いつものようにGH:Cを起動しようとして、ふと手を止める。
毎日同じように熟していた──いわばデイリーミッションのような対戦を、今はやろうと思えなかったから。
顔隠しとのスパーリング、或いはフレンドマッチは、血が沸き立ち肉が踊る興奮に満ちていた。
「なぁにが『あんまりやってなかったから』だ……!」
シルヴィアに見せられた【Bomber bunny &Idol doll】の動画に映っていたソレを彷彿とさせる、狂気に満ちた速度の《ミーティアス》も。
やけに刀の扱いになれたように見える《乱蔵》も。
やはり【リアル】と呼ばれるだけの同調を見せた《カースドプリズン》も。
7割勝ち越したとはいえ、初見で勝つことなどできなかった程の、混沌としたプレイ。
熱を帯びる自分に、更なる熱で返してくる──大会でも滅多に味わえない高揚だった。
まだ胸に燻る興奮が、起動したゲームをそのままシャットアウトさせる。
周りをとやかく言いたくなかったが、中途半端なプレイをされて冷めたくはないから。
「しっかし……Bomber bunny……顔隠しやkeiはあぁいうのが好きなのか?」
一目で息を呑むほどの美少女が、身長に似つかわしくない胸を曝して。
見た目には愛らしいdollと、はっきりと分かるほどの絆を結んでいるのを見せつけていた。
『アメリア、あなたはアレを見てどう思ったノ?』
『あン?別に、相変わらず頭のネジトンでんなぐらいだな』
『妬ましいとか、羨ましいとか思わない?』
『思わねぇよ。あれはアバターだ。リアルの顔隠しじゃねぇ』
『………やっぱりクールなのね。私は無理よ、リアルもアバターも、全部のkeiが欲しいもの』
だから、ねぇ?じゃねぇよ。
『今度、ダブルデートでもしてみない?私と、アメリアと。keiと、顔隠しの四人で、ね?』
それに対する答えを、あの時の私も、そして今の私も、持ち合わせてはいなかった。
◆ ◆ ◆
「よォ顔隠し、keiかシルヴィアから話は聞いてるか?」
あの時と限りなく近く、しかし全く違うケイオースシティを眺めながら、暫し雑談の時を過ごす。
ケイオースタワーの頂点で、硝煙と爆炎、悲鳴に満ちた街を見下ろしながらの対話。
「ダブルデートとか言ってたな。向こうはともかくこっちはデートっつーかデッドだろうに」
「言うじゃねぇか。そんなに私が怖いか?」
「リアルバレは怖いだろうが、普通に考えて」
「私らは怖くないからセーフだなァ?」
「多数決は悪い文化だと思うんだ」
「吐かしやがって、ならコレで私が勝ったら付き合え!」
体力は互いに残り二割ずつ程。
超必殺も互いに切って、後は根気と意地の勝負。
「ンでェ……!!!」
対話をやめて、拳に、足に、力を入れる。
(テメェの素顔を拝ませてもらうぞ、顔隠しィ!)
見る度ジャック・マスク姿の相手に愛だの何だのと言えるほど、私は能天気ではない。
結果、私は顔隠しのリアルネームを教えられて。
シルヴィア、keiと共に、顔隠しを含めた四人で出掛けることになったのだった。