それにしてもうちの早苗はまだ常識を捨ててないな…。
地霊殿前だからかな?
sode早苗
「早苗、紅魔館に行ってきて欲しい。」
今日も今日とて正義のために、現人神の使命のために妖怪退治に勤しもうとした矢先に神奈子様にそう頼まれた。
「紅魔館ですか?」
「ああ、なかなかにきな臭いことになっていてな、恐らくは八雲のが関係していると思うのだが…。」
新たな使命に私のやる気のボルテージは上がる一方です。
「分かりました。紅魔館を潰してきます!」
「待て待て待て!行くなよ!宙に浮くな、まずは話を聞いてくれ。」
「!もしかして『行くなよ。絶対に行くなよ?』という前振り…」
「違うから!今の紅魔館の主が不在で人形がその席に座っている。その人形を早苗に連れてきて欲しいんだ。」
「分かりました!行ってきます!」
「おおうい!行くなって…穏便に!絶対に穏便にな!」
後ろから何か叫ぶ声が聞こえますが、恐らくは神奈子様が私を応援してくださっているのでしょう。
なんとしても悪しき紅魔館の人形を神社に連れて行かなくては!
急く気持ちを霊力に、紅魔館までを飛ばします。…あれ?何か今…。紅魔館の門番が魔法の森に居た気が…。気のせいですね!
紅魔館に着くと符を取り出し構えます。
「紅魔館の門番よ。私と勝負です!」
…いない…、何故だか秋風がビュウと吹いた気がした。
ああ、あれだけ格好をつけて飛び出したのに…これも人形の策略ですか!
さっきからビュウビュウと寒い風が止まないのも!見れば服の一部が凍っています…って、
「寒すぎです!」
「ん?終わった?」
「えっ?」
そこにいたのは全体的に水色の服、水色の髪をした妖精さんでした。
「ええと…あなたは?」
「あたい?あたいはチルノ!こうまかんのり、り…代わりの門番よ!」
り?代わり…臨時と言いたかったのだろうか…?
それにしても胸を張るその姿はやはり妖精…多少の力はあるようだがそこまで、一線は超えていない。恐らくは門番が離れる間に少し留守番を頼んだ…といったところだろうか。でも…
「チルノちゃん、残念ですが私にも使命があります。例え妖精相手でも容赦できませんよ!」
身構えていると遠くからもう一体、妖精が来た。
「チルノちゃ~ん」
「あ、大ちゃん!何~?」
「何って、みんなで人里に遊びに行く約束してたでしょ。」
「…も、もちろんわかってたわ。いまのは大ちゃんを試したのよ。さすがは大ちゃんごーかくよ!」
「え!?う、うん。ありがとう。」
「さあ、ぐずぐずしてないで行くわよ大ちゃん!ぐずはキライだよ!」
「ええ!?うん、ごめんなさい。待って~チルノちゃん。」
どっかへ行ってしまった…。いや、人里へ行ったのだろうけどそっちは人里じゃない、精々が太陽の畑ぐらいしかない。
「これって入って大丈夫かな…。チルノって妖精が後から何か言われたりとか…。」
うーん、誰か来るまで待っていたほうが良いんでしょうか…。入ろうか待とうか、葛藤の中30分近くたったでしょうか。
ごごご…、とドアの開く音が聞こえました。ようやくこの時が来ました!
「お待ちしておりました。私こそが東風谷早苗、今話題の妖怪の山の頂上に出来た諏訪神社の風祝、最強の吸血鬼の名を語るものよ!私の信仰する諏訪子様と神奈子様がお呼びです。神妙についてきてください!」
決まった…!これはもう完璧な現人神と言えるのではないでしょうか。
はっ、今最強の吸血鬼と呼ばれるレミリアさんを模した人形が私のことを見る目が人里で『博麗の巫女(偽)』とか呼ぶ人たちと同じ目をしていましたよ!
もう許せません許早苗です。
それにしてもどこで自分が人形であるかを聞いたか?そこいらの雑魚なら高飛車に答えたかもしれませんが私は洩矢の巫女!そんな愚行は犯しません。
「教えるとお思いで?それよりも一緒に来ていただきましょうか。」
そう言って符を数枚取り出す。雰囲気からすると戦闘力は持っていなさそうですから脅しが効きそうです。
「はいそこまで。それ以上の狼藉は神が相手だろうと私が許さないわ。」
ぬかった――ほかの人から紅魔館の面々の能力は聞いていたがこれは対処のしようがない。
メイドさんがまるで瞬間移動をしたように私の背後に回りナイフを突きつけてくる、この人が十六夜咲夜だろう。
絶体絶命の状況だけど、
「くっ!…私は守矢の風祝として…悪には絶対に…負けない!風よ!」
奇跡を起こす程度の能力で風を起こし十六夜さんを吹き飛ばす。
「ちっ!」
吹き飛ばされると同時にナイフを正確にこちらと逃げ道に投合、なかなかに避けづらい。
「まだです。私は負けません!」
また時を止められたらまずいのでバラバラに符を飛ばす。
「うきゃー!」
「「あっ!!」」
ナイフによって弾かれた符が一枚人形の方に…。
マズイ、今はお互いのナイフと符のせいで助けに行けない…。人形に当たると思われた寸前、巨大な石によって阻まれる。
「貴女達、紅魔館を壊す気?咲夜、あなたの今の仕事は護衛じゃないのかしら?守矢のは連れて行きたいのならまずは本人に同意を得て。」
現れたのは紫色、確かパチュリー・ノーレッジと言ったか…。
二人共に正論を言われ、グウの音も出ない。この中でただひとり人形だけがパチュリーに抱きつき、喜んでいた。
うう、頭が冷えてきました。そういえば神奈子様が穏便と叫んでいた気もしますし…。
よし!ここは一つ巫女式話し合い秘術markⅢをお披露目する時が来ました!
「洩矢神社が風祝、東風谷早苗からみなさんに話があります!」
…あれ?誰一人聞いてない…いや、一人だけ、門の影からこちらを見ている女性もいてくれたが『どうしたの?』といった顔をしている。
あれは確か子悪魔といったか…。
「あのー、私が悪かったです…。だから、誰か話を聞いてください…。お二人で楽しそうな雰囲気出してないでくださいよぉ。咲夜さん鼻血を出しながら撮影してないで話を聞いてくださいよぉ。うぅ…。ごめんなさい…誰か話を聞いてー!」
話を聞いてくれたのはそれから五分以上は経ってから、人形はパチュリーに抱っこをされたままでした。
「とにかく、一度守矢の神社に来て、神奈子様と諏訪子様にお会いして欲しいのです。」
先ほどの事も有り、かなりの低姿勢でのお願いとなる私…くっ。
「ふん、守谷の二神か…。騒ぎの好きな神の事、最強の云々もその二神の行ったことだろう?」
あー…神奈子様と同じ匂いがします。なんでだろう?
というか抱っこされながら格好をつけても見栄を張っているようにしか見えない…かわいい。
結局、素直にお願いしたらついてきてくれました。
ふふふ、これでミッションコンプリートです。
「お嬢様、道中歩き続けるのは疲れますので私めが抱き抱えさせていただきます。」
あ!この人さっきのパチュリーの見て羨ましがっているな。
そういうことだったら私も抱っこしたい!
「私にも抱っこさせてください!」
「却下だ!紅魔館の主が歩く程度のことで音を上げようはずもない…。」
「え…、でも歩いてだと結構遠いですよ。」
「くどい!歩く程度でこの私が疲れるものか…。」
大丈夫かなぁ。湿地帯とか山道って体力が結構必要なんだけど…。
少女移動中…
30分もたっただろうか歩くペースをお人形に合わせているためにかなり遅く、まだ近くに紅魔館が見えている。
目に見えてお人形がばてている…人形ってバテるんだ…。
ついには止まってしまった。
「さ、さくやぁ。」
これは凄まじい破壊力ですね…。普段から諏訪子様を見慣れていなければノックアウトされていたかもしれません。
「はい、なんでしょうか?」
なんだかすごくイイ笑顔だ。
「まさか、あれだけの大見得を切ったのですから今から足が痛くて歩けないなんてまさか言わないですよね?」
「ま、まさかそんな事を私がいう訳もない。私を誰だと思っている?吸血鬼の中の吸血鬼、レミリア・スカーレットだぞ?」
「もちろんです。それでは行きましょう。」
「あ…ぅ…。」
助け舟を出そうかと思い口を開こうとすると手の中にメモ用紙が握られている。咲夜さんの仕業か…。
[手を出したらそのでかくて邪魔な脂肪の塊二つを切り落とします。 咲夜]
怖っ…、というかそんな目で見ていたのか
「こんなのでかくて邪魔なだけなのに…。」
ぼそりと言ったら聞こえていたようで、ものすごい殺気を感じます。
思わず背中に冷や汗が流れるほどの殺気、これほどまでの殺気を受けるのは生まれて初めて…違う、高校の身体測定の時に教員からも同じものを受けた気がする。
「さ、さくやぁ…。」
そして再び、今度こそお人形さんは限界が近いようだった。
「お嬢様、この先は湿地となっていますので嫌だとは思うかもしれませんが私に抱きかかえさせてください。」
今度は助けるのか…、無意味な虚勢をたしなめたということかな?
お人形さんは顔を明るくさせて喜んでいる。
「う…うん、抱きかかえられるなど甚だ屈辱的だが致し方あるまい…。咲夜、礼を言うぞ。」
そう言いながら羽は千切れんばかりに動いている。
これが…これが保護欲か…諏訪子様と違い裏がないから生まれる感情なんだろうな…。
一時間もした頃、ようやく抱っこを代わってもらった。
そして抱っこした時、咲夜さんとの違いにものすごく驚いた顔をしたあとすごく幸せそうな顔をして眠ってしまった。お人形は寝ておしまいかもしれないが私には地獄だ。
何せ後ろから日傘を差しながら笑顔でこちらの胸とお人形を見てくる人がいるのだから…。
「ねえ、東風谷さん?」
「は、はい!?」
「私の胸では眠るに足るほどの量が足りないということかしら…。」
「…。そんなことないです。きっとたまたま今眠くなっただけですよ。」
「ふぅん、そうかしら?」
地獄だコレ。
そのあとも『重いってどのくらい?』とか『さっき邪魔だって言ってたわよね。』とかの話が延々と続いた。
30分…言葉にしてみれば短いが私にしてみれば恐ろしく長かった。
兎も角、お人形を私の布団に寝かせ、隣の部屋で神奈子様と十六夜さん、諏訪子様と談笑する。
途中で諏訪子様が様子を見に行ってしまったが三人での会話は楽しいものだった。
それに何故レミリアがお人形さんを作らなければいけないかも…。
幻想郷の運命が新しい勢力ができた事で慌ただしいと聞いたときは目を逸してしまったが概ね為になる話にはなった。
そんな時、隣が騒がしくなった。諏訪子様とお人形さんだろうか、三人で見合って麩を少しだけ開けて盗み見ると二人が仲良く握手していた。
(ふふっ、お二人ともお友達になったようですね。)
小声で話すとお二人共頷いて微笑ましいものを見る目になっていた…次の言葉を聞くまでは…。
「神奈子の奴、いい年して身持ちが硬すぎてその手の冗談は全く通じないしさ…。ちょっと揉んだだけで御柱が全力投球されるんだよ!?しかも、早苗よりちっちゃくて触り心地悪いし…。」
(ぐおぉぉぉー!!諏訪子ぶん殴る!!)
二人で必死になだめていますがそのお姿はまさしく軍神の名に恥じないものです。
「ふっ、どこも同じようなものさ。咲夜の場合、パッドででかく見せているだけだぞ?抱っこされている時に少しずれた。」
(…少しお仕置きが必要なようね…。)
(ダメです。待って、待ってくださいお二人共!)
流石に二人同時には止められない、けれども次のセリフで私が止める必要はなくなりました。
「「その点、早苗のは良い!」」
…仲良くなられたお二人には一緒にお説教が妥当ですかね。
そんなことを考えながら私たち三人は笑顔で部屋に入るのでした。
ちなみに概ね(おおむね)を打ち込む時にお胸(おむね)になり一人爆笑してました。
補足:守矢=また守矢かといわれるぐらいに騒ぎの原因となることの多い存在、勢力は東風谷早苗、八坂神奈子、洩矢諏訪子
大ちゃん=大妖精、正式な名前はないが二次作品では大ちゃんと呼称されることが多い
活動報告にてアンケートを実施しています。答えていただけると幸いです。
あと、今週は土日出勤になったので次の投稿はしばらく先です。