第3新東京市上空に現れた第六の使徒ラミエルは、幾何学的な結晶構造を保ったまま、無言で都市を見下ろしていた。
綾音は司令部のモニター越しにその姿を見つめ、喉の奥がひりつくのを感じていた。
映像で知っていたはずの存在が、現実としてそこにある。
それだけで十分すぎるほどの圧迫感だった。
戦闘が一段落した後、綾音の端末に新たな存在が割り込んできた。
淡い光の輪郭を持つ少女の姿。
最上カエデと名乗るAIだった。
端末さえあれば、自由に現れ、消える。
感情を持たないはずの声は、不思議なほど人懐っこかった。
数日後。
学校ではプール学習が始まっていた。
綾音「レイちゃん、入らないの?」
プールサイドで立ち尽くす綾波レイは、視線を水面に落としたまま答える。
レイ「……泳げない」
綾音「そっか。
じゃあ、教えてあげるよ」
ぎこちなかった手足の動きは、何度も水を飲みながら、少しずつ変わっていった。
レイが水面に顔を出し、短く息を吐いた瞬間、綾音は胸の奥が温かくなるのを感じた。
その後、リツコから零号機起動実験事故の詳細を聞かされる。
淡々とした説明の裏に、抑え込まれた痛みがあることを、綾音は理解していた。
ある日、綾音はふと疑問を口にする。
綾音「レイちゃんって、なんで司令とあんなに……」
答えは返ってこなかった。
それでも、問いは胸に残り続けた。
夜、ミサトの部屋で。
ミサト「綾音ちゃん。
明日、レイに更新カード渡してくれる?」
綾音「いいですよ」
翌日、綾波レイの住むマンションを訪ねる。
インターフォンは沈黙したまま。
鍵は、なぜか開いていた。
中は、監獄のようだった。
コンクリート剥き出しの壁。
最低限の家具。
床に散乱する包帯。
綾音「……これは、ないな」
背後で気配がする。
振り向くと、レイが立っていた。
綾音「……私がリフォームしてあげる」
レイ「?」
二人で外に出る。
綾音「司令が許せば、うちに来てもいいよ」
レイ「?」
綾音「あの部屋じゃ、精神的にきついでしょ。
黒服がいても、保護者がいないのは問題」
レイ「……そう」
ラミエルが再び動き出したのは、その直後だった。
オペレーター「監視対象、小田原防衛線に侵入」
シゲル「解析完了。
パターン青、使徒です」
初号機は発進したが、初撃は通じなかった。
回避行動のGで、綾音の意識は闇に沈む。
次に目を覚ましたのは、病院だった。
綾音「……あれ、レイちゃん?」
レイ「ヤシマ作戦の説明を」
綾音「ちょ、ちょっと待って。
服、ある?」
プラグスーツを受け取り、話を聞く。
作戦開始は、日付が変わる瞬間。
食事を取りながら、綾音は本音を吐き出した。
綾音「……正直、怖い。
ミサトさんや司令は信じてるけど、使徒が怖い」
レイ「そう」
綾音「でも、行かなきゃ。
私がいないと、作戦は成立しない」
二子山。
夜の山中に、初号機と零号機が並ぶ。
ミサト「綾音ちゃんは砲手。
レイは防御担当」
リツコ「陽電子は重力の影響を受ける。
誤差修正を忘れないで」
綾音「了解しました」
着替えを終え、並んで立つ。
綾音「……もしかしたら、死ぬかもね」
レイ「いいえ。
あなたは死なない。
私が守るもの」
第3新東京市が闇に沈む。
人工音声「午前0時をお知らせします」
ミサト「ヤシマ作戦、発動」
全電力が集束される。
ラミエルの光線が山を穿つ。
だが、防御は保たれた。
カエデ「衛星砲を併用します」
綾音「……お願い」
初号機が咆哮する。
綾音「マニュアル狙撃でいきます」
二射目。
レイが盾となる。
綾音「レイちゃん!」
そして、最後の一撃。
衛星砲とポジトロンライフルが同時に火を吹いた。
結晶が砕け、ラミエルは沈黙した。
綾音は火傷を負いながら、零号機へ駆け寄る。
綾音「レイちゃん、ねえ、大丈夫?」
レイ「……ん」
綾音「一つだけ言わせて。
さよならって、言わないで」
涙が止まらなかった。
レイ「……何を泣いているの」
レイ「こういう時、どんな顔をすればいいかわからない」
綾音「大丈夫だよって言って、笑えばいい」
レイは、ほんのわずかに口元を緩めた。
その頃、月面で。
カヲル「始まったね。
目覚めの段階は」
カヲル「会える日が楽しみだよ。
碇レイちゃん」