sideフラン
「血の…匂い…!美鈴!」
「ちょ…待――。」
信じられないことに私が止めるために肩に置いた手を振り切って外へ出て行く。
「ど、どうやってあの人形が…って、それどころじゃない。」
人形に遅れて外に出ると案の定匂いのした通り、血だまりの中に沈む美鈴とそれに気がついて飛ぶように近づいてすがり付く人形、ふたりの他には影ひとつ見当たらないがそういった類の能力か?それとも遠距離攻撃…。だめだ、私では戦闘経験がない分こう言う輩に対してどう対処していいのかわからない…!
「美鈴!美鈴!」
敵の気配はしない。美鈴を見るのが先決だろう。すがり付く人形の横で様子を見る。傷口は小さな穴が複数だが頭や内蔵系列の部分は無事、流石は美鈴といった所回復系統の能力持ちでもある美鈴ならば時間が経てば元通りだろう。
「お姉さま、落ち着いてください。見たところ出血と意識を失っているだけです。」
「美鈴は大丈夫なのね?」
この緊急事態に本来なら人形呼びしてもいいかとも思ったが敵性勢力が居る以上は念の為にもお姉さまと妹のフランのほうがいいか。
「…うっ…痛っ…。う…お嬢様…?」
「美鈴!」
「あ…れ…?名前…ぐっ…。」
敵が仕掛けてくるよりも美鈴の立ち直りが早いか、美鈴の能力は『気を使う程度の能力』、回復能力や自己強化はそれ専門の相手にこそ一歩及ばないものの十分に強力と言える能力だろう
それでも美鈴は先ほど痛がった…私の家族にこんなことをして、私のお姉さん呼びの神聖な時間を浪費させるなんて――ユルサナイ。
「美鈴、テキハダレ…!」
あー、ダメダナ、やっぱり家族を傷つけられるなんてガマンデキナイ。
「落ち着いてください。相手が使ってきているのは狙撃銃、今はセットポジションの切り替えで時間がかかっているのだと思います。お嬢様はこちらに来て動かないでください。妹様も下手に防御をせずに殺気を感じたら即座に飛び退いてください。……来ます!」
パァン パァンと立て続けに二発、同時に美鈴が人形を脇に抱えて飛び退く。
ん?次は私を狙ってるのか…。なるほど、かなり遠いせいで狙われるまで方向がわかりにくいのか…狙われるまではね…。
吸血鬼の脚力を使って跳ねるようにその方へ向かう、途中で狙撃してきたみたいだけどここまで上下左右に動いてしまえば関係ない。サア、ゾンブンニイタメツケテ――がっ!?
敵までかなり接近できたところで急に体が動かなくなる。
なんで!?なんで動けな…い…?
「よーし、結界はそのまま維持しろよ、絶対に気を抜くな。」
人の声が段々と近づいて来る。こちらの動きが封じられたのは予想外だが気を抜いているのは貴様の方だ――姿を見せしだい“目”を潰す。
(私は『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』で相手の弱点である部分が“目”として見え、さらにはその弱点を私の掌に移動させることも握りつぶして破壊することも出来る。)
さあ、来い!自分で力が制御できない程に高まってくるこの力、お前にぶつけてやる!
「ッチ、随分と幼いな…。しょうがねえか、お嬢ちゃん死んでおいてくれ。」
見え…目が見えない!?何でこの男には目がない!?…違う、周りの物も…!?なんで…普段なら気が狂うほどに見えるのに…!
こちらが慌てているのに目の前の男はゆっくりとした動作で拳銃を取り出して――
side人形
パァンという音がまた周囲に反響している。
「フ、フランは大丈夫だよね…?」
震える声で美鈴に聞く。
「…。正直今のままでは拙いです。相手はほぼ確実に対妖怪の武装をしている連中、殺し合いという意味での戦闘が少ない妹様では危険です。私もかろうじて動ける程度しか回復していませんし…。」
帰ってきた答えは希望に反したものだった。
「ですので…。」
狙撃対策に身をかがめながら美鈴が私の両肩に手を置いて正面から見てきた。
「私が時間を稼ぎますので咲夜さんとパチュリー様に今の現状を伝えてきてください。」
その目は何かの決意をした目…どこかで見たことのある目。
「うぅ…、絶対に無事でいて…美鈴?」
「ふふっ、せっかくその名前で呼んでもらえるんです。死んでなんかいられませんよ。…それでは失礼します。」
「ふぇっ!?」
そのまま猫のように襟首を掴まれる…ええっと。
「これでしたら狙撃される心配もありません!」
玄関まで投げられて
「うひゃーー!!―――へぶっ。」
顔面スライディングで着地した。
「うー、ともかく急がなきゃ…咲夜ー!」
多分、僕が走り回るよりもこれが一番早い!
「お嬢様、どうされましたか?お召し物も汚され「今すぐパチュリーを呼んできて!」!かしこまりました。」
予想通り時間を止めて一瞬で来てくれた咲夜さんに指示を飛ばす。咲夜さんもなにか緊急の用事だと察してくれたみたいで時を止めてパチュリーを連れてくる。
「それで、何の用かしら?」
「パチュリー、咲夜。美鈴とフランを助けて!」
襲撃されて美鈴が負傷したこと、フランが敵に突っ込んでいったことを手早く話す。今起こった出来事を自分で話していて思う、もしも…もしもこの場に本物のレミリアがいたら運命をも操るその能力で大好きな二人は助けられるかそもそも危険な状況に陥らなかったかもしれないとどうしても考えてしまう。
「ふ…」
「「?」」
「二人に、ええっと…後で相談が…あります。」
どうなってしまうか分からないけど僕がレミリアじゃないってことはやっぱり話さなきゃいけないと思う。
「解決したら…話すから…。」
少々の決意は必要そうだけど二人の目をしっかりと見て宣言する。
「あら、それじゃあ、話していいわよ。もう解決するし解決したらあなたはこの場に居ないから。」
唐突に後ろから聞いたことのない声で話しかけられ、目の前にスキマが開く。
「ッチ。」「ぐっ。」
「フラン!美鈴!」
そのスキマから出てきたのはフランと美鈴。
「その二人は命に別状はないわよ。妹ちゃんはぎりぎりだったけど。」
唐突にかけられた言葉にスキマとと来れば一人しかいない、振り返りながらその人の名前を言う。
「ええっと、八雲…
タライ!?
「うぅ~?」
「残念ながら
いや、確かにフランス人形っぽいけどさ…。
「比喩表現じゃないわよ?」
……どいう意味?本当にわからない…。
「本当にわからない?」
「えと?」
「うーん、未だもって自覚なし?ま、いいわ。残念だけど貴女はここまで、幻想郷のために―――死んでくれる?」
八雲紫は優しく微笑みながら残虐に私に言い放った。
今回がある意味一番の分水嶺です。ペルソナで言えば某警官さんをTVに突き落とすか落とさないか
補足:振り切って=戦闘経験がない確かないと思いました、人間さんは料理状態でしか見たことがないはずですし
気を使う程度の能力=地味に協力、だけど目立たないそれが美鈴クオリティ(褒め言葉)
拳銃を取り出して――=この小説では原作キャラは死なせません…原作キャラは
名前=敵がいなければ喜び勇んで美鈴が人形に抱きついてその胸に人形が溺れます
妹ちゃん=命を助けてもらったので文句入ってませんがちゃん付けにむっとしてます
八雲紫=今回のことを起こした原因の一人、呼ぶ方法①結界に細工する②異変を起こす(もれなく巫女さんが憑いてくる)③大きな声で紫ババァと叫んでみる