白い天井が視界いっぱいに広がっていた。
消毒液の匂いと、かすかな機械音。
意識が完全に浮上した瞬間、綾音は自分がネルフ中央病院の病室にいることを理解した。
綾音「……あ、そうだ。
私、使徒と戦ったの?」
ベッド脇に立っていた赤木リツコが、眼鏡越しにこちらを見る。
リツコ「ええ。
そうそう、あなたに端末を返すわ。
その前に、ひとつ聞きたいことがあるの」
彼女は綾音のウェアラブル端末を操作し、データを呼び出した。
次の瞬間、空中に投影された映像が再生される。
イズモ映像「あ、映ってる?」
軽い調子の声に、綾音は思わず眉をひそめた。
イズモ映像「リツコ、久しぶり。
と言ってもパラレルワールドのリツコか。
まあいいや」
映像の中の青年は、どこか場違いなほど落ち着いている。
イズモ映像「綾音、初めてだから自己紹介するか。
俺の名は最上イズモ。
異世界の旅行者だ」
リツコは無言で映像を見つめ、綾音の反応を観察していた。
イズモ映像「別の動画ファイルに、俺の記憶といくつかのデータを入れてある。
まあ、その中身は第五使徒戦後に分かる。
とにかく、この映像データの仕組みと重要な話をしておく」
イズモ映像「ここはパラレルワールドだから多少変わる可能性はあるが、今後の使徒戦と最適行動を教える。
創造能力は多分、君にはない。
だから映像ファイルの詳細欄に、君が取れる最善策をまとめてある。
参考にするといい」
イズモ映像「それと一つだけ。
ゼーレと、ここの幹部は信用するな」
リツコの表情がわずかに硬くなる。
イズモ映像「この映像は特殊な言語構造で保護されてる。
マギで直接解析すると不明瞭になる。
一度マギで起動してから、この端末で再生しないと意味がない」
イズモ映像「だから、こんな暴言も言える。
どうせ綾音とリツコしか見てないしな」
最後に、映像の青年は微笑んだ。
イズモ映像「言い忘れてた。
綾音、おめでとう。
君は異世界の旅行者になった」
映像はそこで途切れた。
綾音「……なにこれ。
というか、誰」
リツコ「あなたのウェアラブル端末に入っていたわ」
綾音は端末を受け取り、苦笑する。
綾音「動画ファイル、圧縮データで一テラバイトもあったんですけど」
リツコ「解析したら、まさに預言書だったわ」
リツコ「今後起きる使徒戦が、ほぼすべて記録されていた」
綾音は一瞬、背筋が冷たくなるのを感じた。
リツコ「もう一つのデータはゼロギガバイト。
中身は空。
そこに最上カエデ、このデータは消せないと書いてあった」
綾音「……嫌な予感しかしないですね」
話題を変えるように、綾音はベッドから身を起こした。
綾音「そういえば、レイっていう同僚に会いに行っていいですか?」
リツコ「構わないけど。
会話は続かないと思うわよ」
ネルフ中央病院、脳神経科。
白い病室の中央で、綾波レイは静かにベッドに横たわっていた。
綾音「サードチルドレン、茨波綾音。
よろしく」
レイはゆっくりと視線を向ける。
レイ「碇レイだったはず。
なぜ?」
綾音「説明が長くなるけど、いい?」
レイ「かまわない」
綾音「私、別の世界で大学の法学部に通ってたの。
二〇三六年四月一日までね」
綾音「その日に事故に遭って死んだ」
綾音「その後、この眼鏡と一緒に転生してきた」
レイは黙って聞いていた。
理解しているのか、していないのか分からない表情で。
看護師「そろそろお時間です」
綾音「あ、また来るね。
今度は私の話、もっと聞かせてあげる」
病室を出た待合室で、碇ゲンドウとの契約が正式に結ばれた。
内容はほぼ、イズモの契約書と同一。
ただ一つ、ミサトとの同居だけが例外だった。
本来は個室が用意されるはずだった。
だがなぜか、葛城ミサトの家に住むことになる。
後で聞いた話では、リツコが激怒していたらしい。
ルノーの車内。
ミサト「さーて、今夜はパーっとやるわよ」
綾音「お母さんがよく言ってました、その言い方」
ミサト「悪かったわね、おばさんで」
買い物を終え、高台に出た瞬間、サイレンが鳴り響いた。
街全体が動き出す。
綾音「……すごい。
さすが要塞都市」
ミサト「これが使徒迎撃要塞都市、第3新東京市。
私たちの町よ」
その夜、ミサトの部屋でペンギンと遭遇し、風呂に一緒に入るという奇妙な体験を経て、綾音は眠りについた。
翌日、学校へ転校。
なぜか女子から人気が出た。
親が全員ネルフ関係者だと知り、英雄扱いされているだけだと後で気づく。
鈴原トウジには殴れと言われたが、暴行罪になるからと断り、代わりに貸しを作った。
その夜、ミサトに説教しながら部屋を片付ける。
次の日。
レイ「非常招集。
先に行くから」
綾音「待って。
今行く」
司令部が一気に慌ただしくなる。
シゲル「移動物体を光学で捕捉」
職員「E747も目標を確認」
リツコ「分析パターン青。
間違いない、使徒よ」
ミサト「総員、第1種戦闘配置」
第3新東京市のビル群が収容され、固定砲台がせり上がる。
だが、二〇ミリガトリングも、一二〇ミリ砲も通じない。
シゲル「日本政府より、エヴァ出撃要請」
圧着ロック解除。
LCLが満ち、視界が開く。
ミサト「綾音ちゃん、出撃いいわね」
綾音「ええ。
もちろん」
地上に現れた使徒を見て、綾音は即座に判断する。
綾音「硬い。
これ以上撃っても無駄です」
鞭が迫る。
ギリギリで回避。
綾音「近距離兵器は?」
リツコ「ないわ」
綾音「……ナイフでやるしかないか」
民間人の存在を確認した瞬間、綾音の声が鋭くなる。
綾音「方位二一〇。
救出します。
大型火器で援護を」
オートパイロットに切り替え、民間人を回収。
綾音「あんたたち、死にたいの?」
次の瞬間、使徒の再生を待たず、コアへ突き刺す。
迷いはなかった。