Re:腸狩りと魔獣使い救済ルート   作:青い灰

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第4節「鬼と魔女」

 

 

 

そう言えば、聞きたいことがあったのを思い出す。

歩きながらエキドナに話しかける。

 

「なぁエキドナ」

 

「なんだい?」

 

「お前、俺と契約を結んだが理由はなんだ?

 本来なら俺と契約するつもりはなかっただろ」

 

「……………それも、未来を見る力かい?」

 

「ま、そうだな。その知識からの考察だ。

 お前は〝死に戻る者〟を知っていた。

 元々はそいつと契約を結ぶつもりだった」

 

俺の言葉にエキドナは軽く苦笑を溢す。

顔は合わせない。

 

「なんで俺と契約を結んでくれたんだ?」

 

「なんでだろうね。

 それは───寂しかったからかな」

 

「…………墓所の魔女たちには?」

 

「ワタシの本体はあそこだ。

 君と精霊の契約を介して、現界している

 間だけ精神をこちらに移しているのさ。

 彼女らとのお喋りも出来ているから便利だね」

 

「なら寂しくはないだろ?」

 

「違うよ。

 寂しかったのは───君さ」

 

虚をつかれ、俺は目を丸くする。

俺が、寂しかった───?

 

「そうだ。見ていられなかったからね。

 何かは知らないけど────

 誰かを助けたいようだったから」

 

「………………まぁ、目的は達成されたがな」

 

「なら良かった」

 

──────あぁ、そうだったな。

彼女も、助けるために奮闘していたのだった。

いつの間にか、墓場についていた。

座り、手を合わせて黙祷。

 

「……………」

 

「……………」

 

沈黙が続く。

やがて黙祷は終わり、目を開ける。

 

「…………これから言うのは、

 ただの独り言だと思って聞き流してくれ」

 

「………………」

 

エキドナが語り出す。

 

 

 

 

 

 

───女がいた。

女には力があったが、

それを人々を庇護するために振るった。

 

だが女は気づく。

独りでは限度があると。

手の届かないものがあると。

 

女は力不足を呪った。

危機が見える。だが足りない。

何もかもが足りなかった。

 

願うことは不相応な程に遠く。

力は願いに届くことはなく。

知識は道を示すことはない。

 

過程など、どうでもよかった。

どれだけ傷つこうと、失おうと、

諦めるわけにはいかなかった。

 

この犠牲の積み上げられた道を、

振り返り、戻ることは、もうできなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………哀れなものだね」

 

「そうか?」

 

「─────は?」

 

どこが哀れなのか。

俺は足元の小枝を拾い上げ、草の上に寝転がる。

空は雲一つない晴天、小枝で影を作る。

 

「確かに、女は犠牲は仕方ないと切り捨てた」

 

「…………」

 

「だけどそれが、どれだけ

 苦しいものか分かってた筈だ」

 

「…………だけど、失われたものは戻ってこない」

 

「それを許容することが、って話だ。

 どれだけ悩んだ?どれだけ考えた?

 俺は知らないけど、それこそ死ぬほどだろ」

 

「…………犠牲なんてワタシも出したくなかったさ。

 全てを救いたかった。だけど全てが足りない。

 それを欲すること、それこそがワタシの───」

 

「…………」

 

つくづく、思う。何が大罪、何が罪か。

サテラを含めた彼女らは、誰もが被害者だ。

人の罪───七つの大罪。

誰かを、全てを救おうとして、何が〝強欲〟。

誰にも罪を責められる理由はない。

 

「人の罪は七つに分けられる。

 傲慢、嫉妬、怠惰、憤怒、暴食、色欲、強欲」

 

「────」

 

「強欲、ってのは一番の欲望に関するものだ。

 人は欲に弱いし、目が眩んだら

 他のことは疎かになる」

 

「何を………」

 

「だけどさ、お前らはその逆なんだよ。

 一見、全員がそれを体現したみたいだけど

 本質的には全員が逆なんだ。

 テュフォンとかな。どこが傲慢なんだあれ」

 

まぁ謙虚ってわけでもないけど、と後付けし、

俺は小枝を親指でへし折る。

 

「だってお前は自分の力を驕ってなんかいない。

 寧ろその力で皆を救おうとしたんだろ?

 それのどこが〝強欲〟なんだ。

 俺はな、エキドナを否定するつもりはない。

 俺が否定してるのは〝強欲の魔女〟だ」

 

「……………まるで、

 ワタシの人生を知ってるみたいだ」

 

「詳細までは知らん。

 それ聞くと嫌がりそうだから聞かねぇ」

 

「ありがたいね。

 あまり話したくはないし」

 

エキドナがどんな顔をしてるのか

なんて知らないし、興味もない。

だけど。

 

「1人で出来ることなんて限界がある。

 お前が一番知ってることだろ?

 抱え込むなよ、辛くなったら言え」

 

「……………じゃあ、抱き締めてくれるかい?」

 

「………………………誰にも言うなよ、刺されたくない」

 

エキドナをそっと包む。

 

 

 

小さな嗚咽が、聞こえた。

 

 

 

 

 

 


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