異端の科学者と忘れられた技術 (凍結)   作:翔馬

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最新話投稿します、良かったら見ていって下さい。
長かった死闘も今回で遂に決着です
それではどうぞ。



第11話 切り札

 

片膝を突いた、カモノハシの悲痛な声を聞きながら、テラフォーマーは嗤う。

 

その嗤い声を、バックに克弘はゆっくりと立ち上がり閉じていた瞼を開く。

目を閉じてすまして戦う余裕がなくなったのだ。

 

Mo手術を受けて1ヶ月、克弘はまだカモノハシの様に

嘴の器官を使いこなせてはいなかった。

 

 

その顔は苦痛に歪み苦しそうだ。

 

 

(折れてないが……外れたか)

 

克弘はテラフォーマーの拳で脱臼してしまった、両腕を見る。

 

(痛ぇな、地面に転がってのたうち回りたくなるぜ)

 

激痛を堪(こら)えながら克弘は、砕けた破片を手の上で浮かして遊んでいる、ハゲゴキを見る。

足元には、数10以上の尖った欠片が積まれている。

 

「フェア精神で、待ってた訳じゃなかったのか」

 

うんざりした様子で、克弘は積み上げられてる、破片を見やる。

 

(単に攻撃の準備を、してただけって事か)

 

(脱臼は自力で治せるが)

 

準備の整ったハゲゴキが、手のひらで浮かして遊んでいる、欠片を握り締める。

 

(そんな時間はくれねぇよな)

 

今度はオーバースローで、ハゲゴキの

投擲(とうてき)という名の攻撃が克弘を襲ったのだった。

 

 

 

 

「まずい事になった」

 

モニターを見ながら、管理者の男は

腕を組んで考え込む。

 

「やめさせるべきか」

 

(万が一死んだりしたら、いくらアネックスのクルーでないとはいえ、大変な事に)

 

彼は、先週結婚記念日を迎えた、顔は十人並みだが、家事全般をプロ並みにこなせる、Hカップの巨乳である

1個下の妻の顔を思い浮かべる。

 

(責任を取らされて、U-NASAを退職になったりしたら)

 

その脳裡に思い浮かべた、妻が大量の荷物を抱えて実家に帰る姿を想像してしまう。

 

(嫌だ。そんなの冗談じゃない)

 

そんな最悪の未来を防ぐために、管理者の彼は頑張る。

 

(確か、4つある特殊訓練室。

現在使ってるのは第1訓練室だったな、そこに戦闘員のクルーがいればいいが)

 

管理者は、取り返しのつかない事になる前に、第1特殊訓練室に通信する。

 

「こちら第2特殊訓練室の、記録室だ。第1訓練室応答願う、繰り返す第1訓練室応答願う」

 

しばらく待つ事、10秒弱第1訓練室から返答が返ってくる。

 

『ちくしょう俺の5000ドルがぁー

ぬか喜びさせやがって、この哺乳類野郎がっ』

 

賭けに溺れる、ギャンブル狂の魂の嘆きが聞こえてくる。

 

「聞かなかった事にしよう」

 

管理者は、さっさと第1訓練室との

通信を切ると、次に戦っている克弘に

通信する。

 

 

『こちら、第2特殊訓練室の記録室

太田克弘君、応答願う』

 

 

「何だよ、戦闘中に」

 

うっとうしそうな声を上げつつも、

克弘はジャレッドと違って、まともな返事を管理者にするのだった。

 

 

 

「で、用件は何ですか。

このくそ忙しい時に」

 

克弘は、ハゲゴキの投げてきた破片を

しゃがんで避けながら、移動しつつ

皮肉混じりで会話を続ける。

 

 

『今からマーズレッドPROを散布するので、君は脱出したまえ。

訓練室から出れば、テラフォーマーも追ってはこない。

今更ながら白状するんだが、君がやってるハゲゴキは、小町艦長用の訓練メニューでな、間違って出してしまったものなんだ』

 

声だけの通信なので、姿は見えないが

管理者は頭を下げる。

 

「つまり訓練を中止するって事 ?」

 

『そう言うことだ。深手も負ったようだし、命に関わると判断した』

 

後30秒で、散布すると言った管理者は通信を切ろうとする

 

「待ちな !!」

 

そこに克弘の鋭い声が割り込む。

 

『待つとは?』

 

 

「そんなもん必要ない。

何故なら俺は死なねぇし、負けないからだ」

 

克弘は自信に満ちた声で、告げる。

 

手助けは無用と

 

『いや、だが現に君は追い詰められてるじゃないか?

さっき同じ特殊訓練室で使ってる、訓練室があったからそこに救援を要請したんだが、ギャンブル狂の馬鹿が、君に賭けててそれが

パァーになるって嘆いていただけだった』

 

大きなため息を吐きながら、管理者は

まくし立てる。

 

「へぇーそいつは聞き捨てならないなぁ。

他人の命懸けの訓練を賭けの対象にするとはなぁ」

 

克弘が痛みに耐えながら、笑みを浮かべる。

好戦的な笑みだ。

 

「管理人さん。

後で俺に賭けてるやつの名前教えてくれるか?

集金に行かないといけないんでね。……それと

俺にはまだ切り札がある。

あんたの思うような、事にはならないからそこで、しっかりと記録してな」

 

 

『切り札だと、それは一体何だ ?』

 

気になった管理者は、聞き返す。

 

「そいつは見てのお楽しみだ」

 

克弘は、それだけ言うと通信を切ったのだった。

 

『切り札だと……』

 

克弘が言っても、聞かないので仕方なく、彼は祈りながら、克弘の言った言葉を信じるのだった。

 

 

 

「さてどうするかね」

ハゲゴキの投げてきた破片をジャンプして、躱しながら克弘は考えを纏めていく。

 

(スタンピードを使うか?

いや、使うまでもないか。

それに使うと補充するのに、いちいち日本まで行かなきゃなんねぇし、かといってあのゴキブリ警戒して、近寄ってこねぇしなぁ)

 

そうなのだ、ハゲゴキはさっきから

ずっと遠距離攻撃に徹している。

決して近寄らず、破片を投げつけ、時には蹴っ飛ばして、主に脚を狙ってくる。

 

(俺の機動力を削ぐのが狙いか)

 

克弘が飛んでくる、破片を避けてる間に、テラフォーマーは破片を拾い集め、あるいは地面をぶち割って、補充してしまうため、弾幕攻撃は止まないので、

克弘は近づけない。

また彼に遠距離の攻撃手段はない。

拳銃は、Mo能力を鍛えようと、思って訓練室には携帯してこなかった。

テラフォーマーと同じく破片を蹴っ飛ばしてもいいが、それでは手を使って

サイドスローやオーバースローを使いこなす、ハゲゴキには正確さで敵わない。

 

「このままじゃ体力が尽きたら、殺られるだけか」

 

(何とか接近戦に持ち込まないと)

 

 

だが警戒して近寄ってこない上に、破片を投げ続けてくる。

射程に捉えるのは、容易ではない。

 

「クローン相手に、スタンピード使ってるようじゃ、兄貴に笑われちまう」

 

たとえMo手術を受けられなくても、1体のテラフォーマーなら、生身で倒してしまう、兄である政彦を頭に浮かべながら克弘は笑う。

 

 

「スタンピードは勿体ない。……だったらもうひとつの切り札を使うか」

 

すると克弘は何を思ったか、突然ダッシュしだすと、ハゲゴキとの距離を一気に詰めはじめる。

 

「うぉぉぉぉー」

 

雄叫びをあげて、肉薄しようとしてくる克弘を見たテラフォーマーは、さらに弾幕を強化して迎え撃つ。

 

手のひらサイズくらいの破片だけでなく、人の頭ぐらいの大きさの欠片も投げつけてくる。

 

「くっ」

 

それを紙一重で、躱しながら克弘は

テラフォーマーに、近づいていく

両者の間の距離はあっという間に

縮んでいく。

大きな破片攻撃は、体を左右に振って躱し、小さな欠片は、脱臼した両腕を

無理に動かして盾にして、受け止めて防ぐ。

 

「脳内麻薬が、結構分泌されてきた

な」

 

 

(少しは、痛みが和らぐぜ)

 

 

克弘が、もう少しで肉薄できる、距離まで来た。

 

「後少し」

 

思わず喜びの声を上げる。

 

「じょ」

 

片足を上げたハゲゴキが相撲の四股のように、脚で地面を踏みつけると、次の刹那地面が揺れる。

 

「なっ」

 

今度はジャンプで逃げれなかった、克弘の体が揺れてバランスを崩す。

 

「じょう」

 

そこにナイフのように尖った破片を持った。ハゲゴキが手裏剣でも投げるような投げ方で、克弘に放つ。

 

ヒュンと、風を切ったナイフのような

破片は、克弘の左足の脛に突き刺さる。

 

深く刺さった破片は、左足の脛を突き抜けて、反対側に出ている。

血が、刺さったナイフのような破片を伝わり、地面に滴り落ちる。

 

「脚が」

 

「じょ、じょ、じょ」

 

ハゲゴキが、先程までかすり傷1つ与えられなかったのに今は、面白いようにダメージが与えられ、不気味な嗤い声を上げる。

 

 

それからもう1つ、同じような鋭い破片を積み上げた。

補充用の破片から取り出すと、手裏剣を投げるように構える。

 

「両手脱臼してて、片足まで負傷した相手に飛び道具って、このぉゴキブリ野郎が」

 

克弘が恨みのこもった目で非難する。

 

「じょっ」

 

お構いなしでハゲゴキは投擲する。

 

右足を狙って投げてきたナイフのような破片を、しゃがみながら、克弘は両手を盾にしてかろうじて受け止める。

といっても盾にした両腕のうち、右腕を、ナイフのような破片は貫き、反対側に突き出る。

 

「使い物にならない、腕なんざ盾にでもしてる方がましなんだよ」

 

(それに、右足まで負傷したら

勝ち目がなくなる)

 

 

克弘は計算する。

仮に両腕を使えなくても、主にテコンドー、カポエラ

サバットを習得してる、克弘の攻撃力は衰えない。

 

(蹴りさえ急所に叩き込めば、勝てるんだ)

 

克弘が、頭の中で勝利への策を考えている間、またしてもテラフォーマーが

ナイフのような破片を投げつけてくる。

狙いは変わらず右脚。

 

あくまで近づかないで、決着をつける腹のようだ。

セコイ奴である。

 

「痛ぇなぁ、ただでさえ脱臼で痛いってのに、このハゲは」

 

2本目が腕に刺さってるのを、克弘は見る。

 

「マゾじゃあるまいし、いつまでも

こんなプレイやってられるか」

 

克弘は、また肉薄すべく近寄ろうとした。

 

ところが、克弘は突然たちどまり、ブランと

垂らしている、両腕を凝視する。

信じられない。

鉤爪が縮んでいく。

背中の鳥の羽毛のごとき体毛も、みるみる縮んでいき、体毛がなくなってしまう。

やがて、ソナーの嘴もただの口になってしまった。

 

「これは ?!」

 

克弘は驚愕し、体を振るわせる。

 

薬の効力が切れてしまったのだ。

 

これ以上にない最悪のタイミング。

 

 

「ここまでか」

 

薬の切れた克弘は覚悟を決めたとばかりに、目を閉じる。

 

「じょうぉーぉー!!」

 

薬が切れた克弘の姿を見た、瞬間

それまで冷静に忍者のように、ナイフのような鋭い破片を、淡々と投げていたハゲゴキが、その破片を逆手に持つと、時速300キロの速度を誇る

脚力で、天高く跳び上がった。

 

 

「じょうぉーう」

 

空中で頭から下に落ちるように体勢を変えた、ハゲゴキは、地面にいる克弘目掛けて急降下してくる。

 

 

 

「やっと、間合いに入ってくれたな

チキン野郎」

 

それを、真下から喜びに満ちた声が迎える。

 

「アカデミー賞もんの演技だったろ?」

 

地面に立って、落下してくるハゲゴキを見上げる克弘。

 

薬が切れたはずのその体は、なんと再び人為変態している。

薬を再度摂取する間は、なかったにも関わらず。

 

 

 

「じょう?、じょ? 」

 

おかしいとハゲゴキは空中で思った。

薬は時間制限があって、眼下にいる

奴は薬が切れて、人間に戻ったはず……

 

「そうらぁ」

 

ハゲゴキは、それ以上考える事は出来なかった、眼下にいる克弘が、ハゲゴキの補充用の破片をハゲゴキ目掛けて蹴り飛ばして来たからだ。

サッカーボールキックで、次々と空に飛ばして来た、破片がハゲゴキの顔や頭に、当たっては砕け散る。

 

「じょ、じょうじ」

 

克弘が飛ばした、破片が腕に当たり、

ハゲゴキは、握っていた破片を落としてしまう。

 

羽で飛ぼうとするが、余りにも破片が多すぎるので、飛ぶのに集中出来ない。

 

「じょ、じょう、じょおー」

 

ハゲゴキは、奇怪な叫びを上げながら、腕で顔を覆ったまま、腹から地面に落下した。

地面に腹を激しく、叩きつけたハゲゴキは、バウンドした後地面を転がる。

 

「じょう ?」

 

それでも両手を地面に突きながら、テラフォーマーは起き上がろうとするが

 

時すでに遅し。

 

「終わりだハゲ野郎」

 

空から声が聞こえてくるとともに、

克弘が降ってくる。

地面にテラフォーマーが叩きつけられ

転がるのを確認しながら、高く飛び上がっていた、克弘は体を1回転させて、テラフォーマーに落下しながら、両足を揃えてダブル踵落としを放った。

 

「じょうぉぉー」

 

克弘のダブル踵落としが、テラフォーマーの頭をハンマーで叩き潰したように、グシャグシャに潰れながら、地面に頭をめり込ます。

はた目には、テラフォーマーが土下座でもしたように見えた。

 

(まぁ地面にめり込む程の土下座など

するような者は居ないと思うが)

 

 

 

「いくら、ハゲゴキって言っても、人間様の高度な駆け引きは、荷が重すぎたな」

 

ダブル踵落としでハゲゴキを仕留めた克弘は、着地を華麗に決めた後、ハゲゴキの食道下神経節を踏み潰してきっちりとどめを刺しながら、克弘はしみじみ勝利の余韻に浸るのだった。

 

時間にして、20分の死闘だった。

 

進化型テラフォーマー、カモノハシの前に散る。




最後まで読んで頂き、ありがとうございました。(^_^)
克弘がハゲゴキをどんな罠にかけたのかは、次回で説明いたします。
(まぁ、簡単なブラフを仕掛けただけで、大した事じゃないんですが)(-.-)
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