転生したらハズレ斬魄刀の使い手だった件【完】   作:ノイラーテム

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修業編:後編

訓練期間(モラトリアム)の終わりに

 最後の戦いに向けて俺たちがすることは二つだけだ。

一つ目は言うまでもなく滅却師(クインシー)対策。二つ目は各自での修業である。

 

 修業に関しては悪いニュースと良いニュースがある。

悪いニュースはこれが最後の訓練になり、随分と判り難い訓練を受けた。

残念なことにそいつでは霊圧そのものは大して向上しなかった。俺には都合よく覚醒するような特殊性も才能もなかったので、劇的なパワーUPなんか起きえないという事だろう。

 

良いニュースはその訓練が卯ノ花隊長による斬術のコツ伝授だったこと。

剣八に教えるなと四十六室からきつく言われてるからか判り難い訓練だったが、それを隠して教えるためのモノだと理解できたことだろうか?

 

「体力が有り余っているようなので、今日はお料理を手伝っていただきます」

「随分と大量の小麦粉っすね……。うどんでも作るんすか?」

 安静にしてろと言われたのにコッソリ訓練を続けたせいで卯ノ花隊長直々に怒られた。

最初はそう思っていたのだが、妙な違和感はあった。止めるならもっと前だろうし、そもそも怪我が悪化しない程度にやってたからだ。この程度で怒られる奴は過去に居ない。

 

というか訓練の代わりに料理やらせるとか奇妙にもほどがある。

適当な理由を付けて男手を借りるだけなら、以前に居た時でも良いわけだ。そもそもこの人が初代剣八だと理解していることを、とっくの昔に気が付かれているだろうしな。

 

「今日は餃子を作ってもらいますよ。まずは五手から始めて三手くらいまで減らしてみましょう」

「この量全部っすか!? 四番隊全部の賄いくらい作れますよね!!」

 説明の仕方がおかしいのは斬術の専門家だからだろうと思っていた。

しかしそれは最初だけだ。この日は餃子であったが包みの作業だけ。タネ作りやら皮作りと言った一番労力の多い部分はやってない。

 

「これでもまだ足りないくらいですよ。なので次は御寿司です。そして最終的に一手も可能になった所で、状況に合わせた最適を選びますね」

 そして餃子の次は寿司で似たようなことをやらされた。

どっちも最終的に一手で握る奥義まで試させられたが、最速の一手にこだわるのは注意された。もちろん飯を炊くのも酢の合わせとかもやってない。

 

ここまで来ると明らかに料理をさせたいわけではなかったのは理解できる。

そう考えて思い返すと、色々と身につまされるモノがあった。自分の剣技は早いだけだったり、技巧に凝り過ぎて意味がなかったこともあった。

 

(そうなんだよなあ……。いくら素早く斬ろうと凝ったフェイントかましても効かねえ時には効かねえんだよな。逆に効くときゃあ、刃が通れば何だって殺せるんだし)

 技そのものはこの何十年かで積み上げている。

後はもう何百年も修練してようやく神業に至れるかどうか。当てるだけならばもう望むべくもない所に登り、見果てぬ頂に手を伸ばしているだけの状態だった。もはやいつ攻撃するか、どう攻撃するかを練り直すしかない。

 

隠れて不意打ちってのは好かないが、正面切ってからならソレは技に過ぎない。

白哉が得意とする敵後方に回ってからのターン、そこから来る刺突などはその最たるものだろう。あの技は相手の防御を潜り抜け、かつ、霊的防御を固めようとする『意思こそをかわす』意味合いがあるのだから。

 

極論を言えば静血装(ブルート・ヴェーネ)を発動していない時に斬るだけでも違う。

 

(戦いの組み合ってだけじゃなく、技そのもの構成を見直さねえとなあ)

 これまでの戦闘には無駄が多く、斬るだけならもっと力を抜ける。

その余力でタイミングを見切るなり相手の防御手段を何とかする。あるいは攻撃を弾いてから即座にカウンターという特殊な連撃もできたはずだ。何だったら可能な限りの霊圧を載せたり、切っ先に集中したって良い。

 

俺は残る期間を自分を見直し、技を見直すという事に費やすことにした。

 

●敵は滅却師(クインシー)

 一番こだわってたはずの技そのものが未熟だった。

ガックリ来る半面、残りの期間で強く成れる余地があったことにホっとしている。

 

十一番隊に戻ってからは同じ技を何度も何度も構成し直して、素振りの様に繰り返した。

俺は剣八の様に才能がない。俺のやってる訓練を見て初代剣八に合ってきたことを見抜いたり、雑ながらも真似れるような才能はないのだ。とにかく修練を重ねていた。

 

「更木隊長! 斑目指南! 総隊長がお呼びです!」

「ようやくかよ。何かつかめたのか?」

「多分そうじゃないっすか? でっけえヤマが来るかもしれねえ! てめえら悔いのないようにしとけ!」

 久々の試合形式の稽古をやったら速攻で殺され掛けた。

これで全盛期より弱いというのだから頼もしいと思う他ない。

 

それはそれとして既に完現術編も終わって間もない頃で、流魂街ではまだ何もないので原作よりも早い段階で気が付いたのだろう。

 

その予感は半分当たりであり、半分はハズレだった。

俺は虚圏に行かなかったので知る由も無かったが、マッドは石田に監視を付けていたとしか言っていない。付けていた細菌だか何かが除去されて、帝国に勧誘された事を知ったのだろう。

 

「諸君。各所に放った監視システムから続々と連絡が入っているヨ。敵は滅却師(クインシー)で間違いない」

「やはりか」

 映し出されたモニターには虚圏に侵攻する狩人部隊が見られた。

その戦闘力の前に虚たちは後退を余儀なくされているようだ。原作よりも一方的でないのは組織立っている事と情報を与えていたからだろう。

 

その後はおそらく二パターンに分かれる。

原作通りの部隊構成でキルゲが苦戦するか、原作以上の部隊構成で進軍速度を元に戻すかだ。前者であれば一護や浦原が向こうに行く必要が無くなり、後者であれば行く必要があるが騎士団を数名拘束できる。

 

滅却師(クインシー)の能力は次の三つ。霊的能力の瞬時変更、個人の才覚による斬魄刀的な特殊性。最後に霊子を従属させる秘奥義ダヨ」

 今のところ石田とその祖父、そして一護くらいしか確認例がない。

聖文字は判明していないが、その差を個性の差としたようだ。石田家であれば霊子操作力が高く、黒崎家では高速戦闘ではないかと記されている。

 

「霊子従属に関してはリスクが強すぎるので、よりマイルドに変更されていると思うネ。ゆえに問題はそこではない。連中は戦力に劣るがゆえに、何でもやってくるという点ダヨ!」

「これはまさか!?」

「卍解を破壊ないし吸収する?」

 以前に話た時は卍解を破壊するという予測だった。

しかしマッドの予測は進化しており、滅却師最終形態(クインシーレットシュテール)時に自らの能力と引き換えに、卍解を吸収する可能性が高いと記載されている。

 

(スゲエなあ。一護との対決で血装ッポイ能力があると言っただけなのに、原作に近い所まで気が付きやがった)

 俺の言葉や石田に付けた監視などを元に、徐々に考察したのだ。

最初は自分が滅却師(クインシー)だったらどんな開発をするかを起点に、その延長線で進歩させていったに違いない。

 

原作との差異はおそらく、聖別と聖文字で個人のレベルを一気に上げられることだ。

開発可能な才能を持ってる連中に聖別で力を与え、能力が低い者には不可能な開発をやらせたのだろう。卍解を奪うメダリオンを行使すること自体にもレベル条件があるのだろうが、開発者を始末して騎士団に力を移動させれば良い。進歩と進化の差はそうやってできたと思われた。

 

考えに差異があったとしても概ね問題ない範囲で的確に当てている。

 

「目下のところ対策は霊子操作の対策ともども考慮中ダヨ。それまで卍解は試行策を渡してある一部の者以外は控え給エ。奪われたら奪い返すとしても、破壊されたくないだろう?」

「なっ!? 他にも用意したなんて聞いてねえぞ!」

 これなら問題ないかと思ったところで、斜め上の回答が出現した。

マッドのマッドたる所以を見逃していたのかもしれない。あの野郎、俺以外にも被験者を用意してやがった!

 

「話す必要があるとは思えないがネ? それに忙しい中……能力に伸び悩む彼らの相談に乗ってあげたのはこの私だヨ? 護廷の為にならばとみな納得してくれたサ」

「だからと言って人身御供を増やす必要は……」

 原作よりも有利な状態で始められる。

そんな余裕は吹き飛んでしまった。俺だけならば良い。原作ではぶっ壊れたし、奪われても対個人用だと納得ができる。だが……。

 

「剣術指南。ご心配は判りますが、そこまでに」

「みな、覚悟はできておる」

「雀部さん……。それに総隊長……」

 原作で真っ先に卍解を奪われた男は清々しい顔をしていた。

今日、この日の為に自分の能力はあったと言わんばかりだ。男が死地に向かう表情はもしかしたらあんな姿なのかもしれない。

 

「涅隊長。間に合うなら自分にも処置ができますかいのう?」

「時間次第ダネ。それと能力次第では奪われると厄介な物も考えられる。後で開発局に来ナ」

「射場さんまで!?」

 使えそうだと予測はしていたが射場さんが名乗りを上げた。

それまで情緒的に考えていたが、言われてみれば能力次第では危険な対象もあるだろう。

 

「斑目指南……。あたしや吉良君も戦力になろうと相談したんです。気にしないでください」

「雛森……。てかイヅルもできたの?」

「それはヒドイなあ。必死で頑張ったに決まってるじゃないか」

 感動する半面、懸念も出て来た。

隊長格が奪われる未来は回避したが、副隊長たちによる簒奪祭りが始まるんじゃないだろうか?

 

そんな予想外の話が続く中、会議としては警備体制の見直しやら卍解が使えない場合の対策を始めだした。

 

十一番隊は鬼道衆と共に特殊礼装のサンプルを受け取って、仮想滅却師(クインシー)として戦闘訓練を行う教導隊(アグレッサー)を構成したのである。

 

歴史の歯車は徐々に軋みを上げて動き出した。




 という訳で修業編のラストです。
本来は昨日のと合わせて後編だったのですが、予想外に長かったので分割しました。
(当初の予定通り、千手丸の話を入れたらもっと長かったはず)

●一角の強さ
 霊圧とかは前回と変わらず。
戦闘面ではオートマ車の操作からマニュアル車の操作に変わったような差があります。
ガンパレードマーチを知ってる方だと、オート入力ではなく、行動コマンドごとの入力になったような感じ。

●虚圏と石田の監視
 この話では原作に無い監視網があるので、スカウトやら侵攻があった段階で気が付きました。
虚圏では組織立って後退しており、キルゲが前に出てきたところでアヨン改とかハリベル第二階層で戦う予定。

●護廷の対策とマッドの暴走
 下方フィルター掛かっているものの、おおよそ予測。
後は戦いながらデータを修正し、なんでこんなに強いの? という展開ですね。

マッドはこれまでのモラトリアムで何人かに声をかけています。
雀部さんは覚悟完了して総隊長の卍解が奪われるよりも良い。
雛森ちゃんは藍染隊長が戻って来る時に備えて護廷を守ろうとし、吉良君はそんな雛森ちゃんを守りたい感じ。

●おそらく描写されなさそうな副隊長卍解

『東風飛梅』(こちかぜとびうめ)
『黒化霊装/大羽扇』
 鈴が鳴り響く範囲や匂いの及ぶ範囲にメテオが降り続ける。
鬼道系の始解能力がそのまま強化された。
破面由来の装備はアビラマの能力を付与することで、匂いと音の範囲を風下に移動させる。

『寂庭侘助椿』(じゃくていわびすけつばき)
『黒化霊装/ショーテル』
 周囲の霊子が全て奪われる。
それらは瑠璃色孔雀の様に還元されることなくた、ただ単に失われる。
もちろん主人を除外することなく、何もかもが失われていく卍解。
破面由来の装備はジオ・ヴェガの能力を付与することで、失われる強度と速度が変わる。

飛梅の卍解イメージは菅公の歌、および祟り神化への畏れから。
侘助の卍解イメージは月姫という物語の吸血鬼にされてしまった報われないサブヒロインから。

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