やはり幼女の似非モラトリアムはまちがっている。   作:信濃氷海

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〜書き溜め放流中〜

ここで書き溜めが尽きました。今後の投稿間隔は未定ですゴメンネ。

それでは本編どうぞ!


4. ラブコメの神は妙な趣味を持っている。

 奉仕部の誇る二大才女、若しくは悪魔の宣言により、翌日より奉仕部員総出での“戸塚彩加育成計画”がスタートした。

 

 昼休みになるとテニスコートに強制集合、容赦ない走り込みと筋トレの連続、素振り壁打ちサーブ練習エトセトラエトセトラ…………

 

 無論、哀れ比企谷八幡もそれに加わっている………というより

 

「………なんかの刑罰か何か?」

 

 蒼天の下、昼休みだというのにテニスに励む(強制)八幡は更に30パーセントほど目を腐らせ(当社比)ながらテニスコートに立っていた。

 

「はぁーーーーっはっはっは!!ケプセルケプセル、この程度でへばるとは貴様も存外大した事はないなハッチマン!!思い出すがいいあの絶望の“スポーツタイム”を!!」

 

 ハッチマンって誰だよ………あと体育は英語でスポーツタイムじゃなくてフィジカル・エデュケーションだ。これ豆な、八幡の豆知識略してはちまめ。

 

スパァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!

 

「ふぁぁぁぁっはっはっは!!よそ見はするなと言ったはずだァァァこの我は魚人テニス40段であるぞぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 ……………殴りたい、その笑顔。いやだが考えてみればボール取りに行く時間はサボれるな、サンキュー材木座。ただそれでもお前のウザさは帳消しにならんけどな。

 

 全身全霊でゆっくりちんたらと飛んでいったボールの方へ向かう八幡。すると、遅すぎる彼より早くそのボールを手に取った人………影……………

 

「…………ふむ、やる気が足りていないようだな」

 

 ガッデム!!それはなんと二大鬼教官の片割れターニャ・フォン・デグレチャフ!!不気味なほどの無表情で八幡の方をじっと見つめてくる彼女に、八幡は急速にお腹が痛くなってくる……………嗚呼………帰りたい……………

 

「だが、私はやる気・根性だのといった精神論的な戯言を言うつもりはない。……………どれ、ではラリー練習()ここまでとしよう」

 

「……………………“は”?」

 

 通しで聞けばありがたい慈悲のように聞こえる…………が、その一部に何やら不穏すぎる言葉が含まれていたような……………………

 

「ああ……………気分転換だ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

            走り込み10キロ、行くぞ」

 

 

 

 

 

 八幡は死んだ。ついでに巻き添えを喰らった材木座も。だが彼は「フヒフヒヒ…………これも愛!師匠様(ターニャたん)が我を想う愛故!!ならばそれに応えてしんぜようぞ剣豪将軍ステンッッッッッッッバイッッッッッッッ!!!」とかなとか訳の分からないことを叫びなんとか食らいついていた。

 

 ………なるほど、あまりにキツい時はいっそブッ壊れた方がいいのか。でもなぁ………………

 

「…………しかしその代償として社会的に死ぬのはちょっと……………」

 

「おや、まだ元気そうだな。ではもう1セット行くか?」

 

 むりですしんでしまいます。

 

 

 と、その時だった。

 

 

 

「あっ!」

 

 テニスコートで、雪乃とラリー練習をしていた戸塚が転んだ。すぐに立ち上がろうとするも、転んだ際に膝を擦ったらしく、右膝から血を流していた。

 

「大丈夫さいちゃ————「だッ!大丈夫か戸塚!!ひ、膝から血がッッあわ、あわわわ」————ええ?!ちょ、ヒッキーこそ落ち着きなよ!!」

 

 目を腐らせ口を閉じたり開いたりし、戸塚のそばに駆け寄ってあわあわし始めた八幡。その姿は実にシュール極まりない。その醜態を冷たく一瞥していた雪乃は、何も言わずにくるりと校舎の方を向き、スタスタと歩いて行った。

 

「…………救急箱、取ってくるわ」

 

 去り際にそう言い残し、彼女はその場を後にする。すると、それを悲しそうに見ていた戸塚がポツリと呟いた。

 

「………………雪ノ下さん、怒ってるのかな。僕があんまり上手くならないから…………………」

 

 うつむきがちにそう言った戸塚の考えを、しかし意外な声が否定した。

 

「何を馬鹿な、君は努力しているだろう。しかも、上手くならないと言ってはいるが最初に比べればだいぶ良くなった。あとは我々指導者の問題だ」

 

 ……無論一ヶ月後に最前線行き(強制)ならば話は別だが。遠い目をしつつターニャは心中で続きを呟く。やれやれ、やはりあの様な不合理が罷り通るなぞ間違っているな。戦争反対!平和こそ人類の希望なのだ!!故に存在Xに死を!!!

 

「…………意外だな、あんたの場合『無能に死を、出来ぬ出来ぬは努力が足りぬ!』とか言いそうなんだが」

 

「だから貴様は私をなんだと…………ん?」

 

 つくづく失礼な八幡を睨みつつ窘めようとしたその時、なにやら遠くから騒がしい話し声が聞こえて来る。しかも、その声はだんだん大きくなってきて…………

 

「あれ?テニスコート空いてんじゃん!あーし久しぶりにテニスやりたかったんだよねー」

 

 …………………どうやら、招かれざる客がやってきたようだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 髪を弄りつつ、何の遠慮もなくズカズカとテニスコート内へ入ってきたその人物は、八幡ですらよく知る人物だった。

 

「あ…………優美子……………」

 

 八幡の背後で、結衣が若干気圧されたようにその名を呟く。三浦優美子、八幡や結衣と同じクラスの、通称“女王様”だ。明るい髪色と言い、いかにもな喋り方と言い、まさに典型的リア充ギャルだな間違いない(八幡調べ)。

 

 そして、彼女の後ろから続いて入ってきたのは、三浦が常につるんでいるグループの面々だ。彼らもまた八幡曰くの“リア充オーラ”を纏い、好き勝手に騒いでいる。

 

「んー?あれ、結衣じゃん。何してんのこんなとこで」

 

「え、いやその………部活で……………」

 

「?結衣別にテニ部じゃないっしょ?ま、とにかくそこ奥空いてるんなら使っていい?」

 

 入ってきた後になって、そこに人がいた事に気付いたのか三浦はそんなことを聞いてきた。もっとも、返事を聞く気はさらさら無い………というよりそもそも返事がくるなぞ思ってもいないのだろうが。

 

 ……………ふざけるなよ。そのあまりの横暴に、八幡はいささかキレた。

 

「………悪いが三浦、ここは戸塚が教師の許可とって使ってるんだ。だから他の奴は使えない」

 

 ……………その言葉に、テニスコートは一瞬にして凍りついた。

 

「……は?何?つーかあんた誰?大体、あんたら遊んでんだけじゃんそれ」

 

「!み、三浦さん…………別に僕たちは遊んでるわけじゃ……………」

 

 三浦の暴言に、思わずなけなしの気力で言い返す戸塚。だが、機嫌を悪くしたらしい三浦がじろりと睨むと、耐えきれずに俯いてしまう。

 

 幾分険悪になった雰囲気に、爽やかな……しかしどこか胡散臭い声が割って入った。

 

「まぁまぁ、優美子も落ち着いて。なら君たちと俺ら、みんなで使えばいいじゃん、な?」

 

 三浦を宥めるようにニカッと笑い、彼、葉山隼人はその笑顔を八幡の方へも向ける。………が、八幡にそれはむしろ逆効果である。それに

 

「…………みんな?みんなって誰だよ。はっ!お生憎だが俺は今までその“みんな”とやらに入ったことがないんでね」

 

「お、おいおい、気に障ったのなら謝るよ。だけど————」

 

「なぁ葉山、お前色々持ってるじゃねぇか。その上俺たちからこのテニスコートを………しかも詐欺まがいの文言並べて奪い取ろうってのか?」

 

 あまりに刺々しい八幡の拒絶に、さしもの葉山もタジタジとなる。が、そこへ我儘女王様が口を挟んだ。

 

「あんたなーにワケ分かんないことぶつぶつ言ってんの?………あ、そーじゃんあーしいい事思いついた!練習って事でー、あーしらとあんたらで混合ダブルスやりゃいーんじゃん!」

 

 やっば!あーし超天才じゃん!と三浦は嬉しそうにはしゃぐ。はぁ?と八幡はその突飛な提案にたじろぐも、しかしこれは妙手だなとその無駄に回る脳ミソをフル回転させた。

 

(…………ここで正々堂々こいつらを叩き潰せば、文句を言わせずお引き取り願えるな。どうせリア充どもの御遊戯程度なんだろうし、むしろ好都合か……………?)

 

 結果、八幡はそれを呑む。

 

「………ああ、いいぜ。ただし、俺たちが勝ったらお引き取り願おう」

 

「はぁ?あんた誰に向かってそんなこと言ってると思っての?ぶっ潰すから覚悟しろし」

 

 ——————かくして、リア充VS腐り目ぼっちの一大決戦が幕を開けた。

 

 

 

 

 

 

 

 ………………が

 

 

 

 

 

「あう!」

 

 ズササッッ!!サーブを受けきれずに、由比ヶ浜が倒れる。そしてその頭上から無情にも響く『ゲーム』の声。

 

「おいおいおい………………えげつないくらい強いじゃねーか」

 

 ドン引きしたように呟く八幡。すると、言わんこっちゃないとばかりに、立ち上がった結衣がジト目で睨んできた。

 

「そりゃそうだよ…………優美子中学の時女テニの県選抜になってたんだよ!」

 

「ええ…………嘘だろ、縦ロールでテニス上手いとかエー○をねらえ!かよ…………」

 

「ゆーいー、あんま無理しない方がいいよー。あーし今日は本気出すから」

 

 1セット目にして既に戦意喪失しつつある二人に、不気味な威圧感を伴いながら三浦が言い放ってきた。さーて、計算が大幅に狂ったな…………土下座の準備でもするかと八幡が早くも別方向に本気を出そうとし始めていると、結衣が俯きがちにぽつりと言った。

 

「………ごめんねヒッキー、足引っ張っちゃって」

 

「………いや、そもそもお前が入ってくれなきゃ不戦敗で詰んでたからな。それに別にお前は足引っ張ってない、あのリア充コンビが強すぎんだ」

 

「………そっか、でも…………………」

 

 八幡の慰め(?)を聞くも、それでも何か悩んでいる結衣。すると

 

「………………交代だ、由比ヶ浜」

 

 これまで、テニスコート縁のフェンスに寄りかかり、特に何も言わずに静観していたターニャが、いきなりそんなことを言った。唐突なその言葉に、怪訝そうに八幡は腐り目を白黒させるが、ターニャは彼の方なぞ見向きもせず真っ直ぐに結衣を見ている。

 

「!ま、まだでき——「体力、技術共に限界に近い中で、しかも足を挫きながら全力を出せると?本気でそう思っているのか?」う………それは………」

 

 容赦の無い事実の指摘。その言葉に、結衣はさらに俯いてしまうが、しかしその後に続くターニャの声にハッとしたように彼女の方を見た。

 

「貴様は、()()()()()()()()

 

「……………うん、そっか、そうだね。分かったよターニャちゃん!」

 

 ターニャの言葉で()()()を思いついたのか、結衣は八幡らに「ちょっと待ってて」と言い残しテニスコートを去った。

 

「………ペアがいなくなっちまったんですけど。…………ってそういやさっきあんた交代とかって言ってたような……………」

 

 胡乱げに、腐り目をターニャに向ける八幡。するとターニャは、じろりと八幡を睨みながら答えた。

 

「そうだ交代だ。——————私が出る」

 

 マジかよ………てっきりさっきから何も言わないんでこの茶番試合には興味無いのかと思ってたぜ…………と八幡は心中で驚愕する。しかし………………

 

「…………な、なんでナンデスカ?」

 

「はっ!確かにこの試合は貴様の醜い嫉妬心によって発生した下らん茶番だ。………だがな、私は許せんのだよ————————

 

 

 

 

 

—————————ルールはあくまで潜るものであって、破るものではない。彼らにそれを、教育してやらねばならん」

 

 

 

 心配するな、ラケットの扱いなぞスコップに比べればはるかに容易だ————と意味不明な自信と共に、幼女はテニスコートに立った。

 

「えー?何?デグレ………デグチャレフさんだっけー?なんかJ組の超秀才とか言われてるらしいけどさー、テニスであーしとやろうっての?本気ー?」

 

 ネットの向こうから、三浦がそんなことを言って煽ってくる。だが、ターニャは気にも留めずにラケットを構える。

 

「くだらん戯言を言う暇があったら、さっさと次のゲームの準備をしたらどうかね?こちらはもう終わっているぞ。………あと私はデグレチャフだ」

 

「はぁ!?さっきまでゴタついてたのそっちっしょ!………ま、いいやとにかくあんたもぶちのめしてあげるし!」

 

 

 

 

 …………テニスコート決戦は、“秀才”幼女の参戦により一体どうなるのか———————?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 “ラインの悪魔”参戦により、テニスコート戦線は一挙形成逆転!腐り目ぼっち軍は敵司令部を壊滅させることに成功。リア充軍は大敗を喫し、あっぱれテニスコートに平和がもたらされ……………

 

 

 

 …………………なかった。

 

 

 

「へーぇ、デグチャレフさん結構上手いじゃん。でも…………その程度じゃあーしたちには勝てない、ね!」

 

「……デグレチャフ、だ!」

 

 余裕そうな顔を崩さない三浦が、強烈なサーブを決める。しかし、八幡、ターニャともに返せずそのまま点をとられてしまう。

 

「マジで作品間違えてるだろこの強さ…………」

 

 ターニャ投入後、なんとか1ゲームを取り返すことに成功したものの、その後はまったく芳しくなかった。現在は八幡、ターニャ二人でなんとか防戦している状況であるが、その虚しい抵抗すらも……………

 

「げ、ゲーム!」

 

 ———————リア充チーム、2ゲーム目奪取。3ゲーム先取で勝利というルールにしたため、次のゲームが取られれば…………………敗北だ。

 

「チッ……………これだから天才は気にくわん。だが……………………」

 

「どしたんー?ま、あーしも鬼じゃないから、今謝るんなら許してあげてもいーけどー?」

 

 傲慢そのものの表情で、三浦がサディスティックに嗤う。え、マジかよ謝ったら許してくれんの土下座しよ………とあっさり諦めて渾身の土下座靴舐めを披露しようとした八幡。だが、それを視線で制し、ターニャは()()()三浦と同じような不敵な笑みを浮かべた。

 

「確かに………貴様らは強い。私では、残念ながら勝てんだろうな。……………しかし、そもそも—————————

 

 

 

 

 

 

 

——————私は、()()()()()()()だ。

 

 

 

 

 

 

 

 瞬間、テニスコート入り口付近がざわめく。騒ぎを聞きつけた野次馬が詰めかけるそこに、なにやら人影が…………………

 

 

 

 

 

 

「この馬鹿騒ぎは一体何?」

 

 

 

 

 真打、登場。“天才”雪ノ下雪乃が、テニスコートに現れた。先ほどまで制服だったはずの彼女は、今は何故かテニスウェアを着ている。

 

「………いや、その格好何?」

 

「由比ヶ浜さんがどうしても着てくれとお願いするものだから」

 

「このまま負けるのもなんか嫌だったし、それに………ターニャちゃんにお願いされちゃったし!」

 

 八幡が思わず尋ねるも、冷たくそう返される。それに続けて、雪乃と一緒に戻ってきた結衣がニコニコとそんな事を言った。

 

「だから“ちゃん”を付けるな」

 

「はぁ……………なんで私が」

 

 渋々着たものの、何故訳の分からない茶番に出なければならないのか?雪乃は心底嫌そうに呟くが、それに対し結衣が「友達だから!」という対雪ノ下最強切り札を発動したためあっさり陥落。あからさまに動揺した雪乃はゴホン、と咳払いしつつ、誤魔化すように持ってきた救急箱を審判の戸塚に渡すが、その横から結衣に優しいんだネといじり倒される。

 

 ………やれやれ、どうやら土下座はしなくていいようだなと肩を竦めた八幡は、そこでふと脇にいたターニャがどことなく複雑そうに雪乃を見ているのを見つけた。

 

「…………あんたの作戦?」

 

「私は由比ヶ浜に『己のなすべきことをなせ』と言っただけだ。……………全く、凡人では到底叶わぬ天才とて、同じ天才であれば対抗しうるとは………」

 

 そう、実に嫌そうに吐き捨てると、ターニャは雪乃の近くへ行く。

 

「雪ノ下、あとはよろしく頼む」

 

「………ええ、分かったわ」

 

「あんさぁ、雪ノ下さん、だっけー?何人代ろうとべっつにどーでもいいけどさー、あーし手加減とかしないから」

 

 と、そこへ割って入る三浦。ターニャに事実上勝利して実に驕り高ぶっている彼女は、雪乃の事も小馬鹿にしたように口を挟んだ。

 

「あら、そう。けれど私は手加減してあげるから。………随分と私のともだ………それとうちの部員をいたぶってくれたようだけれど、覚悟はできているのかしら?私、こう見えて結構根に持つタイプよ」

 

 知ってた、と八幡は顔を引きつらせながら心中で呟く。だが…………

 

 

 

 勝ったな、これは。勝ちフラグごっつぁん!

 

 

 

 そして始まる第3ゲーム。流石の三浦も、雪乃はかなりやばい気がすると悟ったのか、最初から本気モード。中学時代に県選抜だった実力を大いに発揮し、総攻撃を仕掛けてくる。

 

 …………だが

 

「甘いわ」

 

「んなッ?!」

 

 無表情の雪乃が、その攻撃全てを無慈悲に叩き潰す。段々と、三浦の表情を焦りが支配しつつあった。

 

「………お前すげーな本当」

 

「だって彼女、人間性の下衆さが打ち方にもろに出てるのだもの。あの程度の人間の考えることなどお見通しよ」

 

 圧倒的!その一言だった。結果として、雪乃は一回たりとも相手に得点を与える事なく3ゲーム目を掴んだ。これで、勝負は2対2となり、次のゲームを取った方が勝者だ。

 

 そして始まった最終ゲーム。先のゲーム同様雪乃の蹂躙が続く…………が……………

 

「デュース!」

 

 突然、ガクッと雪乃の動きが鈍くなる。————体力切れだった。彼女曰く、『体力にだけは自信がない』。むしろ1ゲームもった分今日は幸運か方だという。

 

 それに気づいた三浦は、ここにきて勝利を確信したのかニヤリと笑う。だが、それに対し更に酷薄な笑みを浮かべて雪乃がある事を宣言した。

 

「————生憎だけれど、この試合は私たちの勝ちよ。その男が、ケリをつけて、ね」

 

「へ?」

 

「私、暴言も失言も吐くけれど…………虚言だけは吐いた事がないの」

 

 …………………けっ、部長サマの御命令とあらば仕方ない。ボールを握りしめ、八幡はラケットを構えた。

 

「…………………あの男、何をする気————ん?この風は…………………」

 

 コート脇で静観していたターニャが、突如静かに吹き出した風に気づく。が、彼女以外では、極めて微弱だったそれに気づくものは皆無だった。

 

 いつもの腐り目のままサーブを打つ。かなりヘロヘロなその打球に、貰ったとばかりに笑みを浮かべるリア充チーム。だが

 

「!?なんだ、これ!?」

 

 どこぞの魔球のように、突然軌道を変えるボール。………それは、少々特殊な潮風、それを校内で唯一知る八幡のみが撃てる—————小さな魔球。

 

「ま!まさかアレは!!そういえば聞いた事がある!!風を意のままに操る伝説の技!その名も“風を継ぐ者 風精悪戯(オイレンシルフィード)”!!!!」

 

 材木座がその光景を見て、思わずそんな事を言い出す。咄嗟にそんな厨二的技名が出てくる辺り、奴ももう立派な厨二病……もといラノベ作家もどきなのだろう。

 

 葉山から、称賛の言葉ともにボールを手渡された八幡は、それに対し何処か的外れな事を言いつつサーブポジションに向かった。

 

 ……………はっ!一人で全てできる。俺はずっとそうしてきた。どうよこの最強っぷり!一人で自画自賛しつつ、彼は打った。———————彼を象徴する言葉を叫びながら。

 

 

 

 

「青春の、大馬鹿野郎!!!!!!」

 

 

 

 

 スパァァァァァァァァァァァァァァァン!!!!

 

 

 

 

「あッ!あれはぁぁぁぁ!!!伝説の“空駆けし破壊神 隕鉄滅殺(メテオストライク)”!!!!」

 

 

 

 ……………そんな大層なものではない。ただのかっ飛ばしたキャッチャーフライだ。一人打ち御用達の、八幡の得意技。

 

 当然ながら、三浦は後ろに下がった。だが彼女の見ていない先には固いフェンスが————————

 

 

「危ない!優美子!!!!」

 

 

  ハッとした葉山が叫ぶ。ラケットが地面に落ち、そして

 

 

 

 

 

 

ガッシャァァァァン!!!!

 

 

 

 

 

 鈍い衝突音が、テニスコートに響き渡った——————————

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………全く、とんだ茶番劇だったな」

 

「ええまったくだわ。試合に勝って勝負に負ける、とはまさにこの事ね負けヶ谷くん」

 

「ヒッキー勝ったのにマジ空気って…………ガチで可哀そう………………」

 

 結局、最終的に全部持って行ったのは葉山だった。ぶつかりそうな三浦を寸前で庇うというリアル勇者ムーブをかまし、それにより野次馬一同が葉山コールをかけ彼を囲み、リア充的な盛り上がり状態。やがてそのままやんややんやと校舎の方へ向かい、その場には奉仕部関係者のみが残った。

 

 ターニャ、雪乃、結衣それぞれから呆れと哀れみのこもった言葉を投げかけられ、八幡の目が更に腐っていく。しかもそう言って女子三人衆はイチャイチャ(結衣からの一方通行)しながら去って行ってしまった。

 

「…………なんだこれ」

 

「比企ヶ谷くん!」

 

 と、ベンチに座りある種の放心状態だった彼に、目を輝かせた戸塚が駆け寄ってきた。そのまま彼はにっこりとして八幡に礼を言う。

 

 ……………ふーむ、この笑顔だけでまぁ、今回の件の元は十分とれたか、な?

 

 その笑顔に、少々邪気が抜けたのか釣られてニヤリと笑う八幡。やれやれ、これで依頼もひと段落だナ…………と、奉仕部への道すがらそんな事をぼんやり考える。が、奉仕部の教室の扉を開けると

 

「………なぁ、戸塚が…………んげっ!?」

 

「?!ちょ、ヒッキー!?ああもうホント死ねぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

 …………見事に女子三人着替え中だった。不注意ここに極まれり、だが後悔はすでに遅い……………あたふたしている間に、かっ飛んできたラケットが顔面にぶち当たり、その場にノックアウトされる。

 

 結衣の悲鳴が響く中、心底哀れみのこもった視線でターニャが八幡を一瞥し(既に彼女は着替え終わっていた)、扉をぴしゃりと閉めた。

 

「ひ、比企ヶ谷くん…………大丈夫?」

 

 戸塚に介抱されつつ、ぼんやりとする意識の中八幡は自嘲した。…………女子にはラケットをぶち当てられ、心配してくれるのは男の娘。

 

 

 

「けっ……………やはり、俺の青春ラブコメは…………まちがっている、な……………………」

 

 

 

 そう呟く彼の言葉は、虚しく青空へと消えて行った—————————

 

 

 

 

 




なんか今回ほぼ八幡が主人公やってますね………まぁ原作主人公なんだから別にいいか!

ターニャが蹂躙するのも考えんだんですが、基本的に彼女は“秀才”であって、“天才”相手には一歩劣る、しかし戦略面でなんとかする(雪乃みたいな天才をぶつけるとか)というのが彼女らしいかなと考えたのでこうなりました。まぁ結果は原作通りなんですがね。

《追記》
感想ありがとうございます!御指摘を受けタグに『幼女戦記』を追加いたしました。今後ともよろしくお願い致します!

さて、一応これで原作第1巻部分はほぼ終わりましたかな。次からはチェーンメール問題やら川なんとかさん問題やらですね。それに大正義ターニャがどう絡んでいくのか?!

乞うご期待!…………未定ですが(土下座)
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