその家族の支度が整い次第、再び宇宙船が光と共に掻き消え―――。
???
「イッセー、空に変な船が浮かんでいるだそうだ」
「変なって俺の船・・・・・じゃないよな」
「うん、ウサギみたいな船だった。ここからでも見えるよ」
「・・・・・ウサギ?」
怪訝な話に作業をしていた手を止めた男性は腰を上げ、女性達と城の外へと赴いた。彼女達が見たウサギの空飛ぶ船を見て、彼女達と同じ気持ちになった。
「マジでウサギの船だ。ぶっちゃけ変なの」
「お前が造った―――」
「んなことするか!創るにしてもあんなお茶目なもんを創らないぞ!真面目に創るわ!」
「イッセー、誰かこっちに来る」
「は?―――待て、この魔力と気配は・・・・・」
船から現れた同じ顔を持つ飛行パワード・スーツで身体に身に装着する者が舞い降りてきて唖然とする。
「誰だ?」
「・・・・・初めまして、俺は織斑ラーズグリーズ・F・アヴェンジャー。本名は兵藤一誠」
「・・・・・違う俺か。まさかだと思うが、ミカルの仕業か?」
「・・・・・ミカルに協力してもらっている。この世界の兵藤一誠、力を貸してほしい」
「力を?何を言っているんだ。俺自身なら俺並みに強い筈・・・・・いや、どういうことだ?お前、一体何が遭った」
ラーズグリーズから何かを感じ取り、何かを気付いて問い質す。無言で見つめる少年に男性は親指で城の方へ差す。
「話は中で聞こう」
「・・・・・」
白亜の城の中へ招かれるラーズグリーズ。腰を落ち着けるLDKで席に座ってから説明すると、男性は深いため息を吐いた。同伴して聞いていた女性達もそれはないと顔を顰めた。
「はぁ~・・・・・それは最悪だなおい。俺もそんな状態と状況だったら心が折れる。マジでだ」
「・・・君は後悔しないの?ちゃんと顔を合わせて話をしていないんでしょう?」
「・・・・・真実を教えても今更。家族の絆を信じたのが駄目だった」
「例え見せれない顔でもちゃんと見せて話し合うべきだ。お前の家族も己の過ちに気付いて―――」
「・・・・・掌を反すような真似をされるぐらいなら真実を教えたくはない」
「・・・・・力を貸してほしい状況は理解した。だが、条件がある」
空気が重くなる前に条件を突き出す男性。その条件を聞いたラーズグリーズは、心底嫌そうに顔を顰めたが条件を呑めないなら協力はしないと意思を示す男性の態度。
「結果はどうなろうとお前は家族を連れ戻したいんだろ。違うか」
「・・・・・」
「お前は俺なんだろう?俺はお前だ。だからこそ根っこの部分だってわかってしまうんだよ」
男性は立ち上がって女性達に告げる。
「俺はこいつの結末を見届ける義務がある。俺と一緒に別の異世界へ行く物好きなやつは今すぐ支度して来い。多分、一週間やそこらじゃこの世界に戻ってこられないと思えよ」
「え、お店は!?」
「これから説明しに行く。いない間に足りなくなる食材も補充する。酒に関しては店の連中にも生産の方法を教えてるから問題はない筈だ」
女性達から用意周到過ぎる!とのお言葉を頂戴した男性は高らかに笑い、ラーズグリーズの協力に応えるべくその日の内に済ませるべきことを全て終わらせる。男性についていきたい、また誘われた者達を大勢引き連れて船の中へ招くラーズグリーズ。そして―――。
「お、並行世界の俺じゃん!」
「なんだ、俺以外にももう一人の俺がいるのか?・・・・・懐かしい家族が勢揃いで泣きそうだ」
「そっちはいないのか?」
「異世界のこの世界にトばされて離れ離れでいるんだよ俺は」
「え、なんでそうなってんの?」
「ふっ、いずれお前もそういう日が来ると思うぜ」
「・・・・・勘弁してほしいところだが、一先ず勝負しないか?」
「臨む所だ。言っとくが、俺はこの世界で新しい強さを得ているぜ」
並行世界の同じ者同士が船内のトレーニングルームへと足を運びながらラーズグリーズの腕を掴んで引きずっていく。少しして船全体が何度も激しい揺れが生じたのは言うまでもなかった。
???
ラーズグリーズはとあるマンションの中にいる者に協力を求めた。だが、三人目の者は他の二人とは明らかに異なっていた。
「・・・・・」
無言でパンばかりを食べ続け、ラーズグリーズの瞳と同じハイライト・・・・・生気の光が宿っていなかった。この者も自分と同じ過酷な人生を過ごしていたのだろうと悟って答えを待つも、一向に返答がない。
「・・・・・話を、協力を・・・・・」
「・・・・・」
どうすればいい?と同席している少年少女達に目を配らせた。一人の黒髪黒目の少年が教えてくれた。
「あー、この子は滅多に喋らないんだ。代わりに九桜って狐が話すんだ」
「・・・・・狐?」
「妾のことじゃ」
協力を求む男の後頭部から九つの尾を持つ狐が現れた。妖怪?いや、違う・・・・・。
「妾は九桜じゃ。この者の代わりに妾が聞こう」
「・・・・・俺と同じ、過酷な目に遭った?」
「この子の顔と同じお主と比べてもしょうがないこと。もはや変えられぬ過去の話をしても傷のなめ合いをするだけ。妾等に何を協力して欲しい?」
ようやく本題に入れたので同じ説明をする。他の二人はハッキリと反応をして協力してくれたが、このDという者は・・・・・。
「・・・・・」
無表情を貫いたまま。うんともすんともせず初めてラーズグリーズは反応に困った。
「ふむ、なるほどのぅ。それは災難という言葉で片づけられぬことじゃな」
「・・・・・」
「―――じゃが、それはそなたら家族の問題。そちらの別次元の世界の問題をこちらまで巻き込むでないわ。妾等の為にもならぬことに時間を割く暇もないのじゃ」
拒絶の言葉を突き付けられた。それでも特に残念がらないラーズグリーズは少年と九桜に頭を下げて船に戻ろうと―――。
「・・・・・異世界の兵藤一誠」
「D?」
ラーズグリーズの背中に向かって放った言葉は、滅多に喋らないというDの口から発せられたものであった。振り返りジッとこちらを見つめてくるDの視線を絡め合う。
「・・・・・顔、見たい」
「・・・・・」
突然の要望に逡巡するが、応じてフルフェイスマスクを外せばミイラの顏が晒される。当然の反応か、周囲の少年と少女達が目を限界まで見開いて悲鳴も上げた。信じられない者を見せられてもDは真っ直ぐ見つめ続けた。
「・・・・・。・・・・・わかった。・・・・・協力する」
そして、何を思って協力に応じたのか定かではなく、えっ!と驚愕する少年少女達を気にせず、Dは九桜を頭に載せたままラーズグリーズの傍に寄る。
「ちょ、ちょっと待って!そんないきなり勝手に決めちゃダメよ!総督に相談してからじゃないと!」
「今の話ならすべて筒抜けだぞ皆川夏梅」
焦った言動をする少女にダークカラーが強い銀髪の幼い少女が壁に背中を預けながら言う。彼女の肩に載っている白いドラゴンのようなぬいぐるみの口がぱかっと開きだす。
『まったく、珍妙なデカい船が突如現れたかと思えば別次元の兵藤一誠の家族問題を抱えてやってくるとはよ。一体どうなってんだお前さんとこはよ。その姿も含めてだ』
「・・・・・アザゼル」
『当然ながら知ってたか。しっかし、まさか異世界で転生を果たしては聖杯で完全なる復活を遂げようとする辺りは異常すぎる行動力だ。いずれうちのDもそんな変な行動力を身につけるんじゃねぇよな?』
「・・・・・クロウ・クルワッハとオーフィスがいる時点で確定」
はは、だよなー。と苦笑する笑い声が聞こえてくるが本人はどこにも見当たらない。
『Dの同伴についてだがな。興味を持っちまったんなら意地でもついて行くだろう。しょうがねぇから連れて行ってくれても構わねぇよ』
「総督!」
『落ち着け。既に全ての事件の騒動は終結して、これからはお前達の思い思いの生活を過ごせる状態なんだ。Dは大方ヴァーリとクロウ・クルワッハと戦闘や特訓だけの生活をする以外、パンを食べる生活を送る。だったら人助けをして少しでも人らしいことを身につけさせるのもいいんじゃねぇか?』
少女はぬいぐるみからの指摘に口を閉ざしてDを見つめる。―――意を決した瞳でDの手を掴んだ。
「心配だから私もついて行くわ。目を離すとDは何をしでかすか分かったものじゃないから」
「ふっ、異世界の私と戦える好機を見逃す私でもないぞ」
「クロウ・クルワッハに同意見だ」
黒と金が入り乱れた長髪と黒いコートの女性の不敵な笑みと発言に銀髪の少女も同感だと同行の意を示す。
『―――とまぁ、こんな感じで戦闘狂共がついて行く想像がついていたから驚かないわけだ』
「・・・・・戦力必要」
『どんだけお前の元の世界の奴等は強いんだ?いや、同じ世界の者がいるなら当然っちゃあ当然だろうけどよ。で、夏梅が行くとしてお前等は?』
それは他の少年少女達に向けられた言葉と言うことが察せれる。
「ヴァーちゃんが行くなら私も行くのです総督」
「異世界でもラードラがラーメンを食べに行きそうだぜ」
「はは、言えてるね」
「Dが心配だから俺も一緒に行くよ」
「私も」
「皆Dくんが好きだからね」
「異世界の我、会う」
「私もいるかな?」
全員、異世界に行くと意を告げるので総督は苦笑いを浮かべるだけだった。
『ラーズグリーズ。家族問題をしっかり解決して無事にそいつらをこの世界に送り届けてこいよ』
「・・・・・わかってる」
『三人目』の協力者も得た末に船の中へ招くと―――。
「おお、この世界の俺は・・・・・暗いな」
「ああ、暗いな」
「・・・・・違う」
「「?」」
「ふふ、異世界のクロウ・クルワッハよ。勝負をしよう」
「この様な機会はもう二度とないだろう。死力を尽くせる勝負が出来るなら喜んでやろう」
「異世界の白龍皇、ヴァーリ・ルシファー。私と勝負をしてくれ」
「ふっ、過去の私とご対面を果たすとは奇妙なことだな。だが、いいだろう。この戦いでお前が目指すべき強さを教え込んでやる」
「我、オーフィス」
「我もオーフィス」
???
『四人目』の協力者を求め異世界に転移してもらった。四度目の転移で騒がれるのはもちろんの事、直ぐに異世界の協力者と出会うことが叶った。今までは若い少年か青年の男性だったが、今回は三十代後半の協力者だった。その際、この世界の協力者の顔を見てみたいと九桜の代弁で『三人目』の協力者を同伴させたところで―――。
「・・・・・お前、九桜と一誠か?」
「・・・・・会えた・・・・・!」
「驚いた。こんなに早く会えるとはの・・・・・」
どうやらお互い知っている同じ者同士だったようで、協力を求める者に協力者が抱き着いて喜びを露にする。それから家に招かれ、同じ顔を持つ三人が珍しすぎると多くの女性達に見つめられたり触られたりされて話どころではなかったが、ようやく話が出来る状況になった頃だった。船から通信が入った。
『ラーズグリーズくん。そろそろお昼だけど戻ってこれる?』
「昼?まだ昼じゃないだろう?」
「・・・・・世界の時差が違う」
「ああ、そいうことか。じゃあ、食べ終わったらまた来てくれ―――と言いたいところだが船の中に案内は可能か?」
子供のようにうきうきと行ってみたい衝動に擽られている目の前の協力を求める者の問いを、肯定として答え宇宙船の中へと招いたのだった。
「四人目の兵藤一誠か!」
「こんにちは。今度は俺より少し老けてるのか・・・・・ん?この兵藤一誠って・・・・・」
「うおおおっ!?若い俺が二人もいる?どういう状況だよコレ!って、お前・・・・・もしかして」
「・・・・・知ってる?」
兵藤一誠同士が顔を見合わせ、違和感を覚えた。近づいてきたカーリラが『四人目』の協力を求める者を見て瞳を硬直した。
「貴方は・・・・・!」
「ん?誰だ?」
「・・・・・違う世界の者では、転生した私を感知できないみたいですね」
その場でターンをしたカーリラが魔法で別人に変身した。長い銀髪に琥珀の瞳、ナイトエプロンに紺のメイド服を身に包んだ姿になるとこれから『四人目』の協力を求める者が目を丸くした。
「んな、リーラ?今の姿は・・・・・」
「私は亡くなってしまった一誠様と転生しました。―――あの時助けていただいたというのに申し訳ございませんでした」
「俺が助けたリーラって・・・・・まさか、このラーズグリーズってやつは!」
ラーズグリーズに向かって酷く驚いたような顔で凝視する。
「・・・・・二人があれから何かの事件で死んだとしても納得は出来る。だけど、今回の件はどういうことなんだ。他の次元の俺達や家族を集めて、何をする気なんだ」
「・・・・・我が主がお食事をしている間に教えます」
そう言って落ち着いて話が出来る場所へ案内をするカーリラ。ラーズグリーズはそんな二人を見送り続けると協力者達に催促されたので踵を返す。カーリラは広い船内の中に畳がある室内で、これまでの事を全て打ち明ける。
「・・・・・そんなことが遭ったのか」
「私達は彼等のせいで連れ去られた者達を連れ戻したいためにこうして協力者を集めているのです。相手は世界そのものだと見据えて」
「・・・・・」
「我が主の心は壊れてしまいました。過去の家族に否定されこの世界の家族まで奪われたあの子は、連れ戻すことに躍起になっています。例えどれだけ自分が傷ついても決して止まらないでしょう」
愕然の表情で放心しかける協力を求める者は、天を仰ぐ顔に手で隠して何やっているんだあの人達は、と嘆きのため息を吐いた。
「関係の修復は」
「絶望的、でしょう。思い出も過去も、現在も別の者の存在によって塗り替えられてしまった」
ふかーい溜息を吐く。
「そりゃあ、同じ顔をしたやつがその場にいたら勘違いしてしまうだろうよ。だけど、そいつは偽者だってことを主張しなかったのか二人揃って」
「・・・・・私が私であることをあの二人は認知していました。目の前で聖杯を宿しても、一誠様が復活しても、外見で判断されました」
「聖杯で顔を元の状態に戻せれただろう。そうしなかったのはお前達の落ち度でもあるぞ」
「・・・・・それでも私達は強い絆を信じていました。人は外見ではなく中身だとあの二人が何度も一誠様に言いつけていたのですから」
苦い顔で吐露する彼女を男性は複雑極まりない表情を浮かべた。その気持ちは分からなくはないが実際に直面しないと本当にわかることが出来るのか不明なのだ。別の織斑一誠を初見で、鳥類の雛が最初に見た者が親だと認識、学習してしまうように勘違いをしてしまったのだろう。そして家族愛が、友愛が、情愛が、全ての愛が深く団結も高いほど己が愛した者が同じであると疑わず信用してしまう。―――愛とは状況が変わるとこんなに厄介なものになるのか、と男性は認識を改めらずにはいられなかった。
「失礼ながら、貴方もその目で判断できますか?目の前に同じ顔をしたオーフィス様が複数おり、この世界のオーフィス様を当てれますか?」
「・・・・・単刀直入に言わせてもらう。外見と魔力や言動が全て同じなら絶対に区別がつかない」
「・・・・・」
「だが、同じ時間を共有した俺とオーフィスにしか分からないことを一つずつ確かめれば直ぐにわかる。お前達はどうだ」
「私達の場合は、記憶も受け継がれてしまったので区別が判らない状態ですが何か」
男性は見ていられないと両手で顔を覆う。
「そうだった、厄介すぎるぞこれぇ・・・・・」
「全てを前世のままにするには聖杯に宿し、転生した我が主に再び宿すこそが当初の計画だったのです。それなのに・・・・・」
「世の中は簡単に事を運ばせてはくれなかったわけか。世知辛いなぁ・・・・・俺も気を付けなきゃいけないなこれはよ」
他人事じゃないカーリラ達の事情は、自分達に対する戒めにもなりうる。
「・・・・・そんな話を聞かされて協力しないなんて薄情な真似は出来ないな」
「では・・・・・」
「少しだけ時間をくれ、家族にも説明してくる。それが終わればこの世界からお前達の世界に転移しよう。大方、ミカルがこの世界にお前達を連れて来たのはそういう意味合いも含まれているだろうからな」
ならば、戦力を整える活動はこれで終わりなのかもしれない。立ち上がって魔法で移動しようとする男性を見て思うカーリラであったが、ふと気になる事を浮上したのか問われたのだった。
「そう言えば、連れ去られた連中がいるあっちの世界とこっちの世界の時差も違うんだよな」
「え・・・・・」
「もしかすると、お前達が幾つものの次元を飛び越えてきたから、これから行く並行世界の地球の時差はかなり進んでいると思うぞ」
これは急いだほうがいいかもしれない、と男性の指摘に自分達の見誤りに気付かされたカーリラはすぐさま行動に出た。