転生したらハズレ斬魄刀の使い手だった件【完】   作:ノイラーテム

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一角の居ない日

●男たちのシンパシー

 斑目一角が汚染され洗脳されていく中、その姿を見つめる男は驚愕した。

殺されるのは良い、本人が望んだことだ。汚染されるのも良い、どうせ血で汚れている。洗脳に至ってはどこかで解除すればよいのだから放置しても良いとすら言えた。

 

だから男が驚いたのは、とある冒涜的な現象についてである。

 

「ゾンビ化……だと」

 目は虚ろで意思を感じられず、命令を与えられるまで直立不動で立ち続けている。

その体には爆風で出来た火傷に無数の弾痕があるのに微動だにしていない。

 

明らかに本人の意識を奪って従属せしめる蛮行だった。

 

斑目一角に対して男は親近感など抱いては居ない。

ましてや友情など抱くはずもなく、自分を高みに押し上げる方法として手段を択ばぬその態度にのみ、ある種の共感性があるくらいだ。

 

共感性と言えば、偉大な先達の後を追い掛け、同世代の後塵を拝していると言えれ苛立ちを覚える。

その点に関してだけは同じ思いを抱いたかもしれない。

 

自分が時折に顔面をかきむしり、グチャグチャにしたくなるように、あの男は黒髪を剃り上げているのかもしれない。

 

しかしそれだけだ。

『友』ではなく『朋』というべきか。

 

朋がどこで死のうと洗脳されようとかまうものか、どこかで活躍して居れば笑い合うだけだ。

 

「斑目……一角……」

 だが男は呆然とした表情で心底驚いていたのだ。

一角が洗脳されたことでは当然あり得ない。この場合はゾンビ化に対して。

 

それを見せつけた一角に対して思う事はただ一つである。

 

「素晴らしい!! これ以上にない成果ダヨ!! 破面素材の装備が滅却師(クインシー)の卍解簒奪に耐性を付けるのを見せてくれただけでなく! まさかゾンビ化の実例を見せてくれるだなんてネ!」

 男は狂喜した。

必要なデータが揃い、状況を作り上げるに足るピースが次々と揃っていく。これぞまさに天祐であり、この状況を作り出した一角には感謝すら捧げても良いと思った。十秒くらい。

 

「ゾンビ化しつつある実例! これが最後のイチジクの葉だ! これで私の研究も完成するというものだヨ!」

 研究の完成。

そう、この男もまたゾンビ化の研究を行っていた。

 

他人の能力を一から十まで利用するなど気色が悪い。

特に死神と(ホロウ)の境界を乗り越えることなど、偉大な先達がやったことの後追いになり、浦原や藍染もやったことなので興味も湧かなかった。

 

だがゾンビ化は違う。

自分でも研究していたし、他の作業に手を取られて一気に完成させる時間が足りなかっただけだ。

 

「まるで私の為に花道を用意してくれたかのようじゃないかネ。今だけは感謝するとしよう。可能ならば所有権を取り戻してやるとも誓ってやっても良い。そう奴の輩に伝えな。一度引かせて再編成するヨ」

「了解しました涅隊長。綾瀬川三席に伝達します」

 その男、涅マユリはこの戦いで勝利するための道筋を見つけた。

どうやっても消耗戦にならざるを得ない。ならばゾンビ化で兵士を増やせるならば、用意の多いこちらの勝利は揺るがないのだから。

 

『相手の誰を優先的に始末して、こちらは誰を温存するかくらいだと思います』

(ああ、まったくその通りダヨ。駒をぶつけ合って勝負しようじゃないかネ)

 興奮に酔っていてもマユリの思考は常に計算し続けている。

五つある分割思考の半分を使って研究を続け、残る二つで手段を検討していた。

 

「元仮面組の隊長格に伝達。虚由来の力があれば卍解の簒奪を防げると算定。まずは誰か一人のみ解放を推奨する。そう伝えナ」

「了解しました涅隊長。折り返しのデータ送信も要請しておきます」

 まずこれで一つの懸念が片付く。

雀部副隊長の卍解簒奪が遅れたことでもしかしたらと思ったが、一角の卍解が奪われるペースはやや早かった。それが爆風による影響……破面由来の外装が壊れていたことならば回答が導ける。

 

虚に対し滅却師(クインシー)がなんらかの拒否反応を持っている。

そう結論付けた上で、出戻り組に誰か一人の卍解のみを許可する。そのデータが取れれば、解決手段を見つけるのは難しくないだろう。

 

そのための手段も、破面どもをゾンビ化させる研究の途中でやっていたからだ。

 

「敵部隊は依然として侵攻中。一隊は流魂街との接点を遮断。あちらから戻る組を足止め。別の一隊が精霊廷を伺って迎撃班を狙う構えかと」

 モニターに映し出される敵軍の動きは三つ。

一角たちが戦っていた部隊、流魂街との境目に出現し、どちらにも侵攻可能だと陣取る部隊。そしてこちらの迎撃隊を阻む専用部隊である。

 

「ヤレヤレ。ウスノロどもが。そこまで判ってるなら、とっとと移送の準備をしナ! ここにも雪崩を打ってやって来るに決まってるだろうが!」

「っ!? 了解しました。現作戦に関する物は即座に破棄」

「移送できない問題のあるモノは数年ほど『断層』に沈めます!」

 技術開発局のメンバーが急ぎ行動を始める。

戦いには技術の向上が必要不可欠だ。こちらができることはあちらもできる。あちらもできることはこちらもできるのだから。

 

(さて。アレは何時使うべきか。……いや、ここで手札は晒さない方が良いネ)

 勝手に飛び出した更木剣八は別にして、総隊長を始めとして隊長格の上位陣は温存している。

今は敵軍の編成を確認し、倒すべき相手を選定している所だが……。相手も同じことを考えるはずだ。

 

こちらの刺客を返り討ちにしつつ、同時にこちらの急所を押え、総隊長たちを消耗させればあちらの勝利なのだから。

 

(ゾンビ化なんて手段を前に出すのだ。……まだあちらにも手札はあると見るべきだヨ。アレを使うのは向こうの『切り札』を見てからでも良いのだからネ)

 消耗戦にゾンビは向く。

だから今から使っているのだろうが、戦いの本質は上澄みがどれだけ生き残るかだ。一般兵がどれほど死のうとも構わない。

 

ゆえに敵軍の頭目や、幹部連には別の手段があるだろう。

例えばゾンビ化以外の『疑似的な不死』……。こちらの切り札である『アレ』を使うならばその時だろう。

 

「斑目指南の隊と交戦していた敵が、流魂街方面の敵と合流します!」

「ホウ。……それは好都合だネ。幸いにもこちらの監視は……」

 新しい報告にマユリが一角に付けた監視を改めて注視した。

戦況が止まっていたので通り一遍にしか眺めなかったが、確かに移動を始めている。

 

確かこの隊の指揮官を倒して、戦況を留めたはずだ。

弓親たちに引けと指示し、雛森鬼道指南の指揮で再編成しつつ様子を伺っているはずだ。こちらはどう動くかと思っていたのだが……。

 

その時に、奇妙な光景が見えたのである。

 

『貴様……見ているな?』

「!?」

 最後に見えたのは斬撃の応酬。

西洋風の大剣が振り下ろされ、それを迎撃する形で斬魄刀が一閃した姿である。

 

それ以上は監視に付けた目玉の霊子が吸われ、見ることができなかった。

 

●天秤

 何が起きたかを説明するため、視点を変え時間を少し巻き戻そう。

ちょうど涅マユリ達が情報伝達や研究を行っていた頃の事である。

 

「どいてリル。そいつ殺せない」

「ダメだっつーの。せっかくの戦力だぞ」

 バンビエッタ・バスターバインは直したばかりの火傷を手で押さえていた。

視線の先に居る男を見るとその肌が痛む気がする。もし目の前にリルトット・ランパートが居なければとうに木っ端微塵にしてやっただろう。

 

「数なら居るじゃない!」

「数だけじゃ意味がねーよ。そいつは一人であいつらをやったんだぞ?」

 それがゾンビになった斑目一角が原型を留めている理由だ。

ドリスコール・ベルチとロバート・アキュトロン、そしてゾルダート達。彼らを倒したのは一角であるし、まとめてゾンビにはしたが思考力を含めてかなり戦力は低下している。その穴埋めと言う訳である。

 

「それに……必要ないから殺すってんならミニーがやる。それが陛下の命令だからな」

「くっ……」

 それを強力に補強するのが、首魁であるユーハバッハが下した命令だった。

奪った卍解で持ち主を殺せ。戦力にならないと判断するならば、龍紋鬼灯丸を奪ったミニーニャがやるべきなのだ。いつでもそれが実行可能だからこそ、戦力になる内は活かしているに過ぎない。

 

もしバンビエッタが一角を粉砕したいのであれば、ゾンビ化した瞬間に有無を言わさず行うべきであった。もっとも……それをやったが最後、戦利品を獲たと喜んでいるジゼル・ジュエルの機嫌を損ねる事になり、火傷の治療は永遠に行われなかっただろう。

 

「そーそー。まだ使い道あるんだからいつもみたいに殺すんじゃねーって話。 これだけの細マッチョは中々いないしねー」

「うわっ。ゾンビ相手にその気になっちゃうんだ? ちょービッチ~」

 ようやく負傷が癒えたキャンディス・キャットニップの言葉にジゼルは思わず苦笑した。

キャンディスは良い男を性的な意味でつまみ食いするのが好きで、今も興味津々で一角の筋肉を眺めている。剃り上げた頭もファッションであり、ハゲではないと見ているのかもしれない。

 

「変だなー。いつものバンビちゃんならそんなゴミ好きしろって言うのにね~」

「……」

 しかしその話を聞いて、ジゼルは意味ありげな笑顔を浮かべる。

そしてニターっと口元が吊り上がるのを自覚し、袖口で口元を覆った。

 

「もしかして死の恐怖(ハジメテ)の相手だからかな?」

「……っ」

「なんだバンビ、ビビってんの?」

「バンビちゃん可愛いですう( ´艸`)」

 何かを言いかけてバンビエッタは口籠った。

少し意味は違うが、恐怖を与えたという意味ではその通りだからだ。

 

「……そうよ。この距離でこいつが正気に戻ったらアッサリ殺されちゃうのよ。今の内に先に殺したいと思うじゃない」

「やだなーそんなことあるわけないじゃな~い。でも、しおらしいバンビちゃん見たら、ボクちょっとだけ興奮してきちゃった」

 正確には違う。一角に対して恐怖は覚えているが克服できないわけではない。

今言った通り、先に殺してしまえばよいし、それがバンビエッタにはできる。

 

では何が怖いのか?

まるでエイリアンでも見るかのような目で見つめているのは……。

 

「あ、そうだ。ボクも怪我してたし、ボクもバンビちゃんも靴が汚れちゃってるんだよね。君がやったんだし、責任取って舐めてくれる?」

「うう……あー」

「ちょっとジジ!? 止めてよ、もうっ」

 ジゼルが命令すると意思を無くした男は靴を舐め始める。

血の飛び散ったブーツを丁寧に舐めさせ、最後の尊厳まで奪おうとするかのようだ。

 

そんなジジの様子は段々と興奮しているかのようで、キャンディスは羨ましそうな顔で見ている。

ミニーニャは無関心でリルトットに至っては誰かと通信しているのか、明後日の方向に向かって喋り続けていた。

 

「ねえ、バンビちゃんも綺麗にしてもらえば? 自分を殺しかけた相手に屈辱を合わせるなんて素敵だと思わない?」

「そんな訳……相手がゾンビじゃなければ三回戦くらいはシてたかもね! それよりもこの後どうすんの?」

 バンビエッタが怖いのはジゼル達だ。

今までは自分の引き立て役くらいにしか思っていなかったが、冷めた目で自分を見ているのが判る。いつでもこちらを切り捨てられるし、自分がそうであった様に友情など抱いては居ないだろう。

 

それをこの男に気が付かされてしまった。ロバートたちがいまゾンビなのに、自分が死んだらならない訳はない。恐怖に突き動かされるように、ソレに気が付いていないと思わせるために声を荒げてしまう。

 

「なんでお前が仕切るんだって言わねーんだな? まあ素直なのは助かるぜ。とりあえずはポテト達と合流する」

「グランドマスター様さまサマと?」

「せっかくおっさんが死んで好き勝手出来るのにか?」

 リルトットはキャンディスの質問に頷いた。

ジゼルにゾンビたちを動かすように指示を出し、この集団を別の集団に合流させるために移動を開始する。

 

「死神どもの動きが妙に速い。明らかにこっちの出現を予測しやがってたな。……連中は倒された隊長格の死体を即座に回収したそうだ」

「うえ。それって此処も見られてるってこと?」

 戦時下なのに死体を即座に回収する理由など一つだ。

この戦場が見張られており、ゾンビ化能力を見られたとしか思えない。だからこそ即座に移動し、死神側の策を警戒しつつ合流という事らしい。

 

「指示分は終わったが……陛下の性格を考えると少し怪しいからな。道々戦いながら戦果を上げていくぞ」

「「了解」」

 先頭に一角、両脇にドリスコールとロバート。

三体のゾンビたちに壁役を任せ一同は移動。見張られていることを示すかのように、散発的に襲い掛かって来る隠密機動たちを迎撃しながら進んだ。

 

そうして流魂街方面に進むと、燃え尽きた街の中で佇む仲間を見かける。

 

「戦果は?」

「特記戦力の一人である更木剣八を含む隊長格五人を退かせ、三人を討ち取ったよ。更木剣八がその中に入っていないのが惜しい所だけど」

「ヒュー♪ 大戦果じゃん」

 唇に傷のある男、蒼都が荒い息でキャンディスの質問に答える。

かなり消耗しているようだが、余裕そうな表情は崩れていない。どうやら剣八の攻撃を完聖体で防いだことで自身を回復したのだろう。

 

「こっちの被害は誰が倒されたんですかぁ?」

「ロイドだけだが、死体を即座に焼却されたのが痛いな。やはり戦場が見張られていたか」

「だねー。これじゃあボクの出番が半分もないや」

 廃炎という鬼道は火力はともかく焼却能力が高いらしい。

剣八に化けたロイドが蒼都をタンク役にすることで相打ちに持っていったそうだが、その場にいた別の隊長格が死体を燃やし、即座に倒れた剣八を回収したそうである。

 

そして今後の相談をしようと、リーダーであるグランドマスター。

ユーグラム・ハッシュヴァルトに報告しに向かった所……。

 

「貴様。見ているな?」

「はあ?」

 突如として両手剣で切り掛かって来た。

その動きに反応して一角が斬撃を弾いたのだが……。

 

気が付けばユーグラムの脇に一条の傷痕。

代わりに一角の服に付いていた気色悪い目玉が消えていたのである。

 

「あらー。ツルリンちゃんって本当に剣だけは凄いんですねー」

「ってわけだ。使えそうなんで無礼は許してもらえると後で使い潰せると思うんだがな。攻撃さえしなきゃ自動反撃なんてしなかったと思うんだけどよ」

「……そうだね。これ以上の『攻撃』は止めておこうか」

 何時の間に斬ったのか分からない。

だが一角は瞬間的にユーグラムの剣を掻い潜って逆撃を浴びせていたのだ。

 

そして処断の為の『攻撃』は中止したユーグラムは……。

その傷を盾に移動させ、僅か後に首を傾げたのである。

 

「……世界が調和しない?」

「その死神の事は見たことあるけど、藍染事件の最初の時に既に相当なものだったよ。きっと幸運じゃないから機能しないんだと思う」

「ははっ。無敵の能力にも思わぬ落とし穴があったもんだな」

 首を傾げるユーグラムに石田雨竜が一つの案を提示する。

この距離ならば避けても当たる、剣で防御しても当たる。運不運が挟まる余地がないので、幸運と不運を定義するザ・バランスや盾の能力が機能しないのであろうと告げたのだ。

 

自身にとって天敵ともいえる存在が現れたことに……不思議とユーグラムは静かな笑顔を見せた。

 

「それは使えるかもしれないな。我々の”見えざる”帝国の為に」

 この日の戦いは滅却師(クインシー)側の有利に進む。

だが依然として、その勝者は見えないでいた。




 という訳で舞台裏です。

マユリ様から始まるのは途中でやっている「貴様見ているな?」をしたかったからだけです。
後は浦原さんよりも先に虚由来の力ならば簒奪を防げる。ゾンビ化に興味示す。
そんな光景を書きたかっただけですね。

●マユリが一角に共感を覚える理由
 まずネムの外見を思い浮かべてください。
親子なので仮装を止めたら割りと似ているんじゃないでしょうか?
特に十代前後くらいの性別が判り難い時代ならば特に。
その上で、ネムの目つきを釣り上げて、性格の悪い研究者にしてみましょう。
良く似た人が居ませんか? 赤ん坊を研究室に連れ込んで、実験素材を玩具に与えて
片手間で育てても違和感なさそうな毒親ッポイ候補。
という訳で千手丸は1000年前の研究者で、マユリの親とでもしておきます。

つまり何をやっても千手丸の七光りと見られた時代があって、浦原の弟子扱いされている。
一方で、一角は初代剣八とやってることは同じだけど遥か格下な訳です。
現在の剣八にも及ばないので、コンプレックスを抱えているお仲間と言う視点。
そんな彼がマユリ様の為に、卍解簒奪を防ぐためのデータと、ゾンビ化のデータくれたので満足してるわけですね。

研究用補助脳たち。
「はーっはは!」は
「イヒヒヒヒ!」ひ
「ううふふふ♪」ふ
「えへへへへへ」へ
「オーホッホホ」ほ

という感じで大はしゃぎしている事だと思います。

●ダウナーバンビちゃん
 別に一角に調教されたわけでもなく、単純に自分が格下で相手にされてもなかった。
いつゾンビにされてもおかしくない環境だと気が付いた感じですね。

●ポテト達
 真面目に戦陣を組んでるので有利です。
蒼都がタンク役やって、ポテトが指揮官。BG9・バズビー・石田が専任。
という訳で剣八が負けたほか、隊長格が三人ほど死んでおります。ホントウだよ?

なおザ・バランスが確定事項に対して弱いというのは捏造設定。
概念系の能力なので、100%命中する攻撃は幸運ではないので逆転できない。
としております。
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