ケイオースシティが混沌の坩堝となり。
そこかしこで奏でられる悲鳴、絶叫が、爆音と轟音のアクセントになって。
(おぅおぅ、相変わらずヤベー街だよなァここは…!)
どうせ対戦が終われば何事もなかったかのように復旧するのに、何事もなかったかのように復活するのに。
ただ一人NPCの少女だけは、助けられて。
その瞬間だけは、ヴィランがヒーローに見えて。
気持ちの悪い動きをしながら流星に迫る凶星。
例えヴィランがヒーローに敗れるさだめの元に在るのだとしても、ヴィランが報われる可能性が微かにしかないにしても。
それでも、あの時の凶星は、間違いなく、一等星だった。
そして。
アメリア・サリヴァンは、その一等星の煌きを誰よりも願い求め続けていたプレイヤーの一人に違いなかった。
例え、ヴィランがヒーローに敗れるさだめの元に在るのだとしても。
◆ ◆ ◆
「よォ顔隠し、相当なブサイクとか言われてたよなァ」
「そりゃそうだろ。カッツォやシルヴィア、名前隠し、ナツメグ氏に比べりゃ下になるだろうしな」
「……まぁ、そうだな。見てくれが良くてゲームも上手いとか、神は幾つも与えてンだろうよ」
ジャック・マスクの下にあった素顔を見たアメリアは、笑った。
ブサイクだ、いやフライフェイスだ、いやゴブリンに違いない──
keiの相手役として散々に語られた顔隠しは、並以上のイケメンで。
「そっちも写真集とか出してるんじゃねーの?」
「あんなもん名の売れたプロなら誰だって出してるぜ?」
「カッツォは女装写真集出されそうになったらしいけどな」
「バッッッ!!バッッッカかテメェ、そんなの笑っちまうだろうが!あー、シルヴィアが見たらどういうんだよそんなモン!」
二人以外は客のいない摩天楼の屋上に、囚人の爆笑が響き渡る。
少し前、顔隠しのリアルフェイスをみたいというアメリアの挑発を受けてしまったサンラクは、見事に敗れてしまい。
アメリアと二人、顔を隠さずに出掛けることになったのだが。
「なぁ顔隠しよォ?」
「顔を隠してない顔隠しっておかしくないか?」
「そんなことはいいんだよ!……keiのところに、顔隠しをゲストで呼びたいってオファーが大量に来てやがってな」
「え、マジかよ」
「マジもマジだ。……なぁ、プロゲーマーになれとは今更言わねぇ。でもな?」
たった二度瞬いただけで、その禍々しき煌きを確たるものとした。
その煌きを永劫隠すというのは、あまりに酷くはないか。
「年に一回……いや、半年に一回でいい。デカイ大会に出ろとも言わない。たまにイベントのゲストとして、《リアル》が何か、教えてやってくれよ?」
「え………まぁ、カッツォにも言ったけど、試験とかに重ならなけりゃ考えてもいいけど」
「っしゃあ!言質は取ったぜェ!」
バシバシと背中を叩かれて、K.O。
いつになく満たされた気分のまま、アメリアはログアウトした。
◆ ◆ ◆
『例えば』。
『ヴィラン』が気まぐれで『ヒロイック』な行動をすれば、周りはどう思うだろうか。
ヴィランがすることだから、悪行に違いないと言うのか。
気まぐれの為したこと、二度目はないと言うのか。
──確かにそうかもしれない。
だが、しかし、その気まぐれな行動に助けられた少女に取っては、『ヴィラン』は『ヒーロー』なのだ。
監獄に囚われた英雄を救わんと、少女は力を求めた───
新たなヒーローは、ヴィランに恋する乙女だった。
そのヒーローとアメリア・サリヴァンが出会うまで、間もなく。