インフィニット・ストラトス~光に奪われし闇~   作:ダーク・シリウス

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新たな人類の天敵

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ある場所へたどり着いたアジ・ダハーカ。そこは世間から、人すらも忘れ去られた様な古い教会が太陽の光に注がれていた。両開きの扉の片方だけ開けて中に入る。人が座る木製で横長の椅子はなく、石畳で敷かれているだけの足場を踏みしめながら進むアジ・ダハーカの眼前、石造りの台座の上に十字架のような物が置かれている手前に跪く祭服を身に包んだ者が一人いた。

 

《久しいな》

 

「そうだな。あれから十年余りか・・・・・。我らにとっては昨日のようなものだがな」

 

《だとしても、短いようで長い月日が過ぎたことは事実で変わりない》

 

アジ・ダハーカの言葉にゆっくりと立ち上がって振り向いた。祭服を着た褐色の美男子―――から感じる気配は、人間が感じ取るものではないものを醸し出し、怪しい雰囲気を纏っていた。

 

《お前から現れたという事は、何か進展でもあったのだな》

 

「その通りだ。器が現れたのだ」

 

黒い魔方陣を展開した。それは何時の間に記録していた織斑一誠と対峙した時の立体的な映像だった。

 

《・・・・・なるほど、間違いないな》

 

とても懐かしいものを見る視線で遠い目をした美男子の一言にアジ・ダハーカは微妙な顔を浮かべだした。

 

「お前から見てもそう思えるか」

 

《この顔を忘れるはずがないだろう。特にお前が一番思入れのある者の筈だ》

 

「ああ、その通りだ。この者、織斑一誠はメリアと既に接触して、聖杯は無事に手中に収めた」

 

ようやく時が来たと語るアジ・ダハーカに美男子は頷いた。

 

《アジ・ダハーカ、メリアと織斑一誠とやらがいる場所を教えろ》

 

「会いに行くのか。織斑一誠はまだ力を持たぬ人間だ。戦いに行く気ならば止めておけ」

 

《わかっている。まずはメリアから接触をする》

 

問いかけたアジ・ダハーカに美青年は行動をする意思を示した。彼は薄く笑みを浮かべて真っ直ぐ視線を人類の天敵に向け口を開く。

 

《お前が今していることに私も参加させてもらおう。私を誘うつもりでもいたのだろう?》

 

「器たる者が浮上した今、再び集う時かもしれんからな」

 

戦意と喜びを顔滲ませる青年は破顔一笑だった。

 

《ならば他の者達を探す必要はあるな》

 

「そうだな。探してみるか。きっと喜んで誘いに乗ってくれるだろう」

 

事態は動く。この世界では対応できない何かが心臓の鼓動のように脈を打ち始め、それに呼応するように各地で散らばっていた巨大な力が活発的に蠢く。

 

 

―――某海。

 

 

陸から遠く離れ船員は恵まれた天候の中で世界一周旅行を目的に豪華客船を操縦している。数年は掛かるという世界一周の航海を経験しているベテランや新米の船員達の手によって今回も無事に終わることを疑わなかった。

 

ドォオオオオオンッ

 

「っ!?」

 

不意に―――船底が何かとぶつかったような衝撃と揺れが生じた。操舵室は緊迫に包まれ、状況を把握する。しかし、船に直接な影響はないと整備班やスタッフ達から報告を受ける。座礁でもしてしまったのかと疑ったが、ベテランの船員達は『いつも通り』の航海をしていた。大波や激しく荒れる天候を除いて乗客達のために安全な運航をしている船員達にとって今の不自然な揺れは不気味でしかなかった。今尚も豪華客船は異変がなかったように動いている。そう、『船』はだ。船の真横の海面が大きく盛り上がって、勢いよく膨大な海水の水柱が乗客達の目の前で発生して圧倒させる。だが、自然現象かと思われた水柱から細長くも巨大な黒い影・・・・・。滝のように海水が落ちて黒い影の全容が明らかになった。

 

《グヘヘヘヘヘッ!今日も大物を捕まえたっ!ゲットだぜ!》

 

細長い蛇の体に黒い鱗の巨大生物が海水に濡れながらも嬉々として喋った。しかも両手で抱えているのは魚類の中で最大最長の魚類、鯨を抱えている。乗客達は巨大生物を目の当たりにして恐怖と混乱に陥りながらも動画や写真に収める者もいた。

 

《ん~?グヘヘヘ、いいところに置き場があった!》

 

え?と思った矢先に捕獲した鯨をあろうことか巨大生物が乗せようとしている。それには慌てて船内へ駆け込む客達だったが、数十トンもある鯨の巨体で半分圧し潰される。人間のことなど気にしない巨大生物は舌なめずりし、大きく顎を開けて鯨の体をかぶりついては肉と骨を喰いちぎる。あっという間に豪華客船は海水や血で汚れ、船から滴り落ちる血が海面を赤く染めていく中でも巨大生物は、バキバキと骨を噛み砕き、肉を咀嚼する音を生々しく立てる。運よく圧死されず済んだ人間達は、ただただ絶望に染まった顔で突っ立って見ることしかできず、その間に鯨は大量の血と食べかすとばかりの鯨肉を残して巨大生物の腹の中に消えた。

 

《うへぇ~、美味しいけどやっぱり魚はしょっぱいや。口直しに水を飲みたいな~。グヘヘ、その後はまた牛とか豚とか食べよっかな~》

 

海から飛び出し、長大な体をくねらせながら空へと飛翔する巨大生物。残された豪華客船は不吉なほどに赤く染まった上に、死者を出した状態で近くの港まで避難するまでは幽霊船のように静まり切った。後のその出来事は動画にUPされ、ニュースでも報道されては一部の人間が深くこの事実を受け入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はい、皆ちゅうもーく。このIS学園に編入してくる人達を紹介するわ」

 

長期夏期休暇中にて誰も利用しなくなった一年一組の教室。楯無がそんな専用機持ち達を集めて知らせを告げる。迎撃拠点の学園に戦力が集う事は事前に伝えられているため、驚きはしない。今度はどんな代表候補生が来るのか、期待に胸が膨らむ一夏達の目の前に教室の扉が開いて現れる編入生―――もとい大人の女性。

 

「こんにちは」

 

鮮やかな金髪におしゃれ全開なカジュアルスーツ。開いた胸元からは大人の女性特有の整った膨らみが覗いている。代表候補生の少女かと思えば大人の女性が現れたので一夏達の反応は様々だった。

 

「おいおい、なんであの人がいるんだよここに・・・・・」

 

「先輩、知っているんっスか?」

 

ここに現れるはずが無い女性に訝しげな面持ちで零した独り言は、フォルテに聞こえて訊ねられる。ダリルは「同じ国の人間だ」と答える。

 

「ナターシャ・ファイルス。ISテストパイロットを務めているアメリカの軍人だ。確か、暴走したISは凍結処理され査問委員会以降・・・・・」

 

「ダリル・ケイシーね?アメリカの代表候補生と出会えて嬉しいけれど、私は迎撃拠点となったIS学園に就職することにしたの。教師として接するから年上を敬うこと忘れないでね?」

 

「・・・・・あー、そういうことか」

 

含みある笑みを浮かべるダリル。彼女がそう言うことならこれ以上の言葉はいらないだろうとそれから口を閉ざした。

 

「はい、皆も聞いた通り。彼女はこの学園に就職しに来たIS持ちのナターシャ・ファイルス先生です。彼女もイマージュ・オリジスに対する戦力として数えるから今の私達には大助かりね」

 

バッと広げた扇子に「超即戦力」と書かれていた。楯無にそこまで言わしめる彼女の実力とISは凄いのかと一夏達は驚嘆する中で紹介は続く。

 

「はい、それじゃ次の子。入っていらっしゃい」

 

「「失礼します」」

 

今度は二人。皆の視線が少し下げて楯無の隣に佇む少女を見つめる。身長はラウラかフォルテ並みに華奢な体つき。紫がかかった青に空色のメッシュを入れた前髪と長い髪を右側に結い上げたサイドテール。オレンジ色に黄色のメッシュが入っている前髪と長い髪を左側に結い上げたサイドテール、青い瞳と赤の瞳を持つ少女が口を開く。

 

「初めまして。カナダ代表候補生のオニール・コメットです」

 

「同じくファニール・コメットよ」

 

「・・・・・子供?」

 

「「子供じゃないっ!」」

 

思わず零れた呟きに反応し、非難の色を浮かべる目で否定した少女達。顔の容姿はどことなく似ているため双子だろうかと推測する。が、明らかに年下の少女達に楯無へどういうことですか?と視線を向ける。

 

「更識先輩、何で如何にも小学生みたいな子供がここにいるんですか?もしかして迷子?」

 

「誰が小学生で迷子よ!」

 

「私達、もう12歳だよ?もう大人だよ?」

 

『12歳はまだ子供だろう』

 

男性操縦者一同揃って異口同音でツッコミを入れた。

 

「まあまあ、話しを聞いてちょうだい。彼女達は、今回の騒動で飛び級扱いになってるのよ。でも、その実力は折り紙つきだから安心して?」

 

「ということは・・・・・ISを持っているのだなお前達は」

 

ラウラの予想した言葉に双子は肯定する。

 

「そうよ。私とオニール」

 

「私とファニール、二人で動かすISなの」

 

不意に、オニールとファニールが教室の中を見回し始めた。誰かを探している仕草に一同は「?」と頭上に浮かべる中、双子の視線は一誠に止まった。

 

「いた、お兄ちゃんだ!」

 

「ふぅーん。ネットや写真、テレビで見るのと違って間近で見る先輩は中々じゃない」

 

『・・・・・お兄ちゃん?先輩?』

 

何やらひと騒動が巻き起こりそうな展開になってきた頃、一夏達が臨海学校の際に利用した旅館に祭服を着た褐色の美男子が現れた。その気配を感じ取った着物姿の仲居ことメリアが中に案内して一室の中で腰を落とした。

 

「久しぶりですね。アジ・ダハーカから教えられましたか」

 

《ああ、聖杯のことも含めてだ》

 

「無事に渡せました。アジ・ダハーカがこの世界に余計な騒動を起こしましたから一時はどうなるかと思いましたが」

 

《奴は『悪』そのものだ。人類に対して絶対的な『悪』に挑ませたかったのだろう。それがあの約束を果たす前菜でもな》

 

「だとしても、約束の時が果たされた際は彼に申し訳ないのですが」

 

呆れて落ち込むのメリアに美青年は労いの言葉をかけず話を進ませた。

 

《織斑一誠という者はどこにいる?》

 

「会いに行かれるのですか。ならば案内をいたしましょう」

 

《そうか。では頼む。それとメリア、私とアジ・ダハーカは他の者を探し再び集まるつもりだ。お前もその際には顔を出せ》

 

立ち上がりながら告げる美青年にメリアは小さく頷く。

 

「・・・・・わかりました。元々そういう約束です。我々と彼の・・・・・」

 

と、最後まで言いかけた口が不意に止まり、美青年は彼女から視線を外へ変えた。二人の間で静寂な時間が過ぎていく最中にメリアがまた口を開いた。

 

「この気配は、まだ遠くにいるようですが間違いないですね」

 

《丁度いい。あの粗暴な奴の探す手間が省けた》

 

 

 

 

機械と鉄の空間の中で束と白衣を着た男性は実験を試みている最中だった。三つのISコアを内蔵したラーズグリーズからデータを収集し、得たデータで自身が生み出した人体と機械の移植・融合―――通称『ナンバーズ』達の新たな力の向上を。

 

「二つの第三世代型のISと君のISの身体は完全に融合している。もはや他のISに乗り換えできる事は出来なくなっているが、篠ノ之博士が開発した第四世代型IS紅椿の性能と能力を上回っている。特に興味深いのは『反転』だ。あらゆるもの全て、それも理すらひっくり返すことが出来るかもしれない素晴らしいものだ」

 

目を輝かせ膨大な情報を前にして子供のようにとても嬉しそうな顔をしている。

 

「私のことどこで知ったのか分からないが、君が篠ノ之博士に介して私を探し全てを買ってくれた。そのおかげでこれからも研究を続けられる私は今の環境に満足しているよ」

 

「・・・・・」

 

「ああ、『反転』の能力の話だがね。あれは人体に直接使わない方がいい。『反転』とは色んな現象や概念がある中でひっくり返る意味も認識もある。もし使えば体の内側から、その人間が生きたまま内蔵やら骨やらそのまま体の外側にひっくり返り浮き彫りしてしまう可能性があるからね」

 

と新たな力の解説を聞きながら自身の身体の情報を提供する。『反転』、使いようによっては極めればアジ・ダハーカ達を―――と考えていた時に、薄い紫色の長い髪をした金眼の女性が二人のいる空間に入ってきた。

 

「ドゥーエからの報告です。日本の空域に巨大な生物が出現し、IS学園の上層部に討伐の命令が防衛省からされた模様です」

 

「イマージュ・オリジスではないのかね?」

 

「衛星からの映像も届いてます」

 

タブレットで巨大な生物の真上から撮影した写真を見せられ、推定数十メートルの蛇の体のような黒い生物であることが三人の目にも視認した。

 

「ふむ、生物上こんな空を飛ぶ巨大な生物は存在していないのだがね」

 

「・・・・・」

 

兎にも角にも現実的に存在しているから討伐隊の編成に組み込まれたIS学園は、巨大な蛇を退治に駆り出されてしまった。今頃騒々しく準備をしているに違いない。ラーズグリーズが全身に付けられたコードを抜き始める。その仕草に男性は話しかける。

 

「行くのかい?ならウーノ、この生物の現在の位置はどこか調べてくれ」

 

「調べるまでもございませんドクター。もう間もなくこの生物は数分後日本に上陸します」

 

「だそうだラーズグリーズ。座標も送ってあげるから行っておいで。データも十分得られた」

 

歩き去るラーズグリーズに向かって送る言葉は最後に―――。

 

「おっとそうだ。『反転』の名前を付けておこう。そうだね・・・・・『リヴァーサル』だ。この世にもしも神がいれば神の存在すら反転してしまう意味を込めた名だよ」

 

 

数分後。専用機持ちの一夏達は巨大生物の討伐に向けて飛行中に作戦指令室から千冬の言葉を聞いていた。

 

『衛星からの映像では、巨大生物は富士山の付近の湖に停まっていたが直ぐに行動を起こし、点々と移動しては停まってまた移動し出すという奇妙な動きを繰り返していることだ。その原因は調査しているがお前たちの目で直接追いながら確かめてくれ』

 

わかりました、と専用機持ちのリーダーとして楯無が応え、皆を引き連れながら巨大生物が点々と停まっていたという一つの座標の場所に向かうとそこは―――牧場であったことが判明した。家畜を管理している施設へ向かえば凄惨な状況だったことが皆の目に飛び込んできた。

 

嵐に遭ったかのように施設が破壊されていて、家畜が一匹も見当たらない。しかし、牧場の責任者が見つかり事情聴取を試みた。が、その責任者は酷く顔を蒼白させていて自分の体を抱きしめながら震えていたために聞き出すことは叶わなかった。楯無は周辺の状況を推察して答えを出した。とてもシンプルな解答を。

 

「状況を鑑みるに巨大生物が家畜を一匹残らず食べたとしか思えないわね」

 

「まさか、今までの不規則な行動は日本各地の牧場の家畜を襲って・・・・・」

 

「可能性としては大かもしれないわ。だから余計に不味すぎる。日本の食生活から肉が消えてなくなりかねないわよ」

 

危機感を覚える一同。その時、乱が「ねぇ、臭くないここ?」と鼻を摘まみながら顔を顰めて言い出した。それに対して顔を合わせる皆は首をかしげる。

 

「家畜の糞尿とかじゃね?」

 

「でも、管理者が清掃しているんだから清潔なはずだろ?」

 

「臭いなんてどうでもいい。それよりもさっさと追いかけるぞ」

 

IS学園に一報を送り巨大生物の追跡を再開する。若干焦燥に駆られて必死に移動して長時間経った頃に黒い巨大な塊を発見した。

 

「あ、あれが巨大生物・・・・・?デケぇ・・・・・ッ!」

 

「てか、ここって牧場?」

 

「だとすれば今襲っている最中ってことなんじゃ・・・・・?」

 

極太の蛇の体しか見えず顔はわからないまま、低空している一行の真下で一頭の牛が巨大生物から逃げようと駆けていた。その様子を見ていると、蛇の身体が蠢き顔も明らかになったところで巨大な手が逃げる牛へ伸びて鷲掴み空中へ放り投げては、人間からすれば巨大すぎる顎を開いて丸々と牛をバクンと喰らい二度三度咀嚼する。

 

「ば、化け物・・・・・っ!」

 

「ISの武装で勝てるか怪しくなってきたわねこれ」

 

戦慄を禁じ得ない一行は顔を強張らせ巨大な生物と目が合う。黒い鱗と黄土色の蛇の腹、長細い蛇タイプの化け物で、口からは異臭を放つ唾液を垂れ流している。自分達を襲って喰らうつもりかと警戒した矢先に相手は一夏達をジッと見つめた後に背中に生えている大きな翼を動かし、どこかへ飛び出していった。

 

「・・・・・襲ってこない?何でだ?」

 

「理由がわからなくても私達は討伐しなきゃいけないの!全員、戦闘態勢!」

 

リーダーの疾呼に慌てて追いかけると攻撃を開始する専用機持ち達に巨大生物が攻撃を繰り出してきた。

 

《ガアアアアアアアアアアアアアアッ!!!》

 

口腔からすべてを焼き尽くさんとする濁流の火炎を吐き散らし、地上にも燃え移る。

 

「こいつ、火を吹いたぞ!?」

 

「二手に分かれましょう!化け物の意識を集める者と胴体に攻撃する者と!」

 

「さっきから攻撃しているけれど、この怪物硬すぎるわよっ!」

 

「ビーム兵器もあまり効果がありませんわ!」

 

鈴の双天牙月とセシリアのビットのビーム攻撃が大きすぎる標的の身体に当てても致命傷までとはいかない。数を活かして攻撃を仕掛ける面々のISの攻撃力では倒しきるのに不足しているのだろう。それでも諦めない面々は勇ましく攻撃を続ける。幸い、巨大な生物は自分達の速度に追い付けないで口から吐く火炎攻撃も気を付ければ問題ない。時間を掛け不足している攻撃力でなんとか倒すしかない状況の中、巨大な生物の瞳に瞋恚の炎を燃やした咆哮をあげた。

 

《さっきから鬱陶しいんだよハエ共がぁああああああああっ!》

 

『っっっ!?』

 

身体を激しくくねらせながら突進攻撃を繰り出した巨大な生物。そして人語を操るという新事実に誰もが攻撃の手を止めてしまった。さらには濃密で巨大な黒いオーラを全身から発しだすと、地上の草木が枯れながら腐敗するという危険極まりない光景を目にしてしまった。

 

「全員、後退して!あの黒い靄に触れたら命がないわっ!」

 

あの化け物は本気ではなかったかもしれない。あの化け物を怒らせたらどうなるか自分達は知らなかった。追い詰めようとしたら自分達が追い詰められかねない状況になってしまった。楯無は冷静沈着なろうとしながらも焦り出していた。

 

《何なんだよお前ら、さっきからよぉっ!お、俺の食事を邪魔するなっ!》

 

「・・・・・驚いたわね。化け物が人語を操るなんて。なら質問をさせてちょうだい。あなたは一体何なのかしら?」

 

もしも情報を得られるならこれ以上のない貴重な機会だ。理知を備える化け物とならば事態が好転する可能性も捨てきれない。巨大な怪物は質問に対してあっさりと言い返した。

 

《俺は『外法の死龍(アビス・レイジ・ドラゴン)』ニーズヘッグだ。・・・・・お前ら、微かだけどアジ・ダハーカの旦那に会ってるな。魔力の残滓をか、感じるよ》

 

アジ・ダハーカ?アジ・ダハーカって・・・・・あの?

 

「あの男を知っているの?」

 

《グヘヘヘ、知っているも何もアジ・ダハーカの旦那は俺と同じじゃ、邪龍で最強のドラゴンだ。お前らじゃ絶対に勝てないぜ。グヘ、グヘヘヘ!》

 

「・・・・・ドラゴン」

 

アジ・ダハーカ=ドラゴン。そんなバカな話はあるというのか。しかし現にこうして巨大な怪物が言葉を交わして会話を成立させている。

 

「ニーズヘッグだったかしら。あなたも人間の敵、絶対天敵(イマージュ・オリジス)なの?」

 

《イマージュ・オリジス?なんだそれ?で、でも人間を喰わなければ他は何でも喰ってもいいって約束は守ってるから人間の敵じゃねぇよ》

 

「約束?一体誰としたのか教えてくれない?」

 

《嫌だね、お前ら人間に教えてやる秘密じゃない。帰れっ》

 

「はいそうですかって帰れないのよ私達は。あなたが喰らい続けている家畜は私達人間にも深い悪影響が出るの。これ以上家畜を減らしてもらいたくないから」

 

《人間は肉なんて食わなくても生きていける人間だってことぐらいは知ってるぜ。そ、それに日本以外の肉は外国でも手に入るし問題はないはずだ》

 

化け物のくせに妙に知識もある。まるで自分の目で見てきたかのように知った風な言い方をするニーズヘッグに楯無は意を決した目でランスを突き付けた。

 

「なら、あなたを倒す他ないわね」

 

《グヘヘヘ!む、無理だね!お、お前らなんかの攻撃は殆ど通用しないんだ。俺を倒したいならアジ・ダハーカの旦那達を連れてくるんだな!》

 

「アジ・ダハーカの旦那達・・・・・?まさか、この世界にあなたのようなドラゴンが他にもまだいるの?」

 

《・・・・・》

 

余計なことを言ってしまったとばかり楯無の言葉を聞き、口を閉ざしたニーズヘッグはしばしの沈黙の後にそっぽ向いて―――彼ら彼女らをびっくりさせるぐらい全力で逃げ出した!

 

「ちょっ、待ちなさいニーズヘッグ!」

 

慌てて追いかける楯無。もっと聞き出さなければいけなくなって貴重な情報源をどうにかして倒さなくてはならないのだ。失敗、逃がせば他の国の牧場の家畜が全て餌となり喰われてしまうならばここで退治しなくては危険だ。そう思って皆と全力で追いかけた矢先―――ニーズヘッグが逃げる先に一つの機影が飛んできた。

 

「『吹き飛べ(リヴァーサル)』」

 

《ガッ、アアアアアアアアアアアッ!?》

 

何かに殴られた様に顔を地面へ叩きつけられたニーズヘッグ。そしてそうしたのが三つのコアを内蔵しているISを装着しているラーズグリーズだった。

 

《い、いでぇ・・・・・!誰だお前・・・・・なんだ、この力は・・・・・!》

 

頭をあげるニーズヘッグが睨みつける相手は無言で己を見下ろすだけ。ニーズヘッグは相手の存在を信じられず再度叫びながら問い質した。

 

《誰だか知らないけど、この世界で俺達ドラゴンを対抗できる人間も兵器もないことを知っている。な、なのに、なのになんなんだ。お前からドラゴンの気配を感じねぇ、だ、誰なんだ!》

 

事実な話だろう。現存している旧兵器を軽く凌駕し、現在の国の力は旧兵器ではなくISだ。この世にISを上回る兵器や力は存在していない。しかしここ最近ISの対となる存在や凌駕する生命体によって世界は危機感を覚えている。目の前のニーズヘッグまたISを脅かす凶悪な生物だ。

 

「・・・・・」

 

《こ、答えろぉおおおおおっ!》

 

己に対抗しうる力を有する存在に動揺を隠しきれないニーズヘッグは黒い魔法陣を展開した。攻撃魔法を放つ気でいるドラゴンに対してラーズグリーズは一瞬で魔方陣に近づき。

 

《っ―――――!?》

 

「・・・・・リヴァーサル」

 

魔方陣を触れて消滅させた。

 

《な、なんだよそれ――――ッ!?》

 

魔法すら干渉する未知の力。この世界にはない筈の異常(イレギュラー)な現象に酷く愕然とする中、ある予想が脳裏に浮かび上がった。異常(イレギュラー)な存在、(ドラゴン)に対抗できる存在と言えば―――。

 

《ま、まさか・・・・・お前、なのか・・・・・?》

 

「・・・・・」

 

答えは地面に呼び出(コール)したブレードを天に衝いて「落ちろ(リヴァーサル)」と口を動かした。何をする気だ?という疑問が一夏達の中で浮上してただの姿勢(ポーズ)だけかと思った時だった。空が赤く染まり出す。全員、空へ見上げると巨大な塊が空気の摩擦で燃えながら落ちてきた。それは誰が見ても見間違えようがないもの。

 

《うげっ!?》

 

「い、隕石ぃっ!?」

 

「た、退避ぃーっ!!!」

 

ニーズヘッグも逃げ惑う宇宙からの攻撃に一夏達は全速力で退避する。その瞬間ラーズグリーズはニーズヘッグとすれ違った。

 

「―――――」

 

《・・・・・っ!?》

 

そして隕石は地面に落ちて激しい大爆発と共に地震を発生させた。

 

 

 

遠く離れた場所から美青年とメリアが空に昇る大量の煙と燃え広がる火災、これまでの一連の様子を見て閉ざしていた口を開いた。

 

《今の攻撃・・・・・魔法ではなくても異常(イレギュラー)な力だな。隕石を落とすとは》

 

異常(イレギュラー)・・・・・まさか」

 

《さてな、私の勝手な想像に過ぎない。お前達はその目で器を見て接触し聖杯を渡したのだ。渡し間違えた等とあるわけがないのだろう?》

 

「・・・・・そうですが」

 

《とりあえずお前はニーズヘッグを迎えに行け。奴は自分の存在がどれだけ人間達に注目を浴びているのか分かっていないだろうからな》

 

「・・・・・はい」

 

 

 

『っ!』

 

ラーズグリーズの介入でニーズヘッグが逃げた報告をIS学園に入れた直後。祭服を着た褐色の美男子が宙にいる一同の目の前に現れた。

 

《お前達は運がよかったな。粗暴とはいえ本気になる前のニーズヘッグに喰われずに済んだのだからな》 

 

「・・・・・まさか、お前はアジ・ダハーカの仲間か?」

 

箒の指摘に美男子は肯定した。

 

《如何にも、私は『原初の晦冥龍(エクリプス・ドラゴン)』アポプスという。アジ・ダハーカと同じ最強の邪龍の一角として存在している》

 

最強の邪龍、それがアジ・ダハーカとアポプス。眩暈がしそうな情報にそれでも更なる聞き込みを臨もうと口を開く。

 

「貴方達は何なのかしら。織斑一誠に聖杯というものを渡すのが目的のようだけれど、どうしてそうするのか教えてちょうだい」

 

《それは語ることはできない。お前達が知る必要がないことだ》

 

アポプスは薄く笑みを浮かべるだけで何も答えず、広大な黒い幾何学的な円陣を展開して光に包まれる。

 

《だが、幸運のお前達はこれからもドラゴンと巡り合うだろう。もしかすると真実を知ることがあるのかもしれない。その時まで生き残り続けてみろ》

 

そう言い残した次の瞬間。展開した魔法陣から発する閃光と共にアポプスは皆の目の前から消えてなくなって、残された楯無達と戦いの爪跡だけが現実を突き付ける。

 

「・・・・・世界を救う筈が、私達の思いもしない何かが同時に巻き起ころうとしてる」

 

 

 

 

場所は変わってアメリカ某所―――。

 

浅黒い肌の大男が深夜の時刻に地下のコロシアムで観客達の歓声を浴びていた。裏世界の界隈に足を踏み込んでから毎日血を浴び、毎日人間の命を壊し続けてきた男は今日も相手を殺して勝利を得てきたが、心なしく退屈そうにしていた。己の膝をつかせるどころか身体に傷をつける者は一人もおらず、一方的な蹂躙と殺戮を繰り返してきた。

 

「(あー・・・・・つまんね。もう飽きてきたわ。そろそろ他の連中のところに行ってみるか?久々に殺し合いをしてぇ・・・・・)」

 

舞台から降り、スタッフからタオルを受け取らず真っ直ぐ地上へ通じる通路へと突き進む。その足が不意に立ち止まる。男の目の前を立ち塞がる人物がいた。見知らぬ者であれば気にせず進むだけであったが男の口唇が深く笑みを浮かべた。

 

「―――久しぶりだな。どうやら退屈をしていたところのようだな」

 

「グハハハハッ!ああ、実際にそうなんだぜ。もうここにいるのも飽き飽きしてたところなんだ」

 

「そうか。ならば共に来ないか。俺とアポプスは世界各地にいるお前達を探して再び集結を臨んでいるのだ」

 

男の勧誘に大男は銀色の双眸に狂気の光を孕ませ、全身から禍々しいオーラを迸らせた。

 

「一つ聞かせてくれや。あの野郎は・・・・・復活したのか?」

 

「残念ながらまだ復活には程遠い。だが、この世界は思いのほか俺達を楽しませてくれるようだ。先程アポプスから連絡が入った。倒されそうになったニーズヘッグを回収したそうだ。これは間違いなく俺達と対抗できる存在がいる」

 

「そうか、そうかぁ・・・・・グハハハッ。そいつはぁ楽しみだなぁ~・・・・・!そいつとの死闘をやれたらと思うと楽しみで仕方がねぇよ」

 

「その機会は近いうちに巡ってくる。―――グレンデル、存分に我が主のために戦え」

 

「グハハハハッ!勿論だぜアジ・ダハーカの旦那っ!ああ、待った甲斐があったもんだぜぇっ!」

 

哄笑するグレンデルと人類の天敵アジ・ダハーカ。通路の天井に設けられた照明で伸びる二人の男の影は異形の姿をした影として浮かび笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

―――とある夏休みの日常―――

 

「・・・・・」

 

織斑家と刻まれた表札の前に日照りを受けるシャルロットがいた。アメジストの瞳は緊張の色を浮かべ織斑家に着いてからもドキドキしながら、その表札を見つめる。織斑家と書かれたそれを、シャルロットは何回も読み返しながら、深呼吸をした。

 

「ふーん、ここが先輩の家なんだ」

 

「私達の家と全然違うねー」

 

シャルロットの心情を露知らずな、視線を下に落とせば双子の子供が私服姿で立っていたファニールとオニール。

 

「(ううう・・・・・まさかこの子達に見つかっちゃうなんて・・・・・)」

 

一夏達が今日は家にいると情報を得て皆に内緒でこっそりと向かうはずが、外へ出かけようとする二人と学園内で鉢合わせしてしまい、そのまま連れてきてしまった経緯がある彼女は「入らないの?」と催促の言葉をかけられてしまった。

 

「(うー、あー、えっと、本日はお日柄もよく・・・・・じゃなくてっ)」

 

なんて切り出そうかと考えては、伸ばした手がボタンに触れる直前にいきなり声をかけられた。

 

「あれ、ジャルロットか?どうした」

 

「双子もいるし珍しい組み合わせだ」

 

「・・・・・」

 

「遊びに来たのか?」

 

いきなり後ろから声をかけられ、狼狽120パーセントのシャルロットが振り向くに釣られてオニールとファニールも振り向く。そこには、ホームセンターの買い物袋を提げた織斑兄弟妹が立っていた。

 

「あ、あっ、あのっ!ほ、本日はお日柄もよくっ―――じゃなくて!え、えっと、ええっと・・・・・」

 

「「「「?」」」」

 

「こんにちは!」

 

「突然押しかけるような形で来てごめんなさいね。先輩達の家に遊び行くって知ったから便乗してきたの」

 

パニックになりながら、何かいい言葉がないものかと慌てるシャルロットを他所に、小さきカナダ代表候補生がスラスラと語る。後に発覚する。

 

「やっぱりそうか。とりあえず外じゃなんだ、中に入ろうぜ。冷たい麦茶を用意するよ」

 

「お、お邪魔します」

 

「「お邪魔します!」」

 

一同は家の中に入った。

 

「(こ、ここが一夏達の家かぁ・・・・・)」

 

男の子の家に上がったこと自体初めてのシャルロットは、それとなくリビングの中を見渡す。織斑家は、いわゆる普通の家で、リビングとキッチンが繋がっているタイプのものだ。もともと中古物件だったのを、芸能界で働いてたラーズグリーズの給料で千冬が買ったため、設備は新しくない。しかしそれでも去年までは一夏と秋十、一誠、マドカがあれやこれやと手入れをしたり掃除をしたりして奇麗にしていたため、古くくささやボロさという言葉には縁遠い。

 

「ここが先輩の家なのね。意外と普通だわ」

 

「悪いな小さくて」

 

「ううん、初めて他の人の家に入ったから新鮮なの」

 

同じく男の子の家に上がったことがないオニールとファニールは一夏と秋十から麦茶をもらい受ける。暑い日差しを受けてカラカラだった喉が冷たい麦茶の味と共に潤いつつ美味しさがひとしおだ。

 

「さてと、一誠。久々にゲームでもしないか?」

 

「あ、ちょっと古びてるけどまだまだ使えるなボードゲームの方も」

 

「うーん・・・・・皆で遊べれるボードゲームでいいか」

 

「お、人生ゲームだな。直ぐ出してくるぜ」

 

一夏が率先に動いて部屋を後にすること数分後。大きな箱を持ってきた一夏が戻ってきてテーブルの上に置いて遊ぶ準備をする。

 

「オニールとファニールは悪いけど二人一組でいいか?」

 

「うん、いいよ。ボードゲームってしたことがないから楽しみだねファニール」

 

「そうね」

 

六人(七人)でオニールとファニールのコンビ、秋十、マドカ、シャルロット、一夏、ラーズグリーズの順番でゲームを始める。

 

「最初は職業を選ぶの?だったら、アイドルの職業を手に入れるわ」

 

「運動選手の方が年俸はいいのに勿体ないぜ」

 

「俺は普通に料理人だな。マドカは」

 

「専業主婦」

 

「俺は発明家だ」

 

「僕は・・・・・うん、メイドさんだね」

 

それぞれ最初に職業を決めて玩具の所持金一万二千円を得てから駒を進める。職業と普通の二種類が交ってるコース、七十マス以上先にあるゴールまでルーレットを回す。ルーレットを回したファニールは三マスを進める。

 

「えっと、『初めての仕事の通勤中に人助け、助けてくれたお礼に二千円を得る』だって」

 

「お、幸先がいいな。次は俺だな(ルーレットを回す)・・・4だ。1、2、3・・・・・げっ『電車の中で痴漢と勘違いされてしまう。一回休み』」

 

「幸先が悪いのは愚兄だったな。・・・・・1か。『夫から出世の報告を受ける。職業カードがランクアップ』

 

「マドカの職業は専業主婦だから・・・・・なんだ?」

 

「セレブだ」

 

「セレブなマドカ・・・・・想像できないな」

 

豪華な服を身に包むマドカを想像できないと織斑家男子は心中で頭を振る。続いてシャルロット。

 

「えっと、6だね。『勤め先で高評価を受けボーナス千円を受ける』」

 

「次は俺だ。・・・・・2か。『寝坊して急いで電車に乗る。ニマス』って俺も休みかっ」

 

「ウェルカム一夏。ようやく一誠の出番だ」

 

「よし回すぞ・・・・・5。『初めてできた恋人に高級料理を奢らされる。食事代を五千払う』」

 

無言で五千を払う。「「うわっ」」とリアルでもありそうなこと故に笑い事ではなかった。そんな感じでボードゲームをする一同は、阿鼻叫喚に似た熱狂的なほど夢中になった。

 

「地震発生で仕事がなくなっちゃったよー!?」

 

「『結婚詐欺で全員から全財産を貰い十五マス戻る』・・・・・『全員から子供を一人ずつ養子として貰う』」

 

「えっと、『夫の本妻に愛人が発覚され、職業はランクダウンする』・・・・・なんだろう。凄くデジャブを感じる」

 

「今度は俺だな。んと1、2、3、4・・・・・『黄金郷を発見。職業はランクアップして皆からお祝いに五万貰う』。おおっ、ラッキーだ」

 

「・・・・・『アルコール依存症で病院から薬をもらう。三千円払って一回休み』・・・・・リアル」

 

ゲームは終盤にかかりいよいよ最初の一人目がゴールしようとしてた。しかし、その手は聞こえてきたインターホンの音で止まった。

 

「誰だ?」

 

「シャルロット、迎えてこい」

 

「え、ぼ、僕が?」

 

「ああ、そうだ・・・・・迎えたら『織斑シャルロットですがなにかご用でしょうか』って言うんだ、いいな」

 

「ええええええええええっ!?」

 

どうしてそんなことを言わなきゃいけないのか、と驚きながらマドカに問うと現状のゲームの結果を突き付ける。

 

「負けてるからだ」

 

「あう、罰ゲームなんだね・・・・・」

 

「軽い罰ゲームだ。おい愚兄、同伴してやれ」

 

「まぁ、別にいいけど」

 

マドカの促しに異論を言わず一夏はシャルロットと玄関へ向かった。そして少しした時に。

 

「シャルロットさんッ!『織斑シャルロットです』ってどういうことですの!?まさか、い、一夏さん。シャルロットさんとけ、けけけけ・・・・・っ!?」

 

リビングキッチンにいる全員の耳に聞き覚えのあるお嬢様の動揺の声が聞こえたのであった。

 

―――†―――†―――†―――

 

セシリアと―――ヴィシュヌを連れて戻ってきた一夏とシャルロット。その際、マドカへ非難めいた眼差しをシャルロットは送った。友人に変な誤解をさせたからだ。

 

「ひどいよ。セシリアが来るなんて知っててあんなことを言わせたの?」

 

「ワザとじゃない。他人のプライベートを調べるほど暇を持て余してないからな」

 

「何故でしょうか。私のプライベートは調べる価値すらないと聞こえてならないのですが」

 

「ほう・・・・・ならこの五つのケーキ。一体、誰を食べさせるためにある?」

 

「こ、これはですね・・・・・!お、おほ、おほほほほっ!」

 

机に置かれた小箱の中身。相手のプライベートを知ったうえで持ってきた、という決定的な証拠を指摘されたセシリアのあからさまなごまかし笑いにマドカの目は据わった。そして溜息を吐いた。

 

「・・・・・箒達も遊びに来るな」

 

「妹よ。何故そう予想できる」

 

「・・・・・これでこなかったらおかしいだろう」

 

「なるほど、一理ある」

 

秋十も納得したところですっと立ち上がる。

 

「仕方がない。四つだけでは分けることができないからホットケーキでも作ろう。私のケーキは双子に食べさせろ」

 

「マドカのホットケーキだと?なら俺のケーキも上げるから俺は妹のホットケーキを食べる!一緒に手伝う!」

 

「あ、それなら私も手伝いますね。突然の訪問で申し訳ございませんので。私の分もファニールかオニールにでもどうぞ」

 

ヴィシュヌも手伝うと立ち上がってはキッチンに近づく。

 

「料理の経験は?」

 

「人並みにありますがホットケーキというものはございません」

 

「ならいい。それに簡単だからすぐに覚えれる」

 

冷蔵庫から卵と牛乳を取り出し、もとより作る予定だったのか直ぐに用意できた。小さい体故に魔法で宙に浮きながらマドカとヴィシュヌの間で上機嫌に一緒に作る一誠。三十分も時間を費やせば皿の上に三枚のホット―ケーキと十枚のホットケーキが完成していて、バターや蜂蜜たっぷりかけてマドカとヴィシュヌは食べる。で、ケーキを食べ終えた頃・・・・・マドカの言った通りに箒・鈴・ラウラに乱が遊びに来た。

 

「しかし、来るなら来るで誰か一人くらい事前に連絡くれよ」

 

「仕方ないだろう、今朝になってヒマになったのだから」

 

「そうよ。それとも何?いきなりこられると困るわけ?エロいものでも隠す?」

 

昼食のざるそばをすすりながら、箒と鈴が答える。結局大人数になってしまったため、昼は手軽に作れる麺物になったのだった、

 

「わ、私とヴィシュヌさんは、ケーキ屋さんに寄っていて忙しかったので」

 

「ご、ごめんね。うっかりしちゃってて」

 

わさび抜きのざるそばをちゅるんと食べて、セシリアとシャルロットもそれっぽい言い訳を言う。

 

「ちなみに私は突然やってきて驚かせてやろうと思ったのだ。どうだ、嬉しいだろう」

 

そばつゆに次の麺を入れながら、しれっとラウラがそう告げる。

 

『(この自信が時に羨ましい・・・・・)』

 

ラウラ、コメット姉妹とヴィシュヌ、乱以外の女子四人は、まったく同時にそう思うのだった。

 

「ラウラ、別に嬉しくもないしお前達が来るのを予測していたから大して驚いてなどない」

 

「ほう。こちらの動きを察知してたか」

 

「勘だがな」

 

秋十が徐にざるそばを食べるために使った食器類を片付け始める。一夏も同時に動く。

 

「さて、これからどうするか」

 

「当然だがこれからどうする。こんな押し掛けの女房のように何の連絡もせずに押し寄せて来た連中と何する」

 

「ちょ、誰が押し掛け女房―――っ」

 

ギロッと食って掛かる鈴に睨みを利かせるマドカのその仕草は、千冬と酷似していて押し黙ってしまった。

 

「そうだなぁ・・・・・またゲームでもするか?」

 

「それ以外ないだろしな」

 

リビングキッチンを後にするマドカを一瞥して話し合いをする一夏と秋十もボードゲーム以外の物を取りに。

 

『・・・・・』

 

少女達は心中で深い溜息を吐いた。あのマドカの毒の入った言葉は今更始まったことではないが、今回は自分達に非があるので「次は気を付けよう」「今度は何かを持参しよう」と肝に銘じた。結局トランプもボードゲーム以外の遊びを考えた末に―――。

 

「―――王様ゲェエエムッ!」

 

『イエーイッ!』

 

王様ゲームをすることにした。

 

「ねぇねぇ、王様ゲームって何?」

 

「王様のくじとそれ以外の数字のくじを皆で引いて、王様のくじを引いた人が数字のくじを引いた人に複数人命令できるんだ。ただし、絶対に命令できない命令をしちゃだめだ」

 

「例えばどんなものよ?」

 

「裸になれとか王様とキスをしろとかそういうものだ」

 

「た、確かにそれはできない命令ですね・・・・・」

 

「少なくともそんな命令をする奴なんてこの中にはいないでしょ」

 

イマージュ・オリジスに対抗するべく外国から来た転入生組は王様ゲームのルールを知ったところでゲームは始まる。穴を空けた箱の中に全てのくじを入れ、数人ずつそのくじを開けるタイミングまで持つ。

 

「それじゃ全員取ったな?では、いくぞ」

 

『王様はだーれだ!』

 

と、掛け声を言いながら揃ってくじを開き・・・・・。

 

「ふっ、私だ」

 

ラウラが王様のくじたる王冠の絵をドヤ顔で見せつけた。

 

「では、王様の命令を言わせてもらおうか。何人でも命令していい話であったから・・・・・まず最初は軽めでいいだろう。13番と1番は次の王が決まるまで抱きしめ合い、5番も7番に王が決まるまで膝枕をしろ」

 

「「「「・・・・・」」」」

 

指定された数字のくじを持つ―――鈴、箒、ヴィシュヌ、一夏が表情を固くする。

 

「ちょっ!?なんて命令を言うのラウラー!」

 

「・・・・・」

 

「ひ、膝枕をですかっ?」

 

「えっと、それはちょっと・・・・・」

 

抵抗を覚える命令される側に心底楽しそうなマドカは笑みを浮かべたまま断言する。

 

「王様の命令は、絶対。やれ。次が進まない」

 

「「「「っ・・・・・」」」」

 

催促の言葉を突き付けられる四人は渋々とそれぞれ命令通りに動く。箒の豊かな胸を直視する鈴の顔から表情が失せ、一夏とヴィシュヌは赤面したまま膝枕続行中。満足するラウラは次に進める。

 

「うむ、では次だな。いくぞ、せーのっ」

 

『王様はだーれだ!』

 

全員がくじを引き終え、確認すること数秒後。

 

「やった!私だよー!」

 

王様のくじを引いたオニールが満面の笑顔で告げる。ばっと箒から離れる鈴に、恥ずかし気にヴィシュヌの膝から起き上がる一夏。

 

「えっとね。じゃあ、4番の人は全員に好きな人のタイプを言う、で!」

 

その四番のくじを引いた者は・・・・・すぐ隣にいたファニールだった。

 

「オニール。それは恥ずかしいわ・・・・・」

 

「あ、ファニールだったんだ。じゃあ、言ってね?」

 

「・・・・・好きな人のタイプって、あんまり考えてなかったけれど。うーんと、私とオニールを大切にしてくれる人でいいかしらね。これでいい?」

 

「うん、ありがとう。えへへ、ファニールと大切にしてくれる素敵な人って一緒だね」

 

姉妹揃って互いを大切にしてくれる人がタイプと告白を聞いて、そういう人が現れることを少女達は胸中で祈る。

 

「それじゃいきまーす。せーの!」

 

『王様はだーれだ!』

 

三回目に突入した王様ゲーム。次の王様のくじを引いた者は―――。

 

「あ、僕だね」

 

シャルロットだった。

 

「えっと、じゃあ・・・・・5番が王様に可愛いと思うことをすることで、いいかな?」

 

そう命令を下したシャルロットが指名した5番のくじを持つ―――一誠が5のくじを皆に見せつけた。

 

「・・・・・一誠かぁ」

 

「昔は可愛かったが今は格好いいって女性から人気を集めてるからできるのかね?」

 

「ふん、できようができまいがやらなければ先が進まない」

 

三兄妹や箒達が二人の様子を見守る。命令した本人も、ちょっぴりドキドキして一誠を見つめる。

一度顔を俯いて精神統一をするかのように少しの間そうした。そして、意を決したように顔を上げて可愛く言った。

 

「シャルおねーちゃん。だ、大好き・・・・・!」

 

瞳を潤わせて恥ずかし気ながらも精いっぱい自分の気持ちを告げる一誠の言動に、シャルロットの胸の奥がキュンとときめいたのは内緒であった。マドカの感想はと言うと、ゴミを見る目で吐き捨てた。

 

「気持ち悪い、マイナス100だ」

 

「それはあんまりだ妹よ!?」

 

そして、まだまだ続く王様ゲーム。次に王様になったのは、一夏だった。

 

「一夏、あんた。へんな命令をしたら許さないんだからね」

 

「そうですわ。公平な命令をしたくださいまし」

 

「そんなこと言われてもなぁ・・・・・じゃあ、8番が9番の頭を撫でるで。8番と9番は誰だ?」

 

「8番は俺だ」

 

「9番はあたしよ」

 

秋十と乱が名乗り上げ、命令通りに乱の頭を撫でる秋十。無事に終わり続ける。

 

『王様はだーれだ!』

 

そして王様は・・・・・。

 

「私だ」

 

箒となった。一瞬、一誠を一瞥して命令権を使う。

 

「ごほんっ。では、言うぞ。1番が10番に命令する」

 

「「・・・・・」」

 

マドカと一誠が1番と10番のくじを見せびらかす。一誠に命令権を得たマドカは、獲物を見る猛禽類のような目つきとなってギラギラと自分の兄から放さない。千冬の幼い顔が舌なめずりをして邪な笑みを浮かべる。蛇に睨まれた蛙は、全てを悟った顔で遠い眼をしていた。

 

「愚兄」

 

「わかっている妹よ。お兄ちゃんの胸にさぁ―――!」

 

「これから私から三メートル離れて生きていろ」

 

「ぐはっ!?」

 

「「一誠が死んだぁー!?」」

 

わいわいと騒ぎつつ、楽しい時間はあっという間に過ぎていく。そして時刻が四時を過ぎたところで、唐突に予想外の人物がやってきた。

 

「なんだ、賑やかだと思ったらお前達か」

 

織斑千冬、その人である。私服姿は白いワイシャツにジーパンという行動的な人柄をよく表しているそれで、服の下ではタンクトップが豊満な胸を窮屈そうに押し込めていた。

 

「「千冬姉、おかえり」」

 

「今日は珍しく帰ってきたか」

 

すぐさま一夏と秋十は立ち上がって、千冬の側に行く。右肩の鞄と脱ぎ捨てたワイシャツを受け取って片付ける様は、執事か何かのようですらある。

 

「昼は食べた?まだなら何か作るけど、リクエストある?」

 

「バカ、何時だと思っている。流石に食べたぞ」

 

「そうだな、外から戻ったばっかだし、冷たい物でも。お茶か麦茶、どっちがいい?」

 

「そうだな。では麦茶にでも―――」

 

「わかった麦茶だね」

 

甲斐甲斐しく姉の世話をする三人の弟たち。まるで千冬は女王様みたいだと箒達はそう感じ取って意味深な視線を向けていた。その視線に気づき居心地が悪くなって急用な仕事が入ったと嘘を言って帰ってきたばかりだというのにすぐ外出した。その後、一夏達の携帯に一斉送信されたメールが届いた。その内容を見ては直ぐに行動に移った。一同、IS学園に赴くため。

 

 

 

 

夏休み中に更識楯無から発表が下された。招集の声に応じて一堂に会する専用機持ち達は、クラスメートがいない分、自分の席に座ることでバラバラであったり隣人同士だったりするのがより分かりやすくなった。そんな状況など気にもかけない一同は今回の召集の本題に意識をしていた。

 

「皆、おはよう。まだ夏休み中の時にごめんなさいね。今日は二学期初日から新たに学園にやってくる代表候補生を紹介させてもらいたかったの。では、入ってきてちょうだい」

 

―――専用機持ち、代表候補生のみしかいない教室にはねっけが特徴の銀髪のIS学園の制服を身に包む少女が入ってきた。

 

「それじゃ自己紹介よろしくねロラン君」

 

「私はロランツィーネ・ローランディフィルネィ。オランダ代表候補生にして、99人の恋人を持つ罪深き百合だ!」

 

『・・・・・』

 

出会って開口一番に意味不明な発言をされ、うん?理解できなかった者は少なくなかった。99人の恋人を持つ百合・・・・・?一同の胸中は疑念でいっぱいになり、ヴィシュヌは疑問をぶつけた。

 

「99人の男性と付き合ってるのでしょうか・・・・・?」

 

「男性ではないよ。私が付き合っているのは麗しき蕾の乙女さ」

 

「はぁっ!?」

 

「・・・・・百合って、マジな意味だったか」

 

「99人も恋人がいるってのも信じられねー事実だわ」

 

「というか、よくそんな関係を構築できてるなって逆に感心するわ」

 

現在四人しかいない男子の一夏達がロランの話を聞いて半ば唖然とした。男ならわからなくもないが同性愛者で100人近く、交際しているなどと眉唾な話であるゆえに信憑性があるか否か拘わらず自己紹介の内容に目を丸くする。

 

「む!」

 

するとロランの目が・・・・・箒の姿を捉えた。当人もロランからの視線とぶつかって絡み合った瞬間。

 

「嗚呼、君は!何て名前だい?」

 

「篠ノ之・・・・・箒だ」

 

名乗った箒の手を優しく両手で包むように手に取るロランは、歓喜の声を上げた。

 

「嗚呼、私達は出会ってしまった!運命よ、君に感謝をしよう!」

 

「おい、何故私の手を取る。おい、私の話を聞いてるのか?」

 

「ふふふ、いいじゃないかいいじゃないか!私は決めたよ、心から決めたよ」

 

何をだと思った者や、まさかと感じた者が二人の成り行きを見守る。

 

「君こそが100人目の恋人に相応しいと!」

 

笑顔と共に本気で言っているロランに自分の貞操が危ういと危機感を覚えた箒は、全力で拒んだのは言うまでもなかった。

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