インフィニット・ストラトス~光に奪われし闇~   作:ダーク・シリウス

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臨海学校とアジ・ダハーカ再び

世界各国に絶対天敵(イマージュ・オリジス)が散発的に出現。世界中の人々は恐怖と混乱に支配されようとしていた。ISに対する強襲や奇襲などしている最中、全ての元凶の男は日本のとある某所の海で釣りをしていた。何時そこに居続け釣りをしていたのか不明であるが、水が張った入れ物の中に一匹も魚はいなかった。しかも白いTシャツにジーンズ、麦わら帽子を被ってサンダルを履いた姿と田舎者の服装に変わっており、彼の男こそが人類と世界の敵であると初見した者は信じられないだろう。その上呑気に釣りなどしているのだから各国の政府やISの操縦者、軍に携わっている人間の怒りや反惑を買わせること間違いない。どうしてここにいるのか見当もつかず、海に垂らした釣り糸を静かに見下ろしていたそんな男の元に一人の人物が近づいてきた。その者に対してアジ・ダハーカは徐に口を開いた。

 

「久しいな」

 

その人物へ再会の言葉を送ったら、彼女―――女性は相槌よりも溜息を吐いた。

 

「世界と人間に対して攻撃するとはどういうことですか」

 

「俺は我が主の願いの為にしているに過ぎない。無論、人間の命など一つも奪わずにな」

 

「少々やり過ぎではないのか、と言っているのですアジ・ダハーカ」

 

旧知のように言葉を交わす彼女から非難の眼差しを向けられようとアジ・ダハーカは気にも留めず、釣り針に獲物が掛るのを待ち続ける姿勢を変えずこう言った。

 

「だが、器を見つけたぞ」

 

「!」

 

「やはり騒ぎの渦中にいるようだ。俺の玩具を倒せなかったが聖杯を渡せば問題はないだろう」

 

女性は問うた。その器はどこにいるのか。機を見て会うつもりなのだろうとアジ・ダハーカは察し、告げた。

 

「IS学園だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

週末の日曜。天気は快晴に恵まれたその日、束の一言が全ての始まりだった。

 

『今度、ちーちゃんと箒ちゃんに会うから皆も水着用意してね~。これ、命令!』

 

 

そんなこんなで一同は水着を買いに駅前のショッピングモール、その二階にやってきているのであった。交通網の中心でもあるここは電車に地下鉄、バス、タクシーと交通手段が多種多様でそろい踏み。市のどこからでもアクセス可能、そして市のどこへでもアクセス可能なのだ。そして、駅舎を含み周囲の地下街すべてと繋がっている当ショッピングモール『レゾナンス』は食べ物は欧、中、和を問わずに完備、衣服も量販店から海外の一流ブランドまで網羅している。その他にも各種レンジャーはぬかりなく、子供からお年寄りまで幅広く対応可能。いわく『ここでなければ市内のどこにも無い』と言われるほどだ。そんな場所に十二人の女性と少女、もう一人は金属のバイザーで目と顔の上半分を覆う黒髪の少年が集団で歩いていた。

 

「あのイカれた女の頭はどうなってるんだよ。襲うところがないから今度は遊び呆けてろってか」

 

「突然言うっスからねあの人。ドクターも従うし私らもそうしなきゃいけないっしょ」

 

赤い髪に少年的な雰囲気を纏う少女と赤い髪を後頭部で纏めた少年的な少女が束に対して微妙に思うところがあるようで、自分達の存在意義とは無縁なことをさせられ何とも言えないようだ。

 

「実際ドクターと違ってあの博士は肉弾戦でも強いしね。ほんと、あの人は人間なのか疑うわー」

 

「トーレお姉さまをも赤子の手のように倒しちゃうものねぇ」

 

「次は勝ってみせる」

 

水色の髪に愛嬌のある幼気な風貌の少女の言葉にクアットロはそう言いながら姉へ視線を送ると、リベンジに燃えるトーレが短く決意の言葉を漏らした。

 

「水着・・・水着か、どんな水着を選べばいいかわからない」

 

「そうだなディード。ここは男であるラーズの参考を取り組み、自分の好みの色を選べばいいと思える。私はラーズに選んでもらうぞ」

 

「・・・・・ラーズに選んでもらう」

 

「妙な羞恥心が・・・・・」

 

「うん、そうだね・・・・・」

 

栗色のストレートヘアで、容姿はかなり大人びている少女に疑問に灰色のコートを着込んだ、小柄で銀髪の少女が自分の考えを打ち明けると、水着選びに悩んでいた頭にリボンを着けている桃色の長髪をした少女が黒髪黒目の少年へ意味深に見て言い、散切りの茶髪に中性的な外見をしている少女が仄かに顔を赤らめ、茶色の長髪を薄黄色のリボンで結わえている少女も同感で顔を赤らめた。

 

「そう言えばウーノ姉の水着はどうするんだ?全員って言われたけど来ていないし」

 

「セイン様。それについては私がサイズを知っておりますので、ラーズ様に選んでいただくことになっております」

 

「うーん、ま、ラーズだから大丈夫か」

 

何が大丈夫なのかは知る由もないラーズグリーズが、大半の彼女達の水着を選び、ファッションショーみたいに実際に着てみて皆の意見を参考にしながら選んでいく。その時間はあっという間に小一時間も経過して、水着選びに面倒くさそうだった少年的な雰囲気を纏う赤髪の少女も心なしか楽しんでた。

 

「ふっふーん、結局ノーヴェもラーズが選んだ水着にしたんっスね」

 

「う、うっせぇよっ。お前だってそうだろうがウェンディ」

 

「今回初めて着るっスからね。似合わない水着を着て変に思われたくないでしょ?」

 

「そりゃあ・・・・・そうだが」

 

ウェンディと呼んだ後頭部に長い赤髪を纏めた少女の指摘に、手の持ってる水着を一瞥する。似合わないより似合う方がいいのだから言われるまでもないが、ある意味下着姿で肌を見せる行為と同じで恥ずかしい。しかも男のラーズグリーズがいる目の前で見せるのだから色んな意味で恥ずかしいのだ。

 

「おーい、買い終わったらなんか食べに行こうよ。ここのショッピングモールの中にあるレストランでさ」

 

クロエにセインと呼ばれた少女が皆に聞こえるように自分の提案を口にした。その時、黒髪黒目の少女がブロンドヘアーの少女と赤髪の少女と水着コーナーに入りセインとすれ違った。

 

「へぇ、初めてきたけどたくさん種類があるんだね」

 

「衣類の物は大体ここで買い揃えるから私にとって珍しくもない場所だ。逆に言えばここにはよく通っている」

 

「ここにない物は市内にもないぐらい品揃えが豊富だからね。家が遠くても足を運んじゃう理由はここにあるから」

 

軽く水着を見渡し最初に適当な水着を手に取り、品定めする目つきで自分の体に合うピッタリな物を物色する。そうして悩んで選別している二人の隣で買い物かごにどんどん水着を入れてく赤髪の少女に黒髪黒目の少女は不思議そうに尋ねた。

 

「おい五反田妹、そんなに水着を買うつもりなのか?」

 

「そうだよ。水着によって勝負の度合いを決めて買うんだよ」

 

「勝負下着ならぬ勝負水着か?とうとうお前にあんな愚兄以外の想い人ができたか」

 

「そ、そんな人はいないよっ。・・・・・って、えっ」

 

 

「ラーズ様。私の水着も選んでくれてありがとうございます」

 

「・・・・・」

 

 

水着コーナーの奥から銀髪の少女と一緒に歩くバイザーで上半分を隠す黒髪の少年が三人の横を通り過ぎようとした少年の横顔、目を見て赤髪の少女に仄かな淡い恋心を抱かせている少年と酷似していた。思わず素っ頓狂な声をあげた赤髪の少女の声が、二人の少女が思わずその声に反応して振り向き、赤髪の少女が嬉しそうな顔に赤らめながら黒髪の少年に近づき話しかけていたのだった。

 

「ぐ、偶然ですね?お仕事の方はもう終わったのですか?お兄から仕事で来れないって聞いたんですけれど」

 

「・・・・・」

 

「あ、もしかして驚かすつもりで密かに来てたんですか?今日皆水着を買いに来ることを知って―――」

 

一言も喋らない相手は、自分の存在がバレて悪戯が失敗したんだと思われているらしく赤髪の少女が一方的に話しかけていたら後ろから肩に手を置かれた。黒髪黒目の少女がラーズグリーズを訝しげに見ながら口を開いた。

 

「待て蘭。・・・・・そいつは愚兄じゃない」

 

「えっ、マドカ?」

 

「え・・・・・?でも、隠れてるけど横顔が同じだったよ?」

 

「私だからわかる。お前の好きな愚兄と目の前のそいつが纏う雰囲気が完全に違う。顔が同じなのはどこの外国の人間でもいる。そいつは―――」

 

と―――続けて言おうとしていた少女の前にクロエが凛と冷ややかに制した。

 

「それ以上、言葉を謹んでいただきます織斑マドカ様」

 

「・・・・・誰だお前は」

 

「お初にお目にかかります。私はクロエ・クロニクル、無礼を承知の上で申し上げます。貴女が言いかけた言葉は貴女自身が不幸にするものです。口は禍の元。直ぐに立ち去りますから黙っていてくださいませ」

 

―――ラーズグリーズはあの黒い能面のマスクを粒子召喚して被り、己の正体を晒せばブロンドヘアーの少女は目を張り、黒髪黒眼の少女は顔を強張らせた。

 

「ふざけた冗談だな。愚兄の顔で何を企んでいるラーズグリーズ」

 

「・・・・・」

 

その問答には答えれなかった。何故、正体を明かすような真似をしたのか。赤髪の少女が皆もこの場にいるという単語を聞き取り、その皆は誰なのかは―――言うまでもなかった。

 

「はぁっ!?何でここにラーズグリーズがいるわけ!」

 

「ここであったが百年目ですわね。雪辱諸共貴方を拘束しますわ」

 

「・・・・・あいつか。それにあの銀髪の女は・・・・・」

 

ISを展開して逃げ場を塞ぐツインテールの小柄な少女、金髪縦ロールの少女。静観の姿勢に入る銀髪の少女。

 

「マドカ、シャル!そいつをとっ捕まえるわよ!今ならここで確実にラーズグリーズを捕まえれるわ!」

 

「・・・・・」

 

戦意の意思を全身から表すツインテールの少女にラーズグリーズは赤黒いブレードを召喚する。

 

「この場で争うのですか?」

 

「何あんた。そいつの仲間なわけ?」

 

「それ以上の関係とお伝えします。それより、代表候補生の方々が独断で公共の場にISを展開してもよろしいのでしょうか」

 

「敵が目の前にいて素通りさせる程、私達は甘くありませんわ」

 

「当然の考えしょう。ですが、私達はともかくあなた方にとって不都合なことが起きかねないことを承知の上で行動をしているのですね?今私達がいる場所と時間帯、そしてこの場で戦えばどうなってしまうのかを」

 

クロエの言葉に目をかっと見開く二人。ようやく理解に追い付き呑み込めたか苦虫を嚙み潰したような表情になった。この場で争えば二次災害、買い物客がいるショッピングモールの中を流れ弾や意図的な破壊をすれば死者が何十人も出ても不思議ではない。それが現実となり世間に露見されることになれば責任を問われるのはISに関わる者たちすべてだ。その中にラーズグリーズとクロエは含まれておらず、責任は二人以外のこの場にいる全員が負うことになる。

 

「IS学園では私達を見つけ次第、ISを展開して捕える指示を受けていますか?」

 

「それは・・・・っ」

 

「当然、IS学園の教えで許可もなくISの展開、部分展開でも固く禁じられており市街地での戦闘も厳禁であるかと。お二人は各国の代表候補生として、今の立ち振る舞いが胸を張って正しいと物申すことができますか?」

 

「うっ・・・・・!」

 

「それに比べて他の代表候補生は理解しておられます。この場で戦闘を発展させることはリスクであることを承知しています。それに―――」

 

ラーズグリーズの赤黒いブレードが蘭の首筋、薄皮一枚に留めて突き付けた。

 

「この場に無関係な人がこうして人質になってしまいます。勿論、マドカ様と紆余曲折で本来の性別を明かしたシャルロット・デュノア様がそうはさせないでしょう。さらに申し上げると私達だけがこの場にいるとは限りません」

 

ラーズグリーズが指を鳴らすと、その音に呼応して彼女達を取り囲む風にISを展開して装着したセイン達が武装を構えた。よもや人数を上回るほどのIS保有者が、敵がすぐ近くにいたとは思いもしなかった一同は絶句する。

 

『っ!?』

 

「戦いを望むなら私達も応じます。もしもそうなったら貴女達のISかコアをいただきます」

 

如何なさいますか。場を完全に支配したクロエに誰一人逆らえず、ISを待機状態して大人しく道を譲る。

 

「ご賢明な判断に感謝します。私達も無用な戦いはしたくありませんので」

 

「どの口が言うのよっ」

 

ラーズグリーズ達もISという矛を収めて去る。見えなくまで見送るしかなかった少女達のその後は。

 

「おい小娘ども」

 

「「ひっ!」」

 

「敵に論破されるどころかこの瞬間どれだけ規則を破ったかわかっているな。止められなかった、止めなかった貴様らも同罪として学園に帰ったら覚えておけ、いいな」

 

「なっ、それは横暴―――!」

 

「い・い・な?」

 

「・・・・・鈴、セシリア・・・・・覚えておけよっ!」

 

理不尽な罰を受ける羽目になった犠牲者が多数出たのであった。

 

 

―――†―――†―――†―――

 

 

「海っ!見えたぁっ!」

 

臨海学校初日、天候にも恵まれて無事快晴。陽光を反射する海面は穏やかで、心地良さそうな潮風にゆっくりと揺らいでいた。

 

「おー。やっぱり海を見るとテンション上がるなぁ」

 

「・・・・・夏は嫌いだ。熱い、死ぬぅ・・・・・」

 

「秋十はめっちゃテンション下がりっぱなしだがな」

 

「秋兄は秋になるとテンション上がるんだけどな」

 

「こいつは犬か猫か」

 

隣人は男性操縦者で座り、色めき立つクラスの女子の声を耳にしながら海を視界に入れつつ会話をする。

 

「お前等の名前に季節の名前が入っているからか、名前通りの季節になると反応が違うよな」

 

「千冬さんは冬になっても変わらずだけど、お前等が一番わかりやすいわ」

 

「そうか?」

 

憂鬱の秋十を除いて最後列の後部座席へ三人は目を向けた。そこに腕を組んで座っているマドカが窓の外を見ていた。その目は酷く遠い眼で心ここにあらずといった感じでぼうっとしていた。箒、セシリア、シャルロット、ラウラは各々とクラスメートと雑談を交わしていたり静かに座っているのでマドカの様子は少々浮いていた。

しばらくした後「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」と千冬の言葉に従い全員もさっとそれに従う。言葉通りほどなくしてバスは目的地である旅館前に到着。四台のバスからIS学園一年生がわらわらと出て来て整列した。

 

「それでは、ここが今日から三日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

 

この旅館の着物姿の女将が全員で挨拶する女子達に応じて丁寧にお辞儀をした。

 

「はい、こちらこそ。今年の一年生も元気があってよろしいですね」

 

「今年は異常なほどにです。ご迷惑をおかけすると思うと申し訳が無いです」

 

「元気なほどいいではありませんか。あら、こちらが噂の・・・・・?」

 

ふと、一夏達と目が合った女将が千冬にそう尋ねる。

 

「ええ、まあ。今年は男子がいるせいで浴場訳が厳しくなってしまった申し訳ありません」

 

「噂はかねがね聞いております。未来ある生徒さんに恵まれて大変でしょう」

 

「ええ、色々と手間がかかる生徒ですがね」

 

旅館から女将の背後に近づく着物姿の女性が現れた。女将はその女性の存在に気付き、丁度いいといった感じで声を掛けた。

 

「皆さんを旅館の中に案内してください」

 

「はい、かしこまりました」

 

その女性の登場に千冬達は不思議と静かになった。黄色い着物で華奢な体を身に包む彼女が纏う雰囲気、気配が言葉では言い表せない物を発していた。豊かな金髪に澄んだ青い瞳と外国人の容貌であるが変わった特徴ではない。しかし、自分達とは何かが違う・・・・・そんな感じがしてならないと思っている間に女将が彼女の紹介を口にした。

 

「ご紹介しますね。外国から移住して長らく一緒に旅館を支えて下さっている兵藤メリアです」

 

「IS学園の皆さま、短い間ですがよろしくお願いします」

 

よ、よろしくお願いします。と挨拶を返す一年生一同。綺麗な顔立ちで柔和に微笑まれながら挨拶されると気恥しげに言葉を詰まらせて返してしまった。

 

「・・・・・やべ、すっげ美人過ぎて惚れそうだ」

 

「綺麗って感想が言いたいなら同感だぞ弾。外国人かな」

 

「外国人だけならこっちにもいるが、ありゃ一線を越えた何かの存在だよな。独特な雰囲気を持ってるし」

 

「美女にミステリー・・・・・か」

 

「奇麗だなー」

 

メリアを意味深に見つめる一夏達。口では言い表せないメリアにの美貌と雰囲気に視線を奪われていたところ、頭に出席簿による攻撃が炸裂した。既に大半の女子が旅館の中へ足を進めていた時に何時までも見惚れてた四人の足が、案山子のように動いていなかったのを千冬に見られてたのだ。

 

「早く動け馬鹿者共が」

 

「「「「「は、はい」」」」」

 

すごすごと動く一夏達を睨むその目はメリアにも含まれ、彼女の視線に気づいたのか柔和に微笑を浮かべるメリアと目が合った。

 

「あっと、織斑先生」

 

催促されたはずの一夏が千冬に声をかけた。

 

「束さんって来るんですか?」

 

「正直わからん。あいつに行動を規制することも束縛することなど自由奔放の度を越えてできないからな」

 

ただ、と一言付け加える。

 

「あともう少しで篠ノ之の誕生日だ。必ず現れると思って身構えておけ」

 

身構えておけ、ってそんな大袈裟な。と思うもここに束達がいないとなると不安が払拭できない気持ちがあった。特にラーズグリーズがまた襲撃しているんじゃないかと思うと余計になってしまう。

 

 

しかし、一夏の気持ちを裏切らないラーズグリーズがいた。新たに実戦配備されている軍の施設に強襲をかけたのだ。だが、あろうことか同じタイミングで絶対天敵(イマージュ・オリジス)が出現して三つ巴の戦いに発展した。そのことを千冬達は気づかなかったがIS学園は把握し、直ぐに報告した。

 

 

その報告は生徒達には届かないまま―――思い思いに海で遊ぶと時間はあっという間に過ぎ、お広間三つを繋げた大宴会場で食事を済ませるIS学園一年生達。メニューは刺身(キモつき)小鍋、それに山菜の和え物が二種類。さらに赤だし味噌汁とお新香。その日の夜の食事を済ませれば用意された和室に足を運び就寝時間まで寛ぐ。

 

 

 

合宿二日目、午前から夜まで丸一日ISの各種装備試験運用とデータ取りに追われる。特に専用機持ちは大量の装備が持っているので訓練機よりも数倍労力を使う。昨日のうら若き花の十代女子らしく大はしゃぎで一時の夏を過ごした分、今日は真面目に臨海学校の本来の目的を取り組んで臨まなければならないところ、意外や意外ラウラが寝坊したのであった。集合時間に五分遅れてやって来て千冬からISのコア・ネットワークについて説明を求められ、緊張しながら説明口調で語った後に遅刻の件の許しを得た。

 

「さて、それでは各班ごとに振り分けられたISの装備試験を行うように。専用機持ちは専用パーツのテストだ。全員、迅速に行え」

 

はーい、と一同が返事をする。さすがに一学年全員がずらりと並んでいるので、かなりの人数だ。そんな人数で作業を取り組もうとしている現在位置はIS試験用のビーチで、四方を切り立った崖に囲まれている。ちょっとした秘密のビーチみたいで、ドーム状なのが、どこか学園のアリーナを連想させる。大海原に出るには一度水面下に潜って、水中のトンネルから行く。ここに搬入されたISと新型装備のテストが今回の合宿の目的。当然ISの稼働を行うので、全員がISスーツ着用姿だ。海にいるとますます水着に見える。

 

「ああ、篠ノ之。お前はちょっとこっちに来い」

 

「はい」

 

打鉄用の装備を運んでいた箒は、千冬に呼ばれてそちらへと向かう。何故代表候補生でも専用機を持っていない彼女を?と抱く疑問は割とすぐに解消された。

 

「お前には今日から専用―――」

 

「ちーちゃ~~~~~~~~~ん!!!」

 

ずどどどど・・・・・・!と砂煙を上げながら人影が走ってくる。無茶苦茶速く駆けてくるその影は―――篠ノ之束である。いつものワンピース姿で豊満な胸を揺らしながら堂々と臨海学校に乱入してきた。

 

「・・・・・・束」

 

「やあやあ!会いたかったよ、ちーちゃん!さあ、ハグハグしよう!愛を確かめ―――ぶへっ」

 

飛び掛かってきた束を片手で掴む。しかも顔面だ。思いっきり指が食い込んでいた。手加減する必要のない相手には遠慮の文字は握り潰されるものである。

 

「うるさいぞ、束」

 

「ぐぬぬぬ・・・・・相変わらず容赦のないアイアンクローだね」

 

千冬のアイアンクローからするりと抜け出して距離を置く束に催促する千冬。

 

「バカをやってないでさっさとしろ」

 

「わかったよー。さあ、大空をご覧あれ!」

 

びしっと直上を指す束。その言葉に従って一同も、そして他の生徒達も空を見上げる。

 

ズズーンッ!

 

「のわっ!?」

 

大空から一つの金属の塊が砂浜に落下してきた。一学年の生徒全員と目を張る一夏達の目の前で銀色をしたそれは、次の瞬間正面らしき壁がばたりと倒れてその中身を皆に見せる。そこにあったのは―――。

 

「じゃじゃーん!これぞ箒ちゃん専用機こと『紅椿』!『紅椿』は全スペックが現行ISを上回る束さんお手製ISだよ!」

 

真紅の装甲に身を包んだその機体は、束の言葉に呼応するかのように動作アームによって外へと出てくる。新品のIS故に太陽光を反射する真紅色の装甲がとても眩しい。

 

「さあ!箒ちゃん、今からフィッティングとパーソナライズをはじめようか!私が補佐するから直ぐに終わるよん♪」

 

「・・・・・」

 

ぴ、とリモコンのボタンを押す束。刹那、紅椿の装甲が割れて、操従者を受け入れる状態に移る。しかも自動的に膝を落として、乗り込みやすい姿勢にと変わった。

 

「箒ちゃんのデータはある程度先行していれてあるから、あとは最新データに更新するだけだね。さて、ぴ、ぽ、ぱ♪」

 

コンソールを開いて指を滑らせる束。さらに空中投影のディスプレイを六枚ほど呼び出すと、膨大なデータに目配りしていく。それと同時進行で、同じく六枚を呼び出した空中投影のキーボードを叩いていった。

 

「近接戦闘を基礎に万能型に調整してあるから、直ぐに馴染むと思うよ。あとは自動支援装備も付けておいたからね!お姉ちゃんが!」

 

「それは、どうも」

 

素っ気ない態度で相槌を打つ箒を他所に束の指の動きは、もはやキーボードを打つと言うよりもピアノを弾いているかのような滑らかかつ素早い動きで、数秒単位で切り替わっていく画面にも全部しっかりと目を通している。束の作業の効率とその速さは世界各国のIS整備士を超えているだろう。故に己を天才と称する束の凄さが解ってしまうのだった。

 

「あの専用機って篠ノ之さん達がもらえるの・・・・・?身内ってだけで」

 

「だよねぇ。なんかずるいよねぇ」

 

ふと、群衆の中からそんな声が聞こえた。それに素早く反応したのは、束と意外な人物だった。

 

「おやおや、歴史の勉強したことがないのかな?有史以来、世界が平等であったことなど一度もないよ」

 

ピンポイントに指摘を受けた女子は気まずそうに作業に戻る。それを別段どうでもいいように流して、束は調整を続ける。そしてそれもすぐに終わって、束は並んだディスプレイを閉じていく。

 

「あとは自動処理に任せておけばパーソナライズも終わるねー。あ、いっくん白式見せて。束さんは興味津々なのだよ」

 

「え、あ。はい」

 

全部のディスプレイとキーボードを片づけて、束は一夏の方を向く。ひらりとなびいたスカートが、子供っぽい性格とは正反対に淑女を連想させる。ともあれ、一夏は白式を待機状態にし、右腕に嵌めたガントレットに左手を添えると意識を集中させた。

 

 

それからあっという間に経つ三分。

 

「んじゃ、試運転もかねて飛んでみてよ。箒ちゃん達のイメージ通りに動くはずだよ」

 

「ええ。それでは試してみます」

 

プシュッ、プシュッ、と音を立てて連結されたケーブル類が外れていく。それから箒達がまぶたを閉じて意識を集中させると、次の瞬間に三機は物凄い速度で飛翔した。その急加速の余波で発生した衝撃波に砂が舞い上がる。それから三人の姿を追うと、二百メートルほど上空で滑空する紅椿、黒騎士、暁黄昏を専用機持ちのハイパーセンサーが捉えた。

 

「どうどう?箒ちゃんが思った以上に動くでしょ?」

 

「え、ええ、まぁ・・・・・」

 

ならばと束と一誠は顔を見合わせて頷き合った。

 

「じゃあ箒ちゃん刀使ってみてよー。右のが『雨月』で左のが『空裂』ね。武器特性のデータ送るよん」

 

そう言って空中に指を躍らせる束。武器データを受け取った箒は、しゅらんと二本同時に刀を抜き取る。

 

「親切丁寧な束おねーちゃんの解説つき~♪雨月は対単一仕様の武装で打突に合わせて刃部分からエネルギー刃を放出、連続して敵を蜂の巣に!する武器だよ~。射程距離は、まあアサルトライフルくらいだね。スナイパーライフルの間合いでは届かないけど、紅椿の機動性なら大丈夫」

 

束の解説に合わせてかどうかはわからないが、箒が試しとばかりに突きを放つ。刃から赤いレーザーが光が球体として現れ、そして順番に光の弾丸となって漂っていた雲を穴だらけにした。

 

「次は空裂ねー。こっちは対集団仕様の武器だよん。斬撃に合わせて帯状の性エネルギーをぶつけるんだよー。振った範囲に自動で展開するから超便利」

 

「てなわけでこれ打ち落としてみてね、ほーいっと」

 

言うなり、束はいきなり十六連装ミサイルポッド×2を呼び出す(コール)。光の粒子が集まって形を成すと、次の瞬間一斉射撃を行った。

 

「箒!」

 

「―――やれる!この紅椿なら!」

 

その言葉通り、右脇下に構えた空裂を一回転するように振るう箒。またあの赤いレーザーが、今度は束の言葉通り帯状になって広がり、計十六発のミサイルを全弾撃墜した。爆炎がゆっくりと収まっていく中、その真紅のISと箒は威風堂々たる姿をしていた。

 

地上では試運転の成功、全員がその圧倒的なスペックに驚愕し、言葉を失っている一夏達の元に豊満な胸を揺らしながら山田真耶が顔に焦りの色を浮かべて千冬の元へ。渡された小型端末の、その画面を見て千冬の目は鋭くなった。

 

「特命任務レベルA、現時刻より対策を始められたし・・・・・」

 

 

 

とある空域で超音速飛行を続けている銀色のISを追いかける―――混沌と破壊を齎す機龍(カオス・マーシナリードラグーン)の軍勢。その内の一機の頭部に乗っているアジ・ダハーカもいて感心した目で視界に入れていた。

 

「存外に粘るな。が、操従者の意識が無いまま飛行しているのはISがそうしているからか?」

 

まあ、どちらでもよいがな。とほくそ笑む絶対天敵(イマージュ・オリジス)は狩る側として逃げる兎を全力で追いかける。じわじわと弱っていくのを眺めながら銃弾やレーザーを放ちつつ追い詰めていくと、何時しか知らず知らず臨海学校の旅館がある海域と空域に侵入するのであった。

 

 

時刻は十一時半。二キロ先の空域に絶対天敵(イマージュ・オリジス)が通過する情報を得て、専用機達はこの事態を対処することになった。紅椿―――第四世代型の仕様・展開装甲の調整も終えて出撃準備が整った状態で砂浜に立っていたが、何故かIS学園の生徒ではないラーズグリーズまで駆り出される不思議な状況。

 

どうしてこうなったのか、少し時が遡る。

 

「では、現状を説明する」

 

緊急事態となってテスト稼働は中止。ざわめく一年生一同は旅館に戻り各自室内で待機されている間、専用機持ちの一夏達は旅館の一番奥に設けられた宴会用の大座敷・風花の間で教師陣と集っていた。照明を落とした薄暗い室内に、ぼうっと大型の空中投影ディスプレイが浮かんでいる。

 

「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発をしていた施設が絶対天敵(イマージュ・オリジス)の襲撃に遭う際、共同開発の第三世代型の軍用IS『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が制御化を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」

 

正式な国家代表候補生ではない一夏とマドカ、箒とは違って国家代表候補生達はこういった事態に対しての訓練を受けている様子で厳しい顔つき、真剣な表情や眼差しをしていた。マドカは事の重大を察したのか、混乱と戸惑いの色を浮かべず真摯に耳を傾けていた。

 

「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することが分かった。しかも暴走したISを追いかける金属生命体もだ。時間にして五十分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」

 

今現在も超音速飛行で行く宛ても帰る場所もないまま飛び続けている暴走したISの追跡と撃墜、世界と人類の敵の迎撃・撃墜の作戦を受け、暴走した福音は一撃必殺の威力を有している一夏と―――天井裏から忍者の如く現れた束の提案で第四世代型IS紅椿の展開装甲の説明で箒、あろうことかラーズグリーズまでが福音の対処をすることになり、混沌と破壊を齎す機械龍(カオス・マーシナリードラグーン)は残りの専用機持ちが相手にすることとなったのである。

 

「来い、白式」

 

「行くぞ、紅椿」

 

一夏と箒がISを展開したのを皮切りにセシリア達もISを装着する。同世代の少年少女達が作戦を臨むことは今回が初めてだ。慣れない集団戦の連携で仕損じるかもしれないが、互いが互いをカバーしあって任務を全うする他ない。だが、紅いISを纏う少女から重大な任務を臨むとは思えない程、一夏と喋る時の声音が喜色に弾んでいた。千冬だけでなくセシリア達も箒の様子の異変に気付いている。

 

『お前達、伝えておく』

 

プライベート・チャンネルで千冬からの声が届く一夏達。

 

『今作戦においてラーズグリーズも篠ノ之束に介して協力してもらうが、敵でも味方でもない相手だ。お前達に攻撃を仕掛ける可能性はないとは言い切れない。警戒だけは怠るな。用心しろ』

 

離れた位置で佇んでいる青いISを装着しているラーズグリーズ。全員が千冬の言葉に肯定する。

 

「大丈夫です。もしその時は私達全員で止めて見せます」

 

『・・・・・』

 

やはり危ういと箒の返答に一夏達は察しても千冬の声がオープンに切り替わり、号令をかけた。

 

『では、はじめ!』

 

―――作戦、開始。

 

箒は一夏を背に乗せたまま、一気に三百メートルまで飛翔するその直前にラーズグリーズは一気に五百メートルまで飛翔していたことに一夏達は絶句した。ラーズグリーズが装着しているIS『遥かなる青の空想(グランブルー・ファンタジー)』は第三世代型のISであるが、速度だけなら全ISを凌駕している。第四世代型ISの紅椿にすら負けていないのだった。

 

「くっ・・・!」

 

「篠ノ之、張り合おうとするなよ。私達は私達で動けばいい」

 

「わ、わかっている!」

 

マドカから釘を刺される。それでも速度を上げて目標の座標のところへ飛翔する。

 

 

一足早く目的の空気にたどり着いたラーズグリーズ。ハイパーセンサーの視覚情報が自分の感覚のように目標を映し出す。銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)はその名の相応しく全身が銀色をしている。そして何より異質なのが、頭部から生えた一対の巨大な翼だ。本体同様銀色に輝くそれは、ラーズグリーズが参加しなかった作戦会議に判明した大型スラスターと広域射撃武器を融合させた新型システム。そして、そのISを肉薄仕掛る機械生命体の軍勢。

 

「・・・・・」

 

青色の機体が、輪後光が眩い光を放った直後に赤く染まってぼっと燃えだす炎を纏い、火の鳥のように翼を広げ福音と機械生命体の間に割り込んだ。

 

「―――火葬(ほうむ)れ」

 

エネルギーチャージ・FULL。

 

「煉獄の焔火」

 

輪後光に集まる炎の球状が太陽と彷彿させるまでには至らなくとも巨大な火炎球を作り出した。と同時に炎の塊から火柱のように放たれる熱線が、混沌と破壊を齎す機龍(カオス・マーシナリードラグーン)の中央に貫く直後、大爆発を起こした。三分の一ほどの金属生命体は焼失したか、黒焦げになって形を残しながら蒼海へ落ちていく。遥かなる青の空想(グランブルー・ファンタジー)の真骨頂とも呼べる唯一仕様(ワン・オフ・アビリティー)の威力を目の当たりにした千冬達は、目を見開きながら言葉を出すことが忘れたように唖然となった。しかし、炎のエネルギーを使い果たした為か、炎の衣は消え失せ青色のカラーに戻って冷却システムが作動した。それ故そこから一歩も動けないラーズグリーズは相手の好い的になってしまう。

 

「―――誰かと思えば、あの時のISか。あの銀色のISを狙いに来たようだな」

 

福音から完全に意識と矛先を変えた男と支配下の金属生命体に囲まれる。

 

「・・・・・アジ・ダハーカ」

 

「如何にも。我が名はアジ・ダハーカ。世界と人類の絶対天敵、イマージュ・オリジスとやら呼ばれている者だ」

 

まだ残っているイマージュ・オリジスをけしかけた。未だに冷却しきれてないISを動かせば十全も発揮できない。迫りくるイマージュ・オリジスに対して福音は己をロックせず、敵機として確認させないでいるおかしな機体にふしぎそうに見ている。その仕草はどこか人間味があった。遅れてやってきた箒と一夏。ラーズグリーズに叱咤した。

 

「どうして突っ立っている!」

 

「・・・・・」

 

「・・・・・福音は」

 

暴走しているんじゃなかったのか、と思っていたISは何故か大人しい。不思議を通り越して不自然だと思う二人の隣で冷却機能が停止し、再び太陽光のエネルギーをチャージし始めた。敵はまだいる。と言外して一夏と箒と共に攻撃を仕掛け、そんな三人を見送る福音にも襲いかかられ、

 

「迎撃モードへ移行。《銀の鐘(シルバー・ベル)》稼働開始」

 

機械的な音声が発し、奇妙な共闘が始まった。作戦本部の大広間にいる千冬達もこれには謎だと思いながらも、優先順位を変えずにはいられなかった。

 

「全機、機械生命体の殲滅を優先。福音は後回しにしろ」

 

 

 

しばらくして、他の専用機達も戦闘領域に突入。ラーズグリーズと一夏に箒、何故か福音まで共闘している姿に疑問を抱くが千冬からの指示で自分達も共闘をして本来の敵に対する攻撃を始める。

 

アジ・ダハーカは減っていく玩具を威風堂々とした佇まいで高みの見物を決め込んでいる。混沌と破壊を齎す機龍(カオス・マーシナリードラグーン)の形状は超音速の飛行をする奇襲型『ワイバーン』。数は優に百を超えている。十機も満たない専用機持ちは厳しい戦いになるかと思っていたが、機械生命体との戦闘が初めてであったり、専用機を得たその日に初の実践する少年少女達は互いをカバー、フォローし合って着実に敵の数を減らしていく。

 

「一夏、アンタ零落白夜や瞬時加速(イグニッション・ブースト)をバンバン使い過ぎないでよね!エネルギーの消費がこの中で一番一番激しいのはアンタなんだから先に戦えなくなるなんて許さないんだから!」

 

「わかってる!零落白夜発動。おおおおおーっ!」

 

「言われている傍から使うんじゃありませんことよ!?」

 

「シャルロット!」

 

「うん、行くよリヴァイヴ!」

 

世界最強の兵器は流石に強いな、高みの見物をしていながらそう感心するアジ・ダハーカ。ワイバーンの武装は口内と手翼から射出する実弾かビームのみ。アメリカとアラスカの共同開発施設に奇襲を仕掛けるところまでは何て事はなかったが、やはり威力が不足していたことに苦笑いする。

 

「La・・・・・♪」

 

銀色の福音(シルバリオ・ゴスペル)がウイングスラスターの、三六の砲門からエネルギー弾の雨を上空から全方位に向けての一斉射撃を行った。巻き添えになりそうになりながら急後退、回避をする専用機持ち。そして直撃を免れなかった機械生命体等は大海原に沈んでいく。

 

「ちょっとっ!やっぱり暴走しているんじゃないの!?」

 

「いや、周りを見ろ。さっきの射撃で殆どのイマージュ・オリジスが減ったぞ」

 

「さりげなく僕達まで撃ち落とそうと考えていたら恐いね」

 

危なっかしい援護を受けながら残りの敵機を撃破していく。そんな中、守りが手薄となっているアジ・ダハーカの元へ紅が迫っていく。主を守らんと襲いかかるワイバーンを空裂が放つ帯状の紅いレーザーで斬り捨て、突破して刀の切っ先を突き付けた。

 

「投降しろ。お前の作った玩具は全てなくなる」

 

「もしも断れば?」

 

「痛い目に遭うだけだ。お前が機械に命を与える能力があろうと、お前自身は無力であることは変わりない」

 

嘲笑するアジ・ダハーカにもう一度語気を強くして投降を求めた。

 

「お前の負けだ、アジ・ダハーカ。大人しく降参―――!」

 

徐に降伏を命じる箒が言った矢先。華奢な体が凄まじい衝撃波を受け、数百メートル先まで吹っ飛んだ。

 

「たかが機械程度で俺に勝てると思っていたのか?俺は我が主に創造されし最強の一角であることをその身に思い知らせてやろうか」

 

見えない力によって吹き飛ばされた仲間をセシリアが受け止めている間、アジ・ダハーカが宙に浮いた。そして彼の男の周囲に幾何学的な黒い円陣が―――。

 

「小手調べだ。踊り続けろ」

 

それら全て、光のエネルギー弾として一斉射撃を行い一夏達へ放ったのであった。絶句、瞠目する少年少女達は蜘蛛の子が散るようにそれぞれ回避行動を取ったのであるが、一向にも撒ける気配が感じない。

 

「・・・・・」

 

追ってくる敵の追尾攻撃にラーズがビッドのエネルギー弾で打ち落とすことが成功した。

 

『セシリア、ラーズグリーズがしたように!』

 

『それしかないようですわね!』

 

二人も攻略の糸口を見つけそれぞれ動く。セシリアが鈴、シャルがラウラに向かい射撃武器を構えて擦れ違う際、エネルギー弾に撃つと暴発した。その無力化をした方法を見た他の皆も自分で対処したり仲間に対処してもらったりして乗りきった。

 

「ふむ・・・・・ならこれはどうだ」

 

上空に手を掲げたアジ・ダハーカに呼応して今度は巨大な幾何学的な黒い円陣が発現した。今度は何をするのかと身構える相手に口端を吊り上げた。

 

「千の雷を見たことがあるか?」

 

轟く雷鳴、稲光する雷。槍の如く宙にいる一夏達に牙を向くその姿はまるで龍―――。雷の速度にISが反応することも操縦者が回避する間もなく全員、IS諸共全身に電撃のダメージを受け福音も含めて全滅―――。シールドエネルギーの残量が0、ISも損傷が軽くCレベルを超えて皆と蒼海へ落ちてゆく最中、旅館へ飛行するアジ・ダハーカへ睨むラーズグリーズが諦めの色を浮かべていなかった。

 

肩のアーマーの龍の口から収束する光が極太のビームと化してアジ・ダハーカに迫った。この攻撃に難なく片手で弾かれた。

 

「・・・・・ッ」

 

一矢も報い得ずこのまま敗北と共に海に落ちるのを待つだけと思った刹那、ラーズグリーズの体から一瞬の閃光の後。黒の機体が目の前に具現化した。操縦者を受け入れる姿勢になるその機体に手を伸ばす。と同時に海面が強烈な光の球によって吹き飛んだ。球状に蒸発した海は、まるでそこだけ時間が止まっているかのようにへこんだままだった。その中心、青い雷を纏った『銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)』が自らを抱くかのように蹲っている。

 

「・・・・・っ」

 

培養カプセルの中で飼い殺ししているラーズグリーズを見上げ、せせら笑う科学者と政府の人間の顔が脳裏を過る。

 

『よくやった。この素材のお陰でさらに男の操縦者を増やせるだろう。他国に対して強い姿勢でいられる』

 

『それでも数に限りがありますがね。このモルモットからどれだけ搾取出来るか』

 

『なに、搾れるだけ絞ればいい。この実験動物の力は我々人類のためになるのだからな』

 

粛清するだけでは、ない!海面へ落ちる一夏とマドカを視界に入れて強い決意を口にする。そしてその想いは強く、歪でも熱い。それに応えるように自身のコアと遥かなる青の空想(グランブルー・ファンタジー)が輝きだした。

アヴェンジャーの装甲がグランブルー・ファンタジーに触れた途端、共鳴現象(レゾナンス・エフェクト)が起きた。光に包まれるラーズグリーズと二つの機体。しかし、強制解除されたラーズグリーズは空へ放り出されるも。

 

『キアアアアアア・・・・・・!!』

 

どこからか獣の咆哮のような声が聞こえ、声がした―――海に視線を向けると頭部からエネルギーの翼が生えた銀の福音(シルバリオ・ゴスペル)が迫って来ていた。ここで攻撃してくるのか、とラーズグリーズの考えを裏切り背中から光の渦となった二つの機体の方へと押しやった。まるで己を光りある場所に連れていくかのような福音の行動に言葉を失いながらも切に願った。

 

「(・・・・・例え俺が―――)」

 

ラーズグリーズの心の叫びが、その本心が、その想いが、―――届いた。

 

宙に佇む二つ(三つ)の機体が一つの輪になり、福音の手によって押し上げられたラーズグリーズをとりまく。それはまるで光と闇に祝福されているかのように。やがて光が弾け―――新たな力を得て顕現した。

 

全身が濡れ羽色と白銀に金色のカラーの棘付き装甲(スパイク・アーマー)の機体。背部は三対六枚の巨大な純白と漆黒と金色のエネルギー・ウィングに変化。頭上に幾重も重なった輪っかと変わらない黒い能面のマスクを被って、ウィングスラスターと肩のアーマーの龍の顔とテールクローが無くなりカラーが変化した程度の変化を気にすることなく、アジ・ダハーカに粒子召喚した剣を突き付けた。福音もラーズグリーズの横に並び臨戦態勢の構えを取った。

 

「今の現象・・・・・お前に興味が沸いた」

 

「・・・・・」

 

「だが、新たな力を得ても俺には勝てない。機械の力を頼っている限りはな」

 

そう言って黒い幾何学的な円陣を展開したアジ・ダハーカが魔法的な光に包まれ姿を消した。

・・・・・いなくなった?何故?疑問しかない突然消えていなくなったアジ・ダハーカにラーズグリーズは―――はっと旅館がある方へ振り向いた。

 

 

「ぜ、全機全滅・・・・・っ」

 

旅館の指令室に設けた薄暗い部屋の中で真耶が震えた声音で状況を報告した。まさかの結果に千冬も予想外だったため目を細め奥歯を噛みしめた。

 

「ラーズグリーズもか・・・・・」

 

「いえ、それが・・・・・ラーズグリーズ君のISが」

 

「ほうほう、らーくんが新しい機体を手に入れたみたいだね。アヴェンジャーと遥かなる青の空想(グランブルー・ファンタジー)が融合した第四世代型に匹敵するISをね!」

 

唐突に束が叫び出した。状況を把握できるのは機体とリンクしている空中投影のディスプレイしかない。だというのに現場で見た風な言い方をする。振り返る千冬は詳細と求めた。

 

「束、見ていたのか」

 

「らーくんのISにはカメラを内蔵してるからね!さっすがは私の助手だよ!束さんの想像や考えを遥かに超えたことしてくれるんだからびっくりしちゃった!」

 

 

 

「・・・・・」

 

廊下に佇んでいた着物を着こんでいる仲居、メリアが指令室の中での会話を盗み聞きした後、とある部屋へと向かった。そこは秋十と一誠がいる寝室で兄と妹の帰りを待っていた二人に詳細を教えた。

 

「全員が倒されたっ!?一夏やマドカ、他の皆はどうなったんです!」

 

「救助隊が送り込まれると思いますので、お二人はどうか気持ちを落ち着かせて出迎えてあげてください」

 

一夏達の戦況を知らされた二人は酷く動揺した。敵は思っていた以上の強大で仲間や家族が負けるとは想像しなかったか秋十は愕然とし、一誠は握りこぶしを作って己の非力さに悔恨している。

 

「家族がやられて・・・・・くそっ、俺にも力があれば!」

 

「ISがあればな・・・・・」

 

「束さんに頼めば・・・・・!」

 

「いや、今すぐは無理だろ。それに・・・・・」

 

言いづらそうに言葉を濁し、心中で発しようとした言葉を留めた。

 

「それに?」

 

「や、手に入ったら一夏みたいに千冬姉のスパルタ式訓練が・・・・・よ」

 

「納得」

 

脳裏にド素人を特訓させる鬼教官が浮かび、自分もスパルタ式の訓練でしごかれる想像をして顔に影を落とす。

 

「力が欲しいのですか?」

 

メリアからの問いに彼女へ顔を向ける。

 

「力を手に入れたら何をしたいのですか?」

 

「何をしたいって、皆や家族を守りたいですよ」

 

「それに手の届く距離の人達も助けたい。今世界は大変な事になってるから」

 

二人の返答にメリアは、優しい眼差しで聞いていたが不意に意識を部屋の外へと向ける。誰か来たのかと思った矢先に―――静かにアジ・ダハーカが現れた。

 

「それがお前の覚悟か」

 

「な、お前っ・・・・・!」

 

「だが、覚悟が定まっても力がなければただの幻想。ISもない者の寝言程度でしかない」

 

機械や金属に命を与える聖杯を懐から取り出し、見せつけるアジ・ダハーカは不適の笑みを浮かべた。

 

「力を欲するならばこれを手に入れる必要がある。これは俺が持つ以外にももう二つある。三つ揃えたらISという玩具など比じゃない強力で強大な力を得られるのだ」

 

「三つ・・・・・!?」

 

「そうだ、一つは俺、そしてもう一つはとある女が持っている。そして最後の一つは」

 

意味深に言いつつ勿体ぶるアジ・ダハーカの会話の最中、メリアがいつの間にか彼の男と同じ杯を持っていたのだった。これには秋十と一誠の心境は愕然と唖然だった。

 

「何で、あなたがそれを・・・・・っ」

 

「俺とメリアはとある目的を、約束が果たされるその日まで持ち続けていた仲間のような関係だ」

 

「仲間!?嘘だろ、何で人類の敵とメリアさんが!」

 

「アジ・ダハーカが人類の敵となったのは私も予想外でした。なんて余計なことをしてくれたのかと、今でも信じられない思いです。おかげでこの聖杯を譲渡するタイミングが変わってしまったのですからね」

 

非難めいた眼差しを向けられても悪そびれたアジ・ダハーカではなかった。秋十が気になる単語を吐露する。

 

「譲渡?」

 

「ええ、織斑一誠。この聖杯を貴方に授けることが我々の使命なのです」

 

何故自分に?メリアの告白に一誠は呆然と彼女を見つめ言い続ける言葉に耳を傾けた。

 

「アジ・ダハーカはまだ聖杯を渡す気はなさそうです。ですので私が持つこの聖杯を貴方に授けましょう。そして対抗できる力を身に着けてもらい、アジ・ダハーカを打破して世界を救う。きっとそういうシナリオを描いたから今回の騒動を起こしたのかと思われます」

 

「ふっ、ただ普通に渡すのも面白くないからな。メリアの言うことは殆ど正解だ。故に俺と戦い世界を救ってみせろ」

 

メリアから差し出される聖杯を恐る恐る手に取り、意匠が凝ったその杯に凝視して自問自答した末に握る力を強めた。真摯な目で一誠は尋ねた。

 

「本当にこの杯で俺は強くなれるのか?」

 

「あなた次第で強くなれます。強さを身に着ければ大切な者達を守ることもできます」

 

断言する彼女の言葉に口を閉ざしてから少しして、意を決したように一誠は宣言した。

 

「わかった、俺は皆を守るために強くなる」

 

「では、その聖杯を―――」

 

次の瞬間。天井が何かによって突き破られ部屋の中は轟く。部屋を破壊しながら乱入したものは・・・・・アジ・ダハーカを追いかけたラーズグリーズ。硬直している秋十と一誠を視界に映し、メリアとアジ・ダハーカを視界に入れ、最後は一誠が手にしていた聖杯を見て―――聖杯を奪わんと肉薄するラーズグリーズ。

 

「邪魔をするな」

 

人類の敵が、一誠を守らんと一瞬でラーズグリーズの前に立ち塞がり軽く弾き飛ばそうと手を軽く薙いだ。

 

「―――――」

 

アジ・ダハーカは目を丸くした。己の攻撃に見切ってかわす超反応を見せつけたラーズグリーズに。振るわれた手を掻い潜って一誠に向かってブレードの横腹を叩きつけようと振るった。しかし、一誠に直撃せず金色の膜のようなものに阻まれて防がれた。だが、それでも何度も振るい続ける。途轍もない執着心、何かに憑りつかれたように苛烈なまで攻撃を繰り返すが傷一つも付けれない。

 

「織斑一誠が狙いなのか、聖杯を狙っているのかそれとも両方なのかわかりません。ですが、これは彼に世界を救うために必要な物です」

 

そんなこと知ったことではないと金色の膜に向かって懲りずにブレードを振るった。また防がれるだけだとアジ・ダハーカは冷静に見定めていたところ。

 

「・・・・・反転」

 

一誠を守る金色の膜が激しく水の波紋を生じた。この結果に人類と世界の敵にメリアは信じられないものを見る気持ちで、膜に罅が走る嘆きのような音を耳にし、そして甲高い音共に弾ける瞬間を見送った。

 

「―――馬鹿な」

 

「機械の能力次第で魔法に干渉するのか。これは驚かされた。しかし―――」

 

結果は変わらないとラーズグリーズを背後から殴り飛ばしてこの場から遠ざけた。

 

「今の内だ」

 

「聖杯を胸に」

 

「・・・・・こう?」

 

胸に押し当てる一誠は聖杯が体の中に沈んでいく瞬間を秋十と驚き、不安になりながらも取り込んだ。そしてこの騒ぎに駆け付ける千冬と束。

 

「何の騒ぎだ!っ、アジ・ダハーカと仲居・・・・・この状況はなんだ」

 

「ふっ、織斑一誠に新たな力を手に入れさせただけだ」

 

「・・・・・何をしたっ」

 

手を出した事実を匂わせる発言に怒気を孕ます千冬は、異様な雰囲気を発するラーズグリーズの登場に束の言葉で疑問を抱いた。

 

「らーくん、怒ってるの?どうして?」

 

「何・・・・・?」

 

フルフェイスで顔が隠れているため感情や表情が判らない。だが、束も珍しいぐらい怒っているようだ。千冬は一体なぜだと理解できずにラーズグリーズへ視線を送っていると。どこまでも冷たく、淡々と感情が籠ってない声音で兵藤一誠に一緒に話しかけた。

 

「・・・・・お前を許さない」

 

「っ!?」

 

「・・・・・身内にも家族にもすべて奪われても、俺に残された大切なものだけは奪わせやしない」

 

束に近づき、彼女の背中と脚の裏に腕で支え横抱きに持ち上げると束と大空の彼方へと飛翔した。

ラーズグリーズと織斑一誠。この二人の関係性が未だ不明であるも何らかの事情を抱えている様子だった。それは千冬も似ていなる理由で胸に抱えていた。

 

「(・・・・・お前は一体なにを・・・・・)」

 

 

 

「ねぇらーくん、さっきの話はどういう・・・・・らーくん?」

 

「・・・・・」

 

旅館から遠く離れた海岸に待機していたクロエ達のもとに二人が戻るや否や、束の豊満な胸に飛び込み抱き着くラーズグリーズに不思議そうに見下ろしたが、母親のような母性に満ちた眼差しでラーズグリーズの心情がわからずとも優しくマスク越しで頭を撫でた。涙も流せない体に成り果てた愛おしい少年を抱きしめながら。

 

「私は誰にも奪われないからずっとらーくんの傍にいるよ~」

 

柔らかくない硬い感触の頭でも優しく愛情いっぱいに注ぐ束。

 

―――†―――†―――†―――

 

八月、IS学園は遅めの夏休みに入った。長期に亘る夏期休暇で、世界中からやってきた学園生は現在ほぼ半分が帰省中。もう半分は様々な理由で帰省せず残っている最中、専用機持ちは一年一組に召集を掛けられ各々座っていると教室に入ってくる水色の髪に赤い瞳の女子生徒が教卓の前に立った。

 

「さて、私で最後のようでよかったわ。帰省中だった子もいたから、なるべく全員に教えたいと思ってたの」

 

当然のようにし切り出す女子生徒にどこの誰だろうかと一夏達一年生は不思議そうな顔をしていた。

 

「と、その前に後輩君達に私の事自己紹介しないといけなかったわね」

 

手にしていた扇子をばっと広げたら『IS学園最強』と書かれてあった。

 

「改めて名乗るわね。私は二年生の更識楯無。このIS学園の生徒会長でもあり、ロシア代表でもあるからよろしくね一年生諸君」

 

疑問が解消したところで本題に戻る楯無。

 

「では、皆を呼んだのは他でもないイマージュ・オリジスに関することよ。知っての通り、イマージュ・オリジスの対抗手段としてISが最も有効とされたわ。その結果を受けて―――情報の集約と戦力の集結のため、各国緊急対策会議で、ここIS学園が迎撃拠点となることが正式決定しました」

 

「(敵に対抗できるのはISだけ。そして、ここが迎撃拠点。まさしく最前線になるってことか・・・・・)」

 

「現状、敵の目的はISそのものだと推測されてるわ。そこで、常にISと一体化している専用機持ちのリスクを減らすため、待機形態時の情報機能の一部を遮断しました。これで、ISを展開しない限りは敵から位置情報の把握はできないはずよ。あなた達の行動にも制限が掛らないわ。ただし、学園以外の場所でのIS起動はやむを得ない戦闘時のみよ。それは心しておいて」

 

楯無から説明を受け、事の重大を理解した一同の中でフォルテが訊く。

 

「それはわかったっスけど、あのアジ・ダハーカってどうするんっスか?映像を見た限りアレもISで対抗できるのか気になるっスよ。なんか、宙に浮いていたし」

 

「対抗できるかどうか言わせてもらえば―――無理なのよ」

 

「無理って・・・・マジっスか?」

 

「これは織斑先生から教えてくれた情報なのだけれど。アジ・ダハーカという者は魔力と言う未知のエネルギーで魔法を駆使するそうよ。実際、臨海学校に行っていた一年生達がその魔法を身を持って体験したわ」

 

雷雲が無い空から雷が一夏達に牙を剥き、たったの一撃でISを戦闘続行不可能にしてみせたその魔法の威力は計りしれず、当時の戦闘を思い出した少年少女達にとっては歯牙にも掛けれなかった悔しさと苦い思いしかない。

 

「へぇ、魔法かよ。本当にこの世に存在していたなんて驚いたぜ生徒会長」

 

頭の後ろに両手を回すダリルは興味を抱いた風に述べる。

 

「で、ISでも対抗できない相手にどうするんだ?イマージュ・オリジスの元凶なんだろう、捕まえない限りは止められないぜ」

 

「ISを勝つにはISで、なら目には目を歯には歯をで迎え撃つのよ」

 

どう言うことなんだ?と訝しげに楯無へ視線を注ぐ彼女の疑問は解消されなかった。意味深な笑みを広げた扇子で隠し、その扇子には『協力者』と書かれてあった故に詳細は語られなかったのである。

 

「アジ・ダハーカに関してはこちらに協力してくれる心強い人がバックについてくれて一緒に戦ってくれるわ。そしてそういうことだから、近い内に各国から続々と代表候補生が転入して集まってくることになっているわ。それまで皆は実力と連携をさらに磨きをかけるように心掛けてちょうだい」

 

一瞬、とある女子に視線を向けたその目は気に掛けるソレであったが、直ぐに口を開き続けた。

 

「それじゃ、現在学園は長期の夏期休暇の真っ只中だけど早速代表候補生の転入生を紹介するわ」

 

「え、もうですかっ?」

 

「そうよ。戦力は、いくらあっても足りないくらいでしょ?じゃ、まずは一人目の子ね。入ってちょうだい」

 

扉の向こうにいる転入生に向かって催促する楯無の言葉に応じ、教室に入ってくる代表候補生の姿を目の当たりにした鈴が、素っ頓狂な声を荒げながら信じられないものを見る目で、食って掛かるように指摘せずにはいられなかった。その言動に一夏達はキョトンとする。

 

「アンタ、まだ中等部のくせに何でここにいんのよ!台湾代表候補生の凰乱音!」

 

「どーも、鈴『おねーちゃん』。アタシ、優秀だから?飛び級だってさ、いいでしょ、フフン!」

 

腰に手を当てて胸を張る姿、そして髪方はサイドテールだが転入生の容姿は鈴と被って見えるぐらい似ていた。

 

「「「飛び級・・・・・」」」

 

織斑三兄妹はとある弟、兄と同じだな、と気持ちを一致し思い返したところで転入生の紹介が進められていく。二人目は深緑のボブカット、アメジストの瞳に褐色肌の少女が入ってきた。

 

「初めまして、タイ代表候補生のヴィシュヌ・イサ・ギャラクシーです。こちらには戦力補強および、文化交流、そして学力向上のために転入となりました。皆さん、よろしくお願いしますね」

 

丸くて小顔な代表候補生の紹介に専用機持ちは興味深々な眼差しで見つめた。学園には様々な外国から来た生徒はいるが、いない外国人もいるのだ。その一つがタイ人である。

 

「それじゃ、最後は転入生じゃないけど一気に紹介するわ」

 

一気に紹介―――複数人なのかと思った矢先、一夏達は目を見開いた。最後の転入生は誰かと思えば・・・・・日本で唯一、ISを操縦できる男達だったのだ。

 

「彼等は他のクラスから移動してもらったの。常に共に行動できるようにするためにね」

 

「そういうことだ。よろしくな」

 

「だけど、お互い足を引っ張らないようにしていきたい」

 

「あとは共闘や連携、命令は聞きつつも男として女に負ける気はないって宣戦布告をさせてもらうぜ?」

 

不敵な物言いを告げる男の操縦者達は一夏と秋十、一誠にも話しかけた。

 

「お前等も男なら、女に尻を敷かれる人生なんて過ごしたくないだろう。なりたくないなら女に負けない強さを一緒に磨きかけようぜ」

 

「それでも可憐な花を愛でるなら俺と一緒に可愛がろうね☆」

 

「この中で趣旨が違うのはお前と天神だけだぞおい」

 

「まあ女に対して挑発するけれど、そこに悪意はないから気にしないでくれ。単なる男としての挑戦みたいな感じだから俺達は」

 

女尊男卑に依存している女性からすれば目の敵にされる発言である。しかし、本人達からは本当に悪意の微塵も感じられず、優越感に浸らず女に負けない証明を純粋にしたがっているのだろう。少なくとも一夏達の中で彼等の印象は悪くはない。ただ一人は除いて。

 

これで転入生の紹介が終わり、質問会が行われる雰囲気が醸し出したところで皆の意識を一変させる甲高い警報が学園中に響き渡った。

 

「これは・・・・・!」

 

「敵襲ですか・・・・・!」

 

「どうやらそのようね。皆、直ぐに向かうわよ!」

 

『はいっ!』

 

 

 

「おおっと~、らーくん。イマージュ・オリジスちゃんがアリーナに出現したよ~?また調べに行こうか!」

 

「・・・・・」

 

 

 

一夏達は第一アリーナへ躍り出るように飛び込むと今まで見てきた敵とは異なっているイマージュ・オリジスと遭遇した。西洋のドラゴンタイプではなく、一言で表せば恐竜の姿形をしているのであった。長い顎、巨大な体躯に頭から尾にまで鋭利な刃物のような棘突起がある。外見を判断すればスピノサウルスと酷似しているが、胴体や手足に巨大で鋭利なスパイクも伸ばしている。

 

「何時ものイマージュ・オリジスじゃない?」

 

「何にせよ、ここにいるのなら敵ってことでしょ。フフン、さっそくアタシの実力を見せつけられっちゃうワケね。もしかしてアタシを歓迎してくれてるのかしら?気が利くじゃない」

 

「アンタね、下らないこと言ってんじゃないわよ。こっから先は命懸けの世界よ?」

 

咎めの言葉なぞ右から左へ素通りして、逆に鈴を煽るようなからかいの言葉を送った乱は予想通りの反応で返されても不敵な態度を崩さない。

 

「行くぞ」

 

総理の息子、天神が短くそれだけ言えば他の男性操縦者達は反応、イマージュ・オリジスに飛び掛かった。スピノサウルス型の機械生命体は、眼を妖しく煌めかせて臨戦態勢に入るや否や、全身のスパイクから迸る雷がバリアーのようなものを張って防御の姿勢に入った。それを見て楯無は叫んだ。

 

「警戒しなさい、相手は何時ものイマージュ・オリジスじゃないわよ」

 

「わかっている。轟」

 

「あいよ!」

 

空中に浮遊してスナイパーライフルを構えていた操縦者が初弾を放った。亀のように動かない敵に外れることもなく直撃する弾は、バリアーの手前で停止、地に落ちた。

 

「・・・・・電磁バリアーか。直接触れれば電撃のダメージも食らうかもしれないな」

 

「おいおい、自滅覚悟で倒さなきゃいけないってか?」

 

「その上、電磁バリアーを張っている角を破壊しなければ倒すこともできないよねアレ」

 

「あはは、敵さんも本腰を入れてきたわけだね」

 

電磁バリアーを展開したそのままの状態で、凶悪な牙を覗かせながら猪突猛進を仕掛けたイマージュ・オリジスから難なく空中へ回避した。これで手も足も出せまいと思った矢先に背中のスパイクが勢いよく一夏達へ放たれる。

 

「はんっ!ただそれだけなら目を瞑っててもかわせるわよ!」

 

あっさり避けて先手必勝とばかり飛び出す乱。電磁バリアーを発動させるスパイクが無い今なら防ぐことはできないだろう、と台湾の量産機こと甲龍・紫煙(シェンロン・スィーエ)の武装である青竜刀を片手に向かう彼女の行動に釣られる男性操縦者達。攻め立てるなら今だと行動で表したその行為に―――装填したスパイクから発現する紫色の幾何学的な円陣、魔方陣が放つ属性魔法攻撃でお見舞いしてやったのであった。

 

「え、きゃあああああっ!」

 

「どわっ!?」

 

炎、雷、氷、風、光、闇といった様々な魔法攻撃を目の当たりにした一夏達は、嫌でも脳裏に思い浮かんでしまう言葉が口から出た。

 

「―――魔法!」

 

「んな阿呆な!機械が魔法を使うなんて!?」

 

「まるで動く砲台だ。迂闊に近づいたら連中のようになるぞ」

 

乱と少年達は絶対防御システムに守られていたが、機体へのダメージは軽くなく一部破損していた。

 

「シールドエネルギーを軽く突破する威力を持っているのね魔法って」

 

「はい、アジ・ダハーカの雷を受けた時は一瞬でシールドエネルギーが無くなったほどで絶対防御を無視した攻撃でした」

 

楯無の声を拾う一夏の相槌に警戒心が増さった。威力はあの男の魔法の比ではないが、油断できないことは変わりない。

 

「空裂!はぁああああああっ!」

 

箒が振るった刀の刃から帯状のエネルギーが射出する。魔法の砲撃は止み、幾何学的な円陣で受け止めてみせた防御力もその硬さを見せつけた。

 

「魔法で防ぐこともできるんだな」

 

「マジかよ。魔法ってもしかして最強なのか?だからISでも勝てないってワケか」

 

「いえ、織斑先生からくれた情報では魔法もシールドエネルギーみたいな有限のエネルギーで行使するみたいよ。だからあなた達が負けたあの化け物でもない限り、魔法を使わせ続ければ使えなくなるかもしれないわ」

 

「それって、どのぐらい使わせればいいんでしょうか?」

 

「・・・・・ごめんなさい。そこまではわからないわ」

 

そう言った直後、魔法の砲撃が放たれ回避するしかない楯無達。

 

「そーいうことだったら、フォルテ!」

 

「はいっス!」

 

フォルテが巨大に作り上げた氷塊をアリーナに落とした。絶対的な物量が隕石のように落ちてくる光景を目の当たりにするイマージュ・オリジスの背中の刃物のような棘突起が赤熱化し始め、少年少女達の前で驚くべき行動を取ったのであった。身体の各パーツを組み替え、変形しては人型となって上腕部に備わっている砲身から、放つ魔力の砲撃によって氷塊を打ち抜いた。アリーナの遮断シールドも貫くその威力が、一夏達にも向けられ無差別魔法の砲撃を始めた。当たる場所は全て損傷・破損。回避を続けつつ攻撃に転じてみるも幾何学的な円陣の結界に阻まれ好転は恵まれない。

 

しかし、後から現れたISが急接近してバターのようにイマージュ・オリジスの幾何学的な円陣、魔法陣の障壁をすべて弾け飛ばし丸裸にしてみせた。

 

「ここだ」

 

「いま!」

 

「ですわっ!」

 

ドンッ!と轟が射撃した実弾に合わせて、セシリアとシャルも同時にエネルギーと実弾を放って三方向から同時の射撃に両眼と脚が貫かれた。一夏、秋十、マドカ、箒の斬撃で脚を切られ、胴体を支える軸が破壊されるステージに倒れ込んだところで一夏達が一斉攻撃を下した。

 

全方位から浴びる一斉攻撃に負けじと魔法の砲撃を行うイマージュ・オリジス。それで一時攻撃を中断せざるを得ない彼女達に目を破壊されようと関係なく魔法を放つ。そこで影が金属生命体を覆った。不穏な気配を感じたイマージュ・オリジス。ここで片目だけでも残っていれば回避できたかもしれない。―――己の首を上段から振り下ろすラーズグリーズを見ることが叶ったならば。

 

激しい戦闘の幕が降りてから皆の安堵の吐息が自然と漏れた。混沌と破壊をもたらす機械龍(カオス・マーシナリードラグーン)との実践はともかく、行使される魔法の威力にいつも以上の緊張感で戦ったことで精神的にも肉体的にも疲労感は倍増ものだ。

 

「なんとか、勝てたね」

 

「ふう・・・・・みんな無事みたいだな、よかった」

 

シャルロットの思いに同調し、仲間に声を掛けた一夏。

 

「魔法とは初めて見ましたが、あのようなものなのですか?」

 

「専門家に聞きたいところだけれど生憎その人は敵だから何とも言えないわ」

 

「機械と魔法の融合・・・・・厄介極まりない以外無いだろう。人間と違って疲労も限界も感じないのだからな」

 

「俺たちも魔法を使えたら無敵に近くなるだろうにな」

 

そこで一同は遅れて現れたISへ振り返る。黒い能面のフルフェイスで顔を隠すISの操縦者と戦闘中ずっといたのか世界各国から指名手配されている篠ノ之束。一夏達彼等の視線を気にもかけない束はさっそく調査を始めた。彼女を守る矛と盾として一夏達に対して強い警戒心を向ける。

 

「あの、あの人は敵なのでしょうか・・・・・?」

 

「敵9割に味方1割なところかしら」

 

「それ、殆ど敵でしょ。敵なら捕まえておくべきじゃないの?」

 

「それができたら苦労はしないのよね」

 

エネルギーウイングを大きく広げて構え出す。近付くなら容赦はしないと意思表示をするラーズグリーズに誰もが容易に近寄れないでいた時に男性操縦者等が動いた。

 

「お前、一体どこのどいつだ?」

 

「・・・・・」

 

「シカトかよ?名前は?」

 

―――警告。敵ISにロックされています。

 

「「「「「っ!?」」」」」

 

ハイパーセンサーから警告を受けた直後に天神達はラーズグリーズから攻撃をされた。突然の展開に誰もが当惑や困惑をしてしまい、どうすればいいか躊躇していると第三者の登場で張り詰めた空気が緩和したどころか更に緊張が張り詰めた。

 

「何をしているお前達!ラーズグリーズ攻撃を止めろ!」

 

世界最強の登場には天神達にとって反応せずにはいられない。ラーズグリーズは直ぐに攻撃を中断して束の傍らに降り立つ。天神達はその場で佇む。

 

「―――各自の部屋に戻れ」

 

「お言葉ですが織斑先生。敵をこのまま野放しにしておくのは危険ではないのですか―――」

 

轟の問い掛けの言葉は眦を裂いた千冬の怒声が籠った叫びに遮られた。

 

「二度も言わせるなっ!部屋に戻りたくなければ戦闘の後始末の上にアリーナで100周させてもいいんだぞ!」

 

ヒッ!と誰かが悲鳴を上げ、流石の田頭達も千冬の怒りに緊張で顔を強張らせ、逆らったらタダでは済まないと本能で悟るや彼女の言うとおりに行動を始めた。

 

三人しかいなくなったアリーナは静寂に支配されたかのように静まり返った。

 

「・・・・・束、話はいいか」

 

「なーに?」

 

「提案がある。IS学園にお前の力を貸してくれないか」

 

「それはイマージュ・オリジスに対するため?」

 

「世界を守るためだ。お前が望むことなら、無理なこと以外は何でも叶えてみせる」

 

機械的なウサギ耳がカシャッと何度も動いて、束の心情を表してるかのように見えた。

 

「何でも、何でもかぁ・・・・・」

 

心が揺らいでいる。あの千冬から何でも言うことを利くという言葉を言わせて天才の脳内は桃色一色に染まりきっていた。一緒に食事をする際は「はい、あーん」と食べさせあい、いつでもどこでも抱き着きちょっぴりセクハラもして、夜は一緒にお風呂に入ってそこでもちょっとセクハラを、最後は白百合に囲まれながら添い寝を―――と。

 

「んー!んー!とっても魅力的なお話しなんだけど、嬉しくてしょうがないのにらーくんの事を思うと出来ないって思っちゃうんだよちーちゃん。あーあ、残念だなー」

 

「何故だ」

 

「だってさ、らーくんはあの織斑一誠と顔を見合わせなきゃならないでしょ?」

 

「・・・・・」

 

「あの子の立ち位置、すっごく邪魔なんだよねー。存在してなかったら大喜びで協力はしてたと思うよ」

 

だから無理、ごめんねー。と協力を拒否した束。織斑一誠の存在がどうしてそこまで束とラーズグリーズを邪魔するのか千冬は知っている。

 

「お前にとって織斑一誠はなんだ」

 

「逆に聞くけどさ、ちーちゃんはどう思ってるわけ?もうらーくんの正体気付いているんでしょ?」

 

イマージュ・オリジスの残骸の解体作業を続けながらの質問に、千冬からの返答はすぐに帰ってこなかった。ラーズグリーズを見ながら切なそうに顔を苦悩に染め上げた。

 

「・・・・・だからわからないんだ。何故こうなっているのか」

 

「・・・・・」

 

「正直、私とマドカは違和感を感じていた。だが、結局は確かめることもせず弟として、家族として過ごしてきた。・・・・・あのDNA鑑定を知るまでは」

 

ラーズグリーズへ近づき、真摯な表情で懇願する。

 

「教えてくれ・・・・・お前の身に何が遭った」

 

「知ってどうするの?」

 

束からの指摘に千冬は目だけ彼女に向ける。

 

「今更知ったところでもうどうしようもない所まで来ちゃってるんだよらーくん。なのに一体らーくん事情を知って今のちーちゃんに何が出来るの?何もできないよね?私みたいに人類最高の『天才』じゃない人類『最強』のちーちゃんは物理的に解決するしかできないもん」

 

と、指摘を受けて拳を握る千冬は束へ近づき、彼女の胸倉を掴んで睨みつけた。

 

「それでも、私は知るべきなんだ!お前の知っている全てを答えろ束っ!」

 

「言っちゃっていいの?後悔するよ?」

 

「後悔など私がすると思うか!」

 

「そかそか、じゃあ教える代わりに条件を呑んでくれる?一つはこのことをまどっちにも伝えること、二つ目はらーくんの邪魔をしないことと望むことを全部受け入れること。ちーちゃんの拒否権はないよ?三つ目は―――私達と一緒に家族として、異性としてらーくんを愛すること。あ、勿論子作りも視野に入れてね?」

 

束からの要求に目を丸くする。特に最後の要求に対しては家族として受け入れがたい。弟して一緒に生活していた家族を一人の女として一線を越えなければならないことに、押し黙り続ける千冬の心境を察したか束はこう言った。

 

「呑めないならいいよ。代わりに絶対教えないし死ぬまで悩んでれば」

 

胸倉を掴む手を解いて解体作業に戻る束の後ろ姿。ラーズグリーズから臨戦態勢で威嚇、この場から追いやろうとする姿勢に千冬は後ろ髪を引かれる思いでアリーナを去った。

 

 

束は千冬の、IS学園への協力は拒んだものの接触は止めるつもりは毛頭もなかった。現に昼食の時間帯となっている頃になった学園に堂々と侵入しては。

 

「うへへぇ・・・・・!箒ちゃんとご飯を食べるの何年振りで嬉しすぎて泣いちゃうよ!」

 

「騒がないでください姉さん、抱きつこうともしないで静かに食べてくださいっ」

 

「そうはいかん!濃厚な姉妹のスキンシップをするのだー!」

 

「きゃっ!?」

 

人工的に敷かれた青草の芝生の上で腰を下ろして購買で買ってきたパンや弁当、自分で作ってきた弁当を持参して食事を臨もうとしている一夏達。一部、姉妹同士の百合的な光景を目の当たりにされ「これが、ISを開発した天才科学者・・・?」と目を疑うのであるが、彼女を知る者からすれば当たり前のことであると反応はスルーである。日除けとして大きなパラソルを用意した束特性のクーラー付きの下で涼しい風を受けながらの食事は快適にされている。

 

「束さん、相変わらずなんだな」

 

「・・・・・変わった束姉を想像できる?」

 

「できねぇよ。想像すら浮かばねぇよ」

 

どこにかくしていたのか木刀で姉を黙らして仏頂面で黙々と食べる箒。チラリと輪から離れて佇んでいるラーズグリーズを見るが視線に気づかれ、向けられる目線に反射的に逸らした。

 

「あの、束さん。質問いいですか?ラーズグリーズって人間なんですか?それともISですか?」

 

「一応ISだよー。でも、元々は人間だったっていうもあるけれどねー」

 

「元人間・・・・・?」

 

「うん、専門外だったけどこの天才束さんでも初めて試みた人体とISの融合実験の末に成功した被験者だよ。ぶっちゃけ無人機に人間の意思がある感じだと思ってくれてもいいから気にしないでね」

 

人体実験をしておいて気にするな、とあっけらかんに述べられた一同は言葉を失う。

 

「だかららーくんの左腕がいっくんに斬られたのを知ったときは意外だったけれどね。別に無人機じゃないのに人間を斬ったいっくんは中々凄いなーって」

 

「っ・・・・・」

 

「ふふふ、意地悪を言ったわけじゃないよいっくん。君の思いの強さってやつを感心しただけなんだからね。だから白式もいっくんに応じて起動しているのかもね」

 

にこにことラーズグリーズ特製の弁当を食べつつ感想を言う束。じっと見つめ耳を傾けていたマドカは核心を突くような質問を訊いた。

 

「私はラーズグリーズの素顔を見たという者から話を聞いた。それはある奴と同じだという。奴の顔はどういうことなんだ束さん」

 

「おー?それは凄いじゃん。らーくんの素顔を見れるのは私達だけなのに超激レアな瞬間を目撃したんだね。幸運者だよそいつ。で、質問に答えるなら、もう私は答えてあげたよ?らーくんはISの体を手に入れた元人間だよって」

 

「――――――」

 

「ふふっ、もう気づいたかなまどっち?そして疑惑をするだろうね。だからそんな可愛いまどっちには今度教えてあげるね。二人だけの秘密だよ?」

 

 

 

 

 

「姉さん」

 

IS学園内の敷地内に存在する一年生の寮、寮長室に向かおうとしていた少女と同じ顔の女性と遭遇を果たせた。真剣な顔つきで姉を問いただす。「知っていたのか、ラーズグリーズの正体を」と。彼女は、千冬はそれを黙認していたかのように沈黙で是と答えればマドカの心は混乱と疑惑でいっぱいになった。

 

「なら、あの男は一体なんだ。私達以外にもいたのか。だとすれば篠ノ之束のところにいるあいつは・・・・・」

 

「・・・・・」

 

「答えろ、姉さん!」

 

答える回答を持ち合わせていない千冬は沈黙を貫くことしかできない。自分も答えを知りたい一人なのだ。だからマドカに返す言葉はなく、別の言葉で送った。

 

「機会があるなら束から聞き出せ。ラーズグリーズの正体は知っていてもそれが本当なのか確証すら得ていない。私は素顔すら見ていないのだ」

 

「・・・・・」

 

「真実を知ったなら、私にも教えてくれマドカ。今の私は考える時間が必要なんだ」

 

必死に気丈を振る舞っているのか、どこか心の余裕が無い風に窺わせる千冬を気づき通り過ぎる彼女に振り返り見送った。

 

「・・・・・苦しんでいるのか、姉さん」

 

あの姉がそうさせる人物、ラーズグリーズ・・・・・マドカは本格的に正体を突き止めようと動き出す。

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