インフィニット・ストラトス~光に奪われし闇~ 作:ダーク・シリウス
空の彼方から飛行する巨影。悠々と空を飛ぶものは飛行機でもロケットでもなく、肩に突起物のようなものが二つある他、背中と肩、腕や太股にも赤黒い二重の輪後光が。体は尾と繋がっており、四対八枚の翼に黒が赤に浸食された感じで入り混じっていた。手首と足の甲に鋭利な刃物状な物が生えて頭部に鋭い一本の角にも赤黒い二つの輪後光がある。胸に妖しく光る赤い宝玉のようなものがある巨大な生物―――ドラゴン。人の目が届かない雲の上で世界中を飛び回って今日まで地上の人類に気付かれたことはない。しかし、今日ばかりはそうではなかった。雲から新たな黒い影が浮かび上がり、雲を掻き分けながら姿を表す背中に大きな翼を生やし、浅黒い鱗に覆われた巨人型のドラゴン。
『ようやく見つけたぜ縛り野郎!』
『ほう、暴れん坊のお前が俺を探しに来るとは珍しいものだ。勝負なら断らせてもらうぞ。お前を相手にするのは面倒だからな』
『縛るしか能がない奴なんかとこっちから願い下げだ。アジ・ダハーカの旦那の伝言だ。「時は来た」ってな』
『時は来た・・・・・ということは』
『おう、奴を見付けたぜ。メリアが持っていた聖杯も受け取ったそうだ。残りは二つ。俺達も全員集まることになってんだよ。問題がねぇならついて来い』
わかった、と頷くドラゴンは巨人型のドラゴンの案内でアジ・ダハーカがいる場所へ向かうべく雲の下へ降り立ち、人間の都市の上空で移動する。
《ん~と、どこだぁ~?》
堂々と大都市の上を通り過ぎ餌を求めて探してるのではなく、誰かを探している様子のニーズヘッグ。地上の人間の阿鼻叫喚など気にせず移動しながら探し求める巨大過ぎる大蛇のニュースは世界にも放送される。
《おや、お久し振りですね》
《お前も息災のようだな》
《木を隠すなら森にと思ってずっと木の真似をしていたのですが、やはり気付かれますか》
《森の中ではなく、人里の公園の中にいたことに不思議なのだが》
某国の深夜の公園にてアポプスが葉の無い樹木に話し掛けると、樹木が赤い双眸を開き、口と思われる部分が広がって人語を操る。
《人間の子供達の遊戯を見ながら待っていたもので、案外バレませんでしたよ?》
《楽しんでいたようだな。しかし、それもそろそろ終わりだ》
《ということは、彼は復活したのですか?》
《まだだ。器はアジ・ダハーカが見つけた。聖杯もメリアが与えた》
《ようやくですか。ならば私もこの場から離れるとしましょう。何やら世界は慌ただしくなっていますが》
「順調に見つけているようだな。俺も他の者を見つけねば」
届く連絡にアジ・ダハーカも動き出す。人の形を大きく崩し、時折紫色の発光現象を起こす黒い鱗に覆われた四肢型の三頭龍の姿に変えてその場から一気に人間の町の上空に移動し、咆哮を上げた。
『さぁ、そろそろ我が主の復活の第二段階に進めるとしよう!』
ここは―――知らない者にとっては未知の場所。円状な空間で壁一面にはキラキラと星屑が下に落ち続ける神秘的な現象が絶え間なく起きている。床は四匹の龍が太陽を囲むような姿勢が描かれているのに対して、
天井は満月を囲む四匹の龍の彫刻が施されている。そして、この空間の奥に天井にまで伸びた背もたれの椅子に座る女性がいた。緑色の髪から突き出る翡翠の二つの角。身に包んでいる衣服は、緑と青を基調とした着物。その者はジッと立体的な映像で見つめていて吃驚した表情を浮かべていた。
「これはっ・・・イレギュラーです。まさか彼のドラゴン達がこんなところにいたなんて。だとしたら・・・・・」
思案顔をした彼女は魔方陣を展開した。魔方陣から発する光と共に浮かび上がるは、宇宙にいると思わせる程の常闇に星の輝きをする宝玉が柄から剣先まで埋め込まれてあり、刃の部分は白銀を輝かせ
至るところに不思議な文様が浮かんでいる装飾と意匠が凝った金色の大剣。
「彼の者もいるかもしれません。恐らくは人間に転生しているでしょうが・・・・・」
某所。真紅のメッシュを入れた銀髪の女性がとある店に設置されたテレビのニュースで『巨大生物 各国に出現する!』と報道されているのを見て綺麗な柳眉が皺を寄せて訝しんだ。
「・・・・・余計な騒ぎを、『約束』を果たす気があるのかしら」
会計を済ませて携帯を取り出し、彼女はある人物に連絡を入れる。繋がるとすかさず口を開いた。
「こんにちは束さん、あの子とお話しできるかしら」
IS学園に近付いてきた一人の女性を千冬と楯無の二人が要人として出迎えた。
「ようこそIS学園へ。お待ちしていました」
「申し訳ございません。引き継ぎの準備に思いの外手間取ってしまいました」
「私達に協力してくれる為だと思えば首を長くした甲斐もある。兵藤メリア」
絢爛な金の着物姿で美しく微笑む女性。臨海学校で利用した旅館の仲居の女性であり、アジ・ダハーカの仲間の一人。千冬がメリアに協力を求めたことで条件付きであるが彼女を政府どころか学園上層部すら秘密裏に引き込めた。すべて千冬の独断によってだが、学園の防衛はより強固となったと過言ではない。
同時刻、休日の日にも拘らず各アリーナでは上昇志向の強い生徒たちがIS訓練に明け暮れていた。その中には一夏達の姿もいて、一対一、複数同士、複数対一の戦闘を繰り広げていた。のだが、訓練に熱が入っている彼等彼女等を他所にただ一人マドカはIS学園にいなかった。
「あら、奇遇ね」
「・・・・・あなたは」
束とラーズグリーズ達の秘密基地に訪れていた。束に連絡して頼み込み条件付きでナンバーズの一人に迎えに来てもらい、送ってもらうことができたところ。ラーズグリーズがいる秘密基地の内部に、鉄のカプセルの中で培養液に包まれながら眠ってるラーズグリーズの隣に佇んでいる、この場に居る筈がない人物と鉢合わせした。
「・・・・・どうしてここに」
「久しぶりマドカちゃん。私は束さんと繋がりがあってここに来させてもらったの。彼の様子を確認するためにね」
桐生カーリラ。日本と外国のハーフで真紅色のメッシュが入った長い銀髪に琥珀色の双眸の容姿の女性。織斑家全員と面識があり、何度も共に卓を囲んで食事したり外食したり、当時中学生だった時の千冬の手助けもしたこともあるので、マドカもお世話になったこと経験がある故、ここにいること自体が信じられなかった。
「彼の様子・・・・・ラーズグリーズのことか」
「ええ、偽物ではなく本物のこの子をね」
「っ・・・!?」
信じられないことに、彼女は明らかに自分達よりだいぶ前から気付いていたようだ。その事実に目を見開くマドカと小首を傾げる桐生
「不思議そうね。まさか、マドカちゃん達は気付いていなかったの?家族なのに?」
「うっ!」
「因みに私以外にも気づいているわよ。一人だけどマドカちゃんが苦手な私と同じ職場で働いているあの人」
その場で四つ這いになるマドカ。ピンク色のアフロ、同じ色でアフロのような胸毛を抱え、オカマならぬ漢女の相手にも後れを取ったショックは思いのほか大きいようで、物凄く落ち込むマドカであった。
「・・・・・何時から」
「第二回IS世界大会『モンド・グロッソ』の後の次の日ね。同じ顔のあの子が何故か普通にやってきて、事前に打ち合わせしたことを全然できなかったからその日やそれ以降の仕事が大変だったわ。社長と問い質すかどうか話し合ったけれど、同じ顔ならバレる心配はないだろうと、悪い言い方をすればこの子に成りすましたあの子を利用することにしたの。会社的にあの子の不在は凄く大きいから」
「・・・・・」
「で、今年に束さんから連絡があって会ったのよ。彼女とこの子をね。とてもじゃないけれど最初は目を疑ったわ。私が知るこの子の影の形もなくなって話を聞けば、ISを動かせる秘訣を得るための非人道的な事をされたって、家族に会いたいのに自分を成りすましている奴がいて出来なくて悔しいって」
何故先に教えたのは家族ではない彼女なんだと束に疑問が沸くも、この身体で自分が本当なのだと名乗り上げようと信じてもらえない。それが関の山なんだろうと悟るマドカ。同時に納得してしまった自分に悔しくて怒りを抱いた。
「それから連絡を取り合うようにして来たけど、ここ最近世界各地でドラゴンが出現してるわよね?束さんに連絡を取ってみたらイマージュ・オリジスに与する敵にやられたって聞いて私はここに来たの。まったく無茶するわねこの子は。ドラゴン相手にISじゃあ勝てないのに」
「仕方がない・・・・・今の人類の最高最強の戦力はISしかない。それに愚兄が聖杯とやらを手に入れて・・・・・」
「・・・・・聖杯?」
刹那、何とも言えない異様な雰囲気を纏うカーリラ。
「あの偽の子が聖杯って物を手に入れて何になるの?」
「詳細は不明だが、ドラゴンと対抗できる力を得るって愚兄から聞かされた。それが三つもあり、すべて揃えればアジ・ダハーカ達を倒せると」
マドカの話の直後。今度は何故かカーリラがその場で四つ這いになり物凄く落ち込んだ。
「なんてことを・・・・・これじゃあ『約束』が・・・・・」
「・・・・・『約束』・・・・・?」
この落ち込み様は聖杯と関係しているのかと憶測を立て尋ねて見た。
「貴女はアジ・ダハーカ達の仲間なのか?」
「・・・・・」
問われたその問いに四つ這いから立ち上がったカーリラ。マドカの質問を答えようとした口が開きかけた時。
「ねぇねぇ、面白いニュースが放送されてるよー!二人も見て見なよー!」
束がくるくると回りながら二人に近づき大型の空中投影ディスプレイを広げた。
『緊急放送です。山梨県の青木ヶ原樹海に突如超巨大な剣が落ちて来たという報告が現地から届きました。御覧ください、天を衝かんとばかりの超巨大な剣が遠くからでもよく見えます。空から降ってきたという話がありますが、実際のところはまだ聞き込み調査中で真意は定かではありません。一体あの剣にどんな意味を込められているのか研究者・専門家の間で議論が飛び交っているようです』
雲の上まで届いている柄の剣。それは宇宙にいると思わせる程の常闇に星の輝きをする宝玉が柄から剣先まで埋め込まれてあり、刃の部分は白銀を輝かせ至るところに、不思議な文様が浮かんでいる装飾と意匠が凝った金色の大剣。
「何だ、あの剣は・・・・・本物なのか?」
「すっごい不思議現象だねー!」
「束さん!」
鬼気迫る凄い剣幕で束の肩を掴むカーリラ。おっ?と目を丸くする束は彼女からの懇願に耳を傾けた。
「今すぐこの子をあの剣の場所へ連れて行って!」
「何言ってんの?無理だよ、まだこの子のISは完成していないんだよ。このカプセルから出したら、らーくんは十時間も生きていけれないんだよ?蝉より短い死を迎えちゃうよ」
「なら、このカプセルごとでも構わないから!あの剣は、今は振るえずとも今後この子の力になる!」
何を言っているのだと思う気持ちはマドカもそうだった。あんな巨大過ぎる剣をミイラのような片腕で持ち上げることすらできないのは誰が見ても火を見るより明らかだ。胡乱気にカーリラを見ていると、鉄のカプセルから音が聞こえてくる。
「ラーズグリーズ・・・・・?」
「え、らーくん?」
マドカの呟きに反応して近づく束。培養液に浸かってる状態のラーズグリーズが何度も枯れた手でカプセルを叩く。ここから出たい・・・・・そんな必死な意思表示をするラーズグリーズを見て束はうーんと悩んだ。そしてカーリラに振り向く。
「カプセルごと連れて行っても外に出すのは一回だけだよ。本当に死んじゃうんだからね」
「構わないわ。それと邪魔が入らないようにしてくれるとありがたいわ」
「当然だよ。今頃有象無象達が甘い汁を啜るアリのように集まっているだろうしね」
本当にこの子の為になるならば、という考えで準備に入る束。マドカも見守るために同行する。
しかし、彼女の考えることは他にもいた。
「皆、聞いて頂戴。これから私達専用機持ちは全員、樹海にある巨大な剣のところに行くことが決定しました」
「え、何でですか?」
「どう考えてもあれは普通じゃないわよね。だから調査の為に政府がIS学園に依頼をしてきたの」
「納得できるけど、どうせ分からず仕舞いで終わるだろうに。政府も真面目だな」
「結果がそうでもやらないといけないのが政府の仕事の一つよ秋十君。それとこれはこっちの都合だけれど、一誠君も連れて行くわ」
何でだ?全員の気持ちが一致した。
「こっちはメリアさんの依頼なのよ。細かな説明は貰ってないけれど、こっちとしては危険じゃない限りは連れて行っても問題ないし、もしもアジ・ダハーカが持っている聖杯と関係する物だったら御の字だしね」
聖杯を手に入れてる一誠がいるならば何かしらの反応がある。そういう考えの楯無に一同は取り敢えず異論もせず直ぐに行動を始めた。
「あの、楯無さん。マドカはどうしましょ。連絡が繋がらなくて」
「ISでも?」
「ええ」
「一方的に通信を遮断してるなら、今回の件については私達だけでしましょう。学園に戻ってきたなら織斑先生達が後から行かせると思うし」
―――†―――†―――†―――
IS学園一行は数時間も掛けてISで飛び続け、広大に広がっている森のところに辿り着く頃には、顔を見上げねば全貌が見れない巨大な謎の剣に出迎えられた。
「で、でっけぇ・・・・・」
「あれ、絶対人が作ったもんじゃないだろ」
「じゃあ神様か?世界中で暴れ出すイマージュ・オリジスに対する神の武器とか」
「そういうことだったらロマンがあるよなー。それで剣に選ばれた者は勇者となって後の英雄になるとかさ」
「だったらあれは勇者を選ぶために振ってきた剣だってか?それなら触ってみたいぜ」
男性操縦者達の和気藹々の会話にもしそうだったら可能性として聖杯を手にしてる一誠が?と思う楯無だった。しかし、護衛として依頼された身としてそれをするならば依頼が完了してからになるだろう。楯無達一行は政府関係者が集まっている場所、野営の為にテントを張ったり巨剣の周囲に様々な機材を設置して調べていたりと活動中の所に舞い降りた。
「政府の依頼に馳せ参じましたIS学園です。ここの責任者はどちらにいますか?」
「おお、待っていた。私が今回の調査隊の総責任者だ。よろしく頼むよ」
白衣の袖を揺らしながら中年男性が楯無達の下へ近づく。
「何分、これだけ大きい巨大な剣の周辺は数キロも及ぶ。しかもこの樹海だ。自衛隊でも迷いかねないのでね。空から周辺の護衛と調査の協力をしてもらいたい」
「分かりました。ところで何か調査で明らかになったことは?」
「恥ずかしい限り、少しもわかっていないのだ。見たことのない物質を始め、宇宙に広がるどこかの星が築いた高次元の文明が作った物か、銃弾や爆発類の旧兵器でも破壊できない。しかし、この剣から電波のようなものが発生していてね。現在その電波を主に調査しているところなのだ」
と、説明する研究者の顔は興奮が滲み出ていた。未知への研究と探究ができてこの手の仕事に就く者として幸せなのだろう。もしも解明できれば世に名を残すことにもなる。
「しばらくは退屈な思いをさせてしまうがよろしく頼むよ」
「わかりました。そちらも頑張ってください」
「勿論だとも。では早速だが、研究員達を上に運んでもらえるかね。あの黒い宝玉に」
ISならばヘリより安定した飛行が出来て物資も軽々と持ち運べる。彼等はこの機にISで利用し研究を尽くす気満々だった。そんな彼等に振り回されることになろうとは知らない一行は、辟易になりながら夜まで付き合わされた上、三日三晩も駆り出され睡眠不足の少年少女達と対照的に、調査隊の大人達は子供のように連日連夜大はしゃぎ、寝る暇も惜しむガチの廃人ゲーマー並みの気配を感じさせてくれた。
「うへぇ、連中すっごくピンピンしてるよ。ドクターや篠ノ之博士みたいに殆ど寝てないのにさ。どういう精神の構造しているのやら」
「それが何かを探究する人間の特有だよセイン」
遠くから、そしてISとナンバーズの能力で監視をしていた束達は闇夜の中で機を窺っていた。IS学園が彼等に振り回されて疲弊することも含め、調査したデータをハッキングして密かに複製していたのだ。地面から現れるISを纏ったセインの呆れた感想に白衣を着た男性はにこやかに話しかけた。
「篠ノ之博士、そろそろ動くかね?」
「そうだねー。じゃあ、そっちは陽動してくれないかな?そろそろ箒ちゃん達も限界だろうし、馬鹿な連中から解放してあげなきゃね」
天を衝く巨剣を見上げ、感慨深く見つめる。
「あれが本当にらーくんの為になるなら、是非とも回収したいけどあいつはどうやってするのか見物だね」
そしてその日の同時刻の夜・・・・・束の移動型ラボの中で黒いボディスーツを身に包み、フルフェイスを被って髪と顔を隠して正体を隠しているカーリラ。ラーズグリーズが入っているカプセルに触れていると、二人がいる空間に暗闇の外から二人の少女が入ってきた。
「準備はいいですか。ドクターと篠ノ之博士から指示で動くことになりました」
「わかったわ、手伝わせてごめんね」
「問題ないっすスー。ラーズのことは皆大好きっスからねー」
「ふふ、それは異性として?」
「えっ、いや、そのっスね?」
散切りの茶髪に中性的な外見をしている少女オットーと赤い髪を後頭部でまとめた少年的な容姿の少女ウェンディが、ラーズグリーズを運ぶ役割となり、カーリラの発言で照れくさそうに顔を赤らめるウェンディだった。
「ごめんなさいね、からかっちゃって。それじゃ、お願いするわ」
「はいっス。オットー、慎重に持つっスよ」
「うん」
カプセルの培養液を抜いてから蓋を開けてラーズグリーズの身体を起こし、顔にフルフェイスで被せて抱え上げる。その際小さくもラーズグリーズが声を発した。
「・・・・・頼んだ」
「変化がなかったら直ぐにカプセルの中に入れる約束っス。ラーズのISもまだ完成してないっスからね」
「行くよ」
二人は夜空を駆け、カーリラは地を駆ける。他のメンバーも位置について臨戦態勢に入る。何時でも戦闘ができるように。
「この辺でいいっスかね。あんまり上に行くとラーズが保たないっスし」
「うん、ラーズ。触って」
楯無達の食事の時間を狙って巨剣に近づく二人。ラーズグリーズを直ぐ傍にまで寄せて少しでも腕を伸ばさず触れさせる配慮で、ミイラのような手の平を動かし巨剣に触れたその直後だった。
「楯無さん、あの剣を触って良いんですか?」
「あの人達に内緒でね?メリアさんのお願いを叶えておかなきゃならないから」
一誠は楯無の背中について見張りがいない場所へ静かに向かい、剣に近づく。
「もしも触れて変化が起きたらこの剣はあなたの為にあるのかもしれない。メリアさんはそれを確かめたがってるのかも」
「こんな大きすぎる剣が・・・・・?」
「確かに大きすぎるわね。何だってこんなものがこの地球に落ちて来たのかしら。取り敢えず今のうちに触ってみてちょうだい」
促されるがまま手を伸ばして剣に触れた。その直後だった。
「は、博士!電波に異常が発生しました!」
「な、何だとっ!?何が原因だ!」
「分かりませんっ、突如急に活発化して激しく乱れました!」
慌ただしくなった調査団員達。ざわめく彼等の言動に楯無達も異常を察知して巨剣を見上げる。そして聞こえてくるドクン、ドクン、ドクンと脈打つ心臓に似た重音。ISを展開・装着して警戒する最中、巨剣が闇夜を引き裂く光量の光を迸らせどんどん縮小していった。楯無と一誠が慌てて戻ってきた時は、突き刺さっている地面から離れ限りなく小さくなった巨剣は両手剣、大剣、バスターソードと呼ぶほどの大きさにまでなり、宙に浮いたまま静止する。
「・・・・・小さくなったわね」
「でも・・・・・何でだ?俺が触って反応したから?」
「それとも何か原因でもあったのか・・・・・」
考えても埒が明かない。これからあの剣の扱いはどうするのか見守るしかないだろうと思った時に。
「織斑一誠に持たさせてください」
兵藤メリアが楯無にそう話しかけた。振り返る先にIS学園に残った彼女が誰にも悟らせずに登場したので誰もが吃驚した。
「貴女、一体いつの間にっ・・・!」
「驚かせてすみません。しかし、あの剣が変化したのを黙って見ていられませんでした」
「一誠君に触れさせてどうなるの?やっぱりあの剣は彼に関係する物なの?」
「それを確かめたくお願い申し上げております」
と、乞うメリアに楯無は一誠をここに呼んでもらい責任者に話しかける。
「すみません。あの剣を触ってもいい―――」
空から黒と紫のツートンカラーのISが小さくなった剣のところに振って落ちて来た。敵組織―――否、見慣れた顔が一人現れた。眠たそうな顔の鈴が問い詰める。
「あんた、確かラーズグリーズの仲間の・・・・・ここに何をしに来たわけ?」
「この剣を回収しに来た。それ以上は語るつもりはない」
言うや否や、柄を握り直ぐに戦線離脱したその直後、明後日の方からビームの砲撃が飛んできて場は大爆発が巻き起こり悲鳴と混乱が支配した。
「け、研究材料が奪われた!あ、IS学園!取り返してくれ!」
「皆、行くわよ!」
責任者からの必死な声に言わずともと楯無は皆を引き連れて追いかける。
「おー!らーくんが触れた途端に反応して小さくなった!すごいすごい!」
「実に不思議な現象だ。トーレはあの剣を回収しIS学園が彼女を追いかけに行っているよ」
「ふっふーん!あんな光景を見たからには私もらーくんの為に手伝ってあげよう!」
「クアットロ達にもサポートに回せよう」
様々なISの、一夏達のISの稼働状況を知らせるウインドウが、宙に撫でるだけで展開された。
「いっくんと箒ちゃんには悪いけれど、らーくんの邪魔はさせないよー」
また指先で、つぅ・・・・・と宙を撫でる。
『―――――っっ!?』
ガクンッ!と己の機体が、ISが変調を起こしたのを一番理解したのは搭乗している一夏達操縦者だった。
「くっ!どうしてISの出力があがらない!何故だ!」
「まさか・・・・・篠ノ之博士?」
「な、どうして束さんが・・・!」
その疑問が解消することもなく、逃走する彼女のサポートとして駆けてくる複数の機影。
「奴等か・・・しかもラーズグリーズと同じ機種のISとはな」
「上等じゃないっ!」
「出力が落ちたからって簡単に負けたわけじゃないわよっ!」
敵としてくるなら容赦しないと鈴と乱が勇ましく、連結した大型の青龍刀と大型マチェットを構え突っ込む。
桃色の長髪をした少女で、頭にバンド状の装甲を着けている少女セッテと栗色のストレートヘアで、容姿はかなり大人びているディードが赤い光剣とブーメランブレードを二刀流として構えそれぞれ鍔迫り合いする。その後ろから小柄で長い銀髪に金の瞳の少女チンクが飛び出し鈴と乱の装甲に触れた。
「『ランブルデトネイター』」
技名を口にした途端、チンクが触れた装甲が爆発を起こし二人のISにダメージを与えた。更には鍔迫り合いしていた目の前の敵からも鈴の龍砲を破壊され、スラスターを破壊するなど攻撃手段と機動力を奪う効率重視な戦法によってあっという間に戦線離脱せざるを得なくなった。
「これでちょっとは、ラーズの為の仕返しになった」
「お前があの時、余計な手を出さなければラーズは戦闘不能にならなかったのだからな」
「あ、あれは事故でしょうがぁっ!」
「反省していないなら徹底的に破壊する」
セッテが鈴へ飛び掛かろうとするが、そこへ一夏が滑り込んできた。
「鈴に手出しするな!」
「っ!ふっ・・・!」
相手を切り換え、斬り合う。箒もセシリアもシャルロットもラウラも楯無や他の専用機持ちも数で圧倒すれば勝てるとチンク達と戦い始める。
「やはり数で押し切られるか。―――お前達、やるぞ!」
悪戦苦闘は必須だと最初から分かり切っていたような口ぶりでチンクは打開策に転じる。示し合わせたように皆行動に出た。それはラーズグリーズの能力『夢幻現』の発動であった。同じ姿をしたチンク達が、ハイパーセンサーが相手の位置表示を全て表示し出した。
「これってっ、ラーズグリーズがラウラに使ったワンオフ・アビリティー!?」
「どうして貴方達が使えますの!?」
『ふふ、それについては私が説明しようではないか』
突如展開する大型の空中投影ディスプレイ。白衣を着た男性ジェイルが説明に買って出た。
『初めましてだIS学園の諸君。私はジェイル・スカリエッティという。この子達を創った産みの親でもある』
「創った・・・・・?」
『私も科学者の端くれでね、生体改造や人造生命体を主に研究と開発をする事しか余念がないほどだ。現在人造生命体研究や機械兵器技術の発展はもちろん、両種を融合させた技術を実用可能な域まで完成させた私の手で生み出した娘はそこにいる彼女達も含めて十二人。総称させてもらえば「ナンバーズ」。戦うために作られた人と機械の融合を確立させた戦闘機人』
「「「―――っ!」」」
『クローン技術の応用で純粋培養、クローン培養によってゼロから機械を移植・融合して拒絶反応を無くし後天的に高い戦闘能力を与えた。どうだい、素晴らしいだろう?篠ノ之博士も認める私の最高傑作だ。ああ、何故ラーズグリーズの
狂喜に満ちた笑みを浮かべ、一夏達に教えることが楽しいのか喜々として語った。
『彼の身体を見ただろう?ISという身体がなければ一日たりとも生きてはいけない。篠ノ之博士が彼に活動が出来るようISの身体を与えたことで彼はISとの生体融合を果たした』
「・・・・・」
『ほぼ、彼自身は意思を持ったISと言っても過言ではない成り立ちをしている。そして三つのISコアを内蔵した彼の特殊型ISは驚きの特徴があったのだよ。それは彼の今までのISの
そんな性能が備えていたとは露にも知らなかった楯無にとっては、味方であったら是非ともこっちにも使ってほしかったと心中で嘆息を吐いた。
「ジェイル・スカリエッティ・・・・・確かあなたの言う研究と開発は違法技術として、世界各国から指名手配されていた人物がまさかこんな形で出会えるとは思ってもみなかったわ」
『ふっ、篠ノ之博士を介してラーズグリーズが私を買ったのだよ。自身の命を長らえさせる為にね』
「どういうことかしら・・・・・」
『彼の異常な体を見て何もわからないのかい。ラーズグリーズの命はもはや二年もないのだよ。あれこそ違法な実験によって行われた代償。そこにいる人工的にISを操縦できるようになった者達のような男の操縦者を人為的に増やすために非人道的な実験をされた結果だ』
衝撃的過ぎるジェイルの言葉に一夏達は思考を停止しかけた。
「う、嘘だっ!だってあの手術は・・・・・!」
『そう、全てラーズグリーズがモルモットのごとく実験動物として散々身体を弄られ採取された結果、世界で初めて一番目にISを操縦できてしまった天然の男から奪ったDNAを、君達の脊髄に注入することで確実に動かせるように至った』
一人の男の操縦者が顔を蒼白させる。否、手術を受けた男達全員が信じられないと開いた口が塞がらない。
『しかし、そうではない真の天然でISを動かした男が他に四人もいたとは彼等も想定外だっただろう。故に君達も気を付けたまえ。君達も何者かに拉致されてラーズグリーズのような身体にされてもおかしくはない。そして四人分の天然の男の操縦者がいればさらに数十人分は増やせ、他国に強い牽制が出来る考えを持つ人間は近くから虎視眈々と狙っているだろう』
―――まぁそれも、ラーズグリーズと我が娘達が日本のISコアを全て奪取したからにはこれ以上男の操縦者を増やしても何の意味もないがね。
語るジェイルの話に戦意が無くなりかける一夏を除く人工的に操縦が出来るようになった男の操縦者の天神達。
「・・・・・待って、じゃあラーズグリーズは一夏君達を守るために日本のコアを全て」
『それは彼しか分からない気持ちだ。私達には何の関与もしていなければ興味もない事だよ』
楯無の質問に嘘偽りもなく言うジェイル。
『さて、説明は以上だ。今の話を聞いてまだ戦い続ける気持ちはあるかねIS学園の諸君』
「「「「・・・・・」」」」
『ないなら娘達を引き下がらせてもらおう。なに、今回ばかりはこのような形で相対したが私達と対立しない限りは友好的な関係を築こうじゃないか。世界の平和と自由を守るためにね』
高らかに笑いながらディスプレイを閉ざすジェイルの後、チンク達は一夏達に目を配り警戒しながら離脱を開始する。
そして一方。移動型ラボで秘密基地に戻ろうとしている最中にそれは現れた。夜の暗闇を神々しく照らす金色の光を放つ金色の身体、天使の翼に頭上に輪っかを浮かばせるドラゴン。
『申し訳ございませんが、その剣を渡してください』
「おー、綺麗なドラゴンだね。お前、誰?」
『「
「んー?いたっけ?らーくんに夢中でお前みたいなの眼中に入ってなかったよ。ていうか、そこどいてくれる?」
答えは否、とラボごと金色の膜のようなもので張って閉じ込めた。
『奪った剣はアジ・ダハーカ達と対抗できる唯一の武器。それは織斑一誠にしか本来の力を発揮できません。返していただきます』
「ふーん、ってことはあの子もその力を発揮できるわけだ」
『・・・・・何を言っているのですか?』
その答えは返ってこなかった。黒ずくめのカーリラがラボの上に立つ束の隣に肩を並べた。奪った剣を宙に浮かせて。そしてその剣を持つこともなく腕を振るうだけで剣は、カーリラの腕の動きに呼応して動きメリアの結界を切り裂いた。
『っ・・・!?』
「先に行ってください」
「ん?いいの?」
「ええ、ここでお別れ。また会いましょう」
ラボから宙に浮きだすカーリラ。束は言う通りこの場の空域から脱するように彼女を残して去った。
残された一人と一体は無言の沈黙の雰囲気を漂わせる。
そして別次元から覗いていた女性は織斑一誠の顔を見て愛しむ眼差しで見つめ、少年から奪った剣を振るう女性を見て困った表情をしてあの剣をあるべき持ち主の所へと―――スッと腕を前に伸ばして撫でる感じで動かすと眼前の床に翡翠で複数の魔方陣が浮かび上がった。輝きを増す光が迸った直後には三人の女性が召喚された。
「・・・・どこだここは?」
「どうやら召喚されたらしいな。目の前の者に」
「久しい」
見覚えのない突然別の場所に立たされてる状況に当惑するダークカラーが強い髪に澄んだ青い瞳の女性。現状を把握できて自分達を喚んだ者を見つめる黒と金が入り乱れた髪に黒と金のオッドアイの黒いコートで身に包む女性。目の前の女性と会ったことがある言葉で発する濡れ羽色の長髪と瞳、黒いゴスロリを着た幼女。
「初めまして、そして久しぶりです。突然ですが貴女方にお願いがありここに召喚させてもらいました」
「このメンツで頼みとは?」
「ただ一つ、彼の者の助力をしてください」
翡翠の立体的な映像を浮かべる魔方陣を三人の前へ展開し、映像に映し出す織斑一誠の姿。
「っ―――」
「・・・・・これは」
「・・・・・」
「顔は同じですが、この世界と異なる世界・・・異世界にいる者です。恐らく転生したのでしょうがその世界には消滅した筈のアジ・ダハーカ達の姿も確認できています。これは偶然と片付けていいことではないでしょう」
話を聞かされた三人は映像を凝視しながら聞き耳を立てる。確かに見覚えがあるドラゴン達が確認できる。
「・・・・・一体どういうことなんだこれは」
「事実を知るためには直接会いに行く他ございません」
「行くことができる?会いに行ける?」
「彼のドラゴン達が世界にドラゴンの存在を認識させてくれたおかげで彼がいる世界に繋げることが出来ました。会えますよ」
微笑みながらそう告げる女性の言葉によって彼女達は喜色を瞳に宿した。
「お前の頼みは今すぐか?」
「私の頼みは、彼の者の為に送った封龍剣が何者かに奪われました。その剣を織斑一誠に渡してほしいのです。奪った者はどこにいるのかわかりません。よって貴女方には信頼できる者に声を掛けてください。時が来たらこちらから連絡をします」
それだけ言い残すと彼女は女性達を魔方陣でどこかへ消した。
元の場所に戻された三人は、互いに顔を見合わせてはすぐに三手に分かれて行動を開始した。ダークカラーが強い銀髪の女性はある中年男性のもとへと訪れた。
「アザゼル」
「お前か。どうした?新作のラーメンの試食でも頼みに来たか?」
「いや、教えたいことが出来たからその知らせに来た。近日中に異世界へ行くことになりそうだ」
「・・・・・まさかお前からとんでもないことを言い出すとはな。そいつは冗談か?いや、お前が冗談を言うやつじゃないことは分かっているが、いきなりそんなこと言われて反応に困るぞ」
金のメッシュを入れた黒髪の中年男性の顔は言葉通り困惑した表情で、銀髪の女性の心意を知り得ずどういう経緯でそう言うのかと尋ねた時、彼女は言った。
「確かな情報の元でね。異世界で懐かしい男と邪龍達がいたんだ」
「懐かしい男と邪龍?」
「ああ・・・・・異世界で転生した元真紅の龍とアジ・ダハーカ達が生きている」
不思議そうに復唱して考えた末に、彼女の言葉に男性は目を限界にまで見開いた。その表情と反応に女性は嬉しそうに、楽しげに口元を緩めた。
「お、おい、まさか・・・・・本当なのかそいつは・・・!?あいつは、あいつは俺達の目の前で確かにっ」
「私が愛していたドラゴンはなんて言われ続けてきたか忘れたのかアザゼル?」
「・・・・・マジかよ。あいつ、そこまでイレギュラーを発揮していやがったのか」
女性は度肝を抜かしたアザゼルと言う男に乞う。
「理由は分からないが異世界で大きな戦いが起ころうとしている。そのためには戦力が必要だ。頼めるかなアザゼル」
「・・・・・まったく、異世界でどう過ごしたら戦いが起こるんだ。あいつがいる異世界はこの世界と似ているのか?」
「さぁ、そこまでは分からない。行ってからのお楽しみと言う奴だろう」
二人して異世界へ赴く同時に再会の邂逅を楽しみで笑みを浮かび合った。
金と黒が入り乱れた髪の女性は強行突破してとある神聖な領域へ侵入をしてみせた。当然、正式ではない侵入に彼女を取り押さえようとする者達が駆け付ける。が、一蹴され触れることもなく敗者の山が築き上がってしばらく経った頃に力ある代表者が現れた。
「これはどういうつもりですか?」
「何、緊急の報せを届けに来た際の不祥事だ。気にするな天使長」
「私達に対する敵対行為と受け取られても仕方がないのですが。緊急の報せとは何ですか」
「近いうちに異世界へ行くことになった。その際に聖書の神も誘おうかと思っている」
「異世界に行く?」怪訝に思わせる彼女の発言に天使長は具体的な説明を求めた。すると―――。
「どういうわけか、死んだと思われていたドラゴン達が異世界にいた」
「っ!?」
「あいつを助力するためにこの情報を提供してくれた者から、信頼できるものを集めろと言われた」
「それが、私達ということですか」
その通りだと頷く女性に天使長は逡巡した思考を程なくして結論付け、女性の言い分を理解して言った。
「わかりました。聖書の神や他の
「頼んだ。私は他の者達にも伝えなければならないのでな。邪魔をした」
来た道に戻る女性を見送る天使長は視線を上に向け「死んでもなおも私達を驚かすのですね」と吐露した。
黒いゴスロリの幼女は雅な街を見渡せる位置に建てられた山にある建造物、家に音もなく入った。トコトコと歩いて襖を開けて中に入る前に二人の男女に出迎えられた。
「よ、遊びに来てくれたか」
「いらっしゃい」
「久しい。教えに来た」
笑顔で迎える中年の男性と若々しい女性に濡れ羽色の瞳を見上げながら見つめる幼女は、ここに来た目的を口にする。とても彼女の口から出るような、信じられない発言だ。
「誠、一香。一緒に異世界に行く」
「「・・・・・え?」」
一瞬、何を言われたのか分かっていても戸惑う二人だったものの。
「異世界にいる、転生したイッセーを迎えに行く」
「「えっ、えええええええええええええええっ!?」」
事態は急展開する。
―――謎の巨剣の調査と調査隊の護衛任務は失敗に終わる形でIS学園に帰還するや否や、泥沼に浸かったように深い眠りに就いた。その翌日、暗い顔を浮かべ落ち込む男の操縦者達がアリーナに顔を出す。
「・・・・・連中は変なものでも食べたのか?」
「それよりマドカ。お前任務に参加せずこの三日間どこに行っていたのだ」
事情聴取をと話し掛けてきたラウラに仏頂面で言い返す。
「三日前の夜には学園に戻ってきていた。ISがなく留守番以外、何もすることがなかった愚兄に聞けば裏は取れる」
実際にマドカの言う通りだと訓練機を操縦する秋十は一緒に食事も食べたと事実を伝えた。
「俺も知りたいところだ。何が遭った?あの巨大な剣も無くなってるし、テレビの向こうは大騒ぎだ」
「後で追々話す。私自身も他人事の話ではないことを聞いてしまったからな」
「「?」」
神妙な表情をするラウラも、任務に参加できなかった、しなかった者からすれば本当に昨夜は何が遭った?と不思議そうに思い、マドカ達と同じアリーナで離れた場所でメリアの指導を受けている一誠の姿もある。
「メリアさん、あの剣は一体何だったんですか?」
「あれは、ドラゴンを倒す力が宿っていた武器でした。あの剣の力を引き出せればドラゴンの攻撃を防ぎ、封印や滅することが出来るのです」
「ドラゴンスレイヤー、ってことですか?」
「その認識で間違いないですが、取り戻せず申し訳ございません」
「気にしないでください。聖杯に宿っている魔力だって全然引き出せていませんから。それにまだそんな凄い剣を持つのに十分な強さでもないし」
顔に影を落としトホホと落ち込む一誠も力を物にしていなかった。それは仕方のない事だ、魔力など最初はどう扱えばいいのか教えてもすぐにコツを掴めるようなものではない。そして何よりは―――。
「・・・・・」
昨夜、『三つ目の聖杯』を持つ者らしき者と接触したが・・・・・。
「メリアさん?」
「・・・すみません、少し考え事を」
いや、今は目の前のことに集中しよう。メリアは特訓に精を出し、一誠に知識と力を覚えさせている間に長い夏季休暇が終わりIS学園は二学期に入った。
そして更に数か月も月日が光陰矢の如しのように過ぎた時―――。
「らーくんのIS完成したよー!」
ラーズグリーズが再び活動することが叶い、久しぶりに外の世界で試運転と評した夜中の散歩を出向くラーズグリーズ。向かった先は・・・・・窓から灯りが漏れている一軒家。耳をすませば楽しそうな大勢の声、フルフェイスで隠れている顔の表情は読み取れないが、震えている手を片方の手で握るその仕草は堪えているようだった。
―――今日は―――の―――本当ならば―――。
思考が最後まで過ってしまう前に首を横に振って、余計な考えをするなと己を戒める。束達がいる家に戻ろうと、何時までもここに女々しく未練がましくいても何も変わらない―――と踵返したところで家から誰かが出てきた。その人物の顔を見て、ラーズグリーズの中で憎悪が沸き上がる。今すぐ斬りに掛かってやろうかと、殺してやろうかと殺意を放って鎌首を擡げ始めかけた時―――。また家から、今度は楯無が遅れて出てきて周囲を見渡す。そして、ラーズグリーズがいる夜空に視線を上げた。
「「・・・・・」」
ぶつかり絡み合う視線。ジッと見つめ合う時間は永遠に続くかと思われるも、何も言わず闇に溶け込むようにしてラーズグリーズはいなくなった。
「あれ、楯無さん。どうしたんですか?」
「ううん、なんでもないわ。ちょっと夜風を当たりにね」
適当な誤魔化せを言いつつ、また夜空を見上げ心中で言葉を零す。
「(お誕生日、おめでとうラーズグリーズ)」