友人には会話がもっと欲しいと言われましたが、リズム考えると難しいかなと、思っています。
如何でしょうか。
-ねぇ知ってる? この学園に絶対口にしちゃいけない言葉があるんだって。言うと不幸と雷に見舞われるらしいよ。
とある学園都市のとある場所。周囲にはゴミ、落書きされた壁、切れかかり点滅する街灯。五月晴れの日中だというのに薄暗く、空気も淀んでいるかのようだ。
その様な、日中でも1人では足を運ばないような場所に、大柄な男3人と似つかわしくない小柄の、肩に掛る程度に揃えた栗毛の少女がしばらく前からそこに居た。話すのではなく居たとしたのは、その少女が一向に口を利かないからである。
「だからさーこれから遊びに行こうってわけよ」
「そそ、楽しくぱーっとさ」
「人生は1度きりさ!」
男達の姿はとくに汚れている訳では無かった。ジーンズ、パーカー、ニットキャップ、誰もが普通に使う物であったが、きつく金に染めた髪、不自然なまでに日焼けした肌、そして顔中に“取り付けた”アクセサリー。酷く印象と人相が悪かった。
その男達は金網のフェンスを背にした少女を取り囲むように立っている。真っ当な状況で無いのは想像難くない。
だがどうしたことだろうか、その少女は怯えるそぶりすら見せていない。学生服姿で明らかに十代前半のその少女は、ただつまらなさそうに腕を組んでいた。ただ少女の体からパチパチと何かがはぜる音がする。
あくまで口を閉ざす少女に業を煮やした男の1人が、少女の肩を掴まんとその手を上げた時である。
風が吹き、少女の髪が小さく揺れた。
「はいはい、その辺にしておきませんか。女の子1人ナンパするのに少々大人げないですよー」
黒髪の170cm程だろうか、学生服の1人の少年が間に割りいるよう現れた。この時初めて訪れた少女の変化に気づいた者は居ないようだ。恥ずかしくも、嬉しくも、そんな10代の少女だけがもつ諸々が混じったそんな変化だった。
突如現れた少年に、なんだてめぇはと男の1人が睨み上げる。だがその少年は涼しいものだ、全く臆していない。
「いい大人なんだから止めましょうよ、ほらこの娘だって怯えて―」
愛想笑いを浮かべながら少年が振り向くと、大きなため息をついた。
「なんだビリビリか」
「何だ、って何よ!それにビリビリ言うなって、言ってるでしょうが!」
「あーお騒がせしました。人違いのようで、どうぞごゆっくり」
「ちょっと待ちなさいよ!」
立ち去ろうとする少年の裾を、戸惑いながらも少女はしっかりと掴んだ。
寡黙な、実際は相手にしていなかっただけだが、その少女の変わりようは男達を苛立たせるには十分だったらしい。男の1人は怒号を上げ、その少年に殴りかかった。
「なに逃げようとしてやがる!まてやコラァ!」
その場の空気、転じて状況を支配するのに、怒号というのは有効的だ。萎縮してしまえば実力どころか正しい状況判断すら難しくなる。この男は何度もそうしてきたのだろう。だが、今回ばかりは相手が悪かった。
少年の左拳が男の腹を捕らえ、その場に崩れ落ちる。
「悪いね、これでも場数踏んでる」
てめぇ! と襲いかかる2人目を少年はその目で捕らえた。腰を据え、拳を軽く握る。だが飛びかかる男を襲ったのは少年の拳では無かった。突如生じた激しい轟音と閃光で男は気を失う。
見れば雷撃を纏った少女がその右手を差し出していた。僅か十数グラムのコインが電磁誘導で撃ち出されたのだ。直撃など必要ない、その衝撃波だけで十分だった。
「もしもし、やりすぎじゃありませんか」
「なによ、助けてあげたんだから感謝しなさいよね」
苦笑気味の少年に、その少女はあくまですまし顔だった。
2人が最後の男を見定める。男は恐れおののき腰を抜かした。そしてその男はある噂を思いだす。ばからしい、そう一蹴した噂だった。思い出したなら口にしてはいけなかった。だがその禁句を口にしてしまった。
「ま、まさか、お前らは、学園都市のバカップル、御坂美琴に上条当麻!?」
「誰がカップルだ!」
「誰がバカよ!」
もわぁと生ぬるい風が通り抜ける。
「あの御坂さん、ツッコむのはそっち?」
美琴は物言わずただ顔赤く、羞恥と怒りをその表情に浮かべていた。バリッと音と光が響く。
「……ひょっとして怒っていらっしゃいます?」
「ううん、まっったく♪」
その男は響く当麻の悲鳴と雷鳴のなか、その禁句は雷となにに見舞われるんだっけと、意識を失った。
男3人が目を覚ますとそこは留置所だった。両親と学校に顛末を知られ、これから身に降りかかるであろう事態に、涙を流す意外のすべを知らなかった。この男共は未成年だったのだ。
夕日が差し込む両親の車という護送車の中、3人の内1人が歩道を行く学生カップルを見る。少年は戸惑い気味にも少女を気遣い、少女は文句を言いながらも、嬉しそうに笑っていた。
御坂美琴と上条当麻。
2人は共に付き合っていないと、少なくとも対外的にはそう公言している。だが、これほど甘酸っぱいものを見せつけておきながら付き合っていないとは一体何の冗談だろうか。
「不幸だ」
男は車に揺られながらそう嘆かずにはいられなかった。