この素晴らしき繋がりに祝福を!   作:☆saviour☆

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その3

 

 

 

この国におけるギルドのシステムは、前の世界のそれとは異なるらしい。

 

やはり、と言うべきか。

 

寧ろ、全く同じであった場合の方が異常だろう。企画や制作、専用ハードすら異なるゲームなのに、ストーリーやシステム面が何もかも同じであれば異常を通り越して疑惑にすらなる。とはいえ、ギルドという単語の意味合いが労働組合を指し示すのはどこの世界でも変わらないようだった。

 

基本的に国民にはギルドへの所属を義務付けられているという。ギルドの在り方は多種多様で、荒くれ者の冒険者達を取りまとめ、支援する…のではなく、商業、軍事、文化事業といった産業を目的としたギルドもあれば、警察や郵便、消防等の公的事業を担うギルドも存在する。これらを総称して『プリンセスナイト』と呼ばれているギルドであるらしく、大概のギルドはこの『プリンセスナイト』傘下の下部組織になるのだそうだ。

いわば、カズマが生まれた世界…『日本』における会社そのもの。

所属すればそのまま就職にもなるし、受けられる公共サービスも増えるので、ギルド未所属のまま暮らしている者はまずいないだろう。

 

当然、これから『ランドソル』に居を構える予定のカズマとコッコロにもギルドへの所属の義務が発生する。強制ではないらしいが、暮らしの地盤が全く整っていない二人がギルドの所属を拒絶する理由はない。おまけに住民登録にもなるという話も聞いたため、カズマは『ギルド管理協会』の職員のお姉さんの勧めに従って、適当なギルドへ所属してしまおうと考えた。

 

しかし、ここで問題が一つ。

 

 

『所属にはギルドマスターからの承認が必要……ということは今すぐ援助を受けることができないってことですか?』

『残念ながら、そうなります。申請書を出していただければ、こちらの方で手続きを済ませてしまえるんですけどね。ただ、ギルドマスターご本人の承認が必要となるとどうしても数日はかかってしまうんですよ』

 

 

当たり前ではあるが、いくら国中のギルドを取りまとめる『ギルド管理協会』と言えども、相談や報告、確認もなしにホイホイと組織へ人員を増やすなんてことはできない。

ギルド加入の申請書を提出し、それを確認したギルドマスターから承諾を得た上で様々な手続きを終えるとようやくギルドの一員として認められるわけだ。何だか本当に会社の面接のよう。

 

となると、カズマが予め手段として考えていた「ギルドからの支援で冒険資金や仮住まいを得る」というのは不可能となるわけで。

まるでスタートダッシュが上手くいかないことにデジャヴを感じながら、カズマは別の手段はないかと職員のお姉さんに尋ねてみた。

 

 

『そうですね……お二人の方でギルドの結成をしていただければ、今日中には所属が認められるんですけど』

『おお! じゃあ、それでお願いします!』

『ただ、結成にあたって制約がありまして。……最低でも、四人以上のメンバーがいらっしゃらないとギルドとして認められないと言いますか…、とりあえず、申請書だけでもお渡し致しましょうか?』

『ああ…、じゃあ、それでお願いします……』

 

 

降って湧いた希望からの絶望である。当然ながら現状カズマとコッコロの二人しか所属予定がない以上、ギルド結成なんて到底できるはずもない。

結局、新ギルド結成用と既存ギルドへの所属希望用の申請書をそれぞれ受け取り、泣く泣く馬小屋に泊まり込んだのが昨夜の出来事だった。

 

そして、本日。

 

天気は快晴、心地の良い陽射しを浴びながら、カズマとコッコロの二人は昨日と同じように『ギルド管理協会』の前へと足を運んでいた。身の丈の二倍以上の高さがあるにも関わらず、意外と軽い扉を押しながら施設の中へと入っていく。

すると、早速出迎えてくれたのは職員のお姉さんだった。

 

 

「おや。おはようございます、カズマさん、コッコロさん。昨日ぶりですね、こんな朝早くからどうされました?」

 

 

扉を開けてちょうど真ん前。施設を入って数十歩ほど歩くとたどり着く受付カウンターに彼女はいた。

黒のカチューシャをアクセサリーに、緑のロングウェーブヘアがふわりと舞う。キラリと光を反射させるメガネレンズの奥には黄金に煌めく瞳が覗いて見えた。穏やかな風貌と包容力のある雰囲気を醸し出し、それでいて妙に信頼感を覚えてしまうのは、彼女が『職員』らしからぬ服装で身を包んでいるからか。

何せ、メイド服だ。

黒のワンピースにエプロン。単純な構成ながら、家庭内労働を行う使用人の服としてどこに出しても通用する逸品である。信頼感を覚えてしまうのは、『メイド』という概念を自分の身の回りをそつなく管理してくれる、あるいは世話をしてくれる存在であると認識しているからなのだろうか。

ともかく、彼女はカズマとコッコロの二人を確認すると、書類の束をトントン、と整理する。当然といえば当然だが、仕事中だったのだろう。

 

 

「すみません、お仕事中にお邪魔してしまって…」

 

 

コッコロがそう言って詫びる仕草を取ると、彼女は、いえ、とだけ返して、

 

 

「それで、今日はどのようなご用件でしょう。と言っても、概ね察しはつきますが……」

「えぇっと、今日は仕事を探しに参りました。こちらにその募集の掲示板があると街の方から聞いたのですが」

「『クエスト』ですね? 早速ご案内致しますが……ギルドへの所属の件はよろしいので?」

 

 

ふいにカリンが確認の動作なのかカズマの方をチラッと視線を向けた。それに気付いたカズマが軽く会釈だけすると、コッコロが彼の代わりに説明する。

 

 

「その件ですが……カズマさまと話し合った結果、ギルド所属はしばらく見送ろうかと思いまして。何分、今のわたくしたちには()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。活動目的、内容、募集要項…これらの項目を一つ一つ確認していくには、ギルドの数があまりにも多すぎる。……正直、その日暮らしに切羽詰まっているわたくしたちには時間がありません」

 

 

ちゃり、と取り出したコッコロの財布には既に二日三日分程度の食事代くらいしか入っていなかった。

『ランドソル』の物価は高い。

田舎から上京してきた彼女の財布は、ズラリと並ぶ数字の列を前に軽くなっていくばかりだった。食事も材料のみを購入し、自分達で調理できれば出費も多少抑えられるのだろうが、残念ながらそもそも料理をするための道具がなければ場所もない。たった一日、夜を明かしただけでこのザマだ。

 

故に、カズマとコッコロは考えた。

 

まずは軍資金を調達せねば、と。

 

 

「そんなわけで、しばらくは仕事をして食いつなごうかと。……ギルド所属はもう少し待っていただいても?」

「なるほど。お二人の事情は把握しました。そういうことでしたら大丈夫ですよ」

 

 

ただ、とだけカリンは付け加えて、

 

 

「私の方で所属の申請だけでも進めておきましょう。なぁに心配はありません、お二人のことをきっと助けてくれるギルドを知っていますから。備えあれば憂いなし、お二人がクエストをこなしている間、ギルドマスターさんからの許可がおりれば援助だって受けられますので」

「……いいんですか?その、あとで気に入ったギルドに所属にするかもしれないんですが」

 

 

ここまで無言を貫いていたカズマがようやく口を開いた。

 

 

「問題ありませんよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。勿論、人数が揃えばギルドを結成していただいても構いませんから」

「まあ、そういうことならお願いします」

「はい、かしこまりました。それでは、お手数ですがこちらの申請書に記入をお願いしますね」

 

 

思わぬ助言に感謝しながら、カズマとコッコロはカリンの指示に従って申請書の空欄を埋めていく。

前日にコッコロと決めた予定では、仕事に励むつつ、その合間にギルドへの見識を深めるのが目的であったため、近いうちに援助が受けられるという話は非常に有難いものだった。場合によってはカリンの言うギルドに所属したまま『二度目の魔王退治』を決め込むのも一つの手か、そんなことを考えながら、カズマは書き終えた申請書をカリンへと提出する。

遅れてコッコロの申請書も受け取った彼女は笑顔で答える。

 

 

「はい、お二人の申請書をお預かりします。私の方で件のギルドのマスターさんに話をつけておきます」

「お願いします、カリンさん」

「お任せ下さい。……それじゃ、お次は『クエスト』のご案内をさせていただきますね」

 

 

カリンが二人の申請書を(恐らく)書類を纏めてあるファイルにしまうと、右手…カズマとコッコロから見て左手側を指す。

釣られて視線を向けてみれば、そこには天井を支える巨大な柱が均等間隔に二本、それから多くの木製のテーブルや横長のスツールが設置してあった。まるで飲食店…あるいは待合室のよう。何より目がいったのはそれらテーブルが並んでいる場所のさらに奥だ。

一言で言えば掲示板だった。

壁一面を覆うかのような巨大な掲示板には数多の貼り紙がペタリと貼られている。当然、その内容については遠目からは確認できないが、恐らく…いや経験則からしてまず間違いなくクエストの依頼書である。

つまり、その掲示板はクエストボード。

採集、探索、討伐。ゲームではお馴染みの、ファンタジー世界における定番の仕事がそこにはあるのだ。

巨大なクエストボードの前に辿り着くと、カリンは早速クエストの選別に入る。

 

 

「えーっと、討伐クエストに護衛クエスト、それにダンジョン探索……うーん、どれも初心者の方にはオススメし辛いですね」

 

 

というカリン言葉に耳を傾けながら、カズマはふと手近な依頼書の一枚をクエストボードから剥がした。

 

 

「『ランドソル周辺にドラゴンの目撃情報アリ。財宝などに誘われたドラゴンは人的被害を及ぼすため、討伐隊を求厶』……嘘だろ、ここドラゴン出るの?」

「……赤いドクロマークがたくさん押されていますね。危険度を表しているのでしょうか? だとすれば、とてもわたくしたちに手に負えるクエストではございませんね……」

 

 

大層なドラゴンのイラストと共に、不気味なまでに押されていた赤いドクロマークの数はざっと十五くらい。間違いなく上級冒険者向けの高難度クエストであるのがわかった。

ドラゴン。

誰もが知っているような、伝承や神話に登場するわかりやすい最強生物を相手にするには、所詮は最弱職の冒険者にすぎないカズマさんの地力では差がありすぎる。戦力不足だの手数が足りないどうこう以前に、そもそも相対する資格すらない。

 

 

「討伐クエストに関しては、他も大した違いはありませんね…」

「怪鳥の卵納品、街の正門の守備、『断崖の遺跡』の調査。討伐抜きにしても、ハードル高そうなクエストばかりだな、どうなってんの」

「カズマさまカズマさま。少々マシな討伐クエストがございました。昨日わたくしたちが接敵したゴーレムですが、どうやら『ランドソル』近辺に住み着いてしまった魔物らしく、街や人里に時々近付いては無闇矢鱈に暴れ回るようです。……リベンジマッチ、と行きますか?」

「うーん、そうだなぁ……」

 

 

ゴーレムと聞いて、カズマは頭を悩ませる。

元は『中級魔法』という分類にカテゴライズされる魔法とはいえ、唯一まともな攻撃手段だったカズマの『ライトニング』をあっさりと弾いてしまった相手だ。事前準備さえ整えれば何とかなるだろうが、攻撃が通じなかった事実を考慮するとさすがに気が引けてしまうのだろう。トラウマとは少し違うが、失敗の記憶は時に人の本来の能力を引き下げてしまうこともあるのだ。

 

 

(…どうする? 一度戦ってる分、未知の敵と戦うよりかはマシだと思うが……)

 

 

と、葛藤するカズマの思考を吹き飛ばすようにカリンが声を上げた。

 

 

「あ、これなんかは良いと思いますよ。採取クエストなんですが、ガド遺跡に群生するキノコを集めてほしいそうです。危険も少なそうですし、オススメですよ?」

「おお、まさに定番の初心者向けクエスト! ありがとうございます! ……コッコロ、今日はこのクエストでいいか?」

「カズマさまが決めたことでしたら、わたくしに異論はございません。それにキノコの採取でしたら故郷の森で培ったわたくしの知識がお役に立つことでしょう。カリンさま、そちらのクエストでよろしくお願いします」

 

 

ペコり、と。

律儀にも礼儀正しく頭を下げたコッコロへ、カリンが微笑ましいものを見るような笑顔を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

ガド遺跡。

『ランドソル』付近の森の中にひっそりと佇む過去の遺産。建造理由、用途については『ソルの塔』同様、明確に判明しているわけではないが、街が近いこともあって何度も調査隊が派遣された遺跡である。おかげで迷路のような構造の内部は事細かにマッピングされ、攻略マップが市場でお手軽価格で売られていたりするのだ。

ともあれ、カズマとコッコロの目的はきのこの採取。間違ってもダンジョン攻略ではないので、護身用の剣と昼食用の米だけを購入した二人は木漏れ日が降り注ぐ森の中を歩いていた。

 

 

「主さまはきのこの生体についてご存知でしょうか?」

 

 

周りに人の目がなくなったことで、『主さま』呼びが戻ったコッコロがカズマに質問した。

 

 

「いや、あんまり詳しくないけど……確か、枯れ木や暗くてジメジメっとした場所に生えるんだっけか?」

「その通りでございます。ただ、厳密にするとその認識は少々違うのですけれど。きのこは葉緑素を持たない菌類に分類されますが、それ故に植物と同じように太陽の光で成長することができません。そのため、有機物から養分を直接吸収して生活します」

「寄生……みたいなものか?」

「言い得て妙、けれどそれも少し異なります。例えば木の実や落ち葉、虫の死骸に枯れ果てた木…これらに根を張り、分解する役割を担っているのが菌類なのです。つまり、()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()。これが、きのこが『森の掃除屋さん』と呼ばれる所以でもあるのです」

 

 

ですが、とコッコロは区切って、

 

 

「何もいらなくなったモノばかりに根を張るわけではありません。木の根っこに根を伸ばして、そこから養分を吸い取る、という場合もございます」

「……ん? 菌類は森の浄化装置なんだろ? それだと、まるっきり稲に群がる害虫じゃないか」

「ええ、ですので、きのこは土からも吸収した養分を木に供給するのです。言ってしまえば隣人関係にあるということですね」

 

 

そう言うとコッコロは手近な枝を拾って木の根元に近づいて行く。そこには踏めばガサガサと音を鳴らす落ち葉が溢れていた。とてもじゃないが、土が見えない。木の根元まで覆い隠してしまっているのは人の手が行き届いていないからか。

と、コッコロは枝を使って木の根元に群がる落ち葉を手際よくかき分けていく。二手三手ほどでかき分けられた落ち葉の下からは、綺麗な茶色をしたきのこが顔を覗かせた。

 

 

「おお!」

「このように、木の根元には美味しいきのこが成っています。注意して進みましょう」

 

 

流石は森育ち、といったところか。

その後、先導されるがままにきのこを集める様はまるで遠足のようだった。

街の外の森だということで魔物の出現も警戒していたカズマだったが、森の中には魔物の魔の字も存在していなかった。生息地ではないのか、隠れてこちらの様子を伺っているのか、粗方駆除されてしまっているのか。

なんにせよ、敵の存在を知らせるカズマの『敵感知スキル』が何の反応も示さないのなら、少なくとも敵対意識を持つ生物は近くにいないのだろう。

 

 

「……にしては、随分と静かすぎやしないか?」

 

 

聞こえるのは鳥のさざめきと風に揺れる草木の音くらいだ。魔物はともかく、森に暮らしているであろう動物の姿や暮らしている痕跡すら見つからないのは違和感があった。

 

念には念を、周囲を警戒しつつきのこ採取に勤しんでいると、やがて二人はガド遺跡の入り口…かと思われる遺跡前の広場に辿り着いた。周辺に人の顔を模した像が幾分か建てられていたのが不気味だが、遺跡そのものは至って普通の石造り。信仰主義の民族が建造したような。

 

 

「これがガド遺跡ですね。古い遺跡にしては随分と綺麗……調査隊が何度も踏み入っているからでしょうか」

 

 

きのこを集めた手編みのカゴを持ちながら、コッコロは遺跡に近づいてじっくりと観察していた。考古学のような目利きのスキルを彼女は持ち合わせていないはずなので、年相応に謎の年代物には興味があるのだろう。

それはカズマ自身にも言えることだが。

 

ともかく、折角見渡しのいい広場に辿り着いたこともあり、カズマは休憩も兼ねてたき火を炊こうと木の枝を集め始める。原始的な火を起こす作業には心得がないが、彼には『ティンダー』という火属性の初級魔法が使えるため関係ない。攻撃にはあまり利用できない魔法だが、こういう時便利だよな、と心の中で呟いた……その時だった。

 

 

(……っ!? 『敵感知スキル』が反応してる……数は一か?)

 

 

ここにきてようやく。

平和に事が進んでいた遠足に、危険が生じる。

 

 

「コッコロ、気をつけろ! 近くに魔物が潜んでるぞ!」

 

 

警告だけ飛ばすと、カズマは静かに剣を引き抜く構えを取る。しかし、周囲を見渡してもそれらしい影はどういうわけか見当たらない。巧妙に隠れているにしても、気配がなさすぎる。

にもかかわらず、『敵感知スキル』はビンビンと反応を示すのだ。

 

 

「……まさかっ」

 

 

()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 

前でも後ろでもない。左右にも見当たらなければ、残るは決まっている。

 

 

即ち、盲点。例えば、遺跡の真上からーー!!!

 

 

 

「コッコロッッッ!!!」

「主さ

 

 

 

ドゴンッッッッッッッッッ!!!!!!!!!!!!!!!、と。

 

 

 

 

突如飛来した巨大な『何か』は、有無を言わさず周辺の全てを吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 




『ここ』では一緒くたにしましたけど、敵感知と危機感知って別々のスキルなんですかね?

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