バレンタインの日に執筆を始めたから、バレンタインネタでも良いよね?(ズイッ
それではどうぞ。
この時期になると、世間ではイベントがある。
この母港も例外ではない。
「指揮官様ぁ〜! この赤城の獣チョコを受け取って下さいますよねぇ?」
「大鳳が愛と悠木を込めて作りましたチョコ、召し上がってくださいまし〜!」
「お姉さんが作ったチョコ、お姉さんの体に隠したんだけど見つけられるかしら? ヒントは、『穴』にしまったの♡」
「鈴谷のチョコ、真面目に作りました! 愛情たあぁっぷりと入っていますのでベッドの上でお待ちしてます♡」
「オサナナジミにチョコを渡すのは65535回目よね? いつも美味しそうに食べてたじゃない? そう─── 諤昴>蜃コ縺励※繧ェ繧オ繝翫リ繧ク繝滂シ?」
……いつも通りかな。隼鷹さんのソレ、どうやって発音するんだろう……。
朝食を食べに食堂に入った途端、重桜のお姉さん達5人を筆頭に、数々のKAN-SENの子に出迎えられた。普段は気高いモナークさんや反抗期気味のジャン・バールさんもフランス製の高貴な包みを握りしめている。リットリオさん、朝からチョコはちょっとお腹に重いかな……しかも口移しで。
「───にゃ〜! ──────にゃあ〜!」
僕の背後から、ドップラー効果のような猫(?)の鳴き声が聞こえてくる。
「あら? オフニャ?」
「それとも野良猫? 食堂には来ないように教えてあげないとね」
リシュリューさんやアルジェリーさんは猫だと思い込んでいるみたいだけど、この石上さんっぽい猫の鳴き声は……、
「だんなさまぁ〜! おはよう〜!」
「───うわっぷ!?」
勢いよく、そして大きな胸を僕の顔にドッチボールのように飛ばしてきたKAN-SEN───チェシャーさんだ。
「おはようダンナ様! 今日の秘書艦のチェシャーだよ!」
屈託の無い、愛くるしい表情で挨拶してくれた。ここまで純粋だと僕の心が洗われるように感じる。
「おはよう、チェシャーさん。仕事開始まではまだ時間があるよ?」
「そ・う・だ・け・ど! 早くダンナ様に会いたかったのっ! そういう気持ちなのはチェシャーだけでないと思うよ?」
言われてみれば、秘書艦の子って僕の起床時辺りから秘書艦業務を始めてくれる子が殆どな気がする。ワシントンさんですら、僕の起床時にいたくらいだから。先ほどの重桜の五人の時は、僕の枕元に着替えを置いてくれてたり、枕で寝ていたのに膝枕されていたりと怪奇な現象が起きる。
何故、怪奇かって?
扉の鍵は閉めてるからだよ。
「あ、チェシャーもちゃんとチョコ用意してるからね! でも、渡すのは最後にするね」
「ありがとうね。でも、どうして?」
「ダンナ様の記憶に残って欲しいから♡ 朝食食べに行こっ?」
キュートでスウィートな秘書艦との仕事の一日が始まる。
「チェシャー……どうしてアナタがご主人の部屋の掃除をしてるんです?」
「ご主人様のベッドの下の掃除は私、ベルファストの役目です……何でしょうか、その恋愛雑誌は。私が、言い値で買います(片付けておきます)」
「チェシャー様、そんなに屈んでしまうとパンツが見えてしまいます! はっ! シリアスもパンツを見せたら、罰がもらえる!? は、恥ずかしいですが、誇らしきご主人様に見られるのでしたら、この卑しいシリアスに罰を!」
はずだったけど……チェシャーさんらしいや。
秘書業務をひと通り終わらすと、チェシャーさんが執務室を飛び出して、僕の自室を掃除し始めた。ルームメイキング中のメイド隊の人達に呆れられていた。ベッドの下の恋愛雑誌ってなんだ!? 多分、リットリオさんの仕業だな。
「ダンナ様の部屋っていつも綺麗! ダンナ様は綺麗好きなの?」
「綺麗好きってわけじゃないんだけどさ……」
部屋の中に、その日に落ちたゴミや毛くずが翌日には消えているんだよね。掃除した訳無いのに。
「部屋の中で水を溢したら、布巾を取りに行っている間に水が消えているんだ」
「ええっ!? ダンナ様の部屋ってそんなに蒸発しやすいの!?」
「決してそんな暑い事無いんだけどね……何でだろう」
布巾取りにいってる間に天井や床、クローゼットが開いた音がしたんだけど、ただの家鳴りだよね?
「ダンナ様といると、ワクワクする初めてが一杯だぁ〜! んうぅ〜ますます好きになっちゃう!」
まるで美味しいものを食べたかのような、恍惚した表情で僕に抱きついてきた。ザラさん、ポーラさん、二人でバレンタインチョコと刃物をこちらに向けてはダメだよ!? あ、イラストリアスさんが阻止してくれた。彼女のバリアで刃物が折れた。どんな技術のバリアなんだろうと毎回思う。
「この猫キャラの泥棒猫! ……にゃ!」
「チェシャーが泥棒猫!? 誰!?」
今度の猫っぽい声の主は、上坂さんっぽいから……、
「ふっふっふ、指揮官は相変わらず血のバレンタインに発展させるのが上手いのにゃ〜」
「明石さん、縁起でも無い事言わないでよ……」
「明石だ〜! チェシャーは泥棒なんかしないにゃ〜ん!」
「それが泥棒だって言ってるのにゃ! 指揮官! 『ヤンデレ測定器』でチェシャーを測るのにゃ! 数値によっては隠れた本性がポロリするのにゃ!」
唯一無二だった猫キャラを奪われたと思っているのか、明石さんはぷんすか怒りながら、いつもの『ヤンデレ測定器』を出した。チェシャーさんがヤンデレになるのが想像できないよ。
チェシャー→指揮官
ヤンデレ度:2
「ひっくいにゃ! この機械おかしいにゃ!」
「ひっく……今までの子達と比べると相当低いよね」
「どうしたの二人共? しゃっくり?」
驚愕していた僕ら二人の顔を覗き込むチェシャーさんは、不思議そうな顔をしている。
ここまで低いと、どこに病んでる要素があるのか気になる。部屋の掃除? それはいつもか。
「ねえ、ダンナ様? 明石と何を見てるの? チェシャーにも見せて!」
ヤンデレ測定器を覗き込むチェシャーさん。だけど不思議そうな表情をする。
「ヤンデレ測定ってなに〜?」
「これは指揮官と明石だけの実験に使う機械なのにゃ!(指揮官、どうやって説明するにゃ?)」
「KAN-SENの子達からの愛の深さを確認する機械……かな(どうって……これで良いんじゃない?)」
「(そんな事で通じるのかにゃ?)」
「ねぇ、二人で何話してるの?」
「(明石さんのエゴで作られた、なんて言えないでしょう!?)」
「(エゴだってにゃ!? 自己満足にゃ!)」
「ねえってば!」
「にゃぁっ!?」
「うわぁっ!? ど、どうしたのチェシャーさん!」
明石さんとの内緒話で、ほったらかされて煮え切らしたチェシャーさんの大声に二人してビックリしてしまった。
「どうしてチェシャーには教えてくれないの!? 何で明石と指揮官だけで楽しそうにしてるの!? 泥棒猫はどっちなの!」
怒るチェシャーさんの目には涙が出ていて、僕はハッとさせられた。
「もう……ダンナ様のばかぁ!」
チェシャーさんは僕らをすり抜けるように自室を飛び出してしまった。
「指揮官、あのメスネコを追いかけるのにゃ」
「うん……明石さんも行くんだよ?」
「きっと明石が行ったら、あの猫に首の骨を折られるのにゃ……怖いにゃあ!」
「修羅場……お好きでは?」
「修羅場は死なないから、わっふる出来るのにゃ! それに指揮官だけの方が向こうも良いだろうと思うにゃ」
「う、うん」
明石さんの好みが分からないけど、僕は走り出す。
─────────
──────
───
「ぐすっ……ダンナ様に怒ったまま飛び出してきちゃったなぁ……あんなに怒るつもりじゃなかったのに……」
「案外近くにいたな……」
執務室にある窓の縁に体育座りで丸まっている少女を見つけた。チェシャーさんは窓の外を見ながら黄昏ていた。
「後でダンナ様に謝ろう……嫌いになってないかな、チェシャーの事……?」
「嫌いになんてならないから大丈夫だよ」
「でも、怖いよぉ……うう……ん? んんん!? ダンナ様ぁ!?」
「うん、ダンナ様こと指揮官だよ───っわ」
「わあぁぁぁぁぁぁ! ダンナ様、ごめんなさい!」
「ううん、僕こそごめんね」
それからチェシャーさんは、泣きながら『ダンナ様大好き!』と繰り返した。
「そうだ……仲直りのしるしに、明石にチョコを渡しに行ってくるね!」
「チェシャーさんは良い子だね!」
頭を撫でてあげると、猫みたい嬉しそうに和んだ表情をした。
「じゃあ、行ってくるね! ダンナ様はここでちょっとまっててね!」
「はいはい」
チェシャーさんはスカートのポケットから小さなチョコの袋と何故か注射器(?)のような物を取り出して、袋越しにチョコにぶっ刺した。そしてそのまま、走り出した。あまりに自然な行動すぎて呆気に取られてしまった。何を入れたんだ……?
「指揮官、少しよろしいでしょうか?」
「オイ、ちょっといいか?」
後ろから、声は違うけど、声帯は同じっぽい人たちから声を掛けられたので振り向く。
「リシュリューさんにジャン・バールさん? どうしたの?」
「はい、私達からのプレゼントです」
「今日はバレンタインの日だからな。まったく……何かある訳でも無いのによ」
「その割には、私に頭を下げてまで指揮官の好みを……」
「おいやめろ! ……甘さは控えめにして、まろやかさを増やした。口に合わなかったら捨てて良い」
「指揮官も沢山貰っていると思うので、なるべく小さめのチョコですが、指揮官のお口に合うと思います」
二人から渡されたチョコの包装は、素人の僕でも分かるような、凸凹のあるざらりとした高級さを感じた。
「二人とも、ありがとうね! もしかして、この包装って凄い高い……?」
「高いかどうかは分かりませんが、少なくともその紙一枚で、一般企業の初任給が払えると思います」
「はぇっ!?」
「まぁ、そういうもんだ。じゃあな」
用が済むとフランス艦の二人は踵を返した。そう言われると、たかが数グラムなのにズッシリと重く感じた……。
「ダンナ様ぁ〜! ただいまぁ!」
アイリス、ヴィシア艦との入れ替わりでロイヤルの開発艦が戻ってきた。無邪気な割にダイナマイトボディでぶつかられて、僕は驚きを隠せない。
「明石さんと仲直りできた?」
「うん! すごく眠たそうだったから、ロッカーの中に寝かせてきたの!」
「うんうん、よかった……ん?」
眠たそう? こんな真っ昼間なのに? 明石さん、機械イジリでたまに夜更かしするからなぁ。
「ねえダンナ様? その包みは?」
「あぁ、ついさっきリシュリューさんとジャン・バールさんから貰ったんだ」
「へぇ、じゃあチェシャーも渡してこよ!」
「チェシャーさんは渡さなくても……」
「ダンナ様が貰った物は、チェシャーが貰ったも同じ! ちゃんとお返ししないと!」
「まるで一心同体だね」
「そうだよ! チェシャーのチョコは【静かな】夜に渡すね!」
「ははは、楽しみに待ってるね」
例年通りでいけば、バレンタインの日に静かだった試しが無いんだよね……。
それから重桜、ユニオン、ロイヤル、鉄血、アイリス、ヴィシア、サディア……のKAN-SENの子達から連続でチョコを貰った。愛宕さんの等身大チョコはちょっと大きすぎるし、グロスターさんは皆んなのチョコを再現しすぎだと思うんだ……。
「静かな夜だね、ダンナ様?」
「う、うん。本当に静かだね……」
本当に静かな夜になった。不気味なくらい。
あれからチョコを貰っているだけで、時間はあっという間に過ぎて夜の時間帯になった。この時間だったら、夕食に向かう子、赤城さんやエンタープライズさんが、どちらが先にチョコを渡すかで揉めている筈なのに、食堂はおろか、渡り廊下に誰一人居なかった。
そして僕は、チェシャーさんに手を引かれて、静かな渡り廊下、食堂を横切り、チェシャーさんの自室へと連れてかれた。
「はい! ハッピーなバレンタインだよ! ダンナ様? 夕食もあるから、少しだけ味見してくれるかにゃ?」
チェシャーさんに差し出されたチョコは、可愛らしいハートの包み紙に入ったチョコだ。たしかに全部は食べきれないと思うから、中を開けて、一口サイズのチョコをつまむ。
「うん、普通に美味しいよ!」
「よかった〜! 初めて手作りしたから、効果が──────効くかと──────ドキドキ──────したんだよ?」
チェシャーさんは嬉しそうに言う。あれ……チェシャーさんの声が途切れ途切れに……そしてなんだか凄くねむ──────
「母港のみんなを気絶させるの時間掛かっちゃったにゃあ〜。でも、ダンナ様を捕まえられたし! あとはダンナ様を美味しく食べちゃおっと!」
小ネタですが、隼鷹の文字化けは変換サイトで普通に読む事ができます。