「おはよう、気分は最悪か?」
目が覚めて最初に聞くのがそれだった。
あの獣たちの言葉ではない。
言葉の意味は分からないが、声は穏やかで、
敵意がないことは理解できた。
……………驚くほどに、優しい声だったから。
「………あ………ぅ」
「言葉の意味は分かるか?」
身体を起こす。
腕を交差して顔を傾ける目の前の青年。
声の主はその人だった。
何か聞いてきてるようだが、
私は意味が分からず首を傾ける。
「………そうか、もう怖くないぞ」
あの森でのことだろうか。
何がなんだか分からなかったが、
近づいてきた獣たちを
黒い何かが倒したのは覚えている。
彼は、私へ手を伸ばす。
それに反射的に身体を縮めてしまうが………
「…………ぇ……ぅ?」
「………大丈夫」
言葉の意味こそ分からない。
だが…………声の優しさと、
頭を撫でられる心地好さに、
私はその手を取って、頬擦りをする。
──────とても、とても暖かかった。
「変態」
「ラム、心壊れる」
メィリィ(仮)に頬擦りされ、
ラムに言われた言葉がそれだった。
あのさぁ………精神的に死ぬって。
「人に好かれる体質ではないけど、
だけど貴方の隣が一番落ち着くのよね」
「声が優しいからでしょうね。
私も聞いていて安心します」
「子供をあやすのが上手いわ」
まぁ精神安定の声かけは絶賛されている。
照れるってー。
それにしても何この可愛い生き物。
人生の癒し。
「んぅ……」
「これが天使ですか」
撫で回したい。
いやー背後からの視線はキツイけど。
エルザとラムの視線で背中焼け焦げそう。
なんでそんなに俺のこと凝視してるの?
「兄様、たらしですよね」
「…………えー?」
レムが耳打ちしてくる。
いや、まぁそうだけどさ…………
仕方ないって言うか、男成分が足りないだけだ。
ロズワール?必要だとは言ってない。
今の状況で十分に両手に花だけど。
「姉様も兄様のことを尊敬しています。
どうか気に掛けてあげてください」
「…………まぁ、そうだな。
何年も会ってなかったわけだし」
「はい、兄様の前でこそ見せませんですが、
寂しがっていたんですよ?」
「え、マジで?」
エルザの好意にはなんとなく気づいてたけど
まさかラムも?
両手に花どころじゃなくね?
幸せいっぱい、そして背中に突き立つナイフ。
後ろから刺されるのは嫌だなぁ………
「マジです」
「…………………」
「何?ラムの顔に何かついてる?」
「可愛い目と口と鼻がついてる」
「な………っ………」
……………おぉう、マジすか?
ヤバい、エルザからの視線がヤバい。
今日は機嫌を取るので忙しくなりそう。
「えーと、エルザさん?」
「………………気分が悪いのだけど」
「お願いだから機嫌直して」
「1つ…………何でも
聞いてくれるなら許してあげてもいいわ」
「分かった…………何でもって言ったか今?」
今分かったって言ってしまったよね?
エルザさん笑みが怖い。死なないかな俺。
お腹ザックリとか嫌だよ!?
「ふふっ」
「…………あなた、前から
思っていたけど気に入らないわ」
「あら、貴女もかしら?
生憎こちらもそうよ、どう?全力で───」
「お前らマジで洒落にならんからやめろ!?」
白鯨を単騎で落とせる鬼(今は知らん)と
原作以上に異常なくらいな強化された腸狩りが
本気で戦うとか屋敷が終わるんですが。
まぁ、なにはともあれ。
俺たちは明日、出発することになった。