投稿形式どうしようかと悩んでたら一週間たってた。
本当は小説の一章分(大体3万字?)で投稿する予定でしたが、Web上じゃあ本ほど自由に栞を挟めないので、ある程度区切り(5千字目安)がついたら投稿することにしました。
「はじっめ、ちょろちょろ……♪ な〜か、ぱっぱ……♪ あかっご泣いても、蓋とるな〜……♪」
微かに聞こえてくる少女の歌声に刺激され、サトウカズマはゆっくり意識を取り戻した。夢を見ていたようなふわふわとした感覚に囚われつつも、背中でしっかりと緑の大地の温もりを感じる。
目を開けば、視界いっぱいに青空が広がった。まるで曇る気配がなく、まさに素敵な晴れであるといえよう。
目が覚めた、というか。
どうやら、無事夢の世界から現実へと降り立つことができたようだ。
記憶が一部はっきりとしないが、機械仕掛けの翼を持つ少女、アメスとのやり取りは覚えている。
二度目の魔王退治。
魔王を死ぬ気で倒したのに、どうして報酬もないままに休みなく二周目へ突入させられるのか、納得がいかなかった。
もしもこれが派遣会社であれば、労働基準法を無視したブラック企業もいいところである。
このままふて寝の二度寝を決め込んでしまおうか、そう思っていた時だった。
「……おや。お目覚めになられたのですね、主さま」
ひょこ、と。
横たわっていたカズマの視界に、可愛らしい少女の顔が映り込んできた。
12歳くらいだろうか。ふわりと揺れるショートウェーブの銀髪に桃色にも似た赤の瞳。おっとりとした優しげに整った顔立ちはまさに美少女である。髪飾りの花がよく似合っていた。
少女はカズマの顔を覗き込みながら、
「わたくしは偉大なるアメスさまによって派遣された『ガイド役』…名前は、コッコロと申します。どうぞ、以後お見知りおきを」
「え、あ、どうも…佐藤和真と申します」
幼い身ながらも、その態度はとてつもなく丁寧だ。明らかに少女の方が年下であるにも関わらず、体を起こしたカズマは思わず敬語で返してしまう。別段、相手が年下だからといって不躾にしていいわけでもないのだが。
「サトウカズマさま、ですね。良かった、アメスさまの託宣通り、わたくしがお仕えする主さまで間違いないようです」
「主さまって…別にそこまで畏まらなくていいんだぞ? 俺、偉い立場の人間でもないしな」
「いえ、そういうわけにもいきません。主さまをお守りし、おはようからおやすみまで…揺籃から棺桶まで、誠心誠意お世話をするのがわたくしの役目でございますので」
などとコッコロは言うが、カズマとしては複雑な気分だった。確かに彼女のような礼儀正しく可愛らしい女の子が自分に仕える従者なのは喜ばしいかぎりだ。それも思わず庭を走りまわりたくなるくらいに。
しかし。
彼女は明らかに『幼女』である。
抱きしめてしまえば簡単に包み込めてしまうほどの小さな体躯の少女を、いい歳した男が『主さま』などと呼ばせて歩き連れていたら周りの目にはどう映るだろう。
まず間違いなく通報案件である。
「? どうかしましたか、主さま。突然、頭を抱えられて…もしや、頭痛に苦しんでおられるのですか? それでしたら今すぐにでも横になってくださいまし。よろしければ、わたくしの膝の上に…」
「いや大丈夫だ、問題ない。ちょっと考え事をしてただけで…だからそんな膝をポンポンとして誘わなくていいんだからな?」
自分の代わりに『ガイド役』を派遣する、とアメスは言っていた。言ってはいたが、まさか幼い少女を自分の従者として派遣してくるとは予想外だ。おまけにアメスから何を言われたのか、初対面にも関わらずコッコロのカズマに対する好感度が割かし高めに思える。
「あの、…コッコロ?」
「はい、主さま。なんなりとご用命を」
「いや命令ってわけじゃないんだけどさ…できればその、『主さま』っていうのは無しにしないか?」
「…もしや、ご不快だったでしょうか。それは大変申し訳ございません。配慮に欠けたわたくしに何なりと罰をお与えくださいまし。どうぞ、鞭で打たれようが何をされようが、わたくしは一向に構いません」
「いや俺が構うよ、何言ってんの!?」
好感度が高めどころの話じゃなかった。従者としての奉仕精神があまりにも異常だ。『ガイド役』を任せてられているとはいえ、年上の男に対して『何をされてもいい』なんて無防備にも程がある。
カズマには顔は良くても性格に難ありの仲間たちがいたが、コッコロもまた別ベクトルで『ヤバい』のかもしれない。
「ところで、お腹を空かせてはおりませんか? 主さまがお目覚めになられたら召し上がっていただこうかと、わたくし、ごはんを炊いておりました」
そう言って背を向けたコッコロの近くには焚き火が作られていた。近くの川から組んできたのか、水が入ったバケツを傍に、何かを用意し始める。
「アメスさまからの託宣によれば、主さまは『異世界の勇者』さまであると聞き及びました」
「アメス様から?」
「はい、ですので、『この世界』については右も左も分からない状態で不安を抱いておられるかと思いますが…」
振り返ったコッコロはカズマとしっかり向き合って、
「わたくしが主さまをお守りし、お導きいたしますので、どうかご安心を」
そう言って優しく微笑んだコッコロの手にはおにぎりが握られていた。
できたてほやほや、見渡す限りの草原に吹き付ける風が、炊きたてごはんの美味しそうな匂いをカズマの嗅覚に運んでくる。
ぐぅ、と腹の虫が鳴いた。
そういえば、最後に取った食事は魔王城への道中、移動中の馬車の中だったかと思い出す。軽めの食事でもあったためか、魔王城突入から『この世界』に至るまで何も口に入れてなかったことを考えると自分が如何に空腹だったかを自覚する。
「こちらをどうぞ、主さま。主さまのために、丹精を込めて作らせていただきました。お口に合うとよいのですが…」
「あ、ありがとう…。もうこの際、『主さま』と呼ぶのは止めないけど、せめて二人っきりの時だけにしてくれると助かるよ」
「かしこまりました、主さま。では、その時は『カズマさま』と呼ばせていただきます」
何だか余計にイケない感じになった気もしなくもないが、ひとまずは一件落着とピリオドを打つ。
貰ったおにぎりはとても美味しかった。
☆
「ところで、俺はこれからどうしたらいいんだ?アメス様から、詳しい話はコッコロから聞けなんて言われたんだけど」
「おまかせくださいませ。この不肖コッコロ、主さまのために何でもお答えいたしましょう」
「お、おう…。とりあえず、この世界について幾つか教えてほしい」
おにぎりを食べ終えた二人は気ままに草原の中を仲良く並んで歩いていた。どこまでも続く緑の景色と煌めくの川のせせらぎが、徒歩の旅を彩ってくれている。
元々都会から切り離された田舎で暮らしており、かつ剣と魔法の異世界での旅を果たしたカズマとしてはその景色は目新しいというわけでもない。けれども、自分の知らない世界の風景というのは普段とは違う新鮮味を味あわせてくれるのだ。
「ここ、アストライア大陸は世界最大の大陸。北は雪原に火山、西は砂漠、東は大森林と様々な自然環境が混在する大陸にございます」
コッコロがバスガイドのように右手側を指す。
「そして、あちらに見えますはアストライア大陸内において最大の国家である首都『ランドソル』でございます。わたくしたちがこれから滞在することとなる城塞都市ですね」
「滞在…あれが俺達の活動拠点となる街か。首都なだけあって『アクセル』よりも大きいな。…街の上空に浮いてるのは?」
「あちらは世界最大の建造物、『ソルの塔』でございます」
「へえー……。空に浮かぶ塔なんて初めて見たなぁ」
「
「古代人が残した遺跡…みたいなものか」
カズマが『ソルの塔』を見上げると、その遥か上空…塔の頂上は雲で覆い隠されてしまっていた。
空に浮かぶ、首都よりも巨大な塔。
元の世界でもそうだったが、こうした用途不明の謎施設及び遺跡の存在は非常に惹かれるものがある。
浪漫、というか。
「…いつかは登らないといけないんだろうなぁ」
「おや、主さまは随分と冒険家でいらっしゃるのですね」
「一応、職業は『冒険者』だしな。それにゲームじゃ、あの手の施設は主人公のパワーアップイベントだとか、女神に実力を認めさせるための試練だったりするんだよ。気乗りはしないけど」
ただし、無性に頂上を目指さなくては行けないという謎の使命感に駆られるのはただの気まぐれか気のせいか。
ザワザワとした不思議な感覚に苦虫を噛み潰したような表情を浮かべるカズマを余所に、コッコロは言う。
「塔の攻略でございますか…。それにはまず、装備を整えなくてはいけませんね。今の主さまは武器も防具も装備していない、丸腰の状態ですから」
今更だが、必要最低限の生活用品を纏めた軽い荷物とどう見ても槍にしか見えない杖を持っているコッコロとは裏腹に、カズマは荷物らしい荷物を何一つ持っていなかった。
『この世界』…アストライア大陸へと降り立つ前は自分で放った魔法で肉体を吹き飛ばしているのだから当然と言えば当然である。
愛刀であった『ちゅんちゅん丸』やスキル発動のための道具やその他諸々、加えて常日頃から持ち歩いていた『冒険者カード』までもが消失していた。
「自衛のためにせめて剣のひとつでも。基本的にはわたくしが全身全霊で主さまをお守りいたしますが、万が一、ということもありますので」
「ああ、うん。気持ちは嬉しいけど、無理はしなくていいんだからな?」
幼女に守られるなんて魔王を倒した身としてはあまりにも情けない。
「というか、やっぱり『この世界』にもモンスターとか魔物が蔓延っているものなのか?」
「はい、それはもう、わんさかと。とても高い凶暴性を持ち、人々に害をなす存在であるため、討伐行為なんかは積極的におこなわれておりますね。特に危険な魔物の類はギルドでも高難度クエストとして討伐依頼が張り出されるほどの
「ギルドにクエスト、か。…それじゃ、最初の目的は『ランドソル』の冒険者ギルドに行って登録するところからだな」
といっても、カズマが話しているのは彼が認識しているギルドのシステムを踏まえての事だ。実際のところ、『ランドソル』におけるギルドがどのようなシステムで成り立っているのかはカズマは知らない。
しかし、『ギルド』という名称が用いられている以上、その活動内容や目的は概ね推測できる。
「登録、でございますか?」
「そう。ギルドってのは基本的に冒険者稼業を斡旋したり、支援してくれる組織なんだよ。特に新参者には活動資金を準備していくれたり、いい仕事を紹介してくれたり、タメになるアドバイスをくれたりな」
つまり、これから『ランドソル』で生活する上で、ギルドへの登録はスタートダッシュになるわけだ。二度目の魔王退治にあたり、できれば慎重に行きたいというのがカズマの本音である以上、活動拠点の有無は特に重要視される。
衛生面が不安定な馬小屋で夜を過ごすのか、ふかふかのベッドの上でゆっくりと休むか、これだけでも大きな差が生まれるのだ。
主に精神的に。
「というか、ギルドについては俺よりもコッコロの方が詳しいと思うんだけど…」
「えぇっと…」
コッコロは歯切れの悪い返事をしながら、
「その、実はわたくし、随分と田舎の方で暮らしておりまして…『ランドソル』を訪れるのは初めてになるのです」
「……え?」
「なので、街の地理やルールはあまり存じ上げず…お力になれず、大変申し訳ありません。不甲斐ないわたくしに、どうか罰をお与えくだ
「いやいや大丈夫! 大丈夫だからそんな悲しそうな顔して頭を下げなくていいから! ………そうか、コッコロも初めてなのか」
カズマは食い気味に、身振り手振りでコッコロを励ました。
都会デビュー、といったところだろうか。
なるほど、先程からコッコロの発言の中にあった妙な違和感はこれだったのだ。知ってはいるが、あくまでも人から伝え聞いた知識を答えているかのような感覚。さほど気にもしていなかったが、いざそのような事実を聞いてしまうと、カズマとしては非常に困るわけで。
別段、コッコロを使えない子認定したわけではないのだが、得られる情報が限られてしまうというのは些か心許ない。自力が脆弱なカズマにとって情報は何よりの武器なのだ。それを得られないということはアドバンテージが圧倒的に失われていると言っても過言ではない。
しかし、だ。
カズマは魔王を倒した勇者。言ってしまえば超ベテランの凄腕冒険者である。
そして、コッコロは『ガイド役』を任命されたとはいえ、故郷を旅立ったばかりの新米冒険者。先輩後輩の関係でいえば、カズマの方が圧倒的に先輩なのである。
ここでひとつ、カズマにこんな考えが浮かぶ。
先輩冒険者として新米冒険者の彼女を誠心誠意、全力で引っ張っていかなくては、と。
「そう申し訳なさそうにするなコッコロ。こういう時、冒険者なら下を見ないで前を見るんだぜ? 次はどうするか、ってな」
それにな、と
「俺は数多のスキルを習得し、名だたる魔王幹部達と渡り合い、果てには魔王を倒した勇者カズマさんだ。分からないことだらけだとしても、そう簡単にへこたれるほどヤワじゃないさ」
完全にキメ顔だった。
とはいえ、コッコロを安心させる為でもあったので仕方ないと言える。決して出会って早々に慕ってくれる少女に良い格好をしようとか、そんな邪念はなく。
カズマなりの励ましが効いたのか、コッコロはゆっくりと顔をあげた。
「あ、主さま………」
「どうした?あまりの感動に言葉を失ったか?」
「いえ、そうではなく…う、うしろ…」
ゴトッ、と重い音が聞こえた。
そしてガラガラと音を立てながら、カズマの背後で何かが蠢いている。背中で感じる、硬い何かが眠りを妨げられた犬のように蠢いているのが。
ギギギ、と壊れた歯車のようにカズマは振り返った。
それは、巨大な岩だった。
岩と岩の隙間からは草や花が生い茂っており、よく見れば黒い皮膚のようなものが見える。
おまけに、その岩には手足のようなものまでくっついていた。腕は太く硬く、にもかかわらず、巨大な図体を支える足は小さく心許ない。
つまるところ。
「ぎぃやああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッッッ!?」
「気をつけてください、ゴーレムです!」
驚きのあまり、超ベテランの凄腕冒険者の威厳が消し飛んだカズマとは裏腹に、コッコロは冷静に杖を構える。
戦闘態勢へと移行した少女を見て、ゴーレムもまたそれに答えるように巨大な岩の腕をガチンと豪快に鳴らした。
「主さま、今のわたくしたちにはちょうどよい相手です。ゴーレムは見ての通り頑強な岩で覆われており、その硬さから繰り出される攻撃は強烈の一言でございます。ですが、その動きは非常に鈍足。距離をとって戦えば、後れを取ることはまずないでしょう」
「な、なるほど…それなら!」
コッコロの説明を聞きながら、何とか体勢を立て直したカズマ。それから掌をゴーレムへと向けて、
「見てろよコッコロ! これが、俺の実力だああああああああっ!!」
「主さま!」
「『ライトニング』ッ!」
瞬間、カズマの掌からは青白い光が閃光のように瞬き、ゴーレムへと届いた。
光は勢いよく霧散し、カズマの放った魔法を真正面から受け止めたゴーレムは仰け反る。
…
「あ」
直後に。
岩の剛腕から繰り出された強烈な一撃によって、カズマの体は回転しながら宙を舞う。
「あ、主さまああああああああっ!!」
ボク、空を飛べた!