side咲夜
急げ、急げ、急げ!
度重なる時間停止と全力疾走からくる疲労感を無視してお嬢さまがいるであろう銃を持った輩たちのもとへと駆け出す。お嬢様には戦闘能力はない、八雲のスキマに送られた時は半ばあきらめかけたが今なっている銃声がお嬢様の生存の可能性を示唆している。
「はっ!?」
銃声がパタリと止む。
まさか?――肉体は悲鳴を上げ、血を流し始めたが無視して最大限に時間を止め、先程まで耳をつんざく様な銃声がしていた場所にたどり着く。
そこに広がるのは血、血、血、恐らく先程まで銃を撃っていただろう連中は物言わぬ死体となっていた。
限界を迎えた足と霊力に思わず膝をつきそうになりながらもお嬢様の姿を探す。
「…お嬢…様…っ。」
けれどもいない、これは安堵していいものなのかどうか…ん?
がつ がつ がつ ぼり ぼり んぐんぐ
この音は―
「ルーミア?」
そこに居たのは宵闇の妖怪ルーミア、このむせ返る様な血の匂いにつられてやってきたのだろう。
「んあ?おー、めーりんのメイドさん!」
何時から私は美鈴のものになったのだろうか…と言うか美鈴、この子に限らず手懐け過ぎではないだろうか?
「ルーミア、これは貴女が?」
あくまでも確認の意味で聞く、なにせルーミアは人食いではあるものの大した力は持っていない、美鈴ほどの者の肌を傷つける兵器を持っていてルーミアが御せないなんてことはないだろう。
「ううん、美鈴に遊んでもらおうとしたら落ちてたー。」
間延びした返事と口元についた血と油の塊はそのギャップのせいか酷く不気味に見える。
私の主が吸血鬼という種族ゆえ血肉に慣れているという状況でなければここで戦闘を行っていただろう。
「ではこの近くでお嬢様…レミリア・スカーレット様を見なかったかしら?」
「んー?」
「青髪でピンクのフリルの付いた洋服を着た10歳の女の子です。」
…うん、年齢のことは心の中で誤っておけばいいわね。
「あー、見たー。」
「ど、どこで!?」
「たまーに見かける黒い女の人に――」
黒い女、偶に?……魔理沙ではないわよね。白黒だし、偶にって頻度じゃないし…文か?
「抱きかかえられながら――」
恐らく文ならお嬢様とも親しいしすぐにお嬢様ではないと気付けるはず…、新聞のネタの為に取材をして、その為に安全な場所に移動したと考えるのが妥当かしら?
「くるくると空を飛びながら――」
空を飛ぶっていうのは分かるけど…、くるくる?文のテンションを上げる何かがあった?
「必死な形相で――」
え!?まさか…、まさかお嬢様のかわいさに充てられて鬼のごとく攫った?…流石にないか…?いえ、でも文のテンションは上がっていたと言う事はあり得る?
「おっぱい揉んでた。」
「なんでさ…」
お嬢様は一体何をしていたんでしょうか?
sideレミリア(本物)
日本某所
「どういうことだ…?」
日本に入り、狐がスキマが使えるということで待つこと数十分経つが…。
「なぜ使えないんだ…それだけじゃない?」
「何をぼそぼそ言ってるんだ!早く幻想郷へ繋がないか!」
吸血鬼特有の爬虫類種の目を細めていう(パチェがこの方が少しはまともに怖くなると言ってた)。
「――えない。」
「だから声が小さい!」
「使えない!」
「…は?スキマが使えない…のか?」
と急に藍が頭を抱え始めた。
「ありえない、ありえない…まさかまさかまさか!本当に――!?なんで契約が切れているんだ!?」
契約…契約!?
「って、あの契約か!?」
主従契約――パチェも子悪魔と結んでる魂と魂とを結ぶ自然に切れることはない契約であり妖怪や神、果ては神秘に迫る魔法使い、精神を拠り所にする者たちにとって時には命よりも重いと聞いたことがある…はず…多分。
「ぐっ…うぅ…、だがこんなことは…契約が切れるときは…。」
「ちょっと待て…!じゃあ幻想郷は…フランはパチェは咲夜は?」
「こんな状況でなんだが一人忘れてないか…。」
「ちょっと待てよ…あ!こあか!」
そうだな、例えパチェの契約者であっても私の館で働いている以上は私の家族も同然というわけか、さすがはこあと同じく契約を結んでいるものか。
「フッ」
「…はぁ…。」
「待て!なぜに溜息!?…はっ…!まさかメイド妖精の事だったか?」
「ハッ」
「う~、帰ったら橙に言いつけてやる!」
「待…橙は関係ないだろ!それにあの門番忘れるお前が悪いし!」
「あ…。」
「仮にも古くからお前たちを見守ってくれているものだろうに。」
「いやいや、あれだ。言わなくてもいて当たり前というか、言わなくてもわかっているというか…その、忘れてたわけじゃないからな!」
「はいはい、コントしてる場合じゃないからな。問題は契約が切れていることだ。」
「そっちから言って来たくせに…。」
「こほん。これは由々しき問題だ。もしも、考えたくはないが紫様が――紫様が死んでしまわれた場合、最悪の場合幻想郷の結界が崩れる可能性がある。」
言うことそのものが憚られる様に言っているがこちらはこちらで冗談ではない状況だ。
「どうすればいいんだ?スキマが死んでいるないし契約や結界の維持すらまともに出来ない状況にあったとしてどうすれば幻想郷の結界は維持できる?」
言っていて自分の発言に存外驚く自分がいた。
昔ならさっさと紅魔館ごと移転して逃げていたんだろうな…随分と幻想の地という場所が気に入っているようだ。
「博麗の巫女がいればまだしばらくは問題ないだろうがあの結界は基本的に四人、龍神様と博麗、紫様に私が四方を拝して結界にしている。」
「要するに今は結界が半分しか維持できていないと?」
「ああ、二人に凄まじい負担になるがまだしばらくは持つ。だがやはりあの術式の基本はゆかり様の術式なんだ。だから――」
「いないとまずいと。」
「本来なら紫様がいらっしゃらなくてもいいようにと私が式神として紫様の技術を学んでいたのだが…。私では未だにその仕組みを理解できていない。」
「ほお、あいつはそこまで凄いものだったのか…。」
「ああ、紫様の術式や知恵は私…いや、この世の他の物たちとは次元が違うとすら思える時がある。っと、ここで関係のない話をしている時間もなくなってきたな…急ぐぞ。ここからだと新幹線に乗ったほうが早いか…。」
結構ここの主従関係も力に差があるのか…ん?
「まてよ…よもや本当に…おい、狐!」
「ん?なんだ吸血鬼、早くしないと乗り遅れるぞ?」
「いや、乗り方とか知らなんだが…って笑うな!」
「いや、すまん。新幹線が楽しみなのはわかったからもうそろそろ嬉しそうにパタパタうごかしてる羽は隠せよ?」
「うるさい!別にそこまで楽しみじゃないもん!」
「わかったわかった。それで、なんのようだったんだ?」
「くっ~!!後で覚えていろよ。里中の油揚げを買い占めて買えなくしてやる!」
「家のは自家製だ。」
「…橙を誑かしてやる。」
「私が悪かった。これが切符で、これをあの機械の入り口のところに入れればいいんだ。あとは機械の出口のところで切符が出てくるから取り出せばいい。」
「仕方がない今回は許してやろう。ところで本題だったな――八雲紫とは何者だ?」
「は?」
「私はあの人形が面白いと思った…理由はわかるか?」
「ふーむ…一度死んでいるから…ではいな…ここでは幽霊も半霊もいるし…。別の次元から来たからか?」
「その通り、他に類を見ないほどに異質な運命…あれほどまでの運命は一人しか見たことがない。」
「まさか…。」
「あいつの…八雲紫の運命と酷似している。それに多分二人は何かしらの知り合いだな。過去にあったことがあるのだと思うぞ。」
「だがそうならそうと言ってくだされば…。」
「言ったところで何にもならないから言わないだけなんだろ?それに同郷のものということはもしかしたらお前さんを見限ってあの人形にでも幻想郷を継がせる気かもな…。」
「……言ってなかった事がある。」
「なんだ?」
「わ、私があのパーティーで何をしていたかだ…。実はヴァンカルスタイン卿を殺した犯人とコンタクトをとって紫様と合わせていた。」
「なぜに?」
「わからないでもない。確かに同郷のものだとしたら紫様の術式を操れる可能性は私よりも高いのだろう…。そうか…そうだよな、完全無欠な紫様がそうそうに命の危機に陥るとは考えづらい。私の知らない術式で契約を切ったと考えたほうがよっぽど現実的だ。」
「お、おい?」
「だとしたら犯人たちに頼んだのは…私を始末するため?あの中には確かに九尾を封印したものの子孫がいるそうだが…まさか本当に私は捨てられた…?」
「待て待て!なに勝手に悪い方に考える。ともかく帰るぞ。話はそれからだ!」
「うわーん捨てられたー!
「ああ、くそっ目障りだから隣でメソメソと泣くな!ほら、お前ほど優秀な奴に対して結界の維持ができないなんて理由で廃するわけなかろうが、私だったら仮にお前の言っている状況だったとして補佐に回したりとするぞ?」
「ぐす、ぐす……うん」
新幹線の中では金髪の美女が少女に慰められている妙な絵が出来ていた。
というわけで少し本編でも小話といった回でした。
もうそろそろ落ち着いてきたので書いていきたいです。
また、久々に書いたので矛盾点やこんなの私の知っているキャラじゃない!などという時は感想欄に是非にお願いします。
補足:血、血、血=シリアスかと思ったがそんなことなかったぜ
おっぱい揉んでた=これが人形のスキルの一つ『オートチチサーチ』……ないな。まあ、早苗の胸の中で寝るときに触っちゃう子ですから
なんでさ…=あの厨二ぽさ全開のくせに全力の格好良さはどうしたら出るんだろう?
一人忘れてないか…。=もしかして、美鈴
新幹線=初めて乗る新幹線は何歳であっても興奮しますよね?例え500歳でも…。