インフィニット・ストラトス~光に奪われし闇~ 作:ダーク・シリウス
国会議事堂。国の運営や方針を定め、平和と繁栄を保ち国の危機に対しては大統領を始めとする大臣や防衛省、多くの議員が全力で対処をする国のトップとも言える者達は―――今や国民の害の集まりでしかないのではないかと日本中の国民から怒りと恐れ、不安の対象とされていた。
織斑一誠の量産型、クローンを増産する計画が京都の地下で行われていた。
篠ノ之束が暴露した地下研究施設とそれに関わっていた者達のリストを、包み隠さず公開したことで政府の支持率は底辺まで下がり、各県・・・特に古い歴史と雅で溢れている京都は激しいデモ活動が行われ、病院で入院している患者や患者の親族は、違法な研究に加担していた病院から一刻も早く遠ざけたい、遠ざかりたい一心で病院や務めている看護師や看護婦、はたまたは院長と副院長に直接抗議をする。中には夜中に病院から逃げ出したりしようとする患者、その手助けをする者も現れる始末。それが出来ない事情の患者は不安を抱く毎日を過ごし、自分を診てくれる相手を警戒するようになってしまい、病院側は診察が難しくなった。
「―――くそっ!くそっ!くそぉっ!おのれ、篠ノ之束めぇっ!?」
クローン計画に携わった者達も穏やかではいられない。立場を危うくさせた人類史上の『天才』に憎悪を抱き恨みがましく発する声は荒々しかった。
「な、何だお前達はっ!?不法侵入だぞ!」
冷静に次の行動に出る狡猾な人間は国を捨てて、全ての財産を所持し逃亡を図る。だが、そういう人間にだけ限っては逃走の直前にどこで情報を入手したのか、金目当てで群がる不良やチンピラに襲われて全て奪われてしまうのだ。手に入れた側はホクホク顔で遊ぶ金として大いに楽しんだ。
政府もまた例外ではない。
「くそっ!篠ノ之束が齎したあの公開映像は不味すぎる!」
「我々だけでは収拾がつかなくなっている状況になっている。織斑一誠の確保も日本のISコアを奪った者に阻まれて行方知れずだ」
「このままではいかん。何とか手を打たねば・・・・・だがどうすればっ・・・・・!?」
どうするも、どうしようにもならない事など顏を揃えて頭を抱えて悩んでいる政府の中年男性達はわかっている。しかし、こうなってしまった以上は国民を納得させる以外は限られている。今まで押し黙って硬く目を閉ざしていた総理は組んでいた手を解いて厳かに伝えた。
「・・・・・国民に事実を伝える」
「なっ!?」
「早期解決はこれ以外方法はない。他にあるのであれば挙げてくれたまえ」
『・・・・・』
そんなもの、ある筈がない。そんな心情を俯く顔に浮かばせて沈黙する政府の要人達は口を引き締める。
「記者会見を設ける。これであの人の命を冒涜する研究も終止符を打つ。よいな」
異論はない。否、言えない彼等は総理の決定に従うほかない。
その日の内に政府が記者会見を行った。日本中の国民に向けて政府や有力な権力者達が優秀な遺伝子を持つ織斑一誠のクローン計画、そして男性操縦者を人工的に増やす研究を秘密裏にしていたことを事実として認め明らかにした。アメリカ政府との共同研究であることもアメリカにも同じ研究施設はあると示唆する。会場に震撼が走りテレビを見ている国民達も心底から信じられないと驚倒一色に染まる。その最中、一人の記者が問うた。
『IS学園に通っている織斑一誠は複製したクローンですか?また、自身がクローンであることを自覚していますか』
『クローンである自覚はしていません。しかし、彼だけでなく―――織斑千冬氏、織斑一夏氏、織斑秋十氏、織斑マドカ氏も含めて遺伝子操作によって「究極の人類」を創造するという織斑計画の試作体、人工受精卵、クローンです。以下の男性操縦者はその為にISを操縦できたのかもしれません。そして十年前、篠ノ之束博士が開発当初からISに関わっていた齢5、6歳だった織斑一誠氏こそが世界で最初に初めてISを動かした者だった』
「おやおや~?こいつ何言っちゃってんのかな~。嘘は言ってないけどまだ事実を隠しているなんてどこまで往生際の悪い奴なんだろうねらーくん」
「・・・・・」
「らーくん、この展開に対してどう思ってる?納得できてるかな?」
「・・・・・できるか、こんなの・・・・・!俺の受けた・・・・・あの三年間が、こんなあっさりと・・・・・終わってしまうなんて・・・・・!まだ始めたばかりなのに・・・・・くそぉおおおおおっ!」
「俺達が・・・・・クローン・・・・・」
「そんな話があるのかよ・・・・・」
「千冬さん達が、クローン・・・・・?」
「ちょっと、一夏、秋十、しっかりしなさいよ!箒も何放心しかけてんの!」
「お二人はお二人ですわ!クローンでもちゃんとここに生きておりますの!」
「・・・・・無理もない。ショックを受けても不思議ではない隠された事実だ」
「ラウラ・・・・・」
「・・・・・」
「織斑一誠、貴方は貴方です。今は問題視していることに集中してください。自分の出生が歪でも皆から認められれば、立派な個の存在として胸を張って生きていけます」
「・・・・・はい」
「織斑先生・・・・・」
「隠されていた事実でも前を向いて生きていくだけだ。私のことは気にするなよ真耶」
「は、はいっ」
「政府め・・・・・まだ隠し通すつもりか。―――もう一人の織斑の存在をっ」
「世界に公表されたわね。だけどあの子がクローンとして産まれたなんて、本当に常識外れね」
「そうね。だから
「懐かしいわね」
「ええ、だけど・・・・・この展開、あの子が望んでいないわ。今まで味わってきた苦痛をこんな記者会見で済ませようとする政府に癇癪を起していなければいいけれど」
様々な影響を与えた日本が秘密裏にしてきた計画が世界にも露見してから数日が経った。その間―――。
「クーリェ・ルククシェフカ・・・・・。こっちは熊のプーちゃん・・・・・。なかよく、してね。あ、あと、こっちは、友達の・・・・・ルーちゃん」
新しくIS学園に編入してきたプラチナブロンドの少女。予備代表候補生としてロシアから来た小学生ほどの年の少女。ロシア特有の色白の肌に碧眼の瞳、虚空に向かって誰かを紹介するクマのぬいぐるみを抱えて名乗った名前はクーリェ・ルククシェフカ。更には―――。
「元イタリア代表のアリーシャ・ジョセスターフなのサ。よろしく頼むサ。基本はISに関する授業およびイマージュ・オリジスの襲撃にしか出ないから、見かけたら気さくに話しかけてくれなのサ」
千冬が声を掛けたアリーシャもIS学園の教師として招き入れた。するとセシリアが挙手した。
「どうしたオルコット」
「あの、どうしてイタリア代表の方がここに・・・・・?それに先程『元』とは・・・・・」
「軍を抜けたのサ。織斑千冬と再戦をするために。国と軍の縛りがあっちゃあずっとあの時の決着がつけれないからサ」
「何という純粋な理由だ。しかし、これからどうやって生きるつもりなのだ?」
感嘆の念を抱くラウラの指摘にアリーシャは顎に手をやって考える仕草をすると、千冬を見て頷いた。
「ブリュンヒルデに養ってもらサ」
「働けバカ者が」
一蹴する千冬にキセルを弄りながらカラカラと笑う。そんなこんなで一国を相手に戦争が出来て国を奪えるほどの戦力が過剰までに揃ったIS学園であった。実績の経験も知識も全て揃っているこのメンツを相手に挑める相手がいるとすれば二つの存在しかこの世にいない。
「さて、諸君には今一度我々が相手すべき者達の情報を改めて再確認をする」
篠ノ之束、ラーズグリーズ、ジェイル・スカリエッティが率いるナンバーズ―――ISに関することや自身の身体能力の高さは世界最強の千冬を真っ向から挑めるオーバースペックの持ち主。そして助手としてでも異性としてでも愛されているラーズグリーズは千冬並みの実力を有す示唆をしている。正体は未だ一部を除いて把握されていない謎の男性操縦者。人体に機械を移植・融合を果たした十二人のクローンであるナンバーズ自身も下手な代表候補生よりもISの稼働時間が高く、束自ら作り出したラーズグリーズのISを扱える他、ラーズグリーズの
『・・・・・』
どっちも勝つのが極めて難しい相手の情報に溜息が出そうになる。
「イマージュ・オリジスはISじゃあ倒せないのがネックよねぇ・・・・・」
「篠ノ之博士の方も厳しいですわ。一度もラーズグリーズを倒したことが無いですもの」
「あはは・・・・・勝たなきゃいけないのは判ってるけどよ・・・・・」
「シビアすぎる・・・・・はぁ・・・・・」
意気消沈しかける代表候補生やそれすら成ってない専用機持ち達。そんな相手に一体どうやって勝てと言うんだとばかりに。そんな生徒達をアリーシャは不思議そうに見た。
「どうしたのサ?」
「気にするな。ただの気落ちだ」
「それは落ち込んでいるのと変わりないのサ」
「そうだな。落ち込んでいる暇があればISを展開したままアリーナを十周走らせるか。クーリェ以外の者は取り敢えず行って走ってこい。当たり前だが、PICはもちろん、補助動力もいれるなよ。いいな、異論は認めん」
「え、あの、俺らIS持ってませんけど?」
「行ってこい。命令だ」
何て横暴なっ!と誰かが言えば、ナイフのごとく切れ味のある鋭い睨みが向けられ、恐れ戦く一夏達は脱兎のごとく教室からいなくなった。
「え、えっと、あの・・・・・」
「クーリェはIS学園に来たばかりだ。学園の案内をしてやろう」
「そういうことなら私も同行させてもらうのサ」
がっしゃん、がっしゃん、がっしゃん。
「はぁ!はぁ!はぁ!」
がっしょ、がっしょ、がっしょ。
「ふう!ふう!ふう!」
晴天の第一グラウンド、そこでは様々な色の機体が重量のある金属音を響かせながら走り回っていた。その傍や先に走る専用機を持っていない秋十、一誠、弾、数馬。
「はぁっ、あ、あの人は何てことをさせるんだ!」
「ふうっ、ふうっ!こ、これは意外と辛すぎる!ふうっ、ふうっ!」
「ああ、箒、汗で濡れる君の顔の様は花びらの霜のようだよ!私はそれを見ながらならば十周なんて軽く走れそうだ!あはは、あははは!」
「こ、こっちに来るな!?こらっ、触ろうとするな!」
「つ、疲れたよぉ・・・・・もう走れないぃ・・・・・」
「が、頑張ってオニール・・・・・っ」
「意外にもいい運動になりますねこれは」
「ヴィシュヌ、そう思っているのは絶対にあんただけよっ、はぁ!はぁ!はぁ!」
いま世界で集団でISの徒競走をしているのはこのメンバーだけだろう。珍妙な行動をする者達を見る者がいたら記念に写真を撮影して保存に残す。
「・・・・・」
肩にカメラを担いでその様子を後ろから一緒に走って撮影するラーズグリーズに気付くまでアリーナを八周も走ったところだった。
―――†―――†―――†―――
「・・・・・共同戦線だと」
驚きで絶叫を上げる一夏達。アリーナを十周して疲弊した身体で教室に戻ると、何故かラーズグリーズまでついてくる。何を考えているんだと思いながら警戒して教室にいた千冬と、ラーズグリーズのフルフェイスから射影する立体映像として浮かび上がった篠ノ之束からの話に訝しむ。
『うんうん、そうだよちーちゃん。そっちもこっちもあのドラゴンとドラゴンの玩具に手を焼いて難儀しているでしょ?だから敵の敵は味方ってことで一緒に戦わない?ってお誘いをしているんだよー』
「・・・・・」
『別に強制じゃないから断ってもいいよ。ただ束さんの情報網では、世界各地の会社や企業が取り扱う機械や金属が謎の消失する不思議現象が相次いでいるんだよね。その中には車とか工事用の機械、更には軍用機や豪華客船までも!』
「アジ・ダハーカ達の仕業だと?」
『機械に命を吹き込むことが出来るなら納得できるんじゃない?』
あり得ない話ではない。アジ・ダハーカの手元にはそれが出来る聖杯を持っている。個の存在だけでも極めて強敵なのに私兵として数を揃えているならば、エネルギーが消費し長期戦は難しいISでも全てを全滅することは敵わない。こっちが数十であっちが万の数で挑まれれば危険で無謀な戦いを強いられる。
『私もイマージュ・オリジスに負けないように無人機をたくさん量産しているからそっちに行けないのは残念だよー。だから、ちーちゃんの返事がすぐに聞こえるようにしばらくらーくんを貸してあげるよ。ああ、それと私からプレゼントがあるから受け取ってね。ふふ、私ってば優しいね!』
「・・・・・」
『それじゃ、返事は待ってるからね。ばいばーい』
映像は途切れ異様な静けさが教室に残る。そしてラーズグリーズは粒子召喚して出した朱色のバンダナ、銀色のチェーン、金色のガントレット。それらを弾、数馬、そして秋十に指す。
「・・・・・俺達にか?」
「・・・・・(コクリ)」
恐る恐る近寄る弾にはバンダナ、数馬にはチェーン、秋十にはガントレットを手渡す。それからフルフェイスから三人に手渡した物、待機状態のISの情報を公開する映像を映し出した。
「第四世代型のIS・・・・・暁、
暁はビーム無効化に加えて反射する金色の装甲が特徴で特殊なビットからバリアを張り、相手の攻撃を防ぎかつ相手を閉じ込めることも可能な武装以外、腕部の荷電粒子砲に刀剣の形をした、近接戦闘用のブレード。そして全身の装甲から太陽のような光量を放つ。
「ちょ、これっ・・・・・!?第四世代ってマジか!」
「恐れ多いんだけど束さぁーん!?」
「俺に不相応だって・・・・・不相応だってこれぇ・・・・・!」
三人共完全にビビる。今の今まで訓練機しか操縦できないでいた自分達がいきなり第四世代と、これで世に四機しかない新世代のISを手に入れてしまったのだ。なので、三人は揃いも揃ってラーズグリーズに待機状態のISを突き出した。
「「「お返しします」」」
「・・・・・」
返事はNO。召喚したチェーンソーの刃を激しく回転させて、受け取れと言う強迫観念を三人に伝える。その行動の意図を察し表情を硬くする物凄い不安そうな三人に、一夏は同情の眼差しを送った。
「大丈夫だ。俺でも何とかなっているんだからお前達も何とかなれる」
「「「そういうことじゃない!」」」
兎にも角にもこのクラスに一誠以外が全てISを有することとなり、秋十達もISの訓練に励むこととなったところで―――外からけたたましい爆音が聞こえだした。なんだ!?と目を見開く一同に疾呼する千冬。
「全員!すぐに現場へ急行!」
『了解!』
襲撃ならばすぐさま行動に移らなければいけない。ぶっつけ本番に等しい秋十達も一夏達と交じって駆けて行く中、一誠とラーズグリーズだけが教室の中に残った。
「・・・・・ラーズグリーズ、この学園に居る間は束から私達と協力をする事も含まれているのか」
「・・・・・」
千冬の問いに否定と首を横に振る。束からの誘いの答えを待つだけの存在だというラーズグリーズは教室の隅に移動して、そこで腰を下ろして物言わぬ置物と化した。一方、爆発の下へ第一アリーナへISで向かった一夏達は―――。
「久しいな、IS学園よ」
「アジ・ダハーカッ・・・・・!」
臨海学校以来に相まみえる時折紫色の発光現象を起こす黒い髪を伸ばす血のような赤い双眸の男。一夏達はあの時の敗北を嫌でも脳裏に過って思い出し、険しい表情を浮かべた。
「あれからも変わらぬ兵器で強くなったか?であればこちらとしても遊び甲斐があるというものだ」
「一体何しにここへ来た!」
「無論、お前達に戦いをしかけに来た。俺は高みの見物をさせてもらうがな」
空へ舞い上がったアジ・ダハーカと入れ違うように一夏達の目の前で黒い魔法陣が展開した。そこから最初から変形した『
「相手が誰であろうと学園を、俺が皆を守る!」
勇ましく超巨大な『
「脚だ、脚を集中攻撃をするんだ!」
「それが動きを停めさせる効率的な手段だね☆」
「つっても、厚さが数十メートルもあるぜこれは!」
「それでもやるしかないだろう!」
「おおおおおおおっ!」
巨木のような太い脚に斬り付け、装甲を削りながら一周し回った。覗き込める筋肉のようにびっしりと詰まった機械的な部品が露出して畳みかける遠距離と中距離型のISを操縦する箒達。一転集中攻撃で超巨大な体躯が片足だけでは立っていられないと前のめりの姿勢になるや否やそのまま激しい地響きと震動を起こしながら倒れた。
「やるな、数馬!初出陣で大手柄だ!」
「いや、最後は皆が攻撃したからな?」
「今のが最新の武装か。格好いいな」
もはや動けぬ相手に脅威も感じられないと初出陣の秋十、弾、数馬であったが―――まだ戦いは誰も終わったという雰囲気ではなかった。超巨大『
「はぁあああっ!?」
「皆!一機たりとも見逃しちゃダメよ!」
「これ、手に負える数じゃない!」
「くそぉおおおおおっ!」
一人一機相手にしていると四方八方からも襲い掛かってくる。痛みなど感じない『
「ふっ、世界最強の兵器とはいえ中身は情に弱い人間。よほど大切な人間の命を脅せば大人しくなるな。機械のように使い手の意思のまま無情に徹せすればこんなことにはならなかっただろう」
「それが、人間ってもんでしょうっ」
「知っているさ。お前達よりも飽きるほどにな。さて、織斑一誠を炙り出すか」
IS学園を取り囲むようにして超巨大『
「やれやれ、私も出張らなきゃいけないとはサ!」
「一応の予備戦力として残された分は働かないといけないでしょ」
「・・・・・」
「皆さんのために頑張ります!」
ナターシャ・ファイルス、アリーシャ・ジョセスターフ、山田真耶に―――ラーズグリーズが『
「ラーズグリーズとやらだったか。グレンデルに破壊されたISで復活を果たしたようだな」
「・・・・・」
「しかし、この状況を見ても俺に戦いを挑めるか?」
その答えは二つ目のISを装着することで示した。自身を取り囲む幾重の大小様々なリング状。それは手の甲、肘、肩、膝、頭上、背中に大型のリング。更にはラーズグリーズの身体を閉じ込めるような更に巨大な三つのリングとリングがメイン武装だと窺わせる出で立ちだった。アジ・ダハーカもそれを認知する。
「それでどうする?」
こうする、と身体から分離するリングは遠隔無線誘導型、ラーズグリーズの意思に従って一夏達を取り押さえてる『
「なるほど、殲滅には効率がいい。だが・・・・・俺の魔法には耐えられまい」
アリーナを包む黒い魔法陣が上空に発現し、臨海学校で受けた黒い雷が降り注ぐ。ラーズグリーズを囲う三つのリングが分離し、更に二つに分離して広大な円陣のように展開すると、
「
アジ・ダハーカの雷は分離したリングの中心から下まで届かず、ラーズグリーズ達に直撃することもなく前回とは違い完璧に防いだ。
「・・・・・魔法に干渉する能力を、更に効率的に伝導させる武装と言うことか」
ラーズグリーズの元に戻るリングを見つめ、己の魔法を封じるために開発されたと過言ではないことを認め、深い笑みを浮かべる。
「その能力、確かに我等に通ずるやもしれない。だが、それを真正面から破るこそがドラゴンとしての本懐だ!」
禍々しい黒い魔力のオーラを迸りながらアジ・ダハーカは人の姿から異形の姿に変貌していった。紫色の発光現象を起こす黒い髪は体を覆う鱗に、背中に二対四枚の翼、長い尾、鋭い手足の爪、三つの鎌首を生やし三つの頭部に六つの目に三つの凶悪な口の牙を持つ邪悪な龍に。
『グレンデルが称賛した者の実力を俺も味わおうか!』
「「「「「―――――っ!?」」」」」
ニーズヘッグ、グレンデルと一戦交えた一夏達だったが、本性を現したアジ・ダハーカから感じるプレッシャーは彼等の比ではないと脂汗を掻き心から恐怖する。上級生の楯無達ですらビビっていた。これが最強の邪龍の威厳と威圧なのか―――と。だが、たった一人だけそれを感じても・・・・・威風堂々と立って戦う姿勢でいるラーズグリーズだけは違っていた。
『この俺を前に怯えるどころか戦う姿勢を見せるか・・・・・面白いっ!』
喜々としてラーズグリーズに戦いを仕掛けようとしたところで深緑の魔方陣が浮かび上がり、輝きが最高潮に達した時に現れる
グオオオオオオオオオオオオオッ!!
浅黒い鱗に覆われた背中に翼を生やす巨人型のドラゴン。銀色の双眸に狂気と戦意を孕ませてアジ・ダハーカに異を唱えだした。
『待ってくれやアジ・ダハーカの旦那!そいつは俺が最初に目を付けた面白れぇ人間なんだ!復活したんならもう一度俺が戦いてぇよ!ていうか、旦那は織斑一誠に用があったんだろうが!聖杯でも渡すんじゃなかったのかよ!』
『これから楽しい一興を演じようと思っていたところを・・・・・邪魔するなグレンデル』
『他の連中は全然見つからなくて暇すぎるんだよ。ということであの時の再戦と行こうや!』
アジ・ダハーカの言葉を無視してドラゴンと化したグレンデルがラーズグリーズに殴りかかった。応戦しようとしたラーズグリーズの目の前でアジ・ダハーカが魔法で邪魔する。
『俺の楽しみを邪魔をするというなら、まずはお前を倒してやるぞ』
『上等だ!アジ・ダハーカの旦那でも十分楽しめっからよっ!』
喧嘩をするなら他所でやってくれーっ!?と全力で願う一夏達は巻き込まれないように退避する。
他のドラゴンを家畜を摘まみ食いしながら探すニーズヘッグの目の前に、空を切り取ったような美しい蒼い身体をしたドラゴン―――ティアマトが近付いてきた。
《お、おーひ、久しぶりだなっ。ティアマトー。さ、探したよっ!》
『久々に再会したのがあなたなんて、何か嫌だわぁー』
《ぐへへっ、そんなことよりも、お、俺とアジ・ダハーカの旦那のところにい、行こうぜ?皆、ま、待ってるっ》
『待ってる?集まってるの?もしかして、あの子は復活した?』
ティアマトの指摘にニーズヘッグは不意にキョロキョロと辺りを見回して誰もいないことを確認すると出来るだけ小声で言う。
《お、俺・・・・・織斑一誠って奴が『約束』の奴じゃないと思うんだよ。どうすればいい?》
『・・・・・』
意外にも疑問を抱いているドラゴンがいたとは思えなかった。誰もが織斑一誠に聖杯を渡す者だと信じているからだ。それはメリアが聖杯を織斑一誠に手渡し、アジ・ダハーカが他のドラゴンに織斑一誠のことを告げているから、他のドラゴンも信じてしまっているからだが、ニーズヘッグはどうやら違うらしい。
『どうしてそう思うの?』
《ん、んと、お、俺を対抗した異常なことと、あとは『アジ・ダハーカ達には黙っていろ』って、言われたからだよ》
『・・・・・』
《お、お前なら多分、だ、大丈夫だと思ったから言ったんだ。で、でも、内緒にしてくれると嬉しい》
そう、と思案する仕草をする蒼いドラゴンは、ニーズヘッグにこう言う。
『あなたの抱えてる疑問は、一先ず私に預けてくれる?』
《へ?》
『いいわね?』
《わ、わかったっ・・・・・。あと、ついてきてくれると俺も一段落できるんだけど》
『そのつもりでアジ・ダハーカ達を探してたからいいわよ。行きましょ』
喧嘩を始めだした邪龍にラーズグリーズも手も足も出せない。こちらの都合などお構いなしに辺りの施設を巻き込む暴れ様に、誰もが当惑と歯痒い思いをしていた。楯無はラーズグリーズに近づく。
「ねえ、あなたの力でどうにか学園から遠ざけれない?」
「・・・・・」
触れれば爆発しそうな喧嘩の光景を目の当たりにしながら考え込むラーズグリーズ。この場にナンバーズがいれば何とかいけそうなものだが・・・・・。
「・・・・・やってみる」
「っ!」
初めて聞いたラーズグリーズの声。目を見張る楯無の傍で全てのリングを分離して巨大な輪の形にし、その前に腕を引いて構えるラーズグリーズ。暴れ続ける二体のドラゴンがリングの中に入った瞬間に―――。
「―――
「「!?」」
突き出した拳が巨大なリングの中心から強烈な衝撃波を発生させて、空気の塊に押し潰されながらアジ・ダハーカとグレンデルがIS学園がある島からどこまでも飛んで行って、何時しかその姿が見えなくなった。
「・・・・・」
強い、そう思えるほどラーズグリーズとISの
「ラーズグリーズ!」
歓喜の笑みを浮かべマドカがラーズグリーズに向かって抱き着いた。
「すごい、すごいじゃないか!手も足も出せなかったドラゴン達を一撃で吹っ飛ばすなんて!今のお前とISならアジ・ダハーカ達と戦い渡れるじゃないかっ!」
「・・・・・」
それは無理、と首を横に振って否定する。何故なら・・・・・。
『やってくれたじゃねぇかぁああああっ!!!』
『地味に効いたぞ、今の一撃は!』
吹っ飛んでから三分も経たずして直ぐに戻ってきた邪龍達に辟易する楯無。
「そうよね。今ので倒れるようなら苦労していないもの」
「・・・・・しぶとい化け物共めっ」
二度目は通用しない、と悟る楯無とラーズグリーズ。再び訪れるIS学園の危機に一夏達が総攻撃を仕掛けても倒せない相手にどう戦えば―――と心の底から苦悩した時であった。
アジ・ダハーカとグレンデルが光速の勢いではるか遠くから飛んできた漆黒の塊に、反応をする前に吹き飛ばされた。
「――――」
誰もが思考を停止した。今、何が起きた・・・・・?吹き飛んだアジ・ダハーカとグレンデルも信じられないといった表情を空中で踏ん張って止まりながらした。それから第三者の方を見て開いた口が塞がらないほど驚倒する。
『お前はっ・・・・・!』
『な、何でここにいやがるんだっ!?』
黒と金色のオーラを全身から放ちながら、ドラゴンの両翼を雄大に広げる一体の巨大な生物―――。口から火の粉混じりの息を一つ吐いた。
『―――久しいなお前達』
そこにいたのは―――王道ともいえる強大なドラゴンのフォルムをした漆黒のドラゴン。両翼を広げた姿は、威風堂々たる見惚れるほどの見事なものだった。
「・・・・・新手の、イマージュ・オリジス?」
「・・・・・だが、何故だろうか・・・・・見ているだけで興奮が抑えきれない」
「・・・・・」
マドカが今感じているのは恐らく武者震いかもしれない。圧倒的な純粋な力を有するドラゴンを目の当たりにして、今まで見て来たドラゴンから感じたことが無いものを始めて感じているだろう。そうさせる漆黒の名を・・・・・ラーズグリーズはポツリと小さく、そして懐かしみを込めて吐露した。
「『
『何故、この世界にお前がいるっ・・・・・この世界には我が主が宿したドラゴンのみが存在している筈だ』
『そうだぜ!まだあの野郎も復活していないってのに姐御がこの異世界に来れる筈がっ・・・・・!』
『その問いに答えるならば、お前達は忘れてはいまいか。龍の祖の存在を』
『『―――――!』』
『理解したな?お前達がこの世界で好き勝手に暴れ回り人類にドラゴンの認識と存在、恐怖と絶望を与え続けてきた結果が、龍の祖のテリトリーが増えたのだ。他ならぬお前達の行動のおかげで、私達もこの世界に送れるようになった』
『ぬかったな・・・・・これでは描いていたシナリオが根本的に崩れ去る』
『何やら企んでいるが私の知らぬことだ。本題に入ろう。あの男は今どこにいる?グレンデルが言った復活とやらも気になるところだ』
『・・・・・これは我等と我が主の間で交わした「約束」だ。知りたければそこの施設の中にいるメリアから聞くといい』
『いいだろう。そうさせてもらう。次に出会う時は戦いなら喜んで相手になってやろう』
新たな漆黒の龍の登場にアジ・ダハーカとグレンデルは大人しく引き下がって消えていった。
そしてラーズグリーズもだ。
「あれー?らーくん、どうして戻ってきたのー?」
「・・・・・いる必要がなくなった」
「必要がなくなった?はてはて、IS学園で何が起きたのかな?」
《クロウ・クルワッハが元の世界からやってきたか》
『当然、必ず奴等もやってくるだろう』
『アジ・ダハーカの計画もこれでおじゃんなら素直に「約束」のこのところに集まるか?』
『私はどちらでも構わないところ、強いて言えば一勝負をしてみたいですねぇ』
『グハハハッ!クロウの姐御の他にも来ているならいっそ全世界に全面戦争でもしねぇかアジ・ダハーカの旦那!』