そっちに持っていくのは諦めたほうがいいのかな
「マスク剥ぎデスマッチ………」
何とも言えないような声のサンラクに、慧は苦笑した。
「そう。アメリアはリベンジを所望らしい」
「それって、アレだろ?向こうが勝つまでリベンジリベンジ言われて、負けた俺の顔を世界に晒して煽ろうとかっての」
「被害妄想酷すぎない?」
笑ってはいるが、慧とて懸念しているのだ。
アメリア・サリヴァンの強過ぎるプライドと、プロとしての意地。
そして、何より。
(そりゃあ、あれだけ真っ向からぶつかりあえば……あれだけ真っ直ぐにぶつかりあえば、心が揺さぶられるのも分かるんだよ)
カースドプリズン、そしてゼノセルグスという重量級ファイターと、正面切って殴り合う相手なんて。
衆人環視の中、気負いも何もなしに殴り合って。
盛り上がりもするだろう。
フォロワーが真似事をしているのとは違う、オリジナルとの一時。
「たまにスパーとかフレマとかやるぐらいならいいけど、マスク剥ぎデスマッチは流石にヤバいだろ。カッツォやペンシルと組んでるのが晒されるとか身の危険を感じるんだが」
「ま、君と違って俺たちは名前も顔も売れてるからね」
「発言のログとか晒していい?」
「や め ろ !」
魚見慧、魂からの叫びだった。
無論、サンラクとて本気でそんなことをしようとは思っていない。
ただ慧をからかっただけだ。
ともあれ。
「フレマやスパーぐらいならやってもいい、そうアメリアに伝えておくからね?」
「他にやるゲームもあるし、毎日毎日は出来ないけどな。たまにぐらいならいいさ」
「言質は取ったからね!」
呆れたような笑い声を了解代わりに受け取って。
慧は、シルヴィアへと連絡するのだった。
◆ ◆ ◆
『 俺こそが凶星、太陽すら霞ませる一等星だ!!』
コミック《ミーティアス》を読みながら、アメリアは反芻する。
其処に確かにありながら、しかし誰の手にも与えられなかった《リアル・カースドプリズン》の二つ名を手にした男の台詞を。
あの熱戦の後、《ミーティアス》の二次創作にカースドプリズンが現れるたびに紡がれる言葉。
《ミーティアス》の作者が絶賛した、正しくカースドプリズンを体現し、カースドプリズンの今後を定めたソレは、確かに不思議な魅力に満ちていた。
手を変え品を変え、しかし語られる決め台詞。
「柄じゃねぇんだけどな」
シルヴィアに挑む時でさえ、シルヴィアとの対戦が決まった時でさえ、そして世界を舞台にした大会でさえ感じなかった高揚。
『マスク剥ぎデスマッチはアウト。スパーリングやフレンドマッチならたまに付き合ってもいい、らしいワ』
ケイから聞いたらしいシルヴィアが、妬ましげに伝えてきた事実に、アメリアは吼えた。
観客などいらない。ギャラリーなどいらない。
時折とはいえ、あの《リアル》と戦えるのだ。
『正直、アメリアじゃなくて私が戦いたいぐらいよ?』
『吐かせ、アレは私の獲物だ』
猛禽の二つ名を以て呼ばれるアメリアの微笑みとは、貴重な。
それは、まるで────
何かを言おうとして言い淀むシルヴィア。
アメリアは、昂ぶる心を抑えようとはしなかった。