ミサトの部屋は、夜でもどこか騒がしかった。
缶ビールの音とテレビの雑音が混じり合い、日常の匂いが充満している。
綾音「ねえ、レイちゃん、アスカ。明日、お買い物行かない?」
レイ「今の服でいい」
即答だった。
感情の揺れも、迷いもない。
綾音「いいわけないよ。女の子は、きれいでいなくちゃ」
レイは首を傾げる。
理解できない、というより必要性を感じていない表情だった。
アスカ「私はネットで買うわ。時間の無駄だもの」
ミサト「まあまあ。最近、任務とテストばっかりで、ゆっくりできてないでしょ。二人とも、綾音ちゃんについて行きなさい。これは上司としての命令」
アスカ「はーい」
明らかに面倒そうな声だったが、拒否はしなかった。
翌日。
街は平和で、人が多く、ネルフの影は薄い。
その分だけ、綾音は少し落ち着かなかった。
こんな日常が、いつ壊れるか分からないことを知っているからだ。
結果として、紙袋は山のように増えた。
その九割は、レイのものだった。
綾音「買ったねー」
アスカ「ちょっと、あんたばかぁ?
こんな量、一度にどうするのよ」
綾音「……どうやって帰ろう」
そのとき、低いエンジン音が近づく。
VTOLが道路脇に降下し、タラップが伸びた。
綾音「司令ーーーー!」
ゲンドウ「……なんだ、その荷物は」
綾音「レイちゃんに似合いそうな服とか、レイちゃんが欲しいって言ってたもの買ったら、こんなになっちゃいましたー」
ゲンドウ「そうか」
それ以上の感想はない。
だが、レイに向けられた視線だけが、ほんの一瞬だけ柔らいだ。
綾音「VTOLで、近くまで送ってもらえませんか」
ゲンドウ「よかろう。ただし職権乱用だ。ここにいる者は、口外するな」
パイロットたち「了解」
その夜、ミサトにはタクシーで帰ったと伝え、
荷物を片づけて、そのまま眠った。
翌日。
レイ「綾音、ありがとう」
レイ「お礼に、今度みんなで食事はどう?」
綾音「うれしい!」
声が自然と弾んだ。
数日後。
学校の屋上で、綾音は寝転がって空を見ていた。
次の瞬間。
マリ「どいてどいてー!」
パラシュートと一緒に、少女が降ってきた。
避けきれず、衝突する。
マリ「いったー」
マリ「めがね、めがねー」
マリ「……あ、ごめん。大丈夫?」
唐突すぎて、状況が追いつかない。
電話が鳴る。
表示は英語。
綾音「……英語?」
返事をする間もなく、少女が距離を詰めてきた。
顔を近づけ、匂いを嗅ぐ。
マリ「君、いい匂い。LCLの香りがする」
マリ「面白いね、君」
綾音は一歩引いた。
本能的な警戒だった。
マリ「このことは他言無用だよ。ネルフのわんこ君たち」
カエデ「さすがに、その格好は目立ちますよ」
カエデ「私の制服、使いますか。どうせ再構成できますし」
マリ「ありがと」
数日後、第2支部と4号機消失の報が流れた。
空気が、一気に張り詰める。
間を置かず、3号機の輸送が決定される。
松代での起動実験。
搭乗者は、式波アスカ・ラングレー中尉。
実験当日。
オペレーター「エントリー開始。LCL電化圧力、正常値。プラグセンサー異常なし。フェイズ2へ移行」
リツコ「第二次接続、開始」
アスカ「……そっか。私、笑えるんだ」
その瞬間、モニターが赤く染まった。
カエデ「緊急事態につき、ハッキングしました」
カエデ「使徒パルディエルが3号機に侵入。これより除染作業を行います。すべてのプログラムを停止してください」
リツコ「了解」
カエデ「後は物理的排除です。エントリープラグ射出……できません」
カエデ「プランBに移行。初号機による強制射出を行います。非常招集を」
初号機に、綾音が搭乗する。
綾音「……まさか、あれが使徒?」
ゲンドウ「そうだ」
綾音「3号機……アスカ……」
ゲンドウ「お前が倒せ」
言葉が、心を貫く。
パルディエル「うぉおおお」
狂ったように襲いかかってくる3号機。
綾音「私は、非人道的な司令の指示には従えません」
ゲンドウ「ダミーを使え」
マヤ「ですが問題点も多く、赤城博士の指示もなく」
ゲンドウ「今のパイロットよりは役に立つ。
やれ」
マヤ「……はい」
カエデ「ダミーシステム起動確認。
補助に入ります」
マヤ「どういうこと?」
カエデ「ダミーの欠陥を、私のプログラムで補います」
マヤ「ありがとう」
カエデ「司令。ダミーを使うなら、事前に言ってください」
初号機が動く。
綾音の意思とは無関係に。
だが、その動きの中で、エントリープラグは射出された。
人命だけは、守られた。