スタートは二本のやりをQの認識した瞬間からです
パラレルワールド: 破壊と再起
セントラルドグマの底部。
赤く濁った空間に、二本の槍が静かに並んでいた。
重力が曖昧なその場所で、綾音は足元の感覚を確かめながら呟く。
綾音「これで……やり直せるの?」
隣に立つカヲルは、槍を見上げたまま動かない。
その表情が、次第に硬くなっていく。
カヲル「待って。……槍が、揃っている?」
彼は息を飲み、何かに気づいたように目を伏せた。
カヲル「そういうことか……」
沈黙が流れる。
綾音には、その沈黙が嫌な予感として胸に刺さった。
カヲル「やめよう、綾音ちゃん。これは……嫌な未来に繋がっている」
綾音は即座にカエデへ視線を向ける。
綾音「カエデ、どう思う?」
カエデ「賛成できません。ロンギヌスの槍は破壊のための道具です。使えば、救済ではなく破壊のみが発生します」
綾音は小さく頷き、カヲルを見る。
綾音「やめよう、カヲル君」
その瞬間だった。
警告音が爆発的に鳴り響き、空間が激しく歪む。
カエデ「エヴァ十二号機、暴走。完全に制御不能です。槍を強制的に引き抜こうとしています」
綾音「エントリープラグ射出は?」
カエデ「ロックされています。十二号機からの干渉です」
遠くで、異形の咆哮が響く。
マーク六号機が自律起動し、光の輪を展開する。
カヲル「まさか……第一使徒の僕が、十三番目の使徒として裁かれるなんてね」
彼は苦笑し、どこか諦めたように空を見上げた。
カヲル「始まりと終わりは、同じ場所に帰る。……さすがだよ。リリンの王、碇シンジ君の父上は」
十二号機の姿が変質し、アダムスの残滓として覚醒する。
同時に、ネルフ本部が地上へと浮上していく。
カヲル「フォースインパクト。始まりの儀式さ」
次の瞬間、制御系が強制的に書き換えられた。
カエデ「制御を一時奪還しました。全システムをシャットダウンします。痛覚フィードバックが発生しますが、耐えてください」
槍が自らを貫き、光が収束する。
激しい衝撃の後、世界は静止した。
ガフの門は完全には閉じず、緊急プラグ射出が行われる。
インパクトは、かろうじて停止した。
アスカを救出し、遅れてレイも合流する。
気がつけば、カヲルの姿はどこにもなかった。
三人で、荒廃した地表を歩く。
第三村を目指して。
途中でケンスケと合流したところまでは覚えているが、そこで意識が途切れた。
次に目を覚ましたとき、見慣れた顔があった。
トウジ「おお、気いついたか」
トウジ「……わからんか。トウジや」
綾音はゆっくりと現実を受け入れる。
トウジ「久しぶりやな。運び込まれたときは、ほんまびっくりしたわ」
トウジ「事情も聞いたけど、ようわからん話やな」
トウジ「まあでも、元気そうで何よりや」
綾音「ありがとう」
窓の外を見て、綾音は疑問を口にする。
綾音「どうして、ここはコア化してないの?」
トウジ「難しいことは知らん。ケンスケなら説明できるやろ」
第三村を案内される。
生き残りが集まり、千人ほどが暮らす場所。
配給所、畑、簡素な家々。
トウジ「ここが第三村や。あれが配給所で、週に三回や」
トウジの家で、温かい食事が出される。
トウジ「さ、冷めんうちに食べよ」
綾音「……うん」
レイ「口の中が、ほくほくする」
トウジ「それが、うまいってことや」
そこへヒカリが帰宅する。
ヒカリ「連絡を受けたとき、信じられなかった。こうして会えるなんて……」
レイ「違う。
私は、綾波じゃない」
トウジ「なんや、違うんか」
トウジ「ほな、そっくりさんやな」
綾音「それは雑すぎるでしょ」
話題は自然と家族の話になる。
トウジ「これが娘のつばめや」
レイ「人なのに、小さい。どうして?」
綾音「人はみんな、お母さんのお腹から生まれる。そのために、小さく生まれてくるの」
レイ「……これが、かわいい」
やがてケンスケが戻ってくる。
ケンスケ「遅くなった。久しぶりだな、綾音」
翌日、ケンスケに誘われて村の外へ出る。
ケンスケ「見せたいものがある」
山を越え、湖を見て、森を抜ける。
水量、環境、全てが村の命綱だった。
やがて、黒い柱が視界に入る。
綾音「……なに、あれ」
ケンスケ「ヴィレの置き土産だ。相補性L結界浄化無効装置」
ケンスケ「あれがあるから、村は生きてる」
数日後、レイが倒れる。
カエデの診断は冷静だった。
カエデ「定期的にLCLへ還元しなければ、数日が限界です」
別れの会が開かれた。
質素で、あたたかい時間。
綾音「短い間だったけど、ありがとう」
綾音「また、巡り合う時まで」
翌日、防護服を着て外界へ出る。
研究施設で、加持リョウジと出会う。
そして、別れの時。
レイ「ここでは生きられないけど、ここが好き」
レイ「好きって、わかった。うれしい」
レイ「さよなら。さよならは、また会うためのおまじない」
綾音「また、いつか」
レイは静かにLCLへ還った。
高台でヴンダーを見上げる。
ケンスケ「残ってもいいんだぞ」
綾音「行かなきゃ。贖罪のために」
アスカが無言で近づき、テーザーを構える。
アスカ「規則だから」
閃光が走り、綾音の意識は闇に落ちた。