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1
「……ありがとうございます」
政彦の右手に有る、愛用の携帯型端末をひったくるように、素早く取った
銀髪の美女が、頭を深々と下げながら、礼を言う。
とても澄んだ綺麗な声だが、その声音に怯えが有ることに政彦は気づく。
(随分警戒されてるな。
だが他に話す相手もいないし、仕方ないか)
政彦は頭を下げたまま、ありがとうございましたを連呼する、美女を見下ろす。
お礼を言うと言うより、悪い事をして
ひたすら謝り続けているような、感じだ。
「頭を上げてくれ、それじゃ話も出来ない」
政彦は出来るだけ、声のトーンを上げながら、顔に笑みを滲ませ、銀髪の女性に話しかける。
「はい」
美女はそう言ってから、顔を上げる。
二人の視線があう。
長い銀髪に隠れながら、美女の怯えが
宿った瞳が、政彦を見る。
「先程は失礼した。
ついかっとなっていた、済まない」
今度は政彦が頭を下げる。
苛つく感情を抑えもせずに、近くにいた銀髪の美女に当たり散らしたのを
詫びたのだ。
「いえ……大丈夫です」
予想外の政彦の詫びに、少し戸惑いながらも、美女は答える。
「 自己紹介がまだだったな。
俺は太田政彦(おおたまさひこ)
UNASA日本支部から、このUNASA本部にMo手術を受けに来た。
日本だと、俺に適合するベースが見つからなかったんだ」
そこまで言うと、喋るのをやめ政彦は銀髪の美女の反応を窺(うかが)う。
銀髪の美女は、呆けたような顔で、政彦を見た後、頬に指を当てて考えこむ。
「あっあなたが、太田政彦さんですか
父から聞いてます。
日本のUNASA支部のMo手術研究員の
太田常彦さんの息子さんなんですよね」
政彦の丁寧な自己紹介と、何者かわかって安心したのか、長身の美女は
顔を綻ばせる。
それから大きく床に向かって息を吐くと、携帯端末を持っていない方の左手で握手を求めてくる。
「初めまして、U-NASA本部内研究所、所長ジェラルド・ローレンスの娘で助手をやっている、ジェニファーローレンスです。
宜しくお願いします」
銀髪の長身の美女改め、ジェニファーローレンスは、政彦以上に深々と腰の辺りぐらいまで、頭を下げながら
自己紹介を終えた。
2
「ご丁寧にミス・ローレンス、ところでミス、ローレンスはここで何をしているんだ?」
二人の間に先程までの、重苦しい空気が和やかな空気に変わるのを、感じながら、政彦はジェニファーに問う。
「はい。父から手術をした被験者の
カウンセリングで遅くなるので、
ここで太田さんを接客するように、
言いつかりましたので、ここに居ます」
ジェニファーがはにかみながら、ちょっと笑って答える。
「ちょっと待て」
瞬間、和やかな空気が一気に凍りつく。
ぎぎっとオイルの切れた、歯車みたいにゆっくりと首を動かし、視線だけで相手を睨み殺してしまえそうな、鋭い眼光でジェニファーを見据える。
「何故それを早く言わない。
俺がここに案内された時から、ずっと居たよな」
政彦は確認するように、ジェニファーに聞く。
「はい。太田さんが来る10分前に来て待ってました……」
ジェニファーがそれに答える。
途中から声が段々小さくなっていったが、聞き取れる範囲だ。
「いくらでも話す機会は、あったはずだが」
「はい、ありました」
ジェニファーが頷く。
「早く言ってくれたら、俺も無駄に怒らずに済んだんだが」
腕組みをする政彦。
「それについてはすみません」
「何度も盗み見してくれてたが、テレパシーでも送ってくれてたのか?」
皮肉をたっぷり込めて、政彦はジェニファー言う。
「あの怒らないで、聞いてくれますか?」
ジェニファーが恐る恐る言ってくる。
「理由が有るという訳か、良いだろう
聞こう」
政彦は腕組みしたまま、耳を傾ける。
「怖かったんです」
ジェニファーが掠れるような、声で
答える。
「済まない聞こえなかった」
あまりにも小さな声だったので、政彦は聞き取れなかった。
「太田さんが、怖そうに思えて声がかけられませんでした。
すみません」
ジェニファーは、さっきの倍以上の声量で言いきると、また頭を下げる。
「何だと?」
政彦は一瞬言われた意味がわからずに、困惑する。
「だったら何度も盗み見ていたのは?」
「怒ってそうだったから、怒りが収まるのを待とうと思って」
ジェニファーが顔を上げながら、弁解する。
「つまり、俺が待たされたのは、嫌がらせでもなければ、権威づけるためでもなく、単に君が俺が怖くて声をかけられなかったから、教授からの言伝てが伝わらなかった。
そういう訳だな」
「はい……そうです」
ジェニファーが申し訳なさそうに、
眼を逸(そ)らしながら頷く。
(わざわざアメリカまで、やって来てこんな事で、無駄な時間を使うとは)
政彦は、手を額にのせて、途方にくれる。
それから首を左右に数回振ってから、
手を放すと、その手をジェニファーの
肩に置く。
「ミス・ローレンス、1つ言いかな?
」
「はい。何でしょうか?
あぁ飲み物ですね、すぐにコーヒー」
「違う!!」
大声でそれを遮(さえぎ)る
それから叫びながら懇願した。
「頼むから、ちゃんと仕事してくれー!!」
政彦は第2研究室に来てからの、不毛に、過ぎた時間を思い嘆くのだった。
タイムイズマネー、時は金なり
失った時間は戻らない。
3
「はぁ〜せっかくペギーちゃんと
良い感じだったのに、小町艦長に呼び出されるとはなぁ、あれじゃひき止められないよ」
兄が不毛な時間に嘆いていた頃、弟の方は、ナンパが失敗していじけていた。
ちなみにペギーちゃんと言うのは、
U-NASA本部の研究員のペギーフォーテイの事で、後にMo手術を受けて、
アネックス一号の日米合同第2班の
クルーになるが、それはまだ先の話である。
年は23歳と克弘より4つも上だが、
小動物ぽい可愛さがあるので、ちゃん付けで呼んでいる。
「せめてアドレスか、ディナーの約束でも取れたら、良かったんだけどなぁ
」
しょんぼりしながら、足を前後に動かしながら、克弘は通路を歩く。
これが外で道端とかだったなら、克弘は、転がってる石ころを蹴っていたのだろうが、あいにくここは室内。
虚しく空を蹴るだけだ。
「まぁいいや、兄貴の手術が成功するにしろ、またベースが見つからないにしろ、暫くここにいるし、チャンスはまた来るか」
克弘は気を持ち直し、次の手を考える。
(そうだ。彼女は研究者だ、天才本多晃の話でもしたら、案外興味持ってくらいついて来るかも)
克弘は、色々なシチュエーションを想像しながら、顔をにやけさせる。
(そういや、兄貴どうしてんだろう?)
卑猥な妄想をしてた、克弘がふと
ペギーに釣られて置いてきた、兄の事を思い出す。
「ベース、見せてやるから楽しみにしてろって、言ったんだっけなぁ」
克弘は車で移動中にした、会話を思い出す。
(そういやまだ、ローマから持ってきた薬が残ってなぁ)
Mo手術の研究をやっている国を、あちこち飛び回っている、克弘は独自のつてがあり、変態用の薬を自前で持っている。
「訓練で薬を使いすぎたら、文句言われるが、手持ち使うなら文句言われないだろう」
克弘はそう決めると、走り出した。
目指すは、UNASA施設内にある、第2特殊訓練室。
4
「さ〜て始めるか」
走って訓練室に着いた、克弘は早速準備運動をして、体をほぐす。
伸脚に屈伸を、してジャンプして
アキレス腱を伸ばす。
準備運動を終えた、克弘は記録室にいる、管理者に合図を送る。
「いつでも良いぜ」
すると、生真面目な男性の声で返答が
返ってくる。
『薬を服用されていないようですが、宜しいですか?』
「問題ない。
戦隊ものの、怪人じゃあるまいし、実戦で薬打つまでゴキブリが待ってくれるかよ」
これも訓練、訓練と軽い調子で、克弘が応じる。
『死ぬ事もあるので、気をつけてください』
「えっと1つ聞いて良い?」
『何でしょうか?』
「オペレーターは、女が基本じゃないの?」
克弘が信じられないと、がっかりした。
『そういうことは、上に言ってください』
けんもほろろに、管理者が克弘に返す。
『私はローテーションで勤めてるだけです』
機械のように決められた事を行うように無機質に喋る。
「へいへいわかったよ」
両耳をふさぎながら、克弘が首を振る
『では、注意も終わりましたので、これから訓練を開始します』
後で小町艦長に直談判すると、密かに
決意すると、クローンテラフォーマーの登場を待った。
5
待つこと、1分。
大きな黒い人影が、克弘の視界に入る。
「大盤振る舞いだな」
克弘が両手を後ろに組みながら、不敵に笑う。
「じょじょ、じょうっじぎぎぎ」
そのふてぶてしい、笑みに答えるかのように、新型クローンテラフォーマー
通称ハゲゴキが、意味不明の言語を喋りながら、不気味に笑うのだった。
すみません。思った以上に長くなってしまったので、
ベース出せませんでした。
なるべく早く次話投稿するようにしますので、
ご了承下さい。