side人形
寝起きの様にぼんやりとした景色の中、それでも特徴的な髪のパチュリー、紅い髪の美鈴が黒い羽の文のことを守る。
けれどもしばらく経つと衝撃が襲う。吹き飛ばされた拍子に頭を何度かぶつけた――あ、なにか歯車がすとんと噛み合ったように視界が明瞭になってきた。
誰かの話し合う声が聞こえて起きる。
「パチュリー?」
頭から少量とは言え血を流して気絶している。
「美鈴?」
「焦点の合っていない目で力なく座り込んでいる。
「文?」
まだ意識はあるみたいだけどただ一点、今にも放たれんとしている紫の光弾を見つめている。
もしかしてあれは非殺傷設定じゃない?
だとしたらなんで逃げないの?
わたしのせい。
「助けなきゃ、せめてアレから…!」
ゆっくりと文の方に進む光の弾、醸し出す雰囲気でわかるあれはダメだ文が唯では済まない。けれどもギチギチと音の鳴る私の足は力を入れているにも関わらず一向に動こうとしない。
「なんで!?さっきぶつけたから?」
そうこうしていくうちに弾はゆっくりとした速さで彩に向かっていく。
「動いて!動いてよ!」
そうこうしているうちに文のすぐ目の前に弾が迫っていき――
「動けーー!このへっぽこレミリアボディー!」
僕は初めて自覚して能力を発動した。
『動く程度の能力』僕の知っている限り極めて最弱な能力だろうけど、まるで今の瞬間に示し合わせたかのな能力に感謝するしかない。
ガッギッギギ
体からは相変わらず軋むような音が鳴り響き、文と目の前の弾の前に体をすべり込ませることができた。
「あっ―――――ゴギ ゴシャ」
その先に待っていたのは当たり前だけれど痛みと喪失感でも頭の中はすっきりとしている。僕はレミリアの体を傷つけてしまったのか……そのまま視界がくろくなっていく――
――
side射命丸
「……そん…な…。」
今まで限界まで酷使し続けていた体をしかし、素早く八雲紫から隠すように抱き寄せる。
「返事をしなさい!大丈夫っ!?―――これは…。」
目の前で腹部をごっそりと無くしているがその腹部から見えるのはコード、機械、肉の塊のようなもの、黒い物体、目の前の少女――いや、今はその表現は正しくないのだろう。
『機械自動人形』
以前、河童の集落で見たことがある。人とは似ても似つかない不格好なものだったが…。
「レミリアでないことは知っていましたが、ドッペルゲンガーだとかとあたりをつけていたのですが予想外…っとそれどころじゃないか」
顔面スレスレのところを光弾が飛んでくる。
「レミリアが身代わりになったのは予想外ね。腹部に穴でも空いた?どちらにせよこれで――」
どうやら距離がありすぎて傷口を見るまでとはいかないらしい。さて、ここで紫を倒さなければこの
「あややや、これから先は幻想郷だとかは関係ありません。――殺す気で行かせていただきますよ?」
そういって天狗の武器である葉団扇を構える。あまり軽口も言わない、正真正銘のコロシアイのための本気。
「ふん、そんなフラフラな状態でまともに戦えるとでも?さあ、これで今度こそ死にな―――はっ!?」
言葉の途中で急に、紫の胸から矢尻が生えていた。
「なっ……!ガッ!?」
右手、左手、右足、左足――次々に矢が突き刺さる。
「あややや、広い幻想郷の中でも弓矢を管理人に当てる人は一人しかいませんね。全くなんてタイミングで現れてくれるんですか。私の見せ場がないじゃないですか!」
八雲紫以上に長生きのBBA筆頭、永遠亭最強の実力の持ち主と噂される人――八意永琳。
「取り敢えず言動と周囲の状況から八雲紫を串刺しにさせてもらいましたがなにか間違えましたか?」
「ぐうぅ…!なぜ…八意永琳がここに…!?」
「あら?あなたが読んだのでなくて?次は頭を打ちますので動かないでくださいね。名も知らぬ者よ。」
「名も知らぬ者……これは八雲紫じゃない…?」
「ええ、妖力がまるで違いますわ。それよりも。」
弓を番える永琳からは隙というものは一切なく、幻想最速を自負している私が万全の状態でも逃げきれないだろうと言う程。
「助けてえーりん…じゃなかった。永琳さん、この子を助けてあげられますか?」
矢の先は紫…の姿をしたもの?から動かさずチラリとレミリア(仮)を一瞥すると舌打ちをする。
「私では無理ね。」
やはりか…、永琳は薬師として超一流で噂によると機械に対しても同等の知識があると聞いていたが所詮は噂は噂か。
「言っておくけれどその子のボディに関してなら見れば内容はわかるけれど圧倒的に道具やパーツ、知識も足りないわね。私たちに出来るのはせいぜい時間稼ぎ、そうですよね―――姫様。」
そう言う永琳の後ろからカランカランと小気味良い音とゆったりとした着物姿で現れたのは蓬莱山輝夜、永遠亭の主にして永遠の姫様。
「そうね、時間稼ぎなら私の得意分野よ。」
確かに時間稼ぎにおいて彼女ほどの適任はいないだろう。それこそ永遠に時を伸ばすことができるのだから。
「じゃあ、その前にこいつを動けなくしましょうか…。」
その意見には賛成だ。紫のほうに近づく輝夜、対する紫は動きたくとも輝夜の脇にいる従者に一切の隙はない。
「じゃ、
「くっ!」
「あら、動かないでね。偽物程度にこれ以上この安寧の地を荒らしてほしくないので。」
「――ざけるな…ふざけるな!!」
見る見る内に妖力が膨れ上がり…
は?
特に動いたわけではない、けれどもそのあふれ出ている力はあまりにも意味が分からな過ぎて全員が止まる。――永琳でさえも
「ハァ、ハァ…チッこの体にも限界か、今日のところは引いてあげる。けど、次はないわ。」
そういってゆっくりとその体を隙間の中に沈めて――
「ええっと、あなたは…誰?……誰だっけ?」
全員が固まっている中でそもそも一人だけ無力故なのか、レミリアちゃん(この呼び方がしっくりする気がします!)が隙間の中に体を沈める紫に聞く。
それに碌に思考も出来ないであろう状態で聞いていることからこれがこの子の素なのだろう。
「死にぞこないの役立たずは隅で震えていなさい。私に口を利くなど烏滸がましい。」
本来はそこで見逃してもらった彼女を止めなければならないのだけれど、紫の出す力はその総量もさることながらその
本心でいえばすぐにでもその場を離脱してしまいたい衝動に駆られるほどに禍々しい。
だからこの二人の会話を止められない。
「ねえ、あなたは誰だっけ?」
「何を言って……もしかしてあなたは――ガッ!?」
何かに気付いた様子の紫はしかし再び矢に射られた。
「…そこまでよ。ここまでのモノとは思わなかったけれど関係ない。眠ってもらうわ。」
そうして放たれた矢は――紫に刺さることなく飛んで行く。
「逃げられたか…。恐らくはレミリアと話している時には既に本体はここにいなかったようね。先ほどまでのは幻術で作り上げた幻ね。」
少し悔しげだ。確かにあれだけの相手を追い詰めることの出来る機会は中々ないからなぁ…。
「はい、それじゃあんなものはどうでもいいから切り替えて、私の友人を助けてえーりん。」
「はい。お嬢様、勿論です。――ですがその前に、射命丸さん。あなたも危険な状態よ。寝ていなさい。」
あややぁ……そうですね。さすがに限界のようです。私の意識が持ったのはここまで。
時間がかかってしまい申し訳ございません。先の展開の修正に時間がかかりました。
大きな変更店があったため最後以外はほとんど別のものとして書き直しました。
次回は早めに更新したいです。
補足:動く程度の能力=以前にも書きましたが本来は人形の動きがスムーズになるように作られた能力
コード、機械、肉の塊、黒い物体=チューブ、人工臓器、魔術による一部分的な受肉、魂を閉じ込めるための道具