「来たか………?
風が一気に静かになったけど」
鬼族ってのは感覚に敏感で、
以外と変化に気付きやすい。
鼻とか耳も人間以上に効くのだ。
最悪だ。
さっきので、一軍。
二軍がいるなんて知らんぞ。
「「「「「……………」」」」」
「………また、ぞろぞろと来やがったな」
ヤバい、援軍か。
正直、思った以上に数が多い。
こりゃ……下手すれば100はいる。
腰の柳葉刀を構え直し、再び無言で襲い来る
魔女教たちを迎え撃つ。
「と思ったか!
『ウル・ゴーア』!!」
刀を触媒に炎の魔法、ゴーアを発動。
刀の鍛練ばかりしてたせいで
魔法の制御が上手くいかないので
オレはアル系統は使えない。
とにかく、魔女教へ火を放って
他の鬼族を叩き起こす…………筈だった。
「…………あ」
そういえば、気づいていなかった。
レム、ラムを守るのに夢中だったからか。
それに気づくことができなかった。
既に、他の人たちの処理は終わって───
「………お、ォォォォォッ!!」
吠え、恐怖を振り払うように魔女教たちを
魔法で焼き、刀で斬りつける。
「ぜァ!!」
刀を教徒の1人に突き刺し、
そこから魔法を発動。
仲間の死を厭わない襲いくる魔女教徒を
焼き尽くして一掃する。
「死ねッ!!」
背後から来た奴の心臓を腕で貫く。
そのまま投げつけられたナイフを
死体を盾にし、炎弾を放って焼き殺す。
「!!」
飛びかかってきた教徒の首へ刀を突き刺し、
そのまま振り回して周囲の奴らを吹き飛ばす。
そこへ魔法を放って焼く。
そして、おそらく数十分くらいが経過して。
二つ目の失敗を犯した。
「ぐ、がッ──!?」
怒り狂っていた思考が一気に覚める。
背後から死にかけの教徒にナイフを背中に
刺されたか───!この………っ!
「死に損ないがぁぁぁっ!!!」
頭を踏み潰し、粉砕する。
そして、三つ目の失敗。
「フーラ!!」
「!?」
「今、助けるから。兄さん………!!」
ラムが、出てきてしまった。
しまった、不味い、ヤバい、どうすれば。
このままでは、レムが。ラムが。
ゆらり、と。
ラムの背後の魔女教徒が起き上がる。
────!!!
「ラム!!逃げ───」
間に合わない。
そして、ナイフが振り下ろされ、
振り向いたラムの角が────折られた。
「あ」
「…………クソが……!!!」
炎弾を放って教徒を排除。
ラムを抱き上げる。
このままでは、レムも………いや。
まだ、オレにできることがある。
燃える家に飛び込み、
起きていたのか、呆然とするレムを
ラムの隣に、一緒に抱き上げる。
「おやおーやぁ、生き残りがいるのかい?」
声が、聞こえた。
声の主、道化師の風貌をしたロズワールが現れて、
外には教徒は既にいなくなっていた。
「災難だったねーぇ、
魔女教たちは私が殺しておいた。
名前を聞かせてもらえるかぁーな?」
「…………青髪の子が、レム。
桃色の髪の子が、ラムだよ」
この時のオレは、
2人を傷つけてしまって気が動転していた。
ロズワールが何を言っているのか分からない。
「違う違う、キミの名前だぁよ。
人間、と言ってもキミは鬼だけど、
落ち着きが大切………無理かぁーな?」
「いや、悪い………」
頬を叩き、落ち着きを取り戻す。
オレの前に立っているのは、
道化師の化粧をした長身の男。
ロズワール・L・メイザースだ。
オレの腕の中の2人は眠っている。
「オレの、名前か」
「そうだぁーよ。流石にあるよぉね?」
「シルバ、だ。あんたは………」
知らないフリ、だ。
知られていると不審がられる。
「私はロズワール。
シルバくんか、変わった名前だぁね」
「…………!
そうだ、もしかしたら!!」
「おっと、突然どうしたのかぁな!?」
驚くロズワールを無視し、
オレは血が流れ出ているラムの折れた角を見る。
もしかしたら、まだ間に合うかも……!!
オレは鬼化し、二本の角を出す。
「ロズワール、頼みがある」
「なんだい?」
「オレの角………片方、折ってくれ。
ラムの角はダメだ。マナがもうない。
だけどオレの角はまだマナがある」
「……………本気かい?それを折れば、
キミは魔法が使えなくなるかもよーぉ?」
「構わない。
オレには自分でやる勇気が出ない。頼む」
これは賭けだ。
オレのマナが残った角をラムに接合する。
そうすれば、ラムは助かる。
オレは角が片方なくなるだけだ。
角は接合してもマナが足りないが、
実は補給手段も確保している。
「分かった。じゃあ痛いから我慢してねーぇ?」
「えっいや早い……ぎ、あァァァァァァ!!!!?」
ちょっとの覚悟の時間も許さずに、
ロズワールはオレの角をへし折る。
…………ロズっち雑だぁーよ?
涙出てきた。歯を無理矢理に折られた感覚だ。
「っっ………!!!
てんめぇこの野郎……………!!」
「あははーぁ、いいじゃぁないか、
接合は、キミがやるかい?」
「…………あぁ、どけ」
ロズワールをどかし、オレの折られた角を
ラムの折れた角の跡に押し付ける。
そして密かに習得していた精霊を呼び出す。
青い光が、ラムの頭を照らす。治癒魔法だ。
「精霊魔法かぁ……独学かい?」
「集中してんだから話しかけんな……!」
角へマナを流し込みながら、ラムのマナに
オレの角のマナを馴染ませる。
そして、永遠にも思える時間が過ぎ去った。
ラムの角はオレンジ色に輝いていた。
マナが馴染んだ証拠だ。
「はぁ……はぁ………
ロズ、ワール……これを目覚めた、ラムに」
ロズワールへ懐から取り出した紅の魔石を渡す。
数十年分のマナがこの魔石込められている。
マナが不足する分を、この魔石で補給できるよう
万が一の時の対策だ。
なんでこんな危険物がウチにあったのか知らんが。
「………ほぉーう?
これはまた……随分とマナを込めたねーぇ」
「ウチの家宝でな………オレは、
行かないと、いけない場所が、ある。
ロズワール、グステコ、ってどこだ?」
「あっちだぁーよ?
でもそんな身体じゃ死ぬけぇーどね」
「少し、休んでから行く。
あんた、その身なり、貴族か何かだろ?
ラムとレムを、頼む。メイドにでも……」
「…………そうかい、わかったよ。
その執念に、敬意を示そう。任せたまえ」
「助かる………」
正直、意識は限界だった。
遠ざかっていくロズワールを見送り、
オレは背中を木に預けて、眠った。