「散々だったわね、指揮官」
オイゲンさんの要望書通り、職場体験をしていた僕達だけど、途中からオイゲンさんが演技を放棄して僕を抱えて逃走した。目からハイライトを消したまま。
それから僕は鉄血の方にある執務室、ティルピッツさんの持ち場へと連れてかれていた。特に何かをする事もなく、ティルピッツさんと休憩と雑談をしている。僕をここへ連れていくと、オイゲンさんはヒッパーさんの所に戻る、と言って僕らと別れた。
「まあ……一応、オイゲンさんの要望は達成できたから良いのかなって。ティルピッツさんは母港に不満とか要望ってある?」
「指揮官が万遍なくKAN-SENの子達を育成してくれてるから、作戦が組みやすくて助かるわ。でも強いて言えば……ここ最近は、寒いの……」
寒い? 今の時期は夏真っ盛りで、これから更に暑くなる予報だ。ティルピッツさんは冷え性なのかな。
「心の寒さが振り返してきたの。指揮官、最近こうやってお話するのは何ヶ月ぶりかしら?」
「えっと……一週間くらいかな」
「そう、約0.2ヶ月よ。また孤独になったのかと思ってしまったわ」
深刻そうに話すけど、実は一週間すら経っていない。だけどティルピッツさんが話すのには理由があった。
三週間前までは鉄血の開発艦、フリードリヒデアグローゼさんの建造にティルピッツさんとグラーフさんをメインで出撃させていたからだ。うちの母港では鉄血の主力艦が二人しかいなかった故の事なのだが、DR艦の合計経験値360万のうち、270万はティルピッツさんに稼いで貰っていたくらいの出番が多かった。しかし、開発が完了するとティルピッツさんを艦隊から外し、暫くは休んでもらっていたが、今までのギャップでティルピッツさんは不安にさせてしまったのだろう。
ただ、ちょくちょくハード海域で出てもらっていたはずなんだけどなあ。
「いやいや、ティルピッツさんには拘束時間が長かったからその分休んでもらいたくてさ。二週間くらいずっと出撃しっ放しだったじゃない?」
「確かにそうだけど、言ったでしょう? 指揮官、あなたの為に戦う、って。心の氷を溶かしてくれたのもあなた。指揮官が私達KAN-SENを使って、KAN-SENは指揮官の期待に応える。分かってはいるけど出撃が無くなるとは、悲しい事なの」
これからはちょくちょく、チャレンジモードとか演習に出撃させてあげようかな。
「だからといってティルピッツさんには今もお世話になっているのは変わらないよ」
「……ふふ、指揮官。重い話にしてしまってごめんなさい。あなたとの会話を楽しみたくて、引き伸ばしてしまったわ」
そういう事だったか。ティルピッツさんは軽めに微笑んだ。初期の頃と比べると、他のKAN-SENや僕と随分と打ち明けられるような仲になって良かったと思える。
「ふぅ……ここにずっと引き籠るのは良くない傾向ね。指揮官、私とディナーに付き合ってくれないかしら?」
ティルピッツさんは重い腰を上げたかのように椅子から立ち上がった。ティルピッツさんと一緒に食事こそ久々なような気がする。
「ドレスコードは必要かな?」
「ふふ、あなたはいつもそういう冗談を言う。だけど、心配いらないわ。サロンで食べるもの」
「サロンで?」
「私はだいたいサロンで食事をとっているの。賑やかすぎる食堂は性に合わなくて」
ティルピッツさん食堂で見かけないと思ったらサロンにいたのか。陣営の食堂によっては賑やかすぎるところもあるからなぁ。ユニオンとか重桜とか。
「分かった。ちょっと秘書艦の子に晩ご飯に行ってもらうように連絡するね」
今日秘書艦を担当してくれた鈴谷さんに内線電話を掛ける。
「あ、鈴谷さん? 僕だけど、キリのいいところで晩ご飯行っちゃってね……鈴谷さん、息が荒いけど大丈夫? ───へ!? ダーリン!? 冗談は良してよ〜? ───え? もう少しでイク? 分かった。今日はありがとうね。お疲れ様。 ───っ!? イク!? どうしたの───!? ……電話切れちゃった。大丈夫かな……」
言葉の節々に熱い吐息を漏らす鈴谷さん。伝えることは伝えたけど大丈夫かな……。
「ごめんね。お待たせ、ティルピッツさん……?」
ティルピッツさんは僕の電話が終わると、僕の片腕をギュッと抱きしめた。
「あなたが他の子と喋っていると、なんだか心が凍りそうなの。でもこうしている間は温かい」
「そ、そう? とりあえず行こうか」
数時間ぶりのサロンである。一日に二回も訪れるなんて気にもしなかった。サロンでよく見かけるKAN-SENってジョージアさんやリットリオさん、ロシアさんなど、凛とした大人の女性しか見たことないから、独特のオーラか何かで緊張してしまう。
「ティルピッツ、夕食か。おお、また会うとはな。同士指揮官」
「やあ二人とも! サロンでデートとは粋な事を考えるじゃないか! あっはっは!」
「ほぅ、氷の女王を落とすなんて指揮官もやるじゃないか」
ロシアさん、リットリオさん、ジョージアさんが三人で夕食を食べながらボードゲームの駒を進める。何で【歩】の前にチェスのポーンを置いているんだ。何のゲームをしてるんだ。
「デートだなんて、そんなわけ無いじゃないか〜」
「腕組んで指を絡め合うなんて、デートじゃなければ失礼じゃないのかぁ? うん?」
リットリオさんはお茶目に煽る。人の心をオトす事に定評のあるKAN-SENの言葉は伊達じゃないな。
「デート……あなたとならばいつでも歓迎するわ」
ティルピッツさんはポーカーフェイスを装っているものの、耳が紅い。こういう抜けている所がまた彼女の魅力なのだろう。
「今日の夕食はこれよ」
ティルピッツさんが持ってきたもの、サンドイッチを頂く。雑談をする中で、ある話題が出る。
「そういえば、グラーフがヤンデレ測定器? とやらをやっていると聞いたけど、最近、母港内が騒がしいのはそれが原因かしら?」
「確かに騒がしかったね。緊急会議が日常で開かれたぐらい」
「それは研究開発の装備なのかしら?」
「ううん。明石さんの発明品」
「あの人はそんな機械も作れるのね……」
しばし考えた後、
「指揮官、私にもヤンデレ測定器を使ってみてくれないかしら?」
「え!? どうしちゃったの!?」
ヤンデレ測定器という名の修羅場発生器を自ら使おうだなんて、本当にどうしちゃったんだろう。
「そんなに驚くの? 現代では追いついていない、オーパーツで作られた発明品が鉄血よりも先に出来るなんて気になるじゃない。モナークとウェールズが殴り合いするほどの現象を引き起こすなんて、尚更興味をそそられるわ」
その二人が特殊というか、普段から険悪なムードではあったけどね。最新鋭の技術を誇る鉄血としては、明石さんの謎発明が気になって仕方ないのだろう。
「じゃあやってみる?」
「そのつもりよ」
明石さんを呼ぼうとして、内線電話を取り出すがサロンのどこからか可愛い声が聞こえてくる。
「ナイトオブメンテにゃ〜、メンテ、メンテ〜、サロン、メンテ〜、換気扇のメンテナンスにゃ〜」
工具箱をがっちゃがっちゃ揺らしながらサロン内を通る緑色の猫さん、明石さんだ! 鼻歌のチョイスがNight Of f◯reの替え歌なのが明石さんらしいセンスでもある。
「明石さん、ここでお仕事?」
「そうにゃ〜、ワシントンに頼まれて換気扇のメンテナンスに来たのにゃ。指揮官はまた他の子とイチャイチャしてるのかにゃ〜?」
「また……?」
ティルピッツさんの視線は氷のように冷たい。修羅場を引き起こしている元凶は明石さんだったわ。
「イチャイチャじゃないよ!? あの換気扇動かないの?」
サウスダコタさんとワシントンさんの三人でいる時に、電源を入れたんだけど、結構動かしていなかったから故障してるのか。
「多分、長い間使っていないからプロペラが錆びてるかもにゃ。油を差せばすぐ動くにゃ」
明石さんは馬鹿でかい工具箱から500mlくらいのスプレー缶を取り出し、修理を始めると換気扇はすぐ動いた。
「ふぅ、いい仕事したにゃ」
「ねえ、明石。私にヤンデレ測定器で測って頂戴」
タイミングを見計らってティルピッツさんが明石さんにお願いする。仕事熱心だなあ。
「分かったにゃ〜。ぐふふ、サンプルが集まって良いにゃ」
ティルピッツ→指揮官
ヤンデレ度:19
「あまり高くないにゃ。ティルピッツはあまり指揮官に依存しないのかにゃ?」
「彼の事は良く思っているけど、依存する程、制御できない訳じゃないわ」
ヤンデレ度の基準はよく分からないけど、ティルピッツさんの場合は軽く甘える範囲のことだもんな。鈴谷さんと同じ数値な筈なのにこっちの方が遥かに安心できる。
「まあ一理あるにゃ。そうだにゃ、明石商店のプラチナ会員のティルピッツに新作の紹介があるにゃ。指揮官も一緒に来てにゃ」
明石さんが商売の話を始めるが、ティルピッツさんに新作の紹介と、僕が来ることに関連性がある事が分からなかった。
「プラチナ会員? それに僕も行くの?」
「そうにゃ。明石のお店には、買い物金額に応じた会員になるのにゃ。ノーマル、シルバー、ゴールド、プラチナ、ブラックと分かれてるにゃ」
そんなシステムがあるのか。僕はダイヤやキューブ、資金しか買わないから会員の対象外だろう。
「どのくらい買うとプラチナになるの?」
「それは「指揮官、行きましょう。時間は待ってくれないわ」」
ティルピッツさんに遮られてしまった。気になるけどまぁいいか。
「これが新作の、【フリーダムVR】……」
ごくり、と唾を飲むティルピッツさん。見た目はただのVRゴーグルとコントローラーなんだけど。何がフリーダムなんだ。
「簡単に言うと、自分の好きな映像、世界、シチュエーションが体験出来るVRなのにゃ。まだバージョンが低いから出来る事は限られるけど、そんなに不自由しない筈にゃ」
「ふむ、ここに技術が詰め込まれているのね……」
ティルピッツさんは興味津々にゴーグルを360度から見る。
「試しに付けてみるにゃ」
明石さんはティルピッツさんにゴーグルを付け、両手にコントローラーを持たせた。明石さんが持つ、別モニターにティルピッツさんの見えている景色が映し出される。
「おおー! 海か〜涼しくていいね〜」
出てきた背景は綺麗に光る砂浜とオーシャンブルーと呼ばれる、透き通った海だ。ティルピッツさんがいないから、一人称視点なのだろう。
「明石の技術は流石ね。まだ醍醐味があるのでしょ?」
「醍醐味?」
「そうにゃ。指揮官はこれを喋るのにゃ」
そう言って渡された台本。
「どういうこと?」
「指揮官にはアテレコをして欲しいのにゃ。ティルピッツがゲーム内でシチュエーションを選択するから、それに見合ったページのセリフを読むのにゃ。基本的に喋るのは指揮官だけどにゃ」
「はえ〜よく分からないけどやってみるよ」
ティルピッツさんが選択したシチュエーションは【浜辺でデート♡】だ。
『ティルピッツさん! 綺麗な浜辺だよ! 遊ぼう!』
ゲーム内の僕がティルピッツさんに向かって手を伸ばしている。それに向かってティルピッツさんもコントローラーを持って腕を伸ばした。3Dモデルとはいえ、僕が完璧にモデリングされてるの凄すぎて怖いぞ!?
『にへへ〜一度、あなたと来てみたかったんだ! ……え? ティルピッツさんの水着? すっごく似合ってるよ! スタイルも良いし、キラキラしてる!』
若干小恥ずかしいセリフだが、現実のティルピッツさんは目元はゴーグルで見えないが、口元は緩んでいて嬉しそうだ。
『もっと色んな場所行ってみようよ! あの岩陰? 良いよ!』
ティルピッツさんがVRゴーグルで左右をキョロキョロと確認して、誰もいないことを確認すると、ゲーム内の僕を押し倒した。
『───! ティルピッツさん……?』
「……お姉ちゃんと呼びなさい」
「え!?」
ビックリしてティルピッツさんを見るが、これ台本に無いセリフだぞ。
「ティルピッツの部分をお姉ちゃんに直して喋ってくれにゃ」
少々戸惑ったけど続行することにした。
『お、お姉ちゃん……? どうしたの……?』
「あなたが悪いのよ……無邪気な笑顔で私を誘惑するなんて……! あなたを見る度にいつも自分で慰めていたの……自分の指では満たされないから、あなたの指の模型でスると気持ちが良いの……っ」
ティルピッツさんがはぁはぁと息を切らしながらセリフを喋るが、ティルピッツさんの台本のセリフの部分は空白になっているから、アドリブなんだろうけど何でこのセリフなんだ……。次第にティルピッツさんは上着を脱ぎ、ブラウスのボタンを外し始める。
「指揮官、セリフをはよ、にゃ」
「この状況で!?」
『ぼ、僕もお姉ちゃんを見ると体がムズムズするんだ……どうしていいか分からないよ……』
「安心して。その温まったモノはお姉ちゃんのナカで柔らかくしてあげる……ね?」
『よく分からないけど、お、お姉ちゃんだったら……良いよ……? ってストォップ!!! 何これ!?」
「だからフリーダムVRだにゃ。何でも出来るからこのシチュエーションも容易いものにゃ」
「アダルトフリーでは!? ティルピッツさんもこれで良いの!? って……!?」
不審に思わないのかとティルピッツさんを見ると、コントローラーから手を離し、自分の手を股に伸ばしていた。流石に人の出入りがある、明石さんのお店の中で始められてしまうとヤバいので、VRゴーグルを無理矢理外した。
「───っ! はっ! 明石、この技術は世界一ね」
既に沼の中だった。
「指揮官……ちょっと来なさい」
大事なシーン? を邪魔されたのかティルピッツさんは不満げに、僕の腕を掴んで何処かへ連れて行かれる。
「どこへ? ってここはマズイって!?」
「喋るとバレるわよ」
他のKAN-SENにバレる寸前に、個室へ連れてこられた。場所は女子トイレである。扉の向こう側では、KAN-SENの話声が聞こえる。
「ティルピッツさん……!? どうしたの!?」
「あんな良いところで終われたら消化不良も堪らないわ。少し待ってて」
僕たちは小声で喋り合う。一つの個室に二人が入っている状況なのでかなり狭い。
するとティルピッツさんは、スカートをまくり、やや透けている水色の下着を下ろして、洋式便器に座る。そして水が跳ねる音を数秒、僕は聞くことになる。その間ティルピッツさんは顔を真っ赤にしながらも僕から目を離さず、じっと見つめている。本当に僕は何をしているんだろう……。
やがて水の音が終わり、トイレットペーパーで自分の陰部を拭いて身なりを整えた。
「さて、人もいないみたいだし出ましょう」
よく分からないプレイを見せられて、僕らは御手洗いを出た。
「指揮官、これだけは忘れないで」
何か念を押されるように言われたので、振り向くと腕を掴まれて───。
「私が指揮官を好きでいられる限り、私は常にこうなっているのよ」
ティルピッツさんは掴んだ手を自分の股へ伸ばした。
僕の指は、粘り気のある液体で覆われていた。
これじゃ官能小説と思われちゃう!
もしよければ良かった話を聞かせてください。
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サウスダコタ編
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プリンツ・オイゲン編
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ティルピッツ編
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ワシントン編