インフィニット・ストラトス~光に奪われし闇~ 作:ダーク・シリウス
数時間後、千冬の招集の呼びかけで大広間に集まった専用機持ち達。京都の町は闇に支配された証として真っ暗で、地上は真っ暗な夜に負けないと煌びやかな明かりの光量で照らす。しかし、一夏達の心は穏やかではなかった。
「・・・・・政府から極秘任務が下された。日本転覆を目論む篠ノ之束と一行を捕らえる特別S級の任務だ」
「断る」
真顔で千冬の言葉の後でマドカが一刀両断で拒絶した。
「
「・・・・・同時並行で行えとの通達だ。今すぐのことではない。そして織斑一誠を重要参考人として引き取りを求められている」
「待ってくれよ!」
説明を聞いた一夏は立ちながら叫んだ。
「一誠が誘拐されたことは知っていた。だけど、日本が一誠のクローンを量産したってどいうことだよ!」
「特別任務だってのも怪しすぎるわ。政府が自身の保身を守る為なんじゃないの?しかも政府が引き取りを要求?」
異議ありと乱も任務の遂行に疑問を抱く。それは箒達も似た心情であった。しかし、千冬は淡々と「決定事項」だと言う。
「私達に選択肢はない。任務を拒絶するならばその者は国別問わず一年以上の監視がされる。織斑一誠は今夜の内に政府の役人が連れて行かれる」
「それでいいのかよ千冬姉!」
「・・・・・政府に逆らうということは国を敵に回すということだ。織斑、お前にその覚悟はあるのか。束のように隠れて生きていかねばならないかもしれないのだぞ。最悪、政府に捕まって一生独房暮らしになるだろう」
「っっっ・・・・・!」
「あるのならば今すぐ行動をしろ。一誠はいつもそうしてきていた。私達家族の為にな」
生徒達を残して一足先に広間を後にした。廊下を歩いて教師用に充てられた部屋へ向かう途中で、メリアと出会った。足を止めるとメリアに話しかけられた。
「家族を助けることしないのですか」
「今の私にその力はない。国を敵に回す器用すらもない。そして政府も住民の命までは奪うことはしない。暫くは監禁されるだろうがその後は、監視される生活を送るが自由な人生の生活を出来るようになる。篠ノ之のようにな」
「それを見越して見捨てるおつもりですか」
細めた目から冷たい眼差しが向けられようと千冬は真っ直ぐ見つめ返した。
「・・・・・お前にとってもこの状況は待っていたんじゃないか?」
「待っていた?どういうことです」
「目的は判らないが、織斑一誠を今より独占できるいい機会だ。京都にドラゴンが現れ、織斑一誠を攫われるのであれば
そう言ってメリアの肩を叩いて通り過ぎる。振り返らずまっすぐ前を向いたまま苦笑いを零す。
「そういうことですか」
ならばお応えしましょうと心の中で吐露しIS学園が宿泊している旅館を後にする直後、一誠を迎えに来た政府の使いの車が現れた。
「・・・・・」
ガタイのいい黒服を身に包んだ男達によって連行されてから押し黙る織斑一誠。これから自分はどうなってしまうのか、自分がいなければアジ・ダハーカ達を倒せない事実を馬鹿正直に教えても信じてくれないだろう。だが、このままどこかに連れ去られて監禁されてしまえば皆に会えなくなる―――様々な考えが黙れば黙る程、頭の中で湧き上がってしまい、チラっと強面の二人の男達を一瞥して溜息を吐く。
誰か、助けに来てくれないかな~・・・・・。
結局は他力本願で助けを求めてしまう。半ば諦めかけた時に―――ドッ!と天井から何かが突き出て来た。そして火花を散らしながら天井を削り切り天井が開放的に何かの手によって開かれた。人の形をした黒い影が車の上にいることが視界に入るや否や襟を掴まれ車の中から出される。
「お前は・・・!」
「・・・・・」
一誠を掴み上げた黒い影、ラーズグリーズだった。久しぶりに見たが姿が少し変わっているものの、顔を隠すフルフェイスは変わっていない、と認識した矢先急に空高く飛翔し出した。どうしたんだと疑問を抱いたら、暗い空間から金色の光が迸って光から綺麗な金色の龍が現れる。
『織斑一誠を返しなさい』
「その声・・・・・メリアさん!?」
見たことのない姿に動揺するも、助けに来てくれたことだけは直感でわかった。しかし、ラーズグリーズはどうして?という疑問は残ってしまう。許さないんじゃなかったのかと思いながら激しく揺さぶられる、揺れる。物凄い勢いで飛ぶから風圧が凄い。ジェットコースターの方がまだ優しいだろと考えていた一誠はまだ余裕があった。そんな逞しい精神で耐えているとラーズグリーズは。
「・・・・・」
片手で持つ天井を切り裂いた武器―――チェーンソーの刃を五月蠅い駆動音と共に激しく回し始め、メリアに接近する。メリアは金色の魔方陣を展開して転移してラーズグリーズの後ろに再び姿を現す。振るい上げた手を振り下ろし捕まえようとするがリヴァーサルで弾かれて逃げられる。
『くっ、ネメシスがいれば捕まえることが出来たでしょうが・・・!』
『―――呼んだか?』
『え?』
暗い空から肩に突起物のようなものが二つある他、背中と肩、腕や太股にも赤黒い二重の輪後光が。体は尾と繋がっており、四対八枚の翼に黒が赤に浸食された感じで入り混じっていた。手首と足の甲に鋭利な刃物状な物が生えて頭部に鋭い一本の角にも赤黒い二つの輪後光がある。胸に妖しく光る赤い宝玉のようなものがあるドラゴンが舞い降りて驚倒の色を顔に浮かべる。
『どうして、ここにあなたが・・・・・?』
『久しぶりだなメリア。他のドラゴンを探しに日本を訪れていた。そしたらお前を見かけた』
『そういうことならば協力してください。織斑一誠が捕まってしまいました』
『あれがそうか・・・・・』
黒いISに掴まれて宙吊りの一誠を見てくく、と笑みをこぼす。
『何とまぁ、おかしな出会い方をしてしまったものだ。それにしてもお前が捕まえられない相手とは?』
『魔法を干渉する能力があるのです。私の能力では全て突破されるか防がれてしまうので、本気で行こうにも織斑一誠まで巻き込む形になり・・・・・』
『手を焼いていると。不思議な者だな人間か?あいつではないだろうな』
周囲の空間を歪ませ出来た穴から複数の鎖を放ちラーズグリーズを捕らえようとする。しかしながら、高速で飛び続け、迫ってくる鎖には躱すかチェーンソーで弾き返すラーズグリーズ。それを何度も繰り返す姿にネメシスは驚嘆の念を抱いた。
『なるほど、アジ・ダハーカとグレンデルが興味を示す相手としては納得できる。話に聞くISとやらの能力は馬鹿にできないか。あれもISなのかはわからぬが』
一向に捕らえれないラーズグリーズを見つめる目を細める。
『仕方ない。直で捕らえるか』
翼を羽ばたかせ、一気に距離を縮めて手を突き出す。その手に向かってチェーンソーを振り上げて弾き返すつもりのラーズグリーズ。
そこへ―――ネメシスの顔に向かって巨大な火球が飛んできて爆ぜた。
「・・・・・」
誰の仕業だ?ハイパーセンサーに表示する新たな『IS』反応が示す方へ顔を向ける。
「初めましてかしらね。ラーズグリーズ」
夜の空に炎を纏う金色がいた。金色のカラーリングを施されたIS。その姿は、黄金のアーマーとブロンドヘアーが重なって、神々しささえ感じさせる。両肩に備えられた炎の鞭、長いテイル・クロウに炎を纏わせるその特徴的な外見に加えて、いまは両肩のリングも含めて二つの巨大なリングが機体を守るように包んでいる。
「・・・・・」
「それにしても初めて直接見るわね。これがイマージュ・オリジス・・・・・通称はドラゴン。私のISの炎でも通用してるかしら?」
豊かな金髪を伸ばしてる女性はネメシスに意識を向ける。爆ぜた炎で生じた煙が晴れて、少しもダメージどころか焦げてもいない鱗に謎の女性は失笑する。
「厄介な生物ね。今の今までどこに生きていたのかしら?」
『何の用だ』
「会う予定だった要人から突然のキャンセルをされて暇を持て余していたところ、金色のドラゴンを見掛けると何かを追いかけていたのが気になって来てしまったわ。そしたらお世話になってる科学者から聞く話の子がいるのだから助けたまでよ」
そう言ってラーズグリーズの方へ近づく謎の女性。
「改めて名乗るわね。私はスコール・ミューゼ。ジェイル・スカリエッティに何度もお世話になってるわ」
「・・・・・」
「さっきも言ったけど、あなたの話は伺っているわ。ふふ、『あの時の子』がこんなに変貌を遂げるなんて、時間が経つと不思議なことが変化するものね」
己の何を知っている、と怒気を発してチェーンソーを振り上げる前のラーズグリーズから距離を置く。
「怒らせてしまったのならごめんなさいね。一先ず抱えている織斑一誠をどうにかして一緒にどこかへ行かない?」
「・・・・・」
「出来れば篠ノ之束博士と会わせて欲しいのだけれどね。彼女にお願いしたい事があるから」
彼女の話はどうでもいいが、これをどうにかするのは同感だと思ったのか明後日の方へ放り投げて落とす暴挙をしたことで、ドラゴン達の意識を変えさせた。
『なっ・・・』
『任せろ』
空中落下に身を委ねる一誠を空間から飛び出す鎖で縛り落下を防いだ。ラーズグリーズは既にはるか遠くまで飛んでいった。
『・・・・・あの者は何をしたかったのだ?』
『わかりません。一体何を考えているのか』
優しく一誠を手の平に載せるメリアに話すネメシス。
『まだ見つけていない奴はゾラードとステルス、そしてティアマトとリーラだ』
『・・・・・リーラ』
『ステルスは俺達でも極めて探し当てるのに困難な奴だ。トレードマークを一つあるとはいえ、それすらも探しにくい。ティアマトはどこで何をしているのかわからんし、ゾラードは・・・あいつのことだ。時期を見計らって現れるだろう。最後はリーラだが、こいつの傍にいなかったか?』
居たら分かり易くてすぐに見つけられる、と語るネメシスの発言に首を横に振る。
『いえ、私はIS学園に居させてもらっていますが彼女と思しきものは見つかっていません。ただ、それらしき人物と接触出来ましたが話をするどころではなかったです』
どういうことだ?と興味を示すネメシス。しかし、それよりも他の龍を探す意識をする。
『俺は行く。近いうちにアジ・ダハーカが聖杯を渡すだろうが、それまでそいつの面倒は任せた』
『ええ、お任せください』
『・・・・・』
去る前にジッと話を聞いていた織斑一誠の顔を覗き込む形で見つめた後、メリアと別れ飛び去って行った。残されたメリアは千冬の言葉通りに一誠を攫い、先にIS学園へ転移式魔方陣で戻った。
「らーくんお帰りー、大変だったね二匹もドラゴンに追いかけ回されて。ふふ、だけどこれで政府も焦っていることが分かったね。絶対手を出すだろうと思ってたよ。本当に馬鹿だよねー」
戻ってきたラーズグリーズを出迎える束。
「『日没落』もあと少しで大詰め。らーくん、頑張っていこう!」
「・・・・・」
コクリと頷くラーズグリーズを愛おしくて、腕を伸ばしてフルフェイスごと胸で抱きしめて頭を撫でる。
「君をこんな風にした連中は絶対に許しちゃダメだよー。私も可愛いくて狂おしいほど愛している君を苛めた連中は許さないから。だから一緒に日本を潰そうね」
どこか狂気が孕んだ束の背中に腕を回して抱きしめるラーズグリーズに嬉しくて仕方がないと、ニコニコと笑う束はその後、ここまで着いてきたスコール冷たい目で言った。
「で、誰なのお前?」
「お会いできて光栄ですわ。私はスコール・ミューゼ、
「へぇーそうなんだー。で、何か用?」
「我々、
最後まで言わせなかったラーズグリーズ。スコールの身体が見えない何かに凹む地面ごと押し潰されかけ、その場でひれ伏す。リヴァーサルでスコールの周辺の重力を「反転」、重さを変えたのだ。ISを展開しても抜け出せれない重力にしてだ。
「ぐっ・・・・・こ、これはっ!?」
「あーあー、らーくんを怒らしちゃダメだよー?ジェイルの知り合いだからって私に面倒くさいと思わせることをお願いしちゃあさ。そこのところらーくんは私の事よーく理解してくれるから、世界で唯一の助手と私が認めた愛おしい子なんだよ」
反転した重力の影響がない位置に腰を下ろして見下ろす束を、目だけで見上げるスコールの顔に余裕の色はなく焦りの表情。
「し、失礼なことを言ってしまい申し訳ございません・・・。どうか、許してもらえないですか・・・・・」
「んー?どーするらーくん」
「・・・・・」
答えは重力を解いたことだった。己を縛る重力が消えた事でよろよろと立ち上がるスコールへ近づき、無造作に横抱きに持ち上げた。
「えっ・・・・・?」
「・・・・・新しい戦力、ゲット」
「ほーほー、そういうことならば束さんはオールオーケーだよらーくん。良かったねー、お前。らーくんがジェイルと同じでお前を買うってさ」
「買うって・・・・・私をどうする気ですか?」
「決まってるじゃん。らーくんと私のお手伝いをしてもらうだけだよ。まずは
この時のスコールは悟った。自分は何て愚かな選択をしてしまったのだと。
「ま、頑張ったご褒美はちゃんと与えてあげるよ。面倒くさいけど奪った日本のコアの分と新造ISは提供してあげるから頑張ってね?」
「・・・・・」
組織の一員として破格的で魅力的過ぎる報酬にスコールは心を揺り動かされた。十個のISコアと十機の新造ISは確定されたも当然だ。この二人の為に奉仕活動をすれば楽に手に入る報酬をスコールは提案を述べた。
「あの、恋人も招いてよろしいですか?」
メリアと別れた自室に戻った千冬は部屋に待たせていた者と話し合っていた。その結果、相手の要求を呑むことで協力関係者として強い手札のカードを一枚加えることが出来た。
「よろしく頼む」
「わかったのサ。本当ならば別件の方で身を置こうと思っていたけど、織斑千冬の熱い懇願に応えてやるサ」
「別件の方だと・・・・・?」
「そうサ。まぁ、言っても問題はないかな」
くるり、と持っていたキセルを指で弄ぶ千冬と出会った女性は、こう言った。
「
「ッ!」
「祖国イタリアも軍も抜けて今頃裏切り者扱いだろうサ。そうまでしてあの時の決着をしたいのサ私は」
「・・・・・すまなかった」
あの時の真剣勝負を臨んでいた戦う戦士だった者に頭を垂らして謝罪の念を伝える千冬。祖国と軍を裏切ってまで自分との再戦を臨んでいた相手は、キセルを持った手を振って気にしていない素振りをする。
「いやいや、気にしなくていいサ。それに今年はイマージュ・オリジスとやらの存在で世界は慌ただしい。織斑千冬の条件、イマージュ・オリジスを倒す協力の暁には訓練機でも勝負をしてくれる。あの時のIS『暮桜』も凍結を解除する言葉も信用するサ」
「ああ・・・・・私も前線に出なければならなけばと痛感している。イマージュ・オリジスだけでなく、篠ノ之束達も相手取らなければならなくなってきた」
篠ノ之束、ジェイル・スカリエッティが生み出したナンバーズ、そして―――ラーズグリーズ。イマージュ・オリジスと相手にしなければならないというのに。織斑一誠のクローンの量産計画が世間に暴露され、政府は必死に隠ぺい工作を試みるつもりか束達の捕縛任務を下してきたのだ。ISの数だけは勝っているもの、実力は一夏達を越えている。特にラーズグリーズは凌駕している。そこに束が加わると絶望的だ。
「あのニュースには驚いたサ。弟君も大変だねぇ~その家族もだけどサ」
「軽々しく言うなよアリーシャ・ジョセスターフ」
声音を低く怒気が孕んだ声と殺意と殺気が全て彼女に向けられ、アリーシャと呼ばれた女性は一瞬押し黙った。これが初代ブリュンヒルデの実力、久方ぶりに感じられた強者の気配にゾクリと興奮を覚えたからだ。
「(最初は断るつもりだったけど、やっぱり受けて正解だったのサ!)」
心中で歓喜するアリーシャ。最早これを機に彼女を倒す攻略の鍵を探ろうかと思ってしまった。
そしてもう一方・・・・・。
「ただいま」
桐生カーリラは仕事から戻って家に帰宅した。賃貸マンションに住んでいる彼女の部屋は一人だけで住むには広過ぎる高級マンションだったが、一人居候している者がいた。
「お帰りなさい。食事の準備は出来てるわよ」
蒼い長髪に藍色の瞳の美女。青いエプロンを着けた姿でタイミングよく彼女のために作った料理をテーブルに運んでいた。鞄を床に置いて黒い上着のスーツを脱いで背もたれの椅子に掛けて腰を落とす。
「いつもありがとうね」
「物凄く新鮮な気分をしてるわ。『昔』の貴女を知る人だったら信じられないでしょうね」
「私からすればあなたもそうよ?」
「まぁね。普通はありえないでしょ?なんせ―――ドラゴンの私が料理を作るなんて、前代未聞よ絶対に」
座りながら自嘲的な事を言いカーリラと合掌してから食べ始める。彼女が作ったパエリアやサラダにスープを口にして味わい、美味だと感想を抱く。
「腕を上げたわね。とても美味しいわ。お店の商品にしてもいいぐらい」
「嫌よ。そこまでするほど暇じゃないわ。しかもアジ・ダハーカ達が余計なことをしている時点で」
「ええ、ええ、本当になんてことをしてくれたのだと思っても尽きないわ・・・・・はぁ」
頭を垂らして仕事の疲れより、どっと頭を悩ますことで気疲れしているカーリラに同情を覚える蒼い長髪の美女。
「この日本であなたと出会って、一緒に彼の復活を待つはずだったのに狂ってしまったものね」
「本当にもう・・・・・どうしてそうなったのか、こうなってしまったのか今でも不思議でしょうがないわ」
「そして恐らくは・・・・・」
カーリラから視線を変えて棚の上に飾られている織斑一誠が手にするはずだった大剣を見やる。
「あの剣がこの地球に送られてきたってことは、そういうことよね」
「間違いなく、観ている。そして今年か来年、数年後かもっと先か分からないけれどやってくるでしょう」
二人の間でやり取りされる会話の深意を解る者がいるとすればアジ・ダハーカ達ドラゴンだけだろう。それは喜ばしい事なのか喜ばしくないことなのか、現時点の状況を考慮して二人は悩みどころだった。
「出来れば来ないで欲しいかしらカーリラ」
「ええ、必ず過ちを犯すから。一応、信頼はしているけれどもしもということがあるし」
「私はまだ会ってないけど、あの子・・・どうだった?」
「今は何とも。連絡していないので状態は知り得ていないわ」
「知り得ていないならニュースは見た?とんでもないニュースだったわよ」
どんな?と風に目を向けるカーリラに、百聞は一見に如かずとテレビの電源を入れる。画面に映り出す報道ステーションは束とラーズグリーズが撮影した生放送のことで盛り上がっていて『京都の病院の地下で織斑一誠のクローン量産化計画!』とどのチャンネルも同じ内容で放送していた。
「な、何これっ!?」
「まだ知らなかったのね。今、日本中がこれのことで悪い意味で凄い反響しているの。それでこの研究と関わっていたって言う政府や権力者に誹謗中傷の大嵐、京都県民も今頃荒れているんじゃないかしら?」
「そんなことはどうでもいい!それよりもあの子をあんな身体にさせた研究がまだ稼働していたなんて!―――ティアマト、一緒に一暴れしに行ってくれない?」
背後に般若が浮かび上がってる恐ろしいまでに怒り狂っているだろうカーリラを、ティアマトと呼ばれた女性は焦燥に駆られて話を補足する。
「ま、待ちなさい!これを世間に露見させたのは篠ノ之束なのよ!もしかするとあの子も一緒だったかも!」
「・・・・・あの子も?」
怒りを霧散して落ち着きを取り戻す。
「一切映らなかったけれど、可能性は0じゃない。もしもあの子に復讐心なんてものがあるなら、どうやってするかあなたなら解るんじゃないの?」
「日本政府を潰すわね」
さらっと考える素振りもせず、真顔で断言されティアマトは困惑する。
「えっと、断言するほど?」
「逆に聞くけれど、忘れたの?」
「・・・・・そうね。そうだったわね。昔のあの子は昔の貴女の為に敵となったものね」
そういうことだと頷いて用意してくれた料理を残さず食べ尽くす。
「それはそうと、アジ・ダハーカ達が集まり出しているかもしれないけれど。貴女はどうする?」
「勘違いしている連中と一緒に居たら、こっちまで勘違いされて『約束』が果たした後のあの子にどんな反応をされるか分かったもんじゃあない。だから貴女の傍に居させてもらうわ。その方が効率的にいいし」
ティアマトの合理的な考えに腰に両手を当てて胸を張り自慢気になったカーリラ。
「賢明な判断で安心したわ。メリア達よりあの子のことは私が一番理解しているもの。絶対に間違える事がないから間違えないわ」
「二度も同じこと言ってドヤ顔をキめちゃってまぁ。本当に昔の貴女とは思えない言動振りで新鮮過ぎるから面白すぎるわ」
クスクスとおかしそうに笑むティアマト、ある事を口にする。
「でも、これからどうする気?聖杯が『二人』も所有しちゃってるわよね」
「問題ないわ。最終的には本来の持ち主に戻るもの。仮にあの子から奪われたとしても既に中身のない空の聖杯。何の足しにもならないわ。だけど、それは逆も然りだから・・・・・」
「聖杯にはそれぞれあの子の全てが宿してある。『記憶』・『魔力』そしてあの子の全ての『力』。メリアが持っていた聖杯は『魔力』が宿っていたから、与えられた織斑一誠の一部として残っちゃうわね」
「『力』の聖杯はアジ・ダハーカが持っている。あの聖杯だけは何としてでも取り戻さなければ。ああ、あの聖杯をメリアに・・・・・メリアも変わらないかぁ・・・・・勘違いしちゃっている時点で結果は同じだもん」
だもんって・・・本当に変わってしまってるわねぇと、無言でテーブルに突っ伏すカーリラの頭を撫でるティアマト。
「手伝ってあげるから頑張りましょ。ね?あの剣があればアジ・ダハーカ達に後れは取らないから」
「うう、ありがとうティアマト・・・・・」
感激で滂沱の涙を流すカーリラをティアマトは苦笑いし、よしよしと慰める。