インフィニット・ストラトス~光に奪われし闇~   作:ダーク・シリウス

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転校生と宣戦布告

二度目の黒いIS―――男性操縦者による襲撃から幾日過ぎ六月が過ぎた。あの襲撃以降IS学園に現れなくなった。嵐前の静けさの感じがしてならないものの、一夏達は勉学を励むことを集中する他なく学生らしく授業を臨む。

 

「今日から本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもない者は、まあ下着で構わんだろう」

 

教師としてその発言はいかがだろうか。一夏達男組の存在を気にせずそうしろという千冬の言葉に神妙な面持ちとなった。

 

「では山田先生、ホームルームを」

 

「は、はいっ」

 

連絡事項を言い終えた千冬が山田先生と呼んだ緑の髪に眼鏡を掛けた女性、山田真耶に交代する。ちょうど一誠達の言葉のやり取りを見ていたらしく、声をかけられ赤面した顔で慌てる姿がわたわたとしている子犬のようだった。山田先生が説明口調で語りだしていた。

 

「ええとですね、今日は何と転校生を紹介します!しかも二名です!」

 

「え・・・・・」

 

「「「えええええええっ!?」」」

 

いきなり転校生紹介にクラス中が一気にざわつく。教室のドアが開いた。

 

「失礼します」

 

「・・・・・」

 

クラスに入ってきた二人の転校生を見て、ざわめきがピタリと止まる。それは必然的だろう。何故なら、その内の一人が―――男だったのだから。

 

「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れな事も多いかと思いますが、皆さんよろしくお願いします」

 

転校生の一人、黄金色の髪を首の後ろで丁寧に束ねている華奢な体、貴公子然とした感じのシャルルはにこやかな顔でそう告げて一礼する。一夏達が呆気に取られていると、女子達は黄色い歓喜の声を教室中に轟かせた。それに対して。

 

「挨拶しろ、ラウラ」

 

「・・・・・」

 

千冬に催促されたもう一人の転校生は、見た目からしてかなりの異端であった。輝くような銀髪。ともすれば白に近いそれを、腰近くまで長くおろしている。奇麗ではあるが整えている風はなく、ただ伸ばしっぱなしという印象のそれ。そして左目に眼帯。医療用のものではない、正真正銘の黒眼帯。そして開いている方の右目は赤色を宿しているが、その温度は限りなくゼロに近い。印象は言うまでもなく『軍人』。身長はシャルルと比べて明らかに小さいが、その全身から放つ冷たく鋭い気配がまるで同じ背丈であるかのように見るものに感じさせていた。ラウラ、と名を言われた本人は未だに口を開かず、腕組をした状態で教室の女子達を下らなさそうに見ながらも千冬を幼くした顔を持つマドカを見つめた後は、「おい」と話しかけてた千冬に視線を向ける。

 

「転校初日から私の言葉を無視するとは言い度胸だなラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

銀髪の頭にパアンと出席簿が鋭く叩かれ、うわ、痛そうと他方から同情の眼差しが向けられる。

 

「ではHRを終わる。各人は直ぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は2組と合同でIS模擬戦闘を行う。それと織斑兄弟、五反田、御手洗。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だからな」

 

解散!と千冬の号令で生徒達は各々と準備に取り掛かる。男子は空いているアリーナへ向かう最中、フランスから来た男を見ようと群がる女子達と鉢合わせし、道を阻まれようと何とか向かうのだった。

  

それから第二グラウンドは二クラス四十人+遅れて千冬の叱咤を受けた男子四人が集まったところで格闘及び射撃を含む実戦訓練が始まろうとしていた。最初はそのお手本として専用機持ちが―――。

 

「凰、オルコット」

 

「なんでよっ!」

 

「な、なぜわたくしまで!?」

 

「織斑より経験を積んでいる専用機持ちはすぐに始められるからだ。さっさと準備しろ」

 

「「えー」」と嫌々や渋る二人にやる気を出させる魔法の言葉でその気にさせた。

 

「一夏に良いところを見せるチャンスだぞ」

 

「しょーがないわねっ!さぁ誰かしら、相手になってあげるわよ?」

 

「見世物の感じで気が進まないのですが、わたくしセシリア・オルコットの華麗な戦いを皆さんにご披露して差し上げるのも、代表候補生の勤めでもありますわね!」

 

手のひらを返すようにISを装着してやる気を見せる二人が相手をするのは一体誰だろうという話になったとき。一夏達の上空から悲鳴が聞こえてきた。皆、空を見上げるその視界にISを纏う山田真耶が、IS学園の教師が体勢を崩し第二グラウンドへ墜落する勢いで、気付けば一夏達のところへ落ちてきた。

 

ズドォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!!!!!

 

所変わって某所軍ISが保有されている日本基地。蒼穹の空に黒煙が天まで伸びるほどの爆発と火災が発生していた。基地にいた自衛隊達は襲撃者に対して迎撃の態勢で迎え撃っていたが、相手がISでは白兵戦で使用される重火器では通用せずに蹂躙される。燃え盛る炎に照らされる黒色の装甲は橙色に染まり、軍用ISのパイロットと戦闘を繰り広げた。一夏によって切り落とされたはずの腕は義手を施され前のように二本の腕でブレードを振るい、最後の機体を切り捨て轟沈させた。程なくして黒いISに従順な無数のISが近づいてきては女性操縦者を立ち上がらせた。

 

「ぐっ・・・貴様、これは国家反逆罪に値するぞ。自分が一体何をしているのか、わかっているのかっ」

 

返す言葉を送らず、黙々と軍用ISからコアを奪い取る。コアを手にすればもう用はないと飛翔。空からIS学園の遮断シールドを貫いたエネルギーによる射撃をして基地を再起不能レベルまで破壊しつくす。さらに破壊された基地からは数機の無人(・・)ISが飛んできた。その腕の中には銀髪の目を閉じている少女を抱えていて、バックも抱えてた。少女に奪ったコアを渡すとバックの中に奪ってきたISのコアと一緒に収めてもらった。

 

「基地の中にあったコアはこれで全部ですね。戻りましょう」

 

空の彼方へと消えていく複数のIS。その日、基地が何者かの襲撃によって基地に保有していたISコアが全て奪取された事実は、政府や国防総省、IS委員会にも知れ渡り日本は水面下で激しい動揺と衝撃を受けたのだった。その事件はIS学園にも伝わる・・・・・。

 

「・・・・・しばらく息を潜めていたのは、コアの強奪をするため、だったのでしょうか」

 

事件の経緯の報告を受けて可能性を挙げる真耶。当の本人しかわからないことを自分達が分かるはずもないと千冬は肯定も否定もしない。

 

「わからない・・・・・一体何を考えて基地襲撃などしたのか・・・・・」

 

「他にも同時多発で軍事基地やISを保管・保有している場所に襲撃しているみたいで、彼以外にも複数の仲間がいると思われます。そうではない可能性もありますが」

 

「・・・・・日本から軍事力を奪うつもりか。その先に何らかの目的があるのだとすれば」

 

「想像したくはないのですが・・・・・日本そのものを相手にしているのかもしれません」

 

日本を敵に回す―――政府も敵として見定めているのだとすれば、政府に恨みある行為だと予測できる。だが本当にわからない。今の自分には、あの者の考えていることが理解できない。何に駆り立てられているのか千冬は苦悩する。

 

 

「喜べ愚兄ども。色々と消費と犠牲を果たしたことで優秀なコーチとしばらく特訓や訓練ができるぞ。後日倍返ししてもらう分、しっかり学び身に着けていくぞ。いいな」

 

「「「「「ありがとうございます。マドカ様・・・・・!」」」」」

 

同時刻シャルルとラウラが転校してきてから数日が経って、今日は土曜日。IS学園では土曜日の午前は理論学習、午後は完全に自由時間になっている。とはいえ土曜日はアリーナが全開放なのでほとんどの生徒が実習に使う。それは一夏達も同じで、本日はマドカが言った通り三人の上級性が四人の前に立っていた。

 

「フォルテとデートをしようって思ってたんだが、会長から頼まれたのもあって織斑先生の妹にも特訓を求められちゃしょうがねーな」

 

「いいじゃないっスか。後輩が手配してくれた数日間の旅行ができるんっスよ?私は物凄くやる気があるっス」

 

「ったく・・・フォルテがそこまでやる気が湧いちゃってるんじゃオレもやる気出さなきゃだめじゃんかよ」

 

三年生ダリル・ケイシー。ポニーテール。うなじで束ねた(ホーステール)金髪で長身は高め、背筋もしっかりしているので、余計に大きく見える。自己主張が激しいのは身長だけでなく、ISスーツで身に包み腕組の上に重たそうに乗っているFカップの膨らみだ。もう一人は二年生のフォルテ・サファイア。特徴的な口調でマイペースな感じであるがマドカが自腹で提供した旅行チケットによってやる気を漲らせていた。整っているとは言い難い長い髪を、太い三つ編みにして首に巻いているのが特徴だった。体躯は平均よりも小さめだが、猫背の姿勢で座っていたらますますシルエットを小さなものにしていただろう。最後の一人は言わずとも二年生の更識楯無であった。

 

「旅行ってどこの?」

 

「前から日本の温泉に興味があったんっス。だからコーチをする条件に良い温泉がある旅館の宿泊費用を負担することを約束してもらったっス」

 

「・・・・・ということだ。さっさとしよう。時間は有限だ。一秒でも時間を無駄にしたくない」

 

因みに、マドカがこの三人をコーチとして仰ぐより前にいた自称コーチ(箒・鈴・セシリア)達はすっごく不満げな顔をしていた。それもそのはず・・・・・。

 

『こう、ずばーっとやってから、がきんっ!どかんっ!という感じだ』

 

『なんとなくわかるでしょ?感覚よ感覚。・・・・・はあ?なんでわかんないのよ』

 

『防衛の時は右半身を斜め上前方へ五度傾けて、回避の時は後方へ二十度反転ですわ』

 

それを直で言われたマドカが。

 

『やはり小学生から人を教えるという勉強を学び直してこい。まともに教えるようになるまで一切の口出しは許さん。破ったら卒業するまでお前のこと「素人箒」と呼び続けるからな』

 

『何でもかんでも「なんとなく」とか「感覚」で人生を生き抜くつもりでいるなら、まるで原始人と変わりないな。もっと人に教えるという事はどういうことなのか、教え方が幼稚すぎる篠ノ之と小学生から出直してこい』

 

『理解はできなくないが、細かすぎる。私はともかく愚兄たちがお前の頭脳と思考を着いていけるレベルじゃないんだ。小さな子供でももっとわかりやすい教え方をしろ。自称エリート』

 

と、毒も含めて三人のコーチの申し出を断固拒否した故に、激しい出費をせざるを得なかった。

 

「それじゃ、早速特訓をしましょうかしらね」

 

「はい、よろしくお願いします。でも、先輩が言ってた頼みってどういうことです?」

 

「あの黒いISの襲撃が二度も起きたからね。目的不明だし、こうしてアリーナで練習をしていたらまた現れる可能性が高いと私や織斑先生が判断したのよ。で、また現れるようなら専用機持ち全員で相手して捕まえるってわけ。シャルル君も転校してきたばかりで申し訳ないけど協力してね?」

 

オレンジ色のカラーで塗装されたIS『ラファール・リヴァイブ』を装着するシャルル・デュノアも一夏達といて、更識からのお願いに異論はないと首肯した。そして始まる上級生達による特訓や訓練は、格段に一夏達の身になるようなものであって、高評価だった。自称コーチ達と違って。

 

「ねえ、あれっ」

 

アリーナの雰囲気が変わった。一夏達以外にも他に実習していた生徒達がおり、何か見て気付いた様子でピットから姿を晒す黒いISと銀髪の操縦者を見上げる。

 

「ドイツの第三世代型のIS!?」

 

「まだ本国じゃトライアル段階だって聞いたんだけど」

 

異様なざわめきが立つ中で銀髪の少女ラウラ・ボーデヴィッヒは鋭く一誠をにらんだ後、不敵な物言いで一夏を話し掛けた。

 

「貴様も専用機を持っているとは好都合だ。専用機同士の戦いならば持っていないそいつより少しはまともな戦いになるだろう。織斑一夏、織斑一誠の代わりに私と戦え」

 

「イヤだ。戦う理由がねぇよ」

 

「貴様にはなくても私にはある」

 

一夏と秋十に一誠、そしてマドカはどうしてラウラがそこまで固執するのか直ぐに一つしか思いつかなかった。忘れもしない事件が遭ったのだ。第二回IS世界大会『モンド・グロッソ』の決勝戦でのことだ。千冬が出る決勝戦のその日に一誠が何者かに誘拐されたのだ。千冬はその報告を受け、決勝戦を辞退してまで家族を、一誠を救ったが、事件発生時に独自の情報網から一誠の監禁場所に関する情報を入手していたドイツ軍関係者は全容を大体把握している。そして千冬はそのドイツ軍からの情報によって一誠を助けたという『借り』があったため、大会終了後に一年ちょっとドイツ軍IS部隊で教官をしていた。その頃にラウラと出会っていたのだろうと一夏達は推測する。

 

「織斑一誠。貴様がいなければ教官が大会二連覇の偉業を成しえただろうことは容易に想像できる。だから、私は貴様を―――貴様の存在を認めない」

 

・・・・・ということらしい。千冬の教え子という事以上に、その強さに惚れ込んでいるのだろう。だから、千冬の経歴に傷をつけた一誠が憎い、と。

 

「・・・・・もう過ぎたことを掘り返して、お前に言われる筋合いはないぞラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

「千冬姉さんに尊敬する余りに俺を憎むのはお門違いだ。あれは俺達家族の問題だったんだ」

 

「愚兄に同感だな。あの姉も人の情を捨て切れない面があった。完璧に思われてた者は実際完璧ではなかっただけのことだ。家族の問題に赤の他人の貴様にとやかく言う資格は何一つない」

 

訊き捨てにならないとばかりに、秋十と一誠にマドカがラウラを見上げながら言い返す。ふんと鼻で笑うラウラは見下す目で二人に言い返す。

 

「教官の家族というものだからどんな者達なのかと思えば、教官の足元にも及ばない弱者共と教官の面をした偽物。本当に貴様らは教官の家族とは思えない弱さと無能だな。特に織斑マドカ。お前は教官と違ってまさにそうだ。他者に協力を求めるのは群れる狼のようだ。群れなければ借りができない弱さの証だ」 

 

ここでマドカが初めて憤怒で顔を歪め、睨みで人を殺せそうな目で射抜く視線にラウラは涼しげな顔で受け流す。

 

「私は姉さんではない。私はマドカだ、あの人と一緒にするなっ!!!」

 

「下らないプライドで教官を否定するとは見下げた存在だ。その顔に傷を付ければお前の望み通りになるぞ」

 

嘲笑うかのように侮蔑するラウラに親の仇を見るような目で睨みつける織斑家。格下として見下ろすラウラと第一印象が最悪で仲良くなれそうにないムカつく相手を見上げる一夏達の間で一触即発だった中。

 

アリーナ上空から猛スピードで降下してくる、もう一機の黒いIS(・・・・・・・・・)の登場に専用機持ちの全員が示し合わせたように臨戦態勢に入った。

 

「報告にあったISか。丁度いい。この私とシュヴァルツェア・レーゲンの強さを見せつけてやろう」

 

好戦的に迎え撃つラウラ。が、敵ISは真っ直ぐマドカの前で静止してから地面に降り立つ。専用機持ちは彼女に何かするつもりなのかとISを装着して成り行きを見守る。

 

「・・・・・」

 

敵に囲まれようとお構いなしに襲ってくる感じでも捕まえる気も感じない相手に、マドカは胡乱気に敵ISが手を動かし掌にある黒と白のリングのネックレスを見せつけられた。

 

「・・・・・私にか」

 

可能性として渡しに来たのかと込めて言外すると、小さく敵ISは頷いた。何か仕掛けられている物かもしれないが、試してから破棄すればいい考えで受け取った。受け取りを確認した敵ISが彼女の前で空中投影、『専用機』の情報を閲覧させた。

 

「『黒騎士』・・・・・私の専用機」

 

予想外な相手から与えられた唯一無二の自分の専用機。これを届けに現れた敵ISはマドカから距離を置き何かを待つ風に佇む。一同はマドカに視線を向けるように意識し、彼女が自分のISを展開した。

 

「ふっ、ははは・・・・・これが私の力・・・・・っ!」

 

第三世代型IS『黒騎士』。展開稼働する高出力三対六枚の濡羽色の大型のウイング・スラスターは瞬時加速(イグニッション・ブースト)中に小回りができるよう設計されており、高機動の近接型ISとして開発された。武装は大型バスター・ソード『フェンリル・ブロウ』、射撃武器はエネルギー弾と実弾を組み合わせた腕部ガトリングガン。腰に2基のランサー・ビット。

 

力が溢れてくるような高揚感を覚え笑うマドカ。手を強く握り敵ISへ戦意の眼差しを送った。

 

「私にISを渡した理由はわからないが、黒騎士の性能を試させてもらおうか」

 

敵ISは異論ないと赤黒いブレードを構えるが楯無が待ったの制止と二人の間に割って入った。

 

「貴方、彼女にISを渡して何を企んでいるのかしら?これ以上の事は私を通してからにしてちょうだい。それとも前回の続きでもしたい?」

 

あの時とは違い、今回は上級生の二人もいる。性能と武装は未だ把握できていないが十分な程に戦力は整っていると自負する。楯無はランスを突き付けながら不敵な物言いを述べると敵ISは真後ろからロックオンを受けた。振り返ればラウラが傲岸不遜に右肩部のリボルバーカノンを構えていた。

 

「話は終わったな?ならば私と戦ってもらおうか」

 

「・・・・・」

 

「待ち―――」

 

楯無の制止など聞く耳を持っておらず装填を終えたリボルバーカノンから口径88mmの実弾が射出され、真っ直ぐ敵ISに向かった。避ける素振りもせずブレードを両手で持ち鋭く上段から振り下ろし―――実弾を両断するという技を披露したのだった。それだけでなくブレードから放たれた飛ぶエネルギー刃がラウラのところまで届いた。かわした彼女の懐に敵ISは飛び込み攻撃を仕掛ける。

 

「・・・・・今、斬りやがったな」

 

「アレをっすか!?避けることも防ぐことができても斬るなんて芸当は至難の業っすよ?」

 

「それをしてみせた証拠があるんだ。敵ながら強ぇーな、ブリュンヒルデ・・・織斑千冬を見ている気分だぜ」

 

把握したダリルと彼女の言葉に驚くフォルテが主に接近して格闘術で挑む敵ISから距離を置いて、両肩や腰部左右から三次元躍動するワイヤーブレード六つで牽制攻撃する。四肢を拘束し動きを封じる意図であろうラウラだが・・・・・一刀両断され、軽々とかわされて中距離からは八つのビットからのビームを受ける。片手を突き出し、敵ISかビームを何等かの能力で止めるもの一点しか止められないことと、意識を集中しなければならない欠点があることに気付いたかそこを狙って猛攻、ラウラは防戦一方だ。

 

「あのクソ女、押されっぱなしじゃないか」

 

「一点に攻撃していないからでしょうね。そしてボーデヴィッヒちゃんを中心に速度を維持して円を描いて回り続けてる。隙を見せるならば一気に瞬時加速(イグニッション・ブースト)で斬り込む。代表操縦者並みの動きをしている」

 

嘲笑うマドカに楯無が上空の二人のそれぞれの動きを説明口調で語る。

 

「しかも、私が見たもう一つのISを装着していないのだから本気じゃないのかも」

 

淡々と語る楯無の目には四方八方からのビームをかわし、焦燥に駆られて顔を歪ませてるラウラと対極的にビットを駆使して確実に一撃を入れる敵IS。

 

二人の決着は程なくして終わった。ラウラの真後ろに移動し羽交い絞めした敵ISは遥か上空に飛んでから一気に急降下、アリーナの地面に叩きつけようとするその行為に楯無達は気づき慌てて敵ISを止めようとするがもはや遅く二人一緒に地面に墜ちた。

 

 

土煙がたちこもる目の前を眺めるしかできないでいる少年少女達は気を取り直して煙の中から現れた敵ISに警戒する中、土煙で覆われ叩きつけられてできた凹んだクレーターにラウラの体と機体は仰向け状態になっていた。まるで目の前が真っ暗のように太陽の光を遮断され、敗者の末路のごとく戦闘不能の一歩手前まで攻撃を受けた機体は紫電が走り、IS強制解除の兆候を見せ始める。

 

「(こんな・・・・・こんなところで・・・・・負けるのか、私は・・・・・!)」

 

確かに相手の力量を見誤った。それは間違えようのないミスだ。しかし、それでも―――。

 

「(私は負けるわけにはいかない・・・・・!敗北させると決めたのだ。あれを、あの男を、私の力で勝ってやると!)」

 

ならば―――こんなところで負けるわけにはいかない。あの黒いISは、あれは。まだ動いているのだ。動かなくなるまで、徹底的に壊さなくてはならない。そうだ。そのためには―――渇望するラウラの想いは―――

 

『―――願うか・・・・・?何時、自らの変革を臨むか・・・・・?より強い力を欲するか・・・・?』

 

「無様だな。それでもなお立ち上がるなら一興として力を与えよう」

 

足音を立たせて近付く影と無機質な声がラウラの気持ちを読んだ口振りで問うた。入り交じる声に疑問を持つ前に願ってしまう。

 

言うまでもない。

 

「力があるなら、それを得られるのなら」

 

私など―――空っぽの私など、何から何までくれてやる!

 

「だから、力を・・・・・比類なき最強を、唯一無二の絶対を―――私によこせ!」

 

「―――――いいだろう、我が主の為に働くがいい」

 

影は小さく口元を緩め、徐に何かを持っている手を掲げた矢先、光が迸った。

 

 

 

「あああああああああ!!!!」

 

土煙からラウラの身を裂かんばかりの絶叫が聞こえてきた。と同時に土煙が吹き飛んで姿を見せるシュヴァルツェア・レーゲンから激しい電撃が放たれ、一夏達の体が吹き飛ばされた。

 

「なっ!?」

 

一夏と秋十も目を疑った。その視線の先では、ラウラが・・・・・そのISが変形していた。いや、変形などという生易しいものではなかった。装甲を象っていた線は全てぐにゃりと溶け、どろどろのものになってラウラの全身を包み込んでいく。黒い、深く濁った闇が、シュヴァルツェア・レーゲンだったものがラウラの全身を包み込むと、その表面を流動させながらまるで心臓の鼓動のように脈動を繰り返し、やがて倍速再生を見ているかのようにいきなり高速で全身を変化、変形させていく。

 

そしてそこに立っていたのは、長い鎌首に四肢の体。背中に身の丈を大きく超える一対の翼に長い尾。首から上は爬虫類の蛇やトカゲを彷彿させる頭部で瞼が開くとラインアイ・センサーなのか、赤い光を漏らしていた。

 

「IS・・・・・か?」

 

「ラウラは無事なのか・・・・・?」

 

変わり果てたシュヴァルツェア・レーゲンは鎌首を動かして状況を把握、確認するその動きは意思を持っているかのようだった。そして赤い双眸は黒い敵ISを視界に入れるや否や、顎を大きく開き―――灼熱の炎を吐きだす。

 

直撃すればタダでは済まない火炎攻撃をかわし、真っ直ぐ音速を越えた速度で擦れ違いざまに鎌首を斬り落とす。だが、断面が盛り上がって頭部が再生すると再び火炎を吐き出した。敵ISは考える。ならば中にいる少女を引き摺りだせば終わるかと。

 

「・・・・・」

 

敵ISはもう一つのISを展開・装着して敵ISが一瞬で『分裂』した。それもアリーナを覆う程の量だ。

 

『!?』

 

シュヴァルツェア・レーゲンは驚いたように首を動かし周囲に目を配った。それは一夏達もそうでハイパーセンサーを確認すると全てに反応を示していた。全て反応しまえば、本物がどれなのか探しようがない。

 

「ちょ、何よアレ!?」

 

「まさかあれは、唯一仕様(ワンオフ・アビリティー)ですの?」

 

一夏は素朴な質問をシャルルへ問うた。

 

「ワンオフ・アビリティー・・・・・えーと、なんだっけ?」

 

「言葉通り、唯一仕様(ワンオフ)特殊才能(アビリティー)だよ。各ISが操従者と最高状態の相性になった時に自然発生する能力のこと。そしてそれは第二形態(セカンド・フォーム)から発現するものだから、発現しない機体の方が圧倒的に多いんだ。だからそれ以外の特殊能力を複数の人間が使えるようにしたのが第三世代型IS。オルコットさんのブルー・ティアーズと凰さんの衝撃砲がそうだよ」

 

「なるほど。それで、白式の唯一仕様ってやっぱり『零落白夜』なのか?」

 

それに答えたのはシャルルではなかった。答えたのはあろうことか・・・・・。

 

「ふっふーん、そーだよいっくん」

 

「た、束さん!?」

 

やっほー、おっひさーだね!と朗らかに言葉を送る女性はISの生みの親、篠ノ之束その人だった。いつの間にアリーナに入り込んでいたのか、何の目的でここに姿を現したのか分からない理由に当惑する一同。

 

「いっくんのISはちーちゃんが使っていたISと同じだから―――って同じアビリティーが発現するのだってイレギュラーなんだよ?この天才束さんですら把握できない摩訶不思議に満ちているのさー」

 

篠ノ之束の登場に、何時の間にか当然のようにいる彼女の存在に気付いた一同が内心驚く他所に、数多の敵ISがシュヴァルツェア・レーゲンへ強襲を始めた。

 

「あのISのワンオフ・アビリティーは『夢幻現』といってね、実体のない幻と実体のある幻が入り交じった夢見せるというよりも、人間の目やISのハイパーセンサーを騙すのが特徴だよ」

 

ハイパーセンサーを見てごらんよ、と促されISを起動している一夏達はその通りに再度確かめてもラウラのISと同じ反応が多数出ている。どれが幻で本物かなど、これでは到底探り当てるのは不可能に近い。

 

「・・・・・束さん。もしかしてこの黒騎士を作ったのは貴方ですか?」

 

マドカの質問に対して楯無は注意深く束を観察する。肯定すれば敵ISと繋がりがあることが―――。

 

「ふふっ、気に入ってくれた?まどっちにはピッタリのISでしょ?」

 

『っ―――――』

 

敵ISという点と篠ノ之束という点が繋がり、ニコニコと笑いながら暗に認めた。楯無は非難する目で束に言った。

 

「今までの襲撃は、全てあなたの差し金だったのですね」

 

「ちょっとは楽しかったでしょ?私も予想外な置き土産もどうだったかな?まさかいっくんに腕を切り落とされるとは思いもしなかったからね。でも、ふふっ。箒ちゃんとの再会がそれほど優先したかったんだね。もーあの子の可愛いところ知れて胸がキュンキュンしちゃった」

 

置き土産、その単語に楯無は何が何でも聞き出さなければいけなくなった。真剣な顔つきでランスを構える。

 

「・・・・・知っていることを全て教えていただきます」

 

ダリルとフォルテに目を配り協力して束を捕まえる。二人は了承したようにISを展開して囲む形で構えを取ると、大きな影が差し込んできた。見上げれば敵ISが楯無に迫って牙を剥いた。ブレードを叩き込まれ束から遠ざかれ、腕部の砲身から高密度に圧縮されたエネルギー弾をダリル、フォルテに向けて放ち束の安全を確保した。数秒の出来事に一夏達はただ唖然と立って見ていた。

 

「ふっふーん。どう?この子の本気はまだまだ全然なんだよ?お前達なんかには負けないんだからねー」

 

「っ、彼をどうする気なんですか・・・・・」

 

「世界で唯一私が認める最高の助手にして最愛の子をどうしようが束さんの勝手だよ。あ、一つだけ教えてあげるよ。私ってば親切だね。この子の名前は―――――ラーズグリーズ・F・アヴェンジャー。計画を壊す亡霊の復讐者だよ」

 

差し伸ばしてくる敵ISの腕に抱かれ、共に宙に浮く束は大きく告げた。

 

「次は箒ちゃんのISを持ってきてあげるねー!その大っきな胸の中で期待感を膨らませて待っててねー!」

 

「!」

 

そんな言葉を置いてけぼりにして束と敵IS―――ラーズグリーズ・F・アヴェンジャーは空の彼方へと飛んで行った。後にラウラは助け出されて地面に横たわっていたことに気付き、保健室に搬送された。

 

 

 

 

その日の夕方。

 

「う、ぁ・・・・・」

 

ぼやっとした光が天井から降りているのを感じて、ラウラは目を覚ました。

 

「気がついたか」

 

その声には聞きおぼえがある。聞き覚えがある―――どころではない。どこで聞こうと一瞬で判断できる。一夏達がそうであるように。この声は・・・・・織斑千冬だ。

 

「私は・・・・・は・・・・・?」

 

「全身に無理な負荷が掛ったことで筋肉疲労と打撲がある。しばらくは動けないだろう。無理をするな」

 

「何が・・・・・起きたのですか・・・・・?」

 

無理をして上半身を起こすラウラは、全身に走る痛みにその顔を歪める。けれど、瞳だけは真っ直ぐ千冬を見つめていた。治療のため眼帯が外されている左目は、右眼の赤色とは全く違う金色をしている。そのオッドアイが、ただまっすぐに問い掛ける。

 

「ふう・・・・・。一応、重要案件である上に機密事項なのだがな」

 

しかし、そう言って引き下がる相手ではないこともわかっている。千冬はここだけの話であること沈黙で伝えると、ゆっくりと言葉を紡いだ。

 

「VTシステムを知っているな?」

 

「はい・・・・・。正式名称はヴァルキリー・トレース・システム・・・・・。過去のモンド・グロッソの部門受賞者(ヴァルキリー)の動きをトレースするシステムで、確かあれは・・・・・」

 

「そう、IS条約で現在どの国家・組織・企業においても研究・開発・使用すべてが禁止されている。それがお前のISに積まれていた」

 

「・・・・・」

 

「巧妙に隠されてはいたがな。操縦者の精神状態、機体の蓄積ダメージ、そして何より操縦者の意志・・・・・いや、願望か。それらが揃うと発動するようになっていたらしい。現在学園はドイツ軍に問い合わせている。近く、委員会からの強制捜査が入るだろう」

 

そして、と付け加えた。

 

「あのシステムが起動したとすればお前、力を欲したそうだな」

 

「っ!?」

 

千冬の指摘にあの時の事を思い返し、自ら強さに焦がれていた事を口にし、誰かと話していたような記憶が甦った。実際誰かと直接話したなどうろ覚えで、独り言で呟いていたつもりが、今にしてみればあの男は一体、誰だったのだろうと不思議に思える。

 

「過ぎた事にこれ以上口出しはしないが、私達は何時かとんでもない敵と戦うことになるやもしれん。だからお前が誰だろうと誰でもなくても、お前はラウラ・ボーデヴィッヒとしてこの学園に三年間在籍しなけれないけないからな。その間はお前とお前のISの力が必要になる可能性がある故に、精々コキ使ってやるから覚悟しろ」

 

それが生徒に対して言う教師の物言いか、と思う他にも自分に対する励ましの言葉も含まれていたので、励ましの言葉を言われるとは思っても見なかったラウラは、何を言うべきかが分からない。わからないまま、ただぽかんと口を開けていた。そんなラウラに、千冬は席を立ってベッドから離れる。もう言うべき事は言ったのだろう、教師の仕事に戻るようだった。

 

「ああ、それとお前を助けた敵には気を付けろ。あれは今の私達には手が余る相手だからな」

 

最後に軍人のような言い方をして、言い残して千冬が部屋を去った。

 

 

 

 

 

保健室を後にして直ぐ壁に背中を預ける楯無と会うも彼女の顔を直視せず、廊下のど真ん中に足を停める千冬に言葉が飛んだ。

 

「篠ノ之束博士のことどう思いますか」

 

「・・・・・あいつの考えることは私の理解を何時も超えている。直接訊きたださなければこの気持ちは晴れないままだ」

 

「仮に訊き出した時、彼をどうするつもりですか?」

 

「・・・・・お前が気にする事じゃない。これは家族の問題だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「たっだいまー!我が家よ!」

 

秘密基地に帰還した束は入るなりそう言ってどんどん奥へ足を運ぶ。ラーズグリーズもその後に続いて行くと白衣を着た男性の顔を空中投影するモニターが展開した。

 

『篠ノ之博士お帰り。丁度報告することがあってね、娘達が日本の軍事基地を全て破壊したそうだよ。日本代表の者も辛勝であったがISコアを奪えた』

 

「おーそかそか。やるねぇあの子達。私が貸し与えた無人機も役に立ったようだね」

 

『軍事用のISはともかく専用機を持つ者達は既にIS学園にいるが、今後どう動くか様子見と言ったところだ』

 

「IS学園はどーでもいいよ。それよりさ日本の政府はどんな感じか分かる?」

 

『それも含めて報告が届いているよ。襲撃された軍事基地がある地域を除いて情報操作されて世間に知らされないようもみ消してはいるが、かなり焦っている。他国とのパワーバランスが名も知らぬ者らに崩されてしまったからね。奪われたISコアの代わりは利かないしIS学園に泣き入りするようだ』

 

男性からの報告に束は満足そうだった。日本の防衛を丸裸にしたことで日本は旧世代の兵器を代用せざるを得ず、頼みの綱はIS学園だけになったのだ。後は強烈な毒を与え日本を震え上がらせ自滅に追い込むまでだ。

 

『娘達が戻ってきたら日本を潰すかい篠ノ之博士』

 

「まだだよー。これから愛しい妹の為にISを用意するからね。その間自由にしてていいよー」

 

『わかった。ではまた報告が届いたら連絡を入れるよ』

 

映像を切った男性との会話が終わると束達の自室についた。横にスライドして開かれた扉の向こうは鉄と機械だらけではなく、生活感が溢れた空間であった。

 

「お帰りなさいませ。束様、ラーズ様」

 

「ただいまくーちゃん」

 

銀髪に目を閉じた可愛らしい服装を着ている少女が二人を出迎えた。束は朗らかに言い返して少女の頭を撫でラーズグリーズは能面のマスクを外し素顔で「・・・・・ただいま、クロエ」と言い返す。

 

「ラーズ様。あの方から伝言があります。時間が空いている時でも構いませんから連絡をしてください。です」

 

「むー、らーくんを独り占めする気だなぁ~。すっごく束さんはじぇらしぃだよ~?」

 

束に抱き着かれても気にせずクロエから携帯を受け取り通信を入れた。数秒後、相手と繋がりラーズグリーズは口を開いた。

 

「・・・・・久しぶり」

 

 

 

 

奇妙な事件からあっという間に六月も最終週に入り、IS学園は月曜から学年別トーナメント一色にと変わる。その慌ただしさは予想よりも遥かに凄く、今こうして第一回戦が始まる直前まで、全生徒が雑務や会場の整理、来賓の誘導を行っていた。

 

「しかし、すごいなこりゃ・・・・・」

 

更衣室のモニターから観客席の様子を見る弾の呟きが三人の耳に入る。三人もモニターを見て同感だと感じている。そこには各国政府関係者、研究員を企業エージェント、その他諸々の顔触れが一堂に会していた。

 

「話によれば三年にはスカウト、二年には一年間の成果の確認にそれぞれ人が来ている。俺ら一年は関係ないけど、上位入賞者には唾をつけるようだぜ」

 

「ふーん、ご苦労なこった」

 

「どうでもよさそうに答えるが秋十。俺達は男性操縦者だから目を付けられていると思うぞ」

 

「そうだな。俺ら以外にも男子が何人もいるし、夏兄を除いて男の操縦者の中で誰が一番になるかワクワクする」

 

「何で俺を除くんだよ」

 

専用機を持っているからだよ、と四人に揃って言われて微妙な面持ちになった一夏。

 

「いや、俺の武装ブレードだけだから勝てる見込みはあるだろ」

 

「自分は弱いです。だから勝てない。でも実際に勝っちゃったみたいな展開になってみやがれ。俺はぁお前をボコるからな」

 

「何故に!?」と酷く動揺する一夏を他所に一誠達も秋十の言い分に同感だと風に口を開く。

 

「同期で同時にISを動かしたメンツの中でまだ俺らだけ専用機を貰っていない気持ちはわかるまい」

 

「束姉さんにお願いしようかな・・・・・」

 

「色々とやめたほうが良いって。あの人がここ最近の襲撃の黒幕だったのがわかったんだから」

 

でもやっぱり欲しいなぁ、と専用機を手にする機会が恵まれないことに溜息を吐く秋十達三人が使っている更衣室から場所を変えて反対側の更衣室。人工過密のそこにあってなお、冷気を放つ一角があった。1人はラウラ・ボーデヴァッヒ。もう1人は織斑マドカである。彼女達の放つ異様な気配に、すし詰めで生まれた粗熱も二の足を踏んでいるかのようだ。そしてそれは明らかに壁を作っているのだから近寄りがたい。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

剣呑な気配を醸し出し、どちらも相手の顔を見ようとせずにいる。特にマドカがラウラを忌避している素振りをしている。ラウラとタッグを組むとわかった瞬間、顔から表情が消え失せた瞬間を一夏達は目の当たりにして複雑な表情を浮かべたのは言うまでもない。女子更衣室に入ってからも今に至り、この状態がいつまでも続くかと思った。

 

「・・・・・」

 

あれから自分専用のISが手に入ったという実感の高揚感を噛みしめ、今日まで特訓や訓練をしてきたことで実力は身についた。ぐっと力強く握りしめ試合に臨んだところでモニターがトーナメント表へと切り替わった。そこに表示される文字をラウラは見つめた。

 

 

初戦は―――マドカ&ラウラVS一夏&一誠だった。

 

 

「愚兄共か、障害物にもならんな」

 

「どちらも近接型のIS・・・・・私のAICの前では敵でもない」

 

うげっ、と嫌そうに声を漏らしていた兄達を知らず、否、気にせず初戦は貰ったと―――不気味な笑みと声をして周囲の女子達を震えさせたのだった。

 

 

 

賑やかになっているIS学園を見下ろせる空は晴天に恵まれて大会日和であった。しかし、その空に1人の男が腕を組んで浮かんで愉悦そうに眺めていることを誰も気づかない。

 

 

 

両者がアリーナ・ステージに飛び出す。

 

「さぁ、狩りの始まりだ」

 

「精々逃げ回り続けるがいい弱者共」

 

「「ヤバい、この二人の目がマジで・・・・・ッ」」

 

 

試合開始まで五秒。四、三、二、一―――開始。

 

 

試合開始と同時に瞬時加速(イグニッション・ブースト)を行う。一夏と一誠、マドカがだ。後方からワイヤーブレードを射出して援護を行うラウラ。猪突猛進のようにブレードを振るう兄達に対して、体を独楽のように回転したマドカの遠心力がついた横薙ぎに振るわれた斬撃と直撃、勢いに押し負けた二本の近接ブレードが弾かれたその隙を狙って二人の腕に絡みついた。

一夏を明後日の方へ放り投げてそれを追うマドカ。ラウラは一誠とマンツーマンで戦う意思を見せつけ、引き寄せた獲物をじっくりと料理をする腹だった。

 

一誠が駆使する量産型IS打鉄の接近ブレード『葵』と、ラウラの手首から出現するプラズマ手刀とぶつかり合う。

 

「ほぉ、素人とは思えない太刀筋だ。手慣れた動きを見せる」

 

「こういう武器は俺ら兄弟姉妹は扱い慣れているんでな。小学生の頃は全国制覇もしたことがあるぞ」

 

「そうか、ならばお前の実力を見せてもらおうか。チャンバラごっこ程度で強気でいるお前のな」

 

その直後、大口径リボルバーカノンの弾丸が一誠に当たりアリーナの壁まで吹っ飛んだ。更にたたみ掛ける大口径88mの弾丸。

 

 

「くたばれ一夏ぁーっ!」

 

「兄に対してなんちゅー言い方をするんだ!?」

 

ラウラのように一方的な戦いは出来ずとも、二人はISを操縦してまだ日が浅い。使用している機体の性能と機能、能力の優劣で勝敗は決まる様なものであるが、近接ブレード『雪片弐型』一本のみの白式と秋十と同じぶっつけ本番のISで駆るマドカはバスター・ソードで振るう二人は剣戟を結び合う。

 

操縦者の士気と勝利の対する執念の差が決定するかもしれない。片手でブレードを振るいながら隙を見せたところを、アサルトライフルで撃ち込むマドカの戦い方に四苦八苦する一夏は急後退をして間合いを取った。

 

「ははは!最高の気分だ。だが、まだ『黒騎士』の力はこんなものではないはずだ。もっと私の練習台になってもらうぞ。お前を負かしてな!」

 

「でもよ、千冬姉はこの一本の剣だけで世界の頂点に立ったんだぜ?」

 

「それはあの人が化け物染みた強さがあるから成せたこと。お前にそんな力が無いだろう。というか、お前は姉さんではない限り世界の頂点に立つことは不可能だ。だから―――その剣が折られないよう気を付けるんだな!」

 

間合いを取られた分、瞬時加速(イグニッション・ブースト)で詰める。それから始まる剣戟にアリーナの観客席から熱が籠った歓声が湧きだす。

 

 

「ふあー、すごいですねぇ。二週間ちょっとの訓練であそこまで強くなるなんて」

 

教師だけが入ることを許されている観察室で、モニターに映し出される戦闘映像を眺めながら山田真耶は感心したように呟く。

 

「やっぱり織斑君と織斑さんは兄妹ですね。何だか戦いが似ています。織斑さんに至っては織斑先生があそこにいるみたいに間違っちゃいそうですよ」

 

「ふん。私はあんな雑な振るい方をしないし欲望に満ちた顔もしていない。完全に浮かれおって馬鹿者が」

 

身内には相変わらずの辛口評価しかしない千冬に、山田真耶はやや苦笑気味に言う。

 

「そうだとしても織斑先生の背中を追って成長しているんだと思いますよ?これからも練習すれば今より強くて凄い生徒になりますよきっと」

 

「まあ・・・・・そうかもしれないな」

 

ぶすっとした感じで告げる千冬だったが、山田真耶はそれが照れ隠しなんだとわかってきているので、別段気にしない。それどころか『やっぱり兄弟姉妹想いだなぁ』としみじみ思う。

 

モニターでは実戦経験の差でラウラに追い込まれた一誠が一夏と合流し、マドカとラウラと対峙した。

 

「あ、織斑君・・・ああ、ややこしいですね。一誠君がピンチですね」

 

「戦闘の経験とISの能力の差で決まっているのだろうな」

 

「では、マドカさんの実力は?一夏君を追い込んでいましたけれど」

 

「・・・・・さっきも言ったが、いまの織斑妹は欲望丸出しだ。獣が全力で獲物を襲いかかるようにあいつも代表候補生だろうが専用機がだろうが相手が誰であれ、躊躇なく全力で襲いかかる。獣のような奴なのにそのクセ、時折キレのある動きをするものなのだから迂闊に攻め込むと、何時の間にか鋭い牙が体に食い込む危うさを抱かせるんだ」

 

それが身内が良く知っている、と付け加えられマドカに対して若干戦慄してしまう山田真耶。

 

―――刹那。アリーナの会場のど真ん中に大きな空間が開きだした。その異常現象を目の当たりにする一同は怪訝な気持ちを抱かずにはいられなかった。

 

 

 

「なんだ、これ?」

 

戦闘を中断し、穴を見つめる。何が現れようとおかしくない雰囲気が突然穴が出来た空間から醸し出している。警戒する一夏達はジッと食い入るように視線を送り続けていた時、現れた。黒一色の革の服を着こみ紫色の発光現象を起こす黒髪に血のように赤い眼の青年が穴から出てきた。

 

「「・・・・・っ」」

 

男の纏う不穏な雰囲気を感じ取ったからか、生身の相手に大型カノンとバスター・ソードを突き付けるラウラにマドカ。一夏と一誠が目を見開き驚いても場の空気を読んでブレードを構えだした。すると男が口を開いた。

 

「直ぐに警戒したのは及第点だな。そこの男達は失格だ。もしも殺戮者が予告もなしに襲いかかって来ていたら死んでいたところだ」

 

「ならば貴様はなんなのだ」

 

「俺か?ふっ・・・俺はだな・・・・・」

 

小さく笑みを浮かべ、ラウラの問いに男は言い返した。高らかに、そして誇らしく胸を張って―――。

 

「我が名はアジ・ダハーカ。世界と人類の絶対の天敵に位置する存在。我が主の願いのためにこの世界に対して宣戦布告をする」

 

まだ開き続けている空間の穴から駆動音と鉄と鉄が擦れるような音に金属音など色んな音が聞こえ、全貌が明らかになった同時にアジ・ダハーカは何時の間にか手にしている杯を見せつけながら不敵に言った。

 

「この杯で命を吹き込み、創造した金属生命体―――世界最強のISと対なる存在、

混沌と破壊を齎す機械龍(カオス・マーシナリードラグーン)』と共にな」

 

ソレは鈍い銀色の光沢を輝かせていた。ISと対なる混沌と破壊を齎す機械龍(カオス・マーシナリードラグーン)の形状は西洋のドラゴンに似ていた。そして、ラウラのISが変貌した姿とも酷似しており、一夏とマドカはまさかと悟った。

 

「お前、この前の騒動と関わっているな」

 

「力を欲した者に力を与えたに過ぎない。あとは得た力をどう振る舞うか本人次第だ」

 

「ふざけるな!そのせいでラウラがどんな危険な目に遭ったと思うんだ!」

 

「ISを操縦するからには危険は付き物ではないのか?ISは本当に安全な平気であると断言できるのか?その武器で生身の人間に振るえばどうなるか、わからない筈がないであろう」

 

一夏の思いを呆れる風に語り、アジ・ダハーカが金属生命体に指示を出す動きを、三人に向けて手を翳した。

 

「やれ」

 

ギェエエエアアアアアアアアアアアアアッ!!!

 

機械が咆哮を上げた。と同時にアリーナ中に警告の警報が鳴り出し、防衛システムが作動する。

 

 

観察室でも緊急事態が起きている報告を受けていた。けたたましくなる警報のアラームと焦燥に駆られながらも真剣な面持ちで千冬に報告される。

 

「大変ですっ。他のアリーナでも同様の未知の自立型起動兵器が出現し、生徒を襲っているそうです!」

 

「やってくれたな・・・・・本気で我々と、世界を敵に回すつもりのようだ。各アリーナにいる戦闘教員は迎撃と生徒の避難の誘導を最優先にするんだ」

 

 

そして・・・・・とある秘密基地のラボでも騒動の状況を確認されていた。大画面のモニターで今までのやり取りを見聞していた束達もこの緊急事態に興味を抱いていた。

 

「ほうほう、機械生命体なんてテレビの中の話しかと思ったら、テレビの中から飛び出して出てくるなんてねー。どこの国がそうしたのか興味深々だよー」

 

「・・・・・」

 

「束さん、あれを調べてみたいからちょっと一緒にIS学園まで行ってくれるかな?」

 

「・・・・・わかった」

 

ありがとー!と感謝の言葉を送られながらISを保管している部屋へ向かった。扉が開き、点灯する明かりで照らされたことで鎮座しているISの全貌が晒される。黒いISの隣にある青いISへ視線を送った。

 

 

 

 

第三アリーナでは三つの頭を持つ混沌と破壊を齎す機械龍(カオス・マーシナリードラグーン)が出現し、三年の専用機持ちの女子生徒が戦っていた。ダークグレーの装甲、両肩の犬頭から炎が呼吸のように噴出している。赤熱化した双刃剣(バトル・ブレード)黒への導き(エスコート・ブラック)》を展開(オープン)させ、握りしめているが彼女は時折第二アリーナの方へ視線を向けている。第二アリーナにも二つ頭の金属生命体が生徒を襲っている情報が届かれてから、大丈夫だと自分に言い聞かせつつも心のどこかで不安と心配がチラついていた。

 

「(生徒会長がいるから大丈夫だろうけど、あーっ、やっぱりオレがあいつを守りたいのにコイツが邪魔するし他の連中を放っていくのはマズい話しだよな・・・・・ファックが!)」

 

「集中しなさい。敵は目の前にいるのよ」

 

「そうそう、何を考えてるか分かってるけどね。だからそのためにも早く敵を倒そ!」

 

「分かってる!」

 

紅蓮のように真っ赤な長髪を激しくなびかせ、鳶色の瞳のIS操縦者は冷静沈着に少し心あらずな味方に声を掛けた。橙色の装甲に肩のアーマーと膝に四つの水晶を備えたISを展開した綺麗な空色の髪と瞳、健康的に日焼けしたような褐色肌の少女達と共闘しながら心中葛藤に悩まされ、苛まれながら言い返しつつ両肩の犬頭が口を開き、火炎を撒き散らす。三つ頭の口から極寒の冷気が放たれ、炎の熱をたちまち凍らせて無力化した。さらに背中の装甲が八対十六の砲身が開き、そこから小型ミサイルが放たれた。

 

「おいおい・・・・・本当に何なんだよコイツは―――よっ!」

 

「全くね」

 

「おっと!」

 

空気を凍てつかせる吹雪の攻撃が猛威であり、背中から小型のミサイル。そして全てを掻い潜って懐に飛び込んで斬りかかってみると、装甲が分厚く、斬りかかった瞬間に猛吹雪が放たれる。

 

「ちっ!―――なっ・・・!」

 

瞬時加速(イグニッション・ブースト)で緊急回避。が、両足が吹雪の攻撃に掠ってたのか装甲が氷に覆われていて、脚部の推進力が消失、本来の速度が半減したところで三つの極寒の吹雪と数多のミサイルが挟撃してきた。

 

「(あー・・・・・これ、ダメなやつか。ゴメンなフォルテ、助けにいけれなくなった)」

 

氷漬けになったところでミサイルの攻撃によって身体は爆散するだろう、と悟る女子は周りがゆっくりと見える感覚の中で自嘲的な笑みを浮かべた。

 

次の瞬間。挟撃を受ける身が空から飛翔してきた影によって逃れた。標的を見失ったミサイルが吹雪に当たって凍りつき、ステージに虚しく落ちる。

 

「・・・・・」

 

「・・・・・!」

 

自分を横抱きに抱え、機械生命体から離れたところで停止する影の正体・・・・・輪後光を背に青い羽根を生えそろえる三対六枚のウィングスラスターが特徴の青いISを纏う者が彼女を掬い上げた。

 

「・・・・・」

 

「誰だお前?」

 

三年生として知っている学園に在籍している専用機持ちの、全てのISの特徴が完全に異なって誰なのか判らなかった。自分を助けてくれた操縦者は一体何者なのか声を聞くまで怪訝な気持ちを抱いていれば吹雪が襲ってきた。彼女を抱えながら三つの冷気をかわし、灼熱の炎に輪っかが燃えだしそうな勢いで真っ赤に染まり、男性操縦者の眼前に現れるウインドウに唯一仕様(ワン・オフ・アビリティー)の発動条件が満たしたと浮かぶゲージがMAXになった。意識だけでソレを発動すると青い羽根が真っ赤に染まり、炎を纏いだした翼が大きく広がって・・・・・まるで火の鳥のような出で立ちとなった。

 

「うおっ!ISが燃えだしたっ!?でも、熱くない?あ、やっぱり熱っ!」

 

しかも脚部の氷が溶けたので本来の速度を取り戻した。変化した青いISに驚くも仲間のところに連れて行かれ、彼女を押し付けるように手渡す青いIS。炎翼をはばたいて一気に急転して三つ頭の機械生命体へ突貫する。燃え盛る炎が矢の如く飛来してくる敵に冷気が帯びる吹雪をビームと化にして攻撃する。直撃すれば即凍結、の危機に対して地面へ急降下、冷気を帯びたビームを紙一重でかわし例え直撃したとしても炎と化した機体自身は風を受ける度、炎は昂るように燃え盛る強さが増すのであっという間に氷解する。

 

機械生命体からの攻撃が一瞬だけ途切れた。その瞬間を逃さず、一気に畳み掛ける意思を持って炎のブレードを二振り手にして瞬時加速(イグニッション・ブースト)以上の速度で飛翔。と同時に口を開けて氷のブレスをした機械生命体の目に飛んでくる火の鳥を視界にいれたのを最後に―――炎の斬撃が燃え盛りながら吹雪ごと三つの首を同時に両断、生命維持が出来なくなった目に光が無くなった頭部はアリーナ・ステージに沈んだ。後に首から下の身体も鈍い音を立たせ地に沈み、それ以降二度と動くことはなかった。

 

「・・・・・今、腕を振った瞬間が見えなかったぞおい」

 

「というか誰なのかしら。記憶にないIS・・・・・」

 

「一応、敵ではないのは確かかも」

 

ここにはもう用はないとどこかへ飛んでいく謎のISの先には、第二アリーナがある場所だった。三人も遅れて後を追うように向かいだす。

 

 

第二アリーナでは水色の髪の女子と猫を彷彿させる小柄で華奢な女子生徒が混沌と破壊を齎す機械龍(カオス・マーシナリードラグーン)と戦っていた。二つ頭の西洋のドラゴンであったが、二人の連携攻撃に圧倒されたからか驚くべき行動に出た。咆哮をしたと思えば自身の体をからくり仕掛けのように変形させて、四肢の体は人型に成り代わっていき、両手に巨大な射撃武器と近接武器を備えた巨人のような姿となった。

 

「ちょ、あれ、変形するっスか!?どこの国だって機械を人型に変形させる技術なんてないっスよ!」

 

「唯一、できそーな人がいるんだけど。あの人の仕業じゃないだろうし・・・・・」

 

変形している瞬間を攻撃しておけばよかったわ、とちょっぴり惜しいことをした気分に浸る彼女の目に銃口を突き付ける相手の姿が入る。

 

「気合入れ直すわよフォルテちゃん」

 

「勿論ッス。先輩を助けに行くにはコイツが邪魔っスからね」

 

「うんうん、恋人同士の熱い愛情は燃えるわねー」

 

「茶化さないでほしいっス!」

 

鈍い銀色の大剣を振りかざそうとする機械生命体に臨戦態勢の構えを取る二人―――に炎を纏う謎のISが横切った。第二アリーナの外から飛んできた、火の鳥を彷彿させるIS。四つの目が見開き、こっちに近づいてくる火の鳥は大型の射撃武器で撃ってくる金属生命体に向かって飛来し、あっさり首を斬り捨てては第二アリーナから遠ざかっていった。

 

「な、なんなんスか今の・・・・・」

 

「分からないわ。でも・・・・・」

 

謎のISの正体に疑問を抱くが、事態が好転するならば後回しにするべきだろうと楯無達も追いかける。最後の第一アリーナでは既に人型になっている金属生命体に苦戦を強いられていた。巨大過ぎてAICでは止め切れず、大型カノンが放つ弾丸に転がりながらかわして撃ってくる機械人に瞠目せずにはいられないラウラ。腕部ガドリングガンで射撃するが威力は小さく、振り返る際に剣を横薙ぎに振るわれて瞬時加速(イグニッション・ブースト)で近づいた一夏にかばわれて助けられるマドカ。

 

「くっ、図体のデカい割になんてすばしっこい動きを・・・!」

 

「あのデカブツの一撃が当たれば、シールドエネルギーが減るどころか私達の体を真っ二つにされそうだ」

 

「雪片二型もそんな感じがして下手に攻撃できないっ」

 

巨大なマシンガンの引き金を引き、連続で撃ってこられ回避行動をする間でも遠距離と中距離の射撃武器で何とか攻撃を仕掛けるマドカとラウラ。しかし、かわされるか分厚い装甲を貫くだけの威力が足らず決定的なダメージを与えない戦いが続く。

 

 

アジ・ダハーカは高いところから高みの見物をして、一人意味深に笑みを浮かべていた。訓練機で必死に戦っている織斑一誠を視界に収めて心なしか懐かしそうに見つめていたら、炎纏うISが第一アリーナに向かっていく姿を捉えた。

 

 

 

 

「許可が下りた。俺達も戦いに行くぞ」

 

「やっとか。ここに来て初の実戦相手は巨大ロボなんていいじゃん」

 

「もう試合どころじゃないけれど、ここで僕等の戦いを見せつける機会ってことであの機械をスクラップしに行こうか」

 

「つまらないからね?」

 

「はっはー!女共に俺達の強いところを見せ付けてやろうぜ!」

 

「麗しの女子達は避難して見ている子は少ないだろうけれどね」

 

意気揚々とピットから出てくるISを纏う操縦者達―――全員、男だ。見たことのない専用機だったり馴染みある訓練機で戦いに乱入、マドカ達を苦戦に強いた金属生命体に飛び掛かった。

 

「邪魔だ邪魔だー!あとは俺達に任せとけ!」

 

「うわっ!?」

 

一夏達を退けて自分達が倒しに臨んだ。巨大機人相手に群がり、苦労した四人を嘲笑うかのように攻撃を仕掛けた。装甲の隙間にブレードや射撃武器で攻撃し、顔面を狙うスナイパー、格闘で分厚い装甲を粉砕。

 

そして二振りの三日月のような大きいブレードを片手に背中に跨った状態で機械人の首を鋭く振り下ろした。

 

『・・・・・』

 

急所を斬られたことで目に光が消失。と同時に魂のない機械はただの鉄屑と化して倒れた。彼等の戦いに介入できず、ずっとただ佇んでいた一夏達は見ていただけで終えてしまった。

 

「・・・・・」

 

第一アリーナに一拍遅れてやってきた時には全てが終えていた。纏う炎が消えて元の青色の機体に戻り冷却システムが作動する。一夏達はそんなISの存在に気付き―――他の六人の少年達はこんなISが学園にいたか?と素朴な疑問と好奇心、奇異に思いながら所属不明のISに意識を向けた。

 

「おい、お前は一体どこの誰なんだ?顔を見せてみろよ」

 

頭部を覆うヘルメットバイザーで顔を窺えない。一夏達は黙認して事の成り行きを見守る姿勢で、もしもの場合自分達も介入せねばならないと思って―――。

 

「やっほー!いっくん達、お疲れだねー!」

 

豊かな胸を揺らしながら陸上選手顔負けの脚で走ってくる篠ノ之束の登場に、更に混沌と化する。同時に気付く。あの青いISの正体はラーズグリーズであることを。

 

「た、束さん?何でここに・・・・・」

 

「決まってるじゃーん。金属生命体って束さんの好奇心をくすぐらせるこの機体を調べに来ちゃったんだよ。好奇心で猫を殺すって、あ、もう死んじゃってるかこの機体」

 

機械生命体に触れようとした彼女に向けられるブレードと射撃武器。得物を持つ相手の意思次第ですぐに生身の相手の命を奪える行為をしている―――六人の少年達によって。

 

「美しい女性にぶっそうなものを突き付けるのは僕のポリシーに反するけれど☆」

 

「こんなところで世界的指名手配されている大物が飛んでくるとは思いもしなかった」

 

「もしも見掛ける様なことがあれば即捕縛しろってお達しなんでよ」

 

「悪いけど大人しく捕まってくれるかな」

 

「逆らえばその四肢を切り捨てる」

 

「達磨のように地べたに転がりたくないなら尚更だよ」

 

捕獲する意思を表す彼等の行いに誰も動こうとはしなかった。正確には動けないのであるが、動ける者がいるとすればただ一人。ラーズグリーズ・F・アヴェンジャーだけだ。スラスターウィングから十二のビットが自立起動して六人へ警告なしで射撃。撃ってくる一つのビットから複数の射出したビームに回避に遅れた数人は撃ち抜かれ遠くに追いやられ、残りの数人は束から遠ざけられる。その後彼女を守る姿勢で攻撃した本人に叫ぶ。

 

「お前、俺達に攻撃することはどういうことか判ってんのかよ!日本を敵に回すようなもんだぞ!?」

 

「だからなーに?」

 

「はっ・・・?」

 

「馬鹿な連中しかいない国なんかを回しても束さん達は別に興味無いんだよねー。しかもISの開発者でもある私にISで脅かそうなんてお前達も案外馬鹿なんだねー」

 

男性操縦者達へ強襲するラーズグリーズを他所に、機械生命体に身体から機械の触手を出し、何時の間にか調べていた束が侮蔑する意味を籠めて口を開いた。

 

「『プロトタイプ計画』が成功しても操縦者が出来損ないじゃ、どれだけISを動かせる男を増やそうとしても馬鹿しか増えないなら一生馬鹿しか生まれないねこの国は」

 

国の国家機密の情報源が漏洩していることから六人は様々な反応を窺わせた。

 

「いいこと教えてあげようか。その子、ラーズグリーズのらーくんは『プロトタイプ計画』要だったんだよ?道端に転がっていた石ころのお前らなんかが油でピッカピカに塗られて、人為的にISを動かせる切っ掛けを齎したかわいそうな子」

 

『っ!?』

 

「だから、らーくんにとっては君達がとてもとても憎くて殺したいほど恨んでいるんじゃないかなー?大人の醜い身勝手と理不尽に欲望で非人道的な実験の被験者だったからね」

 

十二のビットが放つ豪雨のようなビームが全て弧を描いて曲がりながら、一人の男性操縦者を捉え打ち抜いた。

 

「(あれはっ・・・・・BT兵器の高稼働時に可能な偏光制御射撃!?そんな―――)」

 

信じがたい光景を前に、セシリアは目を瞠目して愕然の表情を浮かべた。

 

「一人やられた!ビームが曲がったぞ!?何のトリックだよ!」

 

偏光制御射撃(フレキシブル)っていうBT兵器のみ可能な現象だ。もっとも、それを可能にする全IS乗りには存在しないと聞くがな」

 

「それを可能にするあいつは本当に何者だよっ。てか、『プロトタイプ計画』すら何だってんだ!」

 

「それよりも、いい加減にやめろよお前!お前らも見てないでどうにかしろぉっ!」

 

結局一夏達総出でラーズグリーズを抑え込むまで攻撃は止まらないどころか、逆に攻撃対象と見做され迎撃される。謎の男アジ・ダハーカの宣戦布告と襲撃事件でトーナメント戦は必然的に中止になった。戦後処理に各アリーナに倒れている混沌と破壊を齎す機械龍(カオス・マーシナリードラグーン)は学園側が解析するために回収され、その内の一機が束のもとで行われている。

後に専用機持ち全員が緊急招集を掛けられ、生徒会室に一堂は会した。上級生の専用機持ちの先輩を見ることにも叶いながら一夏達は前に立つ千冬の話に耳を傾ける。

 

「どこの国の者、もしくは危険な思想を抱く組織の者か定かではないがこの男、アジ・ダハーカが今回起こした騒動はIS学園だけ飽き足らず、情報によればISが保管されている世界各国にまで襲撃をしたそうだ。この混沌と破壊を齎す機械龍(カオス・マーシナリードラグーン)でな」

 

立体的なモニターの映像に映し出される鈍い銀色の光沢を放つ機械のドラゴン達。世界各国に対して襲撃している映像を見せつけられ、危機感を覚えずにはいられない。

 

「敵の狙いはISであることが判明している。それ以外の事は関心がないのか、無関係な人間と建造物、自然には手を出さないでいるものの、奴は完全に我々人類と世界の敵として認識されるのは時間の問題。先だって私達はアジ・ダハーカと奴が創造する金属生命体を総称―――『絶対天敵(イマージュ・オリジス)』と名付けることにした」

 

「・・・・・」

 

話しが区切られたところでマドカが挙手をする。

 

「アジ・ダハーカという男の狙いは本当にISなのか?―――我が主の願いを叶えると言う言葉も口にしていた」

 

「それについては私達も理解できないでいる。奴のバックにどんな者がいるのか想像もできない。捕まえて吐かせねばわからないことだからその質問は今後一切しないことだ。私達は奴が創造する機械どもの対抗をせねばならない。山田先生」

 

「はい。金属生命体、混沌と破壊を齎す機械龍(カオス・マーシナリードラグーン)は、篠ノ之束博士の解析によりわかった情報が判明しました。世界各国から受けた報告を照らし合わせましたところ、通常の兵器はIS同様にエネルギーシールドで無力化されるとのことです」

 

「それってつまり、あの機械の化け物もISと同じ・・・・・?」

 

「厳密的には違う。分かりやすく言えば犬と狼の違いだ。ISのエネルギーシールドとは異なるエネルギーがシールドとして従来の兵器を無力化にしているのだ。その上で人型に変形できるあり得ない機能も備わっている。その仕組みも今現在篠ノ之束が調べているところであるが」

 

―――織斑兄妹、ボーデヴィッヒ。奴がどうやって創造したかなど何か言っていたか覚えているか。

 

問われる三人の頭の中で思い出したのは・・・・・手に持っていた意匠が凝った一つの杯だ。

 

「杯を持っていました。杯で機械に命を吹き込み創造したとも・・・・・」

 

「・・・・・にわかに信じ難い話だ。しかし、現に金属生命体と言うものが世界各国に出現している。奴がその杯を手にしている限り、混沌と破壊を齎す機械龍(カオス・マーシナリードラグーン)との戦いは絶対に終わらないことを肝に銘じておけ」

 

その後、調べるだけ調べ情報を千冬に提供した束はラーズグリーズと姿を暗ました。

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