希望
白い天井が、ぼんやりと滲んで見えた。
消毒薬の匂いと、微かな機械音。
意識が浮上するにつれ、現実感だけが妙に冷たく戻ってくる。
女性職員「私の言葉が理解できますか?」
綾音「えっと……ここは……あ、私、レイちゃんを助けたあと、気を失って……」
声が震える。
状況を思い出そうとすると、頭の奥がじんと痛んだ。
女性職員「会話可能。記憶の継続性も確認されました」
綾音「ねえ、レイちゃんは? どこ?」
答えは返らない。
代わりに、職員が小型モニターをこちらに向けた。
女性職員「これは誰かわかりますか」
綾音「……今の、私ですけど」
自分の姿が、検査用カメラ越しに映っている。
他人事のようで、ぞっとした。
女性職員「自己認識良好。問題はなさそうですね」
そのまま、綾音は半ば担がれるようにして移動させられた。
通されたのは、球状の隔離施設。
透明な壁の向こうに、無数の視線が集まっている。
ミサト「碇レイさんで、いいのよね」
綾音「……違います。私は茨波綾音です」
即答すると、周囲の空気がわずかに揺れた。
リツコ「物理的特徴は第三の少女と一致。深層シンクロテストは解析中よ」
ミサト「頸部のDSSチョーカーは装着済み。葛城艦長の判断です」
首元に冷たい感触があった。
金属製の輪が、肌に食い込むように固定されている。
綾音「ちょっと、これ何ですか。苦しいんですけど」
女性職員「外すことはできません」
その言葉に、背筋が冷えた。
ミサト「面会終了。彼女を隔離室へ」
その瞬間、艦内に鋭い警報音が鳴り響いた。
オペレーター「前方01、05消失。波長捕捉しました」
マコト「識別コード4C。ネーミムズシリーズです」
ミサト「……また来たわね」
リツコ「ここを封鎖するつもりよ」
緊迫した声が飛び交う。
綾音はその中で、ある単語に引っかかっていた。
綾音「初号機……?」
知っている。
知っているはずの名前なのに、胸がざわつく。
ミサト「全艦、第2種戦闘態勢。初号機の保護を最優先」
隔離室の外で、カエデが静かに立っていた。
人の形をしたアンドロイド。
それでも、今は唯一の味方だった。
カエデ「システムアシストに入ります」
ミサト「余計なことしないで。綾音のそばにいて」
弐号機が出撃し、艦が振動する。
綾音の胸に、安堵と不安が同時に湧いた。
綾音「……無事だったんだ、アスカ」
だが、戦況は悪化する。
ネーミムズは数を増やし、コアの位置すら特定できない。
綾音「私を初号機に乗せてください。カエデの補助があれば、コアを探せるかもしれない」
リツコ「あなたはエヴァに乗る必要はないわ」
その言葉が、突き放すように響いた。
形態変化。
艦はエヴァへと変わり、敵を殲滅する。
戦闘は終わり、綾音は再び隔離室へ戻された。
リツコ「初号機は主機として運用中。パイロットは不要よ。あなたのシンクロ率は0.0000%」
綾音「……レイちゃんが、いるからですね」
リツコは否定しなかった。
リツコ「ただし、あなたは12秒間覚醒した。だからDSSチョーカーをつけている」
綾音「監視用兼、抹殺装置ってことですね」
リツコ「否定しないわ」
そこへ、別の女性が現れた。
サクラ「監視担当医官、鈴原サクラ少尉です」
綾音「……トウジ君の」
時間が、あまりにも進んでいた。
十四年。
世界は壊れていた。
アスカが現れ、強化ガラスを殴る。
怒りと悲しみが、その拳に込められている。
綾音「アスカ……どうして」
答えは返らない。
綾音「レイちゃんは? どこにいるの?」
ミサト「綾波レイは、存在しないの」
その瞬間、綾音の中で何かが決定的に崩れた。
警報。
そして、聞き覚えのある声。
レイ?「綾音ちゃん、どこ?」
迷う理由はなかった。
綾音は走った。
世界が敵でも、信じるものだけは決まっている。
荒廃したジオフロント。
ピアノの音。
格納庫で待っていたのは、エヴァ13号機と、碇ゲンドウ。
ゲンドウ「時が来たら、この少年と乗れ」
レイの姿は、どこか曖昧で、それでも確かだった。
綾音「……信じるよ。たとえ世界が壊れても」
やがて、ドグマへ降下。
DSSチョーカーは外され、代わりにカヲルがそれを引き受ける。
起動する13号機。
妨害するアスカ。
それでも、止まらない。
カエデ「システムを落とします」
ファイナルインパクト。
世界は巻き戻り、運命は再び交差する。
綾音は知っていた。
それでも、選んだ。
この結末を。